目次
初期胚移植とは、受精してから2〜3日目、細胞が4〜8個ほどに分かれた段階の胚を子宮に戻す方法です。胚は受精後6〜7日ごろに子宮内膜への着床を始めるため、3日目の胚を移植した場合、着床が始まるのは移植後3〜4日ごろが目安になります。胚盤胞移植より、胚の日齢の差(3日目胚なら2日)だけ遅れて考えます。着床したかどうかは体の症状では分かりません。この記事では、体外受精で行う初期胚移植について、胚盤胞移植との違い、着床の時期、フライング検査の考え方を、胚の染色体という視点も含めて解説します。
Q. 初期胚移植のあと、いつ着床して、フライング検査はいつからできますか?
A. 3日目の初期胚なら、着床が始まるのは移植後3〜4日ごろが目安です。着床のあと、hCGというホルモンが尿の検査で分かる量に増えるまで、さらに日数がかかります。胚盤胞移植の早見表を使う場合は、同じ移植後日数でも2日遅れていると考えてください。判定日より前の結果は陰性でも陽性でも確定ではなく、症状の有無でも判断できません。
- ➤初期胚 → 受精後2〜3日目、4〜8細胞前後の胚(分割期胚)
- ➤胚盤胞との比較 → 新鮮胚移植1回ごとの成績は胚盤胞がやや高い一方、1回の採卵あたりの累積成績は試験によって差がない
- ➤初期胚が選ばれる場面 → 受精卵が少ない場合など、胚盤胞まで育てる途中で胚を失う可能性がある場合
- ➤遺伝の視点 → 胚が育たない・着床しない大きな理由は染色体の数の異常で、見た目のグレードでは分からない
1. 初期胚とは?何日目の胚か
初期胚とは、受精してから2〜3日目までの、細胞分裂を始めたばかりの胚のことです。医学的には「分割期胚」とも呼ばれ、卵割(受精卵が大きさを変えずに細胞の数を増やしていく分裂)によって、1個の細胞が2個、4個、8個と増えていく段階にあたります。
受精卵は、受精の翌日に最初の分裂をして2細胞になります。その後はおおむね1日に1回ずつ分裂を重ね、3日目には8細胞前後になります。4日目には細胞どうしが密着して桑の実のような形の桑実胚(そうじつはい)になり、5〜6日目に内部に液体のたまった空洞をもつ胚盤胞(はいばんほう)になります。子宮内膜に着床できるのは、この胚盤胞まで育ってからです。
受精から初期胚・桑実胚・胚盤胞までの日数
標準的な発生の目安は、受精確認の翌日(2日目)に4細胞、3日目に8細胞、4日目に桑実胚、5日目に胚盤胞です。欧州ヒト生殖学会(ESHRE)などの専門家による合意文書では、媒精(卵子と精子を合わせる操作)から44±1時間で4細胞、68±1時間で8細胞、92±2時間で桑実胚、116±2時間で胚盤胞を標準としています[1]。
🧫 受精から胚盤胞までの発生の目安
| 日数(受精を0日目) | 胚の段階 | 細胞の数・形 |
|---|---|---|
| 1日目 | 受精卵(前核期〜2細胞) | 最初の分裂が起こる |
| 2日目 | 初期胚(分割期胚) | 4細胞前後 |
| 3日目 | 初期胚(分割期胚) | 8細胞前後 |
| 4日目 | 桑実胚 | 細胞どうしが密着してひとかたまりになる |
| 5〜6日目 | 胚盤胞 | 空洞ができ、将来胎児になる部分と胎盤になる部分に分かれる |
※時間の目安はIstanbulコンセンサス[1]による。発育の速さは胚ごとに異なります。
体外受精の現場で「初期胚移植」というと、多くは2日目か3日目の胚を移植することを指します。ただし、ここに示した日数はあくまで標準的な目安で、同じ日に受精した胚でも育つ速さには差があります。
初期胚のグレードと、グレードでは分からないこと
初期胚のグレードは、細胞の数と大きさのそろい具合、フラグメントの量を顕微鏡で見て決める「見た目の評価」です。専門家の合意文書では、フラグメントの量を全体の10%未満(軽度)、10〜25%(中等度)、25%超(高度)に分けて評価します[1]。施設ごとにこれを点数や段階に置き換えたものが、胚のグレードとして説明されます。
💡 用語解説:フラグメント・割球
割球(かっきゅう)とは、卵割によって分かれたひとつひとつの細胞のことです。フラグメントは、分裂の途中で生じる細胞質の小さなかけらで、細胞としての核をもちません。割球の大きさが均一で、フラグメントが少ない胚ほど、見た目の評価は良くなります。
見た目の良い胚のほうが、その後胚盤胞まで育ちやすい傾向はあります。けれども、グレードは形を見ているだけで、胚の中の染色体の数を調べたものではありません。グレードの良い初期胚でも、染色体の異常をもっていることは珍しくありません。分割期の胚を1細胞ずつ詳しく調べた研究では、調べた胚の多くで、細胞ごとに染色体の数が異なる状態(モザイク)や、染色体の一部の欠失・重複が見つかっています[2]。胚盤胞についても、形態の評価と染色体の関係は胚盤胞グレードと染色体異常の関係で解説しています。
2. 初期胚移植とは(胚移植とは)
胚移植とは:新鮮胚移植と凍結胚移植
胚移植とは、体外受精や顕微授精で得られた胚を、細い管(カテーテル)を使って子宮の中に戻す処置です。移植する胚の段階によって「初期胚移植」と「胚盤胞移植」に分かれ、移植する時期によって「新鮮胚移植」と「凍結胚移植」に分かれます。
新鮮胚移植は、採卵したのと同じ周期に、凍結せずに胚を戻す方法です。凍結胚移植は、胚をいったん凍結保存し、別の周期に子宮内膜の状態を整えてから融解して戻す方法です(詳しくは凍結胚移植の解説をご覧ください)。初期胚は、新鮮胚としても凍結胚としても移植できます。日本全体の2023年のデータでは、胚移植1回あたりの妊娠率は新鮮胚を使った体外受精で25.3%、凍結融解胚移植で40.5%と報告されています[3]。ただし、この統計は初期胚と胚盤胞を分けた数字ではありません。
初期胚移植と胚盤胞移植の違い
「胚盤胞移植のほうが必ず有利」とはいえません。新鮮胚移植1回ごとの出産率は胚盤胞がやや高い一方、1回の採卵から得られる累積の出産率は、研究によって差がないという結果と、胚盤胞がやや上という結果に分かれています。
ランダム化比較試験(RCT)32件、5,821人を統合したコクランレビュー(2022年)では、新鮮胚移植での出産率は胚盤胞移植のほうが高く(オッズ比1.27)、初期胚移植で31%の出産率なら胚盤胞移植では32〜41%に相当するとされました。一方、凍結胚も含めた累積の臨床妊娠率には、はっきりした差が見られませんでした(オッズ比0.89)。どちらもエビデンスの確実性は「低い」から「非常に低い」と評価されています[4]。
その後に出た大規模なRCTも、結論は一方向ではありません。オランダで予後の良い女性1,202人を対象にした試験では、1回の採卵あたりの累積出産率は胚盤胞58.9%、初期胚58.4%で差がありませんでした。新鮮胚移植の出産率(37%と29.5%)と、妊娠後の流産などの損失(16.3%と24.2%)は胚盤胞に有利でした[5]。中国で予後の良い女性992人を対象にした単一胚移植の試験では、累積出産率は胚盤胞74.8%、初期胚66.3%と胚盤胞が上回りましたが、自然早産(4.6%と2.0%)や前期破水(5.0%と1.6%)は胚盤胞の群で多くなっていました[6]。
⚖️ 初期胚移植と胚盤胞移植の比較
| 項目 | 初期胚移植 | 胚盤胞移植 |
|---|---|---|
| 移植する胚 | 受精後2〜3日目(4〜8細胞前後) | 受精後5〜6日目 |
| 体外で育てる期間 | 短い | 長い(途中で発育が止まる胚がある) |
| 胚の選び方 | 見た目の情報が少なく、選別はしにくい | 育ったこと自体が一つの選別になる |
| 新鮮胚移植1回の出産率 | 胚盤胞よりやや低い | やや高い |
| 1回の採卵あたりの累積出産率 | 研究によって「差なし」と「胚盤胞がやや上」に分かれる | |
| 着床の始まる時期 | 移植後3〜4日ごろ(3日目胚) | 移植後1〜2日ごろ |
ここで注意したいのは、2つのRCTはいずれも「予後が良い」、つまり移植できる胚が複数得られる女性を対象にしていることです。胚が1〜2個しかない方にそのまま当てはめることはできません。胚盤胞移植のフライングの数え方は、兄弟記事の胚盤胞移植後のフライング早見表で解説しています。
初期胚移植が選ばれるケース
初期胚移植は、受精卵が少なく、胚盤胞まで育てる途中で胚を失う可能性がある場合などに選ばれます。胚盤胞まで育てることには「育った胚を選べる」という利点がありますが、その裏返しとして、体外で育てているあいだに発育が止まり、移植できる胚がなくなることもあります。
オーストラリアとニュージーランドの登録データを使い、最初の体外受精で受精卵が1個だけだった11,163人を解析した研究では、初期胚で移植したほうが出産率が高く(12.5%と10.1%、調整相対リスク1.24)、その差は年齢が上がるほど大きくなりました(35歳で1.34、40歳で1.51)。解析モデルでは、受精卵の92.0%が分割期まで育つ一方、胚盤胞まで育つのは35歳で58.9%、40歳で49.9%と推定されています[7]。
この研究はRCTではなく、観察データをRCTに近づけて解析したものです。それでも、胚の数が限られる場合には「胚盤胞まで待つこと」自体に代償があることを示しています。実際にどちらを選ぶかは、年齢、得られた受精卵の数、これまでの治療経過、施設の方針をもとに、主治医と相談して決めることになります。
メリットとデメリット
初期胚移植のメリットは、体外で育てる期間が短く、移植できる胚がなくなる事態を減らせることです。デメリットは、胚を選びにくいことと、子宮外妊娠の率が胚盤胞移植よりやや高いことです。
メリットとしては、培養期間が短いため、胚盤胞まで育たずに移植がなくなるリスクを減らせる点が挙げられます。体外より体内のほうが胚にとって良い環境だという考え方もありますが、これは十分に証明されたことではありません。デメリットは、3日目の時点では見た目が似た胚が多く、その後胚盤胞まで育つ力を見分けにくいことです。
子宮外妊娠(子宮以外の場所に着床すること)については、オーストラリアとニュージーランドの44,102件の妊娠を調べた研究があります。子宮外妊娠の率は、新鮮初期胚1.9%、凍結初期胚1.7%、新鮮胚盤胞1.3%、凍結胚盤胞0.8%で、新鮮初期胚は新鮮胚盤胞に比べて調整オッズ比1.30でした。移植する胚の数でも差があり、単一胚移植では1.2%、2個移植では1.8%でした[8]。いずれも低い率ではありますが、移植後に強い腹痛や出血がある場合は判定日を待たずに受診が必要です(子宮外妊娠の症状)。
📊 胚の種類別にみた子宮外妊娠の率
| 移植した胚 | 子宮外妊娠の率 |
|---|---|
| 新鮮初期胚 | 1.9% |
| 凍結初期胚 | 1.7% |
| 新鮮胚盤胞 | 1.3% |
| 凍結胚盤胞 | 0.8% |
※豪州・NZの44,102妊娠(2009〜2011年)の解析[8]による。
多胎(双子以上の妊娠)のリスクは、胚の段階よりも、何個の胚を移植するかに主に左右されます。日本生殖医学会のガイドラインは、35歳未満の初回治療では移植する胚を原則1個とし、40歳未満では原則2個以下としています[9]。日本全体では2023年の単一胚移植率が80.5%、多胎率は新鮮胚で3.4%、凍結融解胚で3.8%でした[3]。複数の胚を移植したときの多胎の確率は、不妊治療で双子になる確率で解説しています。
3. 胚が育たない・着床しない大きな理由の一つは染色体(遺伝の視点)
胚の染色体の数の異常と年齢
良い胚を移植しても着床しない、胚盤胞まで育たないことの大きな理由の一つは、胚の染色体の数の異常(異数性)です。そして異数性は、卵子を採ったときの年齢が上がるほど増えます。
💡 用語解説:異数性(いすうせい)
ヒトの細胞は、通常46本(23対)の染色体をもっています。異数性とは、特定の染色体が1本多い(トリソミー)、または1本少ない(モノソミー)など、染色体の本数が正しくない状態のことです。多くは卵子や精子ができるときの細胞分裂で染色体がうまく分かれないこと(不分離)によって起こり、卵子では母体の年齢とともに起こりやすくなります。
胚盤胞の一部の細胞で染色体を調べた15,169件の解析では、異数性の割合が最も低かったのは26〜30歳(およそ20〜27%)で、22〜23歳ではむしろ40%を超えていました。40歳以上ではおよそ58%以上、44歳ではおよそ88%に達しました。採卵1回で染色体の数が正常な胚が1つも得られなかった割合は、26〜37歳では2〜6%でしたが、42歳で33%、44歳で53%でした[10]。
ここで大切なのは、この数字が胚盤胞についてのデータだという点です。初期胚の段階では、細胞ごとに染色体の数が違うモザイクが多く[2]、同じ数字をそのまま当てはめることはできません。また、これは集団の割合であって、ある人の胚の何%に異常があるかを示すものではありません。年齢とともに異数性が増える仕組みは卵子で染色体の数の異常が起こる仕組みで、染色体の数の異常そのものについては染色体の数の異常(異数性)で詳しく説明しています。
「卵子の質」という言葉がよく使われますが、その中身の大きな部分は、卵子が染色体を正しく分けられるかどうかです(卵子の質)。初期胚のグレードが良くても胚盤胞にならない、胚盤胞を移植しても着床しないという経過の背景には、見た目では分からない染色体の問題が隠れていることが少なくありません。
初期胚ではPGT-Aは通常行わない理由
胚の染色体の数を調べる着床前検査(PGT-A)は、現在は胚盤胞まで育てたうえで、将来胎盤になる部分(栄養外胚葉)から数個の細胞を採って調べる方法が主流です。初期胚の細胞を採る方法は、胚の着床する力を下げることが示されています。
同じ患者さんの胚を、細胞を採ったものと採らなかったものに分けて同時に移植した比較試験では、初期胚の段階で細胞を1個採ると、着床が続いた率は30.4%と、採らなかった胚の50%に比べて大きく下がりました。一方、胚盤胞での細胞の採取では51%と54%で、有意な差はありませんでした[11]。欧州ヒト生殖学会のPGTコンソーシアムも、胚からの細胞の採り方について実施上の推奨をまとめています[12]。
このため、初期胚のうちに移植する場合は、通常PGT-Aは行われません。さらに、初期胚ではモザイクが多いため、1個の細胞を調べた結果が胚全体を表すとは限りません。PGT-Aで分かること・分からないことはPGT-Aの解説で扱っています。
初期胚移植の妊娠率
初期胚移植の妊娠率は、年齢と胚の数によって大きく変わるため、ひとつの数字で示すことはできません。日本全体の統計は、胚移植1回あたりの妊娠率を新鮮胚と凍結融解胚で示していますが[3]、初期胚と胚盤胞を分けた成績は公表されていません。
ここまで紹介した研究をまとめると、次のように考えられます。1回の新鮮胚移植だけで比べると胚盤胞のほうがやや成績が良く[4]、胚が複数ある予後の良い人では、1回の採卵あたりの累積成績に大きな差はないか、胚盤胞がやや上です[5][6]。受精卵が1個しかない場合、特に年齢が高い場合は、初期胚で移植したほうが出産率が高い可能性があります[7]。そして、どの段階で移植しても、成績を最も大きく左右するのは卵子を採ったときの年齢で、その背景には胚の染色体の数の異常があります[10]。
グレード別の妊娠率を示す数字も目にすることがありますが、グレードの付け方は施設によって異なり、比べられる公的な統計はありません。着床率を上げるためにできることについては、着床率を上げるためにできることで整理しています。
🩺 院長コラム【グレードと染色体は別の物差し】
胚のグレードは形を、染色体の検査は中身を見ています。形がきれいでも染色体の数が合っていない胚はありますし、グレードが低くても染色体は正常な胚もあります。この2つを同じ物差しだと思うと、結果に一喜一憂することになりがちです。
臨床遺伝専門医として考えると、年齢とともに胚の成績が下がるのは、卵子が減数分裂で染色体を正しく分けにくくなるという生物学的な理由によるものです。初期胚か胚盤胞かという選択も、この前提のうえで考えることが大切だと考えています。
4. 初期胚移植後の着床時期
移植から着床までの日数
3日目の初期胚を移植した場合、着床が始まるのは移植後3〜4日ごろが目安です。2日目の初期胚なら移植後4〜5日ごろ、5日目の胚盤胞なら移植後1〜2日ごろになります。
胚が子宮内膜に着床を始めるのは、受精後6〜7日ごろです。胚盤胞が殻(透明帯)から抜け出して内膜に接着し、その後内膜の中に入り込んでいき、受精後9日ごろまでにこの過程が進みます[13]。移植した胚はすでに体外で何日か育っているので、「受精後6〜7日」からその日齢を差し引くと、移植から着床開始までの日数の目安になります。
🗓️ 移植した胚の日齢と着床開始の目安
| 移植した胚 | 移植日の胚の日齢 | 着床開始の目安 |
|---|---|---|
| 2日目の初期胚 | 受精後2日 | 移植後4〜5日ごろ |
| 3日目の初期胚 | 受精後3日 | 移植後3〜4日ごろ |
| 5日目の胚盤胞 | 受精後5日 | 移植後1〜2日ごろ |
※受精後6〜7日で着床が始まるという発生の目安[13]から、胚の日齢を差し引いて計算した値です。着床の日を直接観察したデータではなく、個人差があります。
この表は、体外受精の胚が着床した日を1例ずつ観察したものではありません。胚の育つ速さや子宮内膜の状態には個人差があり、1〜2日前後することは十分にありえます。あくまで「だいたいこのころ」という目安として使ってください。
hCGが出るまでの流れ
妊娠検査で調べているのは、着床した胚の胎盤になる細胞がつくり始めるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンです。着床が始まる前には、hCGは血液にも尿にもほとんど出てきません。
着床が始まると、将来胎盤になる細胞(絨毛)からhCGが分泌され、血液中の濃度が日を追って上がっていきます。尿中のhCGが市販の妊娠検査薬で分かる濃度に達するまでには、着床の開始からさらに数日かかります。医療機関の判定日が移植から一定の日数をあけて設定されているのは、このためです。hCGの働きについてはhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の解説をご覧ください。
5. 初期胚移植のフライングはいつから?
初期胚移植のフライング検査は、胚盤胞移植の目安より、胚の日齢の差(3日目胚なら2日)だけ遅らせて考えます。判定日より前の結果は、陰性でも陽性でも確定ではありません。市販の検査薬の感度や、hCGの上がり方には個人差があるため、「移植後◯日なら必ず反応する」という日はありません。
BT(移植日)の数え方
体外受精では、移植後の日数を数えるとき、移植日を0日目、翌日を1日目として扱います。本記事では早見表を分かりやすくするため、初期胚移植についても便宜上「BT0(移植日)」「BT1」のように表記します。
大切なのは、同じ「BT5」でも、初期胚を移植した場合と胚盤胞を移植した場合では、胚の日齢が違うことです。3日目の初期胚を移植したBT5は受精後8日目、胚盤胞を移植したBT5は受精後10日目にあたります。胚盤胞移植用の早見表をそのまま使うと、実際より2日早く検査してしまうことになります。
BT別の早見表と判定日
📅 移植後日数と「受精後何日目か」の早見表
| 移植後日数 | 2日目胚を移植 | 3日目胚を移植 | 胚盤胞(5日目)を移植 |
|---|---|---|---|
| BT0(移植日) | 受精後2日 | 受精後3日 | 受精後5日 |
| BT2 | 受精後4日 | 受精後5日 | 受精後7日(着床開始のころ) |
| BT4 | 受精後6日(着床開始のころ) | 受精後7日(着床開始のころ) | 受精後9日 |
| BT7 | 受精後9日 | 受精後10日 | 受精後12日 |
| BT10 | 受精後12日 | 受精後13日 | 受精後15日 |
| 判定日 | 施設ごとに決められた日(主治医の指示に従う) | ||
※受精を0日目として数えた日齢です。着床開始は受精後6〜7日が目安[13]で、個人差があります。
この早見表の使い方は、「受精後何日目か」で胚盤胞移植の目安と読み替えることです。たとえば、胚盤胞移植のBT7と同じ受精後12日目にあたるのは、3日目の初期胚を移植した場合はBT9です。胚盤胞移植のBT別の目安は胚盤胞移植後のフライング早見表にまとめていますので、表の日数に2日(2日目胚なら3日)を足して読み替えてください。
判定日は、施設が血液検査でhCGを確認する日として決めています。判定日は治療方針や移植した胚の段階によって施設ごとに異なるため、主治医から伝えられた日を基準にしてください。
早すぎる陰性・陽性が当てにならない理由
早い時期の陰性は「まだhCGが検出できる量に達していない」だけの可能性があり、陽性もそのまま妊娠の継続を意味するとは限りません。
陰性の場合、着床が少し遅れていたり、hCGの上がり方がゆっくりだったりすれば、数日後に陽性へ変わることがあります。一方、早い時期に陽性が出ても、その後hCGが上がらずに終わる、いわゆる化学流産になることもあります。こうした早期の妊娠の終わりは、胚の染色体の異常が関係していることが多いと考えられています。
⚠️ 新鮮胚移植でhCG注射を使った場合
採卵の前に排卵を起こすためのhCG注射(トリガー)を使った周期では、注射したhCGが体内に残っているあいだ、妊娠していなくても検査薬が陽性になることがあります。何日で抜けるかは量や個人差によって異なるため、フライング検査をする場合は、トリガーの種類と時期を主治医に確認してください。
6. 着床の症状で妊娠は分かる?
症状で着床は分からない
着床したときに決まって現れる症状は確認されておらず、体調の変化で着床したかどうかを判断することはできません。症状がないことも、着床していない証拠にはなりません。
「着床出血」についても、根拠は乏しいのが実情です。妊娠を希望する女性を排卵から追跡した研究では、妊娠8週までに出血を記録したのは9%で、その時期は生理予定日のころが多く、着床の日に重なることはまれでした。研究者たちは「着床によって出血が起こるという仮説を支持する結果は得られなかった」と結論しています。出血があった14人のうち12人は出産に至っていました[14]。
体外受精の周期では、さらに判断が難しくなります。移植後の多くの周期では黄体ホルモン(プロゲステロン)を補充しますが、黄体ホルモンはもともと生理前の胸の張りや眠気、体温の上昇などに関わるホルモンです。そのため、移植後に感じる変化の多くは、妊娠していてもいなくても起こりえます。「着床の痛み」についての考え方は、着床痛は本当にあるのかで解説しています。
すぐ受診したほうがよい症状
着床のサインを探すより、判定日を待たずに受診が必要な症状を知っておくことのほうが大切です。
強い下腹部痛、片側だけの持続する痛み、生理より多い出血、肩の痛みやふらつきを伴う腹痛は、子宮外妊娠などの可能性があるため、治療を受けている施設に連絡してください。また、新鮮胚移植の周期では、採卵のための排卵誘発の影響で卵巣が腫れる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こることがあり、お腹の張りが強くなる、急に体重が増える、尿の量が減るといった場合も、判定日を待たずに連絡が必要です。
🩺 院長コラム【症状を探すより、日数で考える】
移植のあとは、胸の張りやお腹の違和感のひとつひとつに意味を探したくなるものです。けれども、着床を知らせる症状は医学的に確認されておらず、補充している黄体ホルモンでも同じような変化が起こります。症状の有無で一喜一憂するより、胚の日齢から「いまは受精後何日目か」を数えるほうが、よほど確かな手がかりになると考えています。
そして、判定の結果を大きく左右する要因の一つに、胚の染色体という目に見えない要素があります。結果が思わしくなかったときに、ご自分の過ごし方を責める必要はないと考えています。
7. 初期胚移植の出産予定日
体外受精で妊娠した場合の出産予定日は、最終月経ではなく、移植日と移植した胚の日齢から計算します。受精日がはっきり分かるため、自然妊娠より正確に予定日を出すことができます。
初期胚移植では、同じ移植日でも3日目胚と2日目胚で胚の日齢が1日違い、胚盤胞と比べると2〜3日違います。そのため、胚盤胞移植用の計算式をそのまま使うと、予定日が数日ずれてしまいます。胚の日齢ごとの計算方法と早見表は、移植日から出産予定日を計算する方法で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 初期胚は何日目の胚ですか?
受精後2〜3日目の、4〜8細胞前後に分かれた段階の胚です。分割期胚とも呼ばれます。4日目に桑実胚、5〜6日目に胚盤胞へと育ち、着床できるのは胚盤胞になってからです。
Q2. 初期胚移植と胚盤胞移植はどちらがいいですか?
一律には決められません。新鮮胚移植1回ごとの出産率は胚盤胞がやや高い一方、1回の採卵あたりの累積出産率は研究によって差がないという結果もあります。受精卵が少ない場合、特に年齢が高い場合は、初期胚で移植したほうが出産率が高い可能性が示されています。年齢や胚の数をもとに主治医と相談して決めることになります。
Q3. 移植後、症状がなくても陽性になりますか?
なります。着床したときに決まって現れる症状は確認されておらず、症状の有無で着床したかどうかは判断できません。移植後に補充する黄体ホルモンでも、胸の張りや眠気など妊娠初期と似た変化が起こります。
Q4. フライング検査で陰性だったら、もう望みはないですか?
判定日より前の陰性は確定ではありません。hCGが検査薬で分かる量に達していないだけで、数日後に陽性になることがあります。初期胚移植では胚盤胞移植より着床が遅れるため、胚盤胞の早見表で考えると早すぎる検査になりがちです。結果は医療機関の判定日の血液検査で確認してください。
Q5. 初期胚でもPGT-A(着床前検査)はできますか?
通常は行いません。現在のPGT-Aは胚盤胞まで育ててから、将来胎盤になる部分の細胞を採って調べる方法が主流です。初期胚の段階で細胞を採ると、胚の着床する力が下がることが比較試験で示されています。
Q6. 初期胚移植の出産予定日はどう計算しますか?
移植日と移植した胚の日齢から計算します。胚盤胞移植用の計算式をそのまま使うと数日ずれるため、胚の日齢に合わせた計算が必要です。計算方法と早見表は「移植日から出産予定日を計算する方法」の記事で解説しています。
Q7. ミネルバクリニックで初期胚移植や体外受精の治療はできますか?
いいえ、当院では体外受精・胚移植などの不妊治療は行っておりません。この件についてのご予約・お問い合わせもお受けしておりません。治療については、生殖医療を専門とする医療機関へご相談ください。
まとめ
初期胚移植は、受精後2〜3日目の胚を子宮に戻す方法です[1]。胚盤胞移植と比べると、新鮮胚移植1回ごとの出産率はやや低いものの、1回の採卵あたりの累積成績は研究によって差がないという結果もあり[4][5]、受精卵が少ない場合には初期胚で移植したほうが有利な可能性もあります[7]。
着床が始まるのは受精後6〜7日ごろで、3日目の初期胚なら移植後3〜4日ごろが目安です[13]。フライング検査は胚盤胞移植の目安より胚の日齢の差だけ遅らせて考え、判定日より前の結果や体の症状で結論を出さないことが大切です[14]。そして、胚が育たない・着床しない背景の一つには、見た目のグレードでは分からない染色体の数の異常があり、それは年齢とともに増えます[10]。
🏥 初期胚移植・体外受精の治療をお考えの方へ
当院では、初期胚移植・体外受精などの不妊治療を行っておりません。
この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。
治療については、生殖医療を専門とする医療機関へご相談ください。
この記事は治療を正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、他の診療の過程で具体的な遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。
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