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女性の社会進出の進展、晩婚化の進行に伴って「不妊症」に悩むカップルも増加傾向にあります。
不妊症に対する治療方法はタイミング法から始まり、人工授精、体外受精などがあります。このような医療体制の整備に併せて、赤ちゃんを授かるための準備に向けた「妊活」や、妊活の更に前段階となる「卵活」の考えも随分と普及してきました。
ここでは卵活のひとつでもある「卵子凍結」に関して、卵子凍結の概要や卵子凍結をする意味、卵子凍結のメリットとデメリット、卵子凍結を経た卵子を体外受精に用いた際の妊娠との関係性、具体的な卵子の凍結保存方法と保存可能年齢や可能期間、費用に関してご説明していきます。ぜひ最後までご覧ください。
卵子凍結とは
「卵子凍結」とは、女性の卵巣から採取した卵子を凍結させて長期間保存しておくことをさします。
凍結保存した卵子は、必要となる時期が訪れたタイミングで融解し、体外受精や顕微授精によって受精させます。その後、女性の子宮へと受精卵を移植し、妊娠を目指していきます。
卵子を凍結する意義とは
卵子凍結を選択する意義はどのようなものが挙げられるのでしょうか?日本生殖医学会が2013年に公表したガイドラインには、卵子凍結できるケースが2つ記載されています。それは「医学的適応」と「社会的適応」です。それぞれに関して詳しく見ていきましょう。
医学的適応
卵子凍結保存は、生殖器官をはじめとした、さまざまな身体の治療によって卵子が作られなくなる、生殖機能が低くなる恐れのある女性が、治療を経た後にも妊娠することを実現する選択肢のひとつとなります。これを「医学的適応」と呼びます。
がん治療のために卵巣を摘出しなければならないというケースも考えられますが、事前に卵子を採取しておくこと、卵巣摘出後にも子宮が維持されていることで、完治後に妊娠に励むことが可能となります。
社会的適応
不妊治療中である女性や、健康な未婚女性が将来の妊娠・出産に備えて、事前に卵子を残しておくために卵子凍結を選択するケースを「社会的適応」と呼びます。
冒頭にて紹介したように、女性の社会進出の進展、晩婚化が進行しているという社会背景を受けて、「今は妊娠を望まないけれど、将来的に妊娠を希望したときに備えて、若い頃の卵子を凍結保存させておく」というケースも見られます。
生殖器官の機能や卵子の質は加齢に伴って低下していきます。これらを要因として、妊娠率の低下や流産・染色体異常、赤ちゃんが先天性疾患を持って生まれる可能性も高くなります。これらを理由として、若いうちに卵子を凍結保存させておこうと考える女性がいます。
卵子凍結のメリットとデメリット
卵子凍結がどのようなものであるのか、凍結保存を選択することにどのような意味があるのかご理解いただけたところで、次に卵子凍結のメリットとデメリットに関してご説明します。
メリット
卵子凍結を選択することのメリットは以下のものが挙げられます。
- がん治療など、症状が根治した後に妊娠に取り組める
- 自身のライフプランを実現できる
それぞれに関して見ていきましょう。
がん治療など、症状が根治した後に妊娠に取り組める
これは医学的適応に結びついたメリットです。がん治療においては、抗がん剤が用いられるため、これが卵子にとってのダメージとなります。加えて、がんの進行具合によっては卵巣の摘出なども考えなければいけないことがあります。
上記の治療では女性の妊孕性(にんようせい:妊娠するために必要な能力であり、妊娠のために必要な臓器と各器官の機能をさしています)の低下をもたらしてしまいますが、治療を開始する前に卵子を凍結保存することで妊孕性を温存することが可能となります。
自身のライフプランを実現できる
これは社会的適応に結びついたメリットです。女性の社会進出は喜ばしい一方で、妊娠・出産を経てもう一度キャリア復帰を望む際にさまざまな障壁があり、理想とするキャリアを描けないというケースが見られるのも事実です。
また、現在はパートナーがいないものの将来は結婚・出産を望まれる女性、パートナーはいるものの今すぐ妊娠をしようとは考えていない女性もいます。
卵子の老化には「加齢」が大きく関わっており、これは誰も避けることができません。卵子が老化してからの妊娠は難しいからとキャリアを諦めてしまう女性もいるかと思いますが、卵子凍結を選択することで、ご自身のキャリアプラン・ライフプランの計画の際に、卵子の老化といった懸念要素を小さくすることができます。
デメリット
卵子凍結のデメリットには以下のものが挙げられます。
- 排卵誘発・採卵に合わせた治療のために合併症が生じる可能性がある
- 卵子を凍結保存することで将来必ず妊娠するという確実性を担保できない
- 高齢での妊娠は妊婦特有の病気が発症するリスクが高い
- 卵子凍結を経て出生した子どもの遺伝的変異に対する解明が十分でない
- 費用面での負担が大きい
それぞれに関して見ていきましょう。
排卵誘発・採卵に合わせた治療のために合併症が生じる可能性がある
卵子凍結のために複数の卵子を採卵することが一般的ですが、排卵を促す目的で排卵誘発剤などが用いられます。排卵誘発剤を用いることで副作用として卵巣過剰刺激症候群が発症することがあります。この症状は若い女性で且つ、卵巣機能が良好であるほど引き起こす可能性が高いため十分な注意が必要です。
卵子を凍結保存することで将来必ず妊娠するという確実性を担保できない
凍結保存をしておくことで、妊娠を望んだ際に元気な卵子を用いることができますが、妊娠のためには卵子だけでなく、子宮など女性の身体自身も大きく関わってきます。
卵子が若く元気であるからといって必ず妊娠するという確実性があるわけではないことを理解しておきましょう。
高齢での妊娠は妊婦特有の病気が発症するリスクが高い
卵子凍結を利用した後に、妊娠を望むという女性の多くは35歳以上であることが多く、高齢妊娠に該当するようになります。高齢での妊娠は妊娠高血圧症などが発症するリスクが20代~30代前半の妊婦さんと比較して数倍高いということが明らかにされているので、このことを事前に理解しておくことが必要です。
卵子凍結を経て出生した子どもの遺伝的変異に対する解明が十分でない
卵子凍結が広く知られ始めている一方で、卵子凍結を経て出生した子どもの遺伝的な変異に対する医学的な解明はまだ十分ではありません。
明らかとなっていないリスクが現れる可能性があることも念頭に置いておくことが必要です。
費用面での負担が大きい
卵子凍結をする際には凍結のための費用や、凍結している卵子の保管費用が掛かります。卵子1つの保管費用は約1万円ですが、複数の卵子を凍結することが一般的であり、高齢での妊娠を検討するうえで必要となる卵子の数は約20~30個といわれています。つまり、年間で20~30万円の費用が掛かることとなるため、これらの費用に関して十分に検討する必要があります。
加えて、高齢での出産育児となった場合には、育児費用はどのように工面するのか、子育てが終了した後にご自身の老後の準備は間に合うのかといった問題が発生することもあるので、十分な検討が必要といえます。
卵子と妊娠の関係性
次に、卵子と妊娠の関係性に関してご紹介します。
米国生殖医学会(ASRM)では、「凍結保存をした卵子と新鮮な卵子を比較した際の、受精率や出産率には差がない」ということが公表されています。
しかしながら、体外受精や顕微授精による妊娠率や出産率・生産率は女性の年齢とともに下がっていくことが一般的です。これは自然妊娠の場合であっても同様です。
つまり、若い頃の卵子を凍結保存したからといって、妊娠率の増大につながるということはありません。前述したように妊娠のためには卵子の質ももちろんですが、女性自身の身体機能も大切なのです。
卵子の凍結保存方法
次に、卵子の凍結保存の方法に関してご説明します。卵子を凍結するまでの手順は以下の通りです。
- 排卵誘発
- 採卵
- 凍結保存
それぞれに関して見ていきましょう。
排卵誘発
効率的な卵子の採取をするために、排卵誘発剤などを使用して、複数の卵子を育てます(自然な排卵では複数の卵子を成熟させていき、十分に成熟した卵子のみが卵巣から卵管へと移動します)。
一方で、排卵誘発を全く行わずに、自然な月経周期の中で卵子の成長を待つ方法もあります。
採卵
卵巣に針を刺して、卵子の採取を行います。卵子は卵胞という細胞の中で成長していき、卵胞は卵巣内の卵胞液の中を漂っています。採卵針を卵巣に刺し、卵巣液と一緒に数ml吸引するという方法がとられています。
凍結保存
卵子を凍結する方法では「超急速ガラス化法」が主流となっています。この手法は、卵子をガラス化(卵子内の液体部分が結晶構造とならずに流動性を失うこと)させて、急速凍結させる方法です。
ガラス化法の手順は、
- 卵子を凍結保護剤に浸透させて、卵子と保護剤とを平衡化させる
- 凍結保護剤が浸透したら、卵子をガラス化液に入れて細胞の中の水を抜く
- 細胞内の水が抜かれた卵子を―196℃の液体窒素に投入して卵子を瞬時に凍結させる
という流れになっています。
急速に凍結することで、卵子が受けるダメージを軽減することが可能となります。
凍結保存が可能な年齢と保存期間
凍結保存が可能な年齢や保存期間は医療機関によって異なる部分がありますが、日本生殖医学会が公表するガイドラインでは、「卵子を凍結保存できるのは成人した女性であること」、「卵子の採卵は40歳未満まで」、「凍結保存した卵子を体外受精などに用いるには45歳未満まで」と示されています。
加えて、日本産科婦人科学会からは「卵子の凍結保存期間は採卵した女性の生殖年齢を超えないこと」とする見解が示されています。
これらを踏まえると、卵子凍結保存が可能であるのは閉経が起こるまで、または45歳未満までという考え方が一般的であるということになります。
凍結保存に掛かる費用
卵子凍結の一連の過程における排卵誘発や採卵、凍結・凍結後の保存、妊娠を望んだ際の卵子の解凍と体外受精などすべての費用を加味したものが以下の表になります。
治療内容 | 費用 |
排卵誘発 | 30000円~ |
採卵 | 60000円~ |
卵子凍結 | 30000円~/1個 |
卵子保存 | 10000円~/1個/1年 |
卵子解凍 | 20000円~/1個 |
体外受精・顕微授精 | 30~50万円 |
合計 | 45万~ |
卵子凍結保存の保存期間が長期化することで費用も大きくなっていくということを理解しておきましょう。
まとめ
ここまで卵子凍結の基礎知識として、卵子凍結の意義や利用する際のメリット・デメリット、凍結を経た卵子と妊娠の関係性、具体的な卵子凍結の流れや必要な費用に関して説明してきましたがご理解いただけたでしょうか?
キャリアプランや結婚・妊娠などのライフプランなど、後悔することのない選択を望む気持ちは、多くの女性が共感することではないでしょうか?
卵子凍結保存は、妊娠を望む際に将来に残せる選択肢をひとつ増やす方法でもあります。この記事がキャリアアップに励む女性や、将来の妊娠を望む女性など多くの方にとって、価値あるものになれば幸いです。
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