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初期胚移植の基礎知識|メリットやデメリット・治療日程など詳細解説

近年、女性の社会進出の進展、晩婚化の進行に伴って「不妊症」に悩まれる方も増加傾向にあります。不妊症とは、健康な男女が妊娠することを望んで、避妊をせずに性行為を重ねるものの1年以上に亘って妊娠に至らない症状を表しています。

不妊症治療ではタイミング法から始まり、人工授精、不妊症が重度である場合には体外受精や顕微授精が行われます。

体外受精では女性の卵巣から採卵、男性の精巣から採精をした後に、採取した卵子と精子をシャーレ上で出合わせ自力での受精を目指します。一方、顕微授精では採取した精子を卵子の中に直接届けることで受精をサポートします。

この記事では、体外受精・顕微授精によって誕生した受精卵を子宮へと戻す移植法のひとつである、初期胚移植に関して、その概要や治療スケジュールを詳しくご説明していきます。ぜひ最後までご覧ください。

初期胚移植とは

医師たち
「初期胚移植(しょきはいいしょく)」とは、体外受精・顕微授精によって誕生した受精卵を、培養液の中で初期胚まで成長させた後に、子宮へと戻す移植方法を表しています。

初期胚移植は昔も今も変わらず、受精卵を子宮へと戻す移植法としてメジャーなものですが、現在では初期胚の次の成長段階である胚盤胞(はいばんほう)まで成長させてから子宮へと移植する「胚盤胞移植」も主流となりつつあります。

この背景には受精卵を成長させる培養液の培養技術の向上があります。これまでの医療技術では受精卵を胚盤胞まで成長させることができませんでしたが、培養技術が向上したことによって胚盤胞まで培養することが可能となり、これに伴って胚盤胞移植も移植方法の選択肢として現実的なものへとなっていきました。

受精卵の成長過程

上記にてご紹介したように、体外受精・顕微授精によって生まれた受精卵を子宮へと戻す移植法は、受精卵の成長段階に照らし合わせたものとなっています。ここでは、受精卵がどのように成長するのかを確認しておきましょう。

卵子と精子の受精によって誕生した受精卵は、はじめ、丸々とした1つの細胞です。受精から1日程が経過すると最初の細胞分裂が行われ、1つであった細胞は2つに分割されます。その後、受精後2日目に2回目、3日目に3回目の細胞分裂が行われ、細胞の数は2から4、4から8と増えていきます。

「初期胚」とは上記の細胞分裂を通じて、分割された細胞が8つ未満である状態にまで成長した受精卵のことを指しています。加えて、この状態で子宮へと移植する方法が、「初期胚移植」です。

初期胚となった後も細胞分裂が行われ、分割された細胞の数は8~16個となります。この状態の受精卵は「桑実胚(そうじつはい)」と呼ばれます。

桑実胚から更に細胞分裂が行われ分割された細胞の数は16個を超えると同時に、分割された細胞同士がくっつきあうようになります。細胞同士がくっつくことで、受精卵を包み込むように群化する「外細胞塊(がいさいぼうかい:後の胎盤となる細胞群)」と、受精卵の内部にて群化する「内細胞塊(ないさいぼうかい:後の赤ちゃんとなる細胞群)」とに分かれていきます。この状態にまで成長した受精卵が「胚盤胞」と呼ばれます。

つまり、胚盤胞まで成長した受精卵を子宮へと移植する方法が「胚盤胞移植」となります。

初期胚移植のメリット・デメリット

メリットデメリット

次に、初期胚移植のメリット・デメリットに関して見ていきますが、これらのことを見ていく際の比較対象は胚盤胞移植が主となります。それぞれの移植方法には一長一短があり、実際の不妊症治療の場でも両者を併用することが多くあります。メリット・デメリットをきちんと理解して、ご自身がどのような治療を選択したいのかをきちんと検討できるようにしましょう。

メリット

初期胚移植におけるメリットは以下のものが挙げられます。

  • ・キャンセル率が低い
  • ・金銭的負担が小さい
  • ・受精卵に培養液が与える負荷が小さい

それぞれに関して見ていきましょう。

キャンセル率が低い

受精卵が胚盤胞まで成長する確率は体外受精の場合であっても自然妊娠の場合であっても約20~30%といわれています。

複数の受精卵を用意することができたとしても、胚盤胞移植を選択していた場合には、受精卵のすべてが胚盤胞へと成長するとは限らないため、移植に用いなかった受精卵の割合(キャンセル率)も高くなります。

初期胚移植では初期胚の時点で子宮へと移植することとなりますが、正常な受精が行われていた場合には90%以上の受精卵が分裂を開始するため、移植そのものが中止となってしまうケースは稀です。つまりは、キャンセル率も低くなります。これは初期胚移植における大きなメリットのひとつです。

金銭的負担が小さい

初期胚移植の方が胚盤胞移植よりも受精卵の培養期間が短いため、これに伴って、培養のための費用や、その間の受精卵の保管料などの費用は初期胚移植の方が小さくなります。

受精卵に培養液が与える負荷が小さい

胚盤胞まで成長させられる培養技術が整備されている一方で、培養液の負荷が大きいために移植に用いられなくなってしまう受精卵もあります。そのような場合には初期胚移植を選択する方が望ましく、受精卵が本来在るべき子宮に早期のうちに戻ることとなるため、返って良い結果が得られるということもあります。

デメリット

初期胚移植におけるデメリットは以下のものが挙げられます。

  • ・良質な胚(受精卵)を選別することが難しい
  • ・子宮外妊娠となる場合がある

それぞれに関して見ていきましょう。

良質な胚(受精卵)を選別することが難しい

受精卵は初期胚、桑実胚、胚盤胞と成長していきますが、初期胚の段階では最終的に胚盤胞まで成長するか否かを判別することが難しいとされています。

移植の際にはグレードと呼ばれる、優先的に移植に用いる受精卵を選択するための基準が初期胚と胚盤胞に定められているのですが、初期胚の時点ではグレードが良好であったのに、胚盤胞まで成長しなかった、胚盤胞には成長したものの良好なグレードではなかったということがあり得るのです。

子宮外妊娠となる場合がある

自然妊娠の場合には卵子と精子が卵管で出会い、受精し受精卵となり、細胞分裂を繰り返しながら徐々に成長していきます。この成長の過程では受精卵は卵管から少しずつ子宮へと移動してもいるのです。そして、子宮へとたどり着く頃に着床のための準備が整った胚盤胞まで受精卵が成長していることで着床・妊娠に至るのです。

初期胚移植では初期胚のタイミングで子宮へと戻すこととなるため、移植後すぐに着床に至るということはありません。初期胚が胚盤胞へと成長するまでの間、受精卵は子宮の中を漂うこととなります。

この期間に受精卵が卵管などに逆流し、胚盤胞となった後にそのまま着床すると子宮外妊娠となってしまいます。子宮外妊娠の場合には着床した受精卵を子宮へと移す手術も必要となるため、体への負担が増大してしまうことがあります。

初期胚移植のスケジュール

スケジュール

次に、初期胚移植のスケジュールに関して見ていきましょう。

月経があった日を1日目として、それ以降の初期胚移植のスケジュールは以下の通りです。

1 2 3 4 5 6 7 8
月経 卵胞・卵子成熟期間(排卵誘発・LHサージ誘発)
9 10 11 12 13 14 15 16
採卵 受精卵培養
17 18 19 2週間ほどの経過観察 妊娠判定
初期胚移植 着床

排卵誘発・LHサージ誘発

受精卵とする卵子を効率的に採取するために、月経開始3日目から排卵誘発剤やLHサージ誘発剤を用いた、卵胞・卵子の成熟の活性化が行われます。

使用する薬剤は刺激の強さに応じて複数あり、高刺激であるほど採取できる卵子の数に期待が持てます。しかしながら、刺激が強い分、身体への負担が大きいことや、卵巣過剰刺激症候群という副作用が生じてしまうこともあるため、使用する薬剤は医師ときちんと確認して決めるようにしましょう。

採卵

卵巣に直接針を刺して、卵巣内の卵胞を卵胞液と一緒に数ml採取するという方法で採卵が行われます。

採卵の日に男性側では採精が行われており、この日に受精まで済ませてしまいます。

培養

受精後、受精卵となったら培養液に浸して初期胚まで培養していきます。受精卵が初期胚移植に用いることのできる初期胚に成長するまで必要となる期間は受精後2~3日です。

初期胚移植

初期胚にまで成長したら子宮へと移植することとなりますが、複数の初期胚がある場合にはグレードを参考にして優先的に移植に用いる初期胚を決定します。

初期胚の時点でのグレードは、「フラグメント」と呼ばれる細胞分裂を繰り返す中で生じる細胞のかけらの有無と、「割球(かっきゅう)」と呼ばれる細胞分裂によって分割された細胞それぞれの大きさのバランスによってグレード1~5まで定められています。

具体的なグレードは以下の通りです。

グレード フラグメントの有無 割球の大きさのバランス
グレード1 なし 均等
グレード2 少し 均等
グレード3 なしまたは少し 不均等
グレード4 半分程度 均等または不均等
グレード5 大部分 不均等

医療機関ごとに異なるものの、初期胚移植に用いられる際の初期胚のグレードは1~3であることが一般的です。グレード4とグレード5の初期胚は後の成長が十分に期待できないためです。

着床・妊娠判定

初期胚が無事に胚盤胞まで成長し、着床もできたと仮定すると、着床が行われるのは初期胚移植の日から約2日後となります。

そこから更に、妊娠判定をする際には、妊娠が成立すると分泌されるhCGホルモンというホルモンが血液中に含まれているかどうかで判断が行われます。このホルモンが十分に確認されるまでには着床から約10日が必要であるため、着床が行われたであろう日から更に2週間後を目安に妊娠判定が行われます。

まとめ

笑顔の女性
ここまで初期胚移植の概要、メリット・デメリット、実際の移植スケジュールに関してご説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?

これまでの体外受精において一般的であった初期胚移植ですが、詳しい内容は実際に不妊治療を経験されている方でないと知らないことも多かったのではないでしょうか?

この記事をきっかけに、不妊症治療に関する知識や妊娠に向けた取り組みなどに関する知識を深めていただければ幸いです。

東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。ミネルバクリニックでは、妊娠9週から受けられる赤ちゃんの健康診断である「NIPT」を業界最新の技術と業界随一の対象疾患の広さで行っております。遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が出生前診断を提供しておりますので、是非、お気軽にご相談ください。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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