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男性不妊とは
不妊とは「子供を作り始めて、1年間経っても自然妊娠に至らない状態」を指します。不妊の原因が男性側にある場合が「男性不妊」です。
日本では子どもを望む年齢の高齢化や晩婚化によって不妊治療を受けるカップルが5.5組に1組いると言われています。日本の不妊治療は婦人科を中心に行われており、女性が原因と思われていました。しかし、男性側にも原因があるというのが現在は認知されてきています。
不妊の原因の半分は男性由来
世界保健機関(WHO)が2017年に行った検査によると不妊症のうち、男性のみに原因があるケースが24%、男女両方に原因がある場合が24%という結果が出ました。また、一般男性の約20人に1人は男性不妊症(不妊の原因が男性側にあること)といわれており、不妊治療をするためには男性側の積極的な参加が求められています。
不妊の原因と言われた男性の声
実際に「不妊症です」と言われた男性の多くは現実を受け止められません。前向きに治療に取り組むどころか離婚も選択肢に入れた方もいます。それだけデリケートな話なのです。ここでは不妊症になった男性のお話をご紹介します。
「精子がありません。自然妊娠は無理ですよ」。二つ年下の夫と訪ねた病院で告げられたのは4年前。結婚から3年たっていた。夫は以前から「俺が原因かも」と口にしていた。自身も「精子が少ない」「動きが悪い」などと診断される覚悟はしていた。ストレス社会でそんな男性が増えていると聞いたことがあった。だが、ゼロ、とは…。 無精子症。先天性か高熱や事故などの原因で、精子は作られていても、精液中に出てこない状態という。
帰宅後、夫は言った。「別れるかどうか、おまえが決めて。俺が原因やから、俺は何も言えんけ」
(西日本新聞|無精子症の夫、離婚は「おまえが決めて」 主治医の言葉にすがり…)
「ぼくと結婚しなければよかったね…」 自分の気持ちをあまり話すことのない正治さんがつぶやいたことがあった。
「この人に治療のつらさを言ったらいけないな」恵子さんは、気持ちにふたをしてしまった。男性側に原因があることで、夫婦で気持ちを分かち合うことが難しかった。
(産経新聞|「乏精子症」の男性は言った「ぼくと結婚しなければよかったね」加齢で精子DNA配列にミスも)
男性不妊の原因と種類
男性不妊の原因は主に以下の3つに分類されます。
- ・精子を作る力が低下
- ・勃起や射精ができない
- ・精子の通り道が詰まっている
精子を作る機能が低下(造精機能障害)
精子を作る機能が低下する症状が造精機能障害です。男性不妊の原因の約90%と言われており、精子をつくり出す機能自体に問題があって精子をうまく作れない状態です。
一度の射精で精子の数は数億とされております。そのうち子宮の前で99%が死滅し、子宮には数十万以下です。卵子の周囲まで到達できるのは数百以下まで減少しており、そのため精子の数が少なかったり、運動性に乏しかったりすると卵管に到達する精子が通常より減ってしまいます。
造精機能障害には、以下の症状があります。
- ・無精子症・・・造精機能障害の中でも重い症状です。精液中に精子が一匹もいない状態ですが、精巣や精巣上体に精子が存在していれば、顕微授精などの不妊治療で受精・妊娠することが出来ます。
- ・乏精子症(ぼうせいししょう)・・・ 精液の中に精子はいるけれど、その数が少ないという症状です。精子の数が基準を少し下回る程度であれば、タイミング法などを行います。さらに精子の数が少ない場合、人工授精、体外受精、顕微授精等の不妊治療を行います。
- ・精子無力症・・・精子の数は正常にあるけれど、製造された精子の運動率が悪い症状です。その精子の状態により人工授精や顕微授精などの不妊治療を行ないます。
その他の原因と種類
その他にも不妊症の減員となる症状があります。
病名 | 症状 |
---|---|
精索静脈瘤 | 陰嚢内の温度が上がる等から精巣の発育不全などを発症し、精子形成に悪影響を与える |
閉塞性無精子症 | 精子の通り道である精管の一部がつまる等癒着しているため、精子が運ばれずに、精液のなかに精子いない状態 |
先天性精管欠損 | 生まれつき精管が備わっておらず、精子は精巣内に閉じこめられた状態 |
膿精液症 | 前立腺や精嚢等の炎症により、精液中に白血球が増え、精子の運動率を低下させてる状態 |
無精液症 | 精液が造られない状態 |
逆行性射精 | 精液が尿道に送られずに膀胱に逆行する状態 |
勃起不全(ED) | 性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起が維持できない、満足な性交が行えない状態 |
膣内射精障害 | 膣内で射精することが困難になる状態 |
造精機能障害以外の不妊では、EDが原因の場合が多く見られます。また不妊治療のタイミング法でEDになるケースも珍しくありません。
そうした場合は、ED治療薬で改善するため諦めずに取り組んでください。
またマスターベーションで射精することができても、膣内射精できない、膣内射精障害の方も近年は多く見受けられます。この様な場合は、性交時に一度陰茎を抜き、カップに射精してから、針なしの注射器で精液を膣に注入する方法を試します。
男性不妊の検査
男性不妊かどうかはもちろん検査をしないと断定できません。検査方法は精液検査とその他に分類されます。
精液検査によって精液の量や精子の数、運動率などを確認することは、不妊治療を進めるうえで欠かせません。結果は、体調によって変わることがあるため一回目で不良だった場合、もう一度検査をするクリニックもあります。精液検査の基準値はWHOは提示した基準に基づいて判断されます。
項目 | WHO基準値 |
---|---|
精液量 | 1.6ml以上 |
精子濃度 | 1600万/ml以上 |
精子運動率 | 42%以上 |
精子正常形態率 | 正常な精子が4%以上 |
この基準値以下だった場合、原因を調べて不妊治療を進めていきます。その他の検査方法としては染色体検査、ホルモン検査、抗精子抗体などがあります。どれも精子の状態によって行うもので必ず実施するわけではありません。
男性不妊のセルフチェック
不妊は男性側に半分原因があると言われてもいまいちピンとこない方もいるかもしれません。ましてや自分から積極的に泌尿器科で検査を受けるのは男性にとって高いハードルといいえるでしょう。そこでここでは自覚症状や普段の生活習慣でわかるセルフチェックシートをご紹介します。
まずは自覚症状からです。
- ・挿入・射精ができない
- ・陰毛が少ない・精巣が小さい
- ・陰嚢の腫れ・でこぼこ・熱感を感じる
- ・陰嚢の違和感・鈍痛を感じる
- ・陰嚢・精巣サイズに左右差がある
- ・陰嚢が腫れた経験がある
- ・パイプカットをした経験がある
- ・泌尿器科的検査を受けていない
もし複数の項目が当てはまると不妊症かもしれません。専門の医師へ相談を必要してください。続いては生活習慣です。
- ・喫煙している
- ・肥満気味
- ・熱い湯舟・サウナが好き
- ・ブリーフをはく
- ・AGA治療をしている・筋肉増強剤の服用
- ・精液検査しか行っていない
- ・補助的な内服(サプリ・漢方・ホルモン薬)のみ行っている
- ・不妊治療は婦人科治療と補助的な内服だけでよいと思っている
以上になります。もし複数の項目が当てはまる場合は不妊症の可能性があります。専門の医師に相談してください。
詳細については「銀座リプロ外科|男性不妊セルフチェックシート【16項目でわかる】」をご覧ください。
参照:銀座リプロ外科|男性不妊セルフチェックシート【16項目でわかる】
男性不妊の治療法
もし男性不妊と診断されたら不妊症の治療に入ります。主な治療法は以下になります。
- ・人工授精
- ・薬物療法
- ・体外受精
- ・顕微授精
- ・精巣内精子回収法(TESE)
人工授精(AIH)は受精の場である卵管膨大部に受精に必要十分な精子を届けるため子宮腔内に精子を注入する治療法です。
精液を直接注入すると感染や精漿中に含まれるプロスタグランディンという物質により子宮が収縮して痛くなることがあるため、普通は精液を洗浄してプロスタグランディンなどを除去し、運動性の良い精子を選んで0.2-0.5ml程度を子宮に注入します。
精液所見が悪い場合や、逆行性射精に対して、薬物療法を実施します。EDが原因の場合、バイアグラなどのED治療薬を処方して様子を見ることもあります。
体外受精は、採卵手術により排卵直前に体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療です。受精が正常に起こり細胞分裂を順調に繰り返して発育した良好胚を体内に移植すると妊娠率がより高くなることから、一般的には2-5日間の体外培養後胚を選んで腟から子宮内に胚移植します。
顕微授精は卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:以下、ICSI)とも呼ばれる治療法です。顕微鏡下に裸化した成熟卵子の細胞質内に不動化した精子1匹を顕微鏡下に注入します。正常受精率は約80%です。卵子の活性化が十分でない場合などでは受精しない事もあります。また、受精障害がある場合、あるいは重度の造精機能障害があって、一般体外受精(媒精)では、受精が期待できない場合に実施するケースが多いようです。
精液内に精子が認められない無精子症例は、造精機能障害の非閉塞性と精路通過障害の閉塞性の二つに分類されます。無精子症と診断された場合には手術による治療が必要です。精巣内精子回収法は、無精子症の場合に精巣を切開して精子を回収する治療法です。非閉塞性無精子症が疑われる場合は顕微鏡を使用しての手術(micro TESE)を行います。
男性不妊は保険適用になるのか
2022年4月から不妊治療が保険適用になりました。もちろん男性の不妊治療も対象内です。ただしスクリーニング検査は対象外となりますので自費負担となります。
適用となるのは以下の3つです。
- ・人工授精
- ・体外受精
- ・顕微授精
また不妊治療が目的の場合に限り、バイアグラやバイアグラODフィルム、シアリスといったED治療薬も医師の処方箋で服用できます。
不妊治療は治療開始の時点で女性が43歳未満と年齢制限がありますが、男性は特に規定がされていません。保険が適用される回数は、女性が40歳未満の場合は子ども一人に対して最大6回まで、40歳~43歳未満の場合は最大3回までとなっています。
まとめ
男性不妊には遺伝や生まれつきによる先天性のものや子供のころの病気などが原因のものと、生活習慣や病気・薬などの影響によるものがあります。男性不妊の多くは精子がつくられる過程に問題があること(造精機能障害)で起こりますが、その原因は不明であることも少なくありません。精子検査の結果は男性の精液の状態はストレスや睡眠不足などに左右されやすく、検査を受けた時の体調によって良い結果になったり、悪い結果になったり、ばらつきが生じがちです。
もし、妊活をしていて生活習慣の改善や精子検査の結果が問題ない場合は、複数回の精子検査や医師の診断を受けたほうがいいでしょう。