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精子の奇形率とは?|奇形精子症の原因と予防方法についても詳細解説

近年、「不妊症」に悩まれるカップルは増加傾向にあります。不妊症とは、健康な男女が妊娠を望んで避妊をせずに性行為をするものの1年以上に亘って妊娠に至らない症状を表しています。

この不妊症の原因が男性側にある場合を特に、「男性不妊症」と呼びます。WHOが公表した調査結果によると、不妊症に該当する症例のうち、男性不妊症が関係している(男性のみに原因があるものと、男女ともに原因があるものを合わせたもの)ものは約50%に上るといわれています。

更に、この男性不妊症の詳細を見ていくと、男性不妊症の多くが「造成機能障害」という、正常精子の生成が行われなくなる症状が原因にあるとされています。そして、その割合は約90%にもなります。

男性不妊症の原因には造精機能障害以外にも「奇形精子症(きけいせいししょう)」というものがあります。

この記事では奇形精子症がどのような病気であるのかを正常な精子の形状と比較しつつ、奇形精子症が生じる原因、奇形精子症に対する検査や治療方法、奇形精子症と妊娠の関係性に関してご説明していきます。ぜひ最後までご覧になってください。

奇形精子症とは

考え事をしている男性
奇形精子症とは、精液中に含まれる正常な形をした精子の数が非常に少ない状態となる症状を表しています。具体的には精液中の精子の96%以上が奇形であると明らかになった場合に、「奇形精子症」と診断されます。

奇形精子症であると診断されると、自身の精液には正常な精子がわずか4%しかないのかと驚かれてしまうかと思いますが、健康な男性であっても正常な精子の割合は20%弱で、80%以上は奇形である精子が占めているといわれています。

奇形精子症は不妊症の原因となることもあるのですが、不妊症治療に来られる方の多くは正常な精子が1~2%と更に少ないといった実情があり、4%もあれば良い方であると判断されることもあります。

WHOが調査した報告によると、成人男性の奇形精子の割合は年々増加傾向にあり、2000年頃には85%ほどであったものが、2010年頃には96%にまで上昇しています。このような理由から正常な精子が全体の4%以上であれば正常であると判断されるのです。

精子の形状ももちろんですが、この他にも妊娠のためには運動率も十分であり、精液中の総数が多ければ多いほどよいとされています。WHOが自然妊娠のために最低限必要であると定める精液の目安が以下のものになります。

検査項目 基準値
精液量(1回あたり) 1.5ml以上
精子数(1回あたり) 3900万以上
精子濃度(1mlあたり) 1500万以上
運動率 40%以上
全身運動率 32%以上
生存率 58%以上
正常形態率 4%以上

表の数値はあくまでも目安であり、どれかひとつの項目が基準値を下回っているから自然妊娠の望みが無くなるということはありません。

正常な精子の形状

奇形精子症がどのような病気であるかご理解いただいたところで、奇形である精子とは実際にどのような形状をしているのでしょうか?

奇形精子の形状を確認する前知識として、ここでは、正常な精子の形状を確認していきましょう。

精子の基本的な構造は、染色体などの遺伝情報が詰まった「頭部」と、膣・子宮内を泳いで進むためのエネルギーを蓄えた「尾部」より構成されています。

更に詳細に見ていくと、頭部は先体(せんたい)と核(かく)から構成されています。核の中に遺伝情報が詰まっており、先体は精子と卵子が出会い、精子が卵子の中へと侵入する際に、精子を卵子の表面に接着させる働きを持っています。

そして、尾部は中心体(ちゅうしんたい)とミトコンドリア、べん毛から構成されています。中心体は卵子と精子の受精によって受精卵が誕生した後の細胞分裂に大きく関係している器官であり、ミトコンドリアは精子が卵子のもとへと進んでいくためのエネルギーを貯蔵している器官となります。そして、べん毛はミトコンドリアに蓄えられているエネルギーを使って実際に運動する(べん毛を上下左右に動かして前進する)機能を担っています。

このような器官から構成されている精子ですが、”正常な精子”というのは、頭部がきれいな楕円形をしており、尾部は適度な長さがありまっすぐと伸びている精子のことを表しています。

奇形精子の形状

上記にて確認した”正常な精子の形状”に該当しない精子は奇形精子とされます。奇形と判断される精子には以下のものが挙げられます。

【頭部の奇形】

  • ・頭部が変形している(頭部にへこみがあるなど)
  • ・頭部が平均と比べると小さい
  • ・頭部が楕円形でなく、丸くなっている
  • ・頭部が2つくっついている
  • ・頭部の先端がとがり過ぎている

【尾部の奇形】

  • ・尾部が平均と比べると短い
  • ・尾部が伸びておらず、折れていたり曲がっていたりする
  • ・尾部が2本伸びている

頭部には遺伝子の情報が詰まっており、この部分に奇形が見られると、受精そのものが難しくなったり、無事に受精卵が生まれたとしても染色体異常が発生しやすくなったりするといわれています。染色体異常が生じると着床に至っても流産することが多く、無事に育つことは稀であるといわれています。

尾部は精子が卵子のもとへと進んでいくための運動全般を担っています。実際にはべん毛を上下左右に動かすことで子宮内を泳いで進んでいるのですが、尾部に奇形が見られると卵子のもとへたどり着くことが難しくなる場合があります。

奇形精子症の原因

奇形精子症が生じる原因は、残念ながら現代の医学では明らかにされていません。

精液検査を始めとした精密な検査を行ってみると、制作静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう:精巣から心臓に血液を戻す静脈内の血液が逆流してしまい、精巣の周りに静脈のこぶができる症状)、逆行性射精(ぎゃっこうせいしゃせい:精子が膀胱に逆流する症状)、染色体異常など、奇形精子症の原因になり得る症状が見つかることがあります。

また、過度なストレスを抱えることが奇形精子症の原因になることも分かりつつあります。

このように、奇形精子症が生じる原因にはさまざまな要因が重なり合っているケースもあり、外科的な手術や生活習慣全体の改善などが求められることがあります。

奇形精子症の検査・治療

医師とカウンセリング中の男性患者
次に、奇形精子症であるか否かを診断するための検査方法と、実際に奇形精子症であった際の治療方法に関してご説明していきます。

奇形精子症の検査方法

精子の奇形率を調べる方法には「クルーガーテスト」というものがあります。具体的には男性から採取した精液に特殊な溶液を用いて精液中の精子に色付けを行い、顕微鏡で確認するという方法がとられています。

上記にて精子の奇形に関してご説明しましたが、WHOでは精子の形状パターンを①正常性精子、②巨大精子(平均よりもサイズが大きい)、③微小精子(平均よりもサイズが小さい)、④双頭精子(頭部が2つある)、⑤双体精子(尾部が2つある)、⑥尾が折れ曲がった精子、⑦頭部と尾部のバランスが不揃いな精子、とに分類しています。

この分類のうち、①正常性精子に該当する精子が精液中に4%以上であるか否かによって奇形精子症を判断しています。

奇形精子症の治療方法

奇形精子症が生じるメカニズムや原因が十分に明らかにされていないため、奇形精子症のみを治療するということは難しいです。しかしながら、奇形精子症の原因と考えられている各要素(精策静脈瘤や逆行性射精など)を外科的手術などによって解消することで、奇形精子症が改善することがあります。

また、ストレスや生活習慣の乱れが原因となっている場合には、生活習慣の改善に併せてサプリメントの服用や薬膳の利用が行われることもあります。精子の製造過程には亜鉛やセレンといったミネラル分が深く関係しているため、これら栄養素の補充を図ったり、精子のアンチエイジングを目的として八味地黄丸(はちみじおうがん)という漢方が処方されたりすることもあります。

奇形精子症と妊娠

妊娠中のカップル
次に、奇形精子症と妊娠率の関係性に関して見ていきましょう。

結論をいいますと、奇形精子症と診断された方は、自然な形での妊娠を望むのは難しくなります。しかしながら、体外受精や顕微授精を行うことによって元気な赤ちゃんを授かる可能性は十分にあります。

奇形精子症であると、生まれてくる子供にも何らかの影響が及んでしまうのではと心配になる方もいらっしゃるかと思いますが、前述したように、健康な成人男性の精子の中にも約80%以上の奇形精子が混じっています。自然妊娠においては、卵子のもとにたどり着く過程の中で、奇形精子が淘汰されているのです。これは体外受精の場合にも同様で、精子が自力で卵子の中に侵入していきますが、内部に到達する前にほとんどの奇形精子が淘汰されていきます。

注意が必要となるのは、顕微授精の場合です。顕微授精では精子を卵子の中に直接注入することとなるため、精子の選別の際に、”いかに良質な精子を選択する”かが重要となってきます。精子の形状と精子の遺伝子(染色体)状態に顕著な相関(形状が悪いということは染色体の状態も悪いなど)が見られるわけではありませんが、顕微授精に用いることのできる精子がご自身の精液中にどのていど含まれているのかを予め把握しておくことは非常に大切となります。

繰り返しとなりますが、顕微授精を行う場合には、”いかに良質な精子を選択するか?”が大切となります。奇形精子症であっても、奇形精子やDNAに損傷の見られる精子を極力排除するとともに、良質な精子を選別する技術を利用することによって、妊娠率の向上や、流産率の低下、染色体異常の低下は十分に期待することができます。

まとめ

笑顔の男性
ここまで、奇形精子症がどのような病気であるのか、正常な精子と奇形精子とされる精子の形状はどのようなものなのか、奇形精子症が生じる原因、奇形精子症に対する検査や治療方法、奇形精子症と妊娠の関係性に関してご説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?

近年、男性不妊症患者さんの割合は増加傾向にあります。さまざまな社会的要因が重なった結果であるともいえますが、奇形精子症の増加もそのひとつです。奇形精子症であるために自然な妊娠を望むことが難しくもなってしまいますが、現在ではこれらに対する治療方法も確立されつつあります。

この記事をきっかけに男性不妊症を始めとした不妊症に関する理解を深めて頂ければ幸いです。以下のコラムでは男性不妊症全般に関するご説明をしていますので、お時間の許す方はぜひそちらもご覧になってみてください。

男性不妊治療とは?|男性不妊症の原因、治療の種類や方法を詳細解説【ミネルバクリニック公式】

東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。ミネルバクリニックでは、妊娠9週から受けられる赤ちゃんの健康診断である「NIPT」を業界最新の技術と業界随一の対象疾患の広さで行っております。遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が出生前診断を提供しておりますので、是非、お気軽にご相談ください。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。

ミネルバクリニックでご提供している不妊症遺伝子検査では、不妊症や性染色体異常に関連する遺伝子変異を特定することで正確な予後判定を行い、患者さんに最も適した治療法を特定することができるため、子供を持ちたいと願うすべてのカップルや個人に対して、最適な治療計画を導くことができます。是非ご検討ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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