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妊娠は喜びに満ちたものですが、遺伝的な不安を抱える方にとっては、人生の大きな決断の一つにもなります。今回は、NIPT(新型出生前診断)と遺伝子検査を通じて、15年間の不安を乗り越えたAさんの体験談をご紹介します。
中学生のときに母を亡くし、遺伝病への恐怖を抱えた日々
Aさんは30代の女性。彼女の母親は、ある神経変性疾患を発症し、徐々に身体の自由を奪われていきました。
手足が勝手に動く、バランスを崩して転倒しやすくなる、話すことが難しくなる——そんな症状が少しずつ進行していき、最終的には飲み込むことすらできなくなっていく。その病気は、遺伝性があり、発症すると進行が止められないという特徴を持っていました。
Aさんが中学生のころ、母親はその病気によって亡くなりました。母が病に倒れていく姿を目の当たりにし、幼いながらも「自分もいつか同じ病気になるかもしれない」という恐怖を抱えるようになりました。
この病気は常染色体優性遺伝であり、Aさんが受け継いでいる確率は50%。「自分も母と同じように発症するのではないか?」という不安を抱えながら、彼女は成長していきました。
発症するかもしれないという恐怖と、結婚への迷い
高校生になっても、その不安は消えることはありませんでした。日常生活の中で、何気ない動作に異常を感じるたびに、Aさんは胸が締めつけられるような気持ちになりました。
「手が少し震えただけで、『もしかして…』と思ってしまう。」
「歩いていてつまずくと、『ついに始まったのかもしれない』と怖くなる。」
そんなふうに、自分の身体の変化に神経をとがらせながら過ごす日々。友人たちと楽しく過ごしていても、ふとした瞬間に「私はいつまで元気でいられるんだろう?」という不安がよぎる。「発症するかもしれない」という恐怖が、彼女の人生に影を落としていました。
特にAさんが強く悩んだのは、「結婚できるのか?」ということでした。
「もし私が発症したら、パートナーに迷惑をかけてしまうのではないか?」
「そもそも、自分の将来がわからないのに、結婚なんて考えていいの?」
そんな不安を抱えたまま、大人になりました。
結婚を考え、遺伝子検査を希望するも断られる
大人になり、結婚を考えたAさんは「自分の遺伝子を知りたい」と強く思うようになりました。
そこで彼女は大学病院の遺伝診療部を訪れました。しかし、そこで告げられたのは、「本人が発症していない限り、検査はできません」という言葉でした。
「発症してからじゃ遅いのに…」
検査を受けることすら許されず、Aさんはまたしても「わからない」という不安を抱えたまま過ごすことになりました。
しかし、Aさんの結婚相手は、そんな彼女を深く理解し、支えてくれました。「どんな結果であっても、一緒に乗り越えよう」と励まし、Aさんの心の支えとなりました。
第2子妊娠を機に遺伝子検査を決意
結婚し、第1子を出産し、幸せな日々を送る中でも、Aさんの心の中には常に不安がありました。
母が発症した年齢が近づくにつれ、「もし自分も発症するなら、それまでにやりたいことをすべてやりたい」と思うようになりました。
そんな中で迎えた第2子の妊娠。Aさんは、「今こそ自分の遺伝子を知るべきだ」と決意しました。
必死で検索を続けるうちにミネルバクリニックを発見。臨床遺伝専門医が運営しており、NIPTだけでなく遺伝子検査も提供していることを知りました。
Aさんはすぐにクリニックに連絡し、自分の遺伝病のリスクについて相談しました。そして、NIPTと同時に遺伝子検査を受けることを決断しました。
「正常です。」—涙の結果開示
検査当日、Aさんは固い決意を持って来院しました。院長の仲田洋美医師は、Aさんの意志を何度も確認しました。
検査を終えた後の数日間、Aさんにとっては長く感じられました。
そしてついに、結果が届きました。
Aさんの遺伝子には異常がなかった。
後日、Aさんはご家族と一緒にクリニックを訪れ、結果を聞きました。
「正常です。」
その瞬間、Aさんは両手で顔を覆い、天を仰ぎ、号泣しました。15年間抱えていた不安が、一気に解き放たれた瞬間でした。
NIPTと遺伝子検査—知ることの大切さ
もしAさんが陽性だった場合、彼女は40歳で発症することを覚悟し、それまでの人生を最大限楽しむと決めていました。
しかし、検査の結果、もう何の心配もなくなりました。
「確かに知ることは怖い。でも、知ることで救われることもある。」
Aさんの体験談は、遺伝病の不安を抱えている方々にとって、大きな希望となるでしょう。