目次
ダウン症の中にも軽度から重度までの程度があることを知っていますか?
実際、社会的なコミュニケーションに問題ない軽度ダウン症もいれば、複数の合併症を発症しており周りのサポートなしでは生きていけない重度ダウン症もいます。
そこでこの記事では、軽度ダウン症の新生児について以下の内容を解説します。
- ・軽度ダウン症と合併症
- ・年齢別に見たダウン症の出生率
- ・ダウン症の子どもの成長発達
症状の程度が軽度か重度かで育てていく両親の負担も大きく異なります。
ダウン症の子どもを出産した後の育児のイメージを持つために、ぜひご覧ください。
【新生児】軽度ダウン症とは?
一口にダウン症と言っても軽度から重度まで症状の程度は様々です。
軽度ダウン症なら意思疎通やコミュニケーション能力に問題ありません。一方で重度ダウン症だと心疾患や消化器疾患、精神遅滞など程度の重い合併症を複数発症することもあります。
そこでこの章では、以下の内容について詳しく解説します。
- ・ダウン症における軽度と重度の違いとは?
- ・ダウン症のタイプ
- ・ダウン症の新生児の特徴とその原因
- ・ダウン症の治療
- ・ダウン症の平均寿命
ダウン症についての基礎知識を学びつつ、出産後の育児や生活のイメージをするためにご活用ください。
ダウン症における軽度と重度の違いとは?
ダウン症の程度は知的発達の度合いによって軽度から重度まで分類できます。ただし、明確な基準が決められているわけではないため、あくまで参考程度にしてください。
ダウン症の程度については、以下の基準で分けられます。
- 軽度:IQが50〜70未満で、自立した生活ができる
- 中度:IQが35〜50未満で、日常生活に軽度サポートが必要
- 重度:IQが20〜35未満で、日常生活の多くでサポートが必要
- 最重度:IQが20未満で、日常生活全般にサポートが必要
また、療育手当など知的発達の程度により国からの支援金額も異なるものもあります。ダウン症の程度は出生後、成長する過程で初めて明確になります。程度によって様々なサポート体制が用意されているため、最大限活用しましょう。
ダウン症のタイプ
ダウン症には、以下の3タイプに分類されます。
- ・標準型
- ・転座型
- ・モザイク型
つまり、23対の染色体のうち21番目に異常が生じる原因が3タイプあるということになります。
標準型とは配偶子を形成する時に染色体不分離を起こすタイプのダウン症です。簡単に言うと、染色体を多くもらいすぎた結果、通常21番目の染色体は2本のところ、3本になってしまうというものです。
ダウン症の90%以上が標準型と言われており、両親の染色体に異常はないケースがほとんどです。そのため発症するかどうかは誰にも分かりません。
転座型とは、21番目の染色体が他の染色体にくっついてしまうタイプのダウン症です。ダウン症のおよそ5%が転座型と言われており、どちらかの両親が転座染色体を保有していることが原因と言われています。
モザイク型とは一部の細胞で21番目の染色体異常が見られるタイプのダウン症で、全体の約1〜2%を占めます。すべての細胞で染色体異常が起こっているわけではないため、標準型や転座型に比べて比較的症状が軽度であることがほとんどです。
このように同じダウン症の子どもでも様々な種類があることが分かります。
ダウン症の新生児の特徴とその原因
ダウン症の子どもは顔の骨や筋肉の発達が遅いため、顔つきが似ています。21番目の染色体が多いため、他の染色体の出現を強めたり弱めたりすることが原因と考えられています。
ただし、それぞれの染色体の役割やどの染色体に作用しているかまでは分かっていません。
具体的には、以下の類似点が挙げられます。
- ・斜視
- ・つり目
- ・鼻が低い
- ・耳の位置が低い
- ・舌が大きい
また筋肉の発達が遅いため疲れやすく、大きな舌を支えきれず舌根沈下になりやすいでしょう。そのため、睡眠時無呼吸症候群のリスクや睡眠の質が低下する特徴もあります。
一方で両親から遺伝情報は両親から受け継いでいることに変わりはありません。両親に似た部分も沢山あるため、ご安心ください。
ダウン症の治療
ダウン症は染色体異常により発症する症状です。そのため、染色体に対する治療のない現代医療では根本的な解決はできません。 そしてダウン症や合併症に対しては、対症療法が中心となります。
特に合併症は、早期発見・早期治療で予後が改善します。新生児期から手術適応である合併症もあるため、出生後はしっかり医師と相談して治療の方向性を固めましょう。
また骨や筋肉の発達が遅い部分に関しては、PT(理学療法)、OT(作業療法)、ST(言語聴覚療法によるリハビリが効果的です。年齢と本人のペースにあった必要な運動をすることで、成長発達を促せるでしょう。
特徴様顔貌については美容整形で改善できます。そのため、顔にコンプレックスを感じるなら美容整形も選択肢の一つです。
治療を通してダウン症やその合併症と上手く付き合っていくことが求められます。
ダウン症の平均寿命
心疾患をはじめ、消化器疾患や精神遅滞など合併症の多いダウン症ですが、平均寿命はおよそ60歳と長命です。
ダウン症治療の発展こそが平均寿命が大きく延びた要因と考えられます。
成人するダウン症の方も多くなり、障害に対する差別も徐々に減りつつあります。社会的進出や共存もひと世代前に比べるとしやすくなりました。
※参考資料:公益社団法人日本ダウン症協会/ダウン症のある方たちの生活実態と、ともに生きる親の主観的幸福度に関する調査
ダウン症における3つの合併症
ダウン症の子どもは多くの合併症を抱えて生まれてくるリスクがあります。
これらの合併症の中には、緊急性の高いものから低いものまで多岐に渡ります。
ダウン症の合併症は大きく分けて、以下の4つです。
- ・心疾患
- ・消化器疾患
- ・精神疾患
- ・その他の合併症
合併症について知っておくと、出生後の医療的な介入のイメージがしやすくなります。詳しく知りたい方は以下の記事が参考になるので、ぜひご活用ください。
※ダウン症の赤ちゃんを産む人の特徴とは?診断・合併症や出産後のサポート制度まで解説
ダウン症の子どもの成長発達
ダウン症の子どもの出産を控える両親にとって、我が子がどのように成長していくかイメージができないと不安になります。
そこでこの章では、ダウン症の子どもの成長について、以下の2つに分けて解説します。
ダウン症の発達の特徴について知り、子どものペースを尊重した育児ができるようになりましょう。
身体的な発達
ダウン症の子どもは、小さく扁平な顔に吊り上がった目、鼻や耳の位置が低い特徴があります。出生児から特徴様顔貌の場合もあれば、成長とともに徐々に現れることもあります。
もちろん両親の遺伝情報も受け継いでおり、似ている部分もあるのでご安心ください。
また筋力が弱いこともダウン症の特徴です。首の座りやハイハイの時期が一般的な子どもと比べて遅い可能性があります。自分一人で歩くまでに通常の2倍かかることもあります。
舌が大きいため哺乳が苦手な子が多く、筋力の成長・発達が遅いのも身体的な発達が遅い要因と考えられます。
このようにダウン症の子どもは身体的な発達が通常よりも遅い傾向です。
精神的な発達
ダウン症の精神的発達の具合には、個人差があります。ただし、一般的な子どもと比べると知能指数(IQ)が低くなる傾向にあると言われています。
小児期は注意欠如・多動症により周囲のことが気になり、一つのことに集中できません。重度の知的障害になるほど自閉症の発症リスクが高いと言われており、うつ病の誘因にもなると言われています。
ダウン症の精神発達で重要なのは、それぞれの子どものペースに合わせた関わり方で成長を促すことです。学童期からは一般学級、もしくは特別支援学級が選べます。周りと同じことを求めるのではなく、その子が今できることを伸ばしてあげると良いでしょう。
【年齢別】ダウン症の子どもの出生率
ダウン症の子どもの出生率と両親の年齢には密接な関わりがあります。
そして、今回ダウン症の子どもを妊娠した方は、次回も同じようにダウン症の子どもではないのかと心配しているのではないでしょうか?
そこでこの章では、以下の内容についてお伝えします。
- ・ダウン症の子どもの出生率
- ・次回妊娠の再発率
実際の統計データを元に詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。
ダウン症の子どもの出生率
ダウン症の子どもの出生率については、以下のグラフをご覧ください。
※NIPT Japan/新型出生前診断より画像を引用
20代は1,667〜1,000人に1人、30代では952〜137人に1人、40代は106〜11人に1人の割合でダウン症の子どもを出産します。
また年齢が高くなるにつれてダウン症の出生率も高くなります。卵子や精子も年齢とともに劣化するからです。つまり、ダウン症の妊娠率には年齢が大きく関わっていることがわかります。
次回妊娠の再発率
ダウン症の子どもを妊娠した経験のある方なら、再発率についても心配するのは自然の流れです。
結論、ダウン症の妊娠と次回妊娠の再発率とは関係ありません。前回と今回でダウン症を発症する科学的根拠はないからです。
ただし、年齢によるダウン症の発症率は高くなる傾向にはあります。そのため、高齢妊娠の場合、ダウン症のリスクが高いことも考慮しておかなければいけません。
ダウン症に対する5つの社会的なサポート
ダウン症の育児について経済的な負担が大きく、出産を断念する方もいます。経済的理由で授かった命を断念するのは、両親にとって苦渋の選択です。
そこでこの章では、ダウン症に対する社会的なサポートについて以下の5つを紹介します。
- ・支援団体
- ・各種手帳
- ・各種手当
- ・医療制度
- ・教育支援
近年、社会的サポートが充実しており、ダウン症の子どもやその親が暮らしやすい環境も整いつつあります。
これらサポート体制も踏まえた上で、ダウン症の育児のイメージを持てると良いでしょう。
1. 支援団体
ダウン症の子どもやその家族の生活の質向上を目指している支援団体として公益財団法人日本ダウン症協会があります。
公益財団法人日本ダウン症協会の事業は、以下の5つです。
- ・相談支援事業
- ・情報提供事業
- ・普及啓発事業
- ・調査研究事業
- ・その他事業(出生前診断)
これらの事業を通じてダウン症に関する正しい知識を広めるとともに、子育てに悩む両親の相談支援も行っています。ダウン症の子どもとの生活に不安を抱えている両親のバックアップとなるでしょう。
※参考資料:公益財団法人日本ダウン症協会
2. 各種手帳
ダウン症の方が取得できる手帳は、以下の2つです。
- ・療育手帳
- ・身体障害者手帳
療育手帳とは、知的障害の認定を受けた人もしくはその両親が申請できる手帳です。18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所から交付されます。医療費の助成や公共交通機関の料金免除、障害者求人などの紹介などのサービスを受けられます。
障害者手帳は国の決めた基準以下の身体能力の方に都道府県から交付される手帳です。 原則、一度交付されれば追加申請は不要です。障害者雇用や医療費の助成、保育園に優先的に入園できるなどのサービスを受けられます。
これらの手帳の申請でサポート体制が整っていることで、ダウン症の方でも社会的な生活が営みやすくなりました。
※参考資料
厚生労働省/障害者手帳
厚生労働省/身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)
3. 各種手当
ダウン症の方が受けられる手当は、以下の2つです。
- ・特別児童扶養手当
- ・障害児福祉手当
特別児童扶養手当とは、20歳未満の身体・知的障害を抱える児を育てる保護者へ支給される手当です。
具体的な支給金額については、厚生労働省の表をご覧ください。
扶養親族等の数 | 受給資格者本人 | 受給資格者の配偶者及び扶養義務者 | ||
---|---|---|---|---|
所得額(※1) | 参考:収入額の目安(※2) | 所得額(※1) | 参考:収入額の目安(※2) | |
0 | 4,596,000 | 6,420,000 | 6,287,000 | 8,319,000 |
1 | 4,976,000 | 6,862,000 | 6,536,000 | 8,586,000 |
2 | 5,356,000 | 7,284,000 | 6,749,000 | 8,799,000 |
3 | 5,736,000 | 7,707,000 | 6,962,000 | 9,012,000 |
4 | 6,116,000 | 8,129,000 | 7,175,000 | 9,225,000 |
5 | 6,496,000 | 8,546,000 | 7,338,000 | 9,438,000 |
(単位:円|令和3年8月以降適用)
ダウン症の子育ては、通院や治療など経済的な負担が大きいことが予測されます。これらの経済的な負担を軽減させるためにも、特別児童扶養手当を活用しましょう。
障害児福祉手当は、重度身体・精神障害で発生する経済的な負担を軽減する目的で支給されます。日常的に介護が必要な重度な障害を抱えている在宅の20歳未満の人が支給対象です。
具体的な支給金額については、厚生労働省の表をご覧ください。
扶養親族等の数 | 受給資格者本人 | 受給資格者の配偶者及び扶養義務者 | ||
---|---|---|---|---|
所得額(※1) | 参考:収入額の目安(※2) | 所得額(※1) | 参考:収入額の目安(※2) | |
0 | 3,604,000 | 5,180,000 | 6,287,000 | 8,319,000 |
1 | 3,984,000 | 5,656,000 | 6,536,000 | 8,319,000 |
2 | 4,364,000 | 6,132,000 | 6,749,000 | 8,799,000 |
3 | 4,744,000 | 6,6604,000 | 6,962,000 | 9,0120,000 |
4 | 5,214,000 | 7,027,000 | 7,175,000 | 9,225,000 |
5 | 5,504,000 | 7,449,000 | 7,338,000 | 9,438,000 |
(単位:円|令和3年8月以降適用)
また、平成28年以降から申請にマイナンバーが必要になったため、事前に準備しておきましょう。受給資格や金額についても両親の所得により決められます。詳しくは市区町村にお問い合わせしましょう。
※参考資料
厚生労働省/特別児童扶養手当
厚生労働省/障害児福祉手当
4. 医療制度
ダウン症の児は、小児慢性疾患医療助成制度の対象となります。
小児慢性疾患医療助成制度とは、18歳未満の小児慢性疾患を抱える子どもの健全育成や医療費負担軽減を目的に作られた制度のことです。
ダウン症の子どもであれば、以下の状態があれば該当します。
これらの合併症があり、治療による経済的な負担が大きい場合は速やかに申請手続きをしましょう。
※参考資料:小児慢性特定疾患情報センター
5. 教育支援
幼稚園は通常学級にて通園します。通園先もダウン症など発達障害を合併した児を受け入れた経験のあるところを選ぶ方が良いでしょう。
小学校から中学校は通常学級に加えて、特別支援学級や特別支援学校で個人のペースに合わせた教育環境が整えられています。
また、令和2年には文部科学省が障害により病気療養中の子供へメディアを利用した事業を活用することを発表しました。そのため、それぞれの子どもに合わせた教育環境の整備が一層しやすくなったと言えます。
※参考資料
文部科学省/学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行について(通知)(2文科初第259号)
文部科学省/日本の特別支援教育の状況について
まとめ: 正しい知識を身につけダウン症と向き合うことが大切
一口にダウン症と言っても症状の程度は軽度から重度まで様々です。現在、ダウン症の程度を区分けする明確な定義はありません。しかし、知的発達の程度により国からの支援金が異なる背景もあります。
ダウン症は様々な合併症を持って生まれてきます。通常の育児に加えて、手術や通院が必要な場合もあるため、両親への負担が大きくなることも予測されます。出産後の生活もイメージがつきにくいと悩むのも問題ありません。
そのため、この記事で解説した内容を参考に、ダウン症の出産・育児に関して正しい知識を持ち、具体的なイメージを持てるようになりましょう。