この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)の遺伝子検査は、補体の遺伝子(CFH・CFI・CD46・C3・CFBなど)とADAMTS13を含む22遺伝子を一度に調べ、aHUSや先天性TTPの原因を確かめる検査です。溶血性貧血・血小板の減少・腎臓の障害がそろう「血栓性微小血管症(TMA)」は、原因によって治療がまったく違います。原因の遺伝子がわかると、補体阻害薬をいつまで続けるか、腎移植をどう計画するか、ご家族のだれが腎臓を提供できるかを考える手がかりになります。このページでは、aHUS・先天性TTPの原因と遺伝のしかた、この検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)や先天性TTP(アップショー・シュルマン症候群)の原因になる遺伝子の変化を、補体の遺伝子・ADAMTS13・DGKE・MMACHCなど22遺伝子でまとめて調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
aHUS・TTPと診断された方、再発をくり返す方、腎移植を予定している方、妊娠・出産のあとに発症した方、ご家族にaHUSの方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療で受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、治療の続け方・腎移植・ご家族の検査を考える材料になります。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
🧬 Q. このパネルにない遺伝子(C5など)も調べられますか?
はい。C5などは39遺伝子のTMAパネルに入っています。また、このパネルに入っていない遺伝子を追加して調べることもできます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。
1. 非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)・先天性TTPとは
aHUSと先天性TTPは、どちらも血栓性微小血管症(TMA)の仲間ですが、原因が違うため治療も違います。aHUSは「補体」という免疫のしくみが暴走して起こり、先天性TTPは生まれつきADAMTS13という酵素が足りないために起こります。この2つを見分けることが、治療を選ぶ最初の一歩になります。
TMA(血栓性微小血管症)とは:3つの所見がそろう病気のグループ
TMAは、体の細い血管の中に小さな血栓ができ、溶血性貧血(赤血球が壊れる)・血小板の減少・臓器の障害(とくに腎臓)が起こる病気のグループの名前です。日本人のaHUSを調べた研究でも、aHUSは血小板の減少・溶血性貧血・急性の腎障害を特徴とする全身の病気とされています[2]。TMAには、aHUSのほか、TTP、O157などの腸管出血性大腸菌による溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)、薬・感染・自己免疫の病気・移植・妊娠などに伴うものがあります。TMA全体の原因と、それを広く調べる検査は、血栓性微小血管症(TMA)遺伝子パネル(39遺伝子)のページで解説しています。
aHUSとは:補体の暴走で腎臓の細い血管が傷つく病気
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、補体の「第二経路」と呼ばれる流れが働きすぎることで起こるTMAです[2]。「非典型」とは、O157などの細菌の毒素が原因の典型的な溶血性尿毒症症候群とは違う、という意味です。
何歳ごろ発症するか(好発年齢):日本の118人(103家系)を調べた研究では、初めて発症した年齢の中央値は6歳で、生後3か月から84歳まで幅がありました。約65%が18歳未満での発症でした[2]。子どもの病気と思われがちですが、大人になってから発症する方もいます。
先天性TTP(アップショー・シュルマン症候群)とは:ADAMTS13が生まれつき足りない病気
ADAMTS13は、血を固める働きをもつフォン・ヴィレブランド因子という大きなたんぱく質を、ちょうどよい長さに切る酵素です。先天性TTP(アップショー・シュルマン症候群)は、ADAMTS13遺伝子の両方のコピーに変化があり、この酵素がほとんど働かないために起こる、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です[6]。国際的な登録研究(2017年までに123人)では、初めて症状が出た時期は生まれてすぐから70歳までと、とても幅がありました[6]。
妊娠をきっかけに見つかることもあります。フランスの研究では、妊娠中に発症したTTP(ADAMTS13が強く低下していた42人)のうち10人(24%)が先天性TTPで、大人になってから発症するTTP全体での割合(5%未満)よりずっと高い結果でした[5]。ADAMTS13の名前の由来になった酵素の仲間については、ADAMTSファミリーで解説しています。
O157などの溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)・後天性TTPとの違い
「溶血性尿毒症症候群」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、O157などの腸管出血性大腸菌がつくる毒素によるもの(STEC-HUS)です。こちらは感染が原因で、遺伝子の病気ではありません。またTTPの多くは、自分の体がADAMTS13に対する抗体をつくってしまう後天性(免疫性)のTTPです。
難病情報センターは、aHUSが疑われるときは、まずTTPや志賀毒素産生性大腸菌によるHUSとの区別を行うことが重要としています(2026年10月時点で確認)。その区別には、ADAMTS13の活性を測る血液検査や便の検査が使われます。遺伝子検査は、これらの検査に代わるものではなく、区別をつけたあとで「なぜ起きたか」を確かめる検査です。
🩸 TMAの主なタイプと、遺伝子検査の役割
※aHUSの原因は文献[1][2]、先天性TTPは文献[6]、cblC型は文献[8]による。区別の進め方は難病情報センターの情報(2026年10月時点)による。
2. aHUSの原因:補体の遺伝子の変化と「きっかけ」
aHUSの多くは、補体の働きを調節する遺伝子の変化に、感染や妊娠などの「きっかけ」が重なって発症します。遺伝子の変化があるだけで必ず発症するわけではない、という点が、この病気を理解するうえでいちばん大切なところです。
補体とは:ブレーキ役とアクセル役のバランス
補体は、体に入った細菌などを攻撃する免疫のしくみの一つです。とても強い攻撃力をもつため、ふだんは自分の細胞を傷つけないように、何重ものブレーキがかかっています。
- ●ブレーキ役:H因子(CFH)・I因子(CFI)・細胞の表面にあるMCP(CD46)など。働きが弱くなると、補体が止まらなくなります。
- ●アクセル役:C3・B因子(CFB)など。働きが強くなる変化があると、補体が進みすぎます。
国際的な専門家会議(KDIGO)は、aHUSで最低限調べるべき遺伝子として、CFH・CD46・CFI・C3・CFB・THBD・CFHR1・CFHR5・DGKEを挙げています[1]。この検査の22遺伝子には、これらがすべて含まれています。
遺伝子の変化があっても、全員が発症するわけではない
原因の変化をもっていても発症しない人がいることを、不完全浸透といいます。KDIGOの報告では、aHUSの急な発症が起こる割合は年齢とともに上がり、70歳までで最大64%とされています[1]。また、患者さんの3〜5%は、病的な変化を2つ以上もっていました[1]。
発症のきっかけとしては、自己免疫の病気、移植、妊娠、感染、薬、代謝の病気が挙げられています[1]。妊娠に関連して起きた溶血性尿毒症症候群の87人を調べた研究では、76%が出産後に発症し、56%に補体の遺伝子の変化が見つかりました(主にCFHが30%、CFIが9%)[4]。「妊娠・出産のせいで起きた」と思われていた場合でも、その下に遺伝子の変化が隠れていることがあります。
H因子に対する抗体と、CFHR1・CFHR3の欠失
aHUSには、遺伝子の変化ではなく、H因子に対する抗体(自己抗体)ができて起こるタイプもあります。147人のaHUSを調べた研究では、子ども16人(11%)でH因子に対する抗体が見つかり、そのうち14人はCFHR1とCFHR3という2つの遺伝子がまるごと欠けていました(残る2人もこれらのたんぱく質がとても少ない状態でした)[3]。抗体ができやすい体質(遺伝)と、抗体(後から起こること)が組み合わさったタイプといえます。
CFH・CFHR1〜CFHR5は、よく似た配列が並んでいる領域にあり、その間で遺伝子が欠けたり、2つの遺伝子がつながった「融合遺伝子」ができたりします。こうした変化は、非対立遺伝子相同組換え(NAHR)と呼ばれるしくみで起こります。KDIGOは、aHUSの遺伝子解析には、この領域のコピー数の変化(CNV)や融合遺伝子を見つけられる方法を含めるべきとしています[1]。この検査での調べ方と限界は、第5章でご説明します。
日本人のaHUSで多い遺伝子の変化:C3 p.I1157T
日本人のaHUSでは、欧米と違ってC3遺伝子の変化がいちばん多いことがわかっています。日本の研究で遺伝子を調べた104人のうち、48人(46%)に変化が見つかりました。内訳はC3が31%、CFHが10%、MCP(CD46)が5%、DGKEが1%で、とくにC3のp.I1157Tという変化が23%を占めていました(16家系・24人)[2]。H因子に対する抗体は20人(19%)で見つかりました[2]。
同じ研究では、C3 p.I1157Tをもつ方は再発をくり返しても、急性期・長期とも経過がよい傾向がありました。一方、CFHの変化をもつ方では、退院時に腎臓の働きが失われていた割合(38%)が高い結果でした[2]。どの遺伝子のどの変化かによって、見通しが違うことがわかります。
💡 用語解説:補体阻害薬
補体の流れの後半にあるC5というたんぱく質に結びついて、補体の攻撃を止める抗体の薬です。日本では2013年に、エクリズマブがaHUSに使えるようになりました(小児慢性特定疾病情報センターの情報、2026年10月時点で確認)。とてもよく効く一方で、病気そのものを治す薬ではないため、「いつまで続けるか」が大きな問題になります。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
aHUSや先天性TTPと診断された方、または疑われている方が、原因を確かめるための検査です。症状があって原因がはっきりしないまま、検査や治療をくり返している方にとっては、遠回りを終わらせる手がかりになります。
- ●aHUSと診断された方、TTP・O157によるHUSと区別がつかないと言われた方
- ●TMAの再発をくり返している方
- ●補体阻害薬をやめられるか考えている方(KDIGOは、やめることを考える方には遺伝子検査を勧めています[1])
- ●腎移植を予定している方、ご家族からの腎臓の提供を考えている方
- ●妊娠中・出産後にTMAを起こした方(KDIGOは、妊娠に関連したaHUSでは遺伝子検査が必要としています[1])
- ●ADAMTS13の活性がとても低く、抗体が見つからない方(先天性TTPの確認)
- ●ご家族にaHUS・TTPの方がいて、ご自身やお子さんのことを知りたい方
日本のaHUSの研究では、C3(47%)やMCP(40%)の変化をもつ方で、ご家族にもaHUSの方がいることが多くみられました[2]。ただし、ご家族に同じ病気の方がいなくても、遺伝子の変化が見つかることはあります。見た目や家族歴だけでは判断できない、というのが遺伝子検査の基本です。
TMAフォーカスパネル(22遺伝子)とTMAパネル(39遺伝子)の選び方
aHUS・先天性TTPにしぼって調べたいなら、このページのフォーカスパネル(22遺伝子)が向いています。補体の病気をより広く、まれな原因まで含めて調べたいときは、TMAパネル(39遺伝子)を選びます。39遺伝子のパネルは、この22遺伝子に17遺伝子を加えたものです。
⚖️ 22遺伝子と39遺伝子の違い
※遺伝子の一覧は、それぞれの検査の内容(2026年10月21日に照合)による。
C5を調べたい理由:C5は、補体阻害薬が結びつく相手のたんぱく質です。日本で行われた研究では、補体阻害薬(エクリズマブ)を使った発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の患者さん345人のうち11人で効きが悪く、11人全員がC5の同じ変化(p.Arg885His)を1つもっていました。この変化は健康な日本人の3.5%にみられました[9]。これはaHUSではなくPNHの研究ですが、C5は日本人の治療を考えるうえで知っておきたい遺伝子です。C5はこの22遺伝子には入っていないため、調べたい場合は39遺伝子のTMAパネルを選ぶか、このパネルに入っていないC5を追加して調べることもできます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください(カスタマイズ遺伝子パネル検査)。
この検査より別の検査が向いている場合
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・血液検査・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
4. 調べる22遺伝子と、それぞれで起こる病気
この検査では、補体のブレーキ役・アクセル役の遺伝子、ADAMTS13、補体以外でTMAを起こす遺伝子の、あわせて22遺伝子を調べます。ADAMTS13, C3, C9, CD46, CD55, CD59, CFB, CFD, CFH, CFHR1, CFHR2, CFHR3, CFHR4, CFHR5, CFI, DGKE, F12, INF2, MMACHC, PLG, ST3GAL1, THBD(22遺伝子)です。
🧬 TMAフォーカスパネルで調べる22遺伝子
※遺伝子の一覧は当院の検査内容による。関係する病気は、遺伝子・疾患のデータベース(KEGG)と文献[1][3][6][7][10]による。遺伝のしかたを書いていない病気は、結果のご説明のときに個別にお伝えします。
ビタミンB12の代謝の病気(cblC型など)について、欧州の診療ガイドラインは、aHUSのような症状がある方では血液のホモシステインを測ることを勧めています。治療としては、疑った時点ですぐにヒドロキソコバラミン(ビタミンB12)の注射を始めることが勧められています[8]。補体の病気とは治療の方向がまったく違うため、MMACHCが含まれていることには大きな意味があります。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、22遺伝子の中の小さな変化と、遺伝子まるごとなどの比較的大きな欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
- ●遺伝子の小さな変化:たんぱく質の設計図になる部分(エクソン)と、エクソンに接するイントロンの10塩基程度(スプライス部位)を読みます。対象の99%以上の部分を、それぞれ20回以上読んで確かめます。
- ●欠失・重複:遺伝子がまるごと欠けている・増えている変化(血液・頬の粘膜の検体)と、2つ以上続くエクソンの欠失・重複(血液の検体のみ)を調べます。見つかった欠失・重複は、qPCR法やMLPA法という別の原理の方法でもう一度確かめてから報告します。
わからないこと
- ●よく似た配列の領域:CFH・CFHR1〜CFHR5のように、よく似た配列(偽遺伝子や似た遺伝子)が並ぶ場所では、変化を正しく見つける妨げになることがあります。融合遺伝子のような構造の変化は、見つけられないことがあります。
- ●1つのエクソンだけの欠失・重複:見つかることもありますが、ふだんは検出の対象ではありません。
- ●抗体による病気:後天性TTP(ADAMTS13に対する抗体)や、H因子に対する抗体によるaHUSは、遺伝子検査ではわかりません。抗体の検査は血液で行います。
- ●そのほかの変化:染色体の転座や逆位、繰り返し配列が伸びる変化、遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)やイントロンの奥の変化は調べません。体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)を見つけることは目的としておらず、腫瘍の組織は検体にできません。
- ●このパネルにない遺伝子:C5などは調べません(第3章)。追加して調べることはできます。
陰性でもaHUSは否定できない
日本のaHUSの研究でも、遺伝子の変化が見つかったのは46%で、残りの方では見つかっていません(H因子に対する抗体のタイプを含む)[2]。「遺伝子の変化が見つからなかった=aHUSではない」ではありません。KDIGOの考え方でも、遺伝子の変化が見つからない方は、移植後の再発リスクが「低い」ではなく「中間」に分けられています[1]。
意義がまだわからない変化(VUS)
病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。これをVUS(臨床的意義不明のバリアント)といいます。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
6. aHUSは遺伝する? ご家族・お子さんへの確率
aHUSの多くは、ご家族に同じ病気の方がいない「散発例」です。家族内で起こる場合は、顕性(優性)のことも、潜性(劣性)のこともあります。米国国立医学図書館の解説では、家族内での発症が報告されているのは全体の20%未満とされています。どちらの遺伝のしかたかは、原因の遺伝子と変化によって決まります。
顕性(優性)遺伝:受け継ぐ確率と、発症する確率は別
常染色体顕性(優性)遺伝の変化(CFH・CD46・CFI・C3・CFB・THBDの多く)では、お子さん1人ごとに2分の1の確率で、その変化を受け継ぎます。ただし、受け継いでも全員が発症するわけではありません。前に述べたとおり、発症の割合は70歳までで最大64%とされています[1]。変化をもつ方は、感染や妊娠などのきっかけに気をつけて過ごすことに意味があります。
⚠️ 「親が発症していないから、子どもも大丈夫」とは言えません
aHUSは、同じ変化をもっていても、一生発症しない方もいれば、子どものうちに発症する方もいます。親御さんが元気でも、お子さんが発症して初めて、家族の中に変化があったとわかることがあります。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。だからこそ、症状の有無だけで判断せず、知ったうえで備えることに意味があります。
潜性(劣性)遺伝:先天性TTP・DGKE・MMACHCなどと保因者検査
先天性TTP(ADAMTS13)[6]、DGKEによるaHUS[7]、cblC型(MMACHC)などは、常染色体潜性(劣性)遺伝です。父母から1つずつ変化を受け継いだ場合に発症し、両方のコピーに別々の変化がある状態を複合ヘテロ接合といいます。ご両親がともに保因者(変化を1つもつが発症しない人)の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。
ご兄弟姉妹が結婚・妊娠を考えるときは、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べることで、お子さんへの確率がはっきりします。当院の拡大版保因者スクリーニングで調べられるかどうかは、遺伝子と版によって違います(2026年10月21日、各ページの遺伝子一覧で確認)。
家族に病気の方がいることで、結婚や妊娠に不安を感じる方もいます。遺伝の確率は、病気と家族ごとに違い、検査をすれば「わかること」があります。ご自身が変化をもっているか、パートナーが保因者か、お子さんへの確率はどれくらいかを、知ったうえで選ぶことができます。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、治療の続け方、腎移植の計画、ご家族の検査、次のお子さんのことまで、具体的に考えられるようになります。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
ご本人:治療の続け方と、腎移植の計画
補体阻害薬をいつまで続けるか:KDIGOは、補体阻害薬をやめることを考える方には遺伝子検査を勧めています。MCP(CD46)の変化をもつ方で、早く良くなり腎臓の働きが戻った場合は、早めに中止を考えられるとしています。一方、腎移植を受けた方、とくに以前に移植した腎臓を失ったことがある方では、中止は勧められていません[1]。日本の研究では、補体阻害薬を続けていた27人は再発・腎不全・死亡がありませんでしたが、DGKEの変化をもつ1人だけは例外でした[2]。DGKEによるaHUSは1歳未満で発症し、尿たんぱく(ときにネフローゼの程度)を伴い、年齢とともに慢性腎臓病に進むと報告されています[7]。原因によって、同じ薬でも意味が違うことがわかります。
腎移植の再発の見通し:KDIGOは、移植後のaHUSの再発リスクを遺伝子の結果で分けています[1]。
🫘 腎移植後にaHUSが再発するリスク(KDIGO)
※文献[1](KDIGO Controversies Conference, 2017)の表による。実際の治療方針は、移植を行う専門の医療機関で決めます。
先天性TTP・cblC型の場合:先天性TTPでは、足りないADAMTS13を補う治療が行われます。日本では2024年3月、遺伝子組換えADAMTS13製剤(アジンマ)が先天性TTP(12歳以上)に承認されました(製薬会社の発表、2026年10月時点で確認)。cblC型では、ビタミンB12(ヒドロキソコバラミン)の注射が治療の柱になります[8]。当院は治療を行っていないため、治療は専門の医療機関で受けていただきます。
症状のないご家族:腎臓の提供と、きっかけへの備え
ご家族から腎臓の提供を受けて移植を考えるとき、遺伝子の結果は欠かせません。KDIGOは、ご家族からの生体腎移植では遺伝子解析が不可欠とし、aHUSでは、受ける方の原因がはっきりわかっていて、提供する方にその原因がない場合にだけ提供を考えるべきとしています[1]。提供すること自体が提供者の発症のきっかけになりうるという理論上のリスクも、提供者と話し合うべきとされています[1]。
ご本人の原因がわかっていれば、ご両親・きょうだい・お子さんは、同じ変化をもっているかをピンポイントで調べられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のうえで行います。変化をもっているとわかった方は、感染や妊娠などのきっかけがあったときに早く気づけるよう、主治医と情報を共有しておくことができます。
子どもを持つとき:知ってから選べること
妊娠はaHUSのきっかけの一つで、妊娠に関連したaHUSの多くは出産後に起こっています[4]。先天性TTPでも、予防的な血漿の治療を受けずに妊娠した場合に再発や流産が多く、予防的な治療が母子の両方に役立ったと報告されています[5]。ご自身の原因を妊娠の前に知っておくことは、妊娠中・出産後の管理を計画するための大切な材料になります。
潜性遺伝の病気(先天性TTP・DGKE・cblC型など)で、ご家族の原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんが同じ変化をもっているかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。羊水検査・絨毛検査は院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。顕性遺伝の補体の変化は、受け継いでも発症しない方が多いため、出生前に調べるかどうかは、とくにていねいに考える必要があります。調べずにそのまま出産することも、もちろん選べる選択肢です。
当院でのその後
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、ご本人の治療のこと、ご家族の検査、妊娠の計画のどれから考えるかを整理していきます。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたをご覧ください。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
8. 日本の制度:指定難病・小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
非典型溶血性尿毒症症候群は指定難病109、血栓性血小板減少性紫斑病は指定難病64です。小児慢性特定疾病情報センターの対象疾病にも、非典型溶血性尿毒症症候群(慢性腎疾患)と血栓性血小板減少性紫斑病(血液疾患)が掲載されています(いずれも2026年10月時点で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。なお、当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の粘膜の検体なら、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けたあと、ご自宅で採取して当院にお送りいただけます。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。ご来院の場合は診療時間・アクセスをご確認ください。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【名前がつくと、続け方が決まる】
aHUSは、同じ「補体阻害薬」という治療でも、原因の遺伝子によって、いつまで続けるか、腎移植をどう計画するか、ご家族から腎臓をいただけるかの考え方が変わる病気です。私は、遺伝子検査の価値は「病名を確かめること」だけでなく、「その先の選択を、根拠をもって決められるようにすること」にあると考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。aHUSのように、変化をもっていても発症しない人が多い病気では、とくに「誰のせいでもない」ことを知っていただきたいと思います。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。治療は専門の医療機関で、遺伝のこと・ご家族のこと・妊娠のことは当院で、と役割を分けながら、知ったうえでの選択を支えたいと思っています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)とはどんな病気ですか?
補体という免疫のしくみが働きすぎて、体の細い血管に小さな血栓ができ、溶血性貧血・血小板の減少・腎臓の障害が起こる病気です。O157などの細菌の毒素が原因の溶血性尿毒症症候群とは違う、という意味で「非典型」と呼ばれます。日本の研究では、初めて発症した年齢の中央値は6歳で、生後3か月から84歳まで幅がありました。
Q2. aHUSは治りますか? 予後や死亡率は?
補体阻害薬で病気の勢いを抑えられるようになりましたが、病気そのものを治す薬ではなく、再発することもあります。日本の118人の研究では、全体の死亡率は5.4%、腎臓の働きが失われた割合は15%でした。どの遺伝子のどの変化かによって見通しが違い、補体阻害薬をやめられるかの判断にも遺伝子検査が勧められています。
Q3. aHUSは遺伝しますか? 子どもに伝わる確率は?
多くはご家族に同じ病気の方がいない散発例ですが、家族内で起こることもあります。顕性遺伝の変化なら、お子さん1人ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎますが、受け継いでも全員が発症するわけではなく、発症の割合は70歳までで最大64%とされています。潜性遺伝の病気では、ご両親がともに保因者のときに4分の1の確率で発症します。
Q4. aHUSは指定難病ですか?
はい。非典型溶血性尿毒症症候群は指定難病109、血栓性血小板減少性紫斑病は指定難病64です。小児慢性特定疾病の対象疾病にも掲載されています(2026年10月時点)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たす必要があります。
Q5. TTPとaHUSの違いは何ですか?
TTPはADAMTS13という酵素が働かないことで起こり、aHUSは補体が働きすぎることで起こります。TTPの多くはADAMTS13に対する抗体による後天性で、生まれつきADAMTS13が足りないものを先天性TTP(アップショー・シュルマン症候群)といいます。まずADAMTS13の活性などの血液検査で区別し、遺伝子検査では先天性TTPやaHUSの原因の遺伝子を確かめます。
Q6. 腎移植の前に遺伝子検査は必要ですか?
国際的な専門家会議(KDIGO)は、移植後の再発リスクを遺伝子の結果で分けており、病的な変化がある場合は高リスク、MCP(CD46)の変化だけの場合は低リスクとしています。また、ご家族からの生体腎移植では遺伝子解析が不可欠で、受ける方の原因がわかり、提供する方にその原因がない場合にだけ提供を考えるべきとしています。
Q7. このパネルにない遺伝子(C5など)も調べられますか?
はい。C5などは39遺伝子のTMAパネルに入っています。また、このパネルに入っていない遺伝子を追加して調べることもできます。どの遺伝子を加えるかは、遺伝カウンセリングのときにご相談ください。
Q8. 費用はいくらですか? 保険は使えますか?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。結果までは2〜3週間です。
🧬 一度の検査で、治療とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。aHUSや先天性TTPの原因がわかれば、補体阻害薬の続け方や腎移植の計画だけでなく、ご家族が腎臓を提供できるか、次の妊娠にどう備えるかを考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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