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補体とは?3つの活性化経路(古典経路・レクチン経路・第二経路)と補体カスケード、C3・C4・C3dの働き、補体が関わる遺伝性の病気まで臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

補体(ほたい、complement)とは、血液中をふだんは働かない形で流れていて、病原体などに出会うと次々に活性化し、抗体や食細胞の働きを助けるタンパク質の一群です。活性化の入り口には古典経路・レクチン経路・第二経路の3つがあり、どれも中心の成分であるC3に合流します。補体は感染から体を守る一方、うまく抑えられないと自分の組織を傷つけることもあり、遺伝子の変化が関わる病気も知られています。この記事では、3つの経路の違い、補体カスケードで起こること、C3・C4・CH50の検査値、C3d・免疫複合体、そして補体と遺伝の病気のつながりを解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 補体とは何ですか?

補体とは、血液中に30種類以上あるタンパク質の一群で、病原体を見つけると連鎖的に活性化して体を守る仕組みです。主に肝臓で作られ、ふだんは働かない形で血液中を流れています。

🧬 Q. 補体の3つの活性化経路の違いは?

入り口が違います。古典経路は抗体、レクチン経路は病原体の表面の糖鎖、第二経路はC3が自然に少しずつ活性化することがきっかけです。3つとも最後はC3を切断する酵素(C3転換酵素)を作るところで合流します。

🧬 Q. 補体が活性化すると何が起こりますか?

主に3つです。C3bが病原体に付いて食細胞に食べられやすくする(オプソニン化)、C3a・C5aが炎症を起こして白血球を呼び寄せる、C5b〜C9が膜に穴をあける(膜侵襲複合体)です。

🧬 Q. 補体と遺伝の病気には関係がありますか?

あります。補体を抑える仕組みの遺伝子の変化で起こる遺伝性血管性浮腫(SERPING1)や非典型溶血性尿毒症症候群(CFHなど)、補体成分が生まれつき足りないことによる感染症や自己免疫疾患などが知られています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🧬 補体・C3・補体経路・C3d・免疫複合体
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤補体とは → 抗体や食細胞を助ける血液中のタンパク質の一群(30種類以上)
  • ➤3つの経路 → 古典経路(抗体)・レクチン経路(糖鎖)・第二経路(自然な活性化)がC3で合流
  • ➤補体の働き → オプソニン化・炎症(C3a・C5a)・膜侵襲複合体(C5b-9)
  • ➤検査値 → C3・C4・CH50(補体価)が低い・高いときに考えること
  • ➤遺伝とのつながり → 遺伝性血管性浮腫・aHUS・補体欠損症・加齢黄斑変性・CD59欠損症

補体の3つの活性化経路(古典経路・レクチン経路・第二経路)がC3に合流し、オプソニン化・炎症・膜侵襲複合体につながることを示す図

1. 補体とは?意味・読み方・抗体との違い

補体とは、血液中に30種類以上ある血漿タンパク質の一群で、病原体などをきっかけに次々と活性化し、病原体の排除を助ける免疫の仕組みです。教科書では、補体は30種類を超える血漿タンパク質からなり、ふだんは働かない前駆体の形で血液中を循環していると説明されています[1]。補体のタンパク質は主に肝臓で作られます[2]。

読み方は「ほたい」、英語では complement(コンプリメント)といいます。complement は「補うもの」という意味の英語で、補体の成分がまとまって働く仕組み全体は complement system(補体系)と呼ばれます。成分にはC1〜C9の番号が付いたもののほか、B因子・D因子のように「因子」と呼ばれるもの、働きを抑える制御因子があります。

補体の大きな特徴は、1つの成分が活性化すると次の成分を切断して活性化し、その成分がさらに次を活性化するという連鎖反応(カスケード)で働くことです[1]。少しのきっかけが大きな反応に広がるため、病原体にすばやく対応できる一方、制御が外れると自分の細胞まで傷つけるおそれがあります。この「強い反応」と「強いブレーキ」の両方が備わっていることが、補体を理解するうえでの鍵になります。

補体と抗体の違いは?

抗体は特定の相手だけを見分けるタンパク質で、補体は抗体などが付いた相手を攻撃・処理するタンパク質の一群です。抗体はB細胞が作る免疫グロブリンで、相手ごとに形が違います。補体は相手を選んで作られるものではなく、最初から血液中に用意されています。古典経路では、病原体に結合した抗体に補体の最初の成分(C1q)が結合して、補体の反応が始まります[2]。つまり、抗体が「目印」を付け、補体がその目印をもとに攻撃を進める、という協力関係にあります。

📘 補体と抗体の違い

項目 補体 抗体
正体 30種類以上の血漿タンパク質の一群 免疫グロブリン(IgG・IgMなど)
作られる場所 主に肝臓 B細胞(形質細胞)
相手の見分け方 抗体・糖鎖・細胞の表面の性質などをきっかけに反応する 相手ごとに形が違い、特定の相手だけに結合する
免疫の分類 自然免疫の一部(獲得免疫も助ける) 獲得免疫
主な働き オプソニン化・炎症・膜侵襲複合体による溶菌 相手への結合・中和・補体の活性化(古典経路)

※補体の性質はOpenStax Microbiology[1]、Merleらの総説[2][3]による。

補体は生まれつき備わっている自然免疫の一部ですが、B細胞が抗体を作る反応(獲得免疫)も後押しします[3]。抗体の中でも補体との関わりが深いIgGについては、IgG(免疫グロブリンG)で解説しています。

2. 補体の3つの活性化経路:古典経路・レクチン経路・第二経路

補体の活性化経路は、古典経路・レクチン経路・第二経路(副経路・代替経路)の3つで、入り口は違っても、どれもC3を切断する酵素「C3転換酵素」を作るところで合流します。教科書でも、補体のカスケードは3つの異なる仕組みのどれかで始まると説明されています[1]。まず全体像を図で示します。

補体の3つの活性化経路と補体カスケード(模式図) 古典経路 抗体(IgM・IgG)にC1qが結合 → C4・C2を切断 レクチン経路 MBL・フィコリンが糖鎖に結合 → MASPがC4・C2を切断 第二経路 C3が自然に少しずつ活性化 → B因子・D因子が働く C3転換酵素 C4b2a C3転換酵素 C3bBb C3 → C3a + C3b(増幅ループ) C5転換酵素:C5 → C5a + C5b オプソニン化 C3bが付き食細胞が食べやすく 炎症・白血球を呼ぶ C3a・C5a(アナフィラトキシン) 膜侵襲複合体(MAC) C5b〜C9が膜に穴をあける

※模式図。経路と成分の名前はMerleらの総説[2]とOpenStax Microbiology[1]による。実際には制御因子が各段階で反応を抑えています。

古典経路とは?抗体がきっかけで始まる経路

古典経路は、病原体などに結合した抗体(IgM・IgG)に、補体の最初の成分C1qが結合して始まる経路です。C1qが働くには、表面に結合したIgMが1つ、またはIgGが複数近くに並んでいる必要があります[2]。C1qとともにC1複合体を作るC1r・C1sが活性化し、C4とC2を切断します。C2の大きいほうの断片C2aがC4bに結合したまま残り、古典経路のC3転換酵素「C4b2a」になります[2]。

教科書によって、C2の断片の名前(C2aとC2b)が逆に書かれていることがあります。この記事では、Merleらの総説にならい、C4bに結合して酵素になる大きい断片をC2aと呼んでいます[2]。報告書や教科書を読み比べるときは、名前よりも「C4bに結合して酵素になるほうの断片」と覚えておくと混乱しません。

レクチン経路とは?糖鎖を見分けて始まる経路

レクチン経路は、病原体の表面にある糖鎖を、マンノース結合レクチン(MBL)などが見分けて始まる経路です。この経路で病原体を見分ける分子は、MBL、コレクチン、フィコリン(H・L・M)で、MBLはMASP-1やMASP-2というセリンプロテアーゼ(タンパク質を切る酵素)と結合して血液中を流れています[2]。教科書でも、レクチン経路はMBLの結合によって始まると説明されています[1]。

MASPはC4とC2を切断するので、レクチン経路のC3転換酵素は古典経路と同じC4b2aになります。抗体が要らないため、まだ抗体が作られていない感染の初期にも働けるのが特徴です。糖鎖を見分けるタンパク質の仲間についてはC型レクチンで解説しています。

第二経路(副経路・代替経路)とは?C3が自然に活性化する経路

第二経路は、C3が血液中で自然に少しずつ活性化すること(tick-over)をきっかけに始まる経路で、抗体も糖鎖の認識も必要としません。C3の分子内にあるチオエステル結合が自然に加水分解されると、C3(H2O)が生じます[2]。これにB因子が結合し、D因子によって切断されると、液相のC3転換酵素「C3(H2O)Bb」が形成されます。この酵素によってC3が切断され、生じたC3bにB因子が結合してD因子による切断を受けると、第二経路のC3転換酵素「C3bBb」が形成されます[2]。

C3bBbはこわれやすく、半減期は約90秒です。プロパージンという成分が結合すると、5〜10倍安定になります[2]。教科書でも、第二経路はC3の自然な活性化で始まると説明されています[1]。日本語では「副経路」「代替経路」「別経路」とも呼ばれ、英語では alternative pathway といいます。

🧬 補体の3つの活性化経路の比較

項目 古典経路 レクチン経路 第二経路
英語 classical pathway lectin pathway alternative pathway
きっかけ 病原体などに結合した抗体(IgM・IgG) 病原体の表面の糖鎖 C3の自然な加水分解(tick-over)
見分ける分子 C1q(C1r・C1sと複合体) MBL・コレクチン・フィコリン(MASPと結合) 特定の認識分子なし(B因子・D因子・プロパージン)
C3転換酵素 C4b2a C4b2a C3bBb
抗体 典型的には必要(抗体非依存性の活性化もある) 不要 不要

※Merleらの総説[2]による。C2の断片の名前は資料によって異なります。

3. 補体カスケード(補体活性化)で何が起こる?

補体カスケードとは、C3転換酵素ができたあと、C3の切断が増幅され、C5の切断を経て、オプソニン化・炎症・膜侵襲複合体という3つの働きが生まれる一連の反応です。C3が切断されると、C3aとC3bの2つの断片ができます[1]。C3bは病原体の表面に結合し、そこで新しいC3転換酵素の材料になるため、反応がどんどん大きくなります。

増幅ループ:補体カスケードの中心

増幅ループとは、できたC3bが第二経路のC3転換酵素(C3bBb)を新たに作り、さらにC3を切断する、という正のフィードバックのことです。Merleらは、この増幅ループがすべての経路の効果を強める「補体カスケードの中心」だと述べています[2]。古典経路やレクチン経路で始まった反応も、このループで大きく広がります。

C5転換酵素と膜侵襲複合体(MAC)

C3bがC3転換酵素に結合すると、C5を切断する「C5転換酵素」になり、C5がC5aとC5bに分かれます。C5bはC6・C7・C8・C9を順に呼び寄せます[2]。C5b-8が膜に入り込み、そこにC9が重合して孔が形成されます。この孔によって膜の透過性が変化し、イオンや水分の移動、膜機能の障害などを通じて標的細胞が傷害されます[2]。これが膜侵襲複合体(membrane attack complex:MAC)で、「膜攻撃複合体」とも訳されます。

ただし、MACが効くのは主にグラム陰性菌です。グラム陽性菌は厚いペプチドグリカンの層をもつためMACの穴が届きにくく、オプソニン化による処理のほうが大切になると説明されています[1]。このことが、MACを作る成分が生まれつき足りない人で、グラム陰性菌のナイセリア属(髄膜炎菌など)の感染に気をつける必要がある理由につながります(第5章)。

補体の3つの働き:オプソニン化・炎症・溶菌

補体が活性化してできる断片には、それぞれ決まった働きがあります。C3bは病原体を覆って食細胞に食べられやすくし(オプソニン化)、C3aとC5aは強い炎症作用をもつアナフィラトキシンとして働きます。C5aは好中球などの白血球を呼び寄せる最も強い物質の1つでもあります[1]。オプソニン化の詳しい仕組みや「オプソニン効果」「オプソニン作用」という言葉の意味は、オプソニン化のページで解説しています。

🔬 補体の主な断片とその働き

断片・複合体 主な働き
C3b 病原体の表面に結合してオプソニンになる。C3転換酵素・C5転換酵素の材料になる
C3a・C5a アナフィラトキシン(炎症を起こす)。C5aは白血球を強く呼び寄せる
C5b-9(MAC) 細胞の膜に穴をあけて壊す(主にグラム陰性菌に有効)
iC3b・C3d C3bが分解されてできる断片。C3dはB細胞の受容体CR2に結合し、抗体を作る反応を後押しする

※OpenStax Microbiology[1]、Merleらの総説[2]による。

C3dとは?C3bが分解されてできる断片

C3dとは、細胞の表面に付いたC3bが分解されていく最後に残る断片で、B細胞を活性化しやすくする「天然のアジュバント(免疫を強める物質)」として働きます。C3bはI因子によって切断されてiC3bになり、補体受容体CR1があるとI因子がもう一度切断して、C3c(液中に離れる)とC3dg(細胞に付いたまま)ができます。C3dgはさらにタンパク質分解を受けてC3dになることがあります。C3dgとC3dはいずれも補体受容体CR2との相互作用に関わります[2]。

B細胞の表面にあるCR2はC3dを見分けます。Merleらの総説では、C3dが付いた抗原によって、B細胞が活性化するのに必要な刺激の閾値が1,000〜10,000分の1に下がるという研究が紹介されています(実験で示された値で、体の中で常にこの程度の差が出るという意味ではありません)[2]。補体が自然免疫だけでなく、抗体を作る獲得免疫も支えていることを示す代表的な例です[3]。

免疫複合体とは?補体による「片付け」

免疫複合体とは、抗原と抗体が結合してできたかたまりのことで、補体はこれを血液中から片付ける役目も担っています。赤血球の表面にある補体受容体CR1は、溶けた状態の免疫複合体を肝臓や脾臓に運び、そこでマクロファージが処理します[3]。また、C1qは死にかけた細胞(アポトーシスを起こした細胞)の目印を見分け、炎症を起こさずに静かに処理されるのを助けます[3]。

この片付けがうまくいかないと、免疫複合体や死んだ細胞の成分が体に残り、自分の体に対する免疫反応のきっかけになると考えられています。古典経路の最初のほうの成分(C1q・C4・C2)が生まれつき足りない人に全身性エリテマトーデス(SLE)が多いことは、この考え方と結びつけて説明されています(第5章)[10]。

補体を抑える仕組み(制御因子)

補体は強い反応なので、体には自分の細胞を守るための制御因子がそろっています。代表的なものは、第二経路と増幅ループを抑えるH因子、C3bを切断するI因子、細胞の表面にあるMCP(膜補因子タンパク質、CD46)・DAF(崩壊促進因子、CD55)・CD59、そして古典経路を抑えるC1インヒビター(C1-INH)です[2]。DAFとCD59は、GPIアンカーという仕組みで細胞膜につなぎとめられています[2]。

これらの制御因子の遺伝子に変化があると、ブレーキが弱くなり、補体が自分の血管や赤血球、腎臓などを傷つけることがあります。補体の病気の多くは「補体が足りない」病気と「補体を抑えられない」病気の2つに分けて考えると整理しやすくなります。

4. 補体の検査:C3・C4・CH50(補体価)が低い・高いとは?

補体の血液検査は、補体のタンパク質の量や働きを調べる検査で、よく測られるのはC3・C4と、主に古典経路から終末経路までの溶血活性を評価するCH50(血清補体価)です。米国国立医学図書館の解説では、C3とC4は個別の補体成分として最もよく調べられるタンパク質で、CH50(CH100、総補体価とも呼ばれる)は主な補体成分をまとめて調べる検査だとされています。CH50に異常があれば、C1〜C9を個別に測ることもあります[4]。

🩸 補体の検査値が低い・高いときに考えられること

結果 関係することがある主な状態
低い ループス(SLE)、関節リウマチ、肝硬変、ある種の腎臓の病気、遺伝性血管性浮腫、低栄養、くり返す細菌感染
高い 急性・慢性の炎症。白血病や非ホジキンリンパ腫などのある種のがん、潰瘍性大腸炎

※MedlinePlus「Complement Blood Test」[4]による。結果の意味は、検査を受けた医療機関で確かめてください。

低くなる状態に肝硬変が挙げられているのは、補体のタンパク質が主に肝臓で作られること[2]を思い出すと理解しやすい点です。ループスなどの治療中に値が上がってくることは、治療が効いているしるしになることがあるとも説明されています[4]。

数値は、報告書に書かれた基準範囲と比べて読みます。値が1回低いだけで病気が決まるわけではなく、症状やほかの検査とあわせて判断されます。生まれつき特定の補体成分が足りない「補体欠損症」が疑われるときには、CH50などの検査に加えて遺伝子を調べることもあります(第5章)。

5. 遺伝・医療とのつながり:補体が関わる遺伝性の病気

補体の成分や制御因子は、それぞれ別の遺伝子から作られるため、遺伝子の変化によって「補体が足りない」「補体を抑えられない」という生まれつきの病気が起こります。この章では、遺伝医療の立場から、代表的な病気と、遺伝子検査でわかることを整理します。

🧬 補体が関わる主な遺伝性の病気

病気 主な遺伝子 補体で起きていること 遺伝形式
遺伝性血管性浮腫(C1-INH欠損) SERPING1 C1インヒビターが少ない・働かない 常染色体顕性(優性)
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS) CFH・CFI・CD46・C3・CFB・THBDなど 第二経路を抑えられない 多くは孤発例。家族例は顕性・潜性の両方
C3腎症(C3糸球体症) C3・CFHなど 補体が腎臓で過剰に働く 多くは孤発例
古典経路の初期成分の欠損 C1q・C4・C2の遺伝子 免疫複合体などの片付けが弱い→SLEが多い 成分ごとに異なる
終末経路(C5〜C9)などの欠損 C5〜C9・プロパージン・H因子・D因子の遺伝子 C5〜C9欠損ではMAC形成が障害される。プロパージン・D因子欠損では第二経路の活性化が障害され、H因子欠損では補体制御異常やC3消費が起こる。いずれもナイセリア感染のリスクに関係する 成分ごとに異なる
CD59欠損症 CD59 赤血球・神経がMACから守られない 常染色体潜性(劣性)
加齢黄斑変性(多因子) CFHなどの多型(ARMS2・HTRA1領域も) 補体の調節の個人差が発症しやすさに関わる 多因子(はっきりした遺伝形式なし)

※MedlinePlus Genetics[5][6][7][8][9]、Macedoら[10]、Nevoら[11]、米国CDC[12]による。

遺伝性血管性浮腫(SERPING1・C1インヒビター)

遺伝性血管性浮腫は、手足・顔・腸・のどなどが発作的に腫れる病気で、多くはC1インヒビターを作るSERPING1遺伝子の変化で起こります。世界で約5万人に1人と推定され、C1インヒビターが少ないタイプ(I型)と、量はあっても働かないタイプ(II型)があります。C1インヒビターが足りないと、ブラジキニンというペプチドが増えすぎて血管から水分がもれ、腫れが起こります。常染色体顕性(優性)遺伝で、変化した遺伝子が1つあれば発症しえます[5]。

のどの腫れは気道をふさいで命に関わることがあり、腸の腫れは強い腹痛や吐き気を起こします[5]。C1インヒビターの量や機能が正常な遺伝性血管性浮腫もあり、F12など複数の遺伝子との関連が知られていますが、原因遺伝子が特定されない例もあります[5]。補体の血液検査で値が低くなることがある病気の1つにも挙げられています[4]。腫れを直接起こしているのは補体の断片ではなくブラジキニンである点が、この病気を理解するうえで大切です[5]。

非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)と補体の遺伝子

aHUSは、溶血性貧血・血小板減少・腎不全の3つを特徴とする病気で、第二経路を抑える遺伝子の変化が発症しやすさに関わっています。米国での発生は年に約50万人に1人と推定され、少なくとも7つの遺伝子の変化が発症リスクを上げると報告されています。最も多いのはCFH遺伝子で、全体の約30%に見つかっています[6]。

遺伝子の変化を受け継いでも全員が発症するわけではなく、薬(抗がん剤など)・感染・がん・臓器移植・妊娠などがきっかけになることがあります。多くは孤発例で、家族に複数の患者さんがいるのは全体の20%未満と報告されています[6]。つまり「家族に誰もいない」ことは、遺伝子の関与がないことを意味しません。病的バリアントを持っていても発症しない人がいることは、浸透率という考え方で説明されます。

当院の血栓性微小血管症(TMA)の遺伝子検査は、aHUSや先天性TTPを対象に、CFH・CFI・CD46・C3・CFB・CFHR1〜CFHR5・THBD・DGKE・ADAMTS13などを含む39遺伝子を調べる検査です。検体は血液のほか唾液・口の内側の粘膜でもよく、オンライン診療でも受けられます。補体が腎臓で過剰に働くC3腎症(C3糸球体症)も、CFHやC3などの遺伝子の変化で起こることがある、とてもまれな病気で、世界で100万人に1〜2人と推定されています[7][9]。腎臓の病気の遺伝子を広く調べる検査としては、ネフローゼ症候群・糸球体性蛋白尿の遺伝子検査もあります。

補体欠損症と感染症・自己免疫疾患(髄膜炎菌・SLE)

補体の成分が生まれつき足りない「補体欠損症」では、足りない成分によって、かかりやすい病気が変わります。膜侵襲複合体を作る終末の成分(C5〜C9)が足りない人は、髄膜炎を起こすナイセリア属の細菌にかかりやすいことが知られています[3]。米国CDCは、補体成分の欠損(C5〜C9、プロパージン、H因子、D因子など)がある人と、補体阻害薬を使っている人を、髄膜炎菌ワクチンをすすめる対象に挙げています[12]。

一方、古典経路の初期の成分が足りないと、SLEとの関連が強くなります。Macedoらの総説によると、C1q欠損では93%、C4欠損では75%がSLEを発症し、C2が両方のアレルで欠損している人では10〜30%がSLEを発症すると報告されています[10]。これは前の章で述べた、免疫複合体や死んだ細胞の片付けと関係すると考えられています。自分の体を攻撃する病気の全体像は自己免疫疾患で解説しています。

くり返す細菌感染などから生まれつきの免疫の病気が疑われるときには、補体の遺伝子も含めて調べる方法があります。当院の包括的原発性免疫不全症の遺伝子検査には、C1QA〜C9、CFH・CFI・CFP、MBL2・MASP2、SERPING1、CD46・CD55・CD59など、補体の成分や制御因子の遺伝子も含まれています(C4AとC4Bは対象外)。

加齢黄斑変性とCFHの多型

加齢黄斑変性は、遺伝と環境の両方が関わる多因子の病気で、CFH遺伝子など補体の遺伝子とその周辺の変化が、発症しやすさに関わっています。年齢がいちばん大きな危険因子で、喫煙も危険因子として確立しています[8]。CFHのTyr402His(Y402H)という多型を2つ持つと発症のリスクが約6倍になると報告されていますが、この多型を持つ人の多くは発症しません[7]。

このように、頻度の高い多型は「病気の原因」ではなく「なりやすさ」の一部です。当院の黄斑変性症の遺伝子検査はCFH・C3・CFB・CFIを含みますが、ページにあるとおり、加齢黄斑変性のなりやすさを測るための検査ではなく、関連が大きいARMS2は含まれていません。

CD59欠損症:補体から細胞を守る分子がない病気

CD59欠損症は、細胞の表面で膜侵襲複合体ができるのを防ぐCD59が働かないために、慢性の溶血と、くり返す末梢神経の病気(ニューロパチー)が乳児期から起こる、まれな常染色体潜性(劣性)の病気です。Nevoらは、北アフリカ系ユダヤ人の血縁のない4家系の子どもたちで、CD59の同じミスセンスバリアント(p.Cys89Tyr)を両方のアレルに持つこと(ホモ接合)を報告しました。この集団では約66人に1人がこのバリアントを持っていました[11]。

CD59は補体のブレーキの最後の段階を担う分子で、これがないと自分の赤血球や神経がMACに傷つけられます。神経の症状は慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)に似ていると報告されています[11]。

生まれる前に分かる:両親の保因者検査

CD59欠損症のような常染色体潜性(劣性)の病気は、両親がともに保因者のとき、子が発症する確率が妊娠ごとに4分の1で、家族に患者さんがいなくても起こります。両親の片方のアレルだけに病的バリアントがある人は、ふつう発症しない保因者です。遺伝の仕組みは常染色体潜性遺伝で解説しています。

当院の拡大版保因者検査は、女性787遺伝子・男性714遺伝子、女性1009遺伝子・男性911遺伝子の4つで、CD59遺伝子は4つすべてに含まれています。4つとも、オンライン診療で受けられ、唾液・頬の粘膜の検体でも検査できます。検査の考え方は保因者スクリーニング検査とはをご覧ください。

すでに妊娠していて、赤ちゃんの染色体を調べるNIPT(新型出生前診断)と同じ日に保因者検査も受けたい場合は、ファミリーセーフティ プラスがあります。NIPTと同じ日に採血する保因者検査で、単独では受けられません。

補体を抑える薬と感染症の注意

補体の働きを抑える薬(補体阻害薬)は、補体を抑えられない病気の治療に使われる一方、髄膜炎菌に感染しやすくなるため、ワクチンによる予防が重視されます。米国CDCは、補体阻害薬を使っている人を、髄膜炎菌ワクチンをすすめる対象に挙げています[12]。これは、MACが主にグラム陰性菌に対して働くという補体の性質[1]からも理解できます。抗体を使った薬の仕組みはモノクローナル抗体で解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【補体は「アクセル」と「ブレーキ」で読む】

補体の病気は、成分が足りなくて守りが弱くなる病気と、ブレーキが効かずに自分を傷つける病気に分けると整理しやすいと考えています。同じ補体の遺伝子でも、どちらの側が壊れたかで、起こる病気も、注意すべきことも正反対になるからです。

もう1つ大切なのは、aHUSや加齢黄斑変性のように、遺伝子の変化が「原因」ではなく「なりやすさ」として働く場合が多いことです。遺伝子検査の結果は、病気が決まったという意味ではなく、どの場面で何に気をつければよいかを考えるための材料として読むのがよいと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 補体の読み方は?英語では何といいますか?

「ほたい」と読みます。英語では complement(コンプリメント)といい、補体の成分がまとまって働く仕組み全体を complement system(補体系)と呼びます。

Q2. 補体はどこで作られますか?

補体のタンパク質は主に肝臓で作られ、ふだんは働かない前駆体の形で血液中を流れています。

Q3. 補体と抗体の違いは何ですか?

抗体はB細胞が作る、特定の相手だけに結合するタンパク質です。補体は最初から血液中に用意されている30種類以上のタンパク質の一群で、抗体などが付いた相手を攻撃・処理します。古典経路では、抗体に補体のC1qが結合して反応が始まります。

Q4. 古典経路・レクチン経路・第二経路は何が違いますか?

反応が始まるきっかけが違います。古典経路は病原体に結合した抗体、レクチン経路は病原体の表面の糖鎖、第二経路はC3が自然に少しずつ活性化することがきっかけです。3つとも最後はC3転換酵素を作り、C3を切断するところで合流します。

Q5. 血清補体価(CH50)とは何ですか?

主に古典経路から終末経路までの補体の溶血活性を評価する検査です。CH50に異常があるときは、補体成分を個別に測定したり、第二経路を評価するAH50などを追加したりすることがあります。

Q6. 補体(C3・C4)が低いとどうなりますか?

低い値は、ループス(SLE)、関節リウマチ、肝硬変、ある種の腎臓の病気、遺伝性血管性浮腫、低栄養、くり返す細菌感染などと関係することがあります。1回の値だけで病気が決まるわけではなく、症状やほかの検査とあわせて判断されます。

Q7. C3dとは何ですか?

C3bが分解されていく最後に、細胞の表面に残る断片です。B細胞の表面にあるCR2に結合し、抗体を作る反応を起こしやすくします。

Q8. 補体の病気は遺伝しますか?

遺伝するものがあります。遺伝性血管性浮腫(SERPING1)は常染色体顕性(優性)遺伝、CD59欠損症は常染色体潜性(劣性)遺伝です。非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は補体の遺伝子の変化が発症しやすさに関わりますが、多くは家族に患者さんがいない孤発例です。

まとめ

補体(ほたい、complement)とは、血液中に30種類以上ある血漿タンパク質の一群で、主に肝臓で作られ、病原体などをきっかけに連鎖的に活性化して体を守る仕組みです[1][2]。活性化の入り口は、抗体で始まる古典経路、糖鎖で始まるレクチン経路、C3の自然な活性化で始まる第二経路の3つで、どれもC3転換酵素を作ってC3に合流します。そこからオプソニン化(C3b)、炎症(C3a・C5a)、膜侵襲複合体(C5b-9)という働きが生まれます。

補体には強いブレーキ(H因子・I因子・CD46・CD55・CD59・C1インヒビターなど)も備わっています。成分が足りないと感染症やSLEが、ブレーキが弱いと遺伝性血管性浮腫やaHUSが起こるなど、補体の遺伝子の変化は「足りない」「抑えられない」の両方向の病気につながります。C3・C4・CH50の値は、こうした病気の手がかりの1つとして、症状やほかの検査とあわせて読みます[4]。

📘 この記事について

この記事は、補体のしくみと補体が関わる遺伝性の病気を解説する用語ページです。個別の検査値(C3・C4・CH50など)の解釈を行うものではありません。結果の意味は、検査を受けた医療機関で確かめてください。なお、遺伝性の病気が疑われ、遺伝学的検査の結果が本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。

参考文献

  • [1] Parker N, Schneegurt M, Tu AT, Lister P, Forster BM. 17.2 Chemical Defenses. Microbiology. OpenStax; 2016. [OpenStax]
  • [2] Merle NS, Church SE, Fremeaux-Bacchi V, Roumenina LT. Complement System Part I – Molecular Mechanisms of Activation and Regulation. Front Immunol. 2015;6:262. [doi:10.3389/fimmu.2015.00262]
  • [3] Merle NS, Noe R, Halbwachs-Mecarelli L, Fremeaux-Bacchi V, Roumenina LT. Complement System Part II: Role in Immunity. Front Immunol. 2015;6:257. [doi:10.3389/fimmu.2015.00257]
  • [4] Complement Blood Test. MedlinePlus. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [5] Hereditary angioedema. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [6] Atypical hemolytic-uremic syndrome. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [7] CFH gene. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [8] Age-related macular degeneration. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [9] C3 glomerulopathy. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [10] Macedo ACL, Isaac L. Systemic Lupus Erythematosus and Deficiencies of Early Components of the Complement Classical Pathway. Front Immunol. 2016;7:55. [doi:10.3389/fimmu.2016.00055]
  • [11] Nevo Y, Ben-Zeev B, Tabib A, et al. CD59 deficiency is associated with chronic hemolysis and childhood relapsing immune-mediated polyneuropathy. Blood. 2013;121(1):129-135. [doi:10.1182/blood-2012-07-441857]
  • [12] Risk-based Indications for Meningococcal Vaccination. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). [CDC]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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