目次
祖母がハンチントン病で亡くなり、結婚後に父も同じ病気と告げられた――そんな事実を受け止めながら、体外受精を考える前に自分の遺伝子を知りたいと、大学病院を訪れた方がいます。しかし両親の同意書と父の検査結果の提出が必要と言われ、母の理解が得られないまま、検査を受けられませんでした。この記事では、その方が当院でハンチントン病の遺伝子検査を受けるまでの経過と、検査の結果が何を意味するのかを、臨床遺伝専門医がお伝えします(ご本人の了承を得て、特定されないよう細部を変えて掲載しています)。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. ハンチントン病の遺伝子検査は、親の検査結果や家族の同意がないと受けられないのですか?
検査そのものは、ご本人の血液・唾液・頬の内側の粘膜でHTT遺伝子のCAGリピートの数を測るもので、親の検査結果がなくても行えます。当院では、成人のご本人が遺伝カウンセリングで十分に考え、知りたいと決めた場合に検査まで行い、ご家族の同意書を条件にはしていません。
🧬 Q. 父がハンチントン病だと、自分に遺伝している確率は?
ハンチントン病は常染色体顕性遺伝の病気で、親が原因をもっていると、お子さん1人ごとに2分の1(50%)の確率で受け継ぎます。受け継いでいるかどうかは、遺伝子検査でわかります。
🧬 Q. この方の結果は?「陰性」は何を意味しますか?
CAGリピートは正常範囲(26回以下)でした。お父さまの病気の原因がHTT遺伝子のCAGリピートの伸びであれば、ご本人はそれを受け継いでおらず、ご本人からお子さんにハンチントン病の原因が伝わることはありません。
🧬 Q. 費用・日数は? 体外受精や妊娠のことも相談できますか?
検査費用は275,000円(税込)、結果まで2〜3週間、遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)が別にかかります。当院は体外受精・着床前診断(PGT-M)を行っていませんが、妊娠したあとの羊水検査・絨毛検査は院内で受けられます。
- ➤事例 → 父と祖母がハンチントン病で、大学病院で検査を受けられなかった方の経過と結果
- ➤遺伝する確率 → 親が原因をもっていれば、子ども1人ごとに2分の1
- ➤結果の読み方 → CAGリピートの数(26回以下・27〜35回・36〜39回・40回以上)が意味すること
- ➤検査に必要なもの → 親の検査結果がなくても検査はできる。家族の情報は結果の解釈にかかわる
- ➤陽性だったら → 出生前検査・PGT-Mという選択肢と、当院で受けられること
\ 体外受精や妊娠を考える前に、ご自身の遺伝子を知る /
臨床遺伝専門医が常駐。唾液・頬の粘膜ならオンライン診療のあとご自宅で検体を採れます。
ハンチントン病の遺伝子検査(費用・結果の読み方) | お問い合わせはこちら
ハンチントン病とは何か
ハンチントン病(以前は「ハンチントン舞踏病」とも呼ばれました)は、体が勝手に動く不随意運動(舞踏運動)、考える力の低下、気分や行動の変化が、多くは大人になってから少しずつ進む病気です。発症の平均年齢は約45歳とされますが幅があり、病気の進み方そのものを止める治療はまだありません[1]。
💡 用語解説:HTT遺伝子とCAGリピート
HTT遺伝子は4番染色体にある、ハンチンチンというたんぱく質の設計図です。この中に「CAG」という3文字が何回も並ぶ部分があり、この繰り返し(CAGリピート)が長く伸びるとハンチントン病の原因になります。CAGリピートの数は、26回以下が正常、27〜35回が中間型、36〜39回が「発症する人もしない人もいる範囲」、40回以上が「通常の寿命を前提にすると発症すると考えられる範囲」と読みます[1]。
🔬 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝
常染色体顕性遺伝では、対になった2本の遺伝子のうち1本に原因があれば発症しうるため、親から子へ伝わる確率はお子さん1人ごとに2分の1(50%)です[1]。男女の差はありません。
ハンチントン病の基本データ
家族の病気との向き合い
祖母がハンチントン病で亡くなりました。当時はまだ若く、この病気について詳しくは知りませんでした。しかし結婚後、父もハンチントン病であることを知らされ、ご夫婦は大きな衝撃を受けました。「自分にも遺伝しているのか」「子どもに伝えてしまうのではないか」という問いが、日常に重くのしかかるようになりました。お父さまがハンチントン病である以上、ご本人が原因を受け継いでいる確率は、計算上2分の1です[1]。
ハンチントン病遺伝子検査の特殊性:「発症前診断」とは
症状のない方が、将来発症するかどうかを調べる検査を「発症前診断」(予測的検査)といいます。ご家族でハンチントン病の原因が確かめられていれば、発症前診断や妊娠中の検査が可能とされています[1]。
💡 発症前診断で大切にされていること
ハンチントン病の発症前診断では、検査の前に、検査を望む理由、病気についての理解、陽性・陰性それぞれの結果が生活に与える影響、神経の状態などを、面談で確かめるのが一般的です[1]。具体的な手順は、欧州の専門家グループによる国際的な推奨にまとめられています[2]。40回以上という結果でも、いつ発症するか、どれくらい重いかは、CAGの数だけでは決まりません[1]。結果は「発症の日付」を告げるものではなく、これからの計画を考える手がかりです。陽性でも陰性でも、結果を受け止めるには時間がかかることがあり、当院では結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
🩺 院長コラム【発症前診断を受けるということ――「知ること」と「知らないこと」の間で】
発症前診断は、ほかの多くの遺伝子検査とは違う重みを持っています。陽性なら、症状のない今の自分に将来の病気の原因があるとわかります。陰性でも、ご家族への思いが残ることがあります。
それでも「知りたい」と思う気持ちは、決して不合理ではないと考えています。自分の人生をどう設計するか、子どもを持つかどうか、体外受精を考えるか――これらの意思決定に、遺伝情報は大きな意味を持ちます。当院は、知りたいと願う方を拒みません。そして、知らないでいる選択も同じように尊重します。
検査への道のりでの困難
将来への不安から、ご本人は東京の大学病院の遺伝カウンセリングを受診しました。そこでは、検査を行うには両親の同意と、父の遺伝子検査の結果の提出が必要と説明されました。母の理解が得られず、書類をそろえられなかったため、検査を受けることはできませんでした。
医学的視点からの考察:検査に必要なもの・必要でないもの
⚕️ 医学的事実
ハンチントン病の遺伝子検査は、ご本人の検体でHTT遺伝子のCAGリピートの数を測る検査で、ハンチントン病の原因となるCAGリピートの伸びはこの方法で見つけられます[1]。親の検査結果がなくても、検査そのものは行えます。一方で、結果の読み方には、ご家族の情報がかかわります。発症したご家族でCAGリピートの伸びが確かめられていれば、陰性の結果は「その原因を受け継いでいない」とはっきり言えます[1]。ご家族の診断が遺伝子で確かめられていない場合は、ハンチントン病に似た症状を起こすほかの病気の可能性も含めて解釈します[1]。だからこそ、検査の前に遺伝カウンセリングで家系の情報を整理します。
日本では、症状のない方の発症前診断を受けられる医療機関が限られています。その背景(保険の対象、実施体制、検査を受託する機関の状況)は、『発症した本人でなければハンチントン病遺伝子検査はできない』と大学病院で断られ続けた方へで解説しています。
海外では患者の自己決定権を重視
欧州ハンチントン病ネットワーク(EHDN)の作業部会がまとめた推奨(2013年)は、検査を望む方が、検査前後のカウンセリングを受けながら、自分の意思で受けるかどうかを決めることを前提にしています[2]。症状のない成人の発症前診断は、検査の前に面談で動機や結果の影響を確かめたうえで行うのが一般的です[1]。当院も、この考え方に沿って、遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合に検査まで行っています。
医師からのメッセージ:検査の結果が意味すること
この検査の結果は、CAGリピートの数でお伝えします。それぞれの範囲が、ご本人とお子さんにとって何を意味するかをまとめます[1]。
📏 CAGリピートの数と、その意味
| CAGリピートの数 | ご本人にとって | お子さんにとって |
|---|---|---|
| 26回以下(正常) | ハンチントン病の原因をもっていない | ご本人からハンチントン病の原因が伝わることはない |
| 27〜35回(中間型) | ふつうは発症しないとされる | 伝わるときに伸びて、発症する範囲になることがある |
| 36〜39回 | 発症する人もいれば、発症しない人もいる | 1人ごとに2分の1で受け継ぐ |
| 40回以上 | 通常の寿命を前提にすると発症すると考えられる。時期は予測できない | 1人ごとに2分の1で受け継ぐ。父親から伝わるときに伸びやすい |
※範囲はGeneReviews(2026年2月更新)の記載にもとづく(2026年10月確認)[1]。
📊 陰性の結果を正しく読むために
陰性(26回以下)という結果は、調べたHTT遺伝子のCAGリピートに伸びがなかったという意味です。お父さまの病気の原因がHTT遺伝子のCAGリピートの伸びであれば、ご本人はそれを受け継いでいないと言えます[1]。ただし、CAGの並びのすぐ後ろの配列の個人差によって、CAGの数が実際より2回少なく数えられることがあると報告されています[1]。34〜35回のような境目に近い結果は、とくに慎重に解釈します。この検査でわかるのは調べた遺伝子の範囲で、ほかの病気までは否定できません。
ハンチントン病では、親から子へ伝わるときにCAGリピートが長くなり、より早く発症することがあります。これを表現促進現象といい、大きく伸びるのはほとんどが父親から伝わるときです[1]。お父さまが発症している家系では、次の世代を考えるうえで知っておきたい事実です。
🩺 院長コラム【知る権利と、検査の前の準備】
成人の方が自分の遺伝子について知るかどうかは、ご本人が決めることだと考えています。ご家族の理解が得られない事情があっても、知りたいと願う方の気持ちは尊重されるべきです。
ただし、その結果をどう受け止め、ご家族にどう伝えるかは、検査の前に一緒に考えておく必要があります。検査をしないと何も言えない一方で、検査の前の準備を省いてよいわけではない、というのが私の考えです。知ったうえで結婚や出産、これからの人生を計画したい方を、当院は支えます。
\ 親の検査結果がなくても、ご本人の検体で調べられます /
陽性の場合も、妊娠したあとの羊水検査・絨毛検査まで院内でご相談いただけます。
検査でわかること・わからないこと | お問い合わせはこちら
ミネルバクリニックとの出会い
何とかして検査を受ける方法はないかと調べているうちに、ご本人はミネルバクリニックのことを知りました。当院では、成人のご本人の意思で受ける検査として、ご家族の同意書を条件にしていません。遺伝カウンセリングで経緯をお聞きし、検査で何がわかり何がわからないかを確かめたうえで、ご本人が検査を受けると決められました。
🏥 当院でのハンチントン病の遺伝子検査
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 担当 | 臨床遺伝専門医が常駐し、検査前の遺伝カウンセリングから結果のご説明まで直接行います |
| 受けるための条件 | 成人のご本人が遺伝カウンセリングで考え、知りたいと決めた場合に検査まで行います(ご家族の同意書は条件にしていません) |
| 検体 | 血液・唾液・頬の内側の粘膜(唾液・粘膜はオンライン診療のあとご自宅で採ってお送りいただけます) |
| 検査費用 | 275,000円(税込) |
| 遺伝カウンセリング料 | 30分22,000円(税込)。検査費用とは別にかかります |
| 結果までの期間 | 2〜3週間 |
| 検査を行う会社 | この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※ |
| 妊娠したあと | 2025年6月から産婦人科を併設し、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています。体外受精・PGT-Mは行っていません |
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
検査結果と、その後のご夫婦の選択
✓ HTT遺伝子のCAGリピート:正常範囲
ハンチントン病の原因となるCAGリピートの伸びは、ご本人に見つかりませんでした。
結果を受け取ったときの安堵は、言葉にできないものだったと伺いました。長い間抱えてきた不安に区切りがつき、ご夫婦で体外受精と将来の家族計画について、前向きに話し合えるようになったそうです。体外受精は不妊治療の医療機関で行うもので、当院では行っていません。
もし結果が陽性だったら:子どもを持つときの選択肢
結果が陽性だった場合でも、選べる道はあります。ご家族でCAGリピートの伸びがわかっていれば、妊娠中に赤ちゃんで同じ変化があるかを調べる出生前検査や、受精卵を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)が可能とされています[1]。ご自身が受け継いでいるかを知りたくない方のために、受精卵だけを調べる「除外検査」という方法も示されています[1]。
当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(主要な項目は3日以内、マイクロアレイは2週間ほどで結果。実施は基本日曜日)。単一遺伝子の病気の出生前診断の流れは単一遺伝子疾患の出生前診断で解説しています。PGT-Mは不妊治療の医療機関で行うもので、当院では行っていませんが、海外でPGT-Mを考える方には英語の検査結果をご用意できます(遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-Mを考えている方へ)。PGT-Mにご家族の検体が必要になる理由はPGT-Mはなぜ本人だけでは検査できないのかをご覧ください。
同じような状況でお悩みの方へ
ご家族にハンチントン病の方がいて、結婚や妊娠の前に自分のことを知りたいと考えている方は、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1. ハンチントン病の遺伝子検査は、親の同意や親の検査結果がないと受けられませんか?
検査そのものは、ご本人の検体でHTT遺伝子のCAGリピートの数を測るもので、親の検査結果がなくても行えます。当院では、成人のご本人が遺伝カウンセリングで十分に考え、知りたいと決めた場合に検査まで行い、ご家族の同意書を条件にはしていません。ご家族の診断が遺伝子で確かめられているかどうかは結果の読み方にかかわるため、検査の前に家系の情報を一緒に整理します。
Q2. 父がハンチントン病の場合、自分に遺伝している確率は?
ハンチントン病は常染色体顕性遺伝の病気で、親のどちらかが原因をもっていると、お子さん1人ごとに2分の1(50%)の確率で受け継ぎます。受け継いでいるかどうかは、HTT遺伝子のCAGリピートを調べる遺伝子検査でわかります。
Q3. 検査で陰性なら、子どもに遺伝する心配はありませんか?
CAGリピートが26回以下の正常範囲で、お父さまの病気の原因がHTT遺伝子のCAGリピートの伸びであれば、ご本人はそれを受け継いでおらず、ご本人からお子さんにハンチントン病の原因が伝わることはありません。境目に近い結果は慎重に解釈し、この検査でわかるのは調べた遺伝子の範囲であることも遺伝カウンセリングでご説明します。
Q4. 検査にはどのような検体が必要ですか? 遠方でも受けられますか?
血液・唾液・頬の内側の粘膜のいずれかで検査できます。唾液・頬の粘膜なら、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けたあと、ご自宅で採った検体をお送りいただけるので、ご来院なしで受けられます。
Q5. ハンチントン病の遺伝子検査の費用はどのくらいですか?
当院の検査費用は275,000円(税込)で、結果までは2〜3週間です。検査料とは別に、遺伝カウンセリング料が30分22,000円(税込)かかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q6. 体外受精や着床前診断(PGT-M)も当院で受けられますか?
当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。体外受精・PGT-Mは不妊治療の医療機関で受けていただきます。当院では、PGT-Mの前提となる原因の確認と英語の検査結果のご用意、妊娠したあとの羊水検査・絨毛検査を院内で承っています。
🧬 結婚・妊娠の前に、ご自身の遺伝子を知る
ご家族にハンチントン病の方がいる方の遺伝子検査を、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングから結果のご説明まで行います。唾液・頬の粘膜ならご来院なしで受けられ、陽性の場合も、妊娠したあとの羊水検査・絨毛検査まで院内でご相談いただけます。
遺伝カウンセリング全般は遺伝診療・遺伝カウンセリング外来のご案内をご覧ください。お電話:03-3478-3768
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参考文献
- [1] Brás IC, Dawson J, Kay C, Caron NS, Hayden MR. Huntington Disease. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 1998 (Updated 2026 Feb 12). [NCBI Bookshelf NBK1305]
- [2] MacLeod R, Tibben A, Frontali M, et al. Recommendations for the predictive genetic test in Huntington’s disease. Clin Genet. 2013;83(3):221-231. [DOI: 10.1111/j.1399-0004.2012.01900.x](PMID: 22642570)
※実際の事例を、ご本人の了承を得て、特定されないよう細部を変えて掲載しています。
※遺伝子検査の結果の意味は、ご家族の状況によって変わります。臨床遺伝専門医にご相談ください。
※本記事の医学的情報・料金は2026年10月時点のものです。






