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「まさか自分に、こんな結果が出るとは思っていませんでした」——結婚3年目のある夫婦が遺伝子ブライダルチェックを受けたのは、ごく自然な流れからでした。ところが検査結果にBRCA1遺伝子の病的バリアントが見つかり、夫婦の人生設計は大きく動き始めます。
- ➤ 遺伝子ブライダルチェックを受けるきっかけと夫婦の心境
- ➤ BRCA1遺伝子の病的バリアントとはどういうものか
- ➤ 夫婦で検査を受けた結果と心境の変化
- ➤ 現実的な家族計画の立て方と予防的手術(RRSO)の決断
- ➤ 同様の状況にある方へのメッセージ
本記事は、実際にミネルバクリニックで遺伝子ブライダルチェックを受けられた患者様のご協力のもと、その実体験をご紹介します。BRCA1遺伝子の病的バリアントが見つかったことで、夫婦がどのように向き合い、どのような選択をしたのか——同じような状況でお悩みの方へのメッセージも込めてお届けします。
遺伝子ブライダルチェックとの出会い
結婚3年目を迎えた私たち夫婦は、そろそろ子供のことを真剣に考え始めていました。周りの友人たちも次々と赤ちゃんを授かり、「私たちも家族を持ちたいね」という会話が自然と増えていました。
そんなある日、職場の先輩から思いがけない提案をされました。
「私、妊娠前に遺伝子検査を受けたのよ。遺伝子ブライダルチェックって言うの。最近話題になってるから調べてみたら?」
検査を受ける決意
「遺伝子検査?」私は首をかしげました。「どんなことがわかるんですか?」
「赤ちゃんが遺伝病を持って生まれるリスクとか、自分が将来かかりやすい病気とかがわかるの。アメリカでは妊娠前に受けるのが普通らしいよ」
その夜、夫婦でインターネットで調べてみました。
「へぇ、787の遺伝子を調べるのか」
「ちょっと高いけど、一生に一回でいいなら…」
「子供のことを考えるなら、知っておいた方がいいかもね」
数週間悩んだ末、夫婦で検査を受けることを決めました。唾液を採取して送るだけの簡単な検査でした。
運命を変えた検査結果
そして3週間後、結果を聞きに病院へ向かいました。
「検査結果をお伝えします」
医師の言葉に、私たち夫婦は緊張した面持ちで座っていました。
夫の結果は問題なかったのですが、私のファイルを開く医師の表情が少し曇りました。
「奥様、BRCA1遺伝子に病的バリアントが見つかりました」
私は首をかしげました。「BRCA1?それは何ですか?」
夫も同じような表情でした。「何か悪いものなのでしょうか?」
BRCA1遺伝子とは?医師の説明
医師は丁寧に説明を始めました。
「BRCA1は、乳がんや卵巣がんに関わる遺伝子です。この遺伝子に変異があると、生涯で卵巣がんを発症するリスクが約48%、乳がんのリスクも一般の方より大幅に高くなります」
「えっ…」私の顔が青ざめました。「でも、うちの家族に癌の人はいませんよ?」
医師:「実は、家族歴がなくても遺伝子変異を持っていることはあるのです。だからこそ、この検査を受けていただいて良かったのです」
夫が私の手を握りました。「治療法はあるんですか?」
BRCA1(ブラカ1)遺伝子は、本来は細胞のDNA修復に関わるがん抑制遺伝子です。この遺伝子に病的バリアント(変異)があると、DNA修復がうまく機能せず、乳がんや卵巣がんが発症しやすくなります。
HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)とは、BRCA1またはBRCA2遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患の総称です。BRCA1変異保有者では、生涯で乳がんを発症するリスクが約65〜80%、卵巣がんを発症するリスクが約40〜48%とされており、一般集団と比べて著しく高い状態です。
現代医療での選択肢:希望への道筋
医師が続けました。
「現在では選択肢があります。BRCA1の場合、今後の妊娠を考えていない方は、35〜40歳までにリスク低減卵管卵巣摘出術という予防的な手術を受けることが勧められます。お子さんを産み終えてから手術を検討するのが一般的です」
私は戸惑いながら聞きました。「手術って…健康な臓器を取るということですか?」
医師:「そうです。確かに大きな決断ですが、病的バリアントを保持する遺伝子がBRCA1では35歳以降から卵巣がんが増えてくることから、予防的手術が最も確実な予防手段とされています」
つまり、お子さんを持ちたいなら、なるべく早めに妊娠・出産を考えて、その後予防的手術を検討するのが現実的です。
また、乳がんについても定期的なMRI検査や、必要に応じて予防的乳房切除術という選択肢もあります。
RRSO(Risk-reducing Salpingo-Oophorectomy)とは、BRCA1/BRCA2変異保有者において卵巣がん・卵管がんの発症を予防するために行う予防的手術です。両側の卵管と卵巣を腹腔鏡下で摘出します。BRCA1変異保有者では35〜40歳での実施が推奨されており、卵巣がんリスクを約80〜95%低下させることが報告されています。手術後は閉経状態となるため、更年期症状の管理(ホルモン補充療法など)が必要になります。
夫婦の決断:計画的な家族づくり
その日の夜、夫婦で長い時間話し合いました。
「まだ実感がわかないです。本当に私が癌になりやすいなんて」
「でも、知ることができて良かったんじゃないか。対策を立てられるから」
「あの時、先輩に教えてもらわなかったら、ずっと知らないままだったのね」
私たちが立てた家族計画:
- すぐに積極的な妊活を開始
- 可能な限り早めに2人の子供を出産
- 出産完了後、39〜40歳で予防的卵管卵巣摘出術を実施
- 乳がんについては定期的なMRI検査でサーベイランス
- セカンドオピニオンも含めて専門医と十分相談
その後の歩み:計画通りの人生
数ヶ月後、セカンドオピニオンも含めて専門医に相談し、私たち夫婦は積極的な妊活を開始しました。幸い1年後に第一子を授かり、その後もう一人出産することができました。
そして私が39歳になったタイミングで、予防的卵管卵巣摘出術を受けることを決意しました。手術は腹腔鏡で行われ、思っていたより負担は少なく済みました。
現在は更年期症状の管理のためホルモン補充療法を受けながら、乳がんについては年2回のMRI検査でしっかりとサーベイランスを続けています。
振り返って:検査を受けて良かったこと
「最初は軽い気持ちで受けた検査でした」私は今振り返ります。「まさかこんな結果が出るとは思わなかった。でも、知らないまま自然に妊娠していたら、子供たちにも同じリスクを50%の確率で遺伝させていたかもしれない。検査を受けて本当に良かった」
夫も同感でした。「先輩に教えてもらって、軽い気持ちで始めた検査が、こんなに人生を変えるとは。でも早めに知れて、計画的に行動できて良かった」
手術は怖かったけど、これで卵巣がんのリスクはほぼなくなりました。子供たちも健康に生まれてくれて、家族を守るためにできることをしました。母や祖母がもしBRCA1変異を持っていたとしても、私たちと同じ選択肢はなかった時代でした。
私たちの未来は、職場での何気ない会話から始まった一つの検査によって大きく変わりました。最初は戸惑いと不安でいっぱいだったけど、正しい知識を得ることで、家族の健康を守るための具体的な道筋を見つけることができました。
これから子供を考えている方、家族の健康について不安がある方は、ぜひ遺伝子検査を検討してみてください。知ることで選択肢が広がります。
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参考文献・ガイドライン
- Kuchenbaecker KB, et al. Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers. JAMA. 2017;317(23):2402-2416. [PubMed]
- 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)診療ガイドライン」 [公式サイト]
- NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology – Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast, Ovarian, and Pancreatic [NCCN公式]
- 日本産科婦人科学会「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)に対するリスク低減手術に関する見解」 [PDF]
- Domchek SM, et al. Association of risk-reducing surgery in BRCA1 or BRCA2 mutation carriers with cancer risk and mortality. JAMA. 2010;304(9):967-75. [PubMed]
- ミネルバクリニック「遺伝子ブライダルチェック」 [公式サイト]
※遺伝子検査をお考えの方は、必ず臨床遺伝専門医にご相談ください。
※本記事の医学的情報は2025年9月現在のものです。

