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MSX2遺伝子は頭蓋骨や歯の発生を司る転写因子をコードする、ホメオボックスファミリーの重要な遺伝子です。最大の特徴は、同じ遺伝子の変異であっても機能喪失型では「巨大頭頂孔(PFM1)」、機能獲得型では「ボストン型頭蓋縫合早期癒合症(CRS2)」という、まったく逆の二極化した重篤な頭蓋骨形成異常が発症する点にあります。ミネルバクリニックでは、インペリアルプラン(154遺伝子218疾患)のNIPTでMSX2変異を母体血から検出できます。本記事では、MSX2の分子機能、頭蓋顔面発生における役割、関連疾患、そして出生前診断までを臨床遺伝専門医が体系的に解説します。
Q. MSX2遺伝子とはどのような遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 第5染色体長腕(5q35.2)に位置するホメオボックス転写因子で、頭蓋骨・歯・神経堤由来組織の発生を制御する分子スイッチです。BMPシグナルの下流で働き、骨形成プログラムを精密に調節します。同じ遺伝子の変異でも、機能喪失型では「頭蓋骨に穴が残る」巨大頭頂孔、機能獲得型では「縫合線が早く閉じる」ボストン型頭蓋縫合早期癒合症という対照的な疾患が発症します。
- ➤遺伝子の正体 → 5q35.2のホメオボックス遺伝子、267アミノ酸の転写リプレッサー、BMP経路の下流エフェクター
- ➤関連疾患①(機能喪失) → 巨大頭頂孔タイプ1(PFM1, OMIM 168500)。ハプロ不全により頭頂骨の骨化が不十分
- ➤関連疾患②(機能獲得) → ボストン型頭蓋縫合早期癒合症(CRS2, OMIM 604757)。塔状短頭・クローバー葉頭蓋を呈する
- ➤P148H変異の特殊性 → DNA結合親和性は増強するがタンパク質自体は急速分解されるパラドックス
- ➤出生前検査 → インペリアルプラン(154遺伝子218疾患)でMSX2変異を母体血から検出可能
1. MSX2遺伝子の基本構造と進化的背景
MSX2(msh homeobox 2)遺伝子は、細胞の増殖・分化・生存を厳密に調節するホメオボックス遺伝子ファミリーに属する転写因子です。ヒトゲノムにおいて、MSX2は第5染色体の長腕(5q35.2領域)に位置し、HOX8、CRS2、FPP、PFM1、MSHなどの別名でも呼ばれます。コードされるタンパク質は267のアミノ酸残基から構成され、分子量は約29 kDaです。
この遺伝子は進化の過程で極めて高度に保存されています。マウス(Mus musculus)のMsx2、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)のmsx2-A、さらにはショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のDr遺伝子と強力なホモロジー(相同性)を有します。このような深い進化的保存性は、MSX2が多細胞生物の発生・形態形成にいかに根源的で不可欠な役割を担っているかを物語っています。
💡 用語解説:ホメオボックス遺伝子とは
「ホメオボックス(homeobox)」とは、180塩基対のDNA配列で、ホメオドメインと呼ばれるDNA結合領域(60アミノ酸)をコードします。1983年にショウジョウバエの研究から発見され、ハエからヒトまで生物界に普遍的に存在します。ホメオボックス遺伝子は「体の設計図のスイッチ」として機能し、頭・胴・四肢など、身体の各部位を正しい場所に作るための指示を出します。MSX2もこのファミリーの一員で、特に頭蓋骨と顔面の形成を司ります。
MSX2タンパク質の最も重要な構造的特徴は、特定のDNA配列に結合する高度に保存された「ホメオドメイン」を含んでいる点です。MSX2は主に転写リプレッサー(抑制因子)として機能し、他のコア転写複合体や関連タンパク質と相互作用することで、特定の標的遺伝子の発現を精密に制御します。この精緻な分子スイッチとしての機能が、頭蓋顔面領域を中心とした全身の組織構築を導く基礎となっているのです。
2. 分子生物学的機能と細胞内シグナル伝達ネットワーク
MSX2は孤立して機能するわけではなく、細胞外シグナルを受け取り、それを核内の遺伝子発現プログラムへと変換する複雑なシグナル伝達ネットワークの「ハブ」として機能します。とりわけ重要なのが、骨や軟骨の発生に決定的な役割を担うBMPシグナル(骨形成タンパク質:Bone Morphogenetic Protein)経路での働きです。
MSX2はBMP・Notch・RAS経路の下流ハブとして機能し、骨形成(ALPL制御)・幹細胞分化(SOX2抑制)・癌のEMT(TWIST1活性化)など、組織や状況に応じて多様な細胞プロセスを統括する。
BMPシグナル経路と骨芽細胞の制御
細胞表面の受容体にBMPリガンドが結合すると、Smadタンパク質のリン酸化による活性化カスケードが引き起こされ、最終的にMSX2の発現が誘導されます。骨芽細胞の分化過程において、MSX2はアルカリフォスファターゼ(ALPL)のプロモーター領域にあるホメオドメイン応答配列に直接結合し、その転写活性を抑制します。さらにMSX2は、同じく骨形成を促進する別の転写因子DLX5がもたらすALPL発現刺激効果に対して拮抗的に作用します。これらの抑制的メカニズムは、骨前駆細胞や未熟な骨芽細胞の過剰な成熟を適度に押しとどめ、適切なタイミングで骨化が進行するように「ブレーキとアクセルのバランス」をとる役割を果たしていると考えられます。
組織特異的(文脈依存的)な多様な作用
MSX2の機能は、発現する組織の微小環境(コンテキスト)に強く依存します。同じ遺伝子であっても、組織が違えばまったく異なる生物学的結果をもたらす点が極めて重要です。
- ➤血管平滑筋での異所性石灰化:炎症性サイトカイン(TNF-α)やBMP/Notchシグナルが入力されると、MSX2発現が上方制御されALPLを誘導。結果として血管の病的石灰化が促進されます
- ➤靭帯・腱での骨化抑制:非骨組織ではMSX2はコリプレッサーと共同して骨芽細胞分化をブロック。望まないミネラル化を防ぎ、組織の柔軟性と統合性を保護します
- ➤RAS経路の標的としても機能:MSX2はRASシグナル伝達の重要な下流標的でもあり、細胞増殖を特定の条件下で促進します
3. 発生生物学:頭蓋顔面・歯・器官形成における役割
胎児の発達過程において、MSX2は細胞の運命決定と器官の立体的なパターン形成に深く関与します。特に、移動前の頭部神経堤細胞(Cranial neural crest cells)、歯、乳腺など、多様な部位で強力な発現が観察されます。
神経堤由来細胞の生死のバランス
頭蓋顔面の複雑な形態形成(Craniofacial morphogenesis)を正常に進行させるためには、神経堤から移動してきた間葉系細胞が適切な時期に増殖し、かつ不必要な細胞がアポトーシス(プログラムされた細胞死)によって排除されるという、極めてシビアなバランス調整が要求されます。MSX2の転写リプレッサーとしての正常な活性は、この「生存とアポトーシスのバランス」を確立する中心的なモジュレーターとして機能しています。
歯牙形成におけるMSX1とMSX2の協調と重複
上皮と間葉の相互作用をモデル化する上で、歯の発生は非常に有用なシステムです。ここでMSX2は、パラログ(遺伝子重複によって生じた同族遺伝子)であるMSX1と複雑な協調関係を築いています。ノックアウトマウスを用いた実験では、興味深い結果が報告されています。
この結果は、歯の形成初期プロセスにおいてMSX1とMSX2が機能的重複(リダンダンシー)を持ちつつ、共通の発生経路の中で連続的かつ不可欠な役割を担っていることを明確に示します。同時に、これらの遺伝子はBmp4やLef1といった他の重要な因子とも共発現しており、上皮から間葉へのBmp4発現シグナルの伝達にMSXファミリーが必須であることが明らかになっています。
その他の発生プロセス
MSX2はマウスの乳管における分岐形態形成(Branching morphogenesis)の促進や、四肢のパターン形成(Limb-pattern formation)においても機能することが報告されており、上皮-間葉相互作用を必要とする多様な器官において普遍的なモジュレーターとして働いています。
4. 機能喪失型変異:巨大頭頂孔(EPF)の分子病態
🔍 関連記事:巨大頭頂孔タイプ1(PFM1)/ハプロ不全とは/機能喪失型変異の概念
MSX2遺伝子の機能が失われる(機能喪失型、Loss-of-Function)と、巨大頭頂孔タイプ1(PFM1; OMIM 168500)が引き起こされます。この疾患はForamina parietalia permagna(FPP)やCatlin marksといった別名でも知られ、頭頂骨の矢状縫合とラムダ縫合の交点付近に位置する頭頂切痕周囲の膜内骨化が不十分になることで生じる発生異常です。
胎児期において、頭頂骨に開口部が存在すること自体は正常なプロセスで、通常は妊娠5ヶ月頃までにこれらの孔は閉鎖します。しかし、MSX2に変異を持つ患者では、骨を形成する前駆細胞の機能が著しく低下し、この頭頂孔が生涯にわたって開存し続けることになります。
💡 用語解説:ハプロ不全(Haploinsufficiency)
私たちは1つの遺伝子につき父由来・母由来の2コピーを持っています。「ハプロ不全」とは、片方のコピーが壊れて働かなくなったために、残った1コピーから作られるタンパク質(約50%)だけでは必要な機能量を賄えない状態を指します。MSX2は頭蓋骨の正常な骨化のために2コピー分のタンパク質量が必要であり、片方が機能を失うとそれだけで頭頂骨の骨化不足という表現型が現れます。詳しくはハプロ不全の解説ページもご覧ください。
遺伝的背景と病因論
巨大頭頂孔の有病率は15,000人から50,000人に1人と推定されており、高い浸透率を伴う常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります(まれに浸透率低下例あり)。分子レベルでは、巨大頭頂孔の症例の約40%がMSX2変異(タイプ1)、残り約60%が第11染色体短腕(11p11.2)のホメオボックス遺伝子ALX4の変異(タイプ2; OMIM 609597)によるとされています。
巨大頭頂孔(EPF)の原因遺伝子内訳
同じ臨床像でも、約40%はMSX2、約60%はALX4の変異が原因
PFM1(MSX2変異)
5q35.2 / OMIM 168500
PFM2(ALX4変異)
11p11.2 / OMIM 609597
臨床的にも画像的にも両者の区別は不可能です。確定診断のためには必ず遺伝子検査が必要となります。
PFM1(MSX2型)とPFM2(ALX4型)の比較
臨床的特徴と注意すべき合併症
EPFの孔は対称的で円形または楕円形をしており、直径数ミリメートルから数センチメートルに及びます。頭部X線の前後像では、これらの放射線透過像が「眼鏡のペア(pair of spectacles)」のように描出されるのが特徴です。乳幼児期には、欠損が正中線上で連続して大きな「頭蓋裂(Cranium bifidum)」として認識されることが多く、成長に伴って正中の骨橋が形成され、最終的に二つの独立した孔に分かれる傾向があります。
皮膚と硬膜は正常に保たれており、大半は無症状で偶然発見されることが多いのですが、骨欠如部を圧迫することで激しい局所痛・頭痛・吐き気を生じることがあるほか、外傷時の頭蓋骨骨折・外傷性脳損傷のリスクは健常者より明確に高くなります。さらに臨床的に警戒すべきは、後頭蓋窩の血管・髄膜・皮質構造における潜在的奇形の合併です。MRIにより、直静脈洞の無形成・大脳鎌静脈洞の残存(Persistent falcine sinus)などの静脈還流異常や、多小脳回(Polymicrogyria)のような皮質形成異常が発見されることがあります。これらの脳内異常はてんかん発症の強い素因となり得ます。
管理と治療方針
EPFの治療は原則として保存的アプローチが選択されます。加齢とともに孔のサイズは徐々に縮小していくため、特別な外科的介入を必要としないケースが大半です。活動性の高い小児には外傷から脳を保護するためのヘルメット着用が推奨されます。外見上の問題や過度の外傷リスクのために頭蓋骨形成術(Cranioplasty)を検討する場合、その前にMRIやデジタル減算血管造影(DSA)などの高度な血管画像診断で髄膜・静脈の異常を綿密に評価することが、術中リスク回避のために不可欠です。
5. 機能獲得型変異:ボストン型頭蓋縫合早期癒合症(CRS2)
前述のハプロ不全とは全く逆に、MSX2遺伝子の「機能獲得型(Gain-of-Function)」変異は、骨化の過剰進行による頭蓋縫合早期癒合症を引き起こします。この疾患は「頭蓋縫合早期癒合症タイプ2(Craniosynostosis Type 2; CRS2)」または「ボストン型頭蓋縫合早期癒合症」(OMIM 604757)と呼ばれ、1993年にJabsらによってボストンの一つの巨大な家系(19名の罹患者)から初めて特定された常染色体顕性(優性)遺伝疾患です。
臨床的特徴
🧠 頭蓋骨の変形
- 前頭部の突出(Frontal bossing)
- 眼窩前頭部の後退
- 塔状短頭症(Turribrachycephaly)
- クローバー葉頭蓋(Kleeblattschädel)
🦴 骨格・四肢
- 第1中足骨の短縮
- 足の親指の付け根の骨の異常
👁 神経・視覚
- 頭蓋内圧亢進に伴う視力問題
- 少数例で痙攣発作(てんかん)
🧠 知的発達
- 知能的・認知的発達は正常に保たれる
- これがクルーゾン症候群等との重要な鑑別点
P148H変異における「結合力増強」と「分解亢進」のパラドックス
ボストン型頭蓋縫合早期癒合症の最も代表的な原因は、MSX2タンパク質のホメオドメイン内に生じる「P148H変異」です。これは148番目のアミノ酸であるプロリン(Pro)がヒスチジン(His)に置換される単一ミスセンス変異です。この部位は標的DNA配列の認識とタンパク質間相互作用の双方に関与するホメオドメインのN末端アームの7番目の位置に該当します。他の家系では同じ148番目のプロリンがロイシンに置換される変異(p.Pro148Leu)も報告されています。
💡 用語解説:機能獲得型変異とは
機能獲得型変異(Gain-of-Function, GOF)とは、変異によって遺伝子産物(タンパク質)が本来の働きを越えて過剰に活性化したり、新しい機能を獲得したりする変異です。機能喪失型(LOF)が「働きが減る」のに対し、GOFは「働きが強くなりすぎる」状態。MSX2のP148H変異では、変異タンパク質がDNAに対して異常に強く結合することから、長らくシンプルな機能獲得型と理解されてきました。しかし近年、この理解を覆す驚くべき新事実が明らかになっています。
長年、P148H変異は単純な機能獲得型として理解されてきました。変異したMSX2タンパク質は、標的DNA応答配列との結合親和性が異常に高まり、MSX2-DNA複合体の安定性が著しく増大することが示されています。この増大した親和性により、BMPシグナリングの下流効果が過剰に増幅され、骨形成分化の過剰な促進——すなわち縫合部の早期癒合——につながると考えられてきました。
しかし、ソウル大学校の研究チーム(Yoon WJ et al., 2008)による近年の詳細な検証は、この病態の背後に存在するさらに複雑でパラドックス的なメカニズムを明らかにしました。正常な発生過程のラット頭蓋縫合閉鎖モデルにおいて、野生型MSX2は縫合部の空間(間葉系細胞の領域)で発現し、間葉系細胞の増殖とサイクリンD1(細胞周期を回すタンパク質)の発現を刺激することで、「縫合空間を維持し、早期に骨化して閉鎖するのを防ぐ」働きをしていたのです。しかし、P148H変異体はこの増殖誘導能力を失っていました。
💡 用語解説:E3ユビキチンリガーゼ「Praja1」とドミナント・ネガティブ効果
細胞内で不要なタンパク質に「分解の目印(ユビキチン)」を付けてプロテアソーム(細胞内シュレッダー)に送り込む酵素群を「E3ユビキチンリガーゼ」と呼びます。MSX2の場合、Praja1という特定のE3ユビキチンリガーゼが分解を担当します。
さらに驚くべきは、ドミナント・ネガティブ(優性阻害)効果です。P148H変異体は、同じ細胞内に存在する正常な野生型MSX2の分解までも促進してしまいます。つまり、変異体1つが正常タンパク質を引きずり込んで分解させる「道連れ効果」を発揮するのです。
パルスチェイス実験により、P148H変異タンパク質の半減期は野生型よりも大幅に短いことが示されました。E3ユビキチンリガーゼ「Praja1」を介したユビキチン依存的なプロテアソーム分解に対する感受性が、変異によって異常に高まっていたのです。結論として、ボストン型頭蓋縫合早期癒合症の真の分子病態は「DNAへの結合安定性は過剰になる一方で、タンパク質そのものは極めて不安定で急速に分解され、結果として縫合部を維持するための正常な細胞増殖シグナルが失われる」という二面性を持つ極めて高度な動態によると理解されています。
6. 腫瘍学と幹細胞生物学における病的役割
近年、発生期に細胞分化や増殖を制御するMSX2の機能が、癌の進行や幹細胞のリプログラムにおいて「ハイジャック(悪用)」されている事実が多数報告されています。
幹細胞分化とリプログラミング
ヒト胚性幹細胞(hESC)において、BMPによって誘導されたMSX2の発現は、細胞を中胚葉および心血管系への分化系統へと向かわせる決定的な要因となります。この際、MSX2は多能性維持のマスター転写因子であるSOX2の発現を直接的に抑制し、同時にNODALシグナルを活性化することで幹細胞の特性を変化させます。このような機序から、MSX2の蓄積は幹細胞特性や、特定腫瘍における抗がん剤への薬剤耐性に大きな影響を与えます。また、人工多能性幹細胞(iPSC)から誘導された間葉系間質細胞では、MSX2上昇が特定の祖先細胞(プロジェニター)状態を示すマーカーとして機能します。
上皮間葉転換(EMT)と腫瘍の悪性化
癌細胞が元の上皮組織から離脱し、周囲の組織へ浸潤し、遠隔転移を引き起こすプロセスにおいて、上皮間葉転換(EMT)は極めて重要です。MSX2はこの病的プロセスを強力に促進します。膵臓がん・乳がん・卵巣がん・結腸直腸がんなどの多様な悪性腫瘍で、MSX2の異常な過剰発現が浸潤能を高め、腫瘍進行を後押しすることが報告されています。とくに膵臓がんではBMP誘導性EMTにMSX2が不可欠であり、MSX2の上方制御は転移関連因子TWIST1の発現と連動して悪性表現型を増強します。鼻腔内に発生する内反性乳頭腫では、MSX2発現が腫瘍の再発および骨溶解と強い相関を持つことが知られています。
7. 出生前診断:NIPTでMSX2変異を母体血から検出
MSX2変異による頭蓋顔面疾患の特定において、周産期医療のアプローチは劇的な進化の渦中にあります。従来のNIPT(非侵襲的出生前検査)は、母体血中に遊離する胎児(胎盤)由来DNA断片(cfDNA)を解析する画期的な手法ですが、長らく染色体全体の数の異常(トリソミーなど)や大きな微小欠失の検出に留まっていました。
単一遺伝子疾患NIPT(sgNIPT)の登場
この診断のギャップを埋める存在として急速に普及しているのが、特定の単一遺伝子疾患を標的とした高度なNIPT(sgNIPT)です。最先端のsgNIPTパネルは、30の遺伝子にまたがるバリアントによって引き起こされる25の重篤な単一遺伝子疾患を一度の母体血採血でスクリーニングします。これにはMSX2・FGFR2・FGFR3による頭蓋縫合早期癒合症候群のほか、軟骨無形成症、骨形成不全症、ヌーナン症候群、結節性硬化症、レット症候群などが含まれます。これらの疾患の総合的な発生率は約600人に1人に達し、ダウン症候群に匹敵する頻度です。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)とNIPT
sgNIPTの最大の臨床的価値は、これら疾患の多くが「新生突然変異(de novo変異)」として突発的に発生する事実への解答となる点です。新生突然変異は両親から遺伝したものではないため、両親への一般的な保因者スクリーニングではリスクを予測できず、家族歴に基づく問診も意味をなしません。父親の年齢が高いほどde novo変異リスクは上昇することが知られています。sgNIPTは分析感度・特異度ともに99%超の精度でこれらの変異を検出し、これまで出生後や小児期になるまで見逃されてきた疾患リスクを胎児期に可視化します。
ミネルバクリニックでのMSX2検査体制
ミネルバクリニックでは、インペリアルプランにおいて154遺伝子218疾患を網羅する単一遺伝子NIPTを提供しており、MSX2はこの対象遺伝子に含まれます。COATE法に代表される次世代解析技術を用いて、母体血からの微細な単一遺伝子異常リスクを高精度に評価します。インペリアルプランには、全常染色体(1〜22番)の異数性スクリーニング、92微小欠失、500万塩基(5Mb)の解像度での全染色体構造異常も含まれます。
出生前診断と出生後診断:分けて理解する
MSX2変異が出生前に同定されれば、出生後速やかに頭蓋内圧亢進を防ぐための外科的介入(頭蓋骨形成術)が必要となる場合、高度な新生児集中治療室(NICU)や小児脳神経外科医・形成外科医がチームとして機能する三次医療機関へ事前に分娩を計画することが可能になります。また、ミネルバクリニックではNIPT受検者全員に互助会制度(8,000円)が適用され、陽性時の羊水検査費用は全額補助されます。
8. よくある誤解
誤解①「MSX2変異はすべて重症」
EPF1は大半が無症状で偶然発見される軽症例も多くあります。一方、ボストン型頭蓋縫合早期癒合症は重症ですが、知能は正常に保たれます。同じ遺伝子でも変異のタイプ(LOF/GOF)と位置によって表現型は大きく異なるため、「MSX2変異=必ず重篤」とは限りません。
誤解②「EPFはレントゲンで簡単に診断」
確かに「眼鏡のペア」状の透過像でEPFを疑うことは可能ですが、MSX2型(PFM1)とALX4型(PFM2)は画像的に区別できません。確定診断と再発リスク評価には必ず遺伝子検査が必要です。
誤解③「頭蓋骨に穴があると脳に直接影響」
EPFでは皮膚と硬膜は正常に保たれているため、孔があっても脳が露出しているわけではありません。ただし外傷時の骨折リスクは高く、活動性の高い小児にはヘルメット使用が推奨されます。また少数例で皮質形成異常や静脈還流異常を合併します。
誤解④「MSX2変異がわかれば治療できる」
現時点でMSX2変異そのものを直接修復する根本治療はありません。EPFは保存的管理、CRS2は頭蓋骨形成術などの外科的介入による合併症予防が中心です。ただし、出生前診断は分娩管理の最適化・新生児期からの専門治療への迅速な接続・家族の心理的準備に大きな意義があります。
9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
よくある質問(FAQ)
🏥 MSX2変異・頭蓋顔面疾患の遺伝子診断
MSX2変異による巨大頭頂孔・ボストン型頭蓋縫合早期癒合症など
頭蓋顔面遺伝性疾患に関する遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。
参考文献
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