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赤ちゃんの頭のてっぺん、頭頂骨と呼ばれる左右の骨にぽっかりと穴が空いたまま閉じない——そんな先天的な頭蓋骨形成異常が巨大頭頂骨孔1型(PFM1, OMIM 168500)です。原因は頭蓋骨や歯の形をつくる「設計図」のひとつであるMSX2遺伝子の機能喪失型変異。本記事では、PFM1の病態から自然歴、診断アルゴリズム、合併症のリスク、最新の鑑別診断の考え方、そして家族計画における遺伝カウンセリングまで、臨床遺伝専門医がやさしくかつ正確に解説します。
Q. 巨大頭頂骨孔1型とはどんな病気ですか?まず結論を教えてください
A. 頭頂骨に通常閉じるはずの骨欠損(孔)が出生後も持続する、稀な先天性骨格形成異常です。MSX2遺伝子の機能喪失型変異が原因で、常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります。多くの場合は無症状で経過し、加齢とともに孔が縮小していく良性の自然歴を持ちますが、まれに頭痛・てんかん発作・血管奇形を合併することがあり、幼児期のコンタクトスポーツや頭部外傷には注意が必要です。
- ➤疾患の定義 → OMIM 168500。有病率1万5,000〜5万人に1人。直径5mm以上の対称性骨欠損が頭頂骨に残存
- ➤原因遺伝子 → MSX2(染色体5q35.2)。頭蓋骨の膜内骨化を制御するホメオボックス転写因子
- ➤分子メカニズム → MSX2タンパク質のハプロ不全(量の半減)により頭頂切痕の骨化が進まない
- ➤主な症状 → 通常無症状。稀に頭痛・てんかん・脳静脈奇形・口蓋裂・先天性皮膚欠損などを合併
- ➤遺伝形式 → 常染色体顕性(優性)遺伝。子への遺伝確率は50%。不完全浸透・可変表現度あり
1. 巨大頭頂骨孔1型(PFM1)とは?基本病態と疫学
巨大頭頂骨孔1型(Parietal Foramina 1: PFM1, OMIM 168500)は、頭蓋骨の頂上にある「頭頂骨」と呼ばれる左右一対の骨に、本来であれば胎児期に閉じるはずの欠損(穴)が出生後も持続する、稀な先天性の骨格形成異常です。歴史的には「Catlin marks(キャトリン・マーク)」や「Foramina parietalia permagna(巨大頭頂骨孔)」といった同義語で呼ばれ、19世紀の遺伝学黎明期から家系内集積が記録されてきた歴史ある遺伝性疾患です。
有病率はおよそ1万5,000人から5万人に1人と推定されています。「巨大頭頂骨孔」全体ではMSX2遺伝子変異によるPFM1と、ALX4遺伝子変異によるPFM2(OMIM 609597)の2つのサブタイプが存在し、両者を合わせた頻度になります。臨床的な見た目だけではPFM1とPFM2は区別不可能なので、最終的な確定診断には分子遺伝学的検査が必要です。
💡 用語解説:膜内骨化(まくないこっか)とは
骨ができる方法には大きく2種類あります。腕や脚の長い骨は、まず軟骨でひな形をつくってから骨に置き換わる「軟骨内骨化」で形成されますが、頭蓋骨の平らな部分(頭蓋冠:とうがいかん)は、間葉系(かんようけい)細胞という未分化な細胞が、軟骨を経ずに直接「骨芽細胞(こつがさいぼう)」へと変化して骨をつくる「膜内骨化」で形成されます。PFM1ではこの膜内骨化のプロセスが、頭頂骨の特定の場所だけうまく進まないことで、出生後も骨欠損(孔)が残ってしまうのです。
正常な胎児の発生過程では、矢状縫合(左右の頭頂骨の境目)とラムダ縫合(頭頂骨と後頭骨の境目)が交わる場所のあたりに、「頭頂切痕(とうちょうせっこん)」と呼ばれる生理的な骨化の遅延部位が存在します。健常児ではこの頭頂切痕の周囲の骨化が急速に進み、妊娠5ヶ月(約20週)頃までに完全に閉鎖します。しかしMSX2遺伝子のハプロ不全(量の半減)が起こると、この領域における間葉系細胞から骨芽細胞への分化、あるいは骨芽細胞の増殖プロセスがうまく回らなくなり、出生後も骨欠損が持続することになります。
骨欠損のサイズは患者さんによって極めて多様で、数ミリメートルから数センチメートルに及ぶ大きなものまで報告されています。直接触れると、骨のない部分は柔らかく軽く凹んだ感触で、頭皮越しに大脳皮質の拍動を感じ取れる場合もあります。
2. 原因遺伝子MSX2と頭蓋骨形成の分子機構
🔍 関連記事:MSX2遺伝子の働きと関連疾患/転写因子とは/ホメオボックス遺伝子の役割
PFM1の原因遺伝子であるMSX2(Muscle Segment Homeobox 2)は、染色体5q35.2に位置する遺伝子で、頭蓋骨や歯、四肢の発生を制御する「ホメオボックス遺伝子ファミリー」の一員です。MSX2遺伝子から作られるタンパク質は、細胞の核内でDNAの特定の配列に結合し、他の遺伝子のスイッチをオン・オフする転写因子として機能します。
💡 用語解説:ホメオボックスとホメオドメイン
ホメオボックスとは、約180塩基対の特徴的なDNA配列で、これがコードするホメオドメイン(約60アミノ酸)は、ヘリックス・ターン・ヘリックスというDNAをつかむ構造をもち、ピンセットのようにDNAに結合します。ホメオボックス遺伝子は、胎児期に「どの場所にどんな器官をつくるか」を決める設計図の役割を担うため、変異が起こると骨格や顔の形成異常を起こしやすいのが特徴です。MSX2もそのひとつで、頭蓋骨の縫合部の形成タイミングを精密に制御しています。
MSX2は骨化の「ブレーキ」役
骨芽細胞分化のいわば「マスター・スイッチ」とも呼ばれるRUNX2(鎖骨頭蓋異形成症の原因遺伝子)が骨化を強く推進する役割を担うのに対し、MSX2は主に転写抑制因子(リプレッサー)として骨化を「程よく止める」役割を担います。具体的には、骨芽細胞の分化過程でアルカリフォスファターゼ(ALPL)のプロモーターの活性を抑え、DLX5という分化促進因子の働きと拮抗します。
また、神経堤(しんけいてい)と呼ばれる、頭部の骨や軟骨のもとになる細胞集団のアポトーシス(プログラムされた細胞死)と生存のバランスを精密に調整しており、頭蓋顔面が「ちょうど良い形」に整うように交通整理をしています。RUNX2がアクセル、MSX2はブレーキとステアリング、そう例えると分かりやすいかもしれません。
ハプロ不全:「量が半分になるだけ」がもたらす疾患
私たちは1つの遺伝子について、父由来・母由来の2つのコピーを持っています。PFM1では、このうち片方のMSX2のコピーが変異により働かなくなることが原因となります。生き残ったもう片方のコピーから作られるタンパク質は本来の量の約50%しかなく、これでは精密な骨化制御に必要な量が不足してしまう——この状態をハプロ不全(Haploinsufficiency)と呼びます。
💡 用語解説:ハプロ不全(Haploinsufficiency)
2つあるはずの遺伝子コピーの片方が壊れて働かなくなり、残った1つだけでは必要なタンパク質量を十分に作れなくなる状態のことです。ドミナントネガティブ(異常タンパクが正常タンパクの邪魔をする現象)とは異なり、ハプロ不全は単なる「量の不足」で病気を引き起こします。MSX2のような転写因子は遺伝子の用量(量)への感度が高く、量が半減するだけで頭蓋骨形成にはっきりした異常が現れます。
MSX2の機能喪失型変異は、遺伝子全体や一部の欠失、フレームシフト変異、ナンセンス変異など、様々なタイプが報告されており、いずれもタンパク質が正常な機能を発揮できなくなる結果、PFM1の表現型につながります。
3. 症状と自然歴:「二分頭蓋」から「眼鏡型」の孔へ
PFM1の特徴的な臨床像は、患者さんの年齢とともに動的に変化していくという、極めてユニークな自然歴を持つことです。出生から成人に至るまでの経過を理解することは、ご家族が不安を抱え込まずに発達を見守るうえで大きな助けになります。
乳児期:単一の巨大欠損(cranium bifidum)
PFM1の赤ちゃんは、出生時にはまだ左右独立した2つの孔ではなく、後頭の大泉門から前方に向かって伸びる単一の巨大な正中の頭頂骨欠損を呈することが最も多くみられます。この単一の巨大欠損状態は「二分頭蓋(cranium bifidum:クラニウム・ビフィダム)」と呼ばれます。「二分」という漢字から重い障害をイメージしてしまうかもしれませんが、これはあくまで「骨が二つに分かれて見える」という形態的特徴の名称で、神経管閉鎖障害の「二分脊椎」とは病態が全く異なります。
幼児期:正中に骨の架橋ができ、左右へ分割される
患者さんが幼児期早期へと成長していくにつれて、巨大な欠損の正中線上に骨の架橋(ブリッジ)が徐々に形成されます。これにより、それまで1つだった大きな孔が、ちょうど真ん中に橋がかかるように分割され、矢状縫合を挟んで対称性のある2つの円形・楕円形の孔へと姿を変えていきます。
学童期以降:「眼鏡型」の対称性骨孔
最終的には、頭蓋骨X線(後前方向:PA撮影)で「一対の眼鏡(pair of spectacles)」のように見える対称性の2つの楕円形・円形のX線透過像として描出されるようになります。直径は通常5mm以上で、数mmから数cmの幅まで多様ですが、加齢とともに孔のサイズは漸進的に縮小していくことが本疾患の重要な特徴です。骨が後から少しずつ埋めていくため、成人になる頃には孔が小さくなる症例が多く報告されています。
4. 合併症と神経学的リスク:知っておきたい少数派の症状
PFM1患者さんの大部分は無症状で、大きな骨欠損があっても日常生活に特段の問題を起こさないのが基本です。しかし、少数例では特定の合併症が報告されており、ご家族と医療者は知っておく必要があります。これらの合併症は、治療方針——特に外科的介入の検討——を大きく左右する重要な情報になります。
神経症状:頭痛・てんかん発作
骨欠損の直下にある大脳皮質や髄膜への軽度な圧迫が原因と考えられる局所痛、重度の頭痛、悪心、嘔吐が一部の患者で報告されています。また、後頭蓋窩の髄膜や皮質の微細な形成異常を伴うことがあり、これらが脳波異常やてんかん(てんかん発作)の素因となる場合があります。
頭蓋内の静脈奇形・血管異常
PFM1で特に重要視されているのが、骨欠損の周辺における頭蓋内の異常な静脈の走行や血管奇形の合併です。これらは普段は無症状でも、後述する外科的修復術を検討する際には致命的な出血リスクに直結する所見であり、術前のMRI・血管造影による精査が極めて重要になります。
頭蓋顔面・その他の合併症
頻度は低いものの、以下の所見が報告されています。
- ➤口唇裂・口蓋裂:顔面正中構造の形成異常を伴うことがある
- ➤髄膜瘤・孤立性脳瘤(encephalocele):骨欠損部から頭蓋内容物が突出するまれな合併症
- ➤頭皮の先天性皮膚欠損症(Aplasia cutis congenita of scalp):頭皮の一部に皮膚が欠損している状態
- ➤デュアン後退症候群(Duane retraction syndrome):眼球運動障害の一種
- ➤身体所見:青色強膜、大頭症(macrocephaly)、縫間骨(Wormian bones:本来の骨と骨の間に追加で形成される小さな骨)
これらの随伴症状は必ず出るわけではなく、大部分の方はこれらを伴わずに通常の生活を送られています。ただし、頭痛が頻発したり、けいれん発作のような神経症状が出てきた場合は、画像評価と遺伝子診断の見直しが推奨されます。
5. 診断:画像診断と遺伝子検査のアルゴリズム
PFM1の診断は、家族歴の聴取と身体診察(頭頂部の柔らかい陥没や拍動の触知)から始まり、画像診断と分子遺伝学的検査を組み合わせて確定されます。出生前診断と出生後診断は目的・技術ともに大きく異なるため、分けて整理して理解する必要があります。
画像診断モダリティの選択
遺伝子検査:標的アプローチと網羅的解析
臨床的・画像的にPFMスペクトラムが強く疑われた場合、確定診断および家族計画のために分子遺伝学的検査が実施されます。
- ➤マルチ遺伝子パネル:MSX2、ALX4、RUNX2を含む頭蓋顔面異常パネル。歯科異常を伴わないPFM疑い例では効率的なアプローチ
- ➤サンガー法によるシーケンス解析+MLPA法:点変異と大きな欠失・重複の両方を捕捉できる組み合わせ
- ➤クリニカルエクソーム検査・全エクソーム検査(WES):パネル陰性時のセーフティネット。MSX2を含む2万遺伝子を網羅的に解析
- ➤染色体マイクロアレイ(CMA):Potocki-Shaffer症候群など隣接遺伝子欠失症候群を疑う際に併用
💡 出生前 vs 出生後:診断方法の違い
出生前診断:家系内に既知の病的MSX2変異がある場合、妊娠10週以降の絨毛検査(CVS)または15週以降の羊水検査でターゲット遺伝子解析が可能。また妊娠中期(18〜20週)の精密胎児超音波で巨大な正中後頭蓋骨欠損が画像的に検出されることもあります。
出生後診断:頭蓋骨X線・3D-CTで骨欠損を確認したのち、血液からの遺伝子解析(マルチ遺伝子パネル → WES/WGS)で病的変異を同定します。
6. 鑑別診断:PFM2・PFMCCD・CCDとの違いを「歯」で見分ける
巨大頭頂骨孔という同じ表現型を示しても、原因遺伝子が異なれば疾患名も予後も家族計画への影響も全く違ってきます。鑑別の最大のポイントは、「鎖骨の異常」と「歯科的異常」の有無です。
鑑別診断マトリックス
「鎖骨の異常」があったときの分岐点:歯を見る
頭頂骨孔に加えて鎖骨低形成を認める場合、次に注目すべきは歯科所見の有無です。古典的な鎖骨頭蓋異形成症(CCD)では、乳歯の晩期残存、永久歯の萌出不全、多数の過剰歯、含歯性嚢胞、エナメル質形成不全といった著明な歯科的異常が93.5%以上の患者で認められます。一方、PFMCCDでは、頭蓋骨と鎖骨に明らかな異常があるにもかかわらず、歯の発生は完全に正常という決定的な違いがあります。
この発見は分子生物学的にも興味深く、長らくRUNX2が「鎖骨形成のマスター制御因子」とされてきたなかで、MSX2も鎖骨の正常発生に独立した役割を担っていることが証明された画期的な知見でした。臨床現場では、歯の異常が「あり」ならRUNX2、「なし」ならMSX2をターゲットにした遺伝子検査を選ぶ、というシンプルなアルゴリズムが診断精度を大きく高めてくれます。
隣接遺伝子欠失症候群:Potocki-Shaffer症候群
巨大頭頂骨孔に加えて知的障害・多発性外骨腫を併発する場合、染色体11p11.2の隣接遺伝子欠失症候群であるPotocki-Shaffer症候群(OMIM 601224)を念頭に置く必要があります。ALX4遺伝子に加えてEXT2遺伝子なども巻き込んで欠失するため、PFM2の頭蓋骨欠損と多発性外骨腫が併存する特徴的な臨床像になります。診断は染色体マイクロアレイ(CMA)が第一選択となります。
7. MSX2のパラドックス:同じ遺伝子が「孔」と「癒合」両極の病気を起こす
PFM1を理解するうえで、医学遺伝学における最も美しいパラドックスの一つに触れずにはいられません。それは、「同じMSX2遺伝子の変異」が、その種類によって、頭蓋骨に「孔ができる」病気と「早く閉じすぎる」病気という、両極端の表現型を引き起こすという事実です。
💡 用語解説:機能喪失型変異 vs 機能獲得型変異
機能喪失型(Loss-of-Function: LoF)変異とは、遺伝子の機能が失われる、または弱まるタイプの変異です。タンパク質が作られない・短く切れて機能しない・量が減るなどの結果につながります。
機能獲得型(Gain-of-Function: GoF)変異は、その逆で、タンパク質の働きが過剰に強まる変異です。本来あるはずのブレーキが効かなくなり、シグナルが常時オンになる・通常では結合しない相手と結合するようになる、といった現象を引き起こします。同じ遺伝子でも、どちらの変異が起こるかで全く違う病気になることがあります。
機能喪失で「孔」が残る——PFM1
MSX2遺伝子の機能喪失型変異(遺伝子の欠失、フレームシフト、ナンセンス変異など)では、MSX2タンパク質の量がハプロ不全により半分に減少します。これにより、頭頂切痕の周囲で骨芽細胞の増殖や分化のプロセスが十分に進まなくなり、結果として頭頂骨に骨欠損が残るPFM1やPFMCCDが発症します。
機能獲得で「早く閉じすぎる」——ボストン型早期癒合症
ところが、極めて稀なケースとして、MSX2タンパク質のDNA結合領域(ホメオドメイン)における特定のアミノ酸を別のアミノ酸に置き換えるミスセンス変異——代表例として第148番目のプロリンがヒスチジンに置換される「Pro148His」変異——では、タンパク質のDNA結合活性や転写抑制活性が異常に強まり、機能獲得型変異として作用します。
この場合、頭蓋冠の縫合部で骨芽細胞の増殖・骨化プロセスが過剰かつ早期に進行し、PFM1とは正反対の頭蓋骨縫合早期癒合症2型(ボストン型, CRS2, OMIM 604757)を引き起こします。ボストン型では前頭部の突出、前頭眼窩部の陥凹、クローバー葉頭蓋などの重度な頭蓋変形に加え、頭痛、視覚障害(近視や遠視)、短い第1中足骨などの特徴を伴います。
遺伝子用量効果が示す「微妙なバランス」
このパラドックスは、MSX2が頭蓋骨形成の「開く(孔)と閉じる(癒合)の絶妙な支点」に立っていることを示しています。MSX2の働きが弱すぎれば閉じない、強すぎれば閉じすぎる——転写因子の遺伝子用量(量・活性)が、私たちの頭の形を決める精密なダイヤルになっているのです。同一遺伝子が変異の性質によって対立する独立した疾患(対立遺伝子疾患:allelic disorders)の病因となるこの現象は、医学遺伝学を学ぶ醍醐味のひとつと言えるでしょう。
8. 治療・管理・予防:保存的観察が基本
現時点で、PFM1に対する遺伝子レベルの根本治療は存在しません。管理の基本は「保存的アプローチ」と「予測されるリスクの予防」に集約されます。重要なのは、PFM1の自然歴が本質的に良性であり、骨欠損は加齢とともに自然に縮小するという事実を、ご家族と医療者が共有することです。
自然歴に基づく定期観察
小児期には侵襲的介入を避け、6〜12ヶ月ごとに骨欠損サイズの推移や神経学的症状の有無を評価する経過観察が標準的な管理です。骨化は思春期以降も続くため、長期にわたるフォローが望ましいですが、無症状経過なら頻回な画像検査は不要です。
物理的外傷からの保護
大きな骨欠損部の直下では、脳組織が直接的な物理的圧力や鋭利な外傷に対して脆弱な状態にあります。脳の穿通性損傷リスクは統計学的には小さいものの、現実的な懸念は無視できません。とくに活発に動き回る幼児期や学童期では、特注の保護用ヘルメットの着用が考慮されることがあります。
頭蓋骨の正中線上に大きな骨欠損が残存している患者さんでは、ラグビー・ボクシング・その他の格闘技などの激しいコンタクトスポーツへの参加については主治医と十分に話し合うことが推奨されます。ただし、過度な活動制限はお子さんの発達機会を奪うことにつながりかねないので、リスクと利益のバランスをご家族の生活背景に照らして個別に判断する姿勢が大切です。
対症療法と神経学的フォロー
少数例で合併するてんかん発作に対しては、小児神経科専門医のもとで適切な抗てんかん薬による標準治療と脳波モニタリングが行われます。PFM1に特異的に有効な抗てんかん薬は確立されておらず、発作型に応じた一般的な薬剤選択がなされます。骨欠損部への圧迫に起因する頭痛に対しては対症療法的な鎮痛が中心です。
外科的介入の適応とリスク
骨欠損に対する外科的閉鎖手術(cranioplasty)は、過去に施行された例はあるものの、欠損が加齢とともに縮小する良性の自然歴を考慮すると通常は推奨されません。小児期以降も極めて大きな二分頭蓋(cranium bifidum)が持続し物理的な脳保護が著しく不十分な場合や、重度の頭皮欠損を伴う場合などに、形成外科的・脳神経外科的修復が検討されることがあります。
⚠️ 外科手術前の重要な注意点
いかなる外科的介入を行う前にも、MRI・MRA・CT血管造影(CTA)などで頭蓋内の異常な静脈や血管奇形の有無を必ず確認する必要があります。PFM1では骨欠損周辺に異常静脈の合併が知られており、これを見逃して手術に踏み切ると致死的な大出血を招くリスクがあります。経験のある専門施設での慎重な術前評価が不可欠です。
9. 遺伝形式と再発リスク:家族計画にどう活かすか
🔍 関連記事:遺伝形式の基礎/浸透率とは/遺伝カウンセリングとは
PFM1は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとり、極めて高い浸透率を示します。「常染色体顕性」と「常染色体優性」は同じ遺伝形式を指す新旧の用語で、近年は「顕性」が学術的にも教育的にも推奨されています。
再発リスクは妊娠ごとに50%
罹患したご家族のお子さんへの伝わり方には以下のパターンがあります。
- ➤罹患した親からの遺伝:大部分の患者さんはこのパターン。各妊娠で50%の確率で病的変異が子に受け継がれる
- ➤新生突然変異(de novo変異):両親に変異がない孤発例。比較的少数だが報告あり
- ➤生殖細胞モザイク:親に変異がなくても、稀に同胞再発のリスクが残る
浸透率と可変表現度のグレーゾーン
遺伝カウンセリングで特に強調すべきは、PFM1が高い浸透率を示すが完全ではないことです。極めて稀ですが、病的変異を受け継いでいても頭頂骨孔を全く発症しない、あるいは孔が極めて小さく臨床的に気づかれないケースがあります。さらに、同一家系内で同じMSX2変異を共有していても、骨孔の最終的なサイズや頭痛・てんかんなどの神経症状の有無が大きく異なること(可変表現度)も知られています。
この事実は、ご家族にとって希望にも難しさにもなります。「変異があるからといって必ず重症化するわけではない」という事実は心理的支えになる一方で、「生まれてくる子の症状の重さを変異の有無だけで予測することは不可能」という現実とも向き合う必要があるのです。
出生前診断の選択肢
家系内に既知のMSX2病的変異が同定されている場合、以下のような出生前診断・着床前検査の選択肢があります。
🤰 出生前の非侵襲的スクリーニング
NIPTのうち、単一遺伝子疾患をカバーするインペリアルプランでは154遺伝子218疾患を網羅し、MSX2もカバー対象に含まれます。胎児由来DNAを母体血から解析する非侵襲的検査です。
💞 着床前遺伝学的検査
体外受精胚に対し、移植前にMSX2変異の有無を調べる単一遺伝子検査(PGT-M)の選択肢があります。実施施設は限定されており、適応条件があります。
🩺 胎児超音波検査
妊娠中期(18〜20週)の精密胎児超音波で、巨大な後頭蓋骨欠損が画像的に検出されることがあります。胎児MRIによる追加評価も可能です。
なお、PFM1のように良性の自然歴を持ち不完全浸透・可変表現度を示す疾患は、出生前診断を受けることが常に利益になるとは限りません。「検査するか・しないか」「結果が出たらどうするか」を、遺伝カウンセリングのなかでご家族の価値観に沿って丁寧に整理していくことが大切です。臨床遺伝の現場では、私たち医療者は中立・非指示的立場で情報提供を行い、最終的な意思決定はご家族に委ねるのが基本姿勢です。
分娩時の留意点
出生前に胎児に巨大な頭蓋骨欠損が予想される場合、分娩管理での配慮も重要です。出生時の物理的圧迫による頭部外傷のリスクを最小限にするため、頭皮への直接的なスカルプ電極の装着、鉗子分娩、吸引分娩などは可能な限り避けることが推奨されます。理論的な外傷リスクを回避するために、予定帝王切開を選択することも妥当な医療判断となります。これらの方針は、産科チームと臨床遺伝専門医が連携して妊娠経過の早い段階から計画することが望ましいです。
よくある質問(FAQ)
🏥 頭蓋骨形成異常・遺伝子診断のご相談
巨大頭頂骨孔・鎖骨頭蓋異形成症・頭蓋骨縫合早期癒合症など
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