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妊娠中期に眠いのは珍しいことではありません。プロゲステロン(黄体ホルモン)の作用、妊娠による貧血、お腹が大きくなることによる夜の睡眠の浅さが重なって、日中の眠気として現れます。眠気そのものが赤ちゃんの異常のサインになることは考えにくい一方で、ひどいいびき・脚のむずむず・2週間以上続く気分の落ち込み・頭痛やむくみを伴う眠気は、妊婦健診で相談したいサインです。この記事では、妊娠中期に眠い理由、寝過ぎることのデメリット、眠気の対策と注意が必要な症状を解説します。
Q. 妊娠中期なのに眠いのはなぜですか?
A. 眠気を起こすプロゲステロンは妊娠中期以降も増え続けます。そこに、血液が薄まり鉄も不足しやすくなる妊娠中の貧血と、お腹が大きくなって夜の眠りが浅くなることが重なるためです。多くは生活の工夫で和らぎますが、貧血や睡眠中の呼吸の異常、むずむず脚、うつなどが隠れていることもあるので、ほかの症状を伴うときは健診で相談しましょう。
- ➤ホルモン → プロゲステロンは中期以降も増え続け、鎮静作用で眠気を起こす
- ➤貧血 → 血液が薄まり、赤ちゃんへの鉄の需要も増えるため、中期から貧血になりやすい
- ➤夜の睡眠 → お腹の大きさ・頻尿・胎動・こむら返りで眠りが浅くなる
- ➤対策 → 軽い運動、短めの昼寝、鉄を意識した食事、職場では母健連絡カードも
「妊娠中期に入ったのに眠い‥」「眠くて家事も仕事もはかどらなくて困っている」
胎盤が完成し、つわりや体調不良が治まってくる人が多い妊娠中期。高かった体温も落ち着き、これから妊婦生活を楽しもうと思っていたのに、なぜか眠気が続いてお困りの方も多いようです。
妊娠中期はつわりが治まるのと同時に、食欲が戻る方が多い時期でもあります。妊娠していなくても食事のあとに眠くなることはあるのですから、妊娠中ならなおさらでしょう。
とはいえ、眠気がひどいと家事や仕事に影響しますし、生活リズムが崩れると夜の睡眠や頭痛にも響きます。
この記事では、妊娠中期に眠い理由と寝過ぎることによるデメリット、妊娠中期に眠いときの対策法と眠気以外に注意が必要な症状についてご紹介します。安定期に入っても眠気がひどくて苦労している妊婦さんは、ぜひ最後まで読んでみてください。
妊娠中期に眠いのはなぜ?

妊娠中期とは、日本産科婦人科学会の定義で妊娠14週0日から27週6日までの期間です。妊娠5か月(16週)から数える資料も多く、一般に「安定期」と呼ばれますが、安定期は医学用語ではなく、妊娠中期と同じ意味ではありません。14週と16週のどちらから数えるかの違いは、妊娠中期はいつからいつまで?で詳しく解説しています。
強い眠気をいちばん感じやすいのは妊娠初期で、妊娠中期には和らぐ人が多いといわれます。それでも、妊娠中の睡眠の悩みはとても一般的です。米国で妊婦2,427人に行われたオンライン調査では、約76%が睡眠の質の低下を、約38%が睡眠不足を訴えていました[1]。
妊娠中期になっても眠気が続くと「赤ちゃんに何か異常があるのでは」と心配になるかもしれません。けれども、眠気そのものが赤ちゃんの異常のサインになることは考えにくいのです。眠気の背景にある主な理由は、次の3つです。
ホルモンバランスの乱れ
妊娠すると、体内ではさまざまな変化が起こります。そのひとつがホルモンバランスの変化で、中でも眠気に関わっているのが「プロゲステロン(黄体ホルモン)」です。
プロゲステロンは、子宮内膜を整えて妊娠を維持したり、子宮の収縮を抑えたり、出産後の授乳に向けて乳腺の準備をしたりするホルモンです。プロゲステロンが体内で代謝されてできる物質(アロプレグナノロンなど)は、脳の神経の興奮を鎮める受容体(GABA-A受容体)に作用します。これは一部の睡眠薬と同じ受容体であるため、プロゲステロンには鎮静作用があり、眠気を起こすと考えられています。
妊娠7〜10週ごろを境に、プロゲステロンを主につくる場所は卵巣の黄体から胎盤へ移ります。ただし、胎盤に移ってプロゲステロンが減るわけではなく、分泌量は出産まで増え続けます。妊娠中期に眠気が和らぐ人が多いのは、ホルモンが減るからではなく、つわりが治まって夜に眠れるようになるなど、ほかの条件が変わるためと考えられます。そのため、人によっては妊娠中期に入ってもプロゲステロンの影響を強く感じ、眠気が続くことがあります。
ママの身体が貧血気味になっている
妊娠中は、赤ちゃんと胎盤に血液を送るために、血液の量が大きく増えます。このとき、液体成分である血漿は妊娠前より約40〜50%増えるのに対し、赤血球の増え方はそれより小さいため、血液が薄まった状態(血液希釈)になります。さらに妊娠中期以降は、赤ちゃんが成長するために鉄をたくさん必要とするため、鉄が不足して鉄欠乏性貧血になりやすくなります。
世界保健機関(WHO)は、妊婦の貧血をヘモグロビン値11g/dL(110g/L)未満と定義しています[2]。妊娠していない女性の基準(12g/dL未満)より低く設定されているのは、上で述べた血液希釈によって、健康な妊婦さんでもヘモグロビン値が下がるためです。WHOの資料では、とくに妊娠中期にはヘモグロビン値がさらに約0.5g/dL下がることも示されています。
貧血になると、体に運ばれる酸素が減るため、だるさ・眠気・息切れ・動悸などが起こりやすくなります。妊娠中期の妊婦健診では血液検査で貧血を調べるので、結果を確認しておきましょう。動悸や息切れが気になる方は妊娠中の動悸も参考にしてください。
なお、食後に眠くなるのは妊娠していなくても起こることで、その仕組みは完全にはわかっていません。食後の眠気だけでなく、一日中眠い、少し動くだけで息が切れるといった場合は、かかりつけの産婦人科で相談しましょう。
体重増加により体力を消耗している
妊娠中期になるとお腹が目立つようになり、体重も増えていくため、日常生活を送るだけでも体に負担がかかるようになり、疲れがたまりやすくなります。
夜の睡眠も浅くなりがちです。大きくなった子宮が膀胱を押して夜中にトイレで目が覚めたり、寝返りが打ちにくくなったり、胎動やこむら返りで起きたりすることが増えます。夜の睡眠の質が下がった分が、日中の眠気として現れるのです。
また、妊娠中は激しい運動を控えるため運動不足になりやすく、体力の低下も眠気を覚ましにくくする一因になります。妊娠中の体重の増やし方の目安は、妊娠中の体重管理で解説しています。
寝過ぎることによるデメリット

「妊娠中に寝てばかりいると難産になる」という話を聞いたことはありませんか?
睡眠時間が長いこと自体が難産の原因になるという、はっきりした根拠はありません。問題になるのは、寝てばかりで体を動かさない生活が続き、運動不足と体重の増えすぎにつながることです。妊娠中の体重増加が大きすぎると、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群、赤ちゃんが大きくなりすぎることなどと関連し、分娩が長引いたり帝王切開になったりする可能性が高くなることが知られています。
米国産婦人科医会(ACOG)は、合併症のない妊婦さんに対して、週150分程度の中等度の運動(ウォーキングなど)を勧めています[3]。運動には、体重の増えすぎや妊娠糖尿病を防ぐことに加え、睡眠の質を整える効果も期待されています。
また、昼に長く寝すぎると夜に眠れなくなり、昼夜のリズムが崩れて、ますます日中に眠くなるという悪循環に陥ることがあります。寝すぎた日に頭痛が出やすい人もいます。眠いときに無理に我慢する必要はありませんが、起きる時間と夜に寝る時間をなるべく一定にすることを心がけましょう。
妊娠中期に眠いときの対策法と注意が必要な眠気以外の症状

ホルモンの変化、お腹が大きくなること、貧血などのマイナートラブルが重なり、長く寝ているつもりでも眠りが浅くなりがちな妊娠中期。仕事をしている方や上の子のお世話をしている方も多く、日中の眠気に困っている妊婦さんは少なくありません。
ここでは、妊娠中期に眠いときの対策法と、注意が必要な眠気以外の症状についてご紹介します。
軽いストレッチやヨガ
軽いストレッチやマタニティヨガ、ウォーキングなど、体に負担のかからない運動は、妊娠中期の眠気対策に役立ちます。とくに家でひとりの時間が長い方や、ゆっくりしているといつの間にか眠ってしまう方におすすめです。日中に体を動かし、外の光を浴びると、夜の寝つきもよくなります。
ただし、切迫早産や前置胎盤などで安静を指示されている方は運動を控え、始める前に健診で医師に確認しましょう。運動が苦手な方は、外の空気を吸って深呼吸するだけでも気分が切り替わります。
昼寝をする
妊娠中期は、お腹が大きくなり始めた影響で寝苦しさを感じたり、寝る姿勢が変わったりして、寝ているつもりでも熟睡できていないことがあります。急に胎動で目が覚めることもあるでしょう。
そのような場合は、日中に強い眠気を感じたら、30分〜1時間程度と時間を決めて昼寝をするのもよい方法です。夕方遅くに長く寝ると夜に眠れなくなるので、昼寝は午後の早い時間に済ませ、目が覚めたらダラダラ寝続けないようにしましょう。お腹が大きくなって仰向けがつらいときは、横向きで抱き枕などを使うと楽になります。
昼寝の時間が取れないときは、目を閉じて横になるだけでも体を休めることができます。
必要な栄養素を意識して摂取する
先に述べたとおり、妊娠中期は貧血になりやすく、それが眠気の原因になることもあります。鉄を含む食品を積極的に取り入れるとともに、血液をつくるのに必要な次の栄養素も意識しましょう。
- 鉄分
- ビタミンB12
- 葉酸
- ビタミンB6
鉄は赤血球のヘモグロビンの材料に、葉酸とビタミンB12は赤血球をつくるのに欠かせません。葉酸・ビタミンB12・ビタミンB6は、アミノ酸の一種であるホモシステインの代謝にも関わっています。
鉄やビタミンB12、ビタミンB6は肉や魚に多く、葉酸は緑黄色野菜や海藻、豆類などに多く含まれています。レバーは鉄も葉酸も豊富ですが、ビタミンA(レチノール)も非常に多く、妊娠中のとりすぎは避けたい食品なので、食べる量と頻度は控えめにしましょう。
食事で補いきれず貧血と診断された場合は、鉄剤が処方されることがあります。自己判断でサプリメントを重ねて飲むのではなく、健診で相談しましょう。また、妊娠中はリステリアやトキソプラズマなどによる食中毒に注意が必要なので、肉や魚は中心までよく火を通して食べるようにしましょう。
仕事中の眠気はどうする?
妊娠中の眠気はある程度仕方のないことですが、仕事中にうたた寝してしまうと、周りに誤解されることもあります。どうしても眠くなるときは、上司や同僚に今の体調を伝えておきましょう。
あわせて、ガムやタブレットを噛む、昼休みに短い仮眠を取る、ときどき席を立って体を動かすなどの工夫も役立ちます。眠気覚ましにコーヒーなどのカフェインに頼る場合は、とりすぎに注意が必要です。目安は妊婦の飲み物とカフェインで解説しています。
貧血やだるさ、眠れないことなどで仕事に支障が出ている場合は、「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を利用できます。これは、医師などから受けた指導の内容を勤務先に正確に伝えるためのカードです。カードに記載できる症状には、貧血・全身倦怠感・妊娠中の不眠なども含まれています。働く妊婦さんが提出した場合、事業主は男女雇用機会均等法にもとづき、休憩の延長や勤務時間の短縮などの措置を講じる必要があります[6]。カードは妊婦健診を受けている医療機関で書いてもらえるので、つらいときは遠慮せず相談しましょう。
妊娠中期に注意が必要な眠気以外の症状
妊娠中期の眠気の多くは生理的なものですが、「妊娠初期は平気だったのに、中期になってから眠気やだるさが強くなった」という方は、貧血が進んでいる可能性があります。そのほか、次のような症状がある場合は、早めに医師に相談しましょう。
⚠️ 妊婦健診で相談したい症状
- いびきがひどい、寝ている間に呼吸が止まっていると言われた:睡眠中に呼吸が浅くなったり止まったりする睡眠時呼吸障害の可能性があります。妊娠中の睡眠時呼吸障害は、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病と関連することが報告されています[4]。
- 夕方から夜に脚がむずむずして、じっとしていられず眠れない:むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)の可能性があります。妊婦さんの約21%にみられ、妊娠中期で約16%、後期で約22%と週数が進むほど多くなります[5]。鉄不足が関わることもあります。
- 何もやる気が起きない、気分の落ち込みが2週間以上続いている:妊娠中のうつの可能性があります。だるさや無気力が強い方は妊娠中期のだるさ・無気力もご覧ください。
頭痛が治まらない、目がチカチカする、急に顔や手がむくんだといった症状を伴う場合は、妊娠高血圧症候群の可能性もあるため、健診を待たずにかかりつけの産婦人科へ連絡してください。
妊娠初期は平気でも、週数が進むにつれて新たに現れる病気もあります。上記のような症状がある場合は、妊婦健診で医師や助産師に伝え、必要な検査や治療を受けましょう。
🩺 院長コラム【眠いのは「怠け」ではありません】
妊娠中期の眠気は、プロゲステロンが増え続けることや、血液が薄まって鉄が足りなくなりやすいことなど、体の仕組みから説明できる変化です。眠いことを「怠けている」と責める必要はないと考えています。
一方で、眠気の陰に貧血や睡眠中の呼吸の異常、むずむず脚、うつが隠れていることもあります。どれも健診で調べられ、対処の方法があるものです。「妊娠中だから仕方ない」で片づけずに、眠気以外の症状にも目を向けて相談することが大切だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠中期に眠いのは赤ちゃんに異常があるサインですか?
眠気そのものが赤ちゃんの異常のサインになることは考えにくいです。妊娠中期の眠気は、プロゲステロンの作用、妊娠による貧血、夜の睡眠が浅くなることなど、お母さんの体の変化で説明できることがほとんどです。ただし、頭痛やむくみ、ひどいいびき、気分の落ち込みなどを伴う場合は、妊婦健診で相談しましょう。
Q2. 妊婦が眠いときは寝てもいいですか?
眠いときに休むこと自体は問題ありません。昼寝は30分〜1時間程度にして、午後の早い時間に済ませると、夜の睡眠に響きにくくなります。長時間寝てばかりで体を動かさない生活が続くと、運動不足や体重の増えすぎにつながるので、体調がよい日は軽い運動も取り入れましょう。
Q3. 妊娠中期の眠気は貧血が原因のこともありますか?
あります。妊娠中は血液の液体成分が大きく増えて血液が薄まり、妊娠中期以降は赤ちゃんの成長のために鉄の需要も増えるため、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。WHOは妊婦の貧血をヘモグロビン値11g/dL未満と定義しています。妊婦健診の血液検査の結果を確認し、だるさや息切れが強いときは医師に相談しましょう。
まとめ
妊娠中期に眠いのは、眠気を起こすプロゲステロンが妊娠中期以降も増え続けること、血液が薄まり鉄も不足しやすくなる妊娠中の貧血、お腹が大きくなって夜の睡眠が浅くなることが重なるためです。眠気そのものが赤ちゃんの異常のサインになることは考えにくいでしょう。
寝ること自体が難産の原因になるわけではありませんが、寝てばかりで体を動かさない生活は、運動不足や体重の増えすぎにつながります。軽い運動、短めの昼寝、鉄を意識した食事で生活リズムを整えつつ、「夜に眠れなくても昼寝で補おう」と柔軟に考えることも大切です。
ひどいいびき、脚のむずむず、2週間以上続く気分の落ち込み、頭痛やむくみなど、眠気以外にも気になる症状があれば、かかりつけの産婦人科で相談し、心身ともに健康な妊娠生活を送りましょう。
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参考文献
- [1] Mindell JA, Cook RA, Nikolovski J. Sleep patterns and sleep disturbances across pregnancy. Sleep Med. 2015;16(4):483-488. [DOI]
- [2] Anaemia. Nutrition Landscape Information System (NLiS). World Health Organization. [WHO]
- [3] Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period. ACOG Committee Opinion No. 804. Obstet Gynecol. 2020;135(4):e178-e188. [ACOG]
- [4] Facco FL, Parker CB, Reddy UM, et al. Association Between Sleep-Disordered Breathing and Hypertensive Disorders of Pregnancy and Gestational Diabetes Mellitus. Obstet Gynecol. 2017;129(1):31-41. [PubMed 27926645]
- [5] Chen SJ, Shi L, Bao YP, et al. Prevalence of restless legs syndrome during pregnancy: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2018;40:43-54. [PubMed 29169861]
- [6] 厚生労働省. 母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)について. 働く女性の心とからだの応援サイト. [厚生労働省]





