目次
親から遺伝する要素は、遺伝子によって制御され、見た目、性格、および一部の疾患リスクに影響を及ぼす可能性があります。見た目は髪の色、目の色、身長などが含まれ、親の遺伝情報に基づいて形成されます。また、一部の疾患や遺伝性疾患は親から子供に遺伝する可能性があります。しかし、多くの疾患は複数の遺伝子と環境要因に影響され、単純な遺伝だけでは説明できないこともあります。遺伝情報は一要素であり、疾患や特性の発症には複雑な相互作用が関与します。
遺伝とは?
遺伝とは、生物の特性や特徴が親から子へ遺伝情報が伝達される過程を指します。この過程では、遺伝情報が遺伝子やエピゲノムという形で親から子供に受け継がれます。遺伝は、生物学的特性や特性の伝承に重要な役割を果たし、個体の形態、性格、生理学的な機能、健康、疾患のリスクなどに影響を与えます。遺伝情報はDNA中にコードされていますが、最近ではDNAの外側でDNAを修飾しているエピゲノムもまた遺伝情報として受け継がれることがわかってきています。遺伝の理解は、生物学や医学分野において重要であり、家族の特性や遺伝性疾患の研究に貢献しています。
遺伝子とDNAのちがいとは
遺伝子とDNAは同じ文脈で語られることが多いのですが、実際には全く違います。染色体をほぐしていくと、1本の糸になるのですが、これ全体をゲノムと言います。ゲノムを構成するのがDNA(デオキシリボ核酸)です。DNAは二本鎖の長い分子で、それぞれの鎖は塩基とデオキシリボース(糖分子)とリン酸から構成されたヌクレオチドと呼ばれる最小単位からなります。ヌクレオチドはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、およびチミン(T)という四つの塩基のいずれかで構成されます。
つまり、ゲノムはDNAで構成されていますが、ゲノムの中のたった2%の部分を特別に遺伝子と呼びます。遺伝子は特定のタンパク質やRNA(リボ核酸)の合成に必要な情報を含んでいます。この情報は遺伝子の塩基配列によってコードされ、特定のアミノ酸の配列やRNA分子の合成を指示します。遺伝子によってコードされる情報は、タンパク質合成のための指令を含みます。タンパク質は生物の細胞機能の主要な要素であり、酵素、骨、筋肉、ホルモンなどの生体内のさまざまな機能に関与します。
遺伝子に異なるバリアントや変異が生じると、個体間の遺伝的多様性をもたらします。これは進化や環境への適応に影響を与えます。遺伝子は、DNAの特定の部分で、生物の特性や特徴を制御するための情報を含んでいます。遺伝子はDNA上で特定の塩基配列にコードされており、それぞれの遺伝子は特定の生物学的機能やタンパク質の合成に関与します。遺伝子は、生物の形態、性格、生理学的なプロセス、疾患の発症に影響を与えます。
簡単に言えば、DNAは生物の遺伝情報の全体であり、遺伝子はその中のタンパクをつくる設計図に特化した部分です。遺伝子はDNA内に存在し、DNAは遺伝子の情報を格納しています。
遺伝子は生物学や遺伝学の中心的な概念であり、遺伝情報の理解と研究が生物学の進歩や遺伝性疾患の理解に重要な役割を果たしています。遺伝子の相互作用や遺伝子の機能についての研究は、生命科学分野において重要な役割を果たしています。
優性遺伝と劣性遺伝(顕性遺伝と潜性遺伝)
優性遺伝と劣性遺伝は、遺伝学における重要な概念で、遺伝子が特定の特性を制御する方法に関連しています。
- 優性遺伝(顕性遺伝)
- 優性遺伝は、特定の遺伝子が他の遺伝子よりも支配的である場合を指します。これは、優性遺伝子が存在する場合、その特性が表れることを意味します。優性遺伝子が一つでも存在すると、それに関連する特性は現れます。優性遺伝子は通常、大文字で表され、例えば「A」です。優性遺伝の例として、茶色い目の色が優性遺伝であることが挙げられます。親の一方が茶色目の遺伝子(A)を持ち、もう一方が青の目の遺伝子(a)を持つ場合、子供(Aa)は茶色い目になります。
- 劣性遺伝(潜性遺伝)
- 劣性遺伝は、特定の遺伝子が他の遺伝子に対して支配的でない場合を指します。これは、劣性遺伝子が存在する場合、その特性は現れません。劣性遺伝子は通常、小文字で表され、例えば「a」です。劣性遺伝の例として、青色の目の色が劣性遺伝であることが挙げられます。現れる現象を形質といいます。劣性形質が発現するには、その人の遺伝子2つともが劣性形質の遺伝子でなければなりませんので、青い目の人は、aaという遺伝子を持つことになります。茶色い目の人はの遺伝子のタイプはAA Aaの2通りです。AAとaaの組み合わせからは、aaはうまれませんので、青い目のお子さんは出来ません。aaとAaの組み合わせならば1/4の確率で青い眼のお子さんができる可能性があります。
優性遺伝と劣性遺伝は、遺伝子の相互作用と特定の遺伝的特性の理解に重要な役割を果たします。遺伝学的な法則や遺伝情報の伝達において、優性と劣性の概念は重要な基盤を提供します。
親から遺伝するものとは?
親から子への遺伝情報の伝達により、さまざまな特性や特徴が受け継がれます。
おもに親から遺伝すると言われているものの一覧
一般的に、親から子へ遺伝的に伝わる特性として以下のものが挙げられます。
- 遺伝子性疾患
- 特定の遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の疾患や病気が親から子へ伝わる可能性があります。例えば、システィック線状症、ヘモフィリア、先天性無毛症などが含まれます。
- 血液型
- ABO血液型やRh因子など、血液型は親から子へ遺伝的に伝わる特性です。
- 身体的特性
- 身長、体重、髪の色、目の色などの身体的特性は親から子への遺伝に影響を受けることがあります。
- 遺伝的性格特性
- 性格特性や嗜好も遺伝的に伝わる可能性があり、親から子への遺伝に影響を与えます。
- 遺伝的傾向
- 特定の疾患や疾患のリスクに対する遺伝的傾向も親から子へ遺伝することがあります。例えば、糖尿病、高血圧、心臓病など。
- 遺伝的免疫性
- 免疫系に関連する遺伝的要因は感染症への感受性に影響を与える可能性があります。
- 遺伝的な生活習慣
- 食事習慣、運動習慣、喫煙、アルコール摂取などの生活習慣に対する遺伝的影響も考慮されます。
- 遺伝的な傾向
- ある特性や特徴の遺伝的な傾向は、家族内で共有されることがあります。例えば、音楽の才能や芸術的な能力など。
これらは親から子へ遺伝的に伝わる要因の一部であり、遺伝学の研究はこれらの遺伝的影響を理解するのに役立ちます。遺伝情報は個体差や遺伝的多様性をもたらし、生物の多様性と適応力に寄与します。また、これらの形質には、環境要因も影響を与えるので、遺伝だけで決定されるわけではありません。
子どもの顔貌に、両親の顔立ちはどのように影響する?
身長
個人の身長の約80パーセントは、その人が受け継いできたDNA配列のバリアントによって決定されると推定されています。これらの変異がどの遺伝子に存在し、それが身長に影響を与えるのかについて、わかっていることはまだほんの一部です。
FGFR3遺伝子の変異体は、低身長を特徴とするまれな状態である軟骨無形成症を引き起こす、といったように、身長との関係がはっきりしている遺伝子もいくつかあります。
一般的なヒトの形質や疾患のほとんどは、多遺伝子遺伝のパターンを持っていて、多くの遺伝子座におけるDNA配列変異が表現型に影響を及ぼします。ゲノムワイド関連研究(GWAS)により、ヒトの形質と関連する600以上のバリアントが同定されました。183,727人を用いて、少なくとも180の遺伝子座における数百の遺伝的変異が、遺伝性の高い典型的な多遺伝子形質である成人身長に影響を及ぼすことを示した研究からは、多数の遺伝子座から、一般的なヒトの疾患や形質の遺伝学的研究にとって重要な意味を持つパターンが明らかになりました。身長に関係する180の遺伝子座はランダムではなく、生物学的パスウェイでつながっており、骨格の成長障害の根底にある遺伝子に富んでいました。さらに、関連バリアントは遺伝子に機能的な影響を与える可能性が高く、タンパク質のアミノ酸構造や近傍遺伝子の発現レベルを変化させるバリアントが多く見られています。
鼻のかたち
鼻の形は遺伝的要因によって影響を受けます。ある研究報告によると、幅広い鼻の形は88.4%で、狭い鼻の形11.6%より多いものでした。男性の約46.9%が幅広鼻であったのに対し、女性は41.5%でしたので、男女の差はないと考えられます。このことから、鼻の小ささ(狭さ)は劣性形質と言えます。遺伝学的に、鼻の形状は両親から子供に伝えられる特性であり、遺伝子によって制御されます。以下は鼻の形状に関する遺伝学的要因の概要です。
- 多因子遺伝
- 鼻の形状は多因子遺伝の影響を受けることが一般的です。多因子遺伝は複数の遺伝子が特定の特性を制御する現象で、複雑な遺伝的要因によって鼻の形状が決まります。GLI3とPAX1はともに軟骨の成長に関与していることが知られており、鼻の穴の広さに関係していることが報告されています。DCHS2も軟骨に関連しており、鼻の尖りを制御しています。RUNX2は骨の発達を促進し、鼻の上部である鼻梁の幅に関連しています。このように鼻の形に影響を及ぼす遺伝子は複数あります。
- 遺伝子の組み合わせ
- 両親から受け継いだ遺伝子の組み合わせが、子供の鼻の形状を決定します。両親が似た鼻の形状を持つ場合、子供も似たような鼻の形状を持つ可能性が高いです。
- 優性遺伝と劣性遺伝
- 特定の鼻の形状を制御する遺伝子は、優性または劣性の性質を持つことがあります。優性遺伝子が劣性遺伝子よりも支配的である場合、それに関連する鼻の形状が子供に現れやすくなります。
- 遺伝子多様性
- 鼻の形状に関与する遺伝子の多様性により、人々の鼻の形状は異なります。さまざまな遺伝的要因によって、鼻の形状が多様であることが一般的です。
遺伝学的には、鼻の形状は両親の遺伝子の組み合わせによって決まり、遺伝子の相互作用によっても影響を受けることがあります。ただし、環境要因やランダムな変異も鼻の形状に影響を与えることが考えられます。したがって、鼻の形状は遺伝と環境の相互作用によって形成される複雑な特性です。
目の特徴
二重まぶた、一重まぶた
目の特徴で一番気になるのは、二重瞼かどうかという事でしょうか。
二重まぶたと一重瞼の違いは、瞼板(けんばん)という上眼瞼のきわにある軟骨の枠の中に上眼瞼拳筋と言われる眼を開ける筋肉がついているのですが、この筋肉が、2つにわかれて、上瞼の皮膚にもついている人は、瞼板と上瞼皮膚の二カ所で瞼を引き上げるので、二重まぶたになる、一重の人は瞼板にだけ上眼瞼挙筋がついている、ということで違いがでるのです。
二重まぶたという形質は優性遺伝で、片親が受け継ぐだけで二重まぶたになります。一方、一重まぶたは劣性遺伝形質で、まぶたのしわがない子供が生まれるには、両親の両方から劣性形質を受け継ぐ必要があります。二重をA、一重をaaとすると、二重の人はAA Aaの二つの可能性があります。二重同士でもAaどうしならば1/4でaaの一重のおこさんが生まれる可能性があります。逆に、一重はaa同士なので、aaのお子さんしか生まれません。
眼の色
目の色の遺伝学は複雑で、以前考えられていたのとは違い、青色は複数の遺伝子によって決定されることがわかりました。目の色遺伝子には、EYCL1 (緑/青の目の色遺伝子)、EYCL2 (茶色の目の色遺伝子)、および EYCL3 (茶色/青色の目の色遺伝子) が含まれます。青い目の色は単純な劣性形質であるというかつて定説は誤りであることが判明しました。目の色の遺伝学は非常に複雑であるため、親子の目の色の組み合わせはほぼすべて発生する可能性があります。
髪の毛の特徴
髪質
髪質、つまり、ストレート、ウェーブ、カールや髪一本一本の太さの決定には、遺伝的要因が大きな役割を果たしているようです。髪の質感やカールのパターンは遺伝的な特性であることが確認されています。異なる民族の背景を持つ人々において、異なる遺伝子が髪質と髪の太さに影響を与えていることを示唆する研究があります。
巻き毛は優性遺伝形質と考えられています。直毛は劣性形質と考えられています。簡単に言うと、片親が巻き毛の遺伝子を、もう片親が直毛の遺伝子を与えた場合、巻き毛で生まれてくるということです。
しかし、巻き毛は多因子遺伝、つまり、相加的な形質であり、髪のカールの度合いは、持っている遺伝的変異の数によって決まります。あなたが巻き毛の場合、あなたの子供も巻き毛になる可能性が高くなりますが、確実に巻き毛になるというわけではありません。巻き毛の形質は、髪の質感とカールに影響を与える遺伝子をどれくらい持っているのかが一番影響を受けます。ストレートヘアの親がカーリーヘアの子供を持つことは珍しいことではなく、その逆も同様です。
遺伝子は巻き毛の質感にどのような影響を与えるのでしょうか?
ストレートヘアかカーリーヘアかは、眉毛の太さにも影響を与える同じ EDAR 遺伝子に関連していることがわかっています。11,000人以上の日本人女性を対象とした2018年のゲノムワイド関連研究では、髪の質感を含むさまざまな身体的特徴の遺伝的要因が判明しました。EDAR遺伝子の統計的に有意な遺伝子座が変異している場合、外胚葉異形成 (髪、歯、皮膚、腺に異常を引き起こす可能性がある) などの症状と関連しています。
髪の色
髪の色は、髪に含まれるメラニンという色素の量によって決まります。ユーメラニンと呼ばれるメラニンの一種が豊富にあると、人の髪は黒色または茶色になります。フェオメラニンと呼ばれる別の色素が豊富に含まれているため、髪が赤くなります。
毛髪のメラニンの種類と量は多くの遺伝子によって決定されますが、そのほとんどについてはほとんどわかっていません。人間の髪の色の遺伝子は最もよく研究されており、MC1Rと呼ばれます。この遺伝子は、メラニンを生成する経路に関与するメラノコルチン1受容体をコードしています。メラノコルチン1受容体は、メラノサイトによってどのタイプのメラニンが生成されるかを制御します。受容体が活性化されると、メラノサイト内でユーメラニンの生成が刺激されます。受容体が不活性な場合、メラノサイトはフェオメラニンを生成します。
髪の黒い人は、大量のユーメラニンを持っています。ブロンドの人はユーメラニンが非常に少なくなっています。赤色の人は、大部分がフェオメラニンで、少量のユーメラニンにより構成されています。
ほとんどの人は、MC1R遺伝子の活性化タイプのコピーを2つ持っており、それぞれの親から1つずつ受け継がれています。彼らはユーメラニンの量が多いため、黒または茶色の髪をしています。これが、世界の90パーセント以上の人々が茶色または黒色の髪をしている理由と考えられています。
脱毛
もちろん他の要因も影響しますが、男性の脱毛を決定する最大の要因は遺伝です。
脱毛と深く関係する遺伝子であるアンドロゲン受容体遺伝子はX染色体にあるため、これは、男性だと必ず母親側から受け継いでいます。
男性のハゲは、X染色体上にあるアンドロゲンリセプター遺伝子強く関連しています。ヨーロッパ人の祖先を持つ男性12,806人を対象とした大規模な研究によると、この遺伝子を持つ人は持たない人に比べ、MPBを発症するリスクが2倍以上であることがわかりました(文献)。ですので、母親の父親、つまり母方祖父が脱毛している場合は、本人の脱毛リスクは高くなります。
しかし、ハゲるかどうかを決める遺伝子はこれだけではありません。研究では、父親が禿げている男性の方が男性型脱毛症になるリスクが高いこともわかっています。2017年の研究では、男性型脱毛症に関与する可能性のある63の遺伝子が見つかりました。そのうちX染色体上あったのは6遺伝子だけでした。また、顕著なハゲを経験した人の80%以上が、父親も髪を失っていることがわかった。
アンドロゲン受容体遺伝子の遺伝に加えて、時間の経過とともに毛包の縮小を引き起こすホルモンである DHT (ジヒドロテストステロン) に対する感受性も遺伝することがわかってきました。これも脱毛につながります。
ジヒドロテストステロンは、テストステロンと呼ばれる男性ホルモンが、体内の還元酵素5αリダクターゼと結合することでできます。テストステロンは、受容体のアンドロゲンレセプターと結合することで、髪、髭、体毛に対して毛を太く成長させたりする作用があります。
女性型の脱毛については、アロマターゼと呼ばれる酵素の産生をコードする遺伝子が、関与している可能性があると言われています。
耳の特徴
各人の耳の大きさと形は、髪の生え際や耳たぶの形状と同様、両親から受け継いだ遺伝子の影響を受けます。
耳の形、大きさ、突出具合に影響を与える遺伝子を両親から受け継ぐ。親から子へと受け継がれる、大きく突き出た耳は珍しいことではありません。
たとえば、耳たぶが遊離しているのか(耳たぶと付け根の間に切れ込みがある)、耳たぶが付着しているのか(耳たぶと付け根の間に切れ込みがなく移行)は、一つの常染色体の遺伝が決めています。優性は遊離、劣性は付着しているタイプです。
子どもの性格と親の性格は似るのか?
ほとんどの性格特性では、親と子供の性格特性スコア間の相関は0.15 程度です(出典)。相関関係が 0.15であれば、特定の子供とその親が同様のスコアを獲得する確率は約38%になります。これは、まったく知らない人でも同様のスコアが得られる確率 33パーセントよりもわずか数パーセント高いだけということを意味しています。したがって、子供と親が共有する遺伝子は、見知らぬ二人の子供よりもはるかに似ているわけではありません。遺伝子が人の性格特性をどのように形成するかはまだまだ研究途上にあります。
一般的に親子の類似性が低いことは、双子の研究で得られた別のよく知られた発見とも一致しています。一卵性双生児は全く同じDNAを持っていますが、全く同じではありません。双子はそれぞれ独自の性格、才能、好き嫌いを持っています。関節炎、糖尿病、自閉症、統合失調症、がんなど、片方の双子には現れるがもう片方には現れない病気さえある。
遺伝により決定されやすいとされる気質
気質の20~60% は遺伝によって決定されると推定されています。しかし、気質には明確な遺伝パターンはなく、特定の気質特性を与える特定の遺伝子もありません。その代わりに、おそらく数千の一般的な遺伝子バリアント(多型)が組み合わされて、個々の気質の特徴に影響を与えると考えられています。DNA配列を変えない他のDNA修飾 (エピジェネティックな変化) も気質に寄与する可能性があります。
気質に関与するいくつかの遺伝子が特定されており、これらの多くは、脳内の細胞間の情報伝達に関与しています。特定の遺伝子のバリアントは、気質に関連する特定の形質に寄与する可能性があります。たとえば、DRD2遺伝子とDRD4遺伝子の変異は、重要な気質や新しい経験に対する熱意に寄与すると言われています。KATNAL2遺伝子の変異が、自己規律や注意深さといった気質の特徴と関連していることがわかっています。外向性はWSCD2およびPCDH15付近の変異体と関連し、神経症傾向は染色体8p23.1およびL3MBTL2の変異体と関連が報告されています。特定の神経伝達物質による影響という点では、モノアミン酸化酵素A(MAOA)と環境の相互作用が反社会的行動/攻撃的行動に及ぼす影響は、児童虐待に特異的です。SLC6A4、AGBL2、BAIAP2、CELF4、L3MBTL2、LINGO2、XKR6、ZC3H7B、OLFM4、MEF2C、TMEM161B、PDE4Bなどのいくつかの遺伝子のバリアントは、不安やうつ病の原因となります。
環境要因も遺伝子の活性に影響を与えることにより、気質に影響を及ぼします。不利な環境(児童虐待や暴力など)で育った子どもでは、衝動的な気質のリスクを高める遺伝子がオン(活性化)される可能性があります。しかし、ポジティブな環境(安全で愛情に満ちた家など)で育った子供は、異なる遺伝子セットが活性化されることもあり、より穏やかな気質を持つ可能性があります。
好奇心
約20%は、DRD4-7Rとして知られる「好奇心旺盛な遺伝子」を持っています。科学的研究によると、DRD4-7R はより高いレベルの好奇心と関連しています。
ドーパミンは、ヒトの脳内の報酬と快楽の中枢を制御する化学物質です。楽しいことを経験すると、ドーパミンが放出され、脳がそのことを喜びと結びつけます。ほとんどの人は、おいしいものを食べる、楽しい思い出の写真を見る、といった小さなことからドーパミンを補充できます。
しかし、ドーパミンに対する感受性が低くて、ドーパミンの放出を増やすために、より大きくて刺激的な経験をする必要がある人もいます。DRD4-7Rバリアントがドーパミン感受性の低下に関連していることが示されています。これは、変異を持つ人々がより危険な行動を示すように見える理由を説明する可能性があります。旅行や放浪癖も含まれますが、遺伝子変異は薬物使用や経済的リスクなどとも関連しています。好奇心、落ち着きのなさ、情熱との関連性が判明しています。
心配性
米国心理学会 (APA) は、心配を「差し迫った、または予想される出来事、脅威、または危険に対する懸念による精神的苦痛または動揺の状態」と定義しています。コントロールが難しく、持続的で過剰な心配は、全般性不安障害の主な症状です。
それでは、心配性な性格は遺伝するのでしょうか?
不安は遺伝の影響を受けることを示す明確な研究があります。実際、専門家は、DNA や遺伝子の仕組みを理解する前から、家族のつながりが不安の原因であることに気づいていました。
近親者に不安症の人がいる場合、不安症を発症する可能性は、そうでない場合に比べて約2 ~6倍高くなります。不安症を抱えた一卵性双生児がいる場合、遺伝的性質が同じであるため、たとえ彼らが別々異なる家庭環境で育ったとしても、リスクはさらに高くなるでしょう。
最近では、特定の遺伝子には不安を発症するリスクがあり、遺伝子は環境因子に基づいて発現したりしなかったりとオンオフする可能性があることが示されています。不安症のような複雑な病気は、おそらく、遺伝し活性化された遺伝子のパターンに依存します。
また、遺伝子のオンオフは、遺伝子近傍のコントロールする部位だけではなく、エピジェネティクスにより制御されており、エピジェネティクスも遺伝するといわれているため、将来的にはもっと明らかになることが増えていくでしょう。
社会性・愛着
顔を認識する機能は、敵と味方を区別し、社会性を促進するためにも重要です。顔を認識する能力が家族に受け継がれているかどうかを調べた研究によると、遺伝子が100%共有されている一卵性双生児は、遺伝子が50%しか共有されていない二卵性双生児よりも顔認識能力が類似しているとわかりました。これは、顔を認識する能力が遺伝と関係があることを示すものです。
しかし、ソーシャル・スキルは全般としては、遺伝的素質と環境の影響の産物です。遺伝子が基礎的な枠組みを提供する一方で、経験や相互作用を通じてこそ、私たちはこれらの不可欠なスキルを真に発達させ、磨くことができるのです。社会性の獲得は社会の中で相互作用を通じて獲得されます。
愛着は、幼少期の絆体験に根ざしていると理論づけられており、成人の認知機能、感情機能、対人機能に影響を与えます。遺伝子研究によると、成人の不安型愛着スタイルの変動の最大 45% と回避型愛着スタイルの最大 39% が遺伝的原因によって説明できる可能性がありますが、正確なメカニズムはまだ不明です。(文献)
固執
固執は一つのことに執着することを指します。現在のところ、固執と関係のある遺伝子は報告されていません。
性格は遺伝によって全部決定されない
生まれつきである遺伝と、育ちかた(環境)の両方が性格に影響を与えるのですが、大規模な双子の研究では強い遺伝的要素があることが示唆されています。
2018年の研究では、700を超える遺伝子間の相互作用が文化や環境の影響よりも特定の性格特性に大きな影響を与えていると結論づけられました。
正確な程度は特性によって異なりますが、遺伝は性格に影響を与えます。双子と養子縁組の研究では、人間の性格は約30~60%遺伝することが示されています。
これは、環境が人格形成に役割を果たしていないという意味ではありません。性格特性は複雑で、研究では遺伝的要因と環境的要因が特性を形成することが示唆されています。
先天性疾患は子どもに遺伝するの?
先天性疾患は、遺伝的要因によって子供に伝えられることがあります。遺伝的な要因にはいくつかの種類があり、それぞれの遺伝子伝達パターンに応じて異なります。
遺伝性の疾患は非常に多様で、疾患のタイプによって伝達パターンが異なります。疾患の具体的な遺伝学的要因については、医師や遺伝カウンセラーと相談することが重要です。また、家族歴や遺伝子検査などが遺伝性疾患のリスク評価に役立つことがあります。
常染色体優性遺伝病
この疾患は、患者が1つの病的遺伝子アレルを持つ場合に子供に伝えられる可能性があります。片方の親がこの病的遺伝子を保有している場合、子供に伝達されるリスクは50%です。
常染色体劣性遺伝病
このタイプの疾患は、患者が2つの病的バリアントを持つ場合に子供が発症する可能性があります。両親がこの疾患のキャリア(無症候で病的遺伝子を保有している)である場合、子供が感染するリスクは25%です。
X連鎖遺伝病
この疾患は、X染色体に存在する遺伝子に関連しています。男性は通常、XとY染色体を持ち、女性は2つのX染色体を持ちます。男性がX連鎖遺伝病の病的遺伝子を補油しているということは、発症しているので、男性はキャリアとはなりえません。X連鎖の場合、病的遺伝子は女性から娘または息子に伝えられ、娘はキャリアとなり(50%)、息子は疾患を発症(50%)します。
鬱や糖尿病は遺伝する?多因子遺伝とは
糖尿病は家族内で遺伝する傾向があります。それはこの病気に遺伝的原因があることを意味するのではないかと疑問に思うかもしれませんが、糖尿病の種類や食事、ライフスタイル、環境などのその他の要因によって異なります。糖尿病を患うほとんどの人にとって、それは直接的な遺伝的要因や環境的要因によるものではなく、両方が合わさっています。
うつ病は多遺伝子性・多因子性疾患であり、環境による影響も大きいのですが、ほとんどの遺伝学的研究はストレス因子の影響を考慮しておらず、このことが、候補遺伝子研究、GWAS、ヒト研究と動物モデルの間で再現性のある結果が得られない原因のひとつであると考えられています。うつ病の多因子性原因とは、生物学的、遺伝的、環境的、心理社会的要因を含む多因子性であると考えられている。うつ病の遺伝率はおそらく40~50%で、重度のうつ病ではもっと高いと考えられています。うつ病のほとんどの場合、原因の約50%は遺伝的なものであり、約50%は遺伝子とは無関係なもの心理的または身体的要因ということになります。
多因子遺伝とは、先天性異常や慢性疾患などの形質や健康上の問題を引き起こす要因が1つ以上あることを言います。遺伝子が要因になることもありますが、たとえば栄養など、遺伝子以外のものも関与することがあります。
赤ちゃんが生まれてくる前に、先天性の疾患がないか調べたいときは?
赤ちゃんが生まれてくる前に、先天性の疾患や遺伝的リスクについて調査することができます。以下は、先天性疾患のスクリーニングや評価に関するいくつかの一般的な方法です。
- 妊婦検診
- 妊娠中には、定期的な妊婦健康診断を受けることが重要です。医師や助産師は、胎児の健康状態をモニターし、異常がある場合に早期に対処する手助けをします。
- 超音波検査
- 超音波検査は、胎児の発育と構造を評価するために使用されます。医師は、超音波画像を通じて異常や奇形の兆候を検出し、必要に応じて追加の評価を提案することがあります。
- 遺伝カウンセリング
- 家族歴や遺伝的リスクの評価を通じて、遺伝専門医(遺伝カウンセラー)が家族に遺伝性疾患のリスクを説明し、テストオプションや遺伝カウンセリングを提供することがあります。
- NIPT
- 母体の血液検査によって、胎児の遺伝的リスクを評価するために行われます。
- 絨毛膜検査、羊水検査
- 胎児の染色体異常や遺伝的異常を検出するために行われる侵襲的な検査です。
これらの方法は、特定の疾患や異常を検出するために使用されますが、リスクを評価し、必要に応じて追加の検査やカウンセリングを提供することも含まれます。適切なスクリーニングおよび評価のために、医師との相談が非常に重要です。
非確定検査を受けるならNIPT(新型出生前診断)を
非確定検査のなかでは、NIPTが早期からできるという点と、精度がほかの検査よりはるかに高いことからおすすめされます。
NIPT(新型出生前診断)とは?
NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing、非侵襲的出生前診断)は、妊娠中の胎児の染色体異常や遺伝的異常を検出するための先進的な検査方法の一つです。NIPTは、母体の血液サンプルを使用して行われ、胎児のDNA断片を分析して遺伝的異常の兆候を評価します。このテストは、非侵襲的で、無害であるため、より伝統的な出生前診断手法よりも広く利用されています。
NIPTは通常、以下の目的で使用されます
- トリソミーのスクリーニング
- NIPTは、トリソミー21(ダウン症)、トリソミー18(エドワーズ症候群)、トリソミー13(パータウ症候群)など、主要な染色体異常のスクリーニングに使用されます。これらの疾患は、追加の染色体コピーが存在することによって特徴づけられます。
- 性染色体異常のスクリーニング
- NIPTは、性染色体異常(例:ターナー症候群、クラインフェルター症候群)のスクリーニングにも使用されます。性染色体異常は通常、性別に関連する遺伝的異常を示します。
- その他の遺伝的異常のスクリーニング
- NIPTは、その他の遺伝的異常、例えば微小欠失症候群(microdeletion syndromes)などに対するスクリーニングにも使用されることがあります。
NIPTは非侵襲的で、母体の血液サンプルの採取だけで行えます。絨毛膜検査や羊水検査のような侵襲的な出生前診断と比較して、リスクが低く、母体や胎児に対する合併症のリスクが少ないとされています。ただし、NIPTはスクリーニングテストであるため、陽性の結果を受けた場合、確定診断のために追加の検査が必要です。
NIPTは妊娠初期から利用可能で、妊娠中の遺伝的異常に関する情報を提供するために広く利用されています。ただし、この検査には費用がかかる場合があり、医療保険の対象となることは異なりますので、医師と相談し、適切な選択を行うことが重要です。
NIPTを受けるならミネルバクリニックで
ミネルバクリニックでは、遺伝のスペシャリストである臨床遺伝専門医が常駐し、皆様の不安に丁寧に寄り添っています。NIPTはセンシティブな検査ですので、しっかりと遺伝カウンセリングを受けることのできるミネルバクリニックでぜひお受けください。
まとめ
親から子へ遺伝するものについてトピックスをまとめてみました。
親から子へ遺伝するものには、遺伝子や染色体が含まれます。遺伝子は生物の特定の特徴や特性を決定する情報を持っており、親から子供へと伝えられます。これには外見や体格、特定の疾患へのリスクなどが含まれます。染色体は遺伝子を含んでおり、通常は親から子へと受け継がれます。人間は通常、23対の染色体を持ち、そのうちの1対は性染色体です。性染色体の組み合わせによって、子供の性別が決まります。遺伝子や染色体の情報は、子供の遺伝的な特性や傾向を形成し、家族間で共有される要素となります。ただし、環境要因や突然変異も遺伝以外の要因として影響を与えることがあります。