目次
妊娠初期の出血は、妊婦さんのおよそ4人に1人が経験します[1]。ティッシュにつく程度の少量の出血や茶色いおりもの(茶おり)は、その後も妊娠が続くことの多い出血です。一方で、生理2日目を超えるような量の鮮血、レバー状の血の塊、強い腹痛を伴う出血は、夜間や休日でもかかりつけの産婦人科へ連絡が必要です。この記事では、出血の色と量の見方、主な原因、出血があっても無事に出産できるケース、受診までにしておくことを解説します。「写真で確かめたい」という声が多いテーマですが、見え方は光や下着の色で大きく変わるため、写真は載せず、色と量は言葉と図で説明します。
Q. 妊娠初期に出血しました。赤ちゃんは大丈夫ですか?
A. 少量の出血や点状の出血は流産と関連しないという研究があり、心拍が確認できた後に出血した人でも、およそ9割は妊娠が続いています[1][2]。ただし、出血の原因は見た目だけでは分かりません。生理並み以上の量、塊、強い腹痛・片側の痛み・肩の痛み、ふらつきがあるときは、すぐに受診先へ連絡してください。
- ➤頻度 → 妊娠初期の出血は約4人に1人が経験する
- ➤色 → 茶色は時間がたった血、鮮血はいま出ている血。色だけでは安全か危険かは決まらない
- ➤量と痛み → 判断の中心。生理並み以上の量や痛みを伴う出血は流産リスクが上がる
- ➤原因 → 着床のころの出血、子宮の入り口からの出血、絨毛膜下血腫、流産、異所性妊娠、胞状奇胎など
- ➤遺伝の視点 → 初期流産の多くは赤ちゃんの染色体の偶然の変化で、お母さんの行動が原因ではない
1. 妊娠初期の出血はよくある?出血しても無事に出産できる?
妊娠初期に出血する人はどれくらい?
妊娠初期(おおむね妊娠13週ごろまで)に出血を経験する人は、約4人に1人です。米国で妊婦4,510人を追跡した研究では、27%が妊娠初期に何らかの出血または点状の出血を報告していました[1]。家庭医向けの総説でも、妊娠初期の出血は妊婦の約4分の1にみられるとされています[3]。
同じ研究で、出血した人のうち「多量だった」と答えたのは8%で、大部分は少量でした[1]。妊娠すると子宮の入り口(子宮頸部)の血流が増え、組織がやわらかくなるため、内診や性行為、排便でいきんだときなどのわずかな刺激でも出血しやすくなります[4]。出血があること自体は珍しくありません。ただし、どこから、なぜ出血しているのかは見た目では分からないため、最終的には診察と超音波検査で確認します。
出血があっても妊娠が続くことは多い:心拍が確認できた後の見通し
超音波で赤ちゃんの心拍が確認できた後に出血した場合でも、多くの研究で大半の妊娠は続いています。出血して受診し、子宮の中に心拍のある赤ちゃんが1人確認された370人を追跡した英国の研究では、流産に至ったのは11.1%で、およそ9割は妊娠が続きました[2]。タイの研究では、心拍確認後に出血した人の流産率は5.5%で、出血のない人の1.88%より高かったものの、大部分は妊娠が続いています[5]。妊娠6〜14週に心拍を確認した347人の研究でも、流産率は出血なしで4.2%、出血ありで12.7%でした[6]。
数字が研究ごとに5〜13%程度と幅があるのは、対象となった人の出血の量、痛み、週数などが違うためです。英国の研究では、中等量から多量の出血があった人の流産率は、少量の人の2倍を超えていました[2]。これらは集団でみた傾向で、一人ひとりの確率を示すものではありません。心拍の速さと経過の関係は、胎児心拍数と流産リスクの関係で解説しています。
「生理のような出血」でも流産とは限らない
生理と同じくらいの量の出血でも、それだけで流産と決まるわけではありません。先の米国の研究では、点状の出血や少量の出血は流産と関連していませんでした。一方、生理と同程度かそれ以上の多量の出血があった人は、出血のなかった人と比べて流産のリスクが約3倍で、痛みを伴う場合に関連が強くなっていました[1]。
つまり、生理のような出血は「流産の可能性が高まっているサイン」ではありますが、「流産が確定したサイン」ではありません。絨毛膜下血腫のように、量が多く出ても妊娠が続く原因もあります。生理並みの出血があったときは、様子を見ずにかかりつけの産婦人科へ連絡し、超音波で赤ちゃんの状態を確認してもらってください。妊娠に気づく前の時期に「生理だと思っていたら妊娠していた」というケースは、生理みたいな量でも妊娠していた体験談で扱っています。
2. すぐ連絡・受診すべき出血のサイン【緊急度チェック】
出血したときに最初に判断したいのは、色よりも「今すぐ連絡が必要な状態かどうか」です。判断の中心になるのは、出血の量、痛みの強さと場所、ふらつきなど体全体の変化です。生理と同じくらいかそれ以上の出血や、痛みを伴う出血は、流産のリスクが高い状態として扱われます[3]。以下の3段階を目安にしてください。
今すぐ連絡(夜間・休日でも)
🚨 今すぐ受診先へ連絡・救急受診を考える状態
・1時間でナプキンがいっぱいになる出血が、2時間以上続く
・レバー状の血の塊や、組織のようなものが出た
・立っていられないほどの腹痛、左右どちらか片側だけの強い痛み
・肩の先の痛み(おなかの中の出血のサインのことがある)
・ふらつき、冷や汗、気が遠くなる感じ
英国の医療機関の患者向け資料では、毎時1枚のナプキンが2時間以上続けて浸る状態を「重度の出血」としています[7]。英国の流産支援団体も、ナプキンを当ててすぐに浸ってしまう出血、強い腹痛、肩の先の痛み、気分不良や失神は救急受診の目安としています[8]。片側の強い痛みや肩の痛みは、異所性妊娠(子宮外妊娠)でおなかの中に出血している場合にみられることがあり、腟からの出血が少量でも油断できません。迷ったときは自己判断せず、連絡してください。
当日〜翌日に受診
⚠️ 当日〜翌日にはかかりつけの産婦人科へ
・少量でも鮮血が続く、または量が増えてきた
・下腹部痛やおなかの張りを伴う
・茶色いおりものが1週間以上続いている
・まだ超音波で子宮の中に赤ちゃんの袋(胎嚢)が確認されていない時期の出血
子宮の中に妊娠が確認される前の出血や下腹部痛では、異所性妊娠も考えて診察する必要があります[9]。妊娠検査薬が陽性になっただけで、まだ一度も受診していない時期に出血した場合は、早めに受診して妊娠の場所を確認してもらってください。腹痛が中心の場合は、妊娠初期の腹痛の受診目安も参考になります。
次の健診で伝えればよい
🗒️ 次の健診で伝えればよいことが多い出血
| 状態 | 考えられること |
|---|---|
| 少量の茶色・ピンクのおりものが1〜2日で止まった | 時間がたった少量の出血。痛みがなく、量が増えなければ経過をみることが多い |
| 内診や性行為のあとに少量の出血があった | やわらかくなった子宮の入り口からの接触出血 |
| 排便でいきんだあとにティッシュにつく程度 | 子宮の入り口や腟からの出血のことが多い |
※いずれも痛みがなく、量が増えないことが前提です。不安が強いときは健診を待たずに連絡してかまいません。
3. 色でみる目安:茶おり・ピンク・鮮血・黒っぽい血
出血の色は、主に「血が出てから体の外に出るまでの時間」を表します。出たばかりの血は鮮やかな赤で、時間がたつと酸化して茶色や黒っぽい色に変わります。おりものと混ざれば薄まってピンクに見えます。下の図は、写真の代わりに色の目安を示したものです。
茶色・茶おり:時間がたった古い血
茶色いおりもの(茶おり)は、少量の出血が子宮や腟の中にしばらくとどまってから出てきたものです。妊娠初期の茶おりには、着床のころの少量の出血、子宮の入り口からの出血、絨毛膜下血腫の血が少しずつ出てくる場合などがあります。少量で数日以内に止まり、痛みがなければ、次の健診で伝えれば足りることが多い出血です。
一方で、茶おりが毎日続く、1週間以上止まらない、だんだん量が増えるといった場合は、原因を確かめるために受診してください。「茶色だから古い血で安全」と言い切れるわけではなく、妊娠の場所がまだ確認されていない時期であれば、異所性妊娠でもだらだらと茶色い出血が続くことがあります。
ピンク・おりものに血が混じる
薄いピンクのおりものは、ごく少量の血がおりものと混ざった状態です。妊娠中は子宮の入り口の血流が増え、粘膜がやわらかく出血しやすくなっているため、内診のあとや性行為のあとにピンクのおりものが出ることがあります[4]。こうした接触による出血は、多くは自然に止まります。
ピンクのおりものが一度だけで止まれば、急いで受診する必要はないことがほとんどです。ただし、ピンクから鮮血に変わってきた、量が増えてきた、腹痛を伴うといった変化があれば、当日〜翌日の受診を考えてください。性行為のあとの出血については、妊娠初期の性行為と出血のリスクで詳しく解説しています。
鮮血(真っ赤):いま出ている血
鮮やかな赤い血は、いままさに出血が起きていることを示します。ティッシュに少しつく程度の鮮血であれば、子宮の入り口からの出血のこともあります。少量の鮮血がすぐに止まれば、経過をみることもできます。
しかし、鮮血が続く、量が増える、生理2日目を超える量になる、腹痛を伴うといった場合は、切迫流産や流産が進んでいる可能性、異所性妊娠の可能性も考えて、早めに受診してください。鮮血が少量でもおさまらないときは、量が少ないうちに連絡することをおすすめします。
黒っぽい・暗赤色の血
黒っぽい血や暗い赤色の血は、子宮の中にたまっていた血がまとまって出てきた場合などにみられます。絨毛膜下血腫の血が出てくるときに、こうした色になることがあります。少量であれば茶おりと同じように考えられますが、量が多い場合や塊を伴う場合は、次の章の「量」と第5章の「塊」の目安で判断してください。
💡 ポイント:色だけでは安全か危険かは決まらない
出血は、明るい色・暗い色、続く・止まったり出たりする、塊がある・ないなど、さまざまな形をとります[8]。色は判断材料の一つにすぎず、茶色でも量が多ければ受診が必要ですし、鮮血でも少量ですぐ止まることもあります。量・痛み・体調の変化と組み合わせて考えてください。
4. 量でみる目安:ティッシュにつく程度から生理並み・大量出血まで
量の目安スケール
出血の量は、色よりも重要な判断材料です。生理と同程度かそれ以上の出血は、流産リスクの上昇と関連しています[1][3]。下の図は、量の目安を左から右へ多くなる順に並べたものです。
英国の医療機関では、点状の出血(数滴程度)、軽度(3時間以上でナプキン1枚未満)、中等度(3時間でナプキン1枚を超える)、重度(毎時1枚が浸る状態が2時間以上)という区分を患者さんへの目安として示しています[7]。これは診断の基準ではなく、どのくらい急いで連絡するかを考えるための目安です。左の2段階は経過をみることが多い量、右の2段階は受診が必要な量と考えてください。
ティッシュにつく程度の少量出血は心配いらない?
ティッシュにつく程度の少量の出血は、多くの場合、その後も妊娠が続きます。米国の研究では、点状の出血や少量の出血のエピソードは流産と関連していませんでした[1]。妊娠初期は子宮の入り口がやわらかく出血しやすいため、トイレで拭いたときに少し血がつくことはよくあります。
ただし、「少量だから原因は心配ない」と決まるわけではありません。まだ子宮の中に胎嚢が確認されていない時期の少量出血は、異所性妊娠の初期症状のこともあります。少量でも何日も続く場合や、痛みを伴う場合は受診してください。健診で一度確認されていれば、同じような少量の出血が出ても、次の健診で伝えれば足りることが多くなります。
生理並み・大量の鮮血が出たら:無事なケースと流産のケース
生理2日目並みかそれ以上の鮮血が出たときは、時間帯にかかわらず受診先へ連絡してください。多量の出血は、出血のない人に比べて流産のリスクが約3倍とされ、痛みを伴うとさらに関連が強くなります[1]。
それでも、大量の鮮血が出た人がすべて流産するわけではありません。絨毛膜下血腫にたまった血が一度に出た場合などは、量が多くても赤ちゃんの心拍が確認でき、妊娠が続くことがあります。反対に、流産が進んでいる場合は、量が増えるとともに下腹部の痛みが強くなり、塊や組織が出ることがあります。流産のときの出血の量や色、続く日数については、流産のときの出血の量と色で詳しく解説しています。どちらなのかは、超音波で赤ちゃんの状態を確認しないと分かりません。
出血はいつまで続く?1週間続いたら?
妊娠初期の出血は、1日で止まることもあれば、止まったり出たりしながら数週間続くこともあります。英国の医療機関の資料でも、出血は点状のこともあれば塊を伴う多量のこともあり、毎日続く場合も断続的に数週間続く場合もあると説明されています[4]。絨毛膜下血腫による出血は、胎盤ができあがる時期にかけて少しずつ続くことがあります。
何日続いたら異常という明確な基準は示されていません。少量の茶おりが1週間ほど続いても、健診で赤ちゃんの心拍と血腫の状態が確認できていれば、経過をみることが多いです。一方、まだ一度も超音波で確認していない時期に出血が続いている場合や、量が増えてきた場合は、日数にかかわらず受診してください。
5. レバー状の血の塊が出たら
レバー状の塊の正体:固まった血か、妊娠組織か
レバー状の塊は、子宮や腟にたまった血が固まった「凝血塊(ぎょうけつかい)」の場合と、妊娠組織(胎嚢や将来胎盤になる組織)の場合があり、見た目だけでは区別できません。出血の量が多いと、血は体の外に出る前に固まりやすくなります。生理のときにレバー状の塊が出る人がいるのと同じしくみで、塊があること自体は「血がたまってから出た」ことを示しています。
一方、流産が進んでいる場合には、灰色や白っぽい組織、袋のようなものが血の塊と一緒に出ることがあります。英国の医療機関では、手のひら大の塊が出た場合を再受診の目安として示しています[10]。塊が出たときは、量がおさまっていても受診先へ連絡し、指示を受けてください。
塊が出ても妊娠は続けられる?
塊が出たからといって、必ず流産しているとは限りません。絨毛膜下血腫にたまっていた血が固まって出てきた場合は、その後の超音波で赤ちゃんの心拍が確認でき、妊娠が続くことがあります。一方、妊娠組織が出ていた場合は、流産が進んでいるか、すでに起きている可能性があります。
どちらであるかは、超音波で子宮の中の赤ちゃんの状態と、子宮の中に残っている内容物を確認して判断します。子宮の内容物が一部残っている場合(不全流産)は、自然に出るのを待つか、手術で取り除くかを相談して決めます。流産の分類や、それぞれで何が行われるかは流産の種類で解説しています。
出た塊は捨てずに持参する
出てきた塊は、できればビニール袋や清潔な容器に入れて受診時に持参してください。医師が見て、血の塊か妊娠組織かを確認する手がかりになります。持参が難しい場合は、大きさ(何cmくらいか、手のひらと比べてどうか)、色、白っぽい組織が混じっていたかをメモしておくと役立ちます。
また、塊が出たあとに出血や痛みがおさまったとしても、それで状況が分かったことにはなりません。流産で子宮の内容物がすべて出た場合も、一時的に出血が止まるだけの場合も、症状は似ています。自己判断で様子を見ず、受診して確認してもらってください。
🩺 院長コラム【「写真で比べたい」気持ちについて】
出血に気づいたとき、ネットで似た写真を探して見比べる方は少なくありません。ただ、同じ血でも、ナプキンの素材や照明、時間のたち方で色はまったく違って見えます。写真が似ていることは、原因が同じことを意味しません。
本記事で写真を掲載していないのはそのためです。見比べる代わりに、量・痛み・体調の変化を記録し、受診先へ伝えてください。これらは、診察時に出血の状況を評価するうえで重要な情報です。
6. 妊娠初期に出血する主な原因
妊娠初期の出血の原因には、妊娠の経過に影響しないものから、流産や異所性妊娠のように対応が必要なものまであります。家庭医向けの総説では、診察で子宮の入り口や腟からの出血(ポリープや炎症など)が見つかれば妊娠以外の原因と分かり、それ以外では超音波などで流産や異所性妊娠を見分けていくとしています[3]。主な原因を一覧にまとめます。
🔬 妊娠初期の出血の主な原因
| 原因 | 出血の特徴 | 痛み | 受診の目安 |
|---|---|---|---|
| 着床のころの出血 | 生理予定日ごろの少量の出血 | ないか軽い | 量が少なく短期間なら経過をみることが多い |
| 子宮の入り口からの出血(びらん・ポリープ・接触) | 内診・性行為・排便のあとの少量の鮮血やピンク | ない | 次の健診で伝える |
| 絨毛膜下血腫 | 茶おりが続く、ときに多量の鮮血や塊 | ないか軽い | 量が多ければ当日中に連絡 |
| 切迫流産・流産 | 鮮血、量が増える、塊や組織 | 下腹部痛 | 当日〜すぐに連絡 |
| 異所性妊娠(子宮外妊娠) | 少量の茶色〜暗赤色の出血が続く | 片側の痛み、肩の痛み | 痛みがあればすぐ連絡 |
| 胞状奇胎 | 出血が続く・繰り返す | ないことも | 超音波と血液検査で診断 |
| 子宮頸がん(まれ) | 性行為後などの出血 | 初期はない | 妊娠初期の頸がん検診で確認 |
※出血の特徴は典型例です。実際には重なりが大きく、見た目だけで原因を決めることはできません。
いわゆる着床出血
生理予定日ごろの少量の出血は、一般に「着床出血」と呼ばれます。受精卵が子宮内膜にもぐり込む時期の出血という意味です。ただ、ホルモン測定で着床の日を特定し、毎日の記録をつけた前向き研究では、妊娠8週までに出血を記録したのは9%で、出血のほとんどは少量でした。この研究では、着床そのものが出血を起こすという考えを裏づける結果は得られませんでした[11]。
このため本記事では「いわゆる着床出血」と表現しています。生理予定日ごろの少量の出血があり、その後妊娠が分かっても、多くはそのまま経過します。時期や生理との違いは着床出血の時期と生理との違いで解説しています。
子宮の入り口からの出血(子宮腟部びらん・子宮頸管ポリープ・内診や性行為の後)
妊娠中は女性ホルモンの影響で、子宮の入り口の粘膜が赤くやわらかくなり、わずかな刺激で出血しやすくなります。内診や性行為、排便でいきんだあとに少量の鮮血やピンクのおりものが出るのは、多くがこのタイプです。赤ちゃんのいる子宮の中からの出血ではないため、妊娠の経過には通常影響しません。
💡 用語解説:子宮腟部びらん(しきゅうちつぶびらん)
子宮の入り口(子宮腟部)の表面が、赤くただれたように見える状態です。実際にただれているわけではなく、子宮の内側の粘膜が外側に広がって見えている生理的な変化で、女性ホルモンが多い妊娠中によくみられます。こすれると出血しやすいものの、病気ではなく、通常は治療を必要としません。
子宮頸管ポリープは、子宮の入り口の管にできるやわらかいイボのような良性の突起で、もろいため出血しやすいのが特徴です。診察で見えれば出血の原因として確認できます[3]。ポリープの種類については子宮頸管ポリープを含めて解説しています。
絨毛膜下血腫
絨毛膜下血腫は、赤ちゃんを包む膜(絨毛膜)と子宮の壁の間に血がたまった状態です。たまった血が少しずつ出てくると茶おりが続き、まとまって出ると多量の鮮血や塊になることがあります。多くは時間とともに吸収されます。
7つの研究をまとめた解析では、血腫がある人の流産は17.6%で、ない人の8.9%より多いと報告されています[12]。一方、週数や出血の有無の影響を差し引いて解析すると、血腫そのものと流産との関連ははっきりしなくなったという研究もあります[13]。「血腫があると流産のリスクが上がる可能性がある一方で、多くは吸収されて妊娠が続く」と理解してください。安静との関係を含めた詳細は絨毛膜下血腫の原因と安静の必要性で解説しています。
切迫流産・流産
日本では、妊娠22週より前に妊娠が終わることを流産と呼び、妊娠12週未満の流産を早期流産といいます[14]。流産は全妊娠の8〜15%ほどで起こります[15]。
💡 用語解説:切迫流産(せっぱくりゅうざん)
出血や下腹部痛があるものの、赤ちゃんが子宮の中にいて、流産には至っていない状態です。「流産になりかかっている状態」と説明されることもありますが、切迫流産と診断された人の多くは、その後も妊娠が続きます。流産が進んで子宮の入り口が開いてきた状態は「進行流産」と呼ばれ、区別されます。
切迫流産の段階では、出血は少量から中等量で、腹痛は軽いことが多いです。流産が進むと、出血が増え、陣痛のような周期的な下腹部痛が強くなり、塊や組織が出ることがあります。詳しくは切迫流産の解説をご覧ください。
異所性妊娠(子宮外妊娠)
異所性妊娠は、受精卵が子宮の中以外(多くは卵管)に着床した状態です。米国では妊娠の1〜2%に起こるとされ、破裂による出血は、2011〜2013年の妊娠関連死亡の2.7%を占めていました[9]。妊娠を続けることはできず、早く見つけて治療することが母体を守ることにつながります。
妊娠検査薬が陽性になったのに、超音波で子宮の中に胎嚢が見えない時期に、少量の出血がだらだら続き、片側の下腹部痛を伴うのが典型的な経過です。破裂するとおなかの中に出血し、強い腹痛、肩の痛み、ふらつきが起こります。症状や治療は子宮外妊娠の症状で解説しています。
胞状奇胎
胞状奇胎は、胎盤のもとになる絨毛が水ぶくれのように増える病気で、日本では妊娠1,000あたり1〜2の頻度でみられます[16]。出血、強いつわりなど、正常な妊娠初期や切迫流産と似た症状を示すため、超音波と血液検査(hCG)で診断します。
胞状奇胎は受精のときの異常で起こります。全胞状奇胎の多くは、核DNAが父親由来のみとなる「雄核発生」で、部分胞状奇胎の多くは父親由来の染色体セットが1組多い3倍体です[16]。大部分は孤発性ですが、まれに家族性反復胞状奇胎として遺伝的素因が関与する場合があります[19]。成り立ちについては胞状奇胎(検査薬が陽性なのに妊娠していない場合)で詳しく解説しています。
子宮頸がん(まれ)
まれですが、子宮頸がんが出血の原因になることもあります。妊娠初期の健診では子宮頸がん検診が行われるため、その時点で確認されることが多いです。子宮頸がんについては子宮頸がんの解説をご覧ください。
7. 【遺伝の視点】妊娠初期の流産の多くは赤ちゃんの染色体の偶然の変化。日常生活が原因ではないことが多い
初期流産の多くは染色体の数の異常で、受精の時点で決まっている
妊娠12週未満の流産で最も多い原因は、赤ちゃん側の染色体の異常です。日本産科婦人科学会は、流産した組織の染色体を調べると約80%に異常を認めたという報告を紹介し、その場合は受精卵ができる段階で流産する運命がすでに決まっていたことになると説明しています[14]。国立成育医療研究センターは、この時期の流産の50〜60%を受精卵の染色体の異常としています[15]。
割合に幅があるのは、調べ方(培養した細胞の染色体を見る方法か、DNAを直接解析する方法か)や対象集団が違うためです。いずれの報告でも、早期流産の半数以上は染色体の異常によるものとされています。こうした異常の多くは、卵子や精子ができるときの染色体の分配の誤りで偶然に起こり、母親の年齢とともに頻度が上がります[14]。
💡 用語解説:染色体の数の異常(異数性)
人の細胞には通常46本の染色体があります。卵子や精子ができるときに染色体がうまく分かれず、受精卵の染色体が1本多い(トリソミー)・1本少ない(モノソミー)状態を「数の異常(異数性)」といいます。多くは発育を続けられず、妊娠初期の流産として終わります。詳しくは染色体の数の異常で解説しています。
年齢とともに卵子の染色体の変化が増える理由は、年齢とともに卵子の染色体の変化が増える理由で解説しています。受精の時点で決まっている変化は、妊娠が分かった後の生活で起こしたり防いだりできるものではありません。仕事をしていた、重いものを持った、出血に気づくのが遅れた、といったことが流産の原因になったわけではないのです。
安静にすれば流産を防げる?
出血があったときの安静が流産予防に有効だとする、十分な質の高い根拠は示されていません。心拍が確認され、妊娠前半に出血があった人を対象にした臨床試験をまとめたコクランレビューでは、2試験・84人のデータから安静群と非安静群の流産リスクに統計学的有意差は示されず、流産予防のための安静方針を支持する高品質なエビデンスは不十分と結論づけています[17]。
日本の産婦人科診療ガイドラインも、以前は「心拍確認後に絨毛膜下血腫がある場合、安静療法が有効である可能性がある」としていましたが、この記載を削除しました。現在は、休職や安静による流産予防効果は確立されていないとしたうえで、勤務内容などのリスクも考え、一人ひとりについて勤務の緩和や安静の必要性を判断する方針です[18]。主治医から安静を指示された場合はそれに従ってください。ただ、「動いたせいで流産した」と考える必要はありません。行動と流産の関係は流産しやすい行動でも整理しています。
出血がおさまったら考えたいこと:赤ちゃんの染色体を調べる検査
出血がおさまり、超音波で赤ちゃんの心拍が確認できて妊娠が続いていくと、次に「赤ちゃんの染色体に変化はないか」が気になる方もいます。初期流産の多くが染色体の数の異常によることを知ると、なおさらでしょう。妊娠中に赤ちゃんの染色体を調べる方法の一つが、お母さんの血液を採るだけで行えるNIPT(新型出生前診断)です。
NIPTは、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAの断片を調べ、染色体の数の変化などの可能性を推定する検査です。確定診断ではないため、陽性の場合は羊水検査などで確かめます。受けるかどうか、いつ受けるかは、出血の経過について産婦人科で確認したうえで決めてください。
🩺 院長コラム【「私のせいでは」と考えてしまう方へ】
妊娠初期の流産のあと、「あの日無理をしたから」と原因を自分の行動に探す方は少なくありません。けれども、早期流産の多くは受精の時点で決まっている染色体の変化によるもので、その後の生活で起こしたり防いだりできるものではありません。
早期流産の50〜60%は受精卵の染色体異常によるとされており、日常生活が原因ではないことが公的医療機関からも説明されています[15]。偶然に生じた染色体の変化について、妊娠中の行動を原因とみなす医学的根拠はありません。
8. 出血したら受診までにしておくこと
記録しておくこと(チェックリスト)
受診先へ連絡する前に、出血の様子をメモしておくと、電話での判断が正確になります。出血は、明るい色・暗い色、続く・止まったり出たりする、塊がある・ないなどさまざまな形をとるため、記録して医療者に伝えることが勧められています[8]。
📝 出血したときの記録チェックリスト
| 項目 | 記録する内容の例 |
|---|---|
| いつから | 気づいた日時、続いているか止まったか |
| 色 | 茶色・ピンク・鮮血・黒っぽい |
| 量 | ティッシュにつく/おりものシート/ナプキン何時間で何枚 |
| 塊 | 有無、大きさ、白っぽい組織が混じったか |
| 痛み | 有無、場所(中央・片側・肩)、強さ、周期的か |
| 体調 | 発熱(37.5℃以上か)、ふらつき、冷や汗 |
| 妊娠の経過 | 妊娠週数、胎嚢・心拍が確認済みか、最後の健診日 |
ナプキンを使い、塊は保存する/タンポン・性行為は控える
出血しているときは、タンポンではなくナプキンや生理用ショーツを使ってください。量が分かりやすく、腟の中に物を入れないことで感染のリスクも下げられます。英国の医療機関の資料でも、量を把握しやすく感染のリスクを減らすためにナプキンを使い、出血が完全に止まるまでは性行為や水泳を控えるよう勧めています[4]。
塊や組織のようなものが出た場合は、前の章で説明したように、捨てずに容器に入れて持参してください。痛みがあっても、自己判断で市販の痛み止めを飲む前に受診先へ確認しましょう。同じ資料は、出血したときに安静を勧めてはいないものの、多い出血があるときには仕事の内容に応じて休むことも選択肢になるとしています[4]。
電話で伝えること・夜間や休日の判断
電話では、記録した内容のうち、妊娠週数、出血の量と色、塊の有無、痛みの有無と場所、発熱やふらつきの有無を順に伝えてください。受診先は、その内容からすぐに来院が必要か、翌日の外来でよいかを判断します。
夜間や休日でも、第2章の「今すぐ連絡」に当てはまる場合は、かかりつけの産婦人科の緊急連絡先に電話してください。つながらない場合や、意識が遠のく、立てないといった状態の場合は救急要請も考えます。「明日まで待って大丈夫か」で迷う程度の出血であれば、まず電話で相談して指示を受けると判断しやすくなります。
Rh(D)陰性の人は伝えておく
血液型がRh(D)陰性と分かっている方は、出血で受診したときに必ず伝えてください。出血や流産の際に、赤ちゃんの血液に対する抗体ができるのを防ぐ「抗D免疫グロブリン」を使うかどうかは、妊娠週数や処置の内容に応じて主治医が判断します。Rh(D)陰性の妊娠については、Rh(D)陰性の妊娠で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠5週・6週・7週で出血しました。大丈夫ですか?
この時期は、まだ超音波で胎嚢や心拍が確認できていないことが多い時期です。少量で痛みがなければ流産と関連しないことが多い一方、子宮の中に妊娠が確認される前の出血は異所性妊娠の可能性も考える必要があります。少量でも続く場合や痛みがある場合は早めに受診し、妊娠の場所を確認してもらってください。
Q2. 胎嚢や心拍が確認できた後に出血しました。
心拍が確認できた後に出血した人を追跡した研究では、およそ9割は妊娠が続いていました。ただし、量が多い場合や痛みを伴う場合は流産のリスクが上がります。少量ですぐ止まれば次の健診で伝えればよいことが多いですが、量が多い・続く・痛む場合は連絡してください。
Q3. 内診や排便の後に茶おりが出ました。
妊娠中は子宮の入り口がやわらかく出血しやすいため、内診や排便でいきんだ刺激で少量出血し、時間がたって茶おりとして出ることがあります。少量で1〜2日以内に止まり、痛みがなければ、次の健診で伝えれば足りることが多いです。
Q4. 茶おりが毎日、1週間以上続いています。
絨毛膜下血腫などで茶おりが続くことはありますが、何日続いたら異常という明確な基準はありません。1週間以上続く場合は、受診して赤ちゃんの心拍や血腫の状態を確認してもらってください。まだ一度も超音波で確認していない場合は、日数にかかわらず早めに受診してください。
Q5. 腹痛のない鮮血は大丈夫ですか?
腹痛のない少量の鮮血は、子宮の入り口からの出血であることも多く、すぐに止まれば経過をみることもできます。ただし、痛みがなくても量が多い場合や続く場合は、絨毛膜下血腫や切迫流産の可能性もあるため受診してください。生理2日目を超える量であれば、痛みの有無にかかわらず連絡が必要です。
Q6. 出血したら仕事を休むべきですか?安静は必要ですか?
安静にすることで流産を防げるという質の高い根拠はなく、日本のガイドラインも安静や休職による流産予防効果は確立されていないとしています。そのうえで、仕事の内容なども考え、一人ひとりに必要な対応を主治医が判断します。主治医から指示があればそれに従ってください。
Q7. 生理だと思っていたら妊娠していました。
生理予定日ごろの出血を生理だと思っていたら、その後妊娠が分かることがあります。妊娠初期の出血は多くが少量で、生理と間違えるほどの量になることは多くないとする研究もありますが、出血の量には個人差があります。妊娠が分かったら、出血があったことを健診で伝えてください。
Q8. 妊娠中期以降に出血した場合は?
妊娠中期以降の出血は、妊娠初期とは原因が異なり、胎盤の位置の異常や早産のサインなどを考える必要があります。量にかかわらず、かかりつけの産婦人科へ連絡してください。詳しくは妊娠中期の出血をご覧ください。
まとめ
妊娠初期の出血は約4人に1人が経験し、ティッシュにつく程度の少量の出血や点状の出血は流産と関連しないことが分かっています[1]。心拍が確認できた後に出血した人でも、およそ9割は妊娠が続いています[2]。一方で、生理並み以上の量や痛みを伴う出血は流産のリスクが上がり、片側の強い痛みや肩の痛み、ふらつきは異所性妊娠の破裂のサインのことがあります。
出血の色は、血が出てからの時間を表す目安にすぎません。判断の中心は、量・痛み・体調の変化です。気になる出血があったら、色・量・塊・痛みを記録し、受診先へ伝えてください。そして、妊娠初期の流産の多くは受精の時点で決まっている赤ちゃんの染色体の偶然の変化によるもので、お母さんの行動が原因ではありません[14]。
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ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がNIPTの検査前後の説明と遺伝カウンセリングを行っています。妊娠6〜9週の早期NIPTは臨床研究として実施し、妊娠10週以降も受検できます。出血がある場合は、まず産婦人科で赤ちゃんの状態を確認してからご予約ください。
参考文献
- [1] Association between first-trimester vaginal bleeding and miscarriage. Obstet Gynecol. 2009;114(4):860-867. [DOI 10.1097/AOG.0b013e3181b79796]
- [2] Probability of early pregnancy loss in women with vaginal bleeding and a singleton live fetus at ultrasound scan. J Obstet Gynaecol. 2006;26(8):782-784. [PubMed 17130030]
- [3] First Trimester Bleeding: Evaluation and Management. Am Fam Physician. 2019;99(3):166-174. [AAFP]
- [4] Pain and bleeding in early pregnancy. Buckinghamshire Healthcare NHS Trust. [NHS]
- [5] Pregnancy outcome of threatened abortion with demonstrable fetal cardiac activity: a cohort study. J Obstet Gynaecol (Tokyo). 1995;21:331-335. [PubMed 8775901]
- [6] Fetal loss rate after ultrasonically documented cardiac activity between 6 and 14 weeks, menstrual age. [PubMed 1646226]
- [7] Bleeding in pregnancy. East Lancashire Hospitals NHS Trust. [NHS]
- [8] Signs, symptoms and diagnosis. The Miscarriage Association. [Miscarriage Association]
- [9] Ectopic Pregnancy: Diagnosis and Management. Am Fam Physician. 2020;101(10):599-606. [AAFP]
- [10] Early pregnancy bleeding. North Bristol NHS Trust. [NHS]
- [11] Vaginal bleeding in very early pregnancy. Hum Reprod. 2003;18(9):1944-1947. [Human Reproduction]
- [12] Perinatal outcomes in women with subchorionic hematoma: a systematic review and meta-analysis. Obstet Gynecol. 2011;117(5):1205-1212. [DOI 10.1097/AOG.0b013e31821568de]
- [13] Association Between First-Trimester Subchorionic Hematomas and Pregnancy Loss in Singleton Pregnancies. Obstet Gynecol. 2019. [PubMed 31306310]
- [14] 流産・切迫流産. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. [日本産科婦人科学会]
- [15] 流産について. 国立成育医療研究センター 産科. [国立成育医療研究センター]
- [16] 胞状奇胎[私の治療]. 日本医事新報社. [日本医事新報]
- [17] Bed rest during pregnancy for preventing miscarriage. Cochrane Database Syst Rev. 2005;(2):CD003576. [Cochrane Library]
- [18] 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン―産科編2020(CQ206の改訂内容). [Minds]
- [19] Hydatidiform Mole. StatPearls. NCBI Bookshelf. [NCBI Bookshelf]





