目次
近年の晩婚化に伴って、「不妊症」に悩むカップルも増加傾向にあります。
「不妊症」とは、健康な男女が妊娠を望んで、避妊をせずに性行為をするものの1年以上に亘って妊娠に至らない症状を指しています。
このような社会状況が見られる一方で、不妊症に対する医療技術も進展を遂げてきており、現在ではさまざま方法が確立されています。
この記事では、体外受精の中でも特に、「初期胚移植(しょきはいいしょく)」に関して、初期胚がどのようなものであるのか、初期胚移植のメリットやデメリット実際の治療におけるスケジュール、移植後の着床に大きく関係する要素と着床時に見られる症状に関してご説明していきます。ぜひ最後までご覧になってください。
初期胚とは
「初期胚」とは、卵子と精子が受精をすることで生まれた受精卵が細胞分裂を繰り返していき、分割された細胞の数がおよそ8個以下の状態にまで成長した受精卵のことを指しています。
受精によってひとつになった受精卵は、受精後1日ほど経過すると1回目の細胞分裂が生じて2つの細胞に分割されます。受精後2日目には2回目の、3日目には3回目の細胞分裂が行われ、細胞数は1、2、4、8と倍々にその数を増やしていきます。
この状態にまで成長したものが初期胚にあたりますが、その後「桑実胚(そうじつはい)」、「胚盤胞(はいばんほう)」へと成長していきます。実際に受精卵が着床するには、胚盤胞まで成長している必要があります。
初期胚移植の基礎知識
ここでは初期胚移植がどのような移植であるのか、基礎知識を押さえた後に、初期胚移植のメリットやデメリット、初期胚移植におけるスケジュールに関してご紹介していきます。
初期胚移植とは、受精卵が初期胚の状態であるうちに子宮内へと戻す(移植する)治療方法のことを指しています。
初期胚移植はこれまでもメジャーな治療方法でしたが、現在では初期胚移植だけでなく、胚盤胞移植も主要な治療方法へと確立されてきています。この背景には受精卵を体外にて培養させるための技術が発展してきたことが大きく関係しています。
このように移植方法は複数あります。それぞれの違いを通じて、初期胚移植のメリットとデメリットに関して見ていきましょう。
メリット
初期胚移植のメリットには以下のものが挙げられます。
- 受精卵が子宮内の環境下で成長できる
- 培養期間が短い
- キャンセル率が低い
それぞれに関して見ていきましょう。
受精卵が子宮内の環境下で成長できる
受精卵を培養するための培養液の発達もあって、胚盤胞まで成長させることも可能となっている一方で、培養液化という環境が受精卵にとっては負荷となってしまうこともあります。
自然妊娠の場合にも受精卵は卵管や子宮内の栄養を利用しながら細胞分裂を繰り返していきます。
受精後、早期に子宮に戻すということが上記の観点から有効に働くケースもあります。
培養期間が短い
移植方法には胚盤胞移植などもあり、培養させるための費用も必要となりますが、初期胚移植は培養期間も短い分、他の方法と比較して費用も小さく抑えることができます。
キャンセル率が低い
正常に受精が行われていれば、90%以上の受精卵が細胞分裂を開始しますので、受精卵になったものの、移植に用いなかったという確率(キャンセル率)も小さく済み、移植が中止となることはほとんどありません。
デメリット
メリットもある一方でデメリットも以下のように挙げられます。
- 子宮外妊娠をする可能性がある
- 優良な受精卵の選別が難しい場合がある
それぞれに関して見ていきましょう。
子宮外妊娠をする可能性がある
自然妊娠の場合、精子と卵子は卵管にて受精し、受精卵は卵管内の栄養を受け取りながら細胞分裂を繰り返し、それと同時に少しずつ子宮へと移動していきます。そして、子宮へとたどり着く頃に着床に適した状態(胚盤胞)にまで成長しているのが一般的です。
初期胚移植の場合には初期胚の段階で子宮へと戻すことになるため、移植後すぐに着床には至らず、胚盤胞にまで成長する間、子宮内を漂うことになります。この漂っている期間に子宮内での逆行が生じ、結果的に子宮ではない場所にて着床し、子宮外妊娠となってしまう可能性があります。
優良な受精卵の選別が難しい場合がある
受精卵は初期胚、桑実胚、胚盤胞と成長していきます。これらを移植する際には、優先的に移植する受精卵を選択するためのグレードと呼ばれる指標も設定されています。
そして、初期胚の状態での成長は良好(グレードが高い)であったものの、胚盤胞まで成長しなかった、胚盤胞まで成長したものの十分な成長でなかった(グレードが低い)ということも、受精卵の成長過程ではあり得ることです。
初期胚移植の際にもグレードに基づいた優良な受精卵の選択を行いますが、形態が似ているものが多く、この時点で胚盤胞までの成長の良さを確認することは困難であるため、優良な受精卵の選別に難があるというデメリットがあります。
初期胚移植のスケジュール
次に、胚盤胞移植のスケジュールに関してご紹介します。
月経の開始日を1日目として、初期胚移植のスケジュールを示したものが以下の表になります。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
月経開始 | 卵子を育てる期間(排卵誘発・LHサージ誘発) | ||||||
9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
採卵 | 初期胚培養期間 | ||||||
17 | 18 | 19 | 2週間の経過観察 | 妊娠判定 | |||
初期胚移植 | 着床の目安 |
卵子を採取する(採卵する)までの間には、良質な卵子を育てるために月経開始後3日目から排卵誘発剤やLHサージ誘発剤を用いた治療が行われます。
卵子を育てる期間(月経開始から3日~11日目)が経過したら、14日目に採卵となります。この採卵の日には、男性側では採精(精子を採取する)が行われ、受精のステップまでこの日に済ませます。
受精後、受精卵を培養液にて培養し初期胚であるうちに子宮内へと移植します。
初期胚の状態ではまだ着床に至ることはできませんので、初期胚は子宮内で胚盤胞へと成長します。そして、無事に胚盤胞へ成長した場合には月経開始後19日目ほどのタイミングで着床します。
着床後には女性の体の中で赤ちゃんを育てるための準備が進められていきます。妊娠している女性のみが発するhCGホルモンというものがあり、このホルモンが分泌されているか否かが妊娠しているかの判断となります。
このホルモンの分泌を検査で確認するには着床後3~10日ほどの期間が必要であり、初期胚移植の場合には、胚盤胞への成長と着床が無事に行われたと仮定して、月経開始後19日目から更に2週間ほど経過したあたりで妊娠判定のためのホルモン検査が行われます。
着床の可能性
ここまで初期胚移植に関して見てきましたが、無事に着床するために大切な要素があります。それは「胚(受精卵)の質」と「子宮内の環境」です。
これらの状態を向上させるにはバランスのとれた食事の摂取や、十分な睡眠、適度な運動、過度なストレスの回避など、生活習慣に結びついたものも多くあります。質の向上のための生活習慣の改善など以下のコラムにてまとめられているので、そちらもぜひご覧になってください。
卵子の質を上げる方法|妊娠しない原因と年齢の関係を解説 (minerva-clinic.or.jp)
それでは、「胚の質」「子宮内の環境」それぞれに関して見ていきましょう。
胚の質
受精卵は細胞分裂を通じて成長するとともに、着床のための準備を進めていきます。移植の際に優先的に移植に用いる胚の選別が行われますが、初期胚の状態では「フラグメント」と呼ばれる細胞分裂をする中で生じる細胞のかけらの有無と、「割球(かっきゅう)」と呼ばれる細胞分裂によって分割された細胞、このそれぞれの大きさのバランスが指標として用いられています。
このグレードは胚の外見的な特徴からのみの指標となっており、染色体異常などを的確に診断しているわけではありませんが、グレードが良好な胚である方が後の成長への期待も大きいです。
子宮内の環境
着床のためには受精卵の状態だけでなく、子宮内の状態も非常に重要となってきます。具体的には、子宮内膜が厚くなりふかふかな状態となることで、受精卵が着床しやすくなります。
上記の状態になることが望ましい一方で、子宮筋腫、子宮内ポリープ、子宮内膜炎、卵管水腫などがあることで着床障害が生じることもあります。
これらは治療での改善が見込めますので、「生理のときに出血量が増えた」「下腹部に違和感がある」など心当たりを感じるときには、医療機関にて早めの検査をお勧めします。
着床時に見られる症状
最後に、着床時に見られる症状に関してご紹介します。受精卵が着床することで、生理前と似た症状が現れることがあります。この症状は人によって程度がさまざまであり、着床しても体調の変化が小さくまったく気づかないという方も少なくありません。
妊娠を望まれている方であれば普段との違いを感じた際には着床を疑ってみてもよいかと思います。しかしながら、このタイミングでの妊娠検査薬の使用はhCGホルモンを検知できず早計となりますので、普段と変わらないリラックスした生活を送るようにしましょう。
着床出血
着床とはどのようなメカニズムかというと、受精卵が子宮内膜にもぐりこむことを表しています。このもぐりこむという過程の際に子宮内膜が少し傷つけられることで出血が生じることがあります。
軽い出血が続いたり、おりもののようなものが出たりと、症状の程度は人によってさまざまですが、この症状は数日で収まることが一般的です。
胸の痛みや張り
この症状は生理前にも生じることがあるかと思います。乳房の張りやかゆみ、乳首の先に触れると痛みを感じるなど症状はさまざまですが、生理前と似た胸の違和感が着床時に見られることがあります。
腰痛・頭痛
こちらも胸の違和感と同様、生理前の症状と似たものになります。妊活に励まれている場合であれば、痛みを感じた後にすぐに鎮痛剤などを利用するのではなく、安静にするなど少し様子を見てみるようにしてください。
倦怠感
少し動いただけなのに疲れてしまう、いくら寝ても寝足りなさを感じる、微熱が続き風邪のときと似たようなだるさを感じるなど、妊娠時に顕著に現れる症状が着床のタイミングで現れることがあります。
まとめ
ここまで初期胚に関して、初期胚移植に関してメリットやデメリット、実際の移植治療のスケジュール、移植後の着床のために大切な要素、着床時に見られる症状に関してご説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?
初期胚移植を始めとして、不妊症に対する治療方法はさまざまです。この記事をきっかけにして、不妊症治療に関するご理解を深めていただければ幸いです。
ミネルバクリニックがご紹介する以下のコラムも不妊治療に関する内容をご説明しています。ぜひご覧ください。
体外受精に関するコラム | 東京・ミネルバクリニック (minerva-clinic.or.jp)
東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。ミネルバクリニックでは、妊娠9週から受けられる赤ちゃんの健康診断である「NIPT」を業界最新の技術と業界随一の対象疾患の広さで行っております。遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が出生前診断を提供しておりますので、是非、お気軽にご相談ください。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。