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日本の精子提供の実情|チャンスだけでなく大きなリスクも潜んでいる!?

近年、生活環境の乱れや過度なストレスを引き起こす社会的要因が多く存在するために「男性不妊症」に悩まれる方が増加傾向にあります。これ以外にも、晩婚化の波を受けて加齢に伴った男性不妊症を患う方もいます。男性不妊症とは、不妊症(健康な男女が妊娠することを望んで避妊をせずに性行為を行うものの1年以上に亘って妊娠に至らない症状)の中でも、その原因が男性側にある不妊症のことを表したものになっています。

WHOが公表するデータによると、不妊症に悩まれているカップルの症例のうち、約50%には男性不妊症が関係していることが明らかとされています。

不妊症に対する治療方法は、外科的手術や投薬治療、薬膳療法などがあり、また、妊娠に向けたものであればタイミング法や人工授精体外受精・顕微授精など多くの治療法が確立されてきています。

このような治療方法がある一方で、皆さんは「精子提供」というものをご存じですか?認知という観点から、日本ではまだまだ課題も多い精子提供ですが、実際に精子提供を通じて生まれてくる子供もいます。

この記事では、そんな精子提供がどのようなものであるのかを具体的な方法やメリット・デメリットから確認していきましょう。加えて、日本における精子提供はどのような状況にあるのか、精子提供を検討する際に十分に考慮すべき事柄に関してもご説明していきます。ぜひ最後までご覧になってください。

精子提供とは

考えている男性
精子提供とは、女性が妊娠・出産のために、ご自身のパートナー以外の男性から精子のみを提供してもらうことを表しています。

日本での認知は十分に進んでいるとは言い難いですが、世界を例として見ると、パートナーが無精子症などの男性不妊症であるために妊娠することが難しいと診断されたカップルや、男性との性交渉や結婚などは行わずに子供を育てたいという女性、同性同士やトランスジェンダーのカップルなど、さまざまな人が利用しています。

精子提供がどのようなものであるのか、どのような方が利用しているのかを確認したところで更に詳しく見ていきましょう。

精子提供の方法

ここでは、具体的に精子提供がどのように行われているのかを確認していきます。①どのような媒体で精子提供を受けるのか、②提供された精子をどのようにして子宮へと届けるのか(具体的な受精方法)という観点から見ていきます。

精子提供の媒体

精子提供の媒体には①公的機関、②個人ドナーの2種が挙げられます。

公的機関として有名なのは「精子バンク」です。精子バンクでは、男性から提供された精液が冷凍して保管されています。そして、妊娠を望む女性に対して保管していた精子が提供されています。公的機関を通じた精子提供は、厚生労働省や日本産婦人科学会などが公表するガイドラインに則って行われるため「透明性」が確保され、信頼性も高いです。

しかしながら、公表されているガイドラインには精子バンクや精子提供の利用者条件として「子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る」という条件が掲げられており、夫婦関係にある男性のパートナーがいない女性(未婚の女性や同性同士のカップルなど)は利用することができなくなっています。また、精子を提供した方(父親)が誰であるのかも確認することはできなくなっています。

一方の個人提供者(個人だけでなく、団体として行われている場合もあります)の場合ですと、日本で個人による精子提供に関する法律が定められていないため、提供する側も提供を受ける側も精子提供に対するハードルは低いという特徴があります。加えて、精子提供前にドナーと面談を設ける団体もあるため、精子提供者がどのような方であるのかを確認してから精子提供を受けられるというのも特徴のひとつです。

しかしながら、共通のガイドラインが敷かれていないため、方法や方針がバラバラであること、性病や精液の検査が不十分となっている可能性があるなどの危険性も孕んでいます。

実際の受精方法

次に実際の受精方法に関して確認していきましょう。精子バンク、民間の精子提供団体が行っている受精方法には①体外受精、②人工授精(シリンジ法)、③タイミング法(性交渉)があります。民間の精子提供団体ではすべての方法が実施可能ですが(団体によってはすべてを用意していない場合もあります)、精子バンクの場合には体外受精のみが可能となります。

体外受精は予め女性の卵巣から卵子を採取しておき、採取された卵子と提供された精子をシャーレ上で出合わせ自力の受精を図る方法となります。そして、無事に受精卵が誕生した後、受精卵を女性の子宮へと移植します。

人工授精(シリンジ法)とは、針のない注射器(シリンジ)を用いて提供された精子を女性の子宮内へと注入する方法となります。注入までに時間が空くのを避けるために、採精からシリンジへの充填、注入を一貫して行う場合もあります。万が一、時間が空いてしまう場合には精子の質の低下を回避するために温度管理の指導が行われることもあります。

タイミング法とは、女性の排卵日付近で実際に性交渉を行い妊娠を図る方法となります。体外受精・シリンジ法の場合にも精子に異常が見られないかの事前の精液検査が行われますが、タイミング法の場合には性交渉による性病の危険性も考慮して性感染症検査も必要となります。

精子提供のメリット・デメリット

メリットデメリット
ここでは精子提供のメリットとデメリットに関して確認していきましょう。それぞれには以下のものが挙げられます。

【メリット】

  • ・精子提供における透明性の高さ
  • ・赤ちゃんを授かれない事情がある(性的マイノリティカップルや男性不妊症のカップル)場合にも、赤ちゃんを望むことができる

【デメリット】

  • ・精子提供の法整備が十分に整っていない
  • ・性病の危険性や各種のトラブル
  • ・生まれてきてくれた子どもにどのように伝えるか

それぞれに関して見ていきましょう。

メリット1:精子提供における透明性の高さ

精子バンクを利用するという場合にはガイドラインが敷かれており、精子提供者にも提供のための条件が設けられているため、精子提供全体の流れにおける透明性が確保されやすいです。

また、民間の精子提供団体を利用される場合には(団体によるものの)、精子提供者との面談を設けていることも多いため、提供者への信頼感を築きやすい、提供者に対する透明性を高くできるメリットがあります。

メリット2:赤ちゃんを授かれない事情がある場合にも赤ちゃんを望むことができる

精子バンクの利用は、法律上の夫婦関係にある男女が不妊症などを理由に赤ちゃんを授かれない場合という条件があるものの、そのような事情を抱えている方にとって赤ちゃんを望むひとつの手段となり得るのは大きなメリットであるといえます。

また、民間の団体であれば上記の条件に該当しない方であっても利用可能であるケースもあります。精子提供を検討されている方は、精子バンクはもちろん、精子提供を行っていたり、専門の医療機関への仲介を行ったりしている団体を調べられてみてください。

デメリット1:精子提供の法整備が十分に整っていない

ガイドラインが整備されている一方で、その内容は法律上の夫婦関係にあるカップルに限定されており、ジェンダーに対する考えが普及されつつある現代においては、整備が十分であるとは言い難い状況にあります。

また、これらの法に対する改正が前向きに取り組まれていない実情があるように、日本では、まだまだジェンダーを背景とした新しい家族の形や卵子提供・精子提供に対する理解が追い付いていません。これらへの理解の促進は重要な課題のひとつであるといえます。

デメリット2:性病の危険性や各種のトラブル

精子バンクを利用する場合にはこの点における透明性の確保も進んでいますが、注意が必要なのが民間の精子提供団体を利用する場合や、これらの機関さえも利用せずに個人的に提供者を見つける場合です。

ガイドラインが定められていない分、性病検査に対する透明性が確保されていない可能性は十分に考えられます。また、個人の提供者の場合には、性交渉することを目的として精子提供を騙る人や、提供の対価として法外な金銭を要求してくる人もいます。精子バンク以外の提供方法を検討する場合にはこれらのことに十分に気をつけるようにしましょう。

デメリット3:生まれてきてくれた子どもにどのように伝えるか

法整備が十分に整っていないこととも関りが深いことですが、精子提供を通じて生まれてきてくれた子どもに出生をどのように伝えるのかは提供を受ける前に十分に検討する必要があります。

赤ちゃんを授かること・出産することは少なからず、カップル・個人の決定でも可能なことですが、子育てではより多くの人が関わり合います。生まれてきてくれる赤ちゃんへの説明はもちろん、周囲の人々への説明も忘れずに行う必要があります。

まとめ

まとめ
ここまで、精子提供がどのようなものであるのか、具体的な方法や費用、メリット・デメリットから確認し、日本における精子提供はどのような状況にあるのか、精子提供を検討する際に十分に考慮すべき事柄に関してご説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?

精子提供は、赤ちゃんを授かることのできない事情を抱えた方にとって希望の一手となるものでもありますが、日本では精子提供に対する理解は十分に進んでいるとはいえません。

精子提供はもちろんですが、不妊症に対する治療はさまざまなものが確立されてきていますので、この記事をきっかけに不妊症に関する理解を更に深めていただければ幸いです。以下のコラムも不妊症を理解する参考になりますので、お時間のある際にはぜひご覧になってみてください。

不妊症の原因|診断から治療までの流れを解説【ミネルバクリニック公式】

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東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。ミネルバクリニックでは、妊娠9週から受けられる赤ちゃんの健康診断である「NIPT」を業界最新の技術と業界随一の対象疾患の広さで行っております。遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が出生前診断を提供しておりますので、是非、お気軽にご相談ください。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。

ミネルバクリニックでご提供している不妊症遺伝子検査では、不妊症や性染色体異常に関連する遺伝子変異を特定することで正確な予後判定を行い、患者さんに最も適した治療法を特定することができるため、子供を持ちたいと願うすべてのカップルや個人に対して、最適な治療計画を導くことができます。是非ご検討ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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