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妊娠中毒症とは?三大症状と妊娠高血圧症候群との違い・適切な周産期管理の重要性を紹介

妊娠中毒症は、昔から産婦人科の医師が妊娠中期以降の妊婦さんを診察するうえで、もっとも慎重になる疾患です。重症化すると母体や胎児にさまざまな障害を引き起こし、命に関わるリスクもあります。

近年では医学の研究も進み、重症化の目安などが見直されたことから、2005年に日本産婦人科学会により「妊娠高血圧症候群(HDP)」と名称が改められました。

妊娠中毒(妊娠高血圧症候群)は、初期の段階では自覚症状がありません。そのため、妊娠中の定期検診での早期発見、早期治療が非常に重要となるのです。

この記事では、妊娠中毒症の三大症状と妊娠高血圧症候群との違いや原因、治療と予防についてご紹介します。

妊娠中毒症とは

主治医の診察を受ける妊娠中期の女性

妊娠中毒症は、妊娠中期から後期にかけて、とくに妊娠28週以降に発症しやすいのが特徴です。妊婦さんの7〜10%に発生するといわれており、妊娠に伴う合併症としては罹患数がもっとも多い症候群です。

冒頭でもご紹介したように、妊娠中毒症は現在「妊娠高血圧症候群」に改称、改訂されています。しかし、一般的にはまだ妊娠中毒症として認知している方も多く、妊娠高血圧症候群という名称に違和感を覚える方も少なくありません。

そこでここでは、妊娠中毒症の三大症状と妊娠高血圧症候群との違い、原因についてご紹介します。

妊娠中毒症の三大症状と妊娠高血圧症候群との違い

かつては、妊娠中期以降の妊婦さんで以下の3つの症状のうち、いずれか1つ、もしくは2つ以上該当すれば妊娠中毒症と診断していました。

  • 高血圧(拡張期血圧が140mmHg以上もしくは収縮期血圧が90mmHg以上)
  • 蛋白尿(1日0.3g以上たんぱくが出ている)
  • むくみ(1週間に500g以上の体重増加や朝からずっとむくんでいる状態)

近年の研究により、母体や胎児に影響を及ぼすのは高血圧であることがわかってきました。そのため、現在では「妊娠20週以降から出産後12週まで高血圧、もしくは高血圧に蛋白尿を伴う場合」と定義されています。

つまり、妊娠高血圧症候群の主体は高血圧であり、むくみや蛋白尿がみられたとしても、血圧が正常であれば当てはまらないということです。

妊娠中毒症の三代症状のひとつであったむくみは、妊娠に伴ってみられることの多い症状ですが、胎児に悪影響を与える可能性も低いため、妊娠高血圧症候群の定義から外されています。

蛋白尿も単体で現れる分にはそれほどリスクも高くありませんが、高血圧と同時にみられる場合は、妊娠高血圧症候群の中の「妊娠高血圧腎症」や「加重型妊娠高血圧腎症」に分類され、厳重に管理する必要があります。

妊娠高血圧症候群によるリスクについては、こちらの記事でも詳しくご紹介しているのでぜひ参考になさってください。

→「妊娠高血圧症候群とは|リスクや治療法・予防法を紹介

妊娠中毒症は妊娠そのものが原因?

従来の妊娠中毒症は、妊娠によって起こる体の変化が負担となり、それに対応できないために起こる適応不全症候群と考えられていました。簡単にいうと妊娠そのものが原因ということになります。そう考えられる理由は、多くの場合出産すると症状が軽快するからです。

しかし実際のところ、妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群に改称された現在でも、その原因ははっきりとわかっていません。

もっとも有力なのは、妊娠15週目までに胎盤の血管が正常とは異なる作られ方をしている説です。

胎盤は子宮にくっついており、細胞が子宮壁の中に侵入していくのですが、その際に子宮側の血管の壁を一度破壊し、胎児に血液が流れやすくなるよう血管の壁を作り直します。

妊娠高血圧症候群では、このときの血管の壁の作り直しが十分になされなかった可能性があり、母体から胎児への酸素や栄養素の供給がうまくいかず発育不良となるため、無理に酸素や栄養素を送り出そうとした結果高血圧になってしまうと考えられています。

ただ、赤ちゃんが順調に育っているケースや、逆に赤ちゃんが発育不良であっても妊娠高血圧症候群にならないケースもあるので、根本的な原因についてはまったく明かされていないといってもよいでしょう。

妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)の治療と予防について

妊娠中毒症の診断をしている産婦人科の女性医師

妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)は、重症化すると頭痛や胃痛、けいれん、呼吸困難などの症状を伴うことがあります。近年、そのような例は減少傾向にあるものの、依然として重症化した際の死亡率は高く、現在でも日本の死因別妊産婦死亡の原因で産科出血とともに多くを占めています。

また、流産や早産、未熟児の可能性も高まるため、早期に発見し適切な治療を受けることが重要です。ここでは、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)の治療と予防についてご紹介します。

治療には総合的な診断が必要

妊娠高血圧症候群は、症状の重さや発症時の妊娠週数、胎児の発育状態などを検査したうえで総合的に判断することが重要です。すでに重症化している場合は、入院して治療を受けることになりますが、軽症の方でもいきなり重症化する可能性もあるため、入院を勧められるケースもあります。

妊娠高血圧症候群と診断されたらまずは安静にし、横になって体にかかる負担を軽くすることが大切です。以下は、妊娠高血圧症候群の方が横になって安静にすることのメリットです。

  • 腎臓に流れる血液の量が増加してむくみが取れる
  • 安静にすることによって血圧が下がる
  • 子宮に流れる血液量が増え胎児への酸素、栄養供給が増える

妊娠高血圧症候群の治療では、安静療法とともに食事療法を取り入れるのが一般的です。食事は1日1800kcal、塩分は6.5〜8gを目安に摂取しましょう。

また、他にも以下のような治療を取り入れることがあります。

  • マグネシウム療法:子癇発予防(妊娠20週以降にはじめて起きたけいれん発作)のためにマグネシウム製剤を投与。重症化すると投与すると行われる。
  • 降圧剤:血圧を調整する薬を投与して赤ちゃんの状態が悪化するのを防ぐ。
  • 分娩:血圧が高すぎる場合は、早産であっても赤ちゃんを早めに分娩させて妊娠を終了させる。

重症の場合は、入院をして徹底した食事の管理と降圧剤での血圧管理が行われます。しかし、急激な血圧の下降は赤ちゃんにとってあまり良いことではありません。医師の判断による慎重な降圧剤の投与が必要です。

それでも症状が悪化していくと、ママと赤ちゃんの命に関わる恐れもあります。医師が危険だと判断した場合は、帝王切開で早期に出産することも。

経膣分娩での出産が可能なケースもありますが、陣痛によって血圧が急上昇することもあり危険です。経膣分娩を希望されている方も、医師に帝王切開が必要と判断されたときは従うようにしましょう。

予防には適切な周産期管理が重要

妊娠高血圧症候群の多くは、適切な周産期管理で予防できるといわれています。万が一発症してしまったとしても、早期に発見し適切な治療を行うことで、母体と胎児への影響を最小限に食い止められます。

もともと高血圧の方や腎臓の疾患、糖尿病などの持病をお持ちの方、肥満、35歳以上の方や15歳未満の方、多胎妊娠の方などはとくに注意しなければいけません。

以下は、妊娠高血圧症候群予防のための生活指導および栄養管理です。

  • ストレスを避ける
  • 軽度の運動
  • 規則正しい生活
  • 適正体重を保つ
  • 適度な水分補給
  • たんぱく質を摂取する(1日に理想体重×1.2〜1.4g)
  • カルシウムや海藻中のカリウム、魚油、肝油、マグネシウムが多く含まれる食品を意識して摂取する
  • 塩分を1日10g以下におさえる

妊娠中はきちんと定期検診を受け、その都度血圧の測定や尿検査、体重測定を行い、全身状態を観察することが重要です。また、日常生活の中でも家事や運動、休息、睡眠が偏らないように注意し、過労に陥らないように過ごしましょう。

妊娠高血圧症候群の予防については、こちらの記事でも詳しくご紹介しているので、ぜひ参考になさってください。

→「妊娠高血圧症候群とは?3つの予防法を紹介

まとめ

妊娠中毒症の三大症状と妊娠高血圧症候群との違いや原因、治療と予防についてご紹介しました。

妊娠中毒症とは、現在妊娠高血圧症候群と呼ばれる症候群です。従来は高血圧と蛋白尿、むくみのいずれか1つでも症状がある場合は妊娠中毒症と診断されましたが、現在ではむくみは条件から外されています。

原因についてははっきりと解明されておらず、誰にでも起こる可能性はありますが、体重管理や食事管理、日常生活を整えることである程度予防できます。

ただし、いくら自分で予防に努めていたとしても、起こってしまうことも。初期の段階では自覚できる症状もないため、定期検診をきちんと受けていないと、気づいたときには重症化していたということになりかねません。

妊娠中はこれまでにないストレスを受けることも多く、精神的にも大変ではありますが、万が一妊娠高血圧症候群と診断された場合は、必ず医師の指導のもと管理を受けるようにしましょう。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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