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「産休」という言葉を聞いて最初に思い浮かぶのは、女性が出産のために取得する休暇です。男性も育休が取得できることは一般的にも知られていますが、一部の大手企業以外で実際に取得する方は少ないようです。
そんな中、男性版の産休ともいえる制度がはじまるという報道を目にする機会も増えているのではないでしょうか。
近年、女性も仕事をもつことが普通になり、昔のように男性が外で働き、女性が家を守るという時代ではなくなってきました。
とはいえ、出産は女性にしかできないことです。とくに出産直後は母体へのダメージも大きく残っているため、父母が協力して赤ちゃんのお世話ができる男性産休の決定は、まさに現代に適した法改正だといえます。
しかし、法律が改正されるほど政府も積極的に男性の育休取得を推し進めているにもかかわらず、依然として取得率が上がらないのも事実です。
この記事では、男性育休の現状と普及しない原因、新設される男性版産休についてご紹介します。
育児・介護休業法とは
「育児・介護休業法」とは、労働者が仕事と出産や育児、もしくは仕事と介護などを両立できるように支援するための法律で、正式名称を「育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。
女性の社会進出や核家族化などによる家庭の機能の変化、少子化に伴う労働力不足の不安を解消するため、1992年に育児休業法として施行されましたが、その後は時代とともに改正が繰り返されてきました。
この法律では、育児休業について以下のように定められています。
- 子どもの年齢が1歳未満、条件を満たす場合は1歳6か月から2歳まで取得可能
- 女性は8週間の産後休業終了の翌日から子どもが1歳を迎える誕生日の前日まで申請可能
- 男性は子どもが生まれた日から1歳の誕生日前日まで申請可能
女性の産休は、産後8週間は労働自体が禁止されているため必ず取得することになりますが、育休は男女ともに自ら申請して取得する休暇です。日雇いの労働者は育休申請の対象になりませんので注意しましょう。
男性育休の現状と普及しない原因
日本では、育児・介護休業法が施行されているにもかかわらず、男性社員が育休を取得しにくい状況が続いているのが現状です。
実際のところ、厚生労働省が行った「令和2年度雇用均等基本調査」の結果によると、2020年度の男性の育休取得率は12.65%となっています。前年度と比較すると1.5倍以上も増えているものの、依然として女性の取得率とは比べものになりません。
さらに、問題はその取得期間で4割以上の男性が3日間以内、4〜7日が3割と、7割程度の男性が1週間も休んでおらず、取得率だけでなく取得期間にも問題があることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
では、なぜ男性の育休はこれほど取得率が低いのでしょうか。以下は、男性の育休が普及しない原因として考えられるものです。
- 会社で育休制度が整備されていないから
- 男性が育休を取得するとは言い出しづらい雰囲気だから
- 職場に前例となる男性育休取得者がいないから
- 収入減少の不安から
- 仕事が忙しいから
日本の多くの企業では、育休制度が整っていなかったり、育休を取得しにくい雰囲気だったりするようです。大手企業では、徐々に男性の育休取得義務化や奨励が活発化してきていますが、一般的にはまだまだ大きな壁があることを感じます。
新制度は、これらの理由で男性の育休取得が妨げられないように行われる法改定なのです。
新設される「男性版産休」について
政府は2020年5月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」において、2025年までに男性の育児休業取得率を30%まで引き上げることを目標としています。
しかし、男性版産休が施行されたとしても、これまでのように会社の制度や雰囲気などによって育休を取得しにくい状態が改善されなければ、30%という目標を達成できません。
今回新たに改正されるのは、育児・介護休業法の5つと、それに伴う雇用保険法の1つの項目で、段階的に施行されていきます。
ここでは、新設される男性版産休の目的、内容と施行日、給与について解説していきます。
育児・介護休業法改正の目的
今回、男性版産休といわれる新制度が設けられたのは、男性の育休取得がなかなか浸透しないことが主な理由です。超高齢化社会、少子化の進行による労働人口の減少を食い止め、家庭と仕事の両立を通して多様な生き方ができるように制定されます。
出産や育児による労働者の離職を防ぎ、共働きの夫婦が子育てしやすい環境を整備するためには、女性の産休や育休を充実させるだけでなく、男性も仕事と育児を両立させられる支援が必須です。
育児・介護休業法は、これまでも数回改正されていますが、今回の改正はまさに「男性の育児休業取得促進」が目的です。そのため、業務との調整がしやすく柔軟に利用できる制度にすることと、男性が育休を申し出やすい雇用環境にすることの2つが中心となっています。
新制度の具体的な内容と施行日
以下は、育児・介護休業法改正のポイントを施行日順に並べたものです。
- 事業者による環境整備・個別の周知を義務付け(2022年4月1日施行)
- 有期雇用労働者の取得要件緩和(2022年4月1日施行)
- 出生直後の時期における柔軟な育児休業取得(2022年10月1日施行)
- 育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)
- 取得状況の公表を義務付け(2023年4月1日施行)
ここからは、上記の内容を具体的にご説明します。
事業者による環境整備・個別の周知を義務付け(2022年4月1日施行)
現行の育休制度と今回の改正による新制度を取得しやすい環境に整備し、努力義務に留まっていた個別周知を、研修や相談窓口の設置などの複数の選択肢からいずれかを選択し、実施することも義務付けられます。
また、配偶者の妊娠出産を申し出た社員に対しても、個別に育休制度について周知するとともに、取得意思の確認も義務付けられることに。
その際、取得しないという方向への誘導を認めないことや、雇用環境の整備にあたって、希望通りの期間休業が取得できるように事業者が配慮することを指針によって示す予定です。
有期雇用労働者の取得要件緩和(2022年4月1日施行)
これまでの育児休業制度は、パートや契約社員などの有期雇用労働者に対して、継続して雇用された期間が1年以上であることや、子どもが1歳6ヶ月になるまでの間に退職することが明らかでないなどの要件がありました。
しかし、改正後はそのうちの雇用期間についての取り決めを撤廃し、無期雇用労働者と同じ要件となります。
出生直後の時期における柔軟な育児休業取得(2022年10月1日施行)
今回の改訂でもっとも注目されているのが、男性版産休とも呼ばれる、出生直後の時期における柔軟な育休の枠組みの創設です。
現行の制度では、子どもが1歳になるまでの間に申請した期間の休業を取得できましたが、改正後はこれまでの育休とは別に、出産日から8週間以内に最長4週間の育休を取得可能となります。
しかも、この4週間を分割して2回に分けて取得できるようになる上に、休業中の就業が可能になることから、職場に迷惑がかかることを懸念していた男性も取得しやすくなるのが特徴です。
取得の申請期限も柔軟化され、従来の1か月前という期限から、2週間前へと短縮されています。
育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)
男性版産休をのぞく育児休業についても、分割して2回まで取得できるようになります。この制度は、男性だけでなく女性も利用可能です。
保育園が決まらないなどの理由で育休を延長する場合でも、開始日を柔軟にすることで、各期間の途中でも夫婦交代が可能となります。
取得状況の公表を義務付け(2023年4月1日施行)
これまでは、プラチナくるみん企業(厚生労働省の認定を受けた子育てサポート企業)のみが公表義務を負っていました。しかし法改正後は対象範囲が大きく広がり、従業員が1,000人以上の企業では、育休の取得状況を公表することが義務付けられます。
産休、育休中の給与について
産休、育休中の給与については、各企業の規定によって異なります。給与の何割かを支払う会社もあれば休暇中は無給になる企業もあるため、取得を検討している場合は、早めに確認してみるとよいでしょう。
ただし、雇用保険に加入していれば「育児休業給付金」という手当が支給されます。男性の場合は、配偶者が出産した当日から支給されるので、完全に無給になることはないでしょう。最初の6か月は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」、それ以降は50%です。
社会保険料についても、育休の保険料免除要件が見直され、短期の場合でも保険料が免除されます。
まとめ
男性育休の現状と普及しない原因、新設される男性版産休についてご紹介しました。
従来の育休では、取得中の仕事が認められておらず、それが男性の育休取得の妨げになっているとの指摘がありました。
今回の改正では、労働者の希望により事前に社内で労使協定を結ぶことで、育休中に一定の業務を行うことが認められているなど、柔軟に対応できるようになっています。
ただ、今回の改正でも男性労働者が配偶者の出産当日に立ち会うための法的保証がないことに変わりありません。出産予定日やそれ以降の出産では、男性労働者が希望通りに育休を取得することで出産に立ち会うことはできますが、予定日よりも前に出産した場合は立ち会えない可能性が高いということです。
今回の改正でも、男性が育休を取得しやすくなる制度が導入されています。しかし今後も、育休を取得する男性が育休中に育児に集中し、安心して復職できるような環境を整えることが大切です。