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ヘパリン注射をしている妊婦さんはNIPTを受けることはできるのでしょうか?また、検査結果への影響やリスクはあるのでしょうか?
結論から申し上げますと、ヘパリン注射をしていてもNIPTを受けることはできます。
しかし、NIPTとヘパリン注射の組み合わせは、検査結果や胎児への影響が懸念されるため、適切に対応しなければいけません。
本記事では、NIPTとヘパリン注射の関係性について、わかりやすく解説しています。
ヘパリン注射とは?
ヘパリン注射といえば、血栓症や透析の患者さんが使うイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、妊婦さんの治療に用いられることもあります。
ヘパリン注射の作用
ヘパリン注射とは、ヘパリンカルシウムという液体が入った注射器型の薬のことを指します。
ヘパリンカルシウムには血液が固まるのを防ぐ作用があり、主に血管が血液で詰まってしまう病気(血栓症)の治療や予防に役立てられています。
以下にヘパリン注射の特徴をまとめています。
【ヘパリン注射の特徴】
お薬の形状 | 注射器 |
効果・作用 | 血液が固まるのを防ぐ |
注射部位 | 太もも、腹部など |
副作用 | ・注射部位の赤み、痛み ・血がとまりにくくなる ・だるさ、めまい、吐き気など |
ヘパリン注射の目的
妊婦さんへのヘパリン注射は、不育症(*1)の治療目的として行われます。この治療をヘパリン療法と呼んでいます。
*1不育症:流産や早産を繰り返してしまい、妊娠はするけれど赤ちゃんが育たない状態のこと。
不育症は原因不明で突発的に起こるものがほとんどですが、近年の研究により、一部の不育症は妊婦さんの血栓が原因であることがわかってきました。
たとえば、「抗リン脂質抗体症候群(血液が固まりやすくなる自己免疫異常)」や「血液凝固異常」といった疾患を持つ方は、血栓で血管が詰まることで栄養や酸素が赤ちゃんに届かず、不育になるのではないかと考えられています。
抗リン脂質抗体症候群や血液凝固異常の方にヘパリン療法を行うと、適切に胎児が育ってくれるケースが多くなり、今ではヘパリン注射は不育症の主な治療法となっています。
【妊婦さんが行うヘパリン注射について】
目的 | ・不育症の治療 ・流産リスクを減らす |
対象となる疾患 | ・抗リン脂質抗体症候群 ・血液凝固異常 ※上記以外でも処方されることがある |
治療期間 | 妊娠初期から分娩まで |
治療方法 | 自己注射製剤を1日2回、約12時間ごと |
費用 | 目安は以下の通り。 ・保険適用内…月1万円程度(自己注射指導管理料+薬代) ・保険適用外…月5万円以上かかることも |
保険適用 | 抗リン脂質抗体症候群と診断された方は保険適用 |
助成金 | 自治体によっては、保険適用外の方を対象に助成金を受け取れる |
つまり、妊婦さんのヘパリン注射は、お腹の中の赤ちゃんが健やかに育つことを目的に利用されるということもできます。
NIPTとヘパリン注射の関係性
ヘパリン注射は、妊娠初期から分娩まで1日2回の注射を毎日するため、どうしてもNIPTとタイミングが重なってしまいます。(注射期間には個人差があります。)
ここでは、NIPTを行う際にヘパリンがどのような影響を与えてしまう可能性があるのか、NIPTの仕組みとヘパリンの特性から関係性を紐解いていきます。
NIPTの仕組み
NIPTは、妊婦さんの血液中に含まれる胎児のDNAの断片を採取し、染色体疾患の有無を調べる出生前検査のひとつです。
しかし、採取したDNAの断片だけでは遺伝子情報が少なすぎるため、その断片を増幅させ、遺伝子情報を増やす作業を行います。
増幅させたDNAから遺伝子情報を読み取ることで、染色体異常を探し出すことが可能になるというわけです。
このDNAの断片を増幅させる特殊な方法を、PCR法と呼びます。
最近ではウイルス検査にPCR法を用いる機会が増えているため、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
ここでは、「NIPTはPCR法を使って遺伝子情報を調べるもの」ということを念頭に置いておきましょう。
ヘパリンの作用が遺伝子解析を阻害する可能性がある
ヘパリンは血栓症の治療や予防や治療に用いられる薬のため、血液に働きかける作用を持ちます。
ともすれば、血液を採取して調べるNIPTに影響があるのでは?と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、ヘパリン注射とNIPTの直接的な関係についてはまだ十分に研究が進んでおらず、直接的な関係性については確認できていないというのが現状です。
しかし、遺伝子研究の世界では、DNAの断片を増幅させるPCR法には阻害物質があり、そのひとつがヘパリンであることが定説になっています。
従来のRNA抽出法にて、ヘパリンによるPCR反応阻害を定量的に解析したところ、高度の阻害が認められ、誤判定の危険性が示唆された。
引用元:ヘパリンによるRT-PCR阻害の定量的評価とその対策-滋賀県立成人病センター
また、真偽は明らかではありませんが、ドイツでNIPTとヘパリンの影響を指摘する論文が発表されたこともあります。
ある民間検査機関の経験では、NIPT の結果が「no call」だった女性12人中9人が、検査時に LMWH (低分子ヘパリン)治療を受けていると遡及的に判断されました。
引用元:Noninvasive prenatal testing for aneuploidy using cell-free DNA – New implications for maternal health
現状では、ヘパリンによるNIPTへの影響は公式なものではないものの、ヘパリンがPCR法の阻害物質であることから、“PCR法を用いるNIPTにもヘパリンが影響をあたえる可能性がある”と考えられています。
ヘパリン注射を受けていてもNIPTは受けられる
一般的にはヘパリンがNIPTの結果に影響を与える可能性があると考えられているものの、NIPTを受けること自体は可能です。
ただし、NIPTへの影響リスクを回避するため、各クリニックごとに独自のルールを設け対応しています。
NIPTを行っているクリニックが、ヘパリン療法中の妊婦さんにどのような対応を行っているか調べてみました。
【各クリニックのヘパリン注射時のNIPT対応】
Hクリニック…NIPT前に一旦中止または使用前に検査
Kクリニック…検査当日の朝に行わず、検査後に注射
Nクリニック…検査24時間前からの使用を控える
Oクリニック…検査当日の朝に行わず、検査後に注射
以上のように、多くのクリニックではNIPT前のヘパリン注射を避ける旨の案内をし、検査への影響を予防しています。
なお、ミネルバクリニックのNIPTはヘパリンの影響を受けないので、ヘパリン注射を行っている妊婦さんも安心して受検を検討いただけます。
ヘパリン注射を受けている妊婦さんのNIPTで起こりうるリスク
ヘパリン注射を受けている妊婦さんがNIPTを受ける際には、どのようなリスクがあるかを事前に知っておく必要があります。
これは、リスクを事前に把握しておくことで、トラブルを未然に防ぎ、より安心して検査に臨めるようにするためです。
ヘパリン注射を受けている際にNIPTをするにあたって考えられるリスクは次の通りです。
正しい検査結果が得られないことがある
ヘパリンがNIPTに影響してしまうことで、正しい検査結果が得られない可能性があります。
具体的には、ヘパリンのPCR阻害効果が働いてしまうことでDNA増幅が適切に行われず、「判定保留(再検査)」となったり、ヘパリンがDNA自体に影響しNIPTが反応することで「偽陽性」となったりすることが考えられます。
ただし、こちらについては、薬の濃度が低くなるタイミングに合わせて採血をすることで、いくらか予防することが可能です。
ヘパリン注射を止めることで胎児に影響がでる可能性がある
ヘパリン注射をしていてもNIPTを受けられるクリニックのほとんどは、検査前のヘパリン注射の中止を案内しています。
しかし、先述のとおり、ヘパリン注射は血管の詰まりを解消し、胎児に酸素と栄養を送るためのものでもあるため、注射を止めてしまうことは胎児への影響が懸念されます。
そのため、注射を中止する期間や時間はできる限り短くしたいところです。
基本的にヘパリン注射は12時間間隔で行うため、前回の注射から12時間後のタイミングでNIPTを行い、その後すぐにヘパリン注射をするというのが望ましいでしょう。
クリニック選びに時間を要する場合がある
クリニックの中には、ヘパリン注射をしている妊婦さんのNIPTを断っているところもあります。
そのため、自分が希望しているクリニックが必ずしも対応可能であるとは限らず、病院選びに時間がかかってしまう可能性が考えられます。
また、注射の一時中止による胎児への影響を考えると、NIPT受検のタイミング(時間帯)に注意が必要です。
思うような日や時間に予約がとれず、NIPTを受けるクリニックがスムーズに決まらない可能性もあります。
ヘパリン注射を受けている妊婦さんはカウンセリング可能なクリニックで受けよう
ここまで説明したように、ヘパリン注射をしていてNIPTを受ける場合には、あらゆる事態を想定しながら検査を受けなければいけません。
【ヘパリン注射時をしている妊婦さんが知っておきたい注意点】
・NIPTが受けられない病院があるい
・スムーズな予約が難しい可能性がある
・ヘパリン注射の一時的な中止と胎児への影響の可能性がある
・判定保留(再検査)や偽陽性の可能性がある
想定される内容によっては、専門的な知識を必要とするものや、直接検査結果に結びつく事案もあります。
また、偽陽性の可能性があると頭では理解していても、いざ陽性の判定が出てしまうと、ほとんどの方は冷静ではいられません。
さらには、ヘパリン注射を中止してしまったことで、検査後も胎児への影響を心配し続けてしまうかもしれません。
こういったことを総合的に踏まえると、ヘパリン注射を受けられる方は、遺伝カウンセリングが受けられる病院でのNIPTの受験をおすすめします。
ヘパリン注射を受けている場合のNIPT受検リスクを相談できる
NIPTを受ける際、全ての認定施設と一部の無認可施設では「遺伝カウンセリング」を受けることができます。
遺伝カウンセリングは、NIPTと遺伝に精通している認定臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによって行われます。
認定臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーは、ヘパリン注射をしている方のNIPT受験の対応にも見識があり、検査におけるリスクや対処についての説明を受けられるほか、検査をするにあたって不安な点について相談することもできます。
遺伝カウンセリングは認可施設であれば必ず受けることができますが、ほとんどの無認可施設では実施していません。
事前にホームページや口コミで遺伝カウンセリングの有無をリサーチしておくようにしましょう。
認定臨床遺伝専門医によるカウンセリングが受けられるミネルバクリニックがおすすめ
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医である院長自らが遺伝カウンセリングを行い、妊婦さんと家族が安心してNIPTを受けられるよう努めております。
ヘパリン注射を受けている妊婦さんがNIPTを受ける際には、疑問や不安を抱えながら受験に臨まなければならないケースも少なくありません。。
そこで、医学的情報の提供だけでなく、心理的・社会的側面からもフォローできる臨床遺伝専門医の存在がとても重要になってきます。
【臨床遺伝専門医と遺伝カウンセラーの違い】
●臨床遺伝専門医:医師でなければ取得できず、医師33人以上のうち1200名程度の難関資格です。医学的な観点から遺伝に関する専門的な知識を提供し、倫理的、法的、社会的な問題にも考慮したフォローを行います。
●認定遺伝カウンセラー:医師でなくても取得できる資格です。心理的、社会的、倫理的な問題を考慮したフォローを行うことを目的としています。
また、ミネルバクリニックでは、妊婦さんが安心してNIPTを受けられるよう、次のような取り組みも行っております。
・臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングの実施
・検査結果が陽性の場合は相談の追加費用一切なし
・陽性判定後の羊水検査費用を最大15万円補助
・羊水検査は信頼できる病院をご紹介
・24時間つながる電話相談窓口を設置
ミネルバクリニック院長は医師であると同時に3人の子を持つ母でもあるため、医師としてだけでなく、あらゆる立場から患者さんの気持ちに寄り添えるよう心がけています。
NIPTに不安を持たれている方は、ミネルバクリニックへご相談ください。
まとめ
ヘパリン注射とNIPTの直接的な影響についてはまだ研究段階であるものの、多くの研究機関で、ヘパリンがNIPTの検査過程を阻害する可能性が指摘されています。
ヘパリン注射をしていてもNIPTを受けることはできますが、一部のクリニックでは対応してもらえないことがあります。
また、NIPTを受けられるクリニックでも、NIPT時にはヘパリン注射を一時中止する対応をとっているところがほとんどです。
ヘパリン注射を受けている妊婦さんがNIPTを受ける際には、受験の可否や判定保留・偽陽性の可能性、注射中止による胎児の影響などを考慮しておく必要がありますが、これには専門的な知識や第三者の心理的フォローが必要不可欠です。
そのため、ヘパリン注射をしている妊婦さんは、遺伝のスペシャリストによる遺伝カウンセリングを実施しているクリニックでのNIPT受検をおすすめします。
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニックでは、以下のNIPT検査を提供しています。少子化の時代、より健康なお子さんを持ちたいという思いが高まるのは当然のことと考えています。そのため、当院では世界の先進的特許技術に支えられた高精度な検査を提供してくれる検査会社を遺伝専門医の目で選りすぐりご提供しています。