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出生前にダウン症を発症しているか確認できる検査があります。一方で検査によっては、リスクを伴う場合もあります。
ダウン症に対する理解を正しく理解した上で、出生前診断を検討する必要があるでしょう。
そこでこの記事では、以下の内容についてお伝えします。
- ・ダウン症の基礎知識と合併症
- ・出生前診断と危険性
- ・ダウン症の妊娠率や平均寿命
最後まで読むことでダウン症について正しく理解でき、出産後の生活のイメージを持てます。
この記事がダウン症を妊娠した可能性のある方の不安解消になれば幸いです。
生まれるまでダウン症に気づかないことはあるの?
ダウン症の児を妊娠する可能性は誰にでもあります。
そして出生前診断は高精度でダウン症を見抜くことができる一方、100%正確であるとは限りません。そのため出生前診断を受けてダウン症を否定されていても、出産後にダウン症と診断されるケースもあります。
ダウン症の出生前診断として最も確実なのは羊水検査です。しかし羊水検査で陰性だった場合でも出産後にダウン症の診断を受けるケースもあります。
例えば、採取した羊水に正常細胞と異常細胞が混じったモザイク型というダウン症の場合、培養の過程で正常細胞だけ増殖することがあり、陰性判定になる可能性があります。
このように確実と言われる羊水検査でも100%ではありません。そのため、出生前診断などいかなる判定を行っても、最終的には出産までダウン症であるかどうかは分からないのです。
【両親に責任はない】ダウン症とは?
ダウン症であると診断を受けて「自分のせいでダウン症になったのでは?」と自分を責める方もいます。
しかしダウン症の多くは突然発症するものであり、妊娠をする以上誰にでもリスクがあります。つまり、両親が原因でダウン症を発症した訳ではありません。
そこでこの章では、以下の内容について解説します。
- ・ダウン症とは?
- ・ダウン症になる原因
- ・ダウン症の子どもの特徴
ダウン症であることは悪いことではありません。ただし、ダウン症について正しく理解しておかないと戸惑うことも多くあります。
ダウン症について正しい知識を補充しながら、出産後をイメージする参考にしてもらえると幸いです。
ダウン症とは?
ダウン症は23対のうち21番目に染色体異常があり発症する先天性障害です。
具体的には、21番目の染色体が通常より1本多い合計3本で構成されています。染色体異常関連疾患のうち発症率が最も高く、600〜800人に1人の割合で出生すると言われています。
運動・精神の遅滞など頻度の高い症状から、自閉症やうつ病の合併症があることも分かっています。ただし必ず合併しているわけではないため、あくまで可能性として考えておきましょう。
ダウン症になる原因
ダウン症は21番目の染色体が通常2本のところ3本になるトリソミーという状態で発症します。妊娠中に偶然染色体異常になることがほとんどであり、遺伝性は極わずかと言われています。
つまり、どのカップルにもダウン症を発症する可能性はあります。ただし、ダウン症の妊娠率を高める原因として年齢が関係していると言われているため、妊活は計画的に行うと良いでしょう。
ダウン症の子どもの特徴
ダウン症の子どもは、染色体異常疾患の影響により顔や表情が似ていると言われます。
具体的な特徴は、以下の通りです。
- ・顔が小さく扁平
- ・つり目
- ・斜視
- ・鼻が低い
- ・耳の位置が低い
- ・舌が大きい
これらの特徴があるため、ダウン症の子どもの顔や表情が似ていると言われます。ただし、ご両親の遺伝情報を受け継いで生まれてきたことに変わりはありません。そのため、お父さんやお母さんに似ている部分もあります。
また、原因については染色体異常に由来するのではと考えられています。しかし、現代の技術では染色体の詳しい働きは解明されていないため、原因は不明とされています。
ダウン症をはじめとする染色体異常疾患は、まだまだ解明されていないことが沢山あるのです。
胎児がダウン症と分かる3つの検査と時期
ダウン症の出生前診断には、以下の3種類があります。
- ・超音波(エコー)検査
- ・NIPT(新型出生前診断)
- ・羊水検査
また出生前診断について日本産科婦人科学会は、以下のように述べています。
妊娠中に胎児が何らかの疾患に罹患していると思われる場合や、胎児の異常は明らかでないが、何らかの理由で胎児が疾患を有する可能性が高くなっていると考えられる場合に、その正確な病態を知る目的で検査を行うことが基本的な出生前検査,診断の概念
つまり、胎児に重篤な病気や合併症がないかを妊娠中に知るための検査ということになります。出生前診断のメリットは、以下の通りです。
- ・生まれるまでに疾患や合併症などの知識補充ができる
- ・事前に出生後の生活をイメージしたり、対策をしたりできる
ただし出征前診断には、以下のデメリットも存在するため注意しましょう。
- ・検査結果が100%正しい訳ではない
- ・妊娠継続をやむを得ず断念した場合、中絶で一人の命が失われる
出生前診断はメリット・デメリットの表裏一体です。そのため、検査内容を十分理解した上で受けるようにしましょう。
では、詳しく解説します。
※引用文献:日本産科婦人科学会/「出生前に行われる検査および診断に関する見解」
改定案
1. 超音波(エコー)検査
ダウン症の診断を行うために最初に行われるのは、超音波検査(エコー検査)です。
超音波検査から分かるダウン症の特徴は、以下の3つです。
- ・首のむくみ
- ・鼻が低い
- ・心臓の血液の逆流
最もメジャーな所見は、首のむくみです。
具体的にはエコー画像上、高頸部から首の付け根にかけて一直線になり、くびれがありません。この所見が見つかると精密検査(胎児ドック)を受けるように勧められます。
また心臓の血液の逆流、特に右心室と右心房の間にある三尖弁(さんせんべん)の逆流は高確率でダウン症であると言われています。
ただし、健康な胎児でも多少の逆流は見られること、初期の血液逆流は専門医でも診断が難しいため、逆血があるだけでダウン症が確定するわけではありません。
2. NIPT(新型出生前診断)
NIPT(新型出生前診断)とは、ダウン症の胎児かどうかを確認する出生前スクリーニング検査のことです。
検査方法は母親の採血を行うだけとシンプルであり、負担が少ないのがメリットです。母親の血液に浮遊する胎児のDNAの断片を分析して、染色体異常を解析します。
21番目の染色体異常に対する特異度(感度のこと)は99.9%と言われており、精密検査として精度は高いでしょう。しかし、NIPTはあくまでダウン症かどうかを予測する検査にすぎず、非確定診断であることを知っておきましょう。
確定診断をするには、次に紹介する羊水検査を行う必要があります。
※参考資料:日本産科婦人科学会/「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)」指針改訂についての経緯・現状について
3. 羊水検査
羊水検査とは、胎児の浮かぶ子宮内の羊水を採取して染色体異常を分析する検査です。胎児は羊水の中で育っています。そのため羊水には胎児の細胞が含まれており、染色体情報もあります。
超音波ガイド下で母胎の安全を確認しながら、お母さんの臍付近から子宮目掛けて針を刺します(穿刺)。痛みの伴う検査であることに加えて感染症や流産のリスクもあるため、無意味な検査は避けましょう。
検査結果は2週間程度かかり、検査費用は自己負担で20万円前後と安くありません。リスクや費用を伴う検査であるため夫婦や家族と相談しつつ、必要性に応じて受けるようにしましょう。
※参考資料:日本産科婦人科学会/「出生前に行われる検査および診断に関する見解」改定案
20代の女性がダウン症の児を妊娠する確率
20歳代におけるダウン症の妊娠率は1667〜1000人に1人であり、決して高確率ではありません。しかし、20歳代でも妊娠する可能性は十分にあることを理解しておきましょう。
以下のグラフは、年齢別に見たダウン症の妊娠率を示したものです。
グラフからもわかる通り、年齢に比例してダウン症の子どもの生まれる頻度が高くなります。その理由として精子や卵子も年齢とともに劣化して染色体異常になりやすいことが考えられます。
※NIPT Japanより画像を引用
ダウン症の児の平均寿命
ダウン症の平均寿命は、60歳前後と伸びています。平均寿命が延びた要因は以下の通りです。
- ・ダウン症や合併症に対する治療成績の向上
- ・ダウン症を支える社会的なサポートや制度の整備
- ・発達支援の拡充
特に出生直後から手術が必要な心・消化器合併症に対する手術成績が向上したことは、大きく影響しているでしょう。
また、ダウン症に対する社会的理解が深まったことも要因の1つと考えられます。ダウン症に対する社会的な理解や関心も徐々に高まりつつあります。一方で、暮らしやすい社会の実現にはまだまだ課題も多く、今後も継続した整備が必要そうです。
※参考資料:関西大学 人間健康学部/21トリソミーのある方のくらし P3
ダウン症の4種類の合併症と治療方法
ダウン症の子どもは、合併症を発症して生まれてくることが多くあります。
代表的な合併症は、以下の通りです。
- ・心疾患
- ・消化器疾患
- ・精神疾患
- ・その他の合併症
合併症の具体的な症状や治療方法について詳しく知りたい方は、以下の記事が参考になります。
ダウン症の赤ちゃんを産む人の特徴とは?診断・合併症や出産後のサポート制度まで解説
【体験談】ダウン症の胎児を妊娠した親が抱える悩みと解決策
妊娠中にダウン症を指摘され、様々な不安を抱えている方もいるのではないでしょうか?
そこでこの章では、ダウン症の妊娠や子育て経験のある方の実体験を踏まえて、よくある悩みにお答えします。
- 悩み①:出生前診断検査の安全性に不安がある…
- 悩み②:ダウン症の妊娠は続くのではないか…
- 悩み③:ダウン症の子供より先に亡くなったらどうしよう…
ダウン症の子どもと付き合っていくための参考にしていただけると幸いです。
悩み①:出生前診断検査の安全性に不安がある…
出生前検査については、検査内容や副作用について十分理解した上で受けましょう。
特に羊水検査は確定診断になる一方で、母親に針を刺す痛みや苦痛を伴います。また、感染症や流産のリスクもあります。
超音波(エコー)検査やNIPT(新型出生前診断)は安全性が高いものの、確定診断にはなりません。
医師から検査の安全性を聞き、納得した上で受けましょう。
悩み②:ダウン症の妊娠は続くのではないか…
一度ダウン症を妊娠すると、次回以降の再発率が高まるという噂に根拠はありません。
その理由として、染色体の働きや染色体異常については解明されていないことが多く、再発率に対する決定的な根拠がないからです。
ただしハイリスク因子として、卵子や精子の劣化を伴う高齢妊娠が挙げられます。実際、高齢であるほどダウン症の妊娠率が高いという統計もあります。
ダウン症に関する根拠のない噂も多数あるため、気になったら産婦人科で質問してみましょう。
※参考資料:名古屋市立大學 医学部 産婦人科学教室/羊水検査よりみた21トリソミー型ダウン症の再発率について P322
悩み③:ダウン症の子供より先に亡くなったらどうしよう…
現在、ダウン症の平均寿命は60歳前後と言われています。そのため、ご両親が先に亡くなる可能性は十分あります。
自分が亡くなった後の生活を保証するためにも、社会的なサポートについて十分理解しておく必要があります。
具体的な社会的サポートについては、以下の記事が参考になります。
【新生児】軽度ダウン症とは?合併症や成長発達、年齢別に見た出生率まで解説
まとめ: 正しい知識を持ち出産の有無を決めよう
以上、ダウン症の基礎知識から出生前診断、具体的な合併症とその治療について詳しく解説しました。
妊娠中にダウン症であることを指摘され、出産やその後の人生に不安を持つのは当たり前の反応です。そこで大切になるのが、ダウン症に対する正しい理解をしておくことになります。
ダウン症の出生前診断は検査精度が高いものの、検査内容によっては苦痛、感染症、流産など様々なリスクを伴います。医師からの説明を十分理解した上で検査を受けるようにしましょう。
またダウン症とは染色体異常症の一種で、多くは特徴様顔貌や心臓・消化器などの疾患を合併します。出生直後から手術などの治療が必要な緊急性の高い合併症もあり、ご両親の肉体的・経済的な負担が大きいことも予測されます。
治療成績も向上しているため、平均寿命も60歳前後と高まっています。ご両親が先に亡くなることも考えて、生活環境の整備や社会的なサポートの活用は必須と言えます。
この記事が、現在ダウン症の胎児を妊娠している方の不安の解消や今後の参考になれば嬉しいです。