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DNAと遺伝子の違い【妊婦の方へ】出生前検査のメカニズムが分かる

DNAとは、遺伝情報を保管する場所のことです。人が受精卵から胎児へ、赤ちゃんから成長していくために行うタンパク質の合成に関する情報を扱っています。

妊娠中に出生前検査について調べるとDNAに触れた記事も多数あります。

そこでこの記事では、妊娠中の方に向けて、以下の内容を解説します。

  • ・DNA に関する基礎知識
  • ・遺伝子との違い
  • ・DNA 検査と遺伝子検査

DNAと遺伝子を混同して考えている方もいますが、実は全く別物なのです。これらの違いについても触れつつ、妊娠中の 方が出生前検査を検討できるような内容もお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

DNAとは?

この章では、 DNA に関する基礎知識として、以下の内容をお伝えします。

  • ・DNAとは?
  • ・DNAの構造
  • ・タンパク質の合成|転写と翻訳
  • ・タンパク質の重要性

この章を読むだけで、DNAに関する基礎知識を体系的に学ぶことができます。出生前検査についてしっかりと理解するためにも必要なので、ぜひご活用ください。

DNAとは?

DNA(デオキシリボ核酸)とは、デオキシリボース(糖)・リン酸・塩基の3つから構成される物質の遺伝情報の保管場所のことで、連なり合ってヌクレオチド(高分子化合物)となります。そして、塩基は、以下の4種類から構成され、配列の違いで遺伝情報が決まります。

  • A:アデニン
  • G:グアニン
  • C:シトシン
  • T:チミン

ただし、遺伝情報を持った塩基配列は全体の「約1.5%」のみで、残りの「98.5%」は遺伝情報をコントロールする働きがあると考えられています。

複数のDNAが繋がると二重らせん構造となり、遺伝情報を持った遺伝子になります。最終的にDNAからなる二重らせん構造は折り畳まれて染色体となり、細胞内の核に収納されるのです。

DNAの構造

DNAは「二重らせん構造」からなります。

体を構成する細胞の核内には染色質(クロマチン)があり、DNAがヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きついて構成されています。つまり、染色質はDNAとタンパク質の複合体ということです。

DNAの特徴は、以下の2つです。

  • ・二重らせん構造
  • ・「リン酸」「糖」「塩基」からなる高分子化合物

DNAが二重らせん構造というのを、中学校の理科の授業で習った記憶のある方もいるのではないでしょうか?

以下の厚生労働省の図解が分かりやすいので、ご覧ください。
ゲノム

厚生労働省/ゲノム編集技術応用食品を適切に理解するための 6つのポイント P3より画像引用)

AとT・GとCがペアになり結合することを相補性と言い、このことで二重らせん構造になります。

参考資料:厚生労働省/ゲノム編集技術応用食品を適切に理解するための 6つのポイント P3

タンパク質の合成|転写と翻訳

DNAにはタンパク質を合成する働きがあります。そして、ヒトの体の基盤となるタンパク質は、20種類のアミノ酸から作られます。1種類でもかけるとタンパク質の合成ができません。

また、人体は約60%の水分で構成されており、次いでタンパク質が「約20%」を占めます。このことからも体を作る上で非常に重要な要素であることは間違いありません。

細胞の核内には体の細胞(タンパク質)を作るためのアミノ酸の配列情報が記録されたDNAがあります。体を作るための設計図をイメージすると分かりやすいでしょう。

DNAの中にある遺伝情報は重要なものなので、核外に持ち出すことはできません。例えるなら、企業の機密情報を社外に持ち出せないイメージです。

持ち出す代わりに、DNA情報はmRNAにコピー(転写)して、核外でリボソームと結合してタンパク質を合成(翻訳)します。この一連の遺伝子の発現を「セントラルドグマ」と呼びます。

参考資料:厚生労働省 e-ヘルスネット/アミノ酸

タンパク質の重要性

タンパク質は体の20%を閉める重要な構成要素であることは、前章までに分かったと思います。そこでこの章では、実際に合成されたタンパク質が、どのような器官に分化するのかについてお伝えします。

合成されたタンパク質は、以下の器官へと分化します。

  • ・筋肉の収縮・膨張を担うアクチン・ミオシン
  • ・皮膚や骨などのコラーゲン
  • ・爪や髪のケラチン
  • ・血糖値を下げるインスリンホルモンの受容体
  • ・免疫グロブリン
  • ・血液のもととなるヘモグロビン
  • ・食後に働くタンパク質分解酵素であるアミラーゼ

つまり、タンパク質は筋肉・臓器などの「体構成成分」と、ホルモン・酵素・抗体などの「体調節機能成分」を構成するもとになります。「丈夫な体になるために肉や魚などのタンパク質を食べなさい」と小さい頃に言われるのは、このためです。

参考資料:厚生労働省 e-ヘルスネット/たんぱく質(たんぱくしつ)

遺伝子とは?

美肌遺伝子検査

この章では、遺伝子について以下の内容をお伝えします。

  • ・遺伝子とは?
  • ・遺伝情報とは?

DNAとの違いについても触れるため、DNA検査と遺伝子検査の違いについても理解しやすくなるでしょう。

では、1つずつ解説します。

遺伝子とは?

遺伝子とは、ヒトの体を作るための詳しい設計図のことです。

脳には脳、心臓には心臓に必要なタンパク質の合成方法が記録されており、ヒトが成長していく過程で行われる細胞分裂に不可欠な情報です。これらの遺伝情報がうまく伝わらなかった場合、先天性の遺伝子異常を発症する原因になります。

ヒトの体はおよそ3万個の細胞からできています。これらの一つひとつの細胞内には核と呼ばれる遺伝情報の収納ケースがあり、その中にDNA(遺伝情報の集合体)が入っています。そして細胞分裂の目的に合わせた遺伝情報を必要時、コピーして使うのです。

では、次に「遺伝情報」について詳しく見ていきましょう。

参考資料:厚生労働省 医薬・生活衛生局食品基準審査課/新しいバイオテクノロジーで作られた食品について

遺伝情報とは?

遺伝情報とは、ヒトの体を作るタンパク質の設計図のことです。そして、DNAで保管している遺伝情報の総称を「ゲノム」と呼び、人間なら「ヒトゲノム」と言われます。

私たち親子や家族が似ているのは、両親のそれぞれから1/2ずつの遺伝情報を受け取り、受精するからです。分かりやすく言うと、両親と同じ遺伝情報を受け継ぎ、同じ設計図を使ってタンパク質の合成を行っているということです。

DNA全体のうち、遺伝情報が占める割合は「約1.5%」です。残りの「98.5%」は遺伝情報を持っていませんが、遺伝子の働きをコントロールする役割があることが分かってきました。

このように遺伝情報は、ヒトの体を作るための設計図として必要不可欠です。

参考資料:早稲他大学ウィークリー/〈生物学〉遺伝情報はどう伝わるか

DNA検査と遺伝子検査の違い

遺伝子工学イメージ 遺伝子検査 再生医療 DNA

前章まで読んでくださった方ならDNA検査と遺伝子検査の違いが何となく分かったのではないでしょうか?

そこでこの章では、DNA検査と遺伝子検査の違いについて、より詳しく学んでいきましょう。

これらの違いがしっかりと理解できれば、妊娠中に先天性異常を調べるのに、どちらの検査が必要か選べるようになります。

DNA検査(鑑定)とは?

DNA検査は、個人の識別をするために用いられる検査です。

具体的には、以下の内容を調べられます。

  • ・個人の特定
  • ・性別判定
  • ・親子関係

DNA検査の対象者の生死に限らず検体が入手できれば調べることができます。以下の場面においてDNA検査が有効です。

  • ・警察の捜査(犯人の特定、死体個人の特定)
  • ・親子鑑定(本当の親の特定)
  • ・代理の証言(認知症や精神疾患などで証言ができない時の客観的データ)
  • 検査には、血液もしくは口腔内などの細胞が用いられます。検査精度はほぼ100%と信ぴょう性が高く、警察の捜査に用いられるのも納得です。

    妊娠中に先天性異常を探る検査をイメージされる方もいますが、それは次に解説する「遺伝子検査」です。

    参考資料:警察庁/科学技術の活用

    遺伝子検査とは?

    遺伝子検査は、遺伝子の構成(DNAの塩基配列)を解析して遺伝子の異常がないかを探るものです。

    具体的には、DNAの塩基配列を分析すると、以下の内容が調べられます。

    • ・生まれつきの体質や素質
    • ・出生後にかかる可能性の高い病気

    例えば、がんの遺伝的要因は「約30%」であり、遺伝子検査により将来がんになる可能性が分かります。ただし、がんに限らず多くの病気は、出生後の生活習慣に大きく左右されます。そのため、遺伝子検査で悪い結果だとしても改善の余地は十分あるでしょう。

    また、妊婦であれば出生前検査として先天性異常がないかを確認する手段として遺伝子検査が用いられます。その場合、以下の障害が予測できます。

    • ・ディジョージ症候群
    • ・1p36欠失症候群
    • ・ウォルフ・ヒルシュホーン症候群
    • ・ねこ啼き症候群
    • ・プラダー・ウィリー症候群・アンジェルマン症候群

    検査費用も種類によりますが、およそ20万円と決して安くないことがデメリットでしょう。もちろん保険適応外であり、助成金は出ません。

    一方で出産前から胎児の状態が分かり、出産後の育児・生活や経済的な負担など様々なことを事前にイメージできるメリットがあります。

    必要性と経済的な負担を天秤にかけて、検査を受けるか決めましょう。

    参考資料:NIPT Japan/NIPTの検査費用はいくらですか?

    染色体・遺伝子検査を受けられる施設

    ヘルスケアと医学。 医療と技術。 病院の背景にデジタル タブレットに取り組んでいる医師

    先天性異常を探る染色体・遺伝子検査は、ミネルバクリニックで受けることができます。ミネルバクリニックならオンライン診療で全国どこからでも受付が可能です。

    検査自体は採血のみなので、5〜10分で終わります。採血による痛みはありますが、比較的苦痛や侵襲を抑えられるメリットがあります。ただし地方都市では提携病院が少ないというデメリットがあります。

    また検査結果は、検査後1〜2週間で分かります。注意点として、染色体・遺伝子検査の精度は100%ではありません。医学的には非確定的検査であるため、確定診断がほしい場合は「羊水・絨毛検査」という確定的検査を受ける必要があります。

    参考資料:ミネルバクリニック/オンライン診療のご案内

    【注意】先天性異常の検査前に考えておく3つのこと

    先天性異常の検査を受けるなら、この章でお伝えする以下の内容を考えておきましょう。

    先天性異常の検査は、時に「陽性判定」という残酷な現実を突きつけます。しかし、検査を受ける多くの妊婦は「自分の子どもだけは大丈夫」と安心しており、陰性判定を確認して安心したいと考えています。

    陽性判定だった場合、検査を受けたことを後悔するでしょう。そこで後悔しないためにも、検査前に以下のことを考えておくべきです。

    • ・「陽性判定」が出た時の対応方法
    • ・検査によるリスクや合併症
    • ・検査費用

    また、あなたにとって本当に必要な検査かを判断できる内容もお伝えしますので、ぜひご活用ください。

    考えておくこと①:「陽性判定」が出た時の対応方法

    検査を受ける以上、必ずしも陰性判定になるとは限りません。我が子に異常がないことを願い、安心したいだけなら染色体・遺伝子検査はおすすめしません。

    というのも陽性判定が出た場合、以下の選択が迫られるからです。

    • ・追加検査を有無(確定的検査)
    • ・妊娠継続 or 人工妊娠中絶

    染色体・遺伝子検査は確定診断ではありません。確定診断をしてもらうためには、確定的検査(羊水・絨毛検査)を受ける必要があります。

    これらの検査は受けられる期間が決められている上に、おかあさんの身体的な負担が大きいこと、合併症のリスクなど様々なデメリットがあります。また、先天性異常があった場合、「妊娠継続 or 人工妊娠中絶」で悩むでしょう。

    先天性異常を調べるなら、安心するのを目的にしてはいけません。今後の方向性について具体的なイメージを持つために受ける検査なのです。

    考えておくこと②:検査によるリスクや合併症

    検査を受けるリスクや合併症についても事前に考えておきましょう。

    特に確定診断のために行う羊水・絨毛検査は、お母さんのお腹から針を刺して行うため、以下の合併症が生じるリスクがあります。

    • ・穿刺痛(針を刺す事による痛み)
    • ・流産や死産
    • ・破水
    • ・出血
    • ・感染症

    針を刺す際の痛みはほとんどないと言われています。しかし、痛みの感度は人それぞれであり、必ずしも無痛である保証はありません。細い針を使うため、刺した跡は残りにくいのでご安心ください。

    最も重篤な合併症として、流産や死産など胎児死亡があります。原因は検査時の操作やその他様々な要因で引き起こされ、300人に1人の確率で発症すると言われています。

    検査により胎児の命を奪ってしまっては、本末転倒です。そのため、検査前に行われる医師の説明を十分理解した上で、受けるようにしましょう。

    この他にも出血や破水、感染症など母子ともに命の危険に晒される重篤な合併症があることも理解しておきましょう。

    参考資料:慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト/羊水検査

    考えておくこと③:検査費用

    先天性異常を調べる検査には、高額な検査費用が必要です。

    具体的に必要な費用は、以下の表をご覧ください。

    種類 方法 検査時期 費用 精度 合併症
    NIPT(新出生前診断) 採血 10週〜 約20万円 非確定診断 なし
    母体血清マーカー検査 15〜18週 約2〜3万円
    絨毛検査 お腹に針を刺す 11週目〜14週目 約10〜20万円 確定診断 流産
    死産
    破水
    感染症
    羊水検査 15〜18週

    任意検査であるため保険や助成金の適用外です。最初に受けるNIPT(新出生前検査)や母体血清マーカーは検査精度が高いものの、確定診断にはなりません。

    確定診断がほしいなら、追加で10〜20万円を支払い羊水・絨毛検査を受ける必要があります。検査結果によっては中絶を選択せざるを得ない状況となり、さらに経済的な負担が増すことも予測されます。

    このように先天性異常の検査を受ける前に、経済的な負担についても検討しておく必要があるでしょう。

    まとめ: 胎児の先天性異常を探るなら「遺伝子検査」

    患者に説明する医者

    以上、DNAの基礎知識について詳しく解説しました。

    要点を以下にまとめます。

    • ・DNA)とはデオキシリボース・リン酸・塩基から構成される物質
    • ・タンパク質の合成に関する異伝情報を保管している
    • ・人の体の20%はタンパク質で構成されている
    • ・遺伝子とは人の体を作るための詳しい設計図
    • ・出生前検査で受けるのは遺伝子検査
    • ・遺伝子検査では先天性異常や出生後に病気にかかるリスクが分かる
    • ・出生前検査を受けるまでに検査後の対応方法・合併症・費用について考えておく

    妊娠中の方が先天性異常を調べるなら「遺伝子検査」が必要になります。一方のDNA検査とは警察の操作などで用いられ、人物や性別の特定を行うための検査になります。

    お腹の赤ちゃんに先天性異常がないか気になる方は、遺伝子検査が有効です。しかし、この記事でお伝えした内容を考えて検査に臨まないと後悔することになります。

    後悔したくない方は、振り返りもかねてもう一度「【注意】先天性異常の検査前に考えておく3つのこと」を読んでください。

    この記事が、妊娠中の不安や出生前検査について詳しく知りたい方の参考になれば幸いです。

    プロフィール

    この記事の筆者:仲田洋美(医師)

    ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

    仲田洋美のプロフィールはこちら

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