目次
- 1 1. コフィン・シリス症候群3型とは ─ SMARCB1の変化で生じる神経発達症候群
- 2 2. 原因遺伝子SMARCB1 ─ 「クロマチンを開く装置」のコア部品
- 3 3. なぜ症状が出るのか ─ 部品が「減る」より「働きの質が変わる」変化
- 4 4. どんな症状が出るのか ─ 顔つき・小指・発達の3つの柱
- 5 5. 成人期に報告されている神経鞘腫症 ─ まだ頻度の分からない所見
- 6 6. SMARCB1の「3つの顔」─ 変化のしかたで病気が変わる
- 7 7. 遺伝形式と再発率 ─ ほとんどが新生変異、でも0ではない
- 8 8. 診断の進め方 ─ 血液から始められます
- 9 9. 出生前の検査という選択肢 ─ 知っておきたい前提
- 10 10. 療育・サポートとよくある誤解
- 11 よくある質問(FAQ)
- 12 参考文献
- 13 関連記事
📍 クイックナビゲーション
コフィン・シリス症候群3型(CSS3)は、世界でも報告数が限られるまれな神経発達症候群ですが、その原因であるSMARCB1遺伝子は、細胞が「どの遺伝子を使うか」を決めるうえで欠かせない中心的な部品をつくっています。ですからCSS3を理解することは、発達の遅れがなぜ起こるのか、そしてなぜ同じ遺伝子が成人期の腫瘍とも関わるのかという、より大きな仕組みの理解にもつながります。この記事では、症状・遺伝のしかた・診断・成人期に報告されている神経鞘腫症までを、臨床遺伝専門医の視点でやさしく解説します。
Q. コフィン・シリス症候群3型とは、どんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. SMARCB1という遺伝子の生まれつきの変化によって、発達の遅れ・特徴的な顔つき・小指(第5指)の低形成などが組み合わさって起こる、まれな神経発達症候群です。ほとんどが親から受け継いだものではなく、その子で新しく生じた変化(新生変異)によります。さらに近年、一部のタイプでは成人期に神経鞘腫症(良性腫瘍)が報告されることがあり、長い目での見守りが話題になっています。ただし頻度はまだ分かっていません。
- ➤原因 → クロマチンを開閉する「SWI/SNF(BAF)複合体」の中心部品SMARCB1の、片方の遺伝子の変化
- ➤主な症状 → 発達の遅れ・知的障害、特徴的な顔つき、小指の爪や末節骨の低形成、筋緊張の低下、哺乳や摂食の困難
- ➤遺伝のしかた → 常染色体顕性(優性)。大半は新生変異で、同じきょうだいが再び発症する確率は一般に低い
- ➤成人期の神経鞘腫症 → 一部の変異で報告される所見で、「全員に必ず起こる」ものではありません(頻度は未確立)
- ➤診断 → SMARCB1の遺伝学的検査。DNAメチル化のパターン(エピシグネチャー)が補助的に役立つ
🧬 コフィン・シリス症候群3型の基本情報
各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。
1. コフィン・シリス症候群3型とは ─ SMARCB1の変化で生じる神経発達症候群
コフィン・シリス症候群3型は、SMARCB1という1つの遺伝子の生まれつきの変化によって、発達の遅れ・特徴的な顔つき・小指の低形成などが組み合わさって起こる、まれな神経発達症候群です。名前の「3型」は、原因となる遺伝子の違いによって番号がつけられているためです。
コフィン・シリス症候群という病気自体は、1970年に初めて報告されました。長いあいだ原因が分からないままでしたが、2012年に、クロマチンを開閉する「SWI/SNF(BAF)複合体」を構成する複数の遺伝子の変化が原因であることが突き止められました[1]。SMARCB1はその中の1つで、この遺伝子が原因のタイプが「3型(CSS3)」と呼ばれています。
コフィン・シリス症候群は世界的にも報告数が限られる希少疾患で、これまでに数百人規模の患者さんが報告されてきました[2]。そのなかでSMARCB1が原因となるのは一部で、多くのタイプはARID1Bという別の遺伝子によるものです[3]。つまりCSS3は「まれな病気のなかの、さらに限られたタイプ」という位置づけになります。
診断を受けたご家族にとって、まず知っておいていただきたいのは、この病気はお子さんの育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではない、ということです。SMARCB1の変化は、多くの場合その子で偶然新しく生じたもので、誰かの責任で起きるものではありません。まれな病気だからこそ「なぜうちの子に」と感じられるお気持ちは自然なものですが、原因の輪郭を正しく知ることは、これからの見通しを立てる第一歩になります。
2. 原因遺伝子SMARCB1 ─ 「クロマチンを開く装置」のコア部品
SMARCB1は、DNAを巻き取ってしまい込んでいる構造(クロマチン)を、必要なときにほどいて遺伝子を読めるようにする「装置の中心部品」をつくる遺伝子です。この装置がうまく働かないと、多くの遺伝子のオン・オフのタイミングがずれ、体づくりや脳の発達に影響が出ます。
私たちのDNAは、ヌクレオソームという「糸巻き」に巻き取られています。この巻き取りがきついと遺伝子は読めず、ゆるむと読めるようになります。この巻き取りをほどく作業を担うのが、SWI/SNF(BAF)複合体という10以上のタンパク質でできた大きな装置です。SMARCB1(別名 BAF47/INI1/SNF5)は、この装置の土台となるコアサブユニットのひとつで、装置全体を安定させ、DNAをつかむ足場としても働きます。
💡 用語解説:クロマチンリモデリングとSWI/SNF複合体
DNAの巻き取りのきつさを変えて、遺伝子を「読める状態」と「しまった状態」に切り替えることをクロマチンリモデリングと呼びます。SWI/SNF複合体はそのための代表的な装置で、SMARCB1・SMARCA4・ARID1Aなど多くの部品が集まってできています。どの部品が壊れても発達に影響が出るため、これらの遺伝子による病気はクロマチン病(BAFopathy)とまとめて呼ばれることがあります。
SMARCB1にはもうひとつ重要な顔があります。それは腫瘍抑制遺伝子としての役割です。細胞が増えすぎないようにブレーキをかける働きをもつため、この遺伝子が完全に働かなくなると、特定の腫瘍が生じることが知られています。「発達を支える部品」であると同時に「腫瘍にブレーキをかける部品」でもあるという二面性が、後の章で扱う腫瘍の話につながっていきます。ご家族にとっては、この1つの遺伝子を理解しておくと、発達のことも将来の見守りのことも同じ土台で考えられるようになります。より詳しい分子の働きはSMARCB1遺伝子のページで解説しています。
3. なぜ症状が出るのか ─ 部品が「減る」より「働きの質が変わる」変化
CSS3で見られるSMARCB1の変化は、多くの場合「部品が減る」タイプではなく、作られた部品がBAF複合体の働きの質を変えてしまうタイプです。ドミナントネガティブ作用、あるいは機能の質的変化(gain-of-function)が病態に関わると考えられています。
CSS3で見つかるのは、タンパク質の一部だけが入れ替わるミスセンス変異や、ごく一部が抜け落ちるインフレーム欠失など、タンパク質そのものは作られる「非切断型」の変化が中心です。とくにアミノ酸1個分(364番目のリジン)が欠けるp.Lys364delは、CSS3で繰り返し報告される代表的な変化として知られています[3]。作られたタンパク質は装置に組み込まれるものの、ヌクレオソームとの相互作用を乱し、BAF複合体の働きを質的に変化させると考えられています。
2019年の研究は、この「じゃまをする」仕組みを分子レベルで示しました。SMARCB1のいちばん端の部分(C末端)には、ヌクレオソームの表面にある「酸性パッチ」と呼ばれるくぼみにはまり込むための突起があります。CSS3で繰り返し見られる変異は、まさにこの突起の部分に集中しており、装置がヌクレオソームをしっかりつかんで動かす力を失わせます[4]。こうした変異は、装置がヌクレオソームをつかむ力を弱め、BAF複合体の働きを質的に変えます。この作用は、正常な分子の働きまで妨げるドミナントネガティブ、あるいは機能の質的変化(gain-of-function)として説明されています。
正常なSMARCB1と、CSS3の変異SMARCB1のちがい
正常なSMARCB1
端の突起が酸性パッチにはまり、装置がヌクレオソームをつかんで動かせる → 遺伝子のオン・オフが正しく切り替わる
CSS3の変異SMARCB1
突起がはまらず、装置がヌクレオソームをつかむ力が低下 → BAF複合体の働きが質的に変化(ドミナントネガティブ/機能の質的変化)→ 発達に必要な遺伝子調節が乱れる
この「壊れて減る(ハプロ不全)」ではなく「働きの質が変わる」という違いは、ご家族にとっても意味があります。SMARCB1が完全に働かなくなるタイプの変化は、後で述べるまったく別の病気(腫瘍の病気)と結びつきます。同じ遺伝子でも「どこがどう変わったか」で現れる姿が大きく変わるという事実が、診断結果を読み解くうえでの土台になります。
4. どんな症状が出るのか ─ 顔つき・小指・発達の3つの柱
CSS3の症状は、発達の遅れ・特徴的な顔つき・小指(第5指)の低形成を中心に、筋緊張の低下や摂食の困難などが加わります。ただし症状の重さには幅があり、一人ひとり異なります。
コフィン・シリス症候群全体でよく見られるのは、太く濃い眉やまつげ、広い口、平坦な鼻の付け根といった顔つきの特徴、全身の多毛、そして小指の爪や末節骨(指先の骨)の低形成です[5]。哺乳や摂食の難しさから、乳幼児期に一時的に経管栄養が必要になることもあります[2]。これらは見た目の問題ではなく、体づくりの設計に関わる同じ原因から生じているため、まとめて評価することが診断の助けになります。
なかでもSMARCB1が原因のCSS3は、コフィン・シリス症候群のなかでも発達への影響が比較的大きいタイプとされ、重度の知的障害・けいれん・脳の構造的な変化・ことばの発達の強い遅れを伴いやすいことが報告されています[3]。ことばの発達については、コフィン・シリス症候群全体のデータで、約26%の方は言語がおおむね正常に発達する一方、約60%の方では強い発語の遅れがみられるとされ、幅の広さが知られています[2]。
SMARCB1のなかでも特定の変化は、より特徴的な所見と結びつくことがあります。たとえば37番目のアルギニンが変わるp.Arg37Hisという変異は、重い知的障害に加えて、脳室の脈絡叢が過形成を起こして水頭症をきたすことが報告されています[6]。このように「SMARCB1のどこが変わったか」によって現れやすい所見が異なるため、診断名だけでなく具体的な変異の情報が、その後の見守りの計画に役立ちます。ご家族にとっては、こうした情報を臨床遺伝の専門的な視点で整理してもらうことが、過剰な心配と見落としの両方を避けることにつながります。
5. 成人期に報告されている神経鞘腫症 ─ まだ頻度の分からない所見
近年、一部のCSS3の方で、成人期に神経鞘腫症(末梢神経にできる良性腫瘍が多発する状態)を生じた例が報告されています。ただしこれは「CSS3の全員に必ず起こる」ものではなく、注意して見守る価値のある新しい所見という位置づけです。
なぜ発達の病気が腫瘍と結びつくのでしょうか。カギは、SMARCB1がある22番染色体に、神経鞘腫症の主要な原因遺伝子であるNF2が近くに並んでいることです。生まれつきSMARCB1に変化をもつ人では、あとから同じ染色体の一部が失われると、SMARCB1とNF2の両方が一度に打撃を受けることになります。ここに残ったNF2側の変化が加わると腫瘍が生じる、という「複数の段階を踏むモデル」が提案されています[7]。
生まれつきの変化から神経鞘腫が生じるまで(提案されている段階モデル)
生まれつきの変化
後天的に失われる
変化が加わる
生じる
実際に、生まれつきのSMARCB1ミスセンス変異をもち、コフィン・シリス症候群の特徴と神経鞘腫症を併せもつ患者さんが報告されています[7]。また2024年には、CSS3で繰り返し見られるp.Lys364delをもつ成人女性が多発性の神経鞘腫を発症した例が、この変異では初めて報告されました[8]。これらはいずれも「一部の患者さんで報告された所見」であり、頻度や必要な検査の間隔はまだ確立していません。
ご家族にとって大切なのは、過度に不安になる必要はないけれど、頭の片隅に置いておくと安心につながるという受け止め方です。成人期に手足のしびれ・痛み・しこりなど気になる症状が出たときに、この病気の背景を知っていれば、早めに適切な診療につなげられます。神経鞘腫症のより詳しい枠組みはSMARCB1関連神経鞘腫症のページで解説しています。
6. SMARCB1の「3つの顔」─ 変化のしかたで病気が変わる
同じSMARCB1という遺伝子でも、「どのように変化したか」によって、まったく異なる3つの病気が生じます。この違いを知っておくと、検査結果や医師の説明がぐっと理解しやすくなります。
SMARCB1の変化がたどる3つの道
じゃまをする変化
(非切断型)
→ コフィン・シリス症候群3型(発達の病気)
完全に働かなくなる変化
(生殖細胞系列)
→ ラブドイド腫瘍素因症候群1型(乳幼児の腫瘍)
5’側・3’側・3’UTRなど
部分的に機能が残る変化
→ SMARCB1関連神経鞘腫症(成人の腫瘍)
1つめは、これまで見てきたコフィン・シリス症候群3型(CSS3)です。装置のじゃまをする非切断型の変化で生じる、発達の病気です。2つめは、SMARCB1が完全に働かなくなる変化で生じるラブドイド腫瘍素因症候群1型(RTPS1)で、乳幼児期に悪性の腫瘍を生じやすいタイプです。3つめが、遺伝子の両端(5’側・3’側)や3’UTRに多い、部分的な機能が残る(hypomorphic)変化で生じやすいSMARCB1関連神経鞘腫症で、成人期の良性腫瘍と結びつきます。最もよく知られた病的バリアントは、3’UTRにあるc.*82C>Tです。
この「同じ遺伝子・違う病気」という現象は、遺伝子型-表現型相関と呼ばれます。SMARCB1をはじめとするSWI/SNF複合体の遺伝子では、変異の種類や位置で病気の姿が大きく変わることが、系統的な解析で示されています[3]。ご家族にとってこの知識は、「SMARCB1に変化がある=どの病気も起こる」ではないことを理解する助けになります。CSS3の変化と、腫瘍の病気を起こす変化は別物であり、検査で見つかった具体的な変化の意味を、専門的に読み解くことが重要になります。なお、同じコフィン・シリス症候群でも別の遺伝子が原因のタイプがあり、4型(SMARCA4)や、よく似たニコライデス・バライツァー症候群との違いも、診断では丁寧に見分けます。
7. 遺伝形式と再発率 ─ ほとんどが新生変異、でも0ではない
CSS3は常染色体顕性(優性)遺伝で、片方の遺伝子に変化があれば症状が現れます。ただし多くは親から受け継いだものではなく、その子で新しく生じた変化(新生変異)によります。そのため、次のお子さんが同じ病気になる確率は一般に低いと考えられています。
「常染色体顕性」と聞くと、親のどちらかが同じ病気で、それが2分の1の確率で受け継がれる、という図をイメージされるかもしれません。しかしCSS3では、ご両親の遺伝子はどちらも変化がなく、その子ではじめて変化が生じていることがほとんどです[2]。これを新生(de novo)変異と呼びます。したがって、上のお子さんがCSS3であっても、次のお子さんに同じことが起こる確率は一般的な確率に近く、大きくは上がりません。
ただし、再発率は完全にゼロとは言い切れません。ごくまれに、ご両親のどちらかの生殖細胞(卵子や精子のもとになる細胞)の一部にだけ変化が潜んでいる生殖細胞系列モザイクという状態があり、この場合は次のお子さんにも変化が伝わる可能性がわずかに残ります。数字を正確にお伝えすると、「大きくは上がらないが、ゼロでもない」という説明が実態に近く、この幅を含めて理解しておくことが、次の妊娠を考えるうえで役立ちます。
次のお子さんを検討されている場合には、着床前遺伝学的検査(PGT-M)や、単一遺伝子疾患の出生前診断といった選択肢の存在も知っておく価値があります。どれを選ぶか、あるいは選ばないかはご家族の価値観によりますので、遺伝カウンセリングで情報を整理したうえで判断されることをおすすめします。当院の遺伝カウンセリングは臨床遺伝専門医が運営し、終始責任をもって支援します。
8. 診断の進め方 ─ 血液から始められます
CSS3の診断は、血液を使った遺伝学的検査でSMARCB1の変化を確認することが決め手になります。症状だけでは他型のコフィン・シリス症候群と見分けにくいため、遺伝子の情報が重要な役割を果たします。
実際には、コフィン・シリス症候群に関わる複数の遺伝子をまとめて調べるNGSパネル検査や、より広く原因を探る全エクソーム/全ゲノム解析が用いられます。CSS3の原因となる変化は血液から検出できるため、多くの場合、腫瘍組織のような特別な検体は必要ありません。発達の遅れという入口から、発達障害・知的障害の遺伝子検査として調べられることもあります。
近年は、診断を補助する新しい方法としてエピシグネチャーが注目されています。これは、SWI/SNF複合体の遺伝子に変化があると、血液のDNAに特有のメチル化(化学修飾)のパターンが現れることを利用した検査です。このパターンはCSS3だけに固有のものではなく、ARID1B・SMARCB1・SMARCA4によるコフィン・シリス症候群や、SMARCA2によるニコライデス・バライツァー症候群など、複数のBAFopathyで重なりをもつことが分かっています。そのため、遺伝子検査で意味のはっきりしない変化が見つかったときに、それが本当に病気に関わるものかを判断する助けになります[9]。
💡 用語解説:エピシグネチャー(EpiSign)
エピシグネチャーは、特定の遺伝子の変化があるときに現れる、DNAメチル化の「指紋」のようなパターンです。遺伝子そのものの配列だけでなく、この指紋を読むことで診断の確からしさを高められます。とくに、病気に関わるかどうか判断が難しい変化(意義不明変異)に出会ったときに、その解釈を後押しする補助的な手がかりになります。
診断がつくことは、ご家族にとって長い「原因探しの旅」に区切りをつける意味を持つことがあります。同時に、見つかった変化の種類によって、療育の重点や将来の見守りの計画が変わります。だからこそ、検査は「受けて終わり」ではなく、結果をどう活かすかまでを一緒に考えることが大切だと考えています。
9. 出生前の検査という選択肢 ─ 知っておきたい前提
妊娠中にCSS3が話題になるのは、多くの場合上のお子さんでSMARCB1の変化が分かっているときや、超音波で気になる所見が見つかったときです。その変化が家系内で分かっていれば、出生前に同じ変化を調べることは技術的に可能です。
家系内でSMARCB1の病的バリアントがすでに分かっている場合、出生前診断の中心になるのは、絨毛検査や羊水検査で胎児が同じバリアントをもつかを調べる標的解析です。これらは確定的な診断が得られる検査です。母体の血液から調べるNIPT(新型出生前診断)でも、単一遺伝子疾患を対象として検査できる場合があり、当院のインペリアルプランには対象遺伝子のなかにSMARCB1が含まれています。ただしNIPTは検査ごとに対象・精度・位置づけが異なり、それ自体は確定診断ではありません。
ここで大切にしたいのは、出生前の検査は「受けるべきもの」でも「受けないべきもの」でもない、ということです。CSS3の症状には幅があり、生まれる前に将来のすべてを見通せるわけではありません。だからこそ、検査で分かること・分からないことを正確に理解したうえで、ご夫婦の価値観にそって選んでいただくことが何より大切だと考えています。この意思決定を、臨床遺伝専門医が終始責任をもって支えます。
検査の結果を受け取ったあとのサポート体制も、あらかじめ知っておくと安心につながります。当院では、確定検査が必要になった場合に備えた互助会の仕組みを設けており、結果が出たあとの相談も継続して行える体制を整えています。「結果が出てから、どうすればいいのか」という不安を、検査を受ける前に減らしておくことが、落ち着いて向き合うための助けになります。
10. 療育・サポートとよくある誤解
CSS3には、原因そのものを取り除く治療はまだありませんが、一人ひとりの発達や体調を支える「療育・支援」でできることはたくさんあります。誤解を解きながら、今できることに目を向けていきましょう。
ことばや運動の発達に対しては理学療法・作業療法・言語療法が、摂食の困難には栄養面の支援が役立ちます。けいれん・難聴・心臓や腎臓の所見などがある場合には、それぞれの専門科と連携して見ていきます。「治す」ことだけが医療ではなく、その子が持てる力を最大限に発揮できるよう支えることも、同じくらい大切な医療です。ご家族が孤立しないよう、同じ病気の家族会や地域の支援につながることも大きな支えになります。
誤解①「親の遺伝や育て方が原因」
CSS3の多くはその子で新しく生じた変化によるもので、ご両親の遺伝子や妊娠中の過ごし方、育て方が原因ではありません。誰かの責任で起こる病気ではない、という点をまず知っていただきたいと思います。
誤解②「SMARCB1の変化=必ずがんになる」
SMARCB1は変化のしかたで病気が分かれます。CSS3を起こす変化と、腫瘍の病気を起こす変化は別物です。CSS3で成人期の神経鞘腫症が報告されているのは一部であり、全員に必ず起こるわけではありません。
誤解③「次の子も必ず同じ病気になる」
大半が新生変異のため、次のお子さんの再発リスクは一般に低いとされています。ただし生殖細胞系列モザイクによりゼロではないため、次の妊娠を考える際は遺伝カウンセリングで整理することをおすすめします。
誤解④「まれな病気だから何もできない」
まれでも、療育・合併症の管理・将来の見守りの計画など、できることは数多くあります。診断がつくことは、その子に合った支援を組み立てる出発点になります。
なお、原因に直接はたらきかける新しい治療の研究も少しずつ進んでいますが、コフィン・シリス症候群に対しては、現時点で有効性・安全性が確立した根本治療はありません。ごく少数例での予備的な報告が出ることはありますが、確立した治療として受け止めるのは時期尚早です。確かな情報に基づいて、今できる支援を着実に積み重ねていくことが、ご本人とご家族にとっていちばんの近道だと考えています。
このページを読んだあなたへ
お子さんがCSS3と診断された方、これから遺伝子検査を考えている方、あるいはご家族に神経鞘腫症が見つかって関連を心配されている方——立場によって、次に確認したい観点は変わります。次のような点を整理しておくと、状況が見えやすくなります。
- ➤見つかった変化がどのタイプか(発達の病気か、腫瘍の病気に関わるものか)→ SMARCB1遺伝子
- ➤成人期に注意したい神経鞘腫症の枠組み → SMARCB1関連神経鞘腫症
- ➤次の妊娠を考えるときの選択肢 → PGT-M/単一遺伝子疾患の出生前診断
- ➤情報を整理し、判断を支えてもらう窓口 → 遺伝カウンセリング(遺伝診療)
よくある質問(FAQ)
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参考文献
- [1] Mutations affecting components of the SWI/SNF complex cause Coffin-Siris syndrome. Nat Genet. 2012. [PubMed 22426308]
- [2] Coffin-Siris Syndrome. GeneReviews®. 2013 [updated 2025]. [NCBI Bookshelf NBK131811]
- [3] Genotype-phenotype correlation of Coffin-Siris syndrome caused by mutations in SMARCB1, SMARCA4, SMARCE1, and ARID1A. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2014. [PubMed 25168959]
- [4] Recurrent SMARCB1 Mutations Reveal a Nucleosome Acidic Patch Interaction Site That Potentiates mSWI/SNF Complex Chromatin Remodeling. Cell. 2019. [PubMed 31759698]
- [5] Genotype-Phenotype Correlations in 208 Individuals with Coffin-Siris Syndrome. Genes (Basel). 2021. [PMC8233770]
- [6] A recurrent de novo missense pathogenic variant in SMARCB1 causes severe intellectual disability and choroid plexus hyperplasia with resultant hydrocephalus. Genet Med. 2019. [PubMed 29907796]
- [7] Report of a patient with a constitutional missense mutation in SMARCB1, Coffin-Siris phenotype, and schwannomatosis. Am J Med Genet A. 2015. [PubMed 26364901]
- [8] Coffin-Siris Syndrome and SMARCB1 Mutation Presenting With Schwannomatosis: A Case Report and Literature Review. Cureus. 2024. [PubMed 39170644]
- [9] BAFopathies’ DNA methylation epi-signatures demonstrate diagnostic utility and functional continuum of Coffin-Siris and Nicolaides-Baraitser syndromes. Nat Commun. 2018. [PubMed 30459321]



