目次
「我が子が遺伝子異常だったら、どうしよう…」と不安になるのは、妊婦として当然の反応です。
実際、私も子どもが生まれて来る瞬間まで同じような不安を抱えていました。
そこでこの記事では、以下の内容について詳しく解説します。
現在、妊娠中の方向けに図解などを用いて分かりやすく解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
「遺伝子」に関する基礎知識
「遺伝子」という言葉は耳にしたことがあっても、どのような働きがあるかまで説明できる方は少ないのではないでしょうか?
先天性異常について分かる遺伝検査を検討中の方であれば、これから解説する遺伝子の基礎知識について理解しておいて損はないでしょう。
この章では、以下の内容について解説します。
- ・ヒトの遺伝子の基礎知識
- ・「遺伝子」「DNA」「ゲノム」の違い
- ・遺伝子情報が体を作る仕組み
専門用語は使わず、図解を用いながら簡単に理解できるように解説していますので、ぜひご覧ください。
ヒトの遺伝子の基礎知識
遺伝子とは、例えるならヒトの体を構成する要素を起こした図面や設計図です。形の違う以下の4種類の塩基から成り立っています。
- A(アデニン)
- T(チミン)
- G(グアニン)
- C(シトシン)
A(アデニン)は・T(チミン)と、G(グアニン)はC(シトシン)と結合して、二重らせん状に結びついてDNAとなります。
ヒトの体は部位ごとに細胞の形や働きが違います。そのため、遺伝子という遺伝情報がないと正確な体作りができません。遺伝情報に従いタンパク質の合成が行われることで、受精卵から赤ちゃんへ、そして出生した後も大人へと成長し続けられるのです。
「遺伝子」「DNA」「ゲノム」の違い
「遺伝子」「DNA」「ゲノム」という言葉は聞いたことが合っても、これらの違いを理解している方は少ないのではないでしょうか?
そこで「遺伝子」「DNA」「ゲノム」の違いについて理解するために、厚生労働省の以下の図解が参考になります。
(厚生労働省/新しいバイオテクノロジーで作られた食品について P3より画像引用)
前章で解説したように「遺伝子」とは体を作るタンパク質の合成基準を示した設計図です。遺伝子にある遺伝情報をもとに、各組織や臓器に必要なタンパク質(細胞)が合成されます。
一方の「DNA(デオキシリボ核酸)」とは、遺伝子が結び付き二重らせん構造になったもので、染色体を構成する要素になります。「染色体」は細胞内の核に存在し、細胞分裂の際に効率良く遺伝情報を伝えることが働きです。
また「染色体」はDNAの保管や性別の決定(性染色体)にも関係しており、非常に重要な役割を果たしている物質と言えます。
最後に「ゲノム」とは、遺伝子や染色体を含むDNAの全ての遺伝情報をまとめたものになります。つまり、遺伝子の塊が二重らせん構造のDNAとなり、DNAが集まり染色体となるのです。これらを全てまとめた一つの遺伝情報がゲノムと言われます。
※参考資料:厚生労働省/新しいバイオテクノロジーで作られた食品について P3
遺伝子情報が体を作る仕組み
全てのDNAは同じ遺伝情報を持っているにも関わらず、脳は脳、心臓は心臓のように、各組織に合わせて細胞分化ができるのは、なぜでしょうか?
これらを理解するためには、DNAの構成について詳しく知る必要があります。
DNAの集合体である染色体は細胞内で約2mの糸となり、ヒストンと呼ばれるタンパク質のボールに巻きついています。DNAのうち遺伝情報を持っているのは、約1.5%(3cm程度)であり、残りの98.5%は遺伝情報をコントロールすることが役割です。
これらのコントロールのおかげで、細胞分裂の際に各組織に合わせた遺伝情報を正確に引き出せます。そして、コピー(mRNA)を繰り返して複数の細胞が合成されるのです。
「遺伝子検査」に関する基礎知識
妊娠中の方であれば、胎児に先天性異常がないかと心配して当然です。そして「遺伝子検査」で先天性異常について調べられることを知った方も多いのではないでしょうか?
そこでこの章では、遺伝子検査の基礎知識として、以下の2つの内容について解説します。
- ・遺伝子検査とは?
- ・遺伝子検査から分かること
遺伝子検査を検討中の方は正しく理解する良い機会であり、受検の有無を決める参考にしていただけると嬉しいです。
遺伝子検査とは?
両親から引き継いだ遺伝情報は生涯変わることなく、その人だけの特徴や財産になります。
そして遺伝子検査ではこれらの遺伝情報を採取して、病気のリスクや体質を遺伝的に解明することができます。出生前スクリーニング検査や出生後の病気の解明などに用いられる検査で有名です。
具体的には以下において役立ちます。
- ・先天性疾患の予測
- ・病気の予防
- ・早期治療の検討
妊娠中に胎児の先天性異常について気になる両親も少なくありません。 出生前スクリーニング検査として「遺伝子検査」を希望することはよくあります。
これら出生前スクリーニング検査について詳しく知りたい方は「「つわりが重い=ダウン症」は根拠のない噂!ダウン症の特徴や分かる時期・検査について解説」の記事が参考になります。
近年、医療技術の進歩により血液検査をせずとも、唾液検査など簡便かつ痛みが伴わない方法でも検査を受けられるようになりました。「痛いなら検査したくない」と考えていた方でも、受けやすくなったので、ぜひご覧ください。
近年、医療技術の進歩により血液検査をせずとも、唾液検査など簡便かつ痛みが伴わない方法でも検査を受けられるようになりました。「痛いなら検査したくない」と考えていた方でも、受けやすくなったので、ぜひご覧ください。
遺伝子検査から分かること
遺伝子検査から分かることは、以下の4つです。
- ・病気の原因となる遺伝子の予測
- ・薬剤の効果・副作用を調べる検査
- ・病気にかかる可能性のリスク判定
- ・体質
出生前に行う遺伝子検査は「ダウン症(21トリソミー)」などの病気を見つけるために行うことで有名です。発達障害や合併症を伴う重篤な先天性異常の発見は、その後の夫婦の未来を決めるための重要な情報となるでしょう。
また出生後に病気にかかる可能性やその子の体質についても分かります。将来どんな病気にかかりやすいのかが分かれば、生活習慣や定期健診などの予防行動をとるきっかけにもなります。
このように遺伝子検査は、出生前から将来までの広い範囲の情報を探ることができ、その人に必要な治療・予防方法の幅を広げることができるメリットがあるのです。
「遺伝子異常」に関する基礎知識
何らかが原因で遺伝子に異常が起こることを「遺伝子異常」と言います。そして遺伝子異常になると、体を作る過程で重篤な障害が残ります。
例えば、胎児が遺伝子異常を発症すると、胎児発育不全や精神発達など様々な障害を伴うことが予測されるでしょう。
そこでこの章では、遺伝子異常について以下の内容を解説します。
- ・遺伝子異常とは?
- ・遺伝子異常の原因
- ・遺伝子異常と染色体異常の違い
遺伝子異常の原因について触れつつ、妊娠中でもできる予防方法もお伝えしますので、ぜひご活用ください。
遺伝子異常とは?
通常とは異なる形に遺伝子が変異したことを「遺伝子異常」と言います。
遺伝子の本体であるDNAは、A・T・G・Cという4つの塩基の文字列から作られます。これらの文字列が変異することで、遺伝子異常が生じるのです。
具体的には、以下の変異が起こります。
- ・置換:文字列が入れ替る
- ・挿入:予定にはない文字列が入る
- ・欠失:必要な文字列が抜けている
遺伝子が変異するとタンパク質合成が上手くいかず、必要な組織が作られません。胎児なら障害を持って生まれてくることになります。代表的なものとして、21番目の染色体が1本多い21トリソミー(ダウン症)があります。
このようにDNAを構成する塩基配列(遺伝子)が何らかが原因で変異すると、遺伝子異常が生じるのです。
※参考資料:NCNP 国立精神・神経医療研究センター/染色体異常症・遺伝子異常症
遺伝子異常の原因
ここまでの記事を読んで、「遺伝子異常の原因がわかれば予防できるのでは?」と感じた方は、とても鋭いです。
現代医療で解明されている遺伝子異常の原因は、以下の通りです。
- ・化学物質
- ・活性酸素
- ・放射線
- ・ウイルス感染
- ・タバコ
- ・加齢
- ・偶発的な発生
遺伝子を突然変異させる化学物質として「ベンゾ[a]ピレン」があります。ベンゾ[a]ピレンはタバコや自動車の排気ガスに含まれており、私たちの身近にも存在します。
また、加齢に伴う卵子や精子の劣化も遺伝子異常の発生率を高めます。タバコや感染症などについては、予防行動がとれます。胎児を遺伝子異常から守る意味でも、予防行動をしておいて損はないでしょう。
ただし、遺伝子異常が発生するメカニズムは現在もまだ研究段階であり、偶発的なケースも少なくありません。完璧に予防はできないのです。そのため妊娠する以上、先天性異常になるリスクは覚悟しておかなければいけません。
※参考資料:化学物質環境リスク研究センター 健康リスク評価研究室 青木 康展
遺伝子異常と染色体異常の違い
「遺伝子異常」とは染色体の構成要素である遺伝子(DNA)の文字列に異常が生じた状態のことです。胎児に発生すると遺伝子異常症として生まれてきます。
一方の「染色体異常」とは、染色体の数や形に異常が出るもので、21トリソミーなどの染色体異常症が有名です。
広い意味でどちらもゲノムの異常であることに間違いありません。そしてどちらの異常も体の組織・臓器や脳の発達など、重篤な障害が起こることが予測されます。
遺伝子異常が分かる「出生前検査」とは?
妊娠中に遺伝子異常を探るためには「出生前検査」を受けなければいけません。
そこでこの章では、以下の内容について解説します。
- ・遺伝子異常が分かる出生前検査
- ・出生前検査の費用と受けられる時期
- ・【後悔したくない人へ】出生前検査を受ける前に考えておくこと
出生前検査を検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
遺伝子異常が分かる出生前検査
遺伝子異常を探る目的で行われる出生前検査として「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」があります。
NIPTで分かる染色体・遺伝子異常症の一覧は、以下の通りです。
(NIPT Japan/出生前検査でわかることより画像引用)
検査方法は採血のみで、お母さんの血液中に浮かぶDNA情報を解析します。全ての遺伝子異常が分かるわけではないのがデメリットです。しかし早いうちから胎児の情報を知ることで出産後の育児や生活をイメージできることは、大きなメリットになります。
※参考資料:NIPT Japan/出生前検査でわかること
出生前検査の費用と受けられる時期
現在妊娠中であり、胎児が染色体・遺伝子異常症ではないかと心配している方が、出生前検査を受けたくなる気持ちはとても分かります。
実際、私も子どもが生まれるまでは「元気に成長してくれているのか?」「障害を抱えていないだろうか?」と不安や心配が尽きませんでした。
一方で出生前検査を受けるとなると、費用や期間が一つのハードルになります。
具体的には、NIPTは一般的に「約20万円」であり、検査ができる時期は「妊娠10週目以降」と限られています。そして、NIPTは精度が高いものの非確定的検査であるため、確定診断を受けるためには追加検査を受けなければいけません。
例えば、NIPTで染色体・遺伝子異常が指摘されると、追加で「羊水検査」「絨毛検査」が勧められます。これらの検査はお腹に針を刺す痛みや、費用が「約15〜20万円」かかるため、受けるとなると非常にハードルが高くなるでしょう。
そのため、侵襲によるお母さんの苦痛や経済的な負担を考慮した上で、追加検査に臨むようにしましょう。
【後悔したくない人へ】出生前検査を受ける前に考えておくこと
出生前検査を受ける人の多くは、胎児に異常がないことを願っています。出生前検査を受けることで、安心したいと思う気持ちも分かります。しかし、出生前検査を受ける以上、染色体・遺伝子異常を指摘される可能性は、ゼロではありません。
そこで、出生前検査を受ける前に以下の内容について考えておくと良いでしょう。
- ・検査を受ける目的
- ・検査による合併症
- ・先天性障害を指摘された場合の対応方法
- ・検査費用や処置による精神的・経済的な負担
はじめに検査を受ける目的を明確にしましょう。目的もなく闇雲に受けると障害が見つかった際に対応に困ります。夫婦や家族間で検査の必要性やその後の対応方法について話し合い、事前に決めておきましょう。
また、検査費用や検査による身体的・精神的な負担も考えておくことが必要です。検査費用は「約20万円」と決して安くありません。採血をするため痛みを伴います。陽性判定なら羊水・絨毛検査など精査を勧められることも知っておきましょう。
羊水・絨毛検査はお腹に針を刺して行うため痛みを感じたり、流産・死産になったりする合併症もあります。これらの検査で300人に1人が流産になると言われています。
以上より、デメリットも考慮した上で検査に臨むことが重要なのです。
遺伝子異常に関するよくある3つの質問
遺伝子異常について考える際、以下の疑問がよくある為、紹介します。
- ・兄弟で遺伝子異常を発症する可能性はありますか?
- ・検査の申込方法はどうしますか?
- ・遺伝子異常を告げられた際に考えておくことは?
では、1つずつ解説します。
質問①:兄弟で遺伝子異常を発症する可能性はありますか?
前章でも解説したように、遺伝子異常の偶発的なケースが多く、原因は現在も究明中です。一方で親から子どもに遺伝する可能性もゼロではありません。
上の子どもが遺伝子異常を持って生まれてくると、次の子どもの健康状態に敏感になるのは当然でしょう。遺伝子異常について気になる方は、出生前検査の必要性やリスクについて納得した上で受けましょう。
質問②:検査の申込方法はどうしますか?
出生前検査を希望するなら、かかりつけの産婦人科医へ相談しましょう。受診先の産婦人科が出生前検査の認定施設ではないこともあり、その場合は受けられる施設を探さなくてはいけません。
また、妊婦健診で染色体・遺伝子異常が疑われると医師から勧められることもあります。いずれにしても個人で探すよりも、医師を通して探す方が確実です。
質問③:遺伝子異常を告げられた際に考えておくことは?
出生前検査を受ける以上、胎児の遺伝子異常症を指摘される可能性は十分あります。そこで事前に以下のことを考えておきましょう。
- ・追加の精密検査(羊水・絨毛検査)を受けるか?
- ・出産後の育児・生活のイメージ
- ・経済的・精神的な負担
非常に高い精度を誇るNIPTですが、現在のところ非確定的診断という位置付けに留まります。そのため、遺伝子異常が指摘されても、確信を持てません。そこで、次に確定的診断として羊水・絨毛検査があります。
検査では流産のリスクや高額な検査費用などの負担が大きいことも考えておきましょう。また、医師に勧められたからといって強制ではありません。任意で受けるため保険適応外になります。
そのため、夫婦や家族で話し合った上で出生前検査を受けるのが理想でしょう。
まとめ: 遺伝子異常の発生は誰にも予測できない
以上、遺伝子に関する基礎知識について詳しく解説しました。
要点を以下にまとめます。
- ・遺伝子とはヒトの体を構成する要素を起こした設計図のこと
- ・妊娠中に胎児の遺伝子異常が気になる方は「出生前検査」を受けること
- ・出生前検査を受けるなら各種負担について理解しておくことが重要
遺伝子異常は偶発的なケースが多く、未だに解明されていないことばかりです。中には化学物質や感染症など予防できるものもありますが、効果がどれほどあるかを実証するのは難しいでしょう。
また胎児の遺伝子異常が分かる出生前検査は、検査の精度は高いものの現代医療においては「非確定的検査」の位置付けに留まります。そこで、確定診断がほしい方は、羊水・絨毛検査を追加で受けなければいけません。
これらについて十分に納得した上で出生前検査に臨むようにしましょう。
この記事で「赤ちゃんに遺伝子異常があったら、どうしよう…」というお母さんの不安を和らげることができれば幸いです。