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子どもの高機能自閉症とは?アスペルガーとの違いや特徴・両親が関わる際のコツ

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

高機能自閉症(高機能ASD)とは、知的発達の遅れを伴わない自閉スペクトラム症(ASD)の一つです。正式な診断名ではなく、教育や行政の分野で使われてきた通称で、医療機関では「自閉スペクトラム症」と診断されます。「高機能」は、IQが高いことや特別な才能があることを意味する言葉ではありません。この記事では、アスペルガー症候群との違い、子どもの特徴と年齢別の気づきのサイン、原因と遺伝、診断と支援、関わり方、相談先と制度までを、臨床遺伝専門医の立場から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧩 高機能自閉症・ASD・アスペルガー
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 高機能自閉症とアスペルガー症候群はどう違うのですか?

A. 以前は、幼児期に言葉の遅れがあったものを高機能自閉症、なかったものをアスペルガー症候群と呼び分けていました。しかし成長するにつれて両者の差は小さくなることがわかり、2013年の米国精神医学会の診断基準(DSM-5)で、どちらも「自閉スペクトラム症(ASD)」にまとめられました。現在の医療では、両者を別の病気として区別していません。

  • ➤定義 → 知的発達の遅れを伴わないASDを指す通称。正式な診断名ではない
  • ➤主な特徴 → 対人関係の困難さ、言葉の使い方の偏り、強いこだわり、感覚の過敏さ・鈍さ
  • ➤原因 → 生まれつきの脳の発達の特性で、遺伝要因の関与が大きい。親の育て方が原因ではない
  • ➤支援 → 特性そのものを治す薬はなく、療育・環境調整・周囲の関わり方で困りごとを減らしていく

高機能自閉症とアスペルガー症候群の違い、子どもの特徴と関わり方の解説

1. 高機能自閉症(高機能ASD)とは?正式な診断名ではない通称

高機能自閉症は、自閉スペクトラム症のうち、知的発達の遅れを伴わないものを指す言葉です。英語の high-functioning autism(HFA)の訳語で、「高機能ASD」「高機能自閉スペクトラム症」とも呼ばれます。医学の正式な診断名ではなく、主に特別支援教育や行政の場面で使われてきた通称です。そのため、医療機関で診断を受けると、診断書には「自閉スペクトラム症」と書かれるのが一般的です。

文部科学省による定義

日本で「高機能自閉症」という言葉の基準になっているのは、文部科学省が特別支援教育の検討の中で示した定義です。そこでは次のように定められています[1]。

📘 文部科学省による高機能自閉症の定義

高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、1他人との社会的関係の形成の困難さ、2言葉の発達の遅れ、3興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

同じ資料では、アスペルガー症候群を「知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないもの」と注記しています[1]。つまり、教育の分野では、知的な遅れがない自閉症のうち、幼児期に言葉の遅れがあったものを高機能自閉症、なかったものをアスペルガー症候群と呼び分けていました。

現在の診断名は「自閉スペクトラム症(ASD)」

現在の医療では、高機能自閉症もアスペルガー症候群も、診断名としては「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)」にまとめられています。米国精神医学会が2013年に公表した診断基準DSM-5は、それまで別々に診断していた自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害などを、一つのASDに統合しました[2]。現行版は2022年に改訂されたDSM-5-TRで、日本語版は2023年に刊行されています[3]。

「スペクトラム」は「連続体」という意味で、特性の強さや現れ方は人によって大きく異なり、はっきりした境目で区切れないという考え方を表しています。

世界保健機関(WHO)の国際疾病分類ICD-11(2022年発効)も、同じくASDとして一つにまとめたうえで、「知的発達症を伴うかどうか」と「機能的な言語(生活の中で意思を伝えるための言葉)の障害がどの程度か」の2つの軸で細かく分類しています[4]。このうち「知的発達症を伴わず、機能的言語の障害が軽度または無い」という区分(6A02.0)が、かつての高機能自閉症やアスペルガー症候群に最も近い位置づけです。

DSM-IV までの分類自閉性障害・アスペルガー障害・特定不能の広汎性発達障害など
▶
DSM-5(2013年)自閉スペクトラム症(ASD)に一本化
▶
ICD-11(2022年発効)知的発達・機能的言語の程度で細分

💡 用語解説:DSMとICD

DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)は米国精神医学会が作成する精神疾患の診断基準で、ICD(国際疾病分類)はWHOが作成する病気全般の分類です。日本の公的な統計は現在もICD-10をもとに運用されています。

「高機能」はIQが高い・天才という意味ではない

「高機能」は、知的障害がない(おおむねIQ70以上)という意味で使われている言葉で、IQが高いことや、特別な才能があることを示すものではありません。何以上を高機能とするかの公式な基準はなく、研究によってIQ70以上、80以上、85以上などと線の引き方が異なります。

米国疾病対策センター(CDC)が2022年のデータをもとに8歳児のASDを調べた報告では、知能検査の結果がわかる子どものうち、IQ70以下が39.6%、71〜85の境界域が24.2%、86以上が36.1%でした[5]。知的障害のないASDの中にも、境界域の子どもが相当数含まれていることがわかります。「知的な遅れがない」ことは「勉強が得意」「頭がいい」こととは別です。

📊 ASDの子どもの知能指数(IQ)の分布

IQの範囲 割合 意味
70以下 39.6% 知的障害を伴うASD
71〜85 24.2% 境界域(いわゆる境界知能を含む)
86以上 36.1% 平均域またはそれ以上

※米国CDCによる2022年の8歳児の調査で、知能検査の結果がある子どもの割合[5]。国や調査方法によって数値は異なります。

また、IQは一生変わらない数字ではありません。英国の地域住民を対象にASDの人を追跡した研究では、12歳から23歳までの間にIQが平均でおよそ7ポイント上昇していました[6]。これは集団の平均であり、一人ひとりのIQが上がると予測できるものではありませんが、幼いころの検査結果だけで将来を決めつけないことが大切です。言葉を使う力と、動作性IQに表れる見て考える力との間に大きな差がみられることもあります。

💡 用語解説:境界知能

境界知能は、IQがおおむね70〜84程度で、知的障害の範囲には入らないものの平均より低い状態を指す言葉です。医学的な診断名ではありません。知的障害は、IQだけでなく日常生活の適応の状態もあわせて判断されます。詳しくは軽度知的障害とはで解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「高機能」という言葉の受け止め方】

「高機能」という言葉は、知的障害がないことを示すためにつくられた区分の名前です。それが「能力が高い」「困りごとは少ない」という印象につながり、必要な支援から遠ざけられてしまうことがあると考えています。

知的な遅れがないことと、生活のしにくさがないことは別の問題です。数字やラベルよりも、その人が実際に何に困っているかを見ることが、特性を理解するうえで欠かせないと考えています。

どのくらいいる?頻度と男女比

ASDは、以前は「100人に1人程度」とされていましたが、近年の調査ではそれより多く報告されています。青森県弘前市で5歳児全員を対象に行われた調査では、ASDの有病率は3.22%(95%信頼区間2.66〜3.76%)と推定され、そのうち知能指数70未満の知的障害を伴う子どもは36.8%でした[7]。米国CDCの2022年の調査でも、8歳児の31人に1人(1,000人あたり32.2人)がASDと判定されています[5]。

男女比は、弘前市の調査で2.2対1、CDCの調査で3.4対1と、男児に多い傾向があります[7][5]。これまでの研究をまとめたメタ解析では男女比はおよそ3対1とされ、女児は診断されにくい可能性も指摘されています[8]。

有病率が高くなった主な理由は、診断基準の拡大と、知的障害を伴わないASDへの認識が進んだことにあると考えられており、「自閉症そのものが急に増えている」という意味ではありません。

2. 高機能自閉症・アスペルガー症候群・自閉症の違い

高機能自閉症とアスペルガー症候群は、どちらも知的な遅れのない自閉症を指して使われてきた言葉で、従来は幼児期の言葉の遅れの有無が両者を分ける目安の一つとされていました。現在はどちらも自閉スペクトラム症(ASD)に含まれ、医学的には独立した診断名として区別していません。一方、「自閉症」という言葉自体は知的障害の有無を限定するものではなく、知的障害を伴う場合も伴わない場合もあります。

従来の区別は「幼児期の言葉の遅れ」の有無

DSM-IVでは「高機能自閉症」という独立した診断名は設けられていませんでしたが、一般に、自閉症の診断基準を満たし知的障害を伴わない人を高機能自閉症と呼ぶことがあり、幼児期の言葉の発達の遅れが両者を分ける目安の一つとされていました。これに対してアスペルガー症候群は、対人関係の困難さやこだわりといった特徴がある一方、言葉の発達に明らかな遅れがないものとされていました[1]。

成長とともに差は縮まり、現在はどちらもASD

幼児期の言葉の遅れという違いは、成長とともに目立たなくなります。知的な遅れのない成人を、幼児期に言葉の遅れがあった人となかった人に分けて比べた研究では、成人期の言語能力や社会生活、行動の特徴に大きな差はみられず、2つを別の障害として区別する根拠は乏しいと報告されました[9]。

こうした知見が積み重なり、DSM-5では両者を区別せずASDとして扱うことになりました[2]。現在、アスペルガー症候群は新たに診断される名称ではありませんが、以前に診断された方がその名称を使い続けることに問題はありません。

自閉症(知的障害を伴うASD)との違い

「自閉症」という言葉は、現在では知的障害の有無にかかわらずASDを指して用いられます。高機能自閉症という呼び方は、そのうち知的障害を伴わない人を指して使われてきた通称です。対人関係の困難さと限定された反復的な行動・興味という中核の特性は共通しており、現在はいずれも同じASDの中の現れ方の違いとして理解されています。3つの呼び方の関係を表にまとめます。

🧩 高機能自閉症・アスペルガー症候群・自閉症の比較

項目 高機能自閉症 アスペルガー症候群 自閉症(例:知的障害を伴う場合)
知的発達の遅れ なし なし あり
幼児期の言葉の遅れ あり なし 多くの場合あり
対人関係・こだわりの特性 あり あり あり
現在の診断名 いずれも自閉スペクトラム症(ASD)

※高機能自閉症・アスペルガー症候群の区分は文部科学省の定義[1]、現在の診断名はDSM-5以降の分類[2]による。

ASDとADHD(注意欠如・多動症)は別の発達障害ですが、同時にみられることも少なくありません。両者の違いはADHDと自閉症の違いで詳しく説明しています。

まぎらわしい言葉:発達障害・広汎性発達障害・グレーゾーン・高次脳機能障害

「発達障害」はASDだけでなく、ADHDや学習障害(LD)などを含む総称です。発達障害者支援法では、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などの脳機能の障害で、通常低年齢で症状が現れるものを発達障害と定めています[10]。「自閉症と発達障害の違い」を問われた場合は、自閉症は発達障害の中の一つ、と答えるのが正確です。

広汎性発達障害は、DSM-IVまでの分類で自閉性障害やアスペルガー障害などをまとめていた上位の分類名で、現在のASDにほぼ相当します。「グレーゾーン」は、ASDの特性がみられるものの診断基準をすべては満たさない状態を指す通称で、診断名ではありません。

名前が似ていて混同されやすいのが「高次脳機能障害」です。これは事故による頭部外傷や脳卒中などで脳が損傷を受けた後に、記憶や注意、言語などの働きが低下した状態を指します。後天的な脳の損傷によるもので、生まれつきの脳の発達の特性であるASDとはまったく別のものです。

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3. 子どもの高機能自閉症の主な特徴

高機能自閉症の子どもにみられる主な特徴は、「対人関係の困難さ」「言葉やコミュニケーションの偏り」「強いこだわり」の3つと、感覚の過敏さ・鈍さです。DSM-5-TRでは、ASDの特性を「社会的コミュニケーションと対人的相互反応の持続的な困難」と「行動・興味・活動の限定された反復的な様式」の2つの領域にまとめており、感覚の過敏さや鈍さは後者に含まれています[2]。すべての子どもにすべての特徴が当てはまるわけではなく、強さや組み合わせは一人ひとり異なります。

対人関係の困難さ

場の空気を読むことや、相手の表情やしぐさから気持ちを察することが苦手です。友達が遊んでいるおもちゃを悪気なく取ってしまう、相手が嫌がっていることに気づかずに同じ話を続ける、集団遊びのルールが途中で変わるとついていけない、といった形で現れます。人と関わりたくないわけではなく、関わりたい気持ちがあっても、関わり方がわからないために孤立してしまう子どもも少なくありません。

言葉・コミュニケーションの偏り

高機能自閉症の子どもは、語彙が豊富で文法も正しく、一見すると流暢に話せることが多くあります。一方で、言葉を文字どおりに受け取りやすく、皮肉や冗談、比喩、遠回しな言い方が伝わりにくいことがあります。たとえば「ちょっと待ってて」と言われて本当に数秒しか待てなかったり、「手を貸して」と言われて戸惑ったりします。

これは言葉の知識の問題ではなく、状況に合わせて言葉を使う力、つまり「語用(ごよう)」の困難として説明されます。会話が一方的になる、声の大きさが場面に合わないといったことも、同じ背景から生じます。

強いこだわり・予定変更の苦手さ

決まった手順や順番、道順、物の置き場所などに強いこだわりを持ち、それが崩れると強い不安や混乱を示すことがあります。急な予定変更や、初めての場所・初めての活動も苦手になりやすい特徴です。特定の分野(電車、昆虫、数字、地図など)に強い興味を持ち、大人顔負けの知識を身につけることもあります。

こだわりは見通しの立たない状況で安心を得る手段になっていることが多く、無理にやめさせると不安が強くなることがあります。関心の強さや、決められたことを正確にやり遂げる力は、長所として生かせる場合もあります。

感覚の過敏さ・鈍さと体の動きのぎこちなさ

大きな音や特定の音、蛍光灯の光、衣服のタグの感触、食べ物の食感やにおいなどに強い不快感を示す「感覚過敏」がみられることがあります。反対に、痛みや暑さ寒さに気づきにくい「感覚鈍麻」がみられることもあります。偏食の背景に感覚過敏が隠れていることもあり、わがままと誤解されやすい特徴です。感覚の過敏さや鈍さは、DSM-5からASDの診断基準の一項目として正式に含まれるようになりました[2]。

また、ボール運動や縄跳び、箸の使い方、字を書くことなど、体の動きや手先の動きがぎこちない子どももいます。弘前市の5歳児調査では、ASDの子どもの63.2%に発達性協調運動症(体の動きの協調が年齢に比べて明らかに苦手な状態)が併存していました[7]。

4. 年齢別の気づきのサイン(チェックリスト)

高機能自閉症の特性は乳幼児期から存在しますが、知的な遅れがないため、集団生活が始まる幼稚園・保育園や小学校で初めて気づかれることが多くあります。米国小児科学会(AAP)は、1歳6か月と2歳の時点で、日ごろの発達の見守りに加えて標準化されたASDのスクリーニング検査を行うことを推奨しています[11]。日本では、1歳6か月児健診や3歳児健診が、発達の気がかりを専門機関につなぐ主な機会になっています。ここでは、年齢ごとにみられやすいサインを紹介します。

1歳半〜3歳ごろ

この時期には、人と興味を共有するやりとりの少なさがサインになることがあります。あやしても目が合いにくい、名前を呼んでも振り向かないことが多い、欲しい物や見つけた物を指さしで伝えようとしない、大人が指さした方向を見ない、といった様子です。言葉が出始めても、相手の言葉をそのまま繰り返す「オウム返し」が目立つことがあります。

高機能自閉症では、この時期に言葉の遅れがみられることが多い一方、アスペルガー症候群と呼ばれていたタイプでは言葉は順調に出るため、この時期には気づかれにくいこともあります。より早い時期の様子は自閉症ASDの赤ちゃん6か月〜1歳の特徴、2歳前後の特徴は自閉スペクトラム症(ASD)の2歳児の特徴で詳しく解説しています。

保育園・幼稚園のころ

集団生活が始まると、同年代の子どもとの違いがわかりやすくなります。一人遊びが多く、ごっこ遊びのように相手と役割を分ける遊びが苦手、遊びのルールを自分のやり方で通そうとする、行事や活動の変更で激しく泣いたり動けなくなったりする、特定の音が苦手で耳をふさぐ、といった様子がみられることがあります。

小学生のころ

学年が上がるにつれて、言葉にされないルールや、相手の立場に立った振る舞いが求められる場面が増えます。休み時間に友達の輪に入れない、冗談を真に受けてトラブルになる、授業中に思ったことをそのまま口にしてしまう、忘れ物や整理整頓が極端に苦手、得意な教科と苦手な教科の差が大きい、といった困りごとが目立つことがあります。

📝 年齢別の気づきのサイン(目安)

時期 対人・コミュニケーション こだわり・感覚
1歳半〜3歳ごろ 目が合いにくい/呼んでも振り向きにくい/指さしが少ない/オウム返し 同じ遊びを繰り返す/物を一列に並べる/特定の音を極端に嫌がる
保育園・幼稚園 一人遊びが多い/ごっこ遊びが苦手/会話が一方的 予定や手順の変更で混乱する/偏食が強い
小学生 友達の輪に入りにくい/冗談や遠回しな言い方が伝わりにくい 特定の分野への強い没頭/得意・不得意の差が大きい

※当てはまる項目があってもASDとは限らず、当てはまらなくてもASDでないとは言えません。診断は専門の医療機関での評価によります。

チェックリストの使い方

チェックリストは、気づきのきっかけにするためのもので、当てはまる数でASDかどうかを判断することはできません。子どもの発達には個人差が大きく、年齢によっても見え方が変わります。気になる様子が続く場合は、乳幼児健診の担当者やかかりつけの小児科医、自治体の保健センターに伝え、必要に応じて発達を専門とする医療機関で評価を受けてください。セルフチェックの考え方は子どもの自閉症スペクトラムの特徴と診断テストでも紹介しています。

5. 気づかれにくさと二次障害

高機能自閉症は、知的な遅れがなく会話もできるため、特性が見過ごされやすく、困りごとが続いた結果として不安や抑うつなどの「二次障害」につながることがあります。また、ASDにはADHDなど別の発達障害が同時にみられることも多く、二次障害とは分けて考える必要があります。

なぜ見過ごされやすいのか

知的な遅れがなく、学校の成績にも大きな問題がない場合、周囲は「性格の問題」「しつけの問題」と考えがちです。特に女児では、周りの子の振る舞いを観察してまねたり、苦手なことを隠したりして、社会的な困難が表に出にくいことが知られています。こうした振る舞いは「カモフラージュ(マスキング)」と呼ばれ、女性のASDが診断されにくい理由の一つと考えられています[12]。

💡 用語解説:カモフラージュ(マスキング)

カモフラージュは、ASDのある人が周囲に合わせるために、自分の特性を意識的・無意識的に隠したり、他の人の振る舞いを覚えてまねたりすることを指します。一見うまく適応しているように見えても、本人は強い疲労を感じていることがあり、不安や抑うつと関連することが報告されています。

二次障害と、併存しやすい状態

二次障害とは、特性そのものではなく、特性と環境が合わない状態が続いた結果として生じる心や行動の問題を指します。叱られる経験や失敗体験が重なることで自信を失い、不安症、抑うつ、不登校、ひきこもり、反抗や攻撃的な行動などが現れることがあります。ASDのある人では、一般の人に比べて不安症や抑うつ障害などの精神疾患を併せ持つ割合が高いことが、多くの研究をまとめた解析で示されています[13]。

これとは別に、ASDと同時に存在しやすい状態もあります。弘前市の5歳児調査では、ASDの子どもの50.6%にADHD、63.2%に発達性協調運動症がみられ、ASDだけがみられた子どもは11.5%にとどまりました[7]。てんかんや睡眠の問題もASDに併存しやすい状態です。これらは環境によって生じる二次障害とは区別して、それぞれに合った評価と対応を行います。

⚠️ 二次障害のサインに注意

表情が暗くなった、学校に行きたがらない、眠れない、食欲が落ちた、以前は好きだったことに興味を示さない、といった変化が続く場合は、二次障害が始まっている可能性があります。本人の努力不足と決めつけず、早めに医療機関に相談してください。

大人になってから気づかれることも

学童期は決まった手順のある生活で大きな問題にならなかった人が、就職後に臨機応変な対応やあいまいな指示の理解を求められて困難を抱えることがあります。職場での失敗が重なって不安や抑うつが生じ、精神科などを受診して初めてASDと診断されるケースもあります。

大人のASDの特徴や困りごとは大人の自閉症とは、会話の特徴については大人ASD・アスペルガーの独特な話し方で詳しく解説しています。

6. 高機能自閉症の原因と遺伝|臨床遺伝専門医の視点

高機能自閉症を含むASDは、生まれつきの脳の発達の特性で、遺伝要因の関与が大きいことがわかっています。親の育て方や愛情不足が原因ではありません。ただし、単一の原因で説明できるものではなく、多くの遺伝的要因と一部の環境要因が組み合わさって生じると考えられています[2]。ここでは、遺伝の関わり方を臨床遺伝専門医の立場から整理します。

親の育て方や愛情不足が原因ではない

かつて親の冷たい養育態度が自閉症の原因だとする説がありましたが、現在は科学的に否定されています。ASDの特性は脳の発達の仕方の違いから生じるもので、しつけや関わり方によって生じるものではありません。

予防接種との関係もたびたび話題になりますが、デンマークで約65万人の子どもを追跡した全国規模の研究では、麻しん・おたふくかぜ・風しん混合(MMR)ワクチンの接種とASDの発症との間に関連は認められませんでした[14]。ワクチンとASDについてはワクチンと自閉症スペクトラム障害でも解説しています。

遺伝要因が大きい:双生児研究と遺伝率

ASDの遺伝率は約80%と推定されています。スウェーデンの全国データを再解析した研究では83%[15]、5か国の大規模コホートを解析した研究では約80%[16]と報告されました。きょうだいの研究では、ASDのある兄や姉を持つ乳児1,605人を追跡した国際共同研究で、20.2%がASDと診断されました。男児では25%、女児では13%で、ASDのきょうだいが2人以上いる場合は37%でした[17]。

⚠️ 遺伝率80%は「親から80%の確率で遺伝する」という意味ではありません

遺伝率は、集団の中でASDの特性にみられるばらつきのうち、遺伝的な違いで説明できる割合を表す統計上の数値です。一人ひとりの子どもがASDになる確率を示すものではありません。きょうだいの再発率20%も、研究に参加した家族全体の平均であり、個々の家庭の確率は家族歴などによって異なります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「遺伝要因が大きい」をどう受け止めるか】

「遺伝率80%」と聞くと、親から子へそのまま伝わるものだと受け取られがちです。実際には、ASDの遺伝要因の多くは、誰もが持っているありふれた遺伝的な違いが多数積み重なったもので、特定の親の特定の遺伝子が原因というものではないと考えています。

遺伝要因が大きいという事実は、親の責任を示すものではありません。家族の中で誰のせいかを探すのではなく、次のお子さんへの影響や血縁者のことを考える材料として、正確な情報をもとに整理することが大切だと考えています。

多数の遺伝子の組み合わせと、まれな変異・単一遺伝子疾患

ASDの遺伝的背景は、大きく2つに分けて理解されています。一つは、一つひとつの影響は小さいものの、集団の中にありふれて存在する多数の遺伝的な違いが積み重なるもので、ASDの遺伝要因の大部分を占めると考えられています[2]。このように多数の遺伝子と環境が関わる遺伝の仕方は多因子遺伝と呼ばれます。

もう一つは、まれではあるものの一つで大きな影響を持つ変化です。両親にはなく子どもで新たに生じた新生突然変異(de novo変異)や、染色体の一部の量が増えたり減ったりするコピー数バリアント(CNV)がこれにあたります。約3万5千人のエクソーム(遺伝子のたんぱく質をつくる部分)を解析した大規模研究では、ASDと関連する遺伝子が102個同定され[18]、その後の解析でさらに多くの遺伝子が報告されています[19]。こうしたまれな変異の関与は、知的障害や発達の遅れを伴うASDでより大きい傾向があるとされます[19]。

また、ASDの特性が、ある遺伝性疾患の症状の一つとして現れることもあります。代表的なものに、脆弱X症候群(ぜいじゃくエックスしょうこうぐん)、結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)、22番染色体の一部の欠失などで生じるフェラン・マクダーミド症候群があります。これらでは、知的障害やてんかん、身体的な特徴などがあわせてみられることが多く、ASDの特性だけがみられる高機能自閉症とは臨床像が異なることが一般的です。

💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)とコピー数バリアント(CNV)

新生突然変異は、両親の遺伝子にはなく、精子や卵子がつくられる過程などで新たに生じた遺伝子の変化です。そのため、両親に同じ特性がなくても子どもに現れることがあります。コピー数バリアント(CNV)は、染色体の一部の領域が通常より多い(重複)か少ない(欠失)状態を指し、染色体マイクロアレイ検査などで調べることができます。

環境要因として知られているもの

遺伝要因に加えて、ASDのなりやすさと関連する環境要因もいくつか報告されています。5か国の大規模データを解析した研究では、父親・母親の年齢が高いこと、両親の年齢差が大きいことがASDのリスクと関連していました[20]。父親の年齢と子どもの病気の関係は父親の高齢と子どもの病気でも解説しています。また、妊娠中に抗てんかん薬のバルプロ酸を服用していた場合、子どものASDのリスクが高くなることがデンマークの全国研究で示されています[21]。

これらは集団で見たときの「関連」であり、個々の家庭で原因を特定できるものではありません。バルプロ酸を服用中の方は自己判断で中止せず、妊娠を考える段階で主治医と相談してください。

遺伝学的検査でわかること・わからないこと

ASDの原因となる遺伝子の変化が見つかる割合は、知的障害や身体的な特徴を伴わない高機能のASDでは高くありません。米国小児科学会は、ASDと診断されたすべての子どもに染色体マイクロアレイ検査と脆弱X症候群の検査を行うことを推奨しています[11]。カナダで258人のASDの子どもを調べた研究では、原因が特定された割合は染色体マイクロアレイで9.3%、全エクソーム解析で8.4%、両方を行った場合で15.8%でした。ただし、身体的な特徴を伴わないグループでは両方を行っても6.3%にとどまり、複数の身体的特徴を伴うグループの37.5%と大きな差がありました[22]。

🔬 ASDの子どもにおける遺伝学的検査の診断率

対象 染色体マイクロアレイ 全エクソーム解析 両方を実施
ASD全体 9.3% 8.4% 15.8%
身体的な特徴を伴わない群 4.2% 3.1% 6.3%
複数の身体的特徴を伴う群 24.5% 16.7% 37.5%

※カナダの小児258人の研究[22]。対象集団や検査法により数値は異なります。

米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は2021年に、先天異常や発達の遅れ・知的障害のある子どもにエクソーム・ゲノム解析を第一段階の検査として推奨しましたが[23]、この推奨は知的障害を伴わないASDをそのまま対象にしたものではありません。

遺伝学的検査はASDかどうかを判定する検査ではなく、ASDの診断はあくまで行動の評価によって行います。原因が見つかれば合併症の管理や家族の再発リスクの説明に役立ちますが、見つからなくてもASDの診断が否定されるわけではありません。検査の種類や考え方は遺伝子検査(遺伝学的検査)とは、当院の検査については自閉症遺伝子検査や発達障害・自閉症・知的障害染色体シーケンス解析をご覧ください。検査を受けるかどうかの判断や結果の解釈は、遺伝カウンセリングの中で臨床遺伝専門医と確認していきます。

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7. 診断と治療・支援

高機能自閉症を含むASDの診断は、血液検査や画像検査ではなく、発達の経過の聞き取りと行動の観察によって行います。特性そのものを治す薬はなく、支援の中心は療育や環境調整です。薬は、かんしゃくや不眠など、併存する症状を和らげる目的で使われます。

どこで、どうやって診断する?

診断は、小児科(特に発達を専門とする小児科)や児童精神科などで行われます。乳幼児期からの発達の経過や家庭・園・学校での様子を聞き取り、本人の行動を観察したうえで、DSM-5-TRなどの診断基準に照らして判断します。必要に応じて発達検査や知能検査も行います。

米国小児科学会は、脳の画像検査や脳波検査、代謝の検査を、ASDの評価として全員に行うことは推奨していません。けいれんが疑われる場合や神経の診察で異常がある場合など、ほかの病気との区別や併存症の評価が必要なときに行う検査です[11]。これらの検査でASDを確定診断することはできません。

📌 当院で行っていること

ミネルバクリニックは遺伝子検査と遺伝カウンセリングを専門とするクリニックです。自閉スペクトラム症の診断(発達の評価)や療育は行っていません。ASDの診断や発達の評価については、発達を専門とする小児科や児童精神科などの医療機関にご相談ください。

支援の中心は療育・SST・環境調整

子どものころは、「療育(発達支援)」と呼ばれる専門的な支援が中心になります。療育では、生活の中で困っていることを減らし、得意なことを伸ばすことを目標に、コミュニケーションや身の回りのことを練習します。対人関係のルールをゲームやロールプレイで学ぶソーシャルスキルトレーニング(SST)も、よく用いられる方法の一つです[24]。

あわせて重要なのが環境調整です。予定を目で見える形で示す、指示を短く具体的にする、刺激の少ない場所を用意するなど、本人を環境に合わせるのではなく、環境を本人に合わせる工夫を行います。大人になってからも、医療機関や地域の若者サポートステーションなどでSSTを学ぶ機会があります。

💡 用語解説:療育とSST

療育は、発達に特性のある子どもが生活しやすくなるように、医療・教育・福祉の専門職が行う支援の総称で、発達支援とも呼ばれます。SST(ソーシャルスキルトレーニング)は、あいさつ、順番を守る、頼み方や断り方など、人と関わるための具体的な技能を、練習とふり返りを通じて身につける方法です。

薬は併存する症状に対して使う

ASDの中核となる特性(対人関係の困難さやこだわり)そのものを改善する薬はありません。一方、激しいかんしゃくや攻撃的な行動、自分を傷つける行動などの「易刺激性(いしげきせい)」が強く、生活に大きな支障がある場合には、薬が使われることがあります[11]。日本では、「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」に対して、リスペリドンが2016年2月[25]、アリピプラゾールが同年9月[26]に効能追加の承認を受けています。

これらの薬は体重増加や眠気などの副作用に注意が必要で、療育や環境調整と組み合わせて、症状を和らげる補助として用いられます。併存するADHDや不安症、抑うつ、睡眠の問題に対しては、それぞれの状態に合った治療が検討されます。なぜ中核症状に効く治療がないのかについては自閉症に治療法がない理由で解説しています。

8. 高機能自閉症の子どもと関わる6つのコツ

関わり方の基本は、「目で見てわかるように伝える」「予定の変更は前もって知らせる」「落ち着ける環境を整える」の3つです。文部科学省も、短く具体的な指示や、本人の長所を大切にした対応を指導の方法として示しています[24]。ここでは家庭で取り入れやすい6つのコツを紹介します。子どもによって合う方法は異なるため、様子を見ながら調整してください。

コツ①:具体的に短く伝える

抽象的な指示は、何をどこから始めればよいのかが伝わりにくいことがあります。たとえば「学校に行く準備をして」と言う代わりに、「ハンガーにかかっている順に制服を着てね」「教科書と連絡帳とリコーダーをランドセルに入れようね」と、やることを一つずつ具体的に伝えます。

「ちゃんと」「ちょっと」のようなあいまいな言葉も、「5分」「ここまで」のように数や場所で示すと伝わりやすくなります。自分でできたという経験は子どもの自信にもつながります。

コツ②:見通しを目で見える形にする

言葉だけで伝えるより、絵カードや写真、文字のスケジュール表など、目で見える形で示すほうが理解しやすい子どもが多くいます。朝の支度や1日の予定を順番に並べて貼っておくと、次に何をするかが自分でわかり、安心して行動しやすくなります。

「7時半のバスに乗るために6時50分に起きる」のように、時刻と行動を結びつけて毎日の流れを一定にすることも役立ちます。

コツ③:予定の変更は前もって予告する

急な予定変更は、先の見通しが崩れるため強い不安や混乱につながりやすくなります。変更がわかった時点でできるだけ早く伝え、「いつもと違うのはこの部分だけ」「その後はいつもどおり」と、変わる点と変わらない点を分けて説明すると受け入れやすくなります。

コツ④:落ち着ける環境を整え、変化には付き添う

音や光、人の多さなどの刺激が強すぎると、それだけで疲れて混乱してしまうことがあります。家庭では、静かに過ごせるスペースを用意する、苦手な音がある場面ではイヤーマフを使うなど、感覚の特性に合わせた工夫をします。

入園・入学、進級、習い事を始める時期、引っ越しなど、環境が大きく変わる場面では、事前に場所を下見したり、慣れるまで大人が付き添ったりすると安心しやすくなります。

コツ⑤:相手の気持ちを言葉にして伝える

相手の気持ちを表情や状況から想像するのが苦手なため、大人が気持ちを言葉にして伝えることが役立ちます。たとえば友達のおもちゃを取ってしまったとき、頭ごなしに叱るのではなく、「〇〇くんはおもちゃを取られて悲しい気持ちになっているよ」「使いたいときは『貸して』と言おうね」と、相手の気持ちと、次にどうすればよいかを具体的に伝えます。

望ましい行動ができたときに具体的にほめることも、同じくらい大切です。

コツ⑥:集団は少人数から慣らす

大人数の集団は刺激が多く、ルールも複雑になりがちです。まずは気の合う友達1〜2人と遊ぶ機会をつくるなど、少人数の関わりから慣らしていくと、人と関わる経験を安心して積み重ねることができます。

園や学校から帰ってきたら、「今日はどんな遊びをしたの?」「楽しかったことは?」と具体的に聞いてみると、集団生活が負担になっていないかを確認できます。学校では、通常の学級での配慮のほか、通級による指導や特別支援学級など、子どもに合った学びの場を選ぶことができます。

9. 相談先

発達の気がかりや子育ての悩みは、医療機関、発達障害者支援センター、児童相談所などに相談することができます。相談先ごとに役割が異なるため、困りごとの内容に合わせて選んでください。

かかりつけの小児科・乳幼児健診・保健センター

最初の相談先として身近なのは、かかりつけの小児科や、乳幼児健診、自治体の保健センターです。健診では発達の様子を確認してもらえるほか、必要に応じて発達を専門とする医療機関や地域の療育機関を紹介してもらえます。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、発達障害のある本人や家族の相談に応じ、保健・医療・福祉・教育・労働などの関係機関と連携して支援を行う専門機関です。発達障害者支援法に基づいて、都道府県と指定都市に設置されています[27]。全国のセンターの一覧は、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターのホームページで確認できます。

児童発達支援センター・児童相談所

児童発達支援センターは、地域で療育を提供するとともに、家族からの相談にも応じる施設です。児童相談所では、医師や児童心理司、児童福祉司などが、発達や子育てに関する相談に応じています。

電話で相談したい場合は、児童相談所相談専用ダイヤル(0120-189-783、通話料無料)が利用できます。なお、「189(いちはやく)」は、虐待かもしれないと思ったときに児童相談所へ通告・相談するための全国共通ダイヤルです[28]。子育て全般の相談には、相談専用ダイヤルやお住まいの地域の窓口を利用してください。

遺伝についての不安は遺伝の専門外来へ

「次の子どもにも同じ特性が現れるのか」「きょうだいや親族に影響はあるのか」「遺伝学的検査を受ける意味はあるのか」といった遺伝に関する疑問は、発達の専門医療機関とは別に、遺伝医療の専門外来で扱われます。遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医が家族歴を確認し、遺伝学的検査の対象や限界、結果の意味を説明します。

10. 利用できる制度

高機能自閉症を含むASDの子どもと家族は、障害者手帳、医療費の自己負担を軽くする制度、療育などの通所サービスを利用できる場合があります。要件や手続きは自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の窓口で確認してください。

精神障害者保健福祉手帳と療育手帳

知的障害を伴わないASDでは、精神障害者保健福祉手帳の対象となることがあります。等級は1級から3級で、申請には精神障害に係る初診日から6か月を経過した日以後に作成された診断書が必要です。有効期間は2年間です[29]。手帳を持つことで、税金の控除や公共交通機関の割引などを受けられる場合があります。知的障害を伴う場合は療育手帳の対象となり、その判定基準は各自治体が定めています。

自立支援医療(精神通院医療)

通院による継続的な治療が必要な場合は、自立支援医療(精神通院医療)を利用できることがあります。入院をせずに行われる通院医療が対象で[30]、医療機関の窓口での自己負担は原則1割になり、世帯の所得に応じて月ごとの負担上限額が設けられます。有効期間は1年で、継続する場合は更新の手続きが必要です[31]。

障害児通所支援(児童発達支援・放課後等デイサービス)

就学前の子どもが通う児童発達支援や、小学生から高校生が放課後や長期休暇に通う放課後等デイサービスは、児童福祉法に基づく障害児通所支援です[32]。市区町村から通所受給者証の交付を受けて利用し、障害者手帳を持っていなくても、医師の意見書などにより利用できる場合があります。

学校での支援

学校では、通常の学級で特性に配慮した指導を受けながら、週に数時間だけ別の教室で指導を受ける「通級による指導」や、少人数で学ぶ「特別支援学級」などを選ぶことができます。どの学びの場が合うかは、就学前の相談や在学中の面談で、学校や教育委員会と話し合って決めていきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 高機能自閉症は正式な診断名ですか?

正式な診断名ではありません。知的発達の遅れを伴わない自閉症を指す、教育・行政の分野で使われてきた通称です。現在の医療では、自閉スペクトラム症(ASD)と診断されます。

Q2. 高機能自閉症のIQはいくつですか?頭がいいのですか?

知的障害がない、つまりおおむねIQ70以上であることが目安ですが、公式な基準はありません。「高機能」はIQが高いことや特別な才能を意味する言葉ではなく、平均より低い境界域の子どもも含まれます。IQは成長とともに変化することもあります。

Q3. 何歳でわかりますか?

特性は乳幼児期からみられますが、知的な遅れがないため、集団生活が始まる幼稚園・保育園や小学校で気づかれることが多くあります。1歳6か月児健診や3歳児健診が、発達の気がかりに気づく機会になります。大人になってから診断されることもあります。

Q4. 高機能自閉症は遺伝しますか?

ASDは遺伝要因の関与が大きく、遺伝率は約80%と推定されています。ただし遺伝率は親から子へ伝わる確率ではありません。ASDのある兄や姉がいる乳児を追跡した研究では約20%がASDと診断されましたが、これは研究参加者全体の平均で、個々の家庭の確率は家族歴などによって異なります。

Q5. 親の育て方が原因ですか?

いいえ。ASDは生まれつきの脳の発達の特性で、親の育て方や愛情不足が原因ではありません。予防接種との関連も、大規模な研究で否定されています。

Q6. 高機能自閉症は治りますか?

ASDの特性そのものを治す薬や治療法はありません。療育、ソーシャルスキルトレーニング、環境調整によって困りごとを減らすことはできます。激しいかんしゃくなどの易刺激性や、併存する不安、不眠などに対しては薬が使われることがあります。

Q7. 大人になってから高機能自閉症と診断されることはありますか?

あります。学童期には目立たなかった特性が、就職後に臨機応変な対応やあいまいな指示の理解を求められて表面化し、不安や抑うつをきっかけに受診して診断されることがあります。女性では特性を隠す「カモフラージュ」によって診断が遅れやすいと考えられています。

Q8. 障害者手帳はもらえますか?

知的障害を伴わないASDでは、精神障害者保健福祉手帳の対象となることがあります。申請には初診日から6か月を経過した日以後に作成された診断書が必要です。知的障害を伴う場合は療育手帳の対象になります。詳しくはお住まいの市区町村の窓口で確認してください。

Q9. 高次脳機能障害と同じものですか?

別のものです。高次脳機能障害は、事故による頭部外傷や脳卒中などで脳が損傷を受けた後に、記憶や注意などの働きが低下した状態です。高機能自閉症は生まれつきの脳の発達の特性で、原因も支援の方法も異なります。

Q10. 自閉症は顔つきでわかりますか?有名人にも多いのですか?

顔つきだけでASDを見分けることはできません。顔の特徴に関する研究については自閉症は顔つきでわかる?で解説しています。ASDであることを公表している著名人もいますが、特別な才能を持つ人が多いという意味ではありません。公表している方については自閉症・ADHD・アスペルガーを公表した有名人をご覧ください。

Q11. ミネルバクリニックで自閉スペクトラム症の診断や療育は受けられますか?

当院では、自閉スペクトラム症の診断(発達の評価)や療育は行っていません。当院が行っているのは、自閉症に関連する遺伝子検査と、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングです。ASDの診断については、発達を専門とする小児科や児童精神科などの医療機関にご相談ください。

まとめ

高機能自閉症は、知的発達の遅れを伴わない自閉スペクトラム症(ASD)を指す通称で、正式な診断名ではありません[1]。以前は幼児期の言葉の遅れの有無でアスペルガー症候群と呼び分けていましたが、成長とともに差は小さくなり、現在はどちらもASDとして扱われています[2]。「高機能」はIQが高いことを意味する言葉ではなく、境界域の子どもも多く含まれます[5]。

ASDは遺伝要因の関与が大きい生まれつきの特性で、親の育て方が原因ではありません[16]。特性そのものを治す薬はありませんが、特性を理解したうえでの関わり方や環境の工夫、療育によって、困りごとを減らしていくことができます。発達の気がかりは医療機関や発達障害者支援センターへ、遺伝についての疑問は遺伝の専門外来へと、内容に合わせて相談先を選んでください。

🧬 自閉症の遺伝子検査・遺伝カウンセリングをご検討の方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が、自閉スペクトラム症に関連する遺伝子検査と遺伝カウンセリングを行っています。家族歴や検査の目的を確認したうえで、検査でわかること・わからないこと、結果が本人や血縁者にとって持つ意味を説明します。なお、当院では自閉スペクトラム症の診断(発達の評価)や療育は行っていません。

参考文献

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  • [32] こども家庭庁. 障害児支援施策. [こども家庭庁]

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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