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自閉症は治る?治療法・治療薬の現状と根本治療がない理由(原因と遺伝)|大人になったら治るか・療育・臍帯血治療の研究・折れ線型自閉症まで臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

自閉症(自閉スペクトラム症・ASD)を根本から治す薬や手術は、いまの医学にはありません。自閉症は生まれつきの脳の発達のしかたの特性で、原因にかかわる遺伝子が1つではないためです。一方で、療育(発達支援)や環境の調整、併存する症状への薬によって、本人と家族の困りごとが小さくなることはあります。「治る・治らない」の二択ではなく、何を目標にするかを分けて考えることが大切です。この記事では、自閉症の治療法・治療薬の現状、「大人になったら治る」の本当のところ、臍帯血などの「最新治療」の研究結果、折れ線型自閉症、遺伝との関係までを、臨床遺伝専門医が出典つきで解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧩 Q. 自閉症は治りますか?

自閉症そのものを治す薬や手術はありません。治療の目標は、特性をなくすことではなく、療育・環境調整・併存症の治療で生活の困りごとを減らすことです。

🧩 Q. 大人になったら治りますか?

経過は人によって大きく違います。米国の研究では、12〜36か月で診断された213人のうち37.1%が、5〜7歳の再評価で診断基準を満たさなくなりました。ただし、誰がそうなるかを前もって見分ける方法はまだありません。

🧩 Q. 治療薬や臍帯血治療は効きますか?

日本で承認されている薬は、易刺激性(かんしゃく・攻撃性など)や入眠困難といった併存する症状への薬で、自閉症の中心の特性を治す薬ではありません。臍帯血の点滴は、180人の臨床試験で社会性の改善を示せませんでした。

🧩 Q. 遺伝は関係しますか?

遺伝の影響は大きく、スウェーデンの大規模研究では遺伝率が約83%と推定されています。脆弱X症候群など原因が特定できる場合もあり、当院では遺伝カウンセリングと遺伝子検査で原因を調べられます。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🧩 自閉症の治療・療育・治療薬・遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤治療の目標 → 特性を消すことではなく、生活の困りごとを減らすこと
  • ➤治療薬 → 日本で承認されているのは易刺激性・入眠困難など併存症状への薬
  • ➤「最新治療」 → 臍帯血・幹細胞・除去食などは、効果が確かめられていない
  • ➤折れ線型自閉症 → 自閉症の約3人に1人で、いったん獲得した言葉や対人行動の後退が報告されている
  • ➤遺伝 → 遺伝率は約83%。原因が特定できると、合併症の管理や家族の再発率の説明につながる

🧩 自閉症の治療の基本情報

項目 内容
正式な名前 自閉スペクトラム症(ASD)。以前の自閉症・アスペルガー症候群・広汎性発達障害などを含む
根本的な治療 中心の特性を治す薬・手術はない
主な支援 療育(社会的コミュニケーションを育てる関わり)、家族支援、環境調整
日本で承認されている薬 易刺激性へのリスペリドン・アリピプラゾール、入眠困難へのメラトニン製剤
遺伝の影響 遺伝率 約83%(スウェーデンの研究)[1]、弟・妹の再発率 18.7%(米国などの研究)[2]
診断する医療機関 小児科・児童精神科・発達外来、大人は精神科・心療内科

1. 自閉症は治る?いまの医学での答え

自閉症の中心にある特性(対人関係やコミュニケーションの苦手さ、強いこだわり、感覚の過敏さ・鈍さ)を消す治療は、いまのところありません。英国の国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインも、中心の特性に対しては抗精神病薬・抗うつ薬・抗てんかん薬や除去食を使わないよう勧め、代わりに遊びを通じて親や先生と注意を共有する力ややりとりを育てる関わり(社会的コミュニケーションへの介入)を勧めています[3]。

「治療法がない」と聞くと、何もできないように感じるかもしれません。しかし実際の医療や支援の目標は、特性をなくすことではなく、本人が暮らしやすくなり、家族の負担が軽くなることに置かれています。言葉が増える、かんしゃくが減る、眠れるようになる、学校や職場で困ることが減る、といった変化は、支援や治療で十分に起こりうるものです。

「治る」と「困りごとが減る」は別のこと

自閉症では、「診断名が消えること」と「生活の困りごとが減ること」を分けて考えます。特性があっても、まわりの理解と環境が合えば困りごとはほとんどない人もいます。逆に、特性が軽くても、合わない環境では二次的に不安やうつ、不登校などが起こることがあります(二次障害と呼ばれます)。

自閉症の人には、ほかの精神医学的な診断が重なることが多いことも分かっています。96件の研究をまとめたメタ解析では、自閉症の人のうちADHD(注意欠如・多動症)が28%、不安症が20%、睡眠・覚醒障害が13%、うつ病が11%と推定されました[4]。こうした併存する症状は、それぞれに治療法があります。「自閉症は治らないから」と、眠れない・強い不安が続くといった症状まで我慢する必要はありません。

💡 用語解説:自閉スペクトラム症(ASD)

アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5(2013年)で、それまでの自閉性障害・アスペルガー障害・特定不能の広汎性発達障害などがまとめられた診断名です。「スペクトラム」は、特性の現れ方や強さが人によって連続的に違うことを表しています。この記事では、一般によく使われる「自閉症」と同じ意味で使います。

大人になったら治る?―5〜7歳で37%が基準を満たさなくなった研究

幼いころに自閉症と診断された子どもの一部は、成長とともに診断基準を満たさなくなることがあります。米国で、12〜36か月(平均24.6か月)に自閉症と診断された213人を、5〜7歳(平均74.3か月)で評価し直した研究では、79人(37.1%)が自閉症の診断基準を満たさなくなっていました[5]。

この研究で、基準を満たさなくなることと関連していたのは、診断時の適応機能(日常生活の力)が高かったことと、女の子であることでした。一方、全員が診断後に何らかの介入を受けており、診断後18か月間の介入の強度(週あたりの時間数)と、基準を満たさなくなったかどうかとの間に有意な関連は見られませんでした[5]。「この療育を受ければ診断がとれる」という研究結果ではない点に注意が必要です。

大人になってから「自閉症かもしれない」と気づく人も多くいますが、これは大人になって発症したのではなく、子どものころからあった特性が、環境の変化で困りごととして表に出たと考えられています。大人の自閉症の特徴や相談先は大人のアスペルガー症候群(ASD)の特徴で詳しく解説しています。

2. 自閉症に根本的な治療法がない理由

自閉症に根本的な治療法がない最大の理由は、原因が1つではなく、多くの遺伝子の違いと環境の要因が重なって、生まれる前から脳の発達のしかたに影響しているためです。1つの原因に1つの薬を当てる、という形の治療がつくりにくい病気だといえます。

かつては「親の育て方」が原因と考えられた時代もありましたが、現在この考え方は否定されています。自閉症は親の育て方や愛情不足で起こるものではありません。

遺伝の影響は約83%―きょうだいの再発率は18.7%

自閉症は、遺伝の影響がとても大きい状態です。スウェーデンで1982〜2006年に生まれた子どもを対象にした研究(自閉症と診断された子ども14,516人を含む)では、自閉症のなりやすさの違いのうち、遺伝で説明される割合(遺伝率)が約83%(95%信頼区間79〜87%)と推定されました[1]。

ここで間違えやすいのは、遺伝率約83%は「親から子に83%の確率で遺伝する」という意味ではないことです。遺伝率は、集団の中でのなりやすさの違いのうち、どのくらいが遺伝の違いで説明できるかを表す数字です。家族の中での実際の確率は、別に調べた再発率で考えます。

上に自閉症のきょうだいがいる赤ちゃん664人を3歳まで追った研究では、18.7%が自閉症と診断されました[2]。父親・母親から子どもへの確率は自閉症が親から遺伝する確率で詳しく解説しています。

一部は原因が特定できる―遺伝子・染色体の検査

自閉症の多くは原因を1つに特定できませんが、一部は特定の遺伝子や染色体の変化が原因だと分かります。発達の遅れや先天異常のある方を染色体マイクロアレイ検査で調べると、約15〜20%で原因となる微細な欠失・重複が見つかると報告されています[6]。

自閉症の特徴を伴うことがある遺伝性の病気には、脆弱X症候群、結節性硬化症、22q11.2欠失症候群などがあります。原因が分かると、その病気で起こりやすい合併症(てんかん、心臓や腎臓の病気など)を前もって調べられるほか、次の子どもや血縁者の再発率を具体的に説明できるようになります。原因が分かっても自閉症の特性そのものが治るわけではありませんが、「原因が分からない」状態から「何に気をつければよいかが分かる」状態に変わることには、大きな意味があります。

妊娠中に調べられる範囲もあります。東京のNIPT(新型出生前診断)を行う当院では、22q11.2欠失症候群(全プラン)など、一部の自閉症・発達障害の原因を妊娠中に調べられます。詳しくは一部の自閉症・発達障害の原因はNIPTでわかるで解説しています(第8章でもまとめています)。

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3. 自閉症の治療・療育(発達支援)の中身

自閉症の支援の中心は、薬ではなく、療育(発達支援)と家族への支援、環境の調整です。NICEのガイドラインは、子どもの自閉症の中心の特性に対して、訓練を受けた専門職が、遊びを使って親・保育者・先生と一緒に「注意を共有する」「関わる」「やりとりする」力を育てる介入を検討するよう勧めています。就学前の子どもでは親や先生を通じた方法、学齢期では友だちを通じた方法が挙げられています[3]。

🧩 自閉症の主な支援と目的

支援 どんなものか 主な目的
療育(発達支援) 遊びや日常の場面を使い、やりとりや身の回りのことを少しずつ身につける コミュニケーション・生活の力を育てる
行動療法(応用行動分析:ABAなど) 望ましい行動を具体的に示し、できたらほめて増やす。行動の前後の状況を分析する 新しいスキルを増やし、困った行動を減らす
言語療法・作業療法 言語聴覚士・作業療法士が言葉や手先、感覚の偏りに合わせて関わる 言葉・運動・感覚の困りごとを減らす
家族支援(ペアレント・トレーニングなど) 保護者が特性の理解と関わり方を学ぶ。保護者どうしで話し合う場もある 家庭での関わりを楽にし、家族の負担を減らす
環境調整 予定を見える形で示す、刺激の少ない場所をつくる、指示を具体的にする 不安やパニックを起こしにくくする
大人の支援(認知行動療法・就労支援など) 考え方や行動のくせを見直す練習、職場での配慮の相談 仕事・人間関係の困りごとと二次障害を減らす

※どの支援が合うかは、年齢・特性・併存症によって違います。支援の内容は主治医や療育機関と相談して決めます。

家族の負担も「治療の対象」

自閉症の子どもを育てる親の子育てストレスは、ほかの障害のある子どもの親より高いことが分かっています。子育てストレスを比べた研究をまとめたメタ解析では、自閉症の子どもの親のストレスは、定型発達の子どもの親だけでなく、ほかの障害のある子どもの親よりも高く、ダウン症候群の子どもの親との差が最も大きいと報告されています[7]。

育てる大変さは、知的発達の遅れの重さだけでは決まりません。かんしゃくや睡眠の問題、こだわりへの対応など、毎日の生活の中での負担が積み重なるためです。家族がペアレント・トレーニングを受けたり、レスパイト(一時的に介護や子育てを代わってもらう支援)を使ったりすることは、子どもの支援と同じくらい大切だと考えられています。

療育を受けられる場所には、地域の療育センターなどの公的な施設、病院やクリニックに併設された施設、民間の施設などがあります。受け入れの対象や利用の手続きは施設や自治体によって違うので、お住まいの市区町村の窓口で確かめてください。どこに相談すればよいか分からないときは、各都道府県・政令指定都市にある発達障害者支援センターも窓口になります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「治らない」は「何もできない」ではない】

自閉症について「治療法がない」と書くと、とても冷たく聞こえるかもしれません。けれども医学の言葉で「治療法がない」とは、「原因そのものを取り除く方法がまだない」という意味です。眠れない、かんしゃくが続く、不安が強いといった具体的な困りごとには、それぞれ打てる手があります。

目標を「特性を消すこと」に置くと、本人も家族も苦しくなりやすいと考えています。本人がどこで困っているのかを細かく分け、手が打てるところから一つずつ手当てしていくことが、自閉症とともに暮らすうえでの現実的な治療だと考えています。

4. 自閉症の治療薬―日本で使える薬と、その対象

日本で自閉症に関係して承認されている薬は、自閉症そのものではなく、自閉症に伴う「易刺激性」や「入眠困難」を対象にした薬です。易刺激性とは、かんしゃく、攻撃的な行動、自分を傷つける行動など、刺激に対して激しく反応してしまう状態のことです。

💊 自閉症に関係して日本で承認されている主な薬(2026年10月時点)

一般名(主な販売名) 承認されている対象 備考
リスペリドン(リスパダール) 小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 2016年に効能追加[8]
アリピプラゾール(エビリファイ) 小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 2016年に効能追加[9]
メラトニン(メラトベル) 小児期の神経発達症に伴う入眠困難 生活習慣を整えても入眠困難が続く場合に使う[10]

※いずれも自閉症の中心の特性(対人関係・こだわり)を治す薬ではありません。使うかどうか・量は主治医が判断します。

NICEのガイドラインも、抗精神病薬は自閉症の中心の特性に対しては使わず、心理社会的な支援だけでは足りない、または行動が激しくて支援ができないときの「困った行動」に対して検討する、という位置づけにしています。睡眠についても、まず睡眠の計画(生活リズムなど)を立て、それでも続く場合にメラトニンを検討するとしています[3]。

ADHDが重なっている場合には、ADHDの治療薬が使われることがあります。不安やうつが強いときにも、それぞれの症状に対する治療が検討されます。ほかの薬やサプリメントと一緒に飲むと思わぬ副作用が出ることがあるので、飲んでいるものはすべて主治医に伝えてください。大人のADHDの治療については大人のADHDの治療で解説しています。

5. 「最新治療」「自閉症が治る時代」は本当?

インターネットでは「臍帯血」「幹細胞」「腸内細菌」「食事療法で完治」などの治療が紹介されていますが、自閉症を治す効果が確かめられたものはありません。自費で高額な治療を勧められたときは、その治療がどんな研究で、どんな結果だったのかを確かめることが大切です。

臍帯血・幹細胞治療の研究結果

臍帯血の点滴は、180人を対象にした臨床試験で、社会性の改善を示せませんでした。米国デューク大学などのグループは、2〜7歳の自閉症の子ども180人を、自分の臍帯血(56人)、他人の臍帯血(63人)、偽薬(61人)を1回点滴する群に分け、6か月後に比べました。その結果、点滴は安全に行えたものの、主要な評価項目である社会性(Vineland適応行動尺度の社会性の領域)に全体として改善を示す証拠はなく、「1回の点滴は社会性の改善や自閉症の症状の軽減とは関連しなかった」と結論されています[11]。

論文では、知的障害のない子どもの一部の解析でコミュニケーションなどの探索的な指標に改善が見られたことも報告されていますが、これは追加の研究が必要とされた段階の結果です[11]。現時点で、臍帯血や幹細胞の治療を自閉症の標準治療とする根拠はありません。

勧められていない治療法

NICEのガイドラインは、子どもの自閉症に対して、セクレチン(消化管ホルモン)、キレーション(体内の金属を取り除く治療)、高気圧酸素療法を、どんな場面でも使わないよう勧めています。また、中心の特性に対してグルテンやカゼインを除く除去食を使わないことも勧めています[3]。効果が示されていないうえ、治療によっては体に害が出るおそれがあるためです。

ロイコボリン(葉酸製剤)の話題―遺伝子診断と結びつく例

2025年に米国で話題になったロイコボリン(ホリナートカルシウム)は、自閉症そのものではなく、「脳内葉酸欠乏症」という病気の治療薬として承認されたものです。米国食品医薬品局(FDA)は2025年9月、脳内葉酸欠乏症の一部の人には自閉症の特徴を伴う発達の遅れがみられるとして、ロイコボリンの承認の手続きを始めたと発表しました。ただし、より広い集団についてのデータは限られており、安全性と有効性を評価するには追加の研究が必要だとしています[12]。

そして2026年3月、FDAが承認した効能は、「FOLR1遺伝子に変異が確認された成人・小児の脳内葉酸欠乏症」でした[13]。つまり、遺伝子検査で原因が特定された人が対象です。自閉症の特徴があっても、原因が分からなければ効くかどうかは分かりません。これは、遺伝子で原因を突き止めることが、ごく一部とはいえ具体的な治療につながる例だといえます。なお、日本では自閉症の治療薬として承認されたものではありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「治る」という言葉に出会ったら】

わが子のためなら何でもしたい、と思うのは自然なことです。だからこそ「自閉症が治る」という言葉は強く響きます。そうした治療を勧められたときには、「何人を対象にした研究か」「偽薬と比べたか」「主要な評価項目で効果が出たか」の3つを確かめることが大切だと考えています。

ロイコボリンの例が示すように、医学が進むほど、治療は「自閉症」という大きなくくりではなく、「どの遺伝子のどの変化が原因か」という単位で考えられるようになっていきます。原因を調べる意味は、これからさらに大きくなると考えています。

6. 折れ線型自閉症とは?治るのか

折れ線型自閉症とは、いったん順調に発達していた言葉や対人的な行動が、1〜2歳ごろに後退(退行)して自閉症の特徴がはっきりしてくる経過を指す言葉です。正式な診断名ではなく、日本で経過の型を表すときに使われてきた呼び方です。

85件の研究(自閉症の人29,035人)をまとめたメタ解析では、自閉症の人のうち退行がみられた割合は32.1%で、退行が始まった平均の年齢は約21.4か月(1.78歳)でした。退行の定義によって割合は違い、言葉だけの退行では24.9%、言葉と対人行動の退行では38.1%でした[14]。つまり、折れ線型は自閉症の中で特別に珍しい型ではなく、約3人に1人にみられる経過です。

「折れ線型は治る」という研究結果は確かめられていません。支援の考え方は、ほかの自閉症と同じです。ただし、退行がみられたときには、てんかんやほかの病気がないかを主治医が確かめることがあります。たとえばレット症候群では、生後6〜18か月ごろまでは一見順調に発達したあと、言葉や手を目的に合わせて使う力が失われることが知られており、典型的なレット症候群のほとんどはMECP2遺伝子の変化が原因です[15]。

7. 自閉症かもしれないと思ったら―診断と相談先

自閉症の診断は、子どもでは小児科・児童精神科・発達外来、大人では精神科・心療内科の医師が、DSM-5などの診断基準にもとづいて行います。診断には、子どものころから特性があったかどうかの確認が必要です。遺伝子検査で自閉症を診断することはできません。

📍 自閉症の主な相談先

相談したいこと 主な相談先
子どもの発達が心配 乳幼児健診、かかりつけの小児科、地域の保健センター
子どもの診断・療育 小児科・児童精神科・発達外来、療育センター
大人の診断・治療 精神科・心療内科
どこに相談すればよいか分からない 発達障害者支援センター(都道府県・政令指定都市)
原因・遺伝・次の子どもへの影響 臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリング

発達障害についての公的な情報は、国立障害者リハビリテーションセンターが運営する発達障害情報・支援センターにまとめられています。障害者手帳には身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の3種類があり、療育手帳は知的障害があると判定された方に交付されます[16]。精神障害者保健福祉手帳は、発達障害の方も対象です[17]。申請の窓口や受けられる支援は、お住まいの自治体で確かめてください。

子どもの特徴を年齢ごとに知りたい方は、自閉症の赤ちゃんの頃の様子、2歳児の自閉症の特徴、軽度の自閉症の子どもの特徴も参考にしてください。

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8. 当院でできること―遺伝カウンセリング・遺伝子検査・NIPT・保因者検査

ミネルバクリニックは、自閉症の診断・療育・薬の治療は行っていません。自閉症に関連して当院で受けられるのは、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリング、遺伝子検査、NIPT、保因者検査です。当院の遺伝子検査・NIPT・遺伝カウンセリングは自費診療です。

原因を調べる遺伝子検査

自閉症の遺伝子検査は、自閉症の背景にある遺伝的な原因を探す検査で、122の遺伝子を調べます。検体は血液・唾液・頬の粘膜のいずれかで、唾液や頬の粘膜を使う場合はオンラインの遺伝カウンセリングのあと、検査キットで採取して返送できます。オンラインの遺伝カウンセリングでは、料金を事前にお支払いいただきます。この検査で自閉症を診断することはできません。知的障害や発達の遅れを伴う場合は、発達障害・知的障害の遺伝子検査やマイクロアレイ染色体検査が選択肢になることもあります。どの検査が合うかは、遺伝カウンセリングで症状や家族歴をうかがったうえで決めます。

妊娠中に一部の原因を調べるNIPT

当院のNIPT(新型出生前診断)では、一部の自閉症・発達障害・知的障害の原因を調べられます。22q11.2欠失症候群はスタンダードを含む全プラン、16p11.2欠失・重複は双子マックス・インペリアル、フェラン・マクダーミッド症候群はインペリアル、レット症候群はダイヤモンド・インペリアルで調べられます。NIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。

ただし、NIPTで分かるのは自閉症の原因のごく一部で、陰性でも自閉症にならないという意味ではありません。微小欠失・重複の陽性的中率は、染色体の数の異常より低め(項目により60〜70%程度)です。陽性のときは確定検査(絨毛検査=妊娠11〜13週、羊水検査=妊娠15週以降)で確かめます。当院では確定検査まで院内で受けられ、主要な検査項目は3日以内、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。プランごとの内容はNIPT(新型出生前診断)のページにまとめています。

きょうだいに自閉症がいる・家族歴があるときの保因者検査

自閉症の特徴を伴うことがある脆弱X症候群(FMR1遺伝子)は、NIPTでは調べられませんが、保因者検査で調べられます。当院の拡大版保因者検査の女性787遺伝子・女性1009遺伝子の一覧には、FMR1と、第5章で触れた脳内葉酸欠乏症の原因遺伝子FOLR1が含まれています。詳しくは拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)をご覧ください。妊娠中の方は、NIPTと同じ日に採血できる夫婦の保因者検査ファミリーセーフティ プラスもあります(NIPTの一種ではなく、単独では受けられません)。

よくある質問(FAQ)

Q1. 自閉症は治りますか?

自閉症の中心の特性を治す薬や手術は、いまの医学にはありません。治療の目標は、療育や環境の調整、併存する症状の治療によって、生活の困りごとを減らすことです。

Q2. 自閉症は大人になったら治りますか?

経過は人によって大きく違います。米国の研究では、12〜36か月で診断された213人のうち37.1%が、5〜7歳の再評価で診断基準を満たさなくなりました。一方で、大人になってから気づかれる自閉症は、子どものころからあった特性が環境の変化で表に出たものと考えられています。

Q3. 自閉症の治療薬はありますか?

日本では、小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対してリスペリドンとアリピプラゾール、小児期の神経発達症に伴う入眠困難に対してメラトニン製剤が承認されています。いずれも自閉症の中心の特性を治す薬ではありません。

Q4. 臍帯血や幹細胞の治療で自閉症は治りますか?

効果は確かめられていません。2〜7歳の自閉症の子ども180人を対象にした臨床試験では、臍帯血の1回の点滴で社会性の改善は示されませんでした。現時点で標準治療とする根拠はありません。

Q5. 折れ線型自閉症とは何ですか?

いったん獲得した言葉や対人的な行動が、1〜2歳ごろに後退して自閉症の特徴がはっきりしてくる経過のことです。メタ解析では自閉症の人の32.1%に退行がみられ、始まった平均の年齢は約21.4か月でした。

Q6. 自閉症の原因は遺伝子検査でわかりますか?

一部はわかります。脆弱X症候群や結節性硬化症、22q11.2欠失症候群など、原因となる遺伝子や染色体の変化が特定できることがあります。ただし多くの自閉症は原因を1つに特定できず、遺伝子検査で自閉症を診断することもできません。

Q7. ミネルバクリニックで自閉症の治療は受けられますか?

当院は自閉症の診断・療育・薬の治療は行っていません。自閉症に関連して当院で受けられるのは、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリング、遺伝子検査、NIPT、保因者検査です。診断や療育は、小児科・児童精神科・発達外来などで受けてください。

まとめ

自閉症(自閉スペクトラム症)の中心の特性を治す薬や手術は、いまの医学にはありません。原因が1つではなく、遺伝の影響(遺伝率約83%)を中心に、多くの要因が生まれる前からの脳の発達に関わっているためです[1]。それでも、療育や家族支援、環境の調整、併存する症状への治療によって、生活の困りごとは変えられます[3]。

早期に診断された子どもの37.1%が6歳前後で診断基準を満たさなくなったという研究もありますが[5]、臍帯血などの「治る」とうたう治療に確かな根拠はありません[11]。一方で、遺伝子の変化で原因が特定できると、合併症の管理や家族の再発率の説明、ごく一部では具体的な治療につながることがあります[13]。原因を遺伝の面から調べたい方、次の子どもへの影響が気になる方は、遺伝カウンセリングをご利用ください。

🧩 自閉症の原因を遺伝の面から調べたい方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、自閉症の遺伝子検査(122遺伝子)、発達障害・知的障害の遺伝子検査、保因者検査、NIPT(新型出生前診断)の中から、ご家族の状況に合った検査をご案内しています。全室個室・90分の受診枠で、ほかの患者さんと顔を合わせずに受診いただけます。

参考文献

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続け、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、検査結果の数値そのものだけでなく、「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、日本人として異文化の中で生活した経験があります。価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。この経験は現在の診療においても、「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、36週6日で一人を死産した経験があります。その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、家族の未来に関わる重要な意思決定です。年齢や統計だけで判断するのではなく、医学的根拠と心理的支援の両面から、ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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