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ワクチンで自閉症(発達障害)になる?MMR・チメロサール・妊娠中の予防接種と自閉症の関係、論文撤回の経緯と米国の最近の動きを臨床遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

ワクチン(予防接種)で自閉症(自閉スペクトラム症・ASD)や発達障害になるという説は、これまでの大規模な研究で否定されています。デンマークで約65万人の子どもを追跡した研究でも、MMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しんの混合ワクチン)を受けた子どもと受けなかった子どもで、自閉症と診断される割合に差は見られませんでした。この記事では、説がどこから始まったのか、ワクチンの成分(水銀・アルミニウム)や妊娠中のワクチンについての研究、2025年以降の米国の動きを、一次資料をもとに整理します。自閉症の原因には遺伝の要因が大きく関わっていて、ワクチンや子育てのせいではありません。

⏱️ 30秒でわかる要約

💉 Q. ワクチンで自閉症になりますか?

なりません。約125万人の子どもを含む研究をまとめたメタ解析や、デンマークで約65万人を追跡した研究で、ワクチンと自閉症の関連は見つかっていません。

💉 Q. 「ワクチンが原因」という話はどこから来たのですか?

1998年に英国の医学誌に載った、12人の子どもについての論文がきっかけです。この論文は2010年に雑誌から正式に撤回され、筆頭著者は英国で医師の登録を抹消されました。

💉 Q. 妊娠中にワクチンを打つと、子どもが自閉症になりますか?

インフルエンザワクチンや百日せきを含むワクチン(Tdap)を妊娠中に受けた母親の子どもを調べた研究で、自閉症が増えるという結果は出ていません。

💉 Q. 自閉症の原因は何ですか?

双子や兄弟姉妹の大規模な研究では、自閉症へのなりやすさの約8割は遺伝の要因で説明できると推定されています。一部の原因は遺伝子検査で調べられます。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
💉 ワクチン・予防接種・自閉症・発達障害
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤結論 → ワクチンと自閉症の関連は、大規模な研究で見つかっていない
  • ➤説の始まり → 1998年の論文(2010年に撤回)
  • ➤成分 → チメロサール(水銀)・アルミニウムも関連なし
  • ➤妊娠中 → インフルエンザ・百日せきのワクチンでも子どもの自閉症は増えていない
  • ➤米国の動き → 2025年以降の政府の発表と、医学会の見解
  • ➤原因 → 遺伝の要因が大きい。一部は遺伝子検査で調べられる

💉 ワクチンと自閉症の基本情報

項目 内容
研究の結論 ワクチンと自閉症の関連は見つかっていない(メタ解析・全国規模のコホート研究)[1][2]
説の始まり 1998年の英国の論文(12人の子ども)。2010年に雑誌が撤回[5][7]
よく話題になる成分 チメロサール(水銀を含む保存料)・アルミニウム(アジュバント)。どちらも自閉症との関連は見つかっていない[1][14]
妊娠中のワクチン インフルエンザ・Tdap(百日せきなど)で、子どもの自閉症の増加は見られていない[16][17]
自閉症の原因 遺伝の要因が大きい(遺伝率の推定は約80〜83%)[27][28]
予防接種の相談先 かかりつけの小児科(予防接種のスケジュール・副反応)

1. ワクチンで自閉症になる?研究の結論

ワクチンが自閉症の原因になるという関連は、これまでの研究で見つかっていません。これは1〜2本の研究の結果ではなく、国や研究方法の違う多くの研究で同じ答えが出ている、ということです。

2014年に発表されたメタ解析(複数の研究の結果をまとめて分析する方法)は、コホート研究5本(約125万6千人の子ども)と症例対照研究5本(9,920人)をまとめました。ワクチン接種と自閉症のオッズ比は0.99(95%信頼区間0.92〜1.06)で、MMRワクチン、チメロサール、水銀のいずれについても、自閉症が増えるという結果は出ていません[1]。オッズ比が1に近く、95%信頼区間も1を含んでいるため、この解析ではワクチン接種と自閉症との統計的に有意な関連は認められませんでした。

「関連なし」はどうやって確かめられたのか

ワクチンと自閉症の関係は、主に2つの方法で調べられてきました。ひとつは、生まれた子どもを何年も追いかけて、接種した子どもと接種しなかった子どもで自閉症と診断される割合を比べるコホート研究です。もうひとつは、自閉症と診断された子どもと診断されていない子どもで、過去の接種歴を比べる症例対照研究です。どちらの方法でも、ワクチンを受けた子どもに自閉症が多いという結果は出ていません[1]。

米国医学研究所(IOM、現在の全米医学アカデミー)は2004年の報告書で、MMRワクチンとチメロサールを含むワクチンのどちらについても、「証拠は自閉症との因果関係を否定する方向にある」と結論づけました[3]。その後の報告書でも、MMRワクチンと自閉症の関係は、質の高い疫学研究にもとづいて「否定する方向」と判定されています[4]。

💡 用語解説:自閉症と自閉スペクトラム症(ASD)

以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などと分けて呼ばれていたものが、今は「自閉スペクトラム症(ASD)」というひとつの診断名にまとめられています。この記事では、研究で使われた呼び方に合わせて「自閉症」と「ASD」の両方を使っていますが、同じものを指しています。子どもの自閉症の特徴については子どもの自閉症とはで解説しています。

2. 「ワクチンで自閉症に」という説はどこから始まったか

きっかけは、1998年に英国の医学誌「ランセット」に載った1本の論文です。この論文は2010年に雑誌から正式に撤回されました。

1998年の論文(Wakefield論文)の中身

論文は、腸の症状と発達の問題のある12人の子ども(平均6歳、11人が男の子)について報告したものでした[5]。この論文がMMRワクチンと発達の問題を結びつける解釈を含んでいたことから、「MMRワクチンが自閉症を引き起こす」という説として広まりました。

ただ、12人という少ない人数で、比べる相手(接種していない子ども)もいない報告からは、ワクチンが原因かどうかを判断することはできません。2004年には、共著者のうち筆頭著者を除く10人が、論文の中のMMRワクチンと自閉症を結びつける解釈を取り下げる声明を、同じ雑誌に出しています[6]。

2010年の論文撤回と、医師登録の抹消

ランセットの編集部は2010年2月、この論文を全面的に撤回しました[7]。同じ年の5月、英国の医師の登録を管理する機関(General Medical Council)は、筆頭著者に重大な職業上の不正行為があったと判断し、医師の登録から抹消しています[8]。

論文が撤回されたあとも、「ワクチンと自閉症」の話はインターネットなどで繰り返し取り上げられてきました。そのため、この説が否定されたあとに行われた大規模な研究の結果を、次の章で紹介します。

日本ではMMRワクチンの中止後も自閉症は増えた

日本のデータも、MMRワクチンが自閉症の原因ではないことを示しています。日本では1989年4月から定期接種でMMRワクチンを選べるようになりましたが、接種後の無菌性髄膜炎(おたふくかぜの成分による副反応)が多かったため、1993年4月に接種が中止されました[9]。これは自閉症とは関係のない理由による中止です。

横浜市港北区で1988〜1996年に生まれた子どもを調べた研究では、MMRワクチンの接種率は下がり、1993年以降に生まれた子どもは接種を受けていませんでした。それでも自閉スペクトラム症の累積発生率は上がり続け、とくに1993年生まれ以降で大きく上がっていました。研究者は、MMRワクチンが自閉症の主な原因である可能性は低く、自閉症の増加を説明できないと結論づけています[10]。

この「MMRワクチンをやめても自閉症は減らなかった」という結果は、ワクチンを中止した国だからこそ得られたデータで、日本の読者にとって身近な根拠といえます。

3. MMRワクチンと自閉症:大規模な研究の結果

MMRワクチンと自閉症の関係は、デンマークの国全体の子どもを対象にした研究で、もっとも詳しく調べられています。

デンマークで約65万人を追跡した研究(2019年)

1999年から2010年にデンマークで生まれた657,461人の子どもを、1歳から2013年8月まで追跡した研究があります。この間に6,517人が自閉症と診断されました。MMRワクチンを受けた子どもの、受けなかった子どもに対するハザード比(なりやすさの比)は0.93(95%信頼区間0.85〜1.02)で、接種によって自閉症が増えるという結果は出ませんでした[2]。

この研究では、兄弟姉妹に自閉症の人がいる子ども、自閉症のリスク要因を持つ子ども、ほかのワクチンを受けた子どもといった集団ごとに分けて調べても、接種のあとの特定の期間に区切って調べても、リスクの上昇は見られませんでした[2]。

きょうだいに自閉症がいる子どもでも、関連は見られない

「家族に自閉症の人がいる子どもは、ワクチンの影響を受けやすいのでは」という疑問にも、研究があります。米国で上の子どもがいる95,727人を調べた研究では、上の子が自閉スペクトラム症の子ども(1,929人)でも、MMRワクチンを受けたことで自閉症が増えるという結果は出ていません。上の子が自閉症の子どもで、5歳までに2回接種した場合の相対リスクは0.56(95%信頼区間0.31〜1.01)でした[11]。

この研究では、上の子が自閉症の場合、下の子のMMRワクチンの接種率が低いことも報告されています(2歳時点で73%、上の子が自閉症でない場合は84%)[11]。ワクチンへの不安から接種を見送る家庭があることを示していますが、接種を見送っても、下の子が自閉症になる確率は下がりません。きょうだいで自閉症が重なる理由は、ワクチンではなく、家族で共有している遺伝の要因で説明されます(第7章)。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「接種のあとに気づいた」が因果に見えるわけ】

MMRワクチンは多くの国で1歳ごろに1回目を接種するワクチンで、ことばの遅れや人との関わり方の特徴に家族が気づき始める時期と重なります。時間の前後関係があると、人は原因と結果のように感じやすいものです。ただ、「接種のあとに気づいた」ことと「接種が原因だった」ことは別で、それを分けて確かめるために、何十万人もの子どもを比べる研究が行われてきました。

その結果、接種した子どもとしなかった子どもで自閉症の割合に差がないことがわかっています。ワクチンのせいでも、受けさせた親のせいでもありません。臨床遺伝専門医として、原因を探すときには「何がいけなかったのか」ではなく、「体質としてどういう要因があったのか」という視点で考えることが大切だと考えています。

4. ワクチンの成分と自閉症:水銀(チメロサール)・アルミニウム・接種の数

ワクチンに含まれるチメロサール(水銀)やアルミニウム、たくさんのワクチンを受けることについても、自閉症との関連は見つかっていません。

チメロサール(水銀を含む保存料)

チメロサールは、1本の瓶から何人分も取り分ける「マルチドーズ」のワクチンが細菌で汚れないように加えられてきた、水銀を含む保存料です。米国では1999年、子どもが水銀にふれる量を減らすための予防的な措置として、ワクチンからチメロサールを取り除く方針が決まりました[12]。米国疾病予防管理センター(CDC)は、2001年までに米国の子ども用ワクチンからチメロサールが除かれ、今も使われているのは一部のインフルエンザワクチン(マルチドーズの瓶)だけだと説明しています[13]。

この取り除きは、害があると確かめられたからではなく、念のための措置でした。その後の研究でも、チメロサールを含むワクチンと自閉症の関連は見つかっていません。2004年のIOMの報告書は因果関係を「否定する方向」と結論づけ[3]、2014年のメタ解析でもチメロサールのオッズ比は1.00(95%信頼区間0.77〜1.31)でした[1]。

アルミニウム(アジュバント)

アルミニウムの塩は、ワクチンの効果を高めるアジュバント(免疫の反応を助ける成分)として、多くのワクチンに使われています。2025年に発表されたデンマークの研究は、1997〜2018年に生まれた1,224,176人の子どもについて、2歳までにワクチンから受けたアルミニウムの量と、5歳までの50の慢性の病気との関係を調べました。アルミニウムの量が1mg増えるごとの、神経発達症(自閉症やADHDなど)全体のハザード比は0.93(95%信頼区間0.90〜0.97)で、アルミニウムの量が多いほど神経発達症が増えるという結果は出ていません[14]。

「ワクチンの数が多すぎる」という心配

「小さいうちにたくさんのワクチンを受けると、免疫に負担がかかって自閉症になるのでは」という心配もあります。米国の研究では、自閉スペクトラム症の子ども256人と、そうでない子ども752人について、生後3か月・7か月・2歳までにワクチンから受けた抗原(免疫が反応する成分)の総量を比べました。抗原の総量が多い子どもで自閉症が多いという結果は出ていません[15]。

📊 ワクチンと自閉症についての主な研究

調べたこと 対象 結果
ワクチン全般・MMR・チメロサール 10本の研究のメタ解析(コホート約125万人+症例対照9,920人) 関連なし(オッズ比0.99)[1]
MMRワクチン デンマークの657,461人 関連なし(ハザード比0.93)[2]
きょうだいに自閉症がいる子どものMMR 米国の95,727人 関連なし[11]
MMRの中止(日本) 横浜市港北区の1988〜1996年生まれ 中止後も自閉症は増加[10]
アルミニウム デンマークの1,224,176人 神経発達症の増加なし[14]
抗原の総量(接種の数) 米国のASD256人と対照752人 関連なし[15]

5. 妊娠中のワクチンと子どもの自閉症

妊娠中にインフルエンザワクチンや百日せきを含むワクチンを受けても、生まれた子どもの自閉症が増えるという結果は出ていません。妊娠中のワクチンは、お母さん自身と、生まれたばかりの赤ちゃんを感染症から守るために勧められているものです。

インフルエンザワクチン

米国で196,929人の子どもを調べた研究では、妊娠中にインフルエンザワクチンを受けた母親の子どもで、自閉スペクトラム症のハザード比は1.10(95%信頼区間1.00〜1.21)でした。妊娠初期(妊娠前期)に受けた場合は1.20(95%信頼区間1.04〜1.39)でしたが、たくさんの比較を同時に行ったことを補正すると統計的な意味はなく、偶然による可能性があると研究者は述べています[16]。

百日せきを含むワクチン(Tdap)

米国カリフォルニア州南部の医療機関で2011〜2014年に生まれた子どもを調べた研究では、自閉スペクトラム症の発生率は、妊娠中にTdap(破傷風・ジフテリア・百日せきの混合ワクチン)を受けた母親の子どもで1,000人年あたり3.78、受けなかった母親の子どもで4.05でした。補正後のハザード比は0.85(95%信頼区間0.77〜0.95)で、自閉症が増えるという結果ではありませんでした[17]。

新型コロナワクチン

妊娠中に新型コロナワクチンを受けた母親の子どもについては、米国の研究で、生後12か月と18か月の発達の質問票(ASQ-3)の結果に、受けなかった母親の子どもとの差は見られませんでした[18]。この研究は発達のスクリーニング(ふるい分け)を調べたもので、自閉症の診断そのものを調べたものではありません。

妊娠中の予防接種の時期と、NIPT(新型出生前診断)の採血日との関係についてはインフルエンザワクチン接種後のNIPT、妊娠中のRSウイルスワクチンについては妊婦はRSウイルス予防接種を受けたほうがよい?で解説しています。妊娠中のワクチンを受けるかどうかは、妊婦健診を受けている産婦人科で相談してください。

6. 2025年以降の米国の動き(事実の整理)

2025年以降、米国では政府の側から、ワクチンと自閉症の関係を見直す発表が続いています。日本でも報道されているため、公的機関が出した文書にもとづいて、何が起きたのかを日付順に整理します(2026年11月時点)。

🗓️ 米国の主な動き(公的機関の文書より)

時期 内容
2025年6月 米国保健福祉省(HHS)が、予防接種の方針を話し合う諮問委員会(ACIP)の委員17人全員を交代させた[19]
2025年7月 HHSが、子ども・妊婦・大人にはチメロサールを含まない1回分のインフルエンザワクチンだけを使うという勧告を採用した[20]
2025年9月 HHSとホワイトハウスが自閉症についての発表を行い、妊娠中のアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)の添付文書の見直しなどを示した。この発表文書にワクチンについての記載はない[21]
2025年11月 CDCが「自閉症とワクチン」のページを書き換え、「ワクチンは自閉症を起こさない」という主張は根拠にもとづくものではない、という内容にした[22]
2025年11月 米国小児科学会(AAP)が「ワクチンと自閉症に関連はない」とする声明を出し、医学会・患者団体など46団体も同じ内容の共同声明を出した[23][24]
2026年8月 大統領令14420号に署名。すべての子どもに勧める予防接種の対象を見直し、MMRワクチンは、麻しん・おたふくかぜ・風しんそれぞれの単独ワクチンが国内で使えるようになれば、3種類を別々に接種する方針などを示した。大統領令の本文に自閉症についての記載はない[25]

CDCの書き換えについて補足すると、CDCのページは、2012年のIOMの報告書の「証拠は因果関係を受け入れるにも否定するにも不十分」という一文を根拠として挙げています[22]。一方で同じ報告書は、MMRワクチンと自閉症については質の高い疫学研究にもとづいて因果関係を「否定する方向」と判定しています[4]。

大統領令で示された「MMRを3種類の単独ワクチンとして別々に接種する」方針について、米国食品医薬品局(FDA)の承認済みワクチンの一覧には、2026年10月時点で、麻しん・おたふくかぜ・風しんのそれぞれ単独のワクチンは載っていません[26]。

これらは米国の制度の話で、日本の予防接種のスケジュールは、日本の定期接種の制度にもとづいて決められています。お子さんの予防接種について迷うときは、かかりつけの小児科に相談してください。

7. 自閉症の原因としてわかっていること:遺伝の要因

自閉症へのなりやすさには、遺伝の要因が大きく関わっています。自閉症の原因の多くは生まれつきの体質(遺伝子の働き)にあり、ワクチンや子育てのしかたが原因ではありません。

遺伝率は約80〜83%と推定されている

スウェーデンで1982〜2006年に生まれた双子・兄弟姉妹・異母(異父)兄弟姉妹の組み合わせを調べた研究では、自閉スペクトラム症の遺伝率(なりやすさの個人差のうち、遺伝の違いで説明できる割合)は0.83(95%信頼区間0.79〜0.87)と推定されました[27]。デンマーク・フィンランド・スウェーデン・イスラエル・西オーストラリアの約200万人を調べた研究でも、遺伝率の中央値は80.8%でした[28]。

遺伝率は「親から子どもに80%の確率で遺伝する」という意味ではありません。集団の中で、なりやすさの違いがどのくらい遺伝の違いで説明できるかを表す数字です。家族の中で自閉症が伝わる確率については自閉症が親から遺伝する確率、父親・母親それぞれからの伝わり方は自閉症は父親から遺伝する?と自閉症は母親から遺伝する?で解説しています。

自閉症が増えているように見える理由

CDCの調査では、2022年のデータで米国の8歳の子どもの31人に1人(1,000人あたり32.2人)が自閉スペクトラム症と判定されています[29]。2016年のデータでは54人に1人(1,000人あたり18.5人)でした[30]。同じ調査の中でも、地域によって割合は1,000人あたり9.7〜53.1人と大きく違います[29]。数字が増えていることだけから、ワクチンなど特定の原因を結論づけることはできません。日本でMMRワクチンをやめたあとも自閉症が増えていたこと(第2章)も、その例です。

一部の原因は遺伝子検査で調べられる

自閉症の原因になる遺伝子の変化には、1つの遺伝子の変化(単一遺伝子の変化)と、染色体の一部が欠けたり増えたりする変化(微細な欠失・重複)があります。発達の遅れや先天異常のある方を染色体マイクロアレイ検査で調べると、約15〜20%に微細な欠失・重複が見つかると報告されています[31]。脆弱X症候群(FMR1遺伝子の変化による病気)のように、自閉症の特徴を伴うことがある遺伝性の病気もあります(脆弱X症候群とは)。どのような遺伝子が関わっているかは自閉症に関わる遺伝子とはで解説しています。

当院の自閉症の遺伝子検査は、自閉症との関連が報告されている122の遺伝子をまとめて調べるパネル検査です。自閉症そのものを診断する検査ではなく、原因を調べるための検査で、検査の前に遺伝カウンセリングで調べられる範囲と限界を説明し、結果は臨床遺伝専門医が説明します。知的障害・発達障害の原因を調べる発達障害・知的障害の遺伝子検査もあります。自閉症の診断や療育は、小児科・児童精神科・発達外来などの専門医が行います。

妊娠中に調べられる原因(NIPT)

自閉症・発達障害の原因の一部は、妊娠中のNIPTで調べられます。当院のNIPTでは、22q11.2欠失症候群はスタンダードプランを含むすべてのプランで、16p11.2欠失・重複は双子マックスプランとインペリアルプランで、フェラン・マクダーミッド症候群はインペリアルプランで、レット症候群はダイヤモンドプランとインペリアルプランで調べられます。調べられるのは原因の一部で、陰性だったからといって、自閉症や発達障害の可能性がなくなるわけではありません。陽性の場合は、確定検査(絨毛検査は妊娠11〜13週、羊水検査は妊娠15週以降)で確かめます。当院では確定検査まで院内で受けられ、主要な項目は3日以内、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。

東京・北青山の当院で受けられる検査の範囲は東京のNIPT(新型出生前診断)のページに、自閉症とNIPTの詳しい関係は一部の自閉症・発達障害の原因はNIPTでわかるにまとめています。NIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。

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発達障害は妊娠中にわかる?

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【原因を知ることは、自分を責めないためにある】

お子さんに自閉症の特徴があるとわかったとき、「あのときワクチンを受けさせなければ」「育て方が悪かったのでは」と考えてしまうことがあります。けれども研究の答えは、ワクチンでも育て方でもなく、多くは生まれつきの遺伝の要因だというものです。

遺伝の要因というと、今度は「自分の遺伝子のせいで」と考えてしまう方もいます。遺伝子の変化は誰もが持っているもので、親が選べるものでも、防げたものでもありません。原因を知ることの意味は、誰かを責めることではなく、正確な情報をもとに次のお子さんのことやご家族のことを考える材料にすることだと考えています。

8. 予防接種で迷ったときは

予防接種を受けるかどうか、いつ受けるかで迷ったときは、かかりつけの小児科に相談してください。ワクチンの副反応(接種した場所の腫れや発熱など)や、体質・持病がある場合の接種の判断は、お子さんを診ている小児科医が答えられることです。

一方、「家族に自閉症の人がいて、次の子どもにも同じ特徴が出るか心配」「自閉症の原因を調べたい」という悩みは、ワクチンではなく遺伝の問題で、遺伝カウンセリングで扱う内容です。遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医が家族の状況を聞き取り、遺伝子検査で何がわかり何がわからないか、結果が家族にとって何を意味するかを説明します。当院の遺伝子検査・遺伝カウンセリングは自費診療です。

⚠️ 注意:予防接種を見送る前に

ワクチンを受けないことで自閉症を防げるという根拠はありません。予防接種を見送ると、麻しん(はしか)や百日せきなどの感染症にかかる危険が残ります。接種のスケジュールを変えたいときは、自己判断で中止せず、かかりつけの小児科と相談してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. ワクチンで自閉症になりますか?

なりません。約125万人の子どもを含む研究をまとめたメタ解析や、デンマークで657,461人を追跡した研究で、ワクチンと自閉症の関連は見つかっていません。

Q2. MMRワクチンと自閉症は関係がありますか?

関係は見つかっていません。デンマークの研究では、MMRワクチンを受けた子どもの自閉症のハザード比は0.93で、きょうだいに自閉症がいる子どもでも増えていませんでした。日本ではMMRワクチンを1993年に中止しましたが、その後も自閉症は増えていました。

Q3. ワクチンに含まれる水銀(チメロサール)は自閉症の原因になりますか?

原因になるという結果は出ていません。チメロサールは念のための措置として米国の子ども用ワクチンから除かれましたが、研究ではチメロサールを含むワクチンと自閉症の関連は見つかっていません。

Q4. 妊娠中にインフルエンザワクチンを打つと、子どもが自閉症になりますか?

自閉症が増えるという結果は出ていません。米国で約20万人の子どもを調べた研究では、妊娠初期の接種でわずかな差が見られましたが、多くの比較を同時に行ったことを補正すると統計的な意味はありませんでした。百日せきを含むワクチン(Tdap)でも増加は見られていません。

Q5. アメリカのCDCがワクチンと自閉症の関係を認めたのですか?

2025年11月にCDCは「ワクチンは自閉症を起こさない」という記述を書き換えました。一方で、米国小児科学会や46の医学会・団体は、ワクチンと自閉症に関連はないとする声明を出しています。

Q6. 自閉症の原因は何ですか?遺伝子検査でわかりますか?

自閉症へのなりやすさの約80〜83%は遺伝の要因で説明できると推定されています。原因の一部は、染色体マイクロアレイ検査や自閉症の遺伝子パネル検査などで調べられますが、すべての原因がわかるわけではありません。

Q7. 予防接種を受けるか迷ったら、どこに相談すればよいですか?

予防接種を受けるかどうかや時期、副反応の心配は、かかりつけの小児科に相談してください。家族の中での自閉症の遺伝や、原因を調べる検査については、遺伝カウンセリングで臨床遺伝専門医に相談できます。

まとめ

ワクチンが自閉症(自閉スペクトラム症)や発達障害の原因になるという説は、1998年の12人の子どもについての論文から広まりましたが、この論文は2010年に撤回されています[7]。その後の大規模な研究では、MMRワクチン、チメロサール、アルミニウム、接種の数、妊娠中のワクチンのいずれについても、自閉症との関連は見つかっていません[1][2][14][16]。日本でMMRワクチンをやめたあとも、自閉症は増え続けていました[10]。

2025年以降、米国では政府がワクチンと自閉症の関係を見直す発表を出していますが、米国小児科学会などの医学会は「関連はない」とする見解を出しています[23]。自閉症へのなりやすさには遺伝の要因が大きく関わっていて[27]、ワクチンや子育てのせいではありません。予防接種の相談はかかりつけの小児科へ、自閉症の原因や家族への遺伝が気になる場合は、遺伝カウンセリングで臨床遺伝専門医に相談できます。

🧬 自閉症の原因・遺伝について臨床遺伝専門医が説明します

ミネルバクリニック(東京・北青山)では、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、自閉症・発達障害の遺伝子検査や、妊娠中に調べられる原因(NIPT)について、調べられる範囲と限界をご説明します。家族の中での遺伝や、次のお子さんへの影響を考えるために、正確な検査と診断にもとづいて次の一歩を選んでください。

参考文献

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続け、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、検査結果の数値そのものだけでなく、「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、日本人として異文化の中で生活した経験があります。価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。この経験は現在の診療においても、「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、36週6日で一人を死産した経験があります。その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、家族の未来に関わる重要な意思決定です。年齢や統計だけで判断するのではなく、医学的根拠と心理的支援の両面から、ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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