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自閉症スペクトラム(ASD)の原因
自閉症スペクトラムの原因は、はっきりとはしていません。遺伝、生物学、環境のすべてが重要な要因です。遺伝子が9割とも言われています。
両親が高齢であること、難産であったこと、妊娠中の感染症などは、自閉症スペクトラムのリスクを高める要因の一つです。
また、男性は女性の4倍も自閉症スペクトラムが発現しやすいリスクを抱えています。他にも脆弱X症候群、結節性硬化症、ダウン症候群など、特定の遺伝性疾患を持つ人は自閉症スペクトラムになりやすいそうです。
以前は母親の愛情不足や家庭環境が原因と考えられていた時期がありましたけど、現在は否定されています。
自閉症スペクトラム(ASD)が起きる確率
2000年に、米国疾病予防管理センター(CDC)は、8歳の子供における自閉症スペクトラム(ASD)の有病率を推定するために、人口ベースの公衆衛生監視システムとして、自閉症および発達障害モニタリング(ADDM)ネットワークを設立しました。2014年と2016年に発表されたADDMレポートでは68人に約1人でしたが、2018年のレポートでは、59人に1人と発表しています。
CDCは、2010年に4歳の子供におけるASDの有病率に関するデータも公開しています。これらの子供では診断の有病率が低い(1.34%)で8歳の子供よりも約30%少ないと報告しました。子供の健康に関する全国調査(2011〜2012年)および、特別な医療が必要な子供の全国調査(2009〜2010年)では、親が診断を報告した年齢および親が報告した主観的重症度について分析されました。少数の子供は、3歳より前にASDを持っていると特定されており、6歳以降の診断は子供の3分の1から半分だったという結果を報告しています。診断時の遅い年齢は、報告された軽度の症状と関連しているケースが多かったそうです。
※参照サイト:アメリカ小児学会(リンク先は英語)/自閉症スペクトラム障害児の特定、評価、および管理
自閉症スペクトラムが親から子どもへ遺伝する確率は
自閉症スペクトラムが遺伝子による可能性があるので、親の遺伝子によって子どもが発現しやすくなる恐れはあります。ただし遺伝だけではなく、環境要因も関係しているため研究者の間でも意見が分かれています。
子宮内での母親の免疫反応への曝露や、出産時の合併症などの環境的な影響が、遺伝的要因と協力して自閉症を発症させると言われています。断言できるのは親の遺伝子が単純に子どもに遺伝して自閉症になるわけではありません。自閉症スペクトラムの遺伝子も存在しておらず、先述したように環境要因によっても変わってくるので遺伝する確率ははっきりとしていません。
兄弟が自閉症スペクトラムになる確率は
精神科医の服部陵子さんが2011年に出版した著書によると以下のように記載されています。
一卵性双生児のうちの1人が自閉症の場合に、もう1人も自閉症である割合は、報告によって差がありますが91~96%、二卵性では0~24%と、大きな開きがあります。兄弟姉妹では、1人が自閉症と診断された場合その兄弟姉妹が自閉症である割合は一般よりも高く、5~10%くらいと言われています。
(服部 陵子/著『Q&A家族のための自閉症ガイドブック―専門医による診断・特性理解・支援の相談室』明石書店,2011年/刊 P.19より引用)
一卵性双生児は同じ遺伝子を持っていることから高い確率だと言われていますけど、医学的にははっきりとはしていません。なぜなら遺伝要因と環境要因の相互影響説に根拠を与えている理由の一つで、遺伝子配列が一致しても100%発現するのではないこともわかっているからです。また、きょうだいに自閉症の人がいると発現率は高くなると言われていますけど、自閉症になるとは限りません。
きょうだいに自閉症スペクトラムの子どもがいても、本人は違っているケースはよくあります。反対にきょうだいが自閉症スペクトラムだから同じ疾患を引き起こすこともあるのです。つまり現時点では生まれてこないと自閉症スペクトラムなのか判断できません。
自閉症かどうか調べる方法
一般的な遺伝検査の方法は、小児科や小児精神科などで行うDSM-5による診断や染色体マイクロアレイ(CMA)です。医師や他の臨床医が子供と大人の精神障害を診断するために使用するマニュアルです。一貫性のある信頼できるデータを収集するための公衆衛生のガイドとしても使用できます。
マイクロアレイは、染色体を調べて、ASDの原因となりうる余分な部分や欠落している部分があるかどうかを調べるものです。この検査を受けたASDの人の5%から14%が、遺伝子が原因だと判明しています。ただし、両親から受け継いだ60億文字のDNAのうち、ほんのわずかしかカバーしていません。
2019年6月に臨床家と科学者のグループが、標準的な遺伝子検査をエクソームシーケンスという技術に移行するよう推奨をしました。その理由はマイクロアレイよりも技術力が高く、これまで見えなかった自閉症に関連する遺伝子変異を見つける確率が高いからです。将来的にはエクソームシーケンスが将来的には、標準的な検査として提供されるかもしれません。
また、アメリカの疾病管理予防センター(CDC)では、マイクロアレイ検査を受けた子どもが、以下の疾患を引き起こす可能性があるため遺伝子検査を受けるよう推奨しています
- ・脆弱性X症候群(fragile X syndrome)。この疾患は、知的障害の最も一般的な原因の一つです。脆弱性X症候群は、男性では約7,000人に1人、女性では約11,000人に1人が罹患していると言われています。ASDの約0.5%(200人に1人)の人が脆弱性X症候群を有しています。脆弱性X症候群の検査は、ASDを持つすべての人に推奨されています。
- ・レット症候群(外部サイト 主に女性が罹患する障害です。ASDの女性の約4%がレット症候群を有しています。ASDの女性には、レット症候群の検査を考慮する必要がある。
※参照サイト:疾病管理予防センター(リンク先は英語)/自閉症スペクトラム障害、家族の健康歴、および遺伝学
自閉症そのものが遺伝するわけではない
自閉症スペクトラム(ASD)の特徴として「こだわり」「マイペース」「話が通じにくい」「言葉の遅れ」の4つがあるとします。「こだわり」とつながる遺伝子が発見できれば原因がはっきりと断定できますが、そんな簡単に見つけられるわけではありません。しかも自閉症スペクトラム(ASD)は人それぞれ特徴が違っており、複数の特徴が伝わって発達障害の診断基準を満たすことがあります。
診断基準となるDSM-5でも複数の診断基準を持っており、いくつかのスクリーニングを経て判断しています。はっきりしているのは遺伝子が原因であっても、それだけで判断できないということです。医師は、当てはまる特徴や遺伝検査の結果を踏まえて診断しています。もしご自身やお子さまに、自閉症スペクトラム(ASD)の特徴がいくつか当てはまるのであれば、遺伝検査や医師の診察を受けてみるのがいいでしょう。