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自閉症の遺伝子検査で人生が変わることもある

自閉症の遺伝子検査で人生が変わることもある、それは事実です。遺伝子検査は必ず結果が出るわけではありませんが、遺伝子検査が提供する情報は、時として治療や予防の方針を変えることがあります。米国では自閉症と診断された3人に一人が遺伝子検査を受けています。

自閉症の遺伝子検査で治療選択肢がまったく変わったAくん

2000年代にA君が生まれてすぐに、彼の状態が良くないことが明らかになりました。新生児スクリーニング検査で問題があるとわかり、そのまま分娩室から新生児集中治療室NICUに送られました。医師は遺伝子疾患を疑っていましたが、15年近く前には検査技術がまだ発達していませんでした。

A君は割とすぐ退院できましたが、1歳半になってもハイハイができませんでした。医師や友人は「大丈夫」と言いました。専門家を受診しても、彼の他人を無視する傾向などは、聴覚障害のせいだと否定されつづけ、4歳になってようやく自閉症と診断されたそうです。

そしてAくん親子はついに知りたかった答えを手に入れました。Aくんが生れた時にはなかった遺伝子検査で、ある遺伝子の変異があることがわかったのです。この遺伝子変異は、Aくんの自閉症や知的障害などの原因になっていると考えられます。

長い間待ち望まれていた答えが得られたことで、Aくんのケアは大きく変わりました。もちろん、変異した遺伝子に対する根本的な治療は今のところのぞめませんが、例えば、足の骨が変形し、アーチがゆがみ、歩くのが困難になっていることに対して、医師は当初、手術を勧めていましたが、遺伝子検査の結果から骨の変形は神経の問題であり、手術をしても再発することが考えられたため、手術ではなく理学療法をすることになりました。

遺伝子検査は、自閉症の診断を目的としたものではありませんが、遺伝子検査の結果によって、治療や予防の方針が大きく変わることがあります。例えば、遺伝子変異の中には、発作や肥満、腎臓病などの病気になりやすいことがわかっているものもあります。また、突然変異に伴う具体的なリスクを知ることは、家族が子供を増やす際の判断材料にもなります。

米国では自閉症患者の3人に一人が遺伝子検査を受けている

自閉症のイメージ画像

米国では、自閉症の子どもの3人に1人が遺伝子検査を受けている、フランスや英国など、検査を受ける人の数が多い国もあるのですが、ほとんどの自閉症患者とその家族はそのような情報を得ることができていません。検査を受ける人の数が少ない国もあります。

しかし、検査によって得られた知識は、その人だけでなく、その変異を持つすべての人のケアに影響を与える可能性があります

米国小児科学会と米国医学遺伝学・ゲノム学会のガイドラインが浸透していない

自閉症の子供のために遺伝子検査を受けようとする家族には、いくつかの選択肢があります。American Academy of Pediatrics(米国小児科学会)とAmerican College of Medical Genetics and Genomics(米国医学遺伝学ゲノム学会)は、DNAの大きな重複や欠失を検出する技術である染色体マイクロアレイ分析を含む特定の検査を推奨しています。ガイドラインでは、これらの検査で結果が得られない場合(80〜85%)、自閉症の2つの症候群型の検査を行うように勧めています。

しかし、これらの検査について、ほとんどの人が耳にすることはありません。自閉症児を診ている臨床医は、この検査の利点を知らなかったり、トレーニング不足のために検査を依頼したがらなかったりすることが多くなっています。例えば、アメリカのユタ州の108人の小児科医を対象にした調査では、70%が自閉症の遺伝子検査を依頼したことがないか、専門家に勧められてから依頼したという結果が出ています。遺伝子検査の分野は非常に進化していて複雑なので、常に最新の情報を得る努力をする必要があります。

最終的には、遺伝子検査には、人々のゲノム全体の配列を調べることが必要になるかもしれません(whole genom)。一方、研究所を含む一部の高度なセンターでは、エクソーム(ゲノムの中のすべてのタンパク質をコードするセグメントの集合体)の配列を決定するツールを利用しています(whole exome)。この方法は費用がかかり、結果が膨大になるため、原因となる突然変異を特定するのが難しい場合があります。しかし、予想外の変異が見つかることもあります。

遺伝子変異のデータベース

特定の突然変異の重要性を調べたい臨床医が利用できるデータベースがあります。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)が運営する「ClinVar」や「ClinGen」は、既知の疾患を持つ人に見られる遺伝子や特定の変異をリストアップしています。例えば、ClinGenには、自閉症との関連が「決定的」な40の遺伝子が掲載されています。臨床医に対しては、ClinVarとClinGenの両方を検索すること、および対照群の大規模なデータベースを検索すること、また、その変異が関連するタンパク質を破壊する可能性があるかどうかを評価することが推奨されています。遺伝子検査の結果、「病原性」、「病原性の可能性が高い」、「重要性が不明」、「良性の可能性が高い」、「良性」という総合的なスコアが得られます。

詳しくはこちらのリンクからご覧ください。

たとえば、DLG4という遺伝子は「病原性」に格上げされました。より多くのデータを得ることで、私たち人類には多くのことがわかり、はっきりしていきます。
多くの自閉症患者とその家族にとって、この情報は、生涯にわたる不確実性からの強力な救いとなります。

まとめ

自閉症スペクトラム障害ASDの遺伝子検査の有用性(利益)はなんでしょうか?学習障害があり、学校で苦労し、その理由がわからず、親や教師からは怠け者で努力していないと思われ、親や教師からは不安障害があるとは思われず、関係のない身体的な医学的問題があると思われていた人たちにとって、この情報は個人的に大きな変化をもたらすものだと考えられます。幼少期にそのことに気づくことができれば、支援体制を構築できるため、それに越したことはないと考えられます。

遺伝子変異の影響については、気が重くなることもあるでしょう。しかし、症状の根源がわかり、将来の計画を立てることができるようになるでしょう。悲しみもありますが、最終的には受け入れることができるもので、知ることができたことに感謝するでしょう。

ミネルバクリニックでは、自閉症と診断された方や自閉症のお子さんが生れるのではないかとご心配の方々の自閉症遺伝子検査を行っています。検査によって、考えられる自閉症の原因や、将来起こりうる病状を把握することが可能です。自閉症に関連する遺伝子変異の中には、その他の重篤な疾患リスクに関わるものがあります。それらを把握することで、健康診断やスクリーニング検査で発病を予防し、備えることができます。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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