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ASD(自閉スペクトラム症)の人に仕事を教えるときは、あいまいな指示を具体的な言葉に言い換え、肯定文で、文字や図にして一つずつ伝えるのが基本です。ASDの人が「仕事ができない」「仕事が続かない」と言われてしまう背景には、能力や努力の不足ではなく、特性と職場のやり方が合っていないことがあります。この記事では、職場の上司・同僚が使える教え方と指示の出し方、本人ができる工夫、向いてる仕事の考え方、2016年4月から事業主の義務になった職場での合理的配慮と就労支援の相談先を、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧩 Q. ASDの人への仕事の教え方の基本は?
あいまいな指示を具体的に・肯定文で・文字や図にして伝えることです。「早めに」は「15時までに」、「走らないで」は「歩いてください」のように言い換えます。
🧩 Q. ASDの人が仕事ができない・続かないと言われるのはなぜ?
指示の意図をくみ取る、急な変更に合わせる、音や光の刺激に耐えるといった場面で、特性と職場のやり方が合わないことが主な理由です。本人の努力不足ではありません。
🧩 Q. ASDに向いてる仕事はある?
全員に向く職種はありません。職種名より、手順がはっきりしている・予定変更が少ない・刺激を調整できるといった職場の条件との相性で考えます。
🧩 Q. 職場で配慮を受けたいときは?
障害者雇用促進法で、発達障害を含む障害のある人への合理的配慮は2016年4月から事業主の義務です(手帳の有無は問われません)。雇用以外のサービス提供などでは、2024年4月から障害者差別解消法で事業者の義務になりました。
🧩 ASD(自閉スペクトラム症)と仕事の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名・略称 | 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)。以前のアスペルガー症候群・高機能自閉症などを含む |
| 特性の2つの領域 | ①社会的コミュニケーション・対人関係の困難 ②限られた興味やこだわり・感覚の過敏や鈍さ(DSM-5)[1] |
| 仕事で困りやすい場面 | あいまいな指示、急な予定変更、同時に複数の作業、騒がしい・まぶしい環境 |
| 教え方の基本 | 具体的に・肯定文で・文字や図にして・一つずつ |
| 職場の配慮 | 職場での合理的配慮は障害者雇用促進法で事業主の義務(2016年4月〜)[2]。雇用以外のサービス提供などでは、障害者差別解消法で事業者の義務(2024年4月〜)[3] |
| 主な相談先 | 発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワーク、就労移行支援事業所 |
1. ASD(自閉スペクトラム症)の人は仕事ができない?
ASDの人が仕事ができないわけではありません。指示の受け取り方や刺激の感じ方に特性があり、その特性と職場のやり方が合わないときに「仕事ができない」と見えてしまいます。同じ人でも、手順がはっきりした仕事や、自分のペースで集中できる環境では、高い正確さや粘り強さを発揮することがあります。
反対に、合わない職場で注意を受け続けると、「自分の努力が足りない」と自分を責め、気分の落ち込みや不安、不眠などの二次的な不調につながることがあります。まずは本人と周りの人が、どの場面でつまずきやすいのかを知ることが、働き続けるための出発点になります。
ASDとは:DSM-5の2つの特性
ASDは、米国精神医学会の診断基準DSM-5で、次の2つの領域の特性がそろい、日常生活や仕事に支障が出ている状態として診断されます[1]。以前は「社会性・コミュニケーション・想像力」の3つの障害(三つ組)として説明されることが多かったのですが、今の診断基準では、社会性とコミュニケーションを1つの領域にまとめ、2つの領域で整理しています。
1つ目は、社会的なコミュニケーションと対人関係の困難です。会話のやりとり、表情や身ぶりなど言葉以外の合図の読み取り、人間関係を作って保つことの難しさが含まれます。2つ目は、限られた興味・こだわり・くり返しの行動で、同じやり方へのこだわり、予定の変更への強い抵抗、特定の分野への強い関心、そして音・光・においなどへの感覚の過敏さや鈍さもこの領域に入ります[1]。
DSM-5では、特性が幼いころから見られることに加え、社会から求められることが本人の対応できる範囲を超えたときに初めてはっきりする場合や、身につけた工夫で目立たなくなっている場合もあると書かれています[1]。就職してから、学生時代には目立たなかった困りごとが表に出てくるのは、このためです。
💡 用語解説:スペクトラム(連続体)
「スペクトラム」は、はっきりした境目がなく連続しているという意味です。ASDの特性の強さや組み合わせは人によって大きく異なり、知的発達の遅れを伴う人もいれば、伴わない人もいます。そのため「ASDの人はこういう仕事が得意」とひとまとめにすることはできません。
仕事が続かない・覚えられないと言われやすい理由
ASDの人が仕事で困りやすいのは、多くの場合、特性そのものよりも「特性と職場のやり方のずれ」です。下の表は、特性ごとに職場で起こりやすいことと、周りができる工夫をまとめたものです。
🔍 ASDの特性と、職場で起こりやすいこと・工夫
| 特性 | 職場で起こりやすいこと | 周りができる工夫 |
|---|---|---|
| 言葉の裏の意図をくみ取りにくい | 「あれやっておいて」「適当にまとめて」で何をすればよいかわからず、手が止まる | 何を・いつまでに・どの形で、を言葉にして伝える |
| 見通しが立たないと不安になる | 急な予定変更や割り込みの仕事で混乱し、作業が止まる | 変更はできるだけ早く、理由と新しい手順をセットで伝える |
| 一度に複数の情報を処理しにくい | 口頭で続けて言われた指示の後半が抜ける、電話対応や複数人の打ち合わせが苦手 | 指示は一つずつ。メモやチャットなど文字でも残す |
| こだわり・完璧さを求める | 見直しに時間をかけすぎて締め切りに遅れる | 「ここまでできたら完成」という基準を先に決める |
| 一つのことに強く集中する(過集中) | 休憩を忘れて疲れ切る、ほかの仕事を忘れる | 作業時間と休憩をあらかじめ区切る |
| 感覚の過敏さ | 騒がしいフロア、まぶしい照明、においで疲れやすい | 席の位置、イヤーマフ、照明の調整などを相談する |
※特性の出方は人によって異なります。表は一般的な傾向で、すべての人に当てはまるわけではありません。
表の右の列を見るとわかるように、多くのつまずきは、伝え方や環境を少し変えることで小さくできます。本人を変えようとするより、「どう伝えれば伝わるか」を周りが工夫するほうが、職場全体の手間も結果として減ります。
2. ASDの人への仕事の教え方・指示の出し方
ASDの人への指示は、「具体的に」「肯定文で」「穏やかな口調で」「文字や図でも残す」の4つが基本です。どれも特別な技術ではなく、指示を受ける側が迷わずに動けるようにするための工夫です。ASDの診断がない新人さんにとっても、わかりやすい指示になります。
指示の出し方の基本:具体的に・肯定文で・穏やかに
具体的に伝える:ASDの人は、言われた言葉どおりに受け取りやすく、「早めに」「ちゃんと」「いい感じに」のような言葉から相手の期待を推し量るのが苦手なことがあります。「早めに」は「今日の15時までに」、「この仕事をやっておいて」は「来週の会議で使う資料を、このひな形でパワーポイント10枚以内にまとめておいて」のように、何を・いつまでに・どの形で、を言葉にします。
肯定文で伝える:「走らないで」と言われると、走ってはいけないことはわかっても、歩けばよいのか止まっていればよいのかで迷うことがあります。「歩いてください」と、してほしい行動をそのまま伝えるほうが確実です。否定文の注意が続くと、何が正解なのかわからないまま不安だけが残ります。
穏やかな口調で伝える:感覚の過敏さがある人では、大きな声や強い口調そのものが強い刺激になり、内容が頭に入らなくなることがあります。過去に厳しく叱られた経験を思い出して固まってしまう人もいます。急いでいるときほど、落ち着いた声で短く伝えるほうが、結果として早く伝わります。
文字や図でも残す:耳で聞いた情報を覚えておくのが苦手な人は少なくありません。口頭で伝えたあとに、要点をメモやチャット、手順書で渡しておくと、あとから見返して確認できます。手順書は文章だけでなく、写真や図を入れると伝わりやすくなります。
✍️ 指示の言い換え例
| 伝わりにくい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 「早めにお願い」 | 「今日の15時までにお願いします」 |
| 「この書類、いい感じにまとめておいて」 | 「この見本と同じ形で、A4・1枚にまとめてください」 |
| 「走らないで」 | 「歩いてください」 |
| 「わからなかったら聞いて」 | 「迷ったら、作業を止めて〇〇さんに聞いてください。〇〇さんがいなければ△△さんに聞いてください」 |
| 「ついでにあれもやっておいて」 | 「この作業が終わったら、次に□□をしてください。今日の仕事はこの2つです」 |
| 「前にも言ったよね」 | 「手順書の3番を一緒に確認しましょう」 |
仕事を教えるときの4つのコツ
指示の出し方に加えて、新しい仕事を教えるときは、次の4つを意識すると覚えやすくなります。
①目的と理由を伝える:手順を一つずつ覚えるだけでなく、「なぜこの順番なのか」「この作業は何のためか」を一緒に伝えると、全体の流れとして記憶に残りやすくなります。理由がわかっていると、少し状況が違うときにも応用がききます。
②正しいやり方を先に示す:「まず自分で考えてみて」と試行錯誤させる教え方は、ASDの人には負担が大きく、間違った手順をそのまま覚えてしまうこともあります。最初に「これが正しいやり方です」と正解を示し、慣れてから工夫の余地を広げるほうが確実です。
③手作業は横に並んで教える:向かい合って教えると、教える人の右手が相手から見て左側に来るため、頭の中で左右を置き換える必要が生じます。この置き換えが苦手な人もいるので、手作業は同じ方向を向いて横に並び、同じ動きを一緒にしながら教えます。
④起こりそうな例外を先に伝える:「雨の日はこうする」「この欄が空欄だったらこうする」「担当者がいないときは誰に聞く」など、想定できる例外は先に伝えておきます。臨機応変な判断を求められる場面がASDの人にとって負担になりやすいので、判断の道筋をあらかじめ用意しておくと混乱を防げます。
注意やフィードバックをするときも、「何がいけなかったか」だけで終わらせず、「次はこうしてください」と正しい行動を具体的に伝えます。人前で注意するより、静かな場所で短く伝えるほうが受け止めやすい人もいます。
🩺 院長コラム【「伝わらない」は相手の能力の問題ではない】
職場で「何度言ってもできない」と感じたとき、多くの場合、問題は伝え方の側にあると考えています。ASDの特性は、言葉の裏をくみ取る、急な変更に合わせるといった、多くの職場で暗黙のうちに求められている力と重なりやすいからです。
医学では、同じ病気の名前がついていても、どこにどんな困りごとが出るかは一人ひとり違うと考えます。ASDも同じで、「ASDだからこう」と決めつけず、その人がどの場面でつまずき、どう伝えれば動けるのかを一つずつ確かめていくことが、本人にも職場にとってもいちばんの近道だと考えています。
3. ASDの人が仕事を覚えやすくするための工夫
本人ができる工夫の基本は、自分の特性を知り、苦手な部分を道具や仕組みで補うことです。周りの配慮を待つだけでなく、自分から「こう伝えてもらえると助かります」と言えると、職場の工夫も進みやすくなります。
仕事をリストにする:その日の作業を紙やアプリに書き出し、終わったものに線を引きます。頭の中だけで管理しないことで、抜けや忘れを防げます。決まった作業は、手順と順番を書き出して手元に置き、同僚とも共有しておくと、自分のやり方を説明しやすくなります。
具体的な指示をお願いする:あいまいな指示を受けたら、「何部印刷して、何時に、どの会議室に持っていけばよいですか」のように、確認したい点を具体的に聞き返します。毎回聞くのが難しければ、「指示はメールやチャットでもらえると助かります」と最初に伝えておく方法もあります。
アラームで休憩を区切る:過集中があると、休憩を忘れて何時間も作業を続け、体調の変化に気づかないまま疲れ切ってしまうことがあります。スマートフォンやパソコンのアラームで作業時間と休憩時間を区切ると、体力を保ちやすくなります。
文字や図での説明を求める:耳からの情報が頭に残りにくい場合は、手順を文書や図でもらえるよう頼みます。文章だけだと同じ行を何度も読み返してしまう人は、図や写真入りの手順書のほうが早く理解できることがあります。
一人で抱え込まない:困っていることは、まず直属の上司に相談します。上司に話しにくい場合は、人事担当者や産業医、職場の外の支援機関(第5章)に相談する道もあります。ASDとADHDの特性が両方ある人も少なくないため、忘れ物や時間管理の苦手さが目立つ場合は、その面の工夫も合わせて考えます。仕事がうまくいかず発達障害を疑われた方がどのように相談を進めたかは、大人になって仕事がうまくいかず遺伝子検査を受けた事例で紹介しています。
4. ASDに向いてる仕事はある?職種より「職場の条件」で考える
ASDの人全員に向いている職種はありません。職種名よりも、仕事の進め方や環境がその人の特性と合っているかで考えるほうが、仕事は長続きしやすくなります。インターネットでは「プログラマー」「研究職」「工場のライン作業」などが向いてる仕事として並べられることがありますが、同じ職種でも、職場によって求められることは大きく違います。
たとえば同じプログラマーでも、仕様がはっきりしていて一人で集中できる職場もあれば、顧客との打ち合わせや急な仕様変更が多い職場もあります。前者は合っても、後者では強いストレスになることがあります。職種名で選ぶより、次のような「職場の条件」を一つずつ確かめるほうが、本人に合う仕事を見つけやすくなります。
🧭 仕事選びで確かめたい「職場の条件」
| 確かめたいこと | 合いやすい傾向 | 負担になりやすい傾向 |
|---|---|---|
| 手順・評価の基準 | 手順やゴールがはっきりしている、マニュアルがある | 「臨機応変に」「空気を読んで」が多い |
| 予定の変わりやすさ | 1日の流れがある程度決まっている | 急な割り込みや予定変更が多い |
| 同時に抱える仕事の数 | 一つずつ順番に進められる | 電話・来客・作業を同時にこなす |
| 人との関わり方 | やりとりが文字中心、相手が決まっている | 不特定多数との対面のやりとりが中心 |
| 感覚の刺激 | 静かな席、照明やにおいを調整できる | 騒がしい、まぶしい、においが強い |
| 得意を活かせるか | 正確さ・集中力・特定分野の知識が評価される | 速さや愛想のよさが主な評価になる |
※傾向は一般的な目安です。同じ条件でも人によって感じ方は違います。
また、「向いてる仕事がない」と感じている人の中には、仕事そのものではなく、職場の配慮がないことでつまずいている人もいます。仕事を変える前に、今の職場で配慮を相談できないかを考えることも一つの選択肢です(第5章)。自分の得意・苦手を整理したいときは、就労移行支援事業所や発達障害者支援センターで、専門の支援員と一緒に確かめる方法もあります。
診断を受けていないものの特性があるように感じる、いわゆる「グレーゾーン」の人でも、ここで紹介した仕事の条件の考え方や本人の工夫はそのまま使えます。大人になってからの受診や診断の流れについては、大人の発達障害(ASD・ADHD・LD)のチェックと相談先で詳しく解説しています。
5. 合理的配慮と就労支援の窓口(2026年10月時点)
職場で配慮を受けることは、本人のわがままではなく、法律で事業主・事業者に求められていることです。また、仕事探しから職場に慣れるまでを支える公的な窓口や制度も、いくつも用意されています。ここでは2026年10月時点の制度をまとめます。
合理的配慮とは:事業主の義務
合理的配慮とは、障害のある人が働くうえでの支障を取り除くために、職場が個別に行う調整のことです。障害者雇用促進法の改正により、2016年(平成28年)4月1日から、事業主には障害者への合理的配慮の提供が義務づけられています[2]。対象には発達障害を含む精神障害のある人が含まれ、障害者手帳の有無は問われません[2]。
配慮の内容は、本人からの申し出を受け、本人と話し合いながら決めます。事業主にとって「過重な負担」になる場合は提供義務の対象外となりますが、その判断は、事業への影響、実現の難しさ、費用、企業の規模や財務状況、公的支援の有無などを総合的に考えて個別に行い、別の方法をとる場合は本人に理由を説明する必要があります[2]。厚生労働省の資料では、知的障害のある人への例として、図などを使った業務マニュアルを作り、指示は内容を明確にして一つずつ行うことが挙げられています[2]。これは第2章で紹介した教え方と同じ考え方です。
さらに、改正障害者差別解消法が2024年(令和6年)4月1日に施行され、事業者による合理的配慮の提供が義務になりました[3]。こちらは、店舗や医療機関などで事業者がサービスを提供する場面などが対象です。雇用分野の具体的な措置は、障害者雇用促進法の定めによります。
相談先と支援制度の一覧
発達障害者支援法(2004年制定、2016年改正)は、国や都道府県に、ハローワークや障害者就業・生活支援センターなどと連携して、発達障害のある人の特性に応じた就労の機会の確保と職場への定着を支えるよう求めています[4]。主な窓口と制度は次のとおりです。
🏢 ASDの人の仕事に関する主な相談先・支援制度
| 窓口・制度 | 主な内容 |
|---|---|
| 発達障害者支援センター | 都道府県などが設置。発達障害のある本人・家族からの相談、情報提供、発達支援や就労支援などを行う[4] |
| ハローワーク | 職業相談や求人の紹介。障害者手帳を持つ人は障害者雇用枠の求人も選べる |
| 障害者就業・生活支援センター | 身近な地域で、就業面(職場実習のあっせん、職場定着支援など)と生活面(生活習慣、金銭管理など)を一体的に支援。2023年4月1日時点で全国337か所[6] |
| 就労移行支援 | 一般企業での就労を希望する人に、訓練・求職活動の支援・職場開拓・定着の相談を行う障害福祉サービス。標準利用期間は2年(必要に応じ最大1年更新)[5] |
| 就労定着支援 | 就労移行支援・就労継続支援・生活介護・自立訓練の利用を経て一般就労し、6か月を経過した人を対象に、生活面・仕事面の課題について相談や職場との連絡調整を行う。利用期間は3年[5] |
| ジョブコーチ(職場適応援助者) | 職場で本人の作業やコミュニケーションを支え、上司・同僚には関わり方や指導方法を助言する[7] |
※2026年10月時点で公的資料により確かめた内容です。利用の条件や手続きは自治体・窓口によって異なります。
英国の国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインの一般向け解説でも、仕事に就くことや続けることに困っている自閉スペクトラム症の大人には、仕事探しの準備から就職後の支援、雇用主への職場調整の助言までを行う「援助付き雇用」のプログラムが提案されることがあると説明されています[10]。日本の就労移行支援・就労定着支援やジョブコーチは、これに近い役割を担っています。
障害者手帳と障害者雇用枠
ASDなどの発達障害は、精神障害者保健福祉手帳の対象に含まれます[8]。等級は1〜3級で、申請時に初診から6か月以上たっていることが必要です[8]。手帳を持つと、税の控除、公共料金や交通機関の割引などのほか、障害者雇用枠での就職という選択肢が生まれます[8]。知的障害を伴う場合は、療育手帳の対象になることもあります。
民間企業の法定雇用率は2026年7月から2.7%(対象は従業員37.5人以上の企業)です[9]。手帳を取るかどうか、障害者雇用枠で働くかどうかは本人が選ぶことで、手帳を持っていても一般枠で働くことはできます。どちらが合うかは、主治医や支援機関と相談しながら決めます。
6. ASDは遺伝する?家族への遺伝が気になったとき
ASDには遺伝の影響が大きいことがわかっていますが、「親がASDなら子どももASDになる」という単純なものではありません。デンマーク・フィンランド・スウェーデン・イスラエル・西オーストラリアの約200万人(うちASDの診断を受けた人2万2,156人)を調べた研究では、ASDの遺伝率は中央値で80.8%(95%信頼区間73.2〜85.5%)と推定されました[11]。
ここで注意したいのは、遺伝率は「子どもに遺伝する確率」ではないという点です。遺伝率は、ある集団の中で見られる個人差のうち、どのくらいが遺伝の違いで説明できるかを示す数字です。遺伝率が約80%でも、ASDのある親の子どもの約80%がASDになるという意味ではありません。多くのASDは、たくさんの遺伝子のわずかな違いと環境の要因が重なって起こると考えられており、一方で、一つの遺伝子や染色体の一部の変化(欠失・重複)が原因になっている人もいます。どちらに当たるかで、家族への伝わり方の考え方が変わります。
家族に伝わる確率の具体的な数字や、父親・母親それぞれからの伝わり方については、自閉症(ASD)が親から遺伝する確率で詳しく解説しています。ADHDの特性もある人は、ADHDの遺伝もあわせてご覧ください。
ミネルバクリニックでは、ASDの診断・療育・薬の治療は行っていません。ASDの診断は、精神科・心療内科・児童精神科・発達外来などの専門医が行います。当院では遺伝の面から、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリング、自閉症の遺伝子パネル検査などの遺伝子検査、NIPT、保因者検査を行っています(いずれも自費診療)。オンラインの遺伝カウンセリングでは、料金を事前にお支払いいただきます。
これから妊娠・出産を考えている方には、東京のNIPT(新型出生前診断)で、22q11.2欠失症候群など、自閉症・発達障害・知的障害の原因の一部を妊娠中に調べられることもお伝えしています。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。ただし、NIPTでわかるのは原因の一部で、陰性でもすべての自閉症が否定されるわけではありません。陽性のときは確定検査で確かめる必要があり、当院では確定検査まで院内で受けられます。詳しくは一部の自閉症・発達障害の原因はNIPTでわかるをご覧ください。
🩺 院長コラム【遺伝を知ることは、責める材料ではない】
「自分がASDかもしれない」と気づいたとき、「子どもに遺伝させてしまうのでは」と不安になる方は少なくありません。けれども、遺伝の影響が大きいということは、誰かの育て方や努力の問題ではないということでもあると考えています。
遺伝カウンセリングでは、家族の中でどのように特性が見られるか、原因として一つの遺伝子や染色体の変化を考える必要があるかを整理し、そのうえで検査を受けるかどうかを本人が選べるようにすることを大切にしています。働き方の工夫と同じで、遺伝についても正確な情報があれば、次の一歩を自分で選ぶことができます。
よくある質問(FAQ)
Q1. ASDの人に仕事を教えるときのコツは?
仕事の目的と手順を、口頭だけでなく文字や図にして一つずつ伝えるのが基本です。手作業は向かい合わずに横に並んで実演し、雨の日や担当者が不在のときなど、起こりそうな例外も先に伝えておくと混乱が減ります。
Q2. ASDの人への指示の出し方で気をつけることは?
「早めに」「いい感じに」のようなあいまいな言葉を、「15時までに」「この見本と同じ形で」のように具体的な言葉に言い換えます。「〇〇しないで」ではなく「〇〇してください」と肯定文で伝え、大きな声や強い口調は避けます。
Q3. ASDに向いてる仕事はありますか?
ASDの人全員に向いている職種はありません。特性の出方は人によって大きく違うため、職種名よりも「手順や評価の基準がはっきりしている」「急な予定変更が少ない」「音や光などの刺激を調整できる」といった職場の条件との相性で考えるほうが、仕事は長続きしやすくなります。
Q4. ASDで仕事が続かないときはどこに相談すればよいですか?
都道府県などの発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワーク、就労移行支援事業所が主な相談先です。診断がまだの場合や二次的な不調がある場合は、精神科・心療内科など発達障害を診療している医療機関に相談します。
Q5. 職場で合理的配慮を受けるには障害者手帳が必要ですか?
障害者雇用促進法の合理的配慮は、発達障害を含む精神障害のある人が対象で、障害者手帳の有無は問われません。本人からの申し出をもとに、事業主と話し合って内容を決めます。
Q6. ASDの診断や治療はミネルバクリニックで受けられますか?
当院ではASDの診断・療育・薬の治療は行っていません。診断は精神科・心療内科・児童精神科・発達外来などの専門医が行います。当院では遺伝の面から、遺伝カウンセリング・遺伝子検査・NIPT・保因者検査を行っています。
まとめ

ASD(自閉スペクトラム症)の人が「仕事ができない」と言われる背景には、能力の不足ではなく、言葉の受け取り方や刺激の感じ方といった特性と、職場のやり方のずれがあります。仕事を教えるときは、あいまいな指示を具体的に、肯定文で、文字や図にして一つずつ伝え、目的と理由、正しいやり方、起こりそうな例外を先に示すことが基本です。
向いてる仕事は職種名で決まるものではなく、手順や予定の決まりやすさ、刺激の調整のしやすさなど、職場の条件との相性で考えます。困ったときは一人で抱え込まず、合理的配慮を相談したり(雇用分野では2016年4月から事業主の義務。雇用以外のサービス提供などでは2024年4月から事業者の義務)[2][3]、発達障害者支援センターや障害者就業・生活支援センター、就労移行支援などの窓口を利用したりできます。家族への遺伝が気になるときは、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングで、遺伝の考え方と検査の選択肢を整理できます。
🧬 ASDの遺伝について臨床遺伝専門医に相談したい方へ
ミネルバクリニック(東京・北青山)では、臨床遺伝専門医が常駐し、ASD・発達障害が家族に遺伝するかどうかの遺伝カウンセリング、自閉症の遺伝子パネル検査などの遺伝子検査、NIPT、保因者検査を行っています。全室個室で、90分の受診枠をほかの方と重ならないように取っています。検査を考える前に、検査で何がわかり、結果をどう受け止めればよいかを知りたい方は、遺伝カウンセリングとはや自閉症が親から遺伝する確率を先にご覧ください。
参考文献
- [1] Clinical Testing and Diagnosis for Autism Spectrum Disorder. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). [CDC]
- [2] 雇用の分野における障害者差別は禁止、合理的配慮の提供は義務です(障害者雇用促進法の改正・平成28年4月1日施行). 厚生労働省. [厚生労働省]
- [3] 令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました(改正障害者差別解消法). 内閣府. [内閣府]
- [4] 発達障害者支援法(平成16年法律第167号、最終改正 平成28年法律第64号). 法令本文. [法令]
- [5] 障害福祉サービスについて(就労移行支援・就労定着支援). 厚生労働省. [厚生労働省]
- [6] 障害者就業・生活支援センターについて. 厚生労働省. [厚生労働省]
- [7] 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について. 厚生労働省. [厚生労働省]
- [8] 精神障害者保健福祉手帳. 千葉市. [千葉市]
- [9] 令和8年7月1日から障がい者の法定雇用率が引き上げられます. 青森県. [青森県]
- [10] Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management (CG142). What care and support should I be offered for autism? National Institute for Health and Care Excellence (NICE). [NICE]
- [11] Bai D, et al. Association of Genetic and Environmental Factors With Autism in a 5-Country Cohort. JAMA Psychiatry. 2019;76(10):1035-1043. doi:10.1001/jamapsychiatry.2019.1411 [PMC6646998]






