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自閉症スペクトラム(自閉症)は仕事ができない?
自閉症スペクトラムや発達障害の方が一番悩んでいることが「仕事ができない」ということです。この悩みは根深く、仕事を辞めてしまう原因にもなってしまいます。
中には、仕事ができないのは自分の努力不足と捉えてしまい二次障害を患うケースも珍しくありません。
しかしながら自閉スペクトラム症や発達障害は脳の機能的な偏りから生じる症状ですので、努力だけではどうにもならない面があります。本人や周りの人が自閉症スペクトラムや発達障害について正しく理解することで防げる面もあるので先ずは症状について知ることから始めてみてください。
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)とは、社会性・コミュニケーション・想像力の3つの機能に障害が生じる、発達障害の一種です。具体的には、以下のような困難を抱えやすいと言われています。
- 職場の状況や上下関係に無頓着で、TPOに合った行動ができない
- 質問の意図や発言の狙いを察することができない
- 身振りの意味を理解できない
従って指示を適切に受け取ることが難しいため「仕事ができない」と判断されがちです。意思疎通が難しいという短所が目立たない仕事を選ぶのがいいかもしれません。
仕事が続かない理由
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の方が仕事長く続けられない理由の多くは周りとのコミュニケーションが上手くいかない点が挙げられます。人の気持ちを察することが苦手で、言われたことを文字通り受け取ってしまい悩んでしまうことがあります。また、目を合わせたり、微笑んだり、豊かな表情を作ったりするのが苦手なので周りから「何を考えているのかわからない」と思われがちです。
・疲れやすい、集中力の維持が難しい、一度に多くの事を言われると混乱する。(女性)
・耳で聞いたことをすぐに理解できない(そのため、音声のみのやりとりとなる電話応対や複数人での打ち合わせが苦手)。(男性)
といったことが重なって仕事をしまいます。また曖昧な指示を出されると混乱してしまう傾向があります。
・曖昧な指示が理解できない(特に、人によってやり方の違う作業や、そのときによって柔軟に対応しなければいけない作業)。(女性)
・指示が曖昧な言い方だとなかなか理解するのに苦しく、先輩などに質問も難しくて無駄な時間を過ごしてしまう。質問した方が良いのは分かっているがそれができないで困ってしまう。(男性)
「あれやっておいて」「この仕事を終わらせておいて」という指示ではどうしたらいいのかわからずに困ってしまいます。確認したり、分からない気持ちを表現したりすることができずに、職場の中で孤立してしまい退職してしまうのです。
他にも「こだわりが強い」という特性があるので、気をつけないと見直し作業に必要以上に時間がかかってしまいます。過集中といった症状もあり、周りが見えなくなってしまうケースもあります。
自閉症スペクトラム(自閉症)の人へおすすめの仕事
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の方の特性は以下の通りです。
- ・他人とコミュニケーションを取るのが苦手
- ・社会的な通念や空気感、表情から読み取ることが苦手
- ・こだわりが強い
向いている仕事はこれらの特性を活かしたものを選ぶのがいいでしょう。つまり「他人と多くコミュニケーションを取る必要のない仕事」になります。
また自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の人は、1つの物事に抜群の集中力を発揮できる特性があるのでプログラマーや研究職が向いているといえるでしょう。デスクワーク以外なら同じことをコツコツと続ける工場のライン作業も向いている職業です。
他にも「興味がある分野に関しては、粘り強くとことんまで追求する」という特性を活かせる職業としてデザイナー、エンジニア、エンジニアアナリスト、校正、校閲の仕事が向いています。
自閉症スペクトラム(自閉症)への仕事の教え方
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)や発達障害(ADHD)の方が能力を発揮するためには周りの人の協力が欠かせません。彼らの特性を理解して、仕事を教えてあげることが第一歩です。
指示を出す際に注意してほしい点が以下の三つです。
- ・「穏やかな口調で」を忘れずに
- ・「肯定文で」指示すると理解しやすい
- ・「分かりやすく具体的な説明」で指示を出そう
自閉症スペクトラム(ASD)の人は、感覚過敏だったり、精神障害を併発していたりする可能性があります。そのため大きな声に恐怖を感じる人や強い口調・厳しい口調で指示を出すと恐怖心で言われたことが頭に入らなくなります。特に自閉スペクトラム症(ASD)だと、過去のことを思い出して動けなくなるかもしれません。ですので、指示を出すときは穏やかな口調を心がけてください。
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の人は発達障害のある方は、話し手の意図や言われたこと以上の意味を推測するのが苦手です。例えば、「走らないで」と言われると走ってはいけないのはわかっていても歩いていいのか、止まっていないといけないのかわからずに混乱してしまいます。そこで否定文ではなく「歩いてください」と肯定的で具体性のある指示を出してあげるといいでしょう。内容を明確に伝え、嫌な感情を引き起こさないためにも、否定文ではなく肯定文で指示を出すのがポイントです。
そして自閉症スペクトラムや発達障害の方は、障害のない方のような柔軟な対応や推測するのが難しい特性です。曖昧な指示がわからないのはこの特性があるからです。対応する側としては「早く」を「何時まで」と言い換えたり、「これをやっておいて」を「会議のプレゼンで使用する資料をパワーポイントで作っておいて」とより具体的に指示を出すようにしましょう。
仕事を教えるときにもポイントがあります。それは以下の4つです。
◯作業工程の意味を伝える:仕事の一連の流れを説明する際には、一つひとつの工程に対して、なぜやるのか?の理由・意味を合わせて伝えるとよいでしょう。例えば、「Aの部材はこのタイミングで必ず引き出しにしまってください。なぜならそのあとの工程で、Aが落下してケガをした人が以前にいたからです」などです。具体的な理由を伝えることで、一連の流れとして、作業工程の記憶をより定着することが期待できます。
◯正しいやり方をシンプルに伝える:「〇〇はしないでください」といった否定形をつかった逆説的な業務指導ではなく、明瞭に「〇〇をしてください、これが正しいやり方です」と明確に”正解”を伝えてください。人によって「考える力を身に着けるため」などの理由で正しいやり方をすぐに伝えないタイプの方がいると思いますが、ASDタイプの方にはそのような指導方法は不向きな場合が多いです。
◯手作業は横並びになって教える:封入作業や各種手作業など「身体を使った作業」を教える場合には、「対に向かい合う」のではなく、「横並びで同じ方向を向いて」作業説明を行ってください。頭の中で立場を置き換えて理解することが苦手な方が多いため、視覚的に左右が反転すると理解がより困難になるためです。まずは二人羽織のように「まず右手を上げて」、「次に左手を上げて」など、指導員とご本人が同じ方向を向いて、同じ行動をするように伝えていくと、より作業がスムーズに習得できるでしょう。
◯イレギュラーを事前に伝える:想定しうる「イレギュラー」は可能な範囲で事前に伝えておきましょう。例えば「雨の日はこうしてください」や「質問したいときに私がいなかったら〇〇さんに聞いてください」などです。想定外の状況を臨機応変に対応することが苦手な方が多いので、「想定できる範囲でのイレギュラー」を事前に伝えておくだけでも、実際に業務を進めている際の混乱を未然に防ぐごとができます。
(「Q&A「自閉症スペクトラム(ASD)の方に仕事を教えるコツを教えてください」より引用)
自閉症スペクトラム(自閉症)の人が仕事を覚えるための工夫
大前提として自閉スペクトラム症や発達障害の方はご自分の特性を理解することです。その上で、自分でもできる工夫をするようにしましょう。
・徹底的にリスト化する
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の人や発達障害(ADHD)の人は、タスクを紙に書きだして、完了したら、線を引いて消す習慣をつけるようにしましょう。リスト化することでADHDの人は仕事忘れやミスを防ぎやすくなります。自閉スペクトラム症(自閉症・ASD)の人は、自分が落ちついて業務に取り組むための手順や順序などを紙に書き出し、同僚と共有するようにしましょう。
・具体的な指示をお願いする
仕事の指示を出す上司なども意識することですが、自閉スペクトラム症(自閉症・ASD)の人からも直接伝えるようにしましょう。「この資料を何部印刷して、何時何分に何階のA会議室に持ってきてください」とかなり具体的な指示を受けることで安心して仕事をすることができます。
・アラーム機能で休憩時間を作る
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の人が持つ特性の一つに過集中があります。一度集中してしまうと何時間もぶっ続けで作業をしてしまう特性です。同時に体調の変化に気づきにくいため倒れるまでぶっ続けて仕事をしてしまいがちです。それでは身体の健康を維持できませんので適度に休憩を取るようにしましょう。
・文字や図を用いた説明を求める
自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の人には文字や音声情報だと理解しづらい傾向を持つ人が多くいます。そのため指示を出すときに文書で出してあげると理解しやすくなります。
ただし、文章のみだと同じ行を何度も読み返してしまうことがあるので図を入れるとより伝わりやすくなるので図を用いた説明を求める」といった対応は有効です。電子機器を使ってもらうようにお願いするのもいいかもしれません。
仕事をしやすくするためには職場の協力が必要です。ただ周りの人に頼るだけではなく自分でもできることがあります。お互いに協力をしてスムーズに仕事ができるようになるので、まずは直属の上司に相談をするのがいいでしょう。理解のない上司であれば、その上の上司に、その人にも理解がなければさらに上の上司に話すようにしてください。一人で抱え込むのだけは厳禁です。
中程度・重度の自閉症スペクトラム(自閉症)の人への社会支援
もし症状がひどくて働くのが困難であれば社会支援を受けるようにしましょう。2004年に発達障害者支援法という法律が定められており、自閉スペクトラム症や発達障害の人は社会的な支援を受けられます。
この法律の主な狙いは以下の三つです。
- ・発達障害者に対する障害の定義と発達障害への理解の促進
- ・発達障害者の自立・社会参加のための生活全般にわたる支援の促進
- ・発達障害者支援を担当する部局相互の緊密な連携の確保、関係機関との協力体制の整備
そのため法律では以下のことが定められています。
- ・発達障害の定義
- ・支援を行うにあたっての基本理念
- ・早期発見と早期の発達支援
- ・ライフステージに応じた切れ目のない支援
- ・国や地方公共団体、国民の責務
- ・具体的な支援制度(教育・就労・地域での生活支援・家族支援など)
- ・司法手続における配慮
- ・発達障害者支援センターの設置と運営
働きやすい職場探しのサポートもしてくれますし、症状が重ければ障害者手帳を申請して医療費の助成、所得税・住民税・自動車税の軽減、公共交通機関の割引などの福祉サービスが受けられます。
他にも「療育手帳」や「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けると公的支援が受けられる場合もあるので、お住まいの地域にある発達障害者支援センターに相談をしてください。
まとめ
ここまで自閉症スペクトラム(自閉症・ASD)の方が仕事を続けていくための工夫や向いている仕事について詳しく解説をしてきました。人それぞれ特性が違うので自分にはどんな特性があるのかを知ることからがスタートです。以前精神障害は心が弱い人がなると誤解をされてきましたが、現在では認識が変わっています。ご自分の特性を知って、働きやすい環境を作るためにも周りの人と協力していきましょう。
ただし、決して無理をしないでください。頑張り過ぎてしまうと症状が悪化する可能性があります。無理なく自分のできる範囲で進めていきましょう。
東京の「ミネルバクリニック」では遺伝子検査を実施しており、遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が在籍している医療機関です。もし遺伝子検査のことでご不明な点があれば遠慮なくミネルバクリニックまでご相談ください。