この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

ADULT症候群(先端皮膚爪涙腺歯症候群)の遺伝子検査は、手足の指の形・爪・歯・涙の通り道(涙管)・皮膚のそばかすなどに症状が出る病気の原因を、TP63とCDH3の2つの遺伝子で調べる検査です。裂手症や合指症、歯の数が少ない、生まれつき涙目が続く、といった症状を、それぞれ別の科で診てもらってきた方もいるかもしれません。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の歯や目の治療計画だけでなく、これからの妊娠・出産の計画や、ご家族の健康を考えるときにも、ずっと役に立つ情報になります。このページでは、ADULT症候群とEEC症候群など外胚葉異形成症との違い、遺伝する確率、検査でわかること・わからないこと、結果が出たあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. ADULT症候群の遺伝子検査で何がわかりますか?
ADULT症候群など、TP63遺伝子が原因の病気のグループ(EEC症候群・AEC症候群・裂手裂足症など)と、CDH3遺伝子が原因の病気(毛が少なく黄斑ジストロフィーを伴う病気)について、原因となる遺伝子の変化があるかを2遺伝子まとめて調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
裂手・合指など手足の指の形の変化、爪の形成異常、歯の数が少ない、生まれつきの涙目(涙管の閉鎖)、乳頭・乳房の低形成などがいくつか重なっている方、ご家族に同じ症状の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。TP63の変化が見つかれば、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。歯・目の治療計画やご家族の検査、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. ADULT症候群とは|裂手・爪・歯・涙管・そばかすが出る外胚葉異形成症の一つ
ADULT症候群は、TP63遺伝子の変化によって、手足の指・皮膚・爪・涙の通り道・歯などに生まれつきの症状が出る病気で、外胚葉異形成症の一つです。常染色体顕性(優性)遺伝の病気として、1993年に、4世代にわたる家系の報告として発表されました[2]。2001年には、原因がTP63遺伝子の変化であることが示されています[3]。
外胚葉異形成症とは、皮膚・毛・爪・歯・汗腺など、体のごく初期にできる外胚葉という組織からできる部分に、生まれつきの症状が出る病気の総称です。小児慢性特定疾病情報センターの解説では、毛髪・歯・爪・汗腺の形成不全を特徴とする遺伝性の病気で、症状は生涯続くものの進むものではないとされています(2026年10月時点で確認)。ADULT症候群は、この外胚葉の症状に加えて、手足の指の形の変化や涙管の閉鎖を伴うのが特徴です。
名前の由来と主な症状
ADULTは「大人」という意味ではなく、主な症状が出る5つの場所の英語の頭文字です。Acro(手足の先)、Dermato(皮膚)、Ungual(爪)、Lacrimal(涙の通り道)、Tooth(歯)をつなげています。日本語では「先端皮膚爪涙腺歯症候群」と訳されています。
🧬 ADULT症候群でみられる主な症状
※GeneReviewsのTP63関連疾患の章[1]による。すべての症状がそろうわけではなく、人によって組み合わせが違います。
同じ家族でも症状の重さが違う
ADULT症候群は、同じ遺伝子の変化をもつ家族の中でも、症状の出方や重さに大きな差があります。GeneReviewsは、TP63関連疾患では家族の中でも症状の幅が大きいこと、ADULT症候群では変化をもっていても症状の出ない人がいる(浸透率が100%ではない)ことが報告されている、としています[1]。実際、ADULT症候群のお子さんの原因の変化が、症状のないお父さんから受け継がれていた例が報告されています[3]。
そのため、ご家族の誰かが軽いそばかすや爪の変化だけで、病気とは気づかずに過ごしていることもあります。見た目だけで「家族には関係ない」と判断できないのは、この病気の大切な特徴です。
寿命・見通し
ADULT症候群の寿命について、はっきりした数字を示した資料はありません。GeneReviewsに書かれているADULT症候群の特徴は、手足の指・皮膚・爪・涙管・歯・乳房・毛・汗の症状で、命に関わる臓器の病気は挙げられていません[1]。一方で、涙目や目の炎症、歯の数が少ないことによる食事や見た目の悩み、手の使いにくさなどは、毎日の生活に関わります。それぞれの症状に合わせて、眼科・歯科・手の外科などで治療を続けることが、見通しを良くする手がかりになります。
なお、CDH3遺伝子による病気(第2章)では、目の網膜の中心(黄斑)が早い時期から傷んでいくことが報告されており[4]、ADULT症候群とは見張るべき点が違います。どちらの遺伝子の変化かを知ることが、見通しを考える出発点になります。
2. TP63が関わる病気のグループ|EEC症候群・AEC症候群・裂手裂足症との違い
TP63遺伝子の変化は、ADULT症候群のほかに、EEC症候群・AEC症候群・四肢乳房症候群・裂手裂足症4型などを起こし、症状は互いに重なり合います。どの病気になるかは、主にTP63のどの場所が変化しているかで違うと考えられています[1]。
TP63遺伝子は3番染色体(3q28)にあり、p63というたんぱく質の設計図です。p63は、ほかの遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする転写因子として働き、皮膚や手足、歯、涙の通り道などができるときに大切な役割をもっています。GeneReviewsによると、ADULT症候群の変化は、p63がDNAに結合する部分の特定のアミノ酸(アルギニン)が置き換わるものが典型的です。一方、AEC症候群の変化は、多くがSAMドメインという別の部分にあります[1]。
TP63が原因の病気の比べ方
🔍 TP63が関わる主な病気の違い
※GeneReviewsのTP63関連疾患の章[1]の表による。口唇口蓋裂の有無は見分ける手がかりの一つですが、症状だけでは区別しきれないことも多く、遺伝子検査で原因を確かめます。
ADULT症候群と四肢乳房症候群はよく似ていますが、ADULT症候群では皮膚・爪・毛・歯など外胚葉の症状がよりはっきりしているのが違いです。症状の重なりが大きいため、「ADULT症候群かEEC症候群か」を症状だけで決めきれないときにも、TP63の変化を確かめることは診断の助けになります。
CDH3が原因の病気:毛が少なく黄斑ジストロフィーを伴う型
CDH3遺伝子の変化は、ADULT症候群ではなく、毛が少ない症状と、目の網膜の中心(黄斑)が傷んでいく黄斑ジストロフィーを伴う病気を起こします。CDH3は16番染色体(16q22.1)にあり、細胞どうしをつなぐP-カドヘリンというたんぱく質の設計図です。
- ●若年性黄斑ジストロフィーを伴う先天性乏毛症(HJMD):常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、毛が少ない症状が先に出て、そのあと黄斑が進行して傷み、早い時期に視力が落ちると報告されています[4]。
- ●EEM症候群:外胚葉異形成(Ectodermal dysplasia)・裂手裂足(Ectrodactyly)・黄斑ジストロフィー(Macular dystrophy)の頭文字をとった病気で、CDH3の変化で起こることが示されています[5]。
HJMDとEEM症候群は、症状が連続した一続きの病気と考えられています。どちらの患者さんでも、合指が最もよくみられる手足の所見だったと報告されています[6]。指の形の変化と毛の少なさに加えて、視力の問題がある方では、CDH3も一緒に調べる意味があります。
似た症状の別の病気
涙・歯・指の症状が重なる病気は、ほかにもあります。たとえばLADD症候群1型・LADD症候群2型は、涙・唾液・歯・指に症状が出る病気で、原因の遺伝子はTP63・CDH3とは別です。また、手足の裂けたような形だけが目立つ場合は、裂手裂足奇形1型(SHFM1)のように、7番染色体など別の場所の変化が原因のこともあります。このページの2遺伝子では調べられない病気なので、症状に合わせて検査を選びます(第4章の表)。
3. 原因と遺伝のしかた|裂手症・外胚葉異形成症は遺伝する?確率は
遺伝する確率は、原因の遺伝子で変わります。TP63が原因なら、お子さん1人あたり2分の1の確率で変化が受け継がれます。CDH3が原因の病気(HJMD)は潜性遺伝で、ご両親がともに保因者なら、お子さん1人あたり4分の1です。裂手症・合指症・外胚葉異形成症という同じ症状名でも、原因が違えば遺伝のしかたも確率も違うので、原因を確かめることが大切です。
TP63:常染色体顕性(優性)遺伝。お子さんへは2分の1
TP63関連疾患は常染色体顕性(優性)遺伝で、変化をもつ方のお子さんは、1人ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎます[1]。性別には関係しません。上のお子さんが受け継いだかどうかで、下のお子さんの確率が変わることもありません。
一方で、ご両親から受け継がず、お子さんの代で新しく起きた変化(新生突然変異・de novo)で発症する方も多くいます。GeneReviewsでは、診断された方のうち親御さんも発症しているのは約30%、新しく起きた変化は約70%とされています。ただし、この数字はAEC症候群で示されたもので、ほかの型でも同じ傾向とされています。ADULT症候群だけの割合は示されていません[1]。
新しく起きた変化と考えられる場合でも、親御さんの卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)にだけ変化がある「性腺モザイク」の可能性が、少数の家族で報告されています[1]。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。GeneReviewsも、親御さんの検査をしないまま「家族歴がない」と言い切ることはできないとしています[1]。
CDH3:常染色体潜性(劣性)遺伝。ご両親とも保因者なら4分の1
CDH3による若年性黄斑ジストロフィーを伴う先天性乏毛症は、常染色体潜性(劣性)遺伝と報告されています[4]。対になった2本の遺伝子の両方に変化があると発症し、1本だけに変化がある方(保因者)は通常は症状が出ません。ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。顕性・潜性のしくみについては、別のページで詳しく解説しています。
なお、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の遺伝子一覧には、CDH3もTP63も入っていません(2026年10月時点で確認)。ご家族でCDH3の変化がわかっている場合のパートナーの検査は、遺伝カウンセリングでご相談ください。
「親が軽いから子どもも軽い」とは言えない理由
⚠️ 「自分が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
TP63関連疾患は、同じ家族の中でも症状の幅が大きい病気です[1]。親御さんがそばかすや爪の変化だけで気づいていなかったとしても、同じ変化を受け継いだお子さんに、手足の指の形の変化や涙管の閉鎖、歯の数の少なさがはっきり出ることがあります。反対に、お子さんが親御さんより軽いこともあります。症状の有無や重さだけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
お子さんの症状をきっかけに、ご自身も同じ変化をもっていたとわかり、自分を責めてしまう親御さんもいます。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。前もって知っておくことは、そのあとの選択肢を増やすことにつながります。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
手足の指・爪・歯・涙の通り道など、ADULT症候群の症状がいくつか重なっている方、ご家族に同じ症状の方がいる方に向く検査です。指は整形外科、歯は歯科、涙目は眼科と、別々に診てもらってきた症状が、実は一つの原因でつながっていることがあります。原因がわかれば、診断までの回り道を終えて、それぞれの科で何に気をつければよいかが見えてきます。
こんな症状・家族歴がある方
- ●裂手・裂足、合指症など、手足の指の形の変化がある方
- ●爪の形成異常がある方
- ●歯の数が少ない、円すい形の小さな歯がある方
- ●生まれつき涙目が続く、鼻涙管・涙管の閉鎖を指摘されたことがある方
- ●乳頭・乳房が小さい(低形成)と言われた方
- ●日光の当たる場所のそばかすが多い、髪が細い・眉毛やまつげが少ない、汗が少なく暑さに弱い方
- ●ADULT症候群・EEC症候群など、TP63が関わる病気のご家族がいる方
- ●毛が少ない症状と、黄斑の病気(視力の低下)が重なっている方(CDH3の病気を考える場合)
症状から、どの遺伝子検査を選ぶか
当院には、外胚葉(皮膚・毛・爪・歯・汗腺)の症状を調べる遺伝子検査がいくつかあります。とくに外胚葉異形成症の遺伝子検査(98遺伝子)には、このページの2遺伝子(TP63・CDH3)も両方入っており、検査費用も同じです。症状がTP63の病気のグループにはっきり当てはまるときはこの検査で調べる遺伝子をしぼり、症状が広い・病名をしぼれないときは98遺伝子の検査を選ぶ、という考え方で選びます。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※遺伝子の数と、TP63・CDH3が含まれるかは、それぞれの検査ページで確認(2026年10月時点)。どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。
この検査より別の検査が向いている場合
手足の裂けたような形だけがあり、爪・歯・涙・皮膚の症状がない場合は、TP63以外の原因も多いため、この検査だけでは足りないことがあります。染色体の一部が欠けたり重なったりする変化(裂手裂足奇形1型〔SHFM1〕など)は、遺伝子の文字を読むこの検査では見つけにくく、マイクロアレイ染色体検査のほうが向いていることがあります。また、発達の遅れや内臓の病気など、手足・外胚葉以外の症状も多く病気をしぼれない場合は、全エクソーム検査(WES)を考えます。
結婚・妊娠を考えている方へ
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。ご自身やご家族に裂手症や外胚葉異形成症の症状があって、「子どもに伝わるのでは」と悩む方もいるかもしれません。遺伝する確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたで違います(第3章)。原因がわかっていれば、ご自身が変化をもっているか、お子さんへの確率はどれくらいか、妊娠したときに何を調べられるかを、具体的に考えられるようになります。知ったうえで選べることがある、というのがこの検査の意味です。
5. 調べる2遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、TP63とCDH3の2つの遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを一度に調べます。TP63は顕性遺伝の病気のグループ、CDH3は潜性遺伝の病気と、遺伝のしかたが違う点に注意が必要です。
🧪 ADULT症候群の遺伝子検査で調べる2遺伝子
※対象遺伝子は当院の検査内容による。病名とMIM番号はNCBI Geneの登録、遺伝のしかたはGeneReviews[1]と文献[4][6]による。
TP63の分子のしくみや、早発卵巣不全を含めたTP63が関わる病気の全体像は、TP63遺伝子のページで詳しく解説しています。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、TP63とCDH3の遺伝子の文字(塩基)の小さな変化と、遺伝子のまとまった部分が欠けたり重なったりする変化です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●わかること:遺伝子のたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)と、その境目の近くの変化。1つの遺伝子まるごと、または2つ以上続いたエクソンの欠失・重複(血液の検体の場合)。
- ●見つけにくい変化:エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出の対象外です。
- ●調べていない変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、繰り返し配列が長くなる変化、遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)やエクソンから20塩基より離れた場所の変化は調べていません。
- ●体の一部の細胞だけの変化:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)や、がん細胞などの体細胞の変化を見つけるための検査ではありません。
- ●調べていない遺伝子:このページの2遺伝子以外が原因の病気(LADD症候群や裂手裂足奇形1型など)は調べていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の時点では判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない変化や、ほかの遺伝子が原因の可能性が残ります。
🔬 検査の技術的なくわしい説明(ひらく)
この検査は、次世代シーケンサー(NGS)という機械で、遺伝子の文字を同時にたくさん読む方法で行います。調べる部分の99%以上を、それぞれ20回以上読み取る設定(≥99% at 20x)です。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いと本当の変化を区別しやすくなります。
読み取りの質が十分でない変化や、決められた読み取りの基準に届かない部分は、サンガー法という別の方法で読み直して確かめます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。よく似た配列(偽遺伝子など)が近くにある場所では、読み取りが難しくなることがあります。欠失・重複を調べられる範囲は検体によって違い、1つの遺伝子まるごとの欠失・重複は血液と頬の粘膜の検体で、2つ以上続いたエクソンの欠失・重複は血液の検体でだけ調べられます。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の見方は遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。
陽性だったとき:診断の確定と、見張るべきこと
TP63またはCDH3に病気の原因となる変化が見つかった場合は、その変化の種類や接合状態、症状などを合わせて診断と遺伝のしかたを判断します。どちらの遺伝子のどんな変化かによって、気をつけることが違います。具体的にできることは、次の第8章でご説明します。
陰性だったとき
病気の原因となる変化が見つからなかった場合、TP63・CDH3による病気の可能性は低くなりますが、ゼロにはなりません(第6章)。症状に合わせて、外胚葉異形成症の遺伝子検査(98遺伝子)、マイクロアレイ染色体検査、全エクソーム検査などを考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、目・歯・皮膚・手のそれぞれで何に気をつけるか、ご家族が何を調べられるか、次のお子さんで何ができるかが、具体的に決まります。わかるだけで終わらせず、次の行動につなげることが、この検査のいちばんの目的です。
① ご本人(症状がある方):目・歯・皮膚・手のケア
- ●目(涙管):涙管の閉鎖や詰まりには、眼科の判断で、涙の通り道に細い器具を通す処置(プロービング)や手術を行うことがあります。目の乾きやまぶたの炎症には、目を潤す点眼薬などが使われます[1]。
- ●歯:GeneReviewsは、歯の数が少ない場合、子どもの時期には入れ歯を、10代から大人になるころにはインプラントを考える、としています[1]。原因がわかると、歯科で長い目で治療の計画を立てやすくなります。
- ●皮膚:日焼けを防ぎ、ADULT症候群のそばかすが増えるのを抑えるため、長い時間日光に当たらないことが勧められています[1]。
- ●汗・暑さ:汗が少なく暑さに弱いと感じる方では、暑い時期の過ごし方を工夫します。
- ●手足:指の形の変化は、手の外科・整形外科で、使いやすさを考えて治療するかどうかを相談します。
- ●CDH3の変化だった場合:黄斑が早い時期から進行して傷むことが報告されているため[4]、眼科で定期的に目を診てもらうことが大切です。
治療やケアは、それぞれの専門の医療機関(眼科・歯科・皮膚科・手の外科など)で受けていただきます。当院は治療を行う施設ではありませんが、遺伝子検査の結果を、受診先に伝えやすい形でご説明します。
② 症状が軽い・ないご本人(ご家族の結果をきっかけに受けた方)
TP63の変化をもっていても、症状がほとんどない方もいます[1]。症状がなくても、お子さんへは2分の1の確率で受け継がれ、お子さんの症状が同じ程度になるとは限りません。CDH3の変化を1本だけもつ保因者だった場合は、通常は症状が出ませんが、パートナーも同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの確率が変わります。
③ 子どもを持つときの選択肢
ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠中に赤ちゃんで同じ変化があるかを調べる出生前検査が可能とされています。GeneReviewsは、遺伝のリスクや検査を受けられるかについては、妊娠の前に話し合っておくのが望ましいとしています[1]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。(羊水検査・絨毛検査、2025年6月から産婦人科を併設)。この病気で出生前診断をどう進められるかは、症状の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(受精卵の段階で遺伝子の変化を調べる検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
出生前に何も調べずに出産することも、そのまま選べる大切な選択肢です。どの選択をされても、その選択を尊重します。
④ ご家族:同じ変化をピンポイントで調べられる
ご家族の中で原因の変化がわかると、ご両親・きょうだい・お子さん・いとこなどは、同じ場所を調べることで、変化を受け継いでいるかどうかを確かめられます。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行います。症状の軽い親御さんが、お子さんの結果をきっかけに、ご自身の歯や目の症状の原因を知ることもあります。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。ご家族の検査、パートナーの検査、妊娠したときの出生前診断の計画まで、当院で続けてご相談いただけます(遺伝カウンセリング料は第10章のとおり)。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
外胚葉異形成症のなかでは、無汗性外胚葉形成不全が、小児慢性特定疾病の「外胚葉形成不全」の大分類に対象疾病として掲載されています(2026年10月時点で確認)。これは主にEDA・EDAR・EDARADDという別の遺伝子による病気で、TP63・CDH3による病気とは原因が違います。
ADULT症候群など、そのほかの病気が医療費の助成の対象になるかは、それぞれの制度の対象疾病の一覧と認定の基準で決まります。指定難病(2026年4月時点で348疾病)や小児慢性特定疾病の対象かどうか、申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の提出血液・唾液など
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【別々の科の症状を、一つの原因でつなぐ】
ADULT症候群のような病気では、指の形は整形外科、歯は歯科、涙目は眼科と、症状ごとに別々の科で診てもらうことが多くなります。それぞれの治療はもちろん大切ですが、症状を一つの原因でつなげて考えると、何をいつ見張ればよいか、ご家族に何が関係するかが、ぐっと見えやすくなると考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
TP63が関わる病気は、同じ家族の中でも症状の重さに大きな差があります。だからこそ、「自分は軽いから」「家族に目立つ人はいないから」という見た目の印象だけで、将来を決めてしまわないでほしいと考えています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ADULT症候群とはどんな病気ですか?
TP63遺伝子の変化によって、手足の指の形の変化(合指・裂手など)、皮膚のそばかす、爪の形成異常、涙管の閉鎖、歯の数が少ないなどの症状が生まれつき出る病気で、外胚葉異形成症の一つです。名前は、症状が出る5つの場所(手足の先・皮膚・爪・涙の通り道・歯)の英語の頭文字に由来します。症状の組み合わせや重さは、同じ家族の中でも人によって違います。
Q2. 裂手症や合指症は遺伝しますか?お子さんに伝わる確率は?
原因によって違います。TP63が原因のADULT症候群やEEC症候群などは常染色体顕性(優性)遺伝で、変化をもつ方のお子さんへは1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。CDH3が原因の病気は潜性遺伝で、ご両親がともに保因者ならお子さんへは4分の1です。一方で、裂手だけの場合は染色体の変化など別の原因のこともあり、原因を確かめないと確率はわかりません。
Q3. 親の症状が軽くても、子どもが重くなることはありますか?
あります。TP63が関わる病気は、同じ家族の中でも症状の幅が大きく、変化をもっていても症状が出ない方もいると報告されています。親御さんがそばかすや爪の変化だけで気づいていなくても、お子さんに手足の指の形の変化や涙管の閉鎖がはっきり出ることがあります。症状の重さだけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
Q4. 外胚葉異形成症の遺伝子検査(98遺伝子)とどちらを受ければよいですか?
98遺伝子の外胚葉異形成症の遺伝子検査には、このページのTP63とCDH3も両方含まれており、検査費用も同じです。指の形・爪・歯・涙管の症状が重なり、TP63の病気がはっきり考えられるときはこの検査で調べる遺伝子をしぼり、汗・髪などの症状も多く病名をしぼれないときは98遺伝子の検査を選びます。どちらが合うかは、遺伝カウンセリングで症状をうかがって一緒に決めます。
Q5. 外胚葉異形成症・ADULT症候群は難病指定されていますか?
外胚葉異形成症のなかでは、無汗性外胚葉形成不全が小児慢性特定疾病の対象疾病に掲載されています(2026年10月時点)。ADULT症候群など、そのほかの病気が医療費の助成の対象になるかは、それぞれの制度の対象疾病の一覧と認定の基準で決まります。難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
Q6. ADULT症候群は寿命に影響しますか?
寿命について、はっきりした数字を示した資料はありません。遺伝性疾患の解説書(GeneReviews)に書かれているADULT症候群の特徴は、手足の指・皮膚・爪・涙管・歯・乳房・毛・汗の症状で、命に関わる臓器の病気は挙げられていません。涙目や歯の問題など毎日の生活に関わる症状は、眼科・歯科などで治療を続けることが大切です。
Q7. ADULT症候群は結婚に差し支えますか?
ADULT症候群があることで、結婚できない・すべきでないということはありません。お子さんに伝わる確率は原因の遺伝子と遺伝のしかたで決まり、遺伝子検査でご自身が変化をもっているか、お子さんへの確率がどれくらいかを知ることができます。原因がわかっていれば、妊娠したときの出生前診断など、知ったうえで選べることもあります。結婚や妊娠を考える段階から、遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
Q8. 陰性ならADULT症候群ではないということですか?
陰性でも、完全に否定することはできません。この検査で見つけにくいタイプの変化や、TP63・CDH3以外の遺伝子が原因の可能性が残ります。症状に合わせて、外胚葉異形成症の遺伝子検査(98遺伝子)、マイクロアレイ染色体検査、全エクソーム検査などを考えます。
Q9. 費用と結果までの日数は?
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。至急のオプション(55,000円)を付けると、結果までが約7日短くなります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ADULT症候群やTP63・CDH3が関わる病気の原因がわかれば、目・歯・皮膚の治療の計画だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が検査の前後の遺伝カウンセリングを行い、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Sutton VR, van Bokhoven H. TP63-Related Disorders. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2010 (Updated 2021 Apr 1). PMID: 20556892. [NCBI Bookshelf NBK43797]
- [2] Propping P, Zerres K. ADULT-syndrome: an autosomal-dominant disorder with pigment anomalies, ectrodactyly, nail dysplasia, and hypodontia. Am J Med Genet. 1993;45(5):642-648. [DOI: 10.1002/ajmg.1320450525]
- [3] Amiel J, Bougeard G, Francannet C, et al. TP63 gene mutation in ADULT syndrome. Eur J Hum Genet. 2001;9(8):642-645. [DOI: 10.1038/sj.ejhg.5200676]
- [4] Sprecher E, Bergman R, Richard G, et al. Hypotrichosis with juvenile macular dystrophy is caused by a mutation in CDH3, encoding P-cadherin. Nat Genet. 2001;29(2):134-136. [DOI: 10.1038/ng716]
- [5] Kjaer KW, Hansen L, Schwabe GC, et al. Distinct CDH3 mutations cause ectodermal dysplasia, ectrodactyly, macular dystrophy (EEM syndrome). J Med Genet. 2005;42(4):292-298. [DOI: 10.1136/jmg.2004.027821]
- [6] Basel-Vanagaite L, Pasmanik-Chor M, Lurie R, Yeheskel A, Kjaer KW. CDH3-related syndromes: report on a new mutation and overview of the genotype-phenotype correlations. Mol Syndromol. 2011;1(5):223-230. [DOI: 10.1159/000327156]
関連記事