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先天性乏毛症・縮毛症の遺伝子検査|LIPHなど13遺伝子で原因を調べる

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

先天性乏毛症・縮毛症の遺伝子検査

先天性乏毛症・縮毛症は、生まれつき髪が少ない、または強く縮れて伸びにくい状態が、毛髪だけに現れる遺伝性の病気です。日本人では、LIPHという遺伝子の決まった変化が原因の大部分を占めることがわかっています。このページの検査では、LIPHを含む13の原因遺伝子をまとめて調べます。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、お子さんの治療の選び方だけでなく、ご家族の検査や、これからの妊娠・出産の計画を考えるときにも、ずっと使える情報になります。症状・原因・遺伝のしかたと、検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. この検査で何がわかりますか?

生まれつき髪が少ない・縮れている原因が、LIPH・LPAR6・HRなど13の遺伝子のどれかの変化によるものかを調べます。日本人に多いLIPHの変化も含まれます。

🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?

生まれつき髪が少ない、縮れている、伸びにくいお子さんや大人の方で、歯・爪・汗には異常がない方。ご家族に同じ症状の方がいる方、結婚や妊娠を前に遺伝のしかたを知っておきたい方です。

🧬 Q. 費用・日数・検体は?

結果までは2〜3週間です(至急オプションで約7日短縮)。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。検査費用はお問い合わせください。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。

🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?

結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因の遺伝子がわかると、治療の選び方やご家族への遺伝の確率が具体的になります。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。

\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

1. 先天性乏毛症・縮毛症とは

先天性乏毛症(せんてんせいぼうもうしょう)は、生まれつき、または小さいころから髪や体毛が少ない状態です。先天性縮毛症(しゅくもうしょう)は、生まれつき髪が強く縮れている状態で、日本では両方が一緒にみられる「先天性縮毛症/乏毛症」が多く報告されています[1]。毛髪以外の体の働きに異常がないものを、医学的には「非症候群性乏毛症」と呼び、このページの検査はその原因を調べるものです。

症状:生まれつき縮れた毛・少ない毛

日本人の常染色体潜性(劣性)の縮毛症/乏毛症を調べた研究では、14家系のうち13人が生まれつき強く縮れた毛(縮毛)をもち、1人は生まれたときから髪がまったくない状態でした。縮毛は、成長とともに髪がまばらになることがあります[1]。原因の遺伝子によっては、子どものころから頭の毛や体毛、眉毛、まつ毛が少しずつ薄くなっていくタイプもあります[19][21]。

同じ病気でも、症状の重さには幅があります。上の日本の研究では、軽い乏毛症にとどまっていたのはLIPHの同じ変化を2つもつ方に限られ、髪がまったくない重い症状は別の変化をもつ1人だけでした。大人になって乏毛症が軽くなった方も報告されています[1]。

乏毛症・縮毛症・無毛症の違い

「乏毛症」は毛が少ないこと、「縮毛症」は毛が強く縮れていること、「無毛症」は毛がほとんど、またはまったくないことを指す言葉です。同じ遺伝子の変化でも、人によって縮毛が目立ったり、毛の少なさが目立ったり、ほとんど毛がない状態になったりします[1]。たとえばHR遺伝子では、生まれつき全身の毛がない状態(全身性脱毛症)の家系が報告されています[9]。名前の違いだけで原因を見分けることはできないため、遺伝子検査で原因を確かめる意味があります。

外胚葉異形成症など「症候群性」との違い

髪・歯・爪・汗腺は、どれも外胚葉という同じ組織からできます。そのため、髪の少なさに加えて、歯が少ない・爪の形が違う・汗をかきにくいといった症状が一緒にある場合は、無汗性外胚葉形成不全のような外胚葉異形成症(症候群性)を考えます。髪の症状だけなら、このページの非症候群性乏毛症の検査が向いています。

ただし、このページの13遺伝子の中にも、髪以外の症状を伴うことがあるものがあります。CDH3遺伝子は、髪の少なさに続いて黄斑(網膜の中心)が少しずつ傷み、若いうちに視力が大きく落ちる病気(若年性黄斑ジストロフィーを伴う乏毛症)の原因です[7]。手足の指の形の異常などを伴うEEM症候群の原因にもなります[8]。「髪だけの病気」と思っていても、原因の遺伝子によっては目の検査が必要になることも、遺伝子検査で原因を確かめる理由のひとつです。

よくある薄毛(AGA)との違い

大人になってから額の生え際や頭頂部から薄くなる男性型脱毛症(AGA)は、多くの遺伝子と環境が関わるもので、ひとつの遺伝子の変化で起こる先天性乏毛症とはしくみが違います。AGAと遺伝の関係は薄毛と遺伝のコラムで解説しています。生まれつき、または幼いころから髪が少ない・縮れている場合は、先天性乏毛症・縮毛症を考えます。

2. 原因遺伝子と遺伝のしかた

先天性乏毛症・縮毛症は、原因の遺伝子によって遺伝のしかたが違います。日本人に多いLIPHによるものは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。一方、APCDD1やKRT71などによるものは常染色体顕性(優性)遺伝で、確率は2分の1です。どちらに当たるかは、原因の遺伝子がわかってはじめて言えます。

日本人ではLIPH遺伝子の変化が多い

LIPH遺伝子は、毛を育てるはたらきをもつ脂質(リゾホスファチジン酸、LPA)を作る酵素の設計図です[2][3]。LPAを受け取る側の受容体の設計図がLPAR6遺伝子で、どちらに変化があっても毛の成長がうまくいかなくなります[4][5]。LIPHによるものとLPAR6によるものは、症状では見分けがつかないと報告されています[2]。

日本の研究では、縮毛症/乏毛症の14家系のうち13家系が、LIPHのc.736T>Aという同じ変化をもっていました。さらに、健康な日本人819人を調べると、この変化を1つもつ人(保因者)が1.6%、もうひとつの代表的な変化c.742C>Aを1つもつ人が0.24%いました[1]。昔の共通の祖先から受け継がれてきた変化(創始者変異)と考えられています[1]。症状がなくても、LIPHの変化を1つもっている日本人は決して珍しくないということです。

常染色体潜性(劣性)遺伝:ご両親がともに保因者なら4分の1

常染色体潜性(劣性)遺伝では、対になった2つの遺伝子の両方に変化があるときに発症します。変化を1つだけもつ人は「保因者」と呼ばれ、ふつうは症状がありません。ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人ごとに、発症する確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1です。両方の遺伝子に別々の変化をもつ「複合ヘテロ接合」でも発症します。仕組みは潜性遺伝と保因者のコラムで詳しく解説しています。

このページの13遺伝子のうち、LIPH・LPAR6・CDH3・DSG4・LSSが、常染色体潜性遺伝の原因として報告されています(遺伝子ごとの文献は第4章の表)。

常染色体顕性(優性)遺伝:お子さんへは2分の1

常染色体顕性(優性)遺伝では、2つの遺伝子のうち1つに変化があれば発症しうるため、親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。APCDD1・CDSN・KRT71・KRT74・RPL21・SNRPEが、常染色体顕性遺伝の原因として報告されています。

顕性遺伝の病気では、同じ変化をもっていても、症状の重さが人によって違うことがあります(表現型の多様性)。親御さんが「少し髪が薄い」程度で気づいていなくても、お子さんの症状が同じ程度になるとは限りません。

遺伝子によっては両方の遺伝のしかたがある(HR・KRT25)

HR遺伝子では、両方の遺伝子に変化があると生まれつき全身の毛がない状態(潜性遺伝)[9]、遺伝子の手前にある小さな読み枠の変化ではマリー・ウンナ型遺伝性乏毛症(顕性遺伝)[10]が起こります。KRT25遺伝子も、潜性遺伝の縮毛症[14]と、顕性遺伝の縮毛症/乏毛症[15]の両方が報告されています。同じ遺伝子でも、変化の種類によってお子さんへの確率が4分の1にも2分の1にもなるため、「どの遺伝子の、どんな変化か」まで確かめることが大切です。

3. どんな人がこの検査を受けるとよいか

生まれつき髪が少ない・縮れているお子さんや大人の方で、歯・爪・汗に異常がない方、ご家族に同じ症状の方がいる方、結婚や妊娠を考えている当事者・ご家族に向く検査です。見た目や家族歴だけでは原因の遺伝子も遺伝のしかたも決められないので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングでご相談ください。

生まれつき髪が少ない・縮れているお子さん・大人の方

次のような方は、この検査で原因がわかる可能性があります。

  • ●生まれたときから髪が強く縮れている、または髪が少ない
  • ●髪が数センチ程度しか伸びず、切れやすい
  • ●子どものころから、頭の毛・眉毛・まつ毛・体毛が少しずつ薄くなってきた
  • ●歯の数や形、爪、汗のかき方には異常を指摘されていない

原因の遺伝子がわかると、次の一手が決まります。LIPHやLPAR6が原因なら、毛を育てる経路の治療の研究(第7章)が手がかりになります。CDH3が原因なら、眼科で目の状態を確かめる必要があります[7]。名前がつくと、何を確かめ、何を選べばよいかが具体的になります。

ご家族に同じ症状の方がいる方

ご家族の誰かが先天性乏毛症・縮毛症とわかっている場合、ご自身が同じ変化をもっているか、保因者かどうかを知ることができます。潜性遺伝の病気では、症状のないきょうだいの3人に2人の割合で保因者の可能性があるとされ、結婚・妊娠を考えるときの大事な情報になります。ご家族の原因の遺伝子がすでにわかっていれば、その結果を遺伝カウンセリングにお持ちください。

結婚・妊娠を考えている当事者の方・きょうだいの方

結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。当事者の方にとっても、きょうだいに当事者がいる方にとっても、原因と遺伝のしかたがわかっていれば、パートナーの保因者検査を受けるかどうかなど、妊娠の前に選べることが増えます(第6章)。どの選択も、当院は尊重します。

この検査より別の検査が向いている場合

髪の症状だけなら、まずこの検査です。症状によっては、次の検査のほうが向いていることがあります。

🔍 症状に合わせた検査の選び方

こんなとき 向いている検査
髪だけが少ない・縮れている このページの検査(非症候群性乏毛症13遺伝子)
髪に加えて、歯・爪・汗にも症状がある 外胚葉異形成症・関連疾患NGS遺伝子検査パネル(98遺伝子。このページの13遺伝子もすべて含む)
髪以外にも多くの症状があり、病気をしぼれない 全エクソーム検査(WES)
大人になってから額や頭頂部が薄くなってきた 遺伝子検査より先に、皮膚科で薄毛の原因を確かめることをおすすめします

※外胚葉異形成症のパネル検査の遺伝子数は、当院の検査ページ(2026年10月時点)による。どの検査が合うかは、症状やご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めます。

\ 妊娠の前に知れば、選べることが増えます /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

ご夫婦とも保因者だった場合、妊娠したときの出生前診断(羊水検査・絨毛検査)のご相談まで、院内で続けて受けられます。

パートナーと受ける保因者検査(ブライダルチェック)を見る | どの検査がよいか迷う方へ

4. 調べる13遺伝子と、それぞれでわかる病気

この検査では、APCDD1・CDH3・CDSN・DSG4・HR・KRT25・KRT71・KRT74・LIPH・LPAR6・LSS・RPL21・SNRPEの13遺伝子を、次世代シークエンサーでまとめて調べます。遺伝子ごとに、関係する病気と遺伝のしかたが違います。

🧬 非症候群性乏毛症パネルで調べる13遺伝子

遺伝子 関係する病気・はたらき 遺伝のしかた
APCDD1 遺伝性単純性乏毛症。毛包の発達に関わるWntシグナルを抑えるタンパク質の設計図[11] 常染色体顕性
CDH3 若年性黄斑ジストロフィーを伴う乏毛症(視力が落ちる)[7]、EEM症候群[8]。細胞どうしをつなぐP-カドヘリンの設計図 常染色体潜性
CDSN 頭皮の単純性乏毛症。コルネオデスモシンの設計図[12] 常染色体顕性
DSG4 乏毛症(毛が折れやすい)。細胞をつなぐ構造デスモゾームのタンパク質の設計図[13] 常染色体潜性
HR 生まれつき全身の毛がない状態(全身性脱毛症)[9]/マリー・ウンナ型遺伝性乏毛症[10] 潜性/顕性(病気による)
KRT25 縮毛症・乏毛症。毛のI型ケラチン[14][15] 潜性/顕性(報告による)
KRT71 縮毛症/乏毛症(日本の家系で報告)。毛のII型ケラチン[16] 常染色体顕性
KRT74 縮毛症・乏毛症。毛のII型ケラチン[17][18] 常染色体顕性
LIPH 縮毛症/乏毛症(日本人で最も多い原因)。毛を育てる脂質LPAを作る酵素の設計図[1][2][3] 常染色体潜性
LPAR6 縮毛症/乏毛症。LPAを受け取る受容体の設計図(別名P2RY5)[4][5] 常染色体潜性
LSS 単純性乏毛症(子どものころから頭・体の毛が少しずつ薄くなる)。ラノステロール合成酵素の設計図[19] 常染色体潜性
RPL21 遺伝性単純性乏毛症。たんぱく質を作るリボソームの部品の設計図[20] 常染色体顕性
SNRPE 単純性乏毛症(子どものころから進む)。スプライソソームの部品の設計図[21] 常染色体顕性

※対象遺伝子は当院の検査内容による。病気と遺伝のしかたは各文献、およびCDSN・DSG4の遺伝のしかたは遺伝子と病気の関係をまとめた国際的なデータベース(GenCC・Genomics England PanelApp)で確認(2026年10月)。

💡 用語解説:単純性乏毛症

「単純性」は、毛髪以外に症状がないことを表します。生まれたときは髪がふつうにあっても、子どものころから少しずつ薄くなっていくタイプが多く報告されています[19][21]。

5. この検査でわかること・わからないこと

この検査でわかるのは、13遺伝子の中の小さな変化(1文字の変化や、短い文字の抜け・入り込み)と、遺伝子の大きな欠失・重複の一部です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。

わかること

  • ●遺伝子の小さな変化:たんぱく質の設計図にあたる部分(コード領域)と、その境目(スプライシングに関わる部分)の変化を調べます。
  • ●大きな欠失・重複(コピー数の変化):遺伝子1つまるごとの欠失・重複(頬の粘膜の検体と血液)と、連続する2つ以上のエクソンの欠失・重複(血液のみ)を調べられます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。

わからないこと(検査の限界)

  • ●エクソン1つだけの欠失・重複:見つかることもありますが、いつも検出できるわけではありません。
  • ●調べていない種類の変化:染色体の一部の入れかわり(転座・逆位)、繰り返し配列の伸び、遺伝子のはたらきを調節する部分(プロモーターなど)の多く、エクソンから20塩基以上離れたイントロンの奥の変化は対象外です。
  • ●よく似た配列:遺伝子によく似た配列(偽遺伝子など)があると、変化を正しく見つけにくいことがあります。
  • ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(体細胞モザイク)を見つけることは目的としていません。
  • ●13遺伝子以外の原因:このパネルに入っていない遺伝子が原因のこともあります。
  • ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知識ではまだ判断できない変化が見つかることがあります。

⚠️ 「陰性」は「この病気ではない」という意味ではありません

原因が見つからなかった場合でも、この検査で検出できない種類の変化や、13遺伝子以外の原因が残る可能性があります。検査の結果は、症状やご家族の情報とあわせて判断します。

専門的な情報:読み取りの精度(カバレッジ)

調べる領域の99%以上で、それぞれの位置を20回以上読み取る精度(≥99% at 20x)で解析します。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いと本当の変化を見分けやすくなります。

読み取りの質が十分でない部分や、見つかった変化の確認には、従来からあるサンガー法を使って、もう一度確かめます。

6. 結果が出たあと

結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。

陽性だったとき:診断の確定と、次の一手

原因の遺伝子がわかると、診断が確定し、遺伝のしかたがはっきりします。LIPH・LPAR6が原因なら治療の研究(第7章)が参考になり、CDH3が原因なら眼科での目の検査が欠かせません[7]。原因がわかったことで、「なぜ自分(わが子)だけ」という疑問に、医学的な答えが出ることにも意味があります。

ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき

あなたの1回の検査結果は、ご両親・きょうだい・お子さんが、ご自身の状態を知る手がかりになります。ご家族の中で原因の変化がわかっていると、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるか、保因者かを確かめられます。

潜性遺伝の場合、当事者の方のお子さんは、パートナーが保因者でなければ、全員が保因者になり、ふつうは発症しません。パートナーも保因者なら、お子さん1人ごとに2分の1の確率で発症します。日本人ではLIPHの変化をもつ人が珍しくない[1]ため、パートナーの検査を考える意味があります。

パートナーの保因者検査

当院の拡大版保因者スクリーニングには、女性版787遺伝子・男性版714遺伝子と、女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子があります。各ページの遺伝子一覧で確かめたところ(2026年10月時点)、LPAR6はどの版にも含まれていますが、日本人に多いLIPHは女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子にだけ含まれています。この病気を念頭に置く場合は、どの版を選ぶかを遺伝カウンセリングでご相談ください。

すでに妊娠している方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子、単独では受けられません)もあります。当院のNIPTは妊娠9週から、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。

陰性だったとき

13遺伝子に原因が見つからなかった場合も、この病気が否定されたわけではありません(第5章)。髪以外の症状があれば外胚葉異形成症のパネル検査、症状が広ければ全エクソーム検査など、次の検査を考えます。

意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき

VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。扱い方はVUSの臨床的な取り扱いで解説しています。調べた目的と別の病気の手がかりが見つかったときの扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。

妊娠を考えている方

ご家族の原因の変化がわかっていて、ご夫婦とも保因者だった場合などは、妊娠中の検査を考えるかどうかも含めて、遺伝カウンセリングでご相談いただけます。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。妊娠中に赤ちゃんの遺伝子を調べる場合も、あらかじめご家族の原因を確かめておくことが出発点になります。

7. 治療:先天性乏毛症・縮毛症は治る?

今のところ、原因の遺伝子そのものを治す治療はありません。一方で、LIPHの変化による縮毛症/乏毛症では、ミノキシジルの塗り薬で髪が増えたという日本の研究報告があります[6]。原因の遺伝子がわかることは、こうした治療を検討する手がかりになります。

LIPHによる縮毛症/乏毛症とミノキシジル

名古屋大学の研究では、LIPHの変化による縮毛症/乏毛症の8人(うち子ども5人)が、1%ミノキシジルのローションを1年間頭皮に塗りました。全員で乏毛症が改善し、4人では大きく改善しました。重い副作用はなく、頭皮の乾燥、逆さまつげ、全身の軽い毛の増加といった軽い副作用がみられました[6]。

ただし、これは8人の少人数の研究です。発表資料では、子どもへのミノキシジルの使用は厚生労働省の承認を受けていないと説明されています(2020年の発表時点)。使うかどうかは、皮膚科の主治医とよく相談して決めてください。LIPH以外の遺伝子が原因の場合に同じ効果があるかは、確かめられていません。

生活の工夫

髪の状態に合わせて、ウィッグや帽子などを取り入れている方もいます。先天性縮毛症では強い縮毛を伸ばす施術を考える方もいますが、毛が切れやすいこともあるため、施術の前に皮膚科で髪の状態を確かめておくとよいでしょう。見た目の悩みは、ご本人やご家族の心の負担になることがあります。ひとりで抱え込まず、主治医や遺伝カウンセリングで気持ちもお聞かせください。

8. 日本の制度(2026年10月時点)

2026年10月時点で確認したかぎり、先天性乏毛症・縮毛症は、指定難病・小児慢性特定疾病の対象に含まれていません。指定難病の一覧(348疾病)と難病情報センターのサイト内検索、小児慢性特定疾病情報センターの皮膚疾患群の一覧で、該当する病名は見つかりませんでした。

国の研究としては、厚生労働科学研究で「先天性乏毛症に関する調査研究」(平成27年度)が行われ、全国の医療機関を対象とした調査が始められています。制度は見直されることがあるため、最新の情報は難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターでご確認ください。なお、当院のこの検査は自費診療です。

9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体

結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリングで検査の内容をご説明し、納得していただいてから検査を行います。

ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取・送付唾液・頬の粘膜・血液
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ

💴 費用・日数・検体

項目 内容
対象遺伝子 APCDD1、CDH3、CDSN、DSG4、HR、KRT25、KRT71、KRT74、LIPH、LPAR6、LSS、RPL21、SNRPE(13遺伝子)
調べる内容 塩基配列、欠失・挿入(いずれも料金に含まれます)
結果までの期間 2〜3週間
至急オプション 55,000円(結果までの期間が約7日短くなります)
VUS除外オプション 無料(意義がまだわからない変化を報告から除く)
検体 血液(EDTAチューブ4ml×2本)、抽出DNA(3μg)、頬の内側の粘膜(スワブ)、唾液(採取キットをお送りします)
検査費用 お問い合わせください
遺伝カウンセリング料 30分22,000円(税込)※検査費用とは別
オンライン診療 可能。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血していただきます

※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。

オンライン診療では、ビデオ通話で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体の採取キットは、検査料金のお支払いのあとにお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。

\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

臨床遺伝専門医が常駐し、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明してからマイページにアップします。

お問い合わせはこちら | 歯・爪・汗にも症状がある方へ(外胚葉異形成症の検査)

10. 院長コラム

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「髪だけのこと」と思わずに、原因を知って計画する】

私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。

遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。先天性乏毛症・縮毛症は、命に関わる病気として語られることは少ないかもしれません。それでも、髪は人目に触れるものです。原因の遺伝子によって遺伝のしかたも、治療の手がかりも、目の検査が必要かどうかも変わります。「髪だけのことだから」と原因を知らないままにせず、わかったことから次を考えてほしいと思っています。

遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。

わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。日本人では、LIPHの変化を症状なくもっている方が決して珍しくありません。結婚や妊娠を考える方には、パートナーの保因者検査から出生前診断のご相談まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 先天性乏毛症は難病ですか?

2026年10月時点で確認したかぎり、先天性乏毛症・縮毛症は、指定難病・小児慢性特定疾病の対象に含まれていません。国の研究としては、厚生労働科学研究で調査研究が行われています。制度は見直されることがあるため、最新の情報は難病情報センターなどでご確認ください。

Q2. 先天性乏毛症は何人に1人ですか?

日本で何人に1人かを示す確かな統計は、確認できませんでした。一方、健康な日本人819人を調べた研究では、日本人に多いLIPHの変化(c.736T>A)を1つもつ保因者が1.6%いました。症状がなくても、原因の変化をもつ人は珍しくありません。

Q3. 乏毛症が遺伝する確率は?

原因の遺伝子によって変わります。LIPHなどによる常染色体潜性(劣性)遺伝では、ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1です。APCDD1などによる常染色体顕性(優性)遺伝では、親が発症していればお子さん1人ごとに2分の1です。どちらに当たるかは、遺伝子検査で原因がわかってはじめて言えます。

Q4. 先天性乏毛症・縮毛症は治りますか?

原因の遺伝子そのものを治す治療は、今のところありません。LIPHの変化による縮毛症/乏毛症では、1%ミノキシジルのローションを1年間使った8人全員で改善がみられたという日本の研究があります。少人数の研究で、子どもへの使用は承認されていないため、使うかどうかは皮膚科の主治医とよく相談してください。

Q5. 乏毛症は何科を受診すればよいですか?

髪の状態の診断は皮膚科で受けられます。原因の遺伝子を調べる検査と、遺伝のしかたやご家族への影響の相談は、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングで行います。当院では、遺伝カウンセリングから検査、結果のご説明まで受けられます。

Q6. 無毛症と乏毛症の違いは何ですか?

乏毛症は毛が少ないこと、無毛症は毛がほとんど、またはまったくないことを指します。同じ遺伝子の変化でも人によって症状の現れ方が違い、縮毛が目立つ方もいれば、生まれつき髪がない方もいます。名前だけでは原因を見分けられないため、遺伝子検査で確かめます。

Q7. 女の子でも先天性乏毛症になりますか?

なります。このページの検査で調べる13遺伝子は、どれも性別に関係しない常染色体にある遺伝子で、男の子でも女の子でも同じ確率で受け継ぎます。性別だけで、なりやすさや遺伝の確率は決まりません。

Q8. 検査は保険で受けられますか?

当院のこの検査は自費診療で、保険は使えません。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が、検査費用とは別にかかります。検査費用はお問い合わせください。

🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。先天性乏毛症・縮毛症の原因の遺伝子がわかれば、治療の手がかりや目の検査の必要性だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、パートナーの保因者検査、羊水検査・絨毛検査による出生前診断のご相談まで、院内で続けて受けていただけます。

お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768

参考文献

  • [1] Tanahashi K, Sugiura K, Kono M, Takama H, Hamajima N, Akiyama M. Highly prevalent LIPH founder mutations causing autosomal recessive woolly hair/hypotrichosis in Japan and the genotype/phenotype correlations. PLoS One. 2014;9(2):e89261. [DOI: 10.1371/journal.pone.0089261](PMID: 24586639)
  • [2] Shimomura Y, et al. Mutations in the lipase H gene underlie autosomal recessive woolly hair/hypotrichosis. J Invest Dermatol. 2009;129:622-628. [DOI: 10.1038/jid.2008.290](PMID: 18830268)
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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