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LADD症候群2型(FGFR3遺伝子)とは?症状・遺伝・診断をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

LADD症候群2型は、FGFR3遺伝子のチロシンキナーゼドメインに生じる変異によって引き起こされる、100万人に1人未満という極めて稀な先天性多発奇形症候群です。涙の通り道・耳・歯と唾液腺・手の指という、一見ばらばらに見える部位に生まれつきの形成異常が現れます。知能は正常に保たれ、頭蓋骨の早期癒合を伴わないことが、同じFGFR3が原因となる他の疾患と見分ける大きな手がかりになります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 FGFR3遺伝子・先天性疾患・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. LADD症候群2型とはどのような疾患ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FGFR3遺伝子のチロシンキナーゼドメイン(酵素のはたらきを担う部分)に生じる変異が原因の、極めて稀な先天性多発奇形症候群です。涙器(涙の通り道)・耳・歯と唾液腺・手指という4つの領域に形成異常が現れます。知能は正常で、頭蓋骨の早期癒合を伴わない点が、軟骨無形成症など他のFGFR3関連疾患と区別する重要なポイントです。

  • 疾患の定義 → OMIM 620192、原因遺伝子FGFR3、常染色体顕性(優性)遺伝、有病率100万人に1人未満
  • 分子メカニズム → 軟骨無形成症の「機能獲得」とは対照的な、チロシンキナーゼの機能異常
  • 主な症状 → 涙が出ない/止まらない・カップ耳と難聴・歯と唾液腺の異常・母指の重複
  • 鑑別診断 → シェーグレン症候群・ALSG・CATSHL症候群との違いを詳解
  • 診断・管理 → 画像評価+次世代シーケンシングと、複数科による集学的管理

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1. LADD症候群2型とは:疾患の定義と歴史的背景

LADD症候群は、その名前が4つの主要な症状の頭文字からできています。Lacrimo(涙器)、Auriculo(耳介)、Dento(歯と唾液腺)、Digital(指趾)——この4領域に生まれつきの形成異常が現れる、常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる超希少疾患です。1967年にLevyによって初めて報告され、1973年にHollisterらが詳細な臨床像を記述したことから、Levy-Hollister症候群とも呼ばれてきました。

分子遺伝学の進歩によって、LADD症候群は1つの遺伝子だけが原因ではなく、線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナルに関わる複数の遺伝子の変異で起こることが明らかになりました。原因遺伝子によって、現在は次の3タイプに分類されています。LADD症候群1型はFGFR2遺伝子LADD症候群3型はFGF10遺伝子(OMIM 620193)、そして本記事のテーマであるLADD症候群2型は、4番染色体短腕(4p16.3)に位置するFGFR3遺伝子(OMIM 620192)の変異によって引き起こされます。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝

「常染色体」とは、性別を決めるX・Y染色体以外の染色体のこと。「顕性(けんせい)」は以前「優性」と呼ばれていた言葉で、2本ある染色体のうち1本に変異があるだけで症状が出る遺伝のしかたを指します。LADD症候群2型では、変異した遺伝子を1つ持つだけで発症し、親から子へ伝わる確率は理論上50%です。遺伝のしくみについては遺伝形式の解説ページもご覧ください。

これら3つの原因遺伝子は、いずれも胎児期の外胚葉と間葉系のあいだの「会話(クロストーク)」を仲立ちするFGFシグナルを構成しています。涙腺・唾液腺・耳・歯・手足の芽は、上皮細胞と間葉系細胞のやり取りによって作られます。このやり取りの要であるFGFシグナルがうまく働かないために、一見すると無関係な複数の器官に同時に異常が現れるのです。これがLADD症候群を「器官形成のしくみを教えてくれる病気」として臨床遺伝学が重視する理由です。

2. 原因遺伝子FGFR3と分子病態メカニズム

LADD症候群2型を理解する核心は、原因遺伝子FGFR3が作るタンパク質の構造と、その変異が「どこに・どのように」起きるかという点にあります。同じFGFR3が原因でも、変異の場所と性質によって、まったく違う病気になるからです。

💡 用語解説:受容体チロシンキナーゼ

FGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)は、細胞の表面でアンテナのように外からの信号を受け取り、それを細胞の中へ伝える「受容体チロシンキナーゼ」というタイプのタンパク質を作ります。細胞外のリガンド結合部分・細胞膜を貫く部分・細胞内のチロシンキナーゼドメイン(酵素のはたらきを担う中心部)の3つから構成されます。成長因子(FGF)が結合すると受容体が二つくっつき(二量体化)、細胞内で次々と信号が伝わって、細胞の増殖・分化・組織の発生が精密に調節されます。

FGFR3は、骨の成長板では軟骨細胞が増えすぎないように「ブレーキ」をかける役割を担っています。それだけでなく、内耳の発達や、胎児期のさまざまな細胞の運命決定にも欠かせません。だからこそ、FGFR3の働きが乱れると、耳・骨格・外分泌腺(涙腺や唾液腺)など複数の場所に影響が及ぶのです。

LADD症候群2型を起こす変異は「チロシンキナーゼドメイン」に集中する

LADD症候群2型を引き起こす変異は、主に細胞内のチロシンキナーゼドメインに生じ、受容体が信号を伝える力を弱めたり、異常にしたりします。これまでに報告されている代表的な変異は次の2つです。

報告されている代表的な病的バリアント:
・p.Asp513Asn(D513N)…2006年Rohmannらがトルコ系家系で報告した最初のLADD2変異
・p.Asp628Asn(D628N・c.1882G>A、エクソン14)…2017年Talebiらがイラン人家系で報告。表現型と変異の共分離が確認されている

いずれも、種を超えて高度に保存された(=進化的に変わってはいけない)アミノ酸に生じており、チロシンキナーゼの酵素活性や立体構造に重大な影響を与えると考えられています。その結果、成長因子が正常に結合しても細胞内で正しい信号が流れず、耳・骨格・涙腺や唾液腺などの組織の発生が妨げられます。

💡 用語解説:ミスセンス変異

ミスセンス変異とは、DNAの文字(塩基)が1つ変わることで、設計図から作られるアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形が少し変わり、はたらきに影響します。LADD症候群2型のD513NやD628Nは、いずれもこのミスセンス変異です。詳しくはミスセンス変異の解説をご覧ください。

なぜ低身長にならないのか:機能獲得型変異との対比

同じFGFR3でも、最も有名な病気である軟骨無形成症は、膜貫通ドメインの変異(p.Gly380Argなど)によって受容体が信号がなくても常時オンの「過剰活性化(機能獲得)」状態になり、骨成長のブレーキが踏みっぱなしになることで低身長を起こします。これに対しLADD症候群2型の変異は、チロシンキナーゼの信号を弱めたり異常にしたりする性質を持つため、低身長や頭蓋骨の早期癒合を起こさず、外分泌腺の形成異常や特有の指の異常という、まったく別の臨床像になります。

💡 用語解説:機能獲得型変異と機能喪失型変異

機能獲得型変異は、タンパク質が本来より強く・余計にはたらくようになる変異です(軟骨無形成症など)。機能喪失型変異は逆に、はたらきが弱まる・失われる変異です。

FGFR3は骨成長の「ブレーキ」なので、機能獲得なら骨が縮み(低身長)、機能喪失ならブレーキが外れて骨が伸びます(高身長=CATSHL症候群)。LADD症候群2型はこの中間で、チロシンキナーゼの信号を「異常にする」ことで、骨ではなく外分泌腺や指に影響を出します。詳しくは機能喪失型変異の解説もどうぞ。

3. 主な症状と表現型

LADD症候群2型の症状は、名前の由来となった4つの領域に集中します。同じ家系で同じFGFR3変異を持っていても、症状の有無や重さに大きなばらつき(可変的発現)が見られるのが大きな特徴です。以下、4領域を整理します。

👁️ 涙器(Lacrimo-)

  • 涙点の低形成・欠損
  • 涙道の閉鎖・無形成
  • 涙が出ない無涙症、または涙が流れ続ける流涙
  • 続発:涙嚢炎の反復・角結膜炎・角膜潰瘍のリスク上昇

👂 耳介・聴覚(Auriculo-)

  • 前方に突き出たカップ耳・低い位置の耳
  • 重症例では小耳症
  • 感音性・伝音性・混合性の難聴
  • 乳幼児期の反復性中耳炎

🦷 歯・唾液腺(Dento-)

  • 耳下腺・顎下腺の低形成や欠損
  • 唾液不足による重度の口腔乾燥症・う蝕の多発
  • 歯の無発生(生まれつき歯が足りない)
  • 円錐歯・釘状切歯・エナメル質形成不全

✋ 指趾・四肢(Digital)

  • 母指(親指)の指骨の重複(二分・切痕)
  • 指のような外観の三指節母指
  • 第2・3指の合指症、第5指の弯曲
  • 橈尺骨癒合による前腕短縮・可動域制限

💡 用語解説:無涙症と流涙(むるいしょう・りゅうるい)

無涙症(アラクリマ)は涙の分泌そのものが欠けている状態、流涙(エピフォラ)は涙の排出路が塞がっているために涙があふれ続ける状態です。一見正反対ですが、どちらも涙器の形成異常から生じます。涙には眼の表面を守る大切な役割があるため、不足すると角膜の乾燥・潰瘍・最悪の場合は穿孔につながることもあり、生涯にわたる眼科的ケアが重要です。

💡 用語解説:口腔乾燥症(こうくうかんそうしょう/Xerostomia)

唾液腺の低形成や欠損によって唾液が極端に少なくなる状態です。単に口が渇くだけでなく、咀嚼や飲み込みの困難・味覚障害・口腔カンジダ症のかかりやすさを招きます。さらに、唾液による自浄作用や酸を中和する力が失われるため、広い範囲に重度のむし歯(う蝕)が多発しやすくなります。徹底した予防歯科がとても大切です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「ドライアイとドライマウス」の奥にあるもの】

LADD症候群2型の患者さんは、学童期や大人になってから「目が乾く」「口が渇く」という訴えで眼科・歯科・内科を受診されることが少なくありません。すると、自己免疫疾患であるシェーグレン症候群と誤って診断されてしまうことがあります。涙と唾液が出にくいという表面の症状が、よく似ているからです。

けれども、生まれつき腺そのものが小さい・無いLADD症候群2型と、後から免疫が腺を攻撃するシェーグレン症候群は、根っこがまったく違います。耳の形・歯の異常・手指の所見といった「組み合わせ」に目を向けることが、正しい診断への近道です。症状を点ではなくパターンで見る——それが希少疾患を見抜く鍵だと、いつも感じています。

4徴以外の全身症状と、知能が保たれるという事実

古典的な4徴のほかにも、いくつかの全身症状が報告されており、全身のチェックが必要です。腎・泌尿器系では、水腎症・腎硬化症による腎機能障害、反復性の尿路感染症、片腎、生殖器の異常が比較的よく見られます。顔面では両眼開離(目と目が離れている)・内眼角開離などがみられ、まれに口蓋裂・口唇裂を伴うこともあります。ごく稀に気管支狭窄などの呼吸器奇形や先天性心疾患も報告されています。

一方で、知的発達障害は報告されておらず、患者さんは正常な知能を持つのが一般的です。また、他のFGFR遺伝子の病気でよく見られる頭蓋縫合早期癒合症(頭蓋骨が早く固まってしまう状態)は、LADD症候群では通常みられません。この2点は、診断の方向づけや、ご家族が将来を考えるうえで大切な情報です。

4. 鑑別診断:似ているけれど違う病気

LADD症候群2型の診断では、症状が重なる他の遺伝性症候群や、後天性の自己免疫疾患との見分けが欠かせません。特に誤診につながりやすい疾患を取り上げます。

最重要:シェーグレン症候群との見分け

最大のポイントは「病気の成り立ち」と「腺の解剖学的な所見」です。シェーグレン症候群は後天的に免疫が腺を攻撃して機能が落ちるのに対し、LADD症候群2型は生まれつき腺が無い・小さい(先天性の無形成・低形成)のです。画像検査(超音波・MRI・CTなど)で涙腺や唾液腺の存在とサイズを確認することが、決め手になります。

比較項目 LADD症候群2型 シェーグレン症候群
発症メカニズム 先天性の形成異常 自己免疫疾患
発症時期 出生時・小児期 成人期(主に女性)
腺の所見 無形成・低形成 炎症性の腫れ・萎縮
自己抗体 陰性 陽性(抗SS-A/SS-B抗体など)
耳・歯・指の奇形 あり なし

涙腺・唾液腺無形成症(ALSG)

ALSG(OMIM 180920)は、LADD症候群と同じように涙腺と唾液腺の形成不全を起こす常染色体顕性(優性)遺伝の疾患です。原因はFGFR3のリガンドであるFGF10遺伝子の変異で、LADD症候群3型と同じ遺伝子による「対立遺伝子疾患(アレル疾患)」と位置づけられています。ALSGでは、LADDで特徴的な耳・歯・指の広い奇形を伴わないのが一般的ですが、臨床像は一部重なるため、正確な鑑別には次世代シーケンシングによる遺伝学的検査が勧められます。

同じFGFR3が原因の疾患スペクトラム

FGFR3の変異は、その場所と性質(過剰活性化なのか、機能の低下・異常なのか)によって、まったく対照的な病気を引き起こします。下の表で全体像を整理します。

疾患名 変異の性質 主な臨床的特徴
軟骨無形成症 機能獲得(p.Gly380Arg) 最も一般的な低身長、大頭症
軟骨低形成症 機能獲得(p.Asn540Lys) より軽度の四肢短縮型低身長
致死性骨異形成症I型 機能獲得 致死的、極端な四肢短縮・胸郭低形成
致死性骨異形成症II型 機能獲得(K650E) 致死的、頭蓋の特徴的変形
SADDAN症候群 機能獲得(K650M) 重度低身長・発達遅延・黒色表皮腫
ミュンケ症候群 機能獲得(P250R) 冠状縫合の早期癒合、難聴
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群 機能獲得(A391E) 頭蓋縫合の早期癒合、黒色表皮腫
CATSHL症候群 機能喪失(R621Hなど) 高身長・屈指症・側弯症・難聴
LADD症候群2型(本疾患) チロシンキナーゼの機能異常(D513N、D628N) 涙器・唾液腺の無形成、カップ耳、難聴、歯の異常、母指異常

この中でLADD症候群2型と最も近縁なのがCATSHL症候群です。どちらもチロシンキナーゼドメインの機能低下・異常で起こり、近年では「FGFR3の機能が落ちる程度や場所の違いで、表現型が連続的に変わるスペクトラム」としてとらえられつつあります。実際、CATSHLの非典型例で、本来LADDに典型的な円錐歯がみられた報告もあります。

5. 診断基準と遺伝子検査の進め方

LADD症候群2型は全身の複数の臓器に影響するため、診断と治療には各専門科の連携(集学的アプローチ)が欠かせません。診断は、丁寧な臨床評価・画像診断・分子遺伝学的検査の組み合わせで確定します。

臨床評価と画像診断

涙液の量を測るシルマーテスト、オージオグラム(聴力検査)、パノラマX線写真による歯の評価、四肢の単純X線検査で、LADDの4徴をもれなく評価します。さらに超音波・MRI・CTを用いて、涙腺・耳下腺・顎下腺などの解剖学的な無形成や低形成を客観的に確認することが、後天性のシェーグレン症候群を除外するうえで決定的に重要です。腎の奇形(水腎症・片腎など)を調べる腹部超音波検査も、ルーチンで勧められます。

分子遺伝学的検査で確定する

💡 用語解説:次世代シーケンシング(NGS)と全エクソーム解析

多数の遺伝子の塩基配列を一度に高速で読み取る技術が次世代シーケンシング(NGS)です。タンパク質の設計図となるエクソン全体をまとめて読む全エクソーム解析(WES)を使うと、LADD症候群の3つの原因遺伝子(FGFR2・FGFR3・FGF10)の病的バリアントを網羅的に調べ、サブタイプ(1型・2型・3型)を見分けることができます。患者さんと両親の3名を同時に調べる「トリオ解析」は、新生(de novo)変異の発見にも有効です。

最終的な確定診断は、これらNGSパネルや全エクソーム解析によってFGFR3遺伝子の病的バリアント(D513NやD628Nなど)を同定することで行われます。臨床所見だけでは他のFGFR3関連疾患やシェーグレン症候群と区別がつきにくい場面が多いため、遺伝学的検査の意義はとても大きいといえます。

出生前の検査と出生後の検査は分けて考えます

「診断=出生前」と思われがちですが、検査のタイミングと方法は分けて理解することが大切です。

👶 出生後の確定診断

採血による遺伝子解析が中心です。原因を一つに絞りきれない段階では、クリニカルエクソーム検査が有力な選択肢になります。臨床所見と画像評価を組み合わせて総合的に判断します。

🤰 出生前の確定診断

家系内ですでに原因変異が分かっている場合に、絨毛検査・羊水検査でその変異を直接調べます。FGFR3を含む単一遺伝子を対象とするNIPTのプラン(ダイヤモンドプランインペリアルプラン)も存在します。

ただし、どの検査を選ぶか、そもそも検査を受けるかどうかは、ご家族の状況とお考えによって変わります。LADD症候群2型は知能が保たれることが多く、症状の重さにも大きな個人差があるため、出生前に知ることが常に利益になるとは限りません。私たちは情報を中立にお伝えする立場であり、選択はご家族にゆだねられます。

6. 治療と長期管理

現時点で、LADD症候群2型を根本から治す遺伝子治療はありません。治療の中心は、一つひとつの症状に対する対症療法と予防的なケアです。眼科・耳鼻咽喉科・歯科・整形外科・腎臓内科などの専門医が密に連携し、生涯にわたる合併症予防とQOL(生活の質)の向上を目指します。

👁️ 眼科

涙の不足は角膜の乾燥・潰瘍・最悪は失明につながる深刻なリスクです。防腐剤フリーの人工涙液や保湿軟膏の頻繁かつ生涯にわたる使用が基本。鼻涙管閉塞や反復する涙嚢炎には涙嚢鼻腔吻合術(DCR)などを検討します。

👂 耳鼻咽喉科

難聴は言語・認知の発達に影響するため、新生児聴覚スクリーニングを含む早期発見・早期介入が重要です。必要に応じて補聴器、重度の場合は人工内耳、耳小骨奇形には鼓室形成術などを検討します。

🦷 歯科・口腔外科

人工唾液や頻繁な水分摂取で口腔内をうるおし、高濃度フッ素塗布・シーラント・厳格なプラークコントロールでう蝕を予防します。歯の無発生やエナメル質形成不全には、義歯・インプラント・クラウンなどの補綴治療を行います。

✋ 整形外科・🩺 腎臓内科

合指症や母指重複には、手の機能や見た目の改善を目的に手外科による再建を検討します。水腎症・腎硬化症による腎機能低下のリスクがあるため、定期的な血液検査・超音波による腎機能のサーベイランスを行います。

7. 遺伝カウンセリングの意義

確定診断の前後で、ご家族への丁寧な臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが大切です。主に次のような内容を扱います。

💡 用語解説:表現度の差異(可変的発現)

同じ家系で、まったく同じFGFR3変異を持っていても、症状の有無や重さに大きなばらつきが出ることを指します。たとえば親世代は軽い難聴と軽微な歯の異常だけで気づかれず、子世代で重い無涙症や目立つ手の異常が出て、初めて家系の遺伝性疾患と分かることもあります。そのため、発端者の診断後は、症状が無さそうに見えるご家族にも眼科・耳鼻科・歯科の評価が勧められます。

  • 遺伝形式と再発リスク:常染色体顕性(優性)遺伝のため、患者さんから子へ伝わる確率は理論上50%です。一方、親に症状がなく子で初めて生じる新生(de novo)変異のケースもあります。この場合の次子への再発リスクは一般集団と同程度ですが、生殖細胞モザイクの可能性は完全には否定できません。
  • 予後の見通し:知能が保たれることが多いという情報は、教育・社会参加・自立に向けた長期的な見通しを立てるうえで、ご家族にとって大切な支えになります。
  • 出生前診断の選択肢:次のお子さんを望む場合、すでに家系内の変異が分かっていれば絨毛検査・羊水検査による出生前診断が選択肢になります。受けるかどうかはご家族で話し合ってお決めください。
  • 心理的サポートと情報の継続:非常に稀な疾患のため情報が限られています。長期的な経過を医療機関と共有し続けることが、ご本人とご家族の安心につながります。遺伝カウンセリングとはもあわせてご覧ください。

8. よくある誤解

誤解①「シェーグレン症候群と同じ」

目や口の乾きは似ていますが、根っこは正反対です。LADDは生まれつき腺が無い・小さい先天性疾患、シェーグレンは後から免疫が腺を攻撃する自己免疫疾患です。自己抗体や腺の画像所見、耳・指の奇形の有無で区別されます。

誤解②「FGFR3の変異=低身長」

FGFR3の変異の多くは軟骨無形成症など低身長を起こしますが、LADD症候群2型は低身長になりません。同じ遺伝子でも変異の場所と性質で結果がまったく変わります。

誤解③「知的障害を伴う」

これは誤りです。LADD症候群2型では知的発達は通常正常範囲にあり、認知機能への影響は報告されていません。頭蓋骨の早期癒合も通常みられません。

誤解④「親が健康なら遺伝ではない」

新生(de novo)変異で初めて生じる場合もあり、また親が同じ変異を持っていても症状が軽くて気づかれていないこともあります(表現度の差異)。家系の正確な評価が大切です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【1つの遺伝子が描く、正反対の物語】

FGFR3という1つの遺伝子から、低身長になる軟骨無形成症、高身長になるCATSHL症候群、そして涙腺・唾液腺・耳・歯・指に異常が出るLADD症候群2型という、まったく異なる物語が生まれます。「遺伝子に変異がある」というだけでは、何も決まりません。どこに、どんな性質の変異があるのか——その一つひとつが、別々の病気を紡ぎます。

だからこそ私は、検査結果を「白か黒か」で性急に判断せず、変異の意味を丁寧に読み解くことを大切にしています。希少疾患であればなおさら、一人ひとりの診断精度がご家族の人生に与える影響は大きい。正確に知り、中立に伝え、決定はご家族にゆだねる——その姿勢を、これからも貫いていきます。LADD症候群2型についてのご相談は、どうぞお気軽にお声がけください。

よくある質問(FAQ)

Q1. LADD症候群2型は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の疾患で、患者さんから子へ伝わる確率は理論上50%です。一方で、親に症状がなく子で初めて生じる新生(de novo)変異のケースもあります。また、親が同じ変異を持っていても症状が軽く気づかれていないこともあります(表現度の差異)。家系ごとの正確な評価のため、臨床遺伝専門医への相談をお勧めします。

Q2. 知的障害はありますか?

LADD症候群2型では、知的発達は通常正常範囲にあると報告されています。これは歌舞伎症候群やCHARGE症候群など知的障害を伴うことの多い他疾患との大きな違いです。また、他のFGFR関連疾患でよく見られる頭蓋縫合早期癒合症も、LADD症候群では通常みられません。

Q3. どのように診断されますか?

涙器・耳・歯と唾液腺・手指の所見の組み合わせから臨床的に疑い、超音波・MRI・CTなどの画像で涙腺・唾液腺の無形成を確認します。最終的には次世代シーケンシングや全エクソーム解析でFGFR3遺伝子の病的バリアント(D513N、D628Nなど)を同定して確定します。シェーグレン症候群を除外するための画像評価が特に重要です。

Q4. シェーグレン症候群とどう違うのですか?

最大の違いは病気の成り立ちです。LADD症候群2型は生まれつき涙腺・唾液腺が無い・小さい先天性の形成異常、シェーグレン症候群は後から免疫が腺を攻撃する自己免疫疾患です。画像で腺の有無を確認すること、自己抗体(抗SS-A/SS-B)の有無、そして耳・歯・指の奇形があるかどうかが見分けの鍵になります。シェーグレンではこうした先天性の発生異常は生じません。

Q5. 出生前にわかりますか?

家系内で原因となる変異がすでに分かっている場合は、絨毛検査や羊水検査でその変異を調べることが可能です。ただしLADD症候群2型は知能が保たれることが多く、症状の重さにも個人差が大きいため、出生前に知ることが常に利益とは限りません。受けるかどうかはご家族で話し合ってお決めください。

Q6. 涙が出ない・止まらないのはなぜ?治療はできますか?

涙を作る・流す経路(涙点・涙道)が生まれつき低形成や閉鎖を起こすためで、分泌が欠ける無涙症と、排出できずあふれる流涙の両方が起こりえます。涙の不足は角膜の乾燥や潰瘍につながるため、防腐剤フリーの人工涙液や保湿軟膏を生涯にわたり使用します。鼻涙管閉塞や反復する涙嚢炎には涙嚢鼻腔吻合術(DCR)などの外科的処置を検討します。定期的な眼科受診がとても大切です。

Q7. 難聴は治療できますか?

難聴の程度やタイプ(感音性・伝音性・混合性)によって対応が異なります。言語の発達に影響するため、新生児聴覚スクリーニングを含む早期発見・早期介入が重要です。程度に応じて補聴器を早期に装用し、重度の感音難聴には人工内耳、耳小骨の奇形には鼓室形成術などの外科的再建が検討されます。乳幼児期からの継続的な聴力評価が欠かせません。

Q8. 軟骨無形成症と同じFGFR3が原因なのに、なぜ低身長にならないのですか?

FGFR3は骨の成長に「ブレーキ」をかける受容体です。軟骨無形成症は膜貫通部分の変異でブレーキが効きすぎる「機能獲得型」のため低身長になります。一方、LADD症候群2型はチロシンキナーゼドメインの変異で受容体の信号を「異常にする」性質を持ち、低身長や頭蓋骨の早期癒合を起こさず、涙腺・唾液腺・耳・歯・指という別の領域に影響を出します。同じ遺伝子でも、変異の場所と性質によって病気がまったく変わるのです。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

LADD症候群2型をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

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参考文献

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  • [8] MedlinePlus Genetics. FGFR3 gene. U.S. National Library of Medicine. [MedlinePlus]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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