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CATSHL症候群とは? ― 高身長・屈指症・側弯症・難聴をきたすまれな遺伝性疾患をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

CATSHL症候群は、骨の成長にブレーキをかける役割を持つFGFR3遺伝子の「働きが弱くなる(機能喪失型)」ことで起こる、世界でわずか数家系しか報告のない超希少な遺伝性疾患です。高身長・指の曲がり(屈指症)・側弯症・難聴という4つの特徴を中心に多彩な症状が現れますが、多くの方で知的発達は保たれます。同じFGFR3が原因でも、低身長になる軟骨無形成症とは「ブレーキが効きすぎる」か「ブレーキが外れる」かが正反対、という点が最大の理解の鍵です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 FGFR3遺伝子・骨系統疾患・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. CATSHL症候群とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FGFR3遺伝子の働きが部分的に失われる(機能喪失型ミスセンス変異)ことで起こる、極めて稀な遺伝性疾患です。屈指症・高身長・側弯症・感音難聴を主な特徴とし、同じFGFR3が原因の軟骨無形成症(低身長)とは正反対の表現型になることが最大の特徴です。

  • 疾患の定義 → OMIM 610474、Orphanet ORPHA:85164、有病率は100万人に1人未満
  • 分子メカニズム → 骨成長の「ブレーキ役」FGFR3の機能喪失による過成長
  • 主な症状 → 高身長・屈指症・側弯症・両側性感音難聴・一部に発達遅滞
  • 鑑別診断 → マルファン症候群・LADD症候群・FGFR3機能獲得型疾患との違い
  • 診断・管理 → 全エクソーム解析による確定診断と、複数科による集学的管理

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1. CATSHL症候群とは:疾患の定義と歴史的背景

CATSHL症候群(OMIM 610474)は、4つの主要な症状の頭文字から名づけられた疾患です。Camptodactyly(屈指症:指が曲がったまま伸びにくい状態)、Tall stature(高身長)、Scoliosis(側弯症:背骨の横方向の曲がり)、Hearing Loss(難聴)——この組み合わせから「CATSHL(キャットシュル)」と呼ばれています。原因は、FGFR3遺伝子の「機能喪失型(働きが弱くなる)」ミスセンス変異です。

国際的な希少疾患データベースOrphanetには「ORPHA:85164」として登録され、推定有病率は100万人に1人未満とされる超希少疾患です。これまでに世界で報告された家系はわずか4家系のみで、確認された患者さんは数十名規模にとどまります。情報がまだ非常に限られている疾患だといえます。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝

「常染色体」とは、性別を決めるX・Y染色体以外の染色体のことです。「顕性(けんせい)」は以前「優性」と呼ばれていた言葉で、2本ある染色体のうち1本に変異があるだけで症状が出る遺伝のしかたを指します。CATSHL症候群の多くの家系は、この常染色体顕性遺伝の形式をとります。親から子へ伝わる確率は理論上50%です。遺伝形式について詳しくは遺伝形式の解説ページもご覧ください。

発見の歴史:「常識をひっくり返した」2006年の発見

CATSHL症候群が医学文献に初めて体系的に記載されたのは、2006年のToydemirらによる研究です。彼らは米国ユタ州の大きな一族を調べ、4世代にわたって27名の罹患者(家系全体では7世代・35名)が、独特の骨格の過成長と難聴を共有していることを見いだしました。

この発見は、骨の発生をめぐる「常識」をくつがえすものでした。それまでFGFR3の変異は、軟骨無形成症やタナトフォリック骨異形成症など、低身長(小人症)を起こす「機能獲得型(働きが強くなる)」としてのみ知られていたからです。Toydemirらは、FGFR3の働きが「弱くなる」ことで、逆に骨が伸びすぎて高身長になりうることを初めて証明しました。

その後、2014年にはMakrythanasisらが、エジプトの血族結婚(近親婚)の両親から生まれた兄弟で、常染色体潜性(劣性)遺伝の形をとるホモ接合体の症例(p.Thr546Lys変異)を報告しました。2016年にはEscobar・Tucker・Bamshadらが2例目の常染色体顕性の家系を報告し、CATSHL症候群が独立した疾患として確立しました。さらに2024年には、Cannovaら(責任著者Pezzani)がイタリアの家系で新しい変異(後述のp.Arg621Cys)を報告し、表現型の幅が広がりました。

2. 原因遺伝子FGFR3と分子メカニズム

CATSHL症候群を理解する核心は、FGFR3という遺伝子が「骨の成長のブレーキ役」であるという点にあります。このブレーキが弱まると何が起こるのか——そこにこの病気のすべてがあります。

💡 用語解説:FGFR3と受容体チロシンキナーゼ

FGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)は、第4番染色体の短腕(4p16.3)にある遺伝子です。細胞の表面でアンテナのように外からの信号を受け取り、それを細胞の中に伝える「受容体チロシンキナーゼ」というタイプのタンパク質を作ります。骨の成長板(骨が伸びる場所)では、軟骨細胞が増えすぎないように「ブレーキ」をかける役割を担っています。

💡 用語解説:ミスセンス変異と機能喪失型変異

ミスセンス変異とは、DNAの文字(塩基)が1つ変わることで、設計図から作られるアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形が変わり、はたらきに影響します。くわしくはミスセンス変異の解説をご覧ください。

機能喪失型変異(loss-of-function)とは、その変異によってタンパク質本来のはたらきが部分的または完全に失われるタイプの変異です。CATSHL症候群はこのタイプで、「ブレーキが効かなくなる」ために骨が過剰に伸びます。機能喪失型変異の解説もあわせてどうぞ。

報告されている主な変異

これまでに報告された代表的なFGFR3変異:
・p.Arg621His(R621H)…2006年Toydemirら/ユタ家系・常染色体顕性
・p.Arg621Cys(R621C・c.1861C>T)…2024年Cannovaら/イタリア家系・常染色体顕性(同じ621番目のアミノ酸の別タイプの置換)
・p.Thr546Lys(T546K・c.1637C>A)…2014年Makrythanasisら/エジプト家系・常染色体潜性(ホモ接合体)

いずれもFGFR3のチロシンキナーゼドメイン(酵素のはたらきを担う中心部分)に位置し、ブレーキ機能を弱める方向に作用します。同じ621番目のアミノ酸でも、置き換わる先がヒスチジンかシステインかで起こりうる、という事実は、この部位がFGFR3の機能維持に決定的に重要であることを物語っています。

ブレーキが外れると体の中で何が起こるのか

FGFR3のブレーキが弱まると、骨を伸ばす方向のシグナルが暴走します。具体的には、Wnt/β-カテニン経路やIndian Hedgehog(IHH)経路という「成長アクセル」が過剰に働き、成長板の軟骨細胞が異常に増えたり肥大したりして、骨が長軸方向に伸びすぎます。これが高身長や指の細長さの正体です。

ところが興味深いことに、頭蓋骨では正反対のことが起こります。頭の骨を作る骨芽細胞のはたらきはむしろ低下し、頭蓋骨の成熟が遅れて小頭症や縫合の閉じ遅れが生じます。つまり同じ変異が、「長い骨は伸びすぎ/頭の骨は育ち遅れ」という逆の現象を同時に引き起こすという、非常に複雑な病態をもっています。

💡 用語解説:軟骨内骨化(なんこつないこっか)

手足の長い骨や背骨は、まず軟骨でひな型が作られ、それが徐々に骨に置きかわって伸びていきます。このしくみを「軟骨内骨化」といいます。FGFR3はこのプロセスにブレーキをかける役割を持つため、その機能が失われると軟骨内骨化が進みすぎ、骨が過剰に伸びてしまいます。一方、頭蓋骨などは軟骨を介さず膜から直接骨になる「膜性骨化」で作られ、こちらはCATSHLでは逆に遅れる傾向があります。

機能獲得型 vs 機能喪失型:正反対の表現型

同じFGFR3遺伝子でも、変異が「働きを強める」か「弱める」かで、生まれる病気はまったく逆の方向になります。下の表で整理します。

比較項目 機能獲得型(働きが強い) 機能喪失型(働きが弱い)=CATSHL
変異のはたらき 活性化(ブレーキが効きすぎる) 機能の部分的喪失(ブレーキが外れる)
軟骨細胞への影響 増殖・分化が抑えられる 増殖が過剰に進む
背の高さ 低身長(短い手足) 高身長(長い手足)
代表的な疾患 軟骨無形成症・軟骨低形成症・致死性骨異形成症・SADDAN・Muenke症候群 など CATSHL症候群

動物モデルが教えてくれたこと

ヒトでの報告より10年も前の1996年、すでにFgfr3ノックアウトマウス(FGFR3を働かなくしたマウス)が作られており、骨の過成長と難聴を示していました。内耳を詳しく調べると、音を伝える有毛細胞を支える「柱細胞」が欠けていることがわかり、CATSHL症候群の難聴が内耳そのものの発生異常によることを裏づけています。

さらにゼブラフィッシュ(小型の魚)のfgfr3変異モデルでは、マウスでは再現されにくかった頭蓋顔面の異常・小頭症・縫合の閉じ遅れが観察され、聴覚にかかわる器官の発生異常も確認されました。羊の「スパイダー・ラム症候群」も同じFGFR3変異が原因で、極端に長く曲がった脚を示します。これらは、FGFR3が動物の骨格や感覚器の発生を制御する普遍的なブレーキ役であることを示しています。

3. 主な症状と表現型

CATSHL症候群の症状は、骨格・頭蓋顔面・聴覚・神経発達など多くの臓器にまたがります。完全に症状が出る(浸透率が高い)一方で、重症度には個人差があります。代表的な所見を領域別にまとめます。

🦴 四肢・関節・骨格

  • 高身長(成人男性の平均約195.6cm、女性約177.8cm)
  • 屈指症(指が曲がったまま)・斜指症・クモ状指
  • 大腿骨骨幹端の拡大・外側への脛骨の偏位
  • 骨軟骨腫(良性の骨のこぶ)

🩻 背骨・胸郭

  • 側弯症・後側弯症(重症例で手術が必要なことも)
  • 漏斗胸(胸の中央がへこむ)
  • 背が高く境界が不規則な椎体

👶 頭蓋顔面・口腔

  • 小頭症・頭蓋縫合の閉じ遅れ・ウォーム骨(過剰骨)
  • 高口蓋・軽い顔面の非対称・奥まった目
  • 口蓋垂裂・円錐歯(非典型例で報告)

👂 聴覚・神経発達

  • 両側性の感音難聴(先天性または進行性)
  • 一部に発達遅滞・知的障害(全例ではない)

💡 用語解説:屈指症(くっししょう)

1本以上の指の関節が、曲がったまま伸ばしにくくなる状態です。CATSHL症候群の名前の由来にもなった、特徴的な所見です。骨が急に伸びるのに対して、腱や靭帯などの「すじ」の伸びが追いつかず、関節が引っぱられて曲がってしまうことが一因と考えられています。手の指にも足の指にも見られます。

💡 用語解説:感音難聴(かんおんなんちょう)

耳の奥の「内耳」や、そこから脳へ音を伝える神経の経路に原因がある難聴です。鼓膜や耳小骨の問題による「伝音難聴」とは区別されます。CATSHL症候群の難聴はこの感音難聴で、生まれつき強い難聴がある場合と、小児期から思春期にかけて徐々に進む場合があります。早期発見と継続的な聴力評価が大切です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「背が高いだけ」と見過ごさないために】

高身長は、それ自体が病気として扱われにくい所見です。だからこそ、CATSHL症候群は見逃されやすい疾患でもあります。けれども、高身長に「指の曲がり」「進行する側弯」「両耳の難聴」が組み合わさっているとき、私たち臨床遺伝の専門家は背景に1つの遺伝子の物語があるのではないか、と考えます。

大切なのは、症状を「点」ではなく「組み合わせ(パターン)」として見ることです。一つひとつはありふれていても、その並び方には意味があります。このページが、その組み合わせに気づくきっかけになればと願っています。

知的発達は多くの方で保たれます

不安に思われる方が多い点なので、はっきりお伝えします。CATSHL症候群では、多くの方で知的発達が保たれます。ユタ家系の調査では、診断のついた20名のうち発達遅滞や知的障害を伴ったのは一部にとどまり、そのうち数名に小頭症が見られました。一方で、症状が軽い方もいれば、運動や言語の発達に支援が必要な方もいて、重症度には個人差があります。発達がゆっくりな場合には、早期からの療育が将来の力になります。

4. 鑑別診断:似ているけれど違う病気

高身長・長い手足・関節の曲がり・側弯という特徴は、他の「過成長症候群」や結合組織の病気とも重なります。命にかかわる合併症の有無が疾患ごとに大きく異なるため、正確な鑑別がとても重要です。

マルファン症候群(FBN1)

高身長・クモ状指・側弯はよく似ています。

決定的な違い:マルファンは水晶体のずれや、大動脈の拡張・解離という命にかかわる心血管合併症を伴います。一方でCATSHLに必須の感音難聴は特徴的ではありません。

ビールス症候群(FBN2)

クモ状指・生まれつきの多発関節拘縮・高身長で外見が似ます。

鑑別点:耳介のしわ寄った特徴的な変形を伴うことが多く、CATSHLに必須の重い感音難聴や小頭症は通常みられません。

LADD症候群(FGFR2/FGFR3/FGF10)

涙道異常・耳介奇形と難聴・歯の異常(円錐歯)・手指異常が特徴。同じFGFR3の機能喪失で起こることがあり、円錐歯はCATSHLの非典型例とも重なります。

鑑別点:LADDの典型例には高身長・重い側弯・小頭症はみられません。骨の過成長の有無が鑑別の核心です。

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群(GPC3)

X連鎖潜性の過成長症候群で主に男性に発症。

決定的な違い:粗な顔貌・巨大舌・内臓腫大を伴い、ウィルムス腫瘍や肝芽腫など腹部の悪性腫瘍リスクが高い点が大きく異なります。

なお、同じFGFR3でも「機能獲得型」軟骨無形成症軟骨低形成症致死性骨異形成症I型致死性骨異形成症II型SADDANMuenke症候群黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群は、いずれも低身長などCATSHLとは逆方向の表現型になるため、臨床的にはむしろ区別しやすい疾患群です。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

CATSHL症候群は、症状の組み合わせから疑い、最終的には遺伝子検査でFGFR3の機能喪失型ミスセンス変異を見つけることで確定します。世界共通の正式な診断基準はまだ確立されていませんが、以下の流れが推奨されます。

💡 CATSHL症候群を疑う所見の組み合わせ

  • 著しい高身長と細長い手足
  • 屈指症(手指・足趾の関節拘縮)
  • 進行する側弯症・後側弯症
  • 両側性の感音難聴(先天性または進行性)

💡 用語解説:全エクソームシーケンス(WES)

遺伝子のうち、タンパク質の設計図となる部分(エクソン)をまとめて網羅的に読み解く検査です。CATSHL症候群のように症状が他の病気と重なりやすく、原因遺伝子を最初から1つに絞りにくい疾患では、多くの遺伝子を一度に調べられるWESが特に有効です。患者さんと両親の3名をまとめて調べる「トリオ解析」を行うと、新生(de novo)変異も効率よく見つけられます。

検査で大切なのは変異の「解釈」です。FGFR3に変異が見つかったとき、それがチロシンキナーゼドメインの特定領域(621番目のアミノ酸付近など)にある「機能喪失型」なのか、それとも軟骨無形成症などを起こす「機能獲得型」なのかを、臨床遺伝の専門家が慎重に見極める必要があります。同じ遺伝子でも結果の意味がまったく変わるからです。

出生前の検査と出生後の検査は分けて考えます

「診断=出生前」と思われがちですが、検査のタイミングと方法は分けて理解することが重要です。

🤰 出生前の確定診断

家系内ですでに原因変異がわかっている場合などに、絨毛検査・羊水検査でその変異を直接調べます。胎児超音波で長い骨の過成長などが疑われた場合に、全エクソーム解析を組み合わせる報告もあります。

👶 出生後の確定診断

採血による遺伝子解析が中心です。原因を絞りきれない段階では、クリニカルエクソーム検査が有力な選択肢になります。発達遅滞を伴う場合は発達障害・知的障害の遺伝子検査も検討されます。

出生前の遺伝学的検査としては、FGFR3を含む単一遺伝子を対象としたNIPTのプラン(ダイヤモンドプランインペリアルプラン)も存在します。ただし、どの検査を選ぶか、そもそも検査を受けるかどうかは、ご家族の状況とお考えによって変わります。CATSHL症候群は知能が保たれることが多く生命予後も比較的良好とされるため、出生前に知ることが常に利益になるとは限りません。私たちは情報を中立にお伝えする立場であり、選択はご家族にゆだねられます。

6. 治療と長期管理

現時点で遺伝子そのものを修復する根本治療はなく、医療は症状ごとの対症療法と、複数の科が連携する集学的管理が中心です。疾患そのものによる致死性は低く、生命予後は比較的良好とされますが、生活の質を保つために生涯にわたる管理が必要です。

整形外科的管理

側弯症が進行する場合は装具による保存的治療や、重症例では適切な時期の脊椎固定術を検討します。屈指症には理学療法・作業療法、骨軟骨腫が痛みや可動域制限を起こす場合は切除術が考慮されます。小児期からの成長モニタリングが大切です。

聴覚の管理

難聴は言語やコミュニケーションの発達に影響するため、乳幼児期からの聴覚スクリーニングと継続的な聴力評価が欠かせません。程度に応じて補聴器の早期装着を、高度・重度の場合は人工内耳の埋め込みを専門医と相談します。

発達支援・教育

発達遅滞や知的障害がみられる場合には、早期からの療育、言語聴覚士・理学療法士・特別支援教育の専門家による個別の支援プログラムが力になります。

将来の治療への期待

基礎研究では、FGFR3の機能不全によるWnt/β-カテニン経路の過剰な活性化が骨の過成長の主因であることが突き止められています。ゼブラフィッシュモデルを使った実験で、この経路を薬で抑えると、頭蓋顔面や骨格の異常が部分的に和らぐことが示されました。まだ前臨床段階ですが、共通の経路を持つ他の骨格過成長疾患も含め、将来の分子標的治療につながる可能性が期待されています。

7. 遺伝カウンセリングの意義

確定診断の前後で、ご家族への丁寧な臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが重要です。主に次のような内容を扱います。

  • 遺伝形式と再発リスク:多くの家系は常染色体顕性(優性)遺伝で、患者さんから子へ伝わる確率は理論上50%です。一方、新生(de novo)変異で初めて生じる場合や、エジプト家系のように常染色体潜性(劣性)遺伝の形をとる場合もあり、家系ごとに状況が異なります。
  • 予後の見通し:知能が保たれることが多く、生命予後も比較的良好という情報は、教育・社会参加・自立に向けた長期的な見通しを立てるうえで、ご家族にとって大切な支えになります。
  • 出生前診断の選択肢:次のお子さんを望む場合、すでに家系内の変異がわかっていれば絨毛検査・羊水検査による出生前診断が選択肢になります。受けるかどうかはご家族で話し合ってお決めください。
  • 心理的サポートと情報の継続:非常に稀な疾患のため情報が限られています。長期的な経過を医療機関と共有し続けることが、ご本人とご家族の安心につながります。

8. よくある誤解

誤解①「FGFR3の変異=低身長になる」

FGFR3変異の多くは軟骨無形成症など低身長を起こしますが、CATSHL症候群は「機能喪失型」のため逆に高身長になります。同じ遺伝子でも変異の性質で結果は正反対です。

誤解②「背が高いだけで心配ない」

高身長は問題視されにくい所見ですが、CATSHLでは進行する側弯症や両側の感音難聴など、継続的な管理が必要な症状を伴います。「ただの高身長」と見過ごさない視点が大切です。

誤解③「マルファン症候群と同じ」

高身長やクモ状指は似ますが、CATSHLには大動脈解離などの心血管合併症や水晶体のずれは主症状ではなく、代わりに感音難聴が必須です。遺伝子検査で明確に区別されます。

誤解④「親も同じなら必ず遺伝する」

顕性遺伝の家系がある一方、新生(de novo)変異や潜性遺伝の家系もあり、遺伝のしかたは一律ではありません。だからこそ、家系ごとの正確な評価が欠かせません。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「正反対の病気」が教えてくれること】

同じFGFR3という1つの遺伝子から、低身長になる軟骨無形成症と、高身長になるCATSHL症候群という正反対の病気が生まれる——これは遺伝医学の奥深さを象徴する事実です。「遺伝子に変異がある」というだけでは、何も決まりません。どこに、どんな変異があるのか。働きが強まるのか弱まるのか。その一つひとつが、まったく違う物語を紡ぎます。

だからこそ私は、遺伝子検査の結果を「白か黒か」で性急に判断することを避け、変異の意味を丁寧に読み解くことを大切にしています。希少疾患であればなおさら、一人ひとりの診断精度がご家族の人生に与える影響は大きい。正確に知り、中立に伝え、決定はご家族にゆだねる——その姿勢を、これからも貫いていきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. CATSHL症候群は遺伝しますか?

多くの家系は常染色体顕性(優性)遺伝で、患者さんから子へ伝わる確率は理論上50%です。一方で、新生(de novo)変異で初めて生じる場合や、近親婚の家系では常染色体潜性(劣性)遺伝の形をとる場合もあり、遺伝のしかたは一律ではありません。家系ごとの正確な評価のため、臨床遺伝専門医への相談をお勧めします。

Q2. 高身長以外にどんな症状がありますか?

指が曲がる屈指症、進行する側弯症、両側性の感音難聴が代表的です。ほかに漏斗胸、小頭症や頭蓋縫合の閉じ遅れ、高口蓋、骨軟骨腫(良性の骨のこぶ)などがみられることがあります。一部の方では発達遅滞や知的障害を伴いますが、多くの方で知的発達は保たれます。

Q3. どのように診断されますか?

高身長・屈指症・側弯症・感音難聴などの組み合わせから臨床的に疑い、遺伝子検査でFGFR3の機能喪失型ミスセンス変異(p.Arg621Hisなど)が確認されることで確定します。原因を絞りきれない段階では、両親も含めて調べるトリオ全エクソームシーケンスが有力です。同じFGFR3でも機能獲得型か機能喪失型かの見極めが重要になります。

Q4. 軟骨無形成症と同じFGFR3が原因なのに、なぜ正反対なのですか?

FGFR3は骨の成長に「ブレーキ」をかける役割を持ちます。軟骨無形成症はブレーキが効きすぎる「機能獲得型」で低身長になり、CATSHL症候群はブレーキが外れる「機能喪失型」で高身長になります。同じ遺伝子でも、変異がはたらきを強めるか弱めるかで、結果がまったく逆方向になるのです。

Q5. 難聴は治療できますか?

内耳の発生にかかわる感音難聴のため、聴力そのものを元どおりにする治療は難しいのが現状です。ただし、補聴器の早期装着や、高度・重度の場合の人工内耳によって、聞こえとことばの発達を大きく支えることができます。乳幼児期からの聴覚スクリーニングと継続的な評価が重要です。

Q6. 出生前にわかりますか?

家系内で原因となる変異がすでにわかっている場合は、絨毛検査や羊水検査でその変異を調べることが可能です。胎児超音波で骨の過成長が疑われたケースで全エクソーム解析が用いられた報告もあります。ただしCATSHL症候群は知能が保たれることが多く予後も比較的良好なため、出生前に知ることが常に利益とは限りません。受けるかどうかはご家族で話し合ってお決めください。

Q7. 知能や発達に影響はありますか?

多くの方で知的発達は保たれます。ユタ家系の調査では、診断のついた方の一部に発達遅滞や知的障害がみられ、そのうち数名に小頭症が伴いました。重症度には個人差があるため、発達がゆっくりな場合は早期からの療育や教育支援が大切です。

Q8. LADD症候群とはどんな関係がありますか?

LADD症候群も同じFGFR3の機能喪失で起こることがある疾患で、涙道異常・難聴・歯の異常(円錐歯)・手指異常を特徴とします。2024年に報告されたCATSHLの非典型例では、本来LADDに典型的な円錐歯がみられました。両者は完全に独立というより、FGFR3の機能低下の程度や部位の違いで連続的に表現型が変わる「スペクトラム」としてとらえられつつあります。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

CATSHL症候群をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM #610474. Camptodactyly, Tall Stature, and Hearing Loss Syndrome (CATSHLS). Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] Toydemir RM, et al. A novel mutation in FGFR3 causes camptodactyly, tall stature, and hearing loss (CATSHL) syndrome. Am J Hum Genet. 2006;79(5):935-941. [PubMed]
  • [3] Cannova S, et al. (Pezzani L, senior author). CATSHL syndrome, a new family and phenotypic expansion. Clin Genet. 2024;105(3):313-316. [PubMed]
  • [4] Escobar LF, Tucker M, Bamshad M. A second family with CATSHL syndrome: confirmatory report of another unique FGFR3 syndrome. Am J Med Genet A. 2016;170(7):1908-1911. [DOI]
  • [5] Colvin JS, et al. Skeletal overgrowth and deafness in mice lacking fibroblast growth factor receptor 3. Nat Genet. 1996;12(4):390-397. [DOI]
  • [6] Sun X, et al. Fgfr3 mutation disrupts chondrogenesis and bone ossification in zebrafish model mimicking CATSHL syndrome partially via enhanced Wnt/β-catenin signaling. Theranostics. 2020;10(16):7111-7130. [PMC]
  • [7] Orphanet. Camptodactyly-tall stature-scoliosis-hearing loss syndrome. ORPHA:85164. [Orphanet]
  • [8] NCBI MedGen / GTR. Camptodactyly-tall stature-scoliosis-hearing loss syndrome (C1864852). [NCBI]
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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