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LADD症候群1型とは?涙・唾液・歯・指にあらわれる症状から診断・治療までを専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

LADD症候群1型は、FGFR2遺伝子のチロシンキナーゼドメインに生じるミスセンス変異によって起こる、100万人に1人未満という超希少な常染色体顕性(優性)遺伝の先天異常症候群です。涙器(涙腺・涙道)、耳と聴覚、歯と唾液腺、指趾という4つの領域に広く異常があらわれるのが特徴で、診療現場で最も警戒すべきは、後天性の自己免疫疾患であるシェーグレン症候群と取り違えてしまう誤診です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 FGFR2遺伝子・先天異常・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. LADD症候群1型とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FGFR2遺伝子の変異によって、体の発生を指揮するFGFシグナルが弱まり、涙腺・唾液腺・耳・歯・指の形成がうまくいかなくなる先天性の病気です。「涙が出にくい・唾液が少ない・難聴・指(特に親指)の異常」という組み合わせが特徴で、多くの方で知的発達は保たれます。涙と口の乾燥だけに注目すると、シェーグレン症候群と誤診されることがあります。

  • 疾患の定義 → OMIM 149730、別名Levy-Hollister症候群、常染色体顕性遺伝、有病率100万人に1人未満
  • 原因とメカニズム → FGFR2遺伝子(10q26)のチロシンキナーゼドメインのミスセンス変異によるFGFシグナルの低下
  • 主な症状 → 涙器の異常(約71%)・唾液腺低形成による口腔乾燥と重度のむし歯・難聴・親指の低形成や合指症
  • 鑑別診断 → シェーグレン症候群との誤診回避、ALSG・EEC症候群との違いを詳解
  • 診断・管理 → 遺伝子解析(WES・パネル)と、眼科・歯科・耳鼻科・整形外科・麻酔科による集学的ケア

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1. LADD症候群1型とは:疾患の定義と歴史的背景

LADD症候群という名前は、症状があらわれる4つの場所の頭文字からつくられています。Lacrimo(涙器)、Auriculo(耳介・聴覚)、Dento(歯)、Digital(指趾)——この4領域の先天的な異常を中心とする、非常に稀な遺伝性疾患です。1967年にLevy医師が、涙器の欠損・強い口の乾燥・耳の奇形・歯や手足の異常をもつ患者さんを初めて報告し、1973年にHollister医師らが家族性の例を報告したことから、Levy-Hollister症候群とも呼ばれています。

💡 用語解説:常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたいけんせいいでん)

「常染色体」とは、性別を決める性染色体(X・Y)以外の染色体のこと。「顕性(旧称:優性)」とは、2本ある染色体のうちどちらか1本に変異があるだけで症状があらわれることを意味します。LADD症候群1型では、変異した遺伝子を1つ持つだけで発症し、親から子へ受け継がれる確率は理論上50%です。遺伝形式についてさらに詳しくは遺伝形式の解説ページもご覧ください。

国際的な希少疾患データベースOrphanetでは「ORPHA:2363」として登録され、推定有病率は100万人に1人未満とされています。ただし症状の重さには大きな幅があり、軽い人は見逃されたり、後述するように別の病気と誤診されたりしているため、実際にはもっと多くの方がいる可能性が指摘されています。

LADD症候群は、原因となる遺伝子の違いによって3つのタイプに分けられます。FGFR2遺伝子の変異によるものが「LADD症候群1型(OMIM 149730)」、FGFR3遺伝子によるものが「LADD症候群2型」、これらの受容体に結合する相手(リガンド)であるFGF10遺伝子によるものが「LADD症候群3型」です。3つはいずれも同じFGFシグナルの障害が原因のため、症状はとてもよく似ています。

📌 補足:本ページはFGFR2が原因のLADD症候群1型を中心に解説します。2型(FGFR3)・3型(FGF10)も臨床像はほぼ重なります。

2. 原因遺伝子FGFR2と分子病態メカニズム

LADD症候群1型の根っこにあるのは、体づくりの「指令」を伝えるFGF(線維芽細胞増殖因子)シグナルの不調です。このシグナルは、胎児の発生中に異なる細胞同士が化学的な合図をやりとりして器官を立体的に組み立てる「司令塔」のような役割を果たしています。

💡 用語解説:FGFR2遺伝子と受容体チロシンキナーゼ

FGFR2は、第10番染色体(10q26)にあり、「線維芽細胞増殖因子受容体2」というタンパク質の設計図です。このタンパク質は細胞の表面(細胞膜)を貫いて存在し、外側でFGF10などの相手と結合すると、内側にある「チロシンキナーゼ」という部分が反応して細胞の中へ「増えなさい・育ちなさい」という指令を送ります。チロシンキナーゼ=細胞内へ指令を伝えるスイッチ部分と考えるとイメージしやすいです。

LADD症候群1型では、このFGFR2のなかでも特にチロシンキナーゼドメイン(スイッチ部分)にミスセンス変異が起こります。その結果、外から合図を受け取ってもスイッチがうまく入らず、細胞内へ伝わる指令が弱くなってしまいます。

💡 用語解説:ミスセンス変異とは

DNAの1文字(塩基)が変わることで、タンパク質を構成するアミノ酸が別の種類に入れ替わるタイプの変異です。1か所の置き換わりでもタンパク質の形や働きが変わり、機能に影響します。LADD症候群1型では、この変化がスイッチ部分の働きを弱めます。より詳しくはミスセンス変異の解説ページをご覧ください。

これまでに報告されている主なFGFR2変異の例:
・p.Ala628Thr(A628T):628番目のアラニンがスレオニンに置き換わる変異
・p.Ala516Val(c.1547C>T):516番目のアミノ酸が変わる変異
・c.1991G>A:完全な唾液腺欠損を伴う重症例で報告された新生突然変異

これらの変異の多くは、結合後の自己リン酸化や、その先のMAPK経路・PI3K-Akt経路といったシグナル伝達の流れを弱めます。指令が弱まると、胎児期の細胞の成熟・分裂・組織のパターン形成が妨げられます。特にFGF10とFGFR2の組み合わせは、涙腺・唾液腺などの外分泌腺が枝分かれして発達する「分枝形態形成」や、手足の先端で指の形を決める「頂端外胚葉堤(AER)」の形成に欠かせません。だからこそ、これらの器官に集中して形成不全や奇形が起こるのです。

💡 用語解説:機能(型)の低下と新生突然変異

LADD症候群1型の変異は、スイッチの働きを弱める「機能低下型」の性質をもつと考えられています。タンパク質が十分に働けなくなる仕組みについては機能喪失型変異の解説ページが参考になります。

新生突然変異(de novo)とは、両親には存在せず、精子や卵子がつくられる段階や受精直後に新しく生じた変異のこと。LADDでは家族性の例も、新生突然変異の孤発例も報告されています。詳しくは新生突然変異の解説ページへ。

3. 主な症状と全身の合併症

LADD症候群1型の症状は、名前のとおり涙器・耳・歯と唾液腺・指趾の4領域が中心ですが、腎臓・顔面・呼吸器などにも及ぶことがあります。同じ家族で同じ変異を持っていても、人によってあらわれ方や重さが大きく異なる(表現型の多様性)点が特徴です。

👁️ 涙器・眼

  • 涙腺の低形成・無発生による無涙症・重度のドライアイ
  • 涙点欠損・鼻涙管閉鎖による慢性的な涙目・涙嚢炎
  • 進行すると角結膜炎・角膜潰瘍のリスク

🦷 歯・唾液腺

  • 大唾液腺の低形成・欠損による強い口腔乾燥
  • 急速に進む重度のむし歯・早期の歯の喪失
  • 部分無歯症・小歯症・ペグ状歯・タウロドント

🦻 耳・聴覚

  • カップ状の低位耳介(耳の付き方の異常)
  • 感音難聴・伝音難聴・混合性難聴
  • 早期の難聴は言語発達の遅れにつながりうる

✋ 指趾・四肢

  • 親指(拇指)の低形成・欠損、三指節母指
  • 合指症・小指の屈指症・多指症
  • 橈骨無形成・橈尺骨癒合症による可動域制限

LADD症候群における主要症状の推定発現頻度

※少数のコホート研究・症例レビューに基づく推定値です。表現型は家族間・個人間で大きく異なるため、目安としてご覧ください。

歯の異常(部分無歯症・エナメル質形成不全など)

約90%

涙器系の欠損(涙点・涙道の低形成/無形成)

約71%

角膜潰瘍・重度のドライアイ

約64%

💡 用語解説:唾液が減るとなぜむし歯が増える?

唾液は単なる「潤い」ではなく、歯を修復するカルシウムやリンを供給し、口の中の酸を中和し、抗菌成分で歯と粘膜を守る大切な液体です。LADDで唾液腺が育たず唾液が極端に減ると、乳幼児期から急速で重いむし歯が進み、歯を早く失う原因になります。だからこそ早期からの徹底した予防歯科が欠かせません。

4領域以外の全身合併症

FGFシグナルは全身の器官づくりに関わるため、古典的な4領域以外にも合併症が報告されています。具体的には、腎・泌尿器の異常(腎無発生・水腎症・腎硬化症、男性では尿道下裂)、頭蓋顔面の異常(口蓋裂・口唇裂、幅広い鼻梁など)、呼吸器の問題(喉頭蓋低形成、肺血管低形成による肺高血圧、まれに自然気胸の反復)、そして一部の症例では発達の遅れや大脳基底核の頭蓋内石灰化などです。腎臓や呼吸器の合併症は、生涯にわたる定期的なチェックが重要になります。

4. 鑑別診断:シェーグレン症候群・ALSG・EEC症候群との違い

LADD症候群1型の診療で最も警戒すべき落とし穴は、後天性の自己免疫疾患であるシェーグレン症候群との取り違えです。LADDの患者さんは「強いドライアイ」と「ドライマウス」という、シェーグレン症候群の二大症状とそっくりの訴えで内科やリウマチ科を受診することがあります。

⚠️ なぜ誤診が危険なのか

シェーグレン症候群と誤診されると、本来不要な免疫抑制療法やステロイドが投与されてしまうおそれがあります。LADDは生まれつきの腺の形成不全が原因なので、これらの治療はまったく効かないばかりか、感染症リスクや副作用だけを患者さんに負わせてしまいます。若くして強いドライアイ・ドライマウスがある、自己抗体(抗SS-A/SS-B抗体)が陰性、といった場合は、耳の形・歯の先天的な欠損・指の軽い異常など、LADDに特有の所見が隠れていないかを全身でていねいに診ることが大切です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【乾く症状を見たら、生まれつきも疑う】

「目が乾く・口が渇く」と聞くと、多くの医師はまずシェーグレン症候群を思い浮かべます。それ自体は自然なことです。ただ、若い方で症状が強く、しかも自己抗体が出ていないとき、私は一度立ち止まって「これは後天的なものだろうか、それとも生まれつきの問題だろうか」と考えるようにしています。

耳の形、歯が生まれつき足りないかどうか、小指の曲がり——こうした小さなサインに気づけるかどうかで、診断にたどり着く時間がまったく変わります。誤った診断のもとで効かない治療を続けてしまう前に、全身を見渡す視点を持つこと。これが希少疾患の診療で私がいちばん大切にしていることです。

シェーグレン症候群との鑑別

違いのポイント:シェーグレンは後天性の自己免疫疾患で、自己抗体が陽性になることが多い病気です。

LADDの手がかり:生まれつきの発症で、耳・歯・指の先天異常を伴い、自己抗体は陰性です。

ALSG(涙腺・唾液腺無発生症)との鑑別

LADD3と同じFGF10遺伝子の変異による「対立遺伝子疾患」で、涙目・口腔乾燥・重度のむし歯を起こします。

鑑別の決め手:ALSGは通常、手足の骨格異常や耳・聴覚の異常を伴いません。

EEC症候群・TP63関連疾患との鑑別

EEC症候群はTP63遺伝子の変異が原因で、裂手・裂足、外胚葉異形成、口唇口蓋裂を特徴とします。四肢と外胚葉器官の異常がLADDと一部重なります。

最近の知見:緑内障や角膜の菲薄化を伴う非典型的なLADD様の表現型でTP63変異が見つかった報告もあり、遺伝学的な境界は広がりつつあります。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

LADD症候群1型の診断は、①特徴的な症状の確認、②画像検査(唾液腺・涙腺のエコーやMRI、腎臓のスクリーニング)、③分子遺伝学的検査——の組み合わせで確定します。なかでも遺伝子検査は、確定診断と原因変異の特定に欠かせない強力なツールです。

💡 用語解説:全エクソーム解析(WES)とパネル検査

WES(Whole Exome Sequencing)は、遺伝子のうちタンパク質をつくる領域(エクソン)全体をまとめて読み取る次世代シーケンス手法です。原因が一つに絞れないときに広く調べられます。一方ターゲット遺伝子パネル検査は、FGFR2・FGFR3・FGF10など狙いを定めた遺伝子をまとめて調べる方法です。LADDが疑わしいのに確定しない例で、WESが診断を大きく前進させることがあります。

出生後の確定診断

生まれた後の確定診断は、血液などから採取したDNAを用いたFGFR2遺伝子の解析(標的パネル検査・WES)で行います。染色体を顕微鏡で見るGバンド法では、こうした1文字レベルの変異は検出できません。当院では、頭蓋骨縫合早期癒合症NGSパネルでFGFR2を含む遺伝子を解析できます。これはFGFR2を解析対象に含む検査であり、LADDの確定にあたっては、見つかった変異がチロシンキナーゼドメインに該当するかなどを臨床遺伝専門医が慎重に評価します。

出生前の検査

家系内で原因変異がすでに分かっている場合(たとえば患者さんご本人が次のお子さんを望むとき)は、絨毛検査・羊水検査による出生前の確定的な遺伝子診断が選択肢になります。なお、当院のNIPT(ダイヤモンドプランインペリアルプラン)はFGFR2を解析対象に含みますが、これはスクリーニング検査であり、確定診断は羊水・絨毛検査による必要があります。

💡 出生前に「見つける」ことの意味は、ご家族ごとに異なります

LADD症候群1型は症状の幅が広く、同じ変異でも重さがさまざまです。そのため出生前に見つけることが常に利益になるとは限りません。私たち医師は情報をお伝えする立場であり、検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、中立的な情報提供のもとでご家族が決めることだと考えています。

6. 治療と長期管理:集学的アプローチ

現在、遺伝子そのものを治す根本治療はありません。治療は各症状をやわらげ、機能を補い、合併症を防ぐ「対症療法」が中心です。影響が多くの臓器に及ぶため、小児科・眼科・歯科・耳鼻咽喉科・整形外科・麻酔科などが連携する集学的チーム医療が不可欠です。

眼科:角膜を守る

防腐剤フリーの人工涙液の頻回点眼、保湿用眼帯、就寝時の眼軟膏が基本。涙点プラグや涙道のバイパス手術(涙嚢鼻腔吻合術)、重症例では角膜移植や角膜輪部幹細胞移植が検討されます。

歯科:徹底した予防

乳歯が生える時期からの高濃度フッ素塗布、人工唾液、糖分制限が重要。歯の欠損や重度のエナメル質形成不全には、小児期からの義歯、成長後のインプラントやクラウン修復が選択肢です。

聴覚・言語・四肢

新生児期からの聴力評価と必要に応じた補聴器、言語聴覚士による早期療育が大切です。手の機能を高めるため、母指化術や合指症の分離術など整形外科的な再建が適応となることもあります。

⚠️ 手術・麻酔のときに特に注意すべきこと

LADDの患者さんが手術や歯科治療を受けるとき、麻酔科医はいくつかの特有のリスクに直面します。顔面骨格や喉頭蓋の低形成による気管挿管の困難(difficult airway)、エナメル質が薄く壊れやすい歯、四肢の骨格異常による点滴ルート確保の難しさなどです。

さらに、もともと気道の分泌物が少ないため、術前にアトロピンなどの抗コリン薬を通常どおり投与すると分泌物が乾いて固まり、気道閉塞や術後の呼吸器合併症を招くおそれがあります。可能な限り避けるべきという強い専門的合意があります。

内科的には、腎奇形や水腎症のリスクを念頭に、定期的な腹部エコー・腎機能の血液検査・尿検査による尿路感染症の早期発見を、長期フォローに組み込むことが推奨されます。

7. 遺伝カウンセリングの意義

確定診断のあと、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングが大切になります。遺伝カウンセリングでは、主に次のような内容を扱います。

  • 遺伝形式と再発リスクの説明:常染色体顕性遺伝のため、患者さんご本人が子どもを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。一方で新生突然変異の例も多く、その場合ご両親には変異がありません。生殖細胞モザイクの可能性も考慮し、次のお子さんの出生前診断について情報提供します。
  • 表現型の多様性をふまえた見通し:同じ変異でも症状の重さは人によって大きく異なります。確実な予測が難しいことを共有しつつ、起こりうる合併症と備えを整理します。
  • 非指示的な意思決定支援:特定の検査をすすめたり、安心を保証したり、不安をあおったりはしません。臨床遺伝専門医は中立な情報提供者として、決定はご家族にゆだねます。
  • 心理的サポートの継続:希少疾患のため国内外の情報が限られます。長期的な自然歴の蓄積に向け、医療機関との連携を続けることが重要です。

8. よくある誤解

誤解①「ドライアイ・口の渇き=シェーグレン症候群」

同じ症状でも、原因は後天性の自己免疫とは限りません。若年で自己抗体が陰性なら、生まれつきのLADDの可能性も考える必要があります。

誤解②「軽そうだから放っておいてよい」

放置すると角膜潰瘍・重度のむし歯・腎機能障害などに進むことがあります。早期からの予防とフォローが予後を大きく左右します。

誤解③「涙と唾液だけの病気」

LADDは涙・唾液だけでなく、耳・歯・指、さらに腎臓や呼吸器にも関わる全身性の症候群です。多領域の評価が欠かせません。

誤解④「必ず親から遺伝している」

家族性の例もありますが、新生突然変異で初めて生じる孤発例も報告されています。「両親が健康だから遺伝病ではない」とは言い切れません。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【一つひとつの所見をつなげて、全体像を描く】

LADD症候群は、涙・耳・歯・指という一見バラバラに見える症状が、実は一本のFGFシグナルという糸でつながっています。診療では、目の前の患者さんが訴える「乾く」「むし歯が多い」「聞こえにくい」といった一つひとつの所見を、点ではなく線として結びつけて見ることが、正しい診断への近道になります。

根本的に治す薬はまだありませんが、眼科・歯科・耳鼻科・整形外科・麻酔科がチームで支えることで、お子さんの力を最大限に引き出すことは十分に可能です。将来は、FGFシグナルを補う分子標的治療や、涙腺・唾液腺の再生医療が大きな希望になると私は考えています。希少疾患だからこそ、正確な診断が、その後の人生を支える最初の一歩になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. LADD症候群1型は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の疾患です。患者さんご本人が子どもを持つ場合、変異が受け継がれる確率は理論上50%です。一方で、ご両親には変異がなく、お子さんで初めて生じる新生突然変異(de novo)の例も報告されています。次のお子さんの出生前診断などについては、臨床遺伝専門医へのご相談をおすすめします。

Q2. シェーグレン症候群と何が違うのですか?

シェーグレン症候群は後天性の自己免疫疾患で、抗SS-A/SS-B抗体などの自己抗体が陽性になることが多い病気です。一方LADDは生まれつきの腺の形成不全が原因で、自己抗体は陰性、そして耳の形・歯の先天的欠損・指の異常などを伴います。乾く症状が同じでも、原因も治療もまったく異なります。

Q3. どのように診断されますか?

涙器の異常・口腔乾燥と重度のむし歯・難聴・親指の異常などの特徴的な組み合わせから臨床的に疑い、画像検査で唾液腺・涙腺の形態を確認します。確定はFGFR2遺伝子の解析(ターゲットパネル検査やWES)で行い、見つかった変異がチロシンキナーゼドメインに該当するかなどを専門医が評価します。

Q4. 治る病気ですか?

現時点で遺伝子そのものを治す根本治療はありません。ただし、人工涙液や角膜の保護、徹底した予防歯科、補聴器や言語療法、手の機能再建手術などの対症療法と集学的ケアによって、症状の進行を抑え、生活の質を高く保つことは十分に可能です。重い心肺・腎合併症がなければ、平均的な寿命を全うできる方が多いとされています。

Q5. 出生前にわかりますか?

家系内で原因変異がわかっている場合は、絨毛検査や羊水検査による出生前の確定的な遺伝子診断が可能です。NIPTのダイヤモンドプラン・インペリアルプランはFGFR2を解析対象に含みますが、こちらはスクリーニング検査であり、確定診断は羊水・絨毛検査が必要です。検査を受けるかどうかは、中立的な情報提供のもとご家族で決めていただく事柄です。

Q6. 手術や麻酔のときに注意することはありますか?

気管挿管が難しい場合があること(difficult airway)、エナメル質が薄く歯が壊れやすいこと、点滴ルートの確保が難しいことに注意が必要です。また、もともと気道の分泌物が少ないため、術前にアトロピンなどの抗コリン薬をルーチンに使うと分泌物が乾いて固まり、気道閉塞を起こすおそれがあるため、可能な限り避けるべきとされています。事前に主治医・麻酔科に診断名を伝えておくことが大切です。

Q7. 知的障害はありますか?

多くの患者さんで知的発達は保たれますが、一部に発達の遅れを伴う例も報告されています。特に早期の難聴は、発話や言語の発達に影響することがあり、知的・発達の遅れと誤って受け取られるリスクもあります。早い時期からの聴力評価と療育が重要です。

Q8. LADD症候群1型・2型・3型はどう違うのですか?

原因となる遺伝子が異なります。1型はFGFR2、2型はFGFR3、3型はリガンドであるFGF10の変異が原因です。いずれも同じFGFシグナルの障害を起こすため、涙器・耳・歯・指の症状はとてもよく似ており、臨床的に区別がつきにくいことがあります。確定には遺伝子検査が役立ちます。

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参考文献

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  • [8] KEGG DISEASE. Lacrimo-auriculo-dento-digital syndrome (H00642). [KEGG]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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