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精液(精子)が少ない原因は?
精液が少ない原因の多くは、精子を作る機能に異常がある造精機能障害、精子を運ぶ通路に異常がある精路通過障害です。なお、判断基準となる精液検査の数値は体調や射精の間隔などによって変化するため、結果が良好でない場合は2~3回検査を行うこともあります。
造精機能障害や精路通過障害が起きる原因ははっきりしていません。ただ、精子の数が少ない理由としては以下の項目が挙げられます。
- ・性腺機能低下症(ホルモン産生の減少)などのホルモンの不均衡
- ・クラインフェルター症候群などの遺伝的問題
- ・赤ちゃんの頃に停留睾丸があった
- ・構造的な問題 – たとえば、精子を運ぶ管が病気やけがによって損傷を受けてブロックされている、または出産を欠席しているなど
- ・クラミジア、淋病または前立腺炎(前立腺の感染症)などの生殖器感染症
- ・精索静脈瘤 (睾丸の静脈の拡大)
- ・睾丸またはヘルニア修復に対する以前の手術
- ・睾丸の温度が常に高い
- ・過度のアルコール摂取、喫煙
- ・過体重または肥満である
人によって原因は変わってきますのでご自分に当てはまりそうな項目があれば泌尿器科医に相談をして治療を開始したほうがいいでしょう。もし上記にもあるように性病が原因ならばパートナーのためには早く治療をしてください。
※参照サイト:イギリスの国営医療制度―ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)|Low sperm count
精子量を増やすメリット
精液には、主に3つの役割があります。
- ・精液中に含まれる糖類が、精子が運動するためのエネルギーになる
- ・アルカリ性の精液が、膣内環境(酸性)から精子を守る
- ・乾燥による精子の死滅を防ぐ
妊活をするならば精子の量は多いほうが妊娠しやすくなります。なぜなら自然妊娠するには、運動している精子の数(総運動精子数)が大切だからです。
例えば精子濃度が同じ場合、精液量が2倍になれば総運動精子数は2倍になり、妊娠できる可能性は高くなるのです。不妊治療では液の量が少ないと、容器内で精液が乾燥して精液を準備(調整)できなくなるといった問題が起きます。
自然妊娠可能な精子の数は?
WHOの定める正常値は「1ccあたり2000万匹以上」とあります。これは「妊娠した人の中で一番少なかったのが2000万匹だった」という意味です。
実際に妊娠するためにはどれくらいの精子量が必要なのかは下の表にまとめていますのでご覧ください。
数(1ccあたり) | 運動率 | |
---|---|---|
正常値 | 6,000~8,000万匹以上 | 70~80% |
軽度 | 5,000万匹程度 | 50%程度 |
中等度 | 1,000万匹以下 | 20~40% |
重度 | 100万匹以下 | 10%以下 |
泌尿器科医で精液検査を受けた結果、軽度ならば生活習慣の改善で精液を増やしていきますが、中度や重度の場合は治療が必要です。
自覚症状で分かること
精液の状態を見ると何かしらの問題があるとわかります。以下の3つが主な自覚症状です。
- ・精液量が少ない
- ・血液が混ざる
- ・透明な精液(白く濁っていない)
精液量が極端に少ない場合、不妊の原因である逆行性射精などが疑いがあります。
また血液が混ざる場合もさまざまな原因が考えられますが、精巣などの精子が通る部分に結石や腫瘍があることで精液が塞がれてしまっているかもしれません。そうなると精液の量が減ってしまうため不妊の原因となります。
また精液が透明で白く濁っていない場合は、液中の精子が少ないことが原因で不妊となってしまいます。
精液の色が赤やピンクの時は血が混じっている可能性はありますが、薄く透明になった精液を調べた結果、問題が起きていたことはありません。
また、陰のうで以下の自覚症状があるときは精索静脈瘤の可能性があります。
- ・陰嚢が腫れている・デコボコしている
- ・陰嚢に熱を持っている
- ・陰嚢に痛みや違和感がある
精索静脈瘤は、男性不妊症の40%を占める病気です。この病気は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う3層構造の膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状を指します。一般男性の15%に見られる病気です。
精子を増やす方法
精巣は体温より2~3度低い状態で機能します。精巣を温めると、機能が低下するため以下の行動にご注意ください。
- ・喫煙
- ・長風呂
- ・サウナ
- ・ピッタリしたパンツ・下着を着ける
次にお酒の飲み過ぎは影響を与えると言われています。英国のチーフ メディカル オフィサーは週に14単位(1単位:ウイスキー1 杯 (25ml) )のアルコール摂取をしてはいけないと言っています。これは毎日缶ビールを1~2杯飲む程度なら問題ありません。
後、無理に禁欲をしてはいけません。禁欲をすると精子が古くなってしまい質が落ちてしまうからです。精子濃度が正常値の男性の場合は、禁欲期間1~7日なら運動量はほぼ変わりません。一方、乏精子症(精子濃度が少ない状態)の男性は禁欲期間1日後で運動量はピークとなります。
妊活中は禁欲期間は1日程度(2日1回は射精する)ことが望ましいでしょう。
精子の量と質を上げる上で外せないのが禁煙です。喫煙をしていると、非喫煙者と比較して、精子濃度や精液量、運動率、形態正常率など、あらゆるパラメーターが低くなると報告されています。また非喫煙者と比較して、喫煙者では精子濃度が約1000万匹/ml少なかったとも報告されていますので妊活をするならば禁煙に取り組んでください。
他にも一部の抗生物質の長期使用も、精子の質と量の両方に影響を与える可能性があります。もし普段から薬を服用している場合は医師に相談をしてください。
食事についてはイギリスの国営医療制度―ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)のサイトでは以下の記載がされています。
・毎日、さまざまな果物や野菜を 5 人前以上食べる
・食事の基本は、じゃがいも、パン、米、パスタなどの食物繊維の多いでんぷん質の食品です。
・いくつかの乳製品または乳製品の代替品(大豆飲料やヨーグルトなど)を含める
・豆類、豆類、魚、卵、肉、その他のタンパク質を食べる
※イギリスの国営医療制度―ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)|How can I improve my chances of becoming a dad?より引用
つまり健康的な体重を維持するために健康的でバランスの取れた食事を摂るのが精子を良好な状態に保つために不可欠ということです。一食でバランスを取るのは難しいので一日、もしくは一週間かけてバランスが取るようにしましょう。
※参照サイト:イギリスの国営医療制度―ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)|How can I improve my chances of becoming a dad?
挑戦しても精子が増えない場合は?
もし精子数が少ないと診断された場合、4つの選択肢があります。
- ・挑戦し続ける
- ・体外受精
- ・細胞質内精子注入法 (ICSI)
- ・ドナー授精
◯挑戦し続ける
もしかしたら最初はもう少し自然妊娠を試みることを提案するかもしれません。多くのカップルは、妊娠を試みてから2年以内に妊娠するケースが多いからです。
その場合、上述した方法で精子を増やしながら、2~3日置きに性行為をするのが主な対処法です。
◯体外受精
体外受精 (IVF) は、精子数がわずかに少なく、パートナーとの自然妊娠を最低でも2年間試みてきた場合のオプションです。
体外受精では、女性の卵巣から卵子が取り出され、実験室で精子と受精します。その後、受精卵は女性の子宮に戻され、成長と発達を遂げます。
◯細胞質内精子注入法 (ICSI)
細胞質内精子注入法 (ICSI) は、体外受精の一種で、単一の精子を卵子に直接注入して受精させます。その後、受精卵は女性の子宮に移されます。
ICSIは、パートナーとの自然妊娠を 2 年以上試みていて、精液中に精子がほとんどまたはまったくないか、精子の質が悪い場合に提供されることがあります。ICSI を受ける前に、治療が適切であることを確認するために、あなたとあなたのパートナーは評価を受ける必要があります。
これには、カップルの病歴や性行為に関する質問、および赤ちゃんに影響を与える可能性のある感染症や遺伝的問題、および ICSI が機能する可能性を確認するためのスクリーニング検査が含まれます。
◯ドナー授精
ドナー授精とは、他の男性から提供された精子を使用することです。
特に子供に遺伝する可能性のある遺伝性疾患がある場合は、ICSI の代わりにドナー授精を検討することをお勧めします。必要に応じて体外受精の一部として使用できます。
ドナー授精を検討している場合は、あなたとあなたの子供への影響について、夫婦でカウンセリングを受ける必要があります。
「精液が少ない」「射精ができない」といった男性不妊の原因は早期対策を
男性不妊の原因である「精液が少ない」「射精ができない」といった原因を放っておくとお子さんを授かる確率が低いままです。不妊症と聞くと女性ばかりがクローズアップされてきましたが、男性側にも原因があるのがおわかりいただけたかと思います。ご自身に当てはまりそうなものがあれば医師に相談をしてみてください。
不妊治療は夫婦で取り組むものです。自然妊娠が難しくても人工授精で妊娠できた人はたくさんいます。少し古いデータになりますが、厚生労働省が2004年に体外受精で生まれた子どもの割合が総出産数の1.67%だったのが、2010年には2.7%にまで上がっています。だからこそ精子の量が少なくても子どもを諦めないでください。医師と相談しながら不妊治療を受けてみましょう。
※参照:厚生労働省|不妊治療をめぐる現状