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近年、女性の社会進出やライフスタイルの変化などのさまざまな理由による晩婚化に伴い、妊活を開始するときには卵巣の機能が低下しているために妊娠しにくくなり、体外受精を検討する夫婦が増加している傾向にあります。体外受精は、とにかく子どもが欲しいとお考えの夫婦にとって非常にメリットのある方法です。体外受精には助成金もありますが、メリットだけではなくさまざまなリスクもあるため、事前に情報を収集して夫婦でよく話し合い、検討する必要があります。
そもそも体外受精とは、1978年にイギリスのエドワード博士が世界ではじめて成功させた比較的新しい治療法で、母体から採取した卵子に選別された無菌の精子をふりかけ、精子が自力で卵子に侵入して受精させる方法です。受精した受精卵は、一定期間培養されたあと母体の子宮に戻して胎児を育てます。
もともとは卵管性不妊症を対象にはじまった治療法ですが、徐々に適応が拡大され、今では人工授精を行ってもなかなか妊娠できない夫婦にも適応されるようになってきました。
ただ、現在でも適応されるケースとそうでないケースがあるため、体外受精を検討されている方は、適応についての正しい知識を得るようにしましょう。
そこでこの記事では、体外受精の適応についてとメリットデメリット、体外受精の助成金についてご紹介します。
体外受精の適応について
体外受精は、子どもをもつことが不可能であるとされている夫婦にとって希望の光です。しかし体外受精が世界ではじめて成功したころは、さまざまな懸念や反発の声がありました。なぜなら、妊娠するかしないかは自然に任せるべきで、生殖そのものに人間の手を加えるのは倫理的に不自然であると考える人もいたからです。
ただ、時代の流れとともに技術は進歩し、現在ではさまざまな原因により妊娠が難しい夫婦にとって標準治療のひとつになりました。
しかし現在でも、誰でもすぐに体外受精の治療を受けられるわけではありません。
では、具体的にはどのような場合に体外受精の治療を受けられるのでしょうか。
医学的適応がある夫婦の場合
日本産婦人科学会のガイドラインでは体外受精、胚移植について、「本法はこれ以外の治療によって妊娠の可能性が低いと判断されるもの、および本法を実施することが非実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする」と規定されています。
- 卵管狭窄や卵管閉塞と診断された女性
- 重症の子宮内膜症と診断された女性
- 免疫性不妊症(抗精子抗体陽性)と診断された女性
- 精子が少ない、もしくは運動性が低いと診断された男性
上記のような場合は純粋に医学的問題であるため、産婦人科医に体外受精が必要かどうかを相談してみましょう。
医学的適応がない夫婦の場合
不妊検査でもとくに異常がないなど、医学的適応がない方やまったく不妊検査、治療歴がない場合を原因不明不妊と言います。
この場合、体外受精に踏み切る明確なきっかけがないためタイミングを逃してしまい、ずるずると月日が流れてしまうケースもあるので、女性の年齢を目安に判断しましょう。
以下は医学的適応がない場合に体外受精に踏み切るタイミングの目安です。
女性が20〜30代前半
一般不妊治療とは、生理周期にのっとって行うタイミング療法と人工授精を指します。この一般不妊治療を一定期間やっても妊娠しない場合、体外受精の適応になります。目安としては、1〜2年程度不妊治療を行なっても妊娠しない場合は体外受精に踏み切りましょう。
女性が30代後半
体外受精を検討される夫婦にもっとも多いのが、女性が30代後半であるケースです。
抗ミューラー管ホルモン低値の場合、FSH基礎値が高い場合などの条件がひとつでもあるときは早急に体外受精に踏み切る必要があります。
このような条件がひとつもなく、一般不妊治療を半年〜1年程度行なっても妊娠しない場合も、体外受精の適用となります。
ただ、40歳になってから体外受精をすれば大丈夫と思っている方は、要注意です。体外受精を含め、40歳までに妊娠から分娩までを終えるつもりで望むようにしましょう。
女性が40代
一般不妊治療は行わず、すぐに体外受精に踏み切りましょう。体外受精を行なった場合でも、なかなか思うように行かない可能性もあるのでご注意ください。
不妊治療は時間との戦いです。いかに早い時期に精度の高い治療を受けるかによって最終的な結果に大きな差が出てしまいます。
また、治療を先延ばしにしてしまうと、いざ体外受精に踏み切ったときに必要以上のお金と時間がかかってしまいます。
現在では精子や卵子の機能が一度消失してしまうと、治療することがほとんどできません。夫婦で結論を出せないときは、早めに不妊治療を行なっているクリニックに相談し、最適な時期に治療を行えるようにしましょう。
体外受精のメリットデメリット
体外受精は、近年の技術の進歩により確立された不妊治療です。体外に女性の卵子を取り出し、パートナーの精子と受精させてできた受精卵を子宮内に戻して着床を促します。
体外受精というと大掛かりな手術を行うようなイメージですが、現在は技術の進歩により痛みもほとんどなく、多くの方がこの方法で妊娠出産をするようになってきました。
ここでは、体外受精の基本的な情報とメリットデメリットをご紹介します。
体外受精とは
体外受精は、通常体内で行われる受精から胚発生、着床までを体外で行う治療法です。卵管を使わないため、卵管に問題がある方や男性の精子の動きが悪いとき、人工授精を数回行ったが結果が出なかったという方に適しています。
排卵日の直前に成熟した卵子を採卵するとともに精子の採精を行い、受精の準備を整えてから行います。
体外受精にはIVF(体外受精)とICSI(顕微授精)の2種類があり、これらを合わせた総称が「体外受精」と呼ばれるため混乱しやすいですが、IVF(体外受精)は卵子の入った培養液の中に運動性の高い精子をふりかけ、培養液の中で培養するためふりかけ法とも呼ばれる方法です。
IVFではふりかけた精子が自力で卵子の中に侵入し、自然に近い形で受精します。受精が確認できると、受精卵を子宮に戻し、その受精卵が子宮内膜に着床すると妊娠成立となります。
一方顕微授精は、顕微鏡と細いガラス管の中で卵子に直接針を刺し、運動性の高い正常な精子を一匹だけ授精させる方法です。
顕微授精は直接精子を卵子に注入するため、受精する確率は高くなりますが、精子と卵子の質によっては流産する可能性や先天的な障害を持った子どもが産まれる可能性もあります。そのため、最終手段として用いられることが多い方法でもあります。
メリット
体外受精のメリットは、妊娠率が上がることだけはありません。そこから多くの情報が得られるため、通常の不妊症検査では見つからないような卵子の質や精子の受精能力、着床に関する問題点などもわかります。
また、卵子と精子が出会い胚が育つところまでを省略できるので、その部分がうまくいかずに妊娠までたどりつかなかった方にとっては妊娠に近づく大きなチャンスとなります。
デメリット
体外受精のデメリットは、着床率が低く流産率も高いことです。
体外受精による妊娠率は一般的に20〜30%程度、分娩率は20%程度との報告があり、流産率は25%と自然分娩に比べて非常に高い確率です。
その理由には、以下のようなものがあります。
- 加齢により卵子と精子の質自体が下がっている
- 子宮内膜にポリープなどがある
- 子宮腟内が変形し着床しにくい
また、体外受精は経済的に大きな負担になってしまうのもデメリットのひとつです。体外受精は保険適用外の自由診療なので、1回にかかる費用は30〜60万円程度とかなり高額になります。そのため、経済的な負担の大きさから体外受精を諦める夫婦も少なくないのが現状です。
体外受精の助成金について
体外受精などの不妊治療には、助成金が支給されることをご存知ですか?不妊治療を受ける夫婦の経済的な負担を減らすために、国が治療費の一部を負担する特定治療支援事業制度を設けています。
特定治療支援制度とは、自治体の指定を受けた医療機関で、体外受精と顕微授精を行った場合、助成金を支給する制度です。
政府は、現在の1回目30万円、2回目以降15万円とする助成額を、2021年1月に2回目以降も30万円に引き上げました。また、最大6回までとしていた助成の回数を、子どもひとりにつき最大6回までに緩和。さらに22年の年明けには所得制限を撤廃し、4月には保険適用を目指しています。
自治体によっては、助成対象になる治療回数や回数延長などを行っている場合もあるので、お住まいの市区町村や都道府県の制度を確認するようにしましょう。
まとめ
体外受精の適応についてとメリットデメリット、体外受精の助成金についてご紹介しました。
最近は夫婦の年齢層が上がっている、男性不妊も増えているなどの事情もあり、どうしても子どもを授かりたいという夫婦にとって、体外受精は希望の光です。
40代になると採取できる卵子の数は急激に減少してしまうため、体外受精を検討している方は、できるだけ早く決断し治療を開始する必要があります。
体外受精を行う際に大切なのは、夫婦ふたりで取り組むことです。妊娠しにくい原因は、男性単独または男女両方に原因がある場合を含めると、男女比はほぼ半々です。
そのため夫婦揃って検査を受け、一緒に取り組んでいくようにしましょう。