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先天性横隔膜ヘルニア(CDH)と遺伝|原因遺伝子・染色体異常と遺伝子検査でわかること

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

先天性横隔膜ヘルニア(CDH)は、胸とお腹を仕切る横隔膜に穴があき、お腹の臓器が胸に上がってしまう生まれつきの病気です。多くは原因のわからない「たまたま」の発症ですが、じつは約3割で遺伝的な原因が見つかり、その多くは心臓の発生にも関わる遺伝子です。ですからCDHの遺伝を理解することは、合併しやすい心臓病やほかの臓器の異常を先読みし、次の妊娠への見通しを持つことにもつながります。この記事では、GATA4・ZFPM2・NR2F2といった原因遺伝子や8p23.1欠失などの染色体異常、そして遺伝子検査で何がわかるのかを、遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 原因遺伝子・染色体異常・遺伝子検査
臨床遺伝専門医監修

Q. 先天性横隔膜ヘルニアは遺伝する病気なのですか?まず結論だけ知りたいです

A. 多くは「たまたま」起こる孤発例ですが、約3割では遺伝的な原因(染色体異常・コピー数変化・単一遺伝子の変化)が見つかります。原因の中心はGATA4・ZFPM2・NR2F2・GATA6といった、心臓や横隔膜の発生を一緒に指揮する転写因子です。多くの孤発例で次の子への再発は約2%と低い一方、症候群型や家族性では遺伝形式に応じた再発率になります。「遺伝=必ず受け継がれる」ではなく、原因のタイプによって意味が大きく変わります。

  • 単独型と複合型 → CDHだけの単独型が約6割、ほかの異常を伴う複合型が約4割。遺伝的原因は複合型で見つかりやすい
  • 中核の遺伝子ネットワーク → GATA4・ZFPM2・NR2F2・GATA6が複合体を組み、横隔膜・心臓・肺を同時に形づくる
  • 染色体の変化 → 8p23.1欠失(GATA4・SOX7)、15q26欠失(NR2F2)、18・21・13トリソミーなど
  • 検査の進め方 → まず染色体マイクロアレイ(CMA)、次に全エクソーム解析(WES)。複合型ほど診断がつきやすい
  • 遺伝カウンセリングの要点 → CDHは体細胞変異ではなく生殖細胞系列(体じゅうの細胞に共有)が中心。再発率は原因のタイプで決まる

🩺 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の基本情報

項目 内容
疾患名 先天性横隔膜ヘルニア(Congenital diaphragmatic hernia/CDH)
原因遺伝子 GATA4・ZFPM2・NR2F2・GATA6・WT1・MYRF ほか多数。単一の主因はなく、染色体異常やコピー数変化(CNV)も原因になります
遺伝形式 多くは孤発(新生突然変異)。症候群型では常染色体顕性〔優性〕・常染色体潜性〔劣性〕・X連鎖など、原因によって多様です
OMIM表現型番号 142340(Diaphragmatic hernia, congenital/DIH1)。原因遺伝子ごとに別の番号も付与されています
頻度・報告例数 出生1,750〜5,880人に1人(およそ3,000人に1人とする報告が多い)
主な症状 横隔膜の欠損による腹部臓器の胸腔内脱出、肺低形成、新生児期の呼吸不全・肺高血圧(PPHN)。約4割で心奇形などを合併します
診断の決め手 出生前は胎児超音波・胎児MRI、出生後は胸部X線。遺伝学的には染色体マイクロアレイ(CMA)→全エクソーム解析(WES)の順に進めます
鑑別すべき疾患 横隔膜弛緩症(eventration)、嚢状ヘルニア、前方のモルガニーヘルニア、先天性肺気道奇形(CPAM)など
再発率・保因者 孤発例の同胞再発率は約2%と低め。症候群型・家族性では遺伝形式に従います(潜性なら1回の妊娠あたり25%など)
検査上の注意 単一遺伝子を狙う検査はNIPTの対象外です。確定診断には絨毛検査・羊水検査で胎児由来の細胞を直接調べます

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. 先天性横隔膜ヘルニアとは ─ 横隔膜の穴と「肺低形成」という本当の問題

先天性横隔膜ヘルニアは、胸とお腹を仕切る横隔膜に穴があき、お腹の臓器が胸のなかへ上がってしまう病気です。命に関わる本当の問題は穴そのものよりも、押しつぶされた肺が十分に育たない肺低形成と、その肺の血管が高い圧のままになる肺高血圧にあります。

横隔膜は、呼吸のたびに上下してお腹と胸を分ける大切な筋肉の膜です。その一部ができあがらないと、胃・腸・肝臓・脾臓といった臓器が胸へ入り込み、発育中の肺と心臓を圧迫します。最も多いのは横隔膜の後ろ外側にできるボホダレク型(Bochdalek型)で、左側に多く見られます。発生頻度は報告により幅があり、出生1,750〜5,880人に1人と推定されています[1]。日本を含む多くの集団では、およそ3,000人に1人という数字がよく用いられます[2]。決して「ありふれた」病気ではありませんが、主要な先天異常のなかでは一定の割合を占めます。なお、この病気は国際的な遺伝性疾患データベースOMIMに142340(DIH1)として登録されています[3]

近年は妊娠中の超音波検査で見つかることが増え、CDH妊娠の50〜68%が出生前に発見されると報告されています[1]。早く分かることは、生まれる前から専門施設で分娩と治療の準備を整えられるという意味で、赤ちゃんとご家族にとって大きな支えになります。治療の進歩により生存率は改善し、最近の報告では88%に達するとされています[4]。ただし助かった後も、肺や神経の発達に関する長期的な課題が残ることがあります。

💡 用語解説:肺低形成とPPHN

肺低形成とは、生まれる前に肺が本来の大きさまで育たなかった状態です。胸に上がった臓器が肺を圧迫するために起こると考えられてきましたが、後で述べるように、圧迫とは別に肺そのものの発生が最初からうまくいっていない場合もあることが分かってきています。PPHN(新生児遷延性肺高血圧症)は、生まれた後も肺の血管が縮んだままで圧が高く、血液が肺をうまく通れない状態です。この2つが重なることが、CDHで呼吸が苦しくなる中心的な理由です。なお、成人で問題になる肺動脈性肺高血圧症(PAH)とは、成り立ちも治療も異なる別の病態です。

ここで大切なのは、CDHの経過を左右するのは「横隔膜の穴の大きさ」だけではなく、肺と肺の血管がどれだけ育っているかだという点です。ご家族にとっては、穴を閉じる手術がゴールではなく、生まれてくる肺の力を見極めながらの周産期管理が要になります。だからこそ、原因を調べて合併しやすい異常を先読みしておくことが、見通しを持つうえで役立ちます。

2. なぜ「遺伝」を調べるのか ─ 単独型と複合型、約3割で原因が見つかる

CDHの約6割はCDHだけがある「単独型」、約4割はほかの異常を伴う「複合型」です。遺伝的な原因は全体の約3割で見つかり、とくに複合型ほど診断がつきやすいことが分かっています。だからこそ、原因を調べることは合併症の予測と次の妊娠への備えにつながります。

CDHの約40%は心臓・脳・腎臓・泌尿生殖器などの異常を合併する複合型で、残りの約60%が単独型とされています[2]。遺伝学的な解析では、患者さんのおよそ30%で染色体異常・コピー数変化・単一遺伝子の変化といった遺伝的原因が同定されます[2]。ただし、ひとつの遺伝子だけでCDH全体の1〜2%を超えて説明できるものはなく、「多くの遺伝子が少しずつ関わる」のがこの病気の特徴です[2]

実際の診断率を、フィラデルフィア小児病院(CHOP)で10年間に治療を受けた411人を調べた研究で見てみましょう。全体の22%(89人)が複合型、78%(322人)が単独型でした[5]。染色体マイクロアレイ(CMA)は9%(34/399人)、全エクソーム解析(WES)は38%(15/39人)で診断に結びつきました[5]。一方で、複合型の43%、単独型の98%では、検査を尽くしても遺伝的原因が同定できなかったと報告されています[5]。裏を返せば、複合型では約6割近くで原因の手がかりが得られる一方、単独型で原因が見つかる割合はまだ低いということです。

単独型と複合型のちがい

単独型(約60%)
CDHだけがある
遺伝的原因が見つかる割合は低め
(WES診断率はおよそ数%)
複合型(約40%)
心臓・脳・腎などの異常を合併
遺伝的原因が見つかりやすい
(複合型のおよそ6割弱で手がかり)

同じ「CDH」でも、ほかの異常を伴うかどうかで、遺伝子検査で原因が見つかる見込みは大きく変わります。

ご家族にとって、この違いは実際的な意味を持ちます。複合型で原因の遺伝子が見つかれば、心臓やほかの臓器の異常も同じ原因から説明でき、これから注意すべき点を先回りして考えられます。一方で単独型では原因が分からないことも多いのですが、「原因不明」は「検査の失敗」ではありません。今の技術で捉えきれていないだけで、多くの場合は再発率も高くないと考えられます。

3. 横隔膜ができるまで ─ 胸膜腹膜ヒダ(PPF)という「土台」

横隔膜は、妊娠のごく早い時期に「胸膜腹膜ヒダ(PPF)」という一時的な構造からつくられます。CDHの多くは、この土台をつくる細胞の設計図となる遺伝子の変化から始まります。だから原因を探すときは、筋肉そのものよりも土台の細胞に目を向けるのが理にかなっています。

ヒトの横隔膜は、妊娠4〜8週ごろにいくつかの部分が合わさってつくられます。その要になるのが、体壁の内側から伸び出す胸膜腹膜ヒダ(pleuroperitoneal folds/PPF)です。マウスを使った研究では、このPPFが横隔膜の筋肉を支える結合組織の源であり、PPF細胞が正しく広がっていくことが横隔膜のかたちづくりを決めていることが示されました[6]。つまり、横隔膜に穴があくのは「筋肉が足りない」からというより、筋肉が乗るべき土台の設計がうまくいかないためだと考えられています。

この土台づくりを指揮しているのが、後で詳しく見るGATA4やZFPM2といった転写因子です。さらに、ビタミンAから体内でつくられるレチノイン酸のシグナルも横隔膜の発生に深く関わっており、この経路の乱れがCDHに関係することが指摘されています[2]。妊娠中に特定の薬剤や環境要因(催奇形因子)が影響しうるのも、この繊細な時期があるためです。

横隔膜ができるまでの流れ(遺伝子から)

GATA4・ZFPM2など
土台を指揮する遺伝子
胸膜腹膜ヒダ
(PPF)の形成
筋肉と結合組織が
広がる
横隔膜が
完成する

どこか一段でもうまくいかないと横隔膜に隙間が残り、そこからお腹の臓器が胸へ入り込みます。

この流れを知っておくと、遺伝子検査の結果を受け取ったときの理解が変わります。原因遺伝子が見つかった場合、それは「横隔膜という一部品の故障」ではなく、発生の早い段階で複数の臓器を同時に指揮していた設計図の変化を意味します。ご家族にとっては、なぜ心臓やほかの臓器にも所見が出るのかを納得して受け止める手がかりになります。

4. 中核の原因遺伝子 ─ GATA4・ZFPM2・NR2F2・GATA6という「連携チーム」

CDHで最もよく報告される原因は、GATA4・ZFPM2・NR2F2・GATA6という転写因子です。これらは互いに手を結び、横隔膜だけでなく心臓や肺の発生を同時に指揮します。1つが足りないだけでチームの働きが崩れるため、少しの変化でも影響が出ます。

🔍 関連記事:GATA4遺伝子GATA6遺伝子NR2F2遺伝子

転写因子は、どの遺伝子をいつ働かせるかを決める「指揮者」です。CDHの原因遺伝子の多くがこの指揮者であるのには理由があります。多くの臓器を対象に、複数の臓器で同時に大きな影響を及ぼすからです。実際、複数の組織を用いた全ゲノム解析では、GATA4とZFPM2(FOG2)が直接結合し、心臓ではGATA4-ZFPM2がNR2F2と、GATA4がTBX5と相互作用することが示され、GATA4・GATA6・ZFPM2・NR2F2・TBX5が一つの複合体として横隔膜の発生を制御している可能性が指摘されました[7]。つまりこれらは、ばらばらの原因ではなく「同じチームのメンバー」なのです。

GATA4は、家族性・孤発性の両方で報告されたCDHの原因遺伝子です[8]。8番染色体の短腕(8p23.1)にあり、片方のコピーが働かなくなるハプロ不全で発症します。多くは心臓病を伴いますが、心奇形のない単独型のCDHでも、GATA4のはたらきを失わせる新生変異 c.826C>T(p.Gln276*)が報告されており、GATA4が単独でも横隔膜に影響しうることが示されました[9]

同じGATAファミリーのGATA6では、全エクソーム解析により2家系で新生変異が見つかりました。ファロー四徴症を合併した孤発CDH患者のミスセンス変異 c.1366C>T(p.R456C)と、大きな心室中隔欠損を伴うきょうだいのナンセンス変異 c.712G>T(p.G238*)です[10]。後者は母親から受け継がれていましたが、母親は約15%だけに変異を持つ体細胞モザイクで、症状が軽く済んでいました。これは、同じ変異でも体のどれだけの細胞が持つかで現れ方が変わることを示す例です。

NR2F2(COUP-TFII)は、15q26という、CDHで欠失が繰り返し見つかる領域にある遺伝子です。心房中隔欠損を伴うCDH患者で、新生のフレームシフト変異 p.Pro33AlafsTer77 が報告され、この変化はDNA結合ドメインをもつ主要なタンパク質の型を選択的に壊すことが示されました[11]。マウスでもNR2F2を欠くと横隔膜に欠損が生じることが知られており、遺伝子とヒトの病気がよく符合しています。

単独型CDHを対象にした標的シークエンスでは、10%で病的または病的の可能性が高い変異が見つかり、その内訳は既知のZFPM2・GATA4・NR2F2に加え、TBX1・TBX5GATA5・PBX1という新しい候補でした[12]。さらに、親子3人(トリオ)を比べる解析からは、新生突然変異(de novo)が単独型・複合型のいずれでも有意に多いことが示され[13]、362組のトリオを解析した研究ではMYRFが新たな症候群の原因として同定されました[14]。CDHの遺伝子リストは、いまも広がり続けています。

1つの遺伝子チームが、3つの臓器を同時に指揮する

GATA4・ZFPM2
NR2F2・GATA6・TBX5
が結んだ複合体
横隔膜の形成
心臓の形成
肺の発生

同じチームが複数の臓器を担当しているため、1つの遺伝子の変化で横隔膜・心臓・肺のいくつかが同時に影響を受けます。

💡 用語解説:ハプロ不全(片方が足りない)

私たちは遺伝子を父由来・母由来の2つずつ持っています。ハプロ不全とは、そのうち片方が働かなくなっただけで、残る1つでは量が足りず正常な発生ができなくなる状態です。GATA4のような指揮者の遺伝子は、必要な量が精密に決められているため、片方を失うだけで影響が出ます。この「量の不足」という視点は、遺伝子量(gene dosage)の考え方につながり、次章で扱う染色体の欠失がなぜCDHを起こすのかを理解する鍵になります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【原因が見つからなくても、それは「検査の失敗」ではありません】

遺伝子検査で原因が分からなかったとき、「調べても無駄だった」と感じてしまう方がいらっしゃいます。けれど数字を見ると、単独型CDHの多く、複合型でも4割前後では、今の技術で原因が特定できません。これは検査の失敗ではなく、CDHという病気の複雑さそのものを映しています。

私は、分からなかったという結果にも意味があると考えています。既知の重い染色体異常や単一遺伝子病が否定できたこと自体が、次の見通しを立てる材料になるからです。医学が進めば、いま「原因不明」とされているものの一部は、将来わかるようになるでしょう。分からない部分を「異常がない」と言い換えず、輪郭を正確にお伝えすることが大切だと考えています。

5. 染色体の変化 ─ 8p23.1・15q26の欠失とトリソミー

CDHでは、単一の遺伝子だけでなく、染色体の一部が欠けたり数が増えたりする変化も繰り返し見つかります。8p23.1や15q26の欠失、18・21・13トリソミーが代表的です。これらは、その領域に含まれる原因遺伝子の「量」が足りなくなるために起こると理解できます。

前章で見たハプロ不全は、遺伝子1個の話でした。染色体の欠失は、いわばその領域ごと片方を失う変化です。CDHで有名なのが8p23.1の微小欠失で、この領域にはGATA4とSOX7という発生に重要な遺伝子が含まれます[2]。GATA4の量が半分になることが、横隔膜と心臓の両方に影響すると考えられています。8番染色体全体の変化については8番染色体の異常のページもご参照ください。

もう一つの重要な領域が15q26の末端欠失で、ここにはNR2F2が含まれます[11]。前章で紹介したNR2F2の点変異と、この領域の欠失は、いずれもNR2F2の量が減るという共通点で結びついています。1つの遺伝子を壊す変化と、染色体ごと失う変化が、同じ結果につながるわけです。この「量が大切」という考え方が、遺伝子量(gene dosage)です。

CDHでよく見つかる染色体の変化

8p23.1 欠失
GATA4・SOX7 を含む
横隔膜+心臓に影響
15q26 末端欠失
NR2F2 を含む
心血管の異常を伴いやすい
18トリソミー
エドワーズ症候群
CDHの頻度が高い
21・13トリソミー
ダウン症候群・パトウ症候群
合併としてのCDH

染色体全体の本数が変わるトリソミーでも、CDHが合併することがあります。とくに18トリソミー(エドワーズ症候群)ではCDHの頻度が高く、21トリソミー(ダウン症候群)13トリソミー(パトウ症候群)でも報告されています[2]。染色体の変化は本数から微小な欠失まで幅広いため、まず全体を見渡せる検査から始めるのが合理的です。こうしたコピー数変化(CNV)を一望できるのが、次章以降で扱う染色体マイクロアレイです。

ご家族にとって、染色体の変化が見つかることには二重の意味があります。第一に、CDH以外の合併症(知的発達や心臓など)の見通しを立てやすくなること。第二に、その変化が偶発的な新生のものか、ご両親のどちらかに由来するのかを確かめることで、次の妊娠での再発リスクを具体的に見積もれることです。だからこそ、変化が見つかったら「その先の検査」まで含めて考えることが大切になります。

6. 症候群型CDH ─ 病気の一部として現れる横隔膜ヘルニア

CDHが、いくつかの決まった症候群の一症状として現れることがあります。フライエンス症候群、ドナイ・バロー症候群、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群などです。症候群型は遺伝形式がはっきりしていることが多く、次の妊娠の再発率を見積もる出発点になります。

代表的なのが、CDHに特徴的な顔つきや指趾(しし)の異常を伴うフライエンス(Fryns)症候群です。これは常染色体潜性〔劣性〕の形式をとると考えられており、症候群型CDHのなかでもよく知られています[2]。潜性の場合、ご両親がともに保因者だと、1回の妊娠ごとに約25%(4分の1)の確率で同じ病気が起こりえます。この数字を正しく伝えられるかどうかが、症候群型を見分ける大きな意味です。

このほかにも、目や腎臓・聴覚の異常を伴うドナイ・バロー(Donnai-Barrow)症候群、目や横隔膜・心臓の異常を組み合わせるマシュー・ウッド(Matthew-Wood/PDAC)症候群、体が大きく育ち内臓の過形成を伴うシンプソン・ゴラビ・ベーメル(Simpson-Golabi-Behmel)症候群などが知られています[4]。シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群はX連鎖で、主に男児に現れます。また、12番染色体短腕のモザイク性の増加によるパリスター・キリアン症候群のように、染色体レベルの変化が背景にある症候群もあります。

ここで大切なのは、「CDHがあるかどうか」だけでなく、ほかの所見と合わせて全体像を見ることです。単独のCDHか、症候群の一部としてのCDHかで、遺伝形式も再発率も、これから注意すべき臓器も大きく変わります。遺伝形式を丁寧に確認することが、ご家族にとっての正確な見通しにつながります。

7. 多面発現性 ─ なぜ1つの遺伝子で心臓も肺も影響を受けるのか

CDHの原因遺伝子の多くは、横隔膜だけでなく心臓や肺など複数の臓器を一度に指揮します。1つの遺伝子の変化がいくつもの症状を生むこの性質を「多面発現性」といいます。そしてCDHの変異は、がんのような体細胞の変異ではなく、体じゅうの細胞に共有される生殖細胞系列の変化が中心です。

1つの遺伝子が複数の性質に影響することを、遺伝学では多面発現性(pleiotropy)と呼びます。GATA4やNR2F2が横隔膜・心臓・肺を同時に指揮していたことを思い出してください[7]。これはまさに多面発現の典型で、だからこそCDHには心臓病が高い割合で合併するのです。「たまたま2つの病気が重なった」のではなく、同じ設計図の変化が複数の臓器に同時に現れていると考えるとすっきり理解できます。

もう一つ重要なのが、CDHの原因変異が「どこの細胞に存在するか」です。多くの家系を調べた研究では、CDHの原因となる新生突然変異は生殖細胞系列(受精卵の段階からある変化)が中心で、体の一部だけに生じる体細胞変異は一般的ではないことが示されました[15]。これは検査のうえで大切な意味を持ちます。生殖細胞系列の変化なら、横隔膜の細胞でなくても、血液や口の中の粘膜など採りやすい細胞を調べれば分かるからです。ただし、先ほどのGATA6のお母さんのように、体の一部だけが変異を持つモザイクという例外もあり[10]、結果の解釈には専門的な視点が必要です。

💡 用語解説:体細胞変異と生殖細胞系列変異

生殖細胞系列変異は、受精卵の段階から存在し、体のすべての細胞に共有される変化です。子へ受け継がれる可能性があり、血液などどの細胞を調べても検出できます。一方体細胞変異は、生まれた後に体の一部の細胞で起こる変化で、その細胞にしか存在しません(がんの多くはこちらです)。CDHの原因は主に生殖細胞系列で、だからこそ採血で調べられます。「モザイク」は、その中間で、生殖細胞系列よりは限られた割合の細胞だけに変異がある状態を指します。

この2つの視点は、ご家族にとって実際的です。多面発現性を知っていれば、原因遺伝子が判明したときに、横隔膜だけでなく心臓や腎臓など「一緒に見ておくべき臓器」を先回りして考えられます。生殖細胞系列が中心だと分かっていれば、なぜ赤ちゃん本人だけでなく、ご両親の血液も調べて由来を確かめるのか、その意味も納得しやすくなります。

8. 遺伝子検査の進め方 ─ まずCMA、次にWESという二段構え

CDHの遺伝子検査は、まず染色体マイクロアレイ(CMA)で染色体とコピー数の変化を見渡し、次に全エクソーム解析(WES)で単一遺伝子を詳しく調べるのが基本です。出生前・出生後のどちらでも実施でき、複合型ほど診断がつきやすいことが分かっています。

最初のステップは染色体マイクロアレイ(CMA)です。これは染色体の欠失・重複といったコピー数の変化を、染色体全体にわたって一度に見渡せる検査です。前章で見た8p23.1や15q26の欠失、各種トリソミーは、この検査で捉えられます。CHOPの研究では、CMAで9%(34/399人)に診断がつきました[5]。「量」の変化を最初に確認するという意味で、理にかなった出発点です。

CMAで説明がつかない場合、次に進むのが全エクソーム解析(WES)です。これはタンパク質の設計図となる領域を網羅的に読み、GATA4・GATA6・NR2F2といった単一遺伝子の「1文字」の変化まで探します。同じCHOPの研究では、対象を絞って行ったWESで38%(15/39人)に診断がつきました[5]。目的の遺伝子群にしぼったクリニカルエクソームを用いることもあります。心奇形を合併する場合は、先天性心疾患パネルを組み合わせることも選択肢です。

CDHの遺伝子検査:二段構えの進め方

STEP 1:CMA
染色体・コピー数の変化を
全体から見渡す
(欠失・重複・トリソミー)
STEP 2:WES
単一遺伝子の「1文字」の
変化まで詳しく探す
(GATA4・NR2F2 など)
結果を解釈
合併症の見通しと
再発率の見積もりへ
(遺伝カウンセリング)

まず「量」の変化を見て、それでも分からなければ「1文字」の変化を探す。合理的な順番で進めます。

これらの検査は、生まれる前でも行えます。出生前には絨毛検査や羊水検査で胎児由来の細胞を採取し、CMAやWESにかけます。実際、心奇形のない単独型のCDHが出生前に見つかり、GATA4の新生変異が確定した症例も報告されています[9]。ここで注意したいのは、こうした単一遺伝子や染色体の詳しい検査は、母体血だけで調べるNIPTの対象外だという点です。確定的な情報を得るには、胎児の細胞を直接調べる必要があります。

ご家族にとって、検査の順番を知っておくことは心の準備につながります。1回で全部が分かる魔法の検査はなく、段階を踏むこと、そして複合型ほど原因が見つかりやすいことを理解しておけば、結果を落ち着いて受け止めやすくなります。そして原因が分かったときには、それが今後の管理方針や次の妊娠の見通しにどう結びつくのかを、専門家と一緒に整理していくことが大切です。

9. 遺伝カウンセリングと再発率 ─ 次の妊娠への見通し

孤発例のきょうだいでの再発率は約2%と低く、症候群型や家族性では遺伝形式に応じた再発率になります。遺伝カウンセリングは、こうした数字を渡すだけの場ではなく、検査結果の意味を一緒に整理し、次の選択を支えるための時間です。

再発率は、CDHのタイプによって大きく変わります。ほかに異常のない孤発の単独型では、次のお子さんでの再発率は約2%程度と低く見積もられています[2]。これは、CDHの多くが受精のときに新しく生じた新生突然変異で、ご両親には同じ変化がないことが多いためです[15]。一方、Fryns症候群のような常染色体潜性の症候群では、ご両親がともに保因者であれば1回の妊娠あたり約25%と、まったく異なる数字になります。だからこそ、単独型か症候群型かの見極めが再発率の出発点になるのです。

遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医が、検査でわかったこと・わからなかったことを整理し、それがご家族にとって何を意味するのかを一緒に考えます。原因が判明した場合は、その遺伝子が関わるほかの臓器の注意点や再発率を、判明しなかった場合は経験的な再発率や今後の可能性を、ていねいにお伝えします。遺伝カウンセリングとは何かを知っておくと、身構えずに相談に臨めます。次の妊娠を考える際には、出生前の検査の選択肢についても、事前に情報を持っておくと安心です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「遺伝子名ひとつ」で、すべてが決まるわけではありません】

遺伝子検査で名前のついた変化が見つかると、その一語ですべてが決まると受け止めてしまいがちです。けれどCDHは、多くの遺伝子が少しずつ関わる病気です。同じ遺伝子の同じ変化を持っていても、横隔膜に穴があく人とあかない人がいる。この現れ方のばらつきには、ほかの遺伝子や発生のタイミングなど、まだ解明しきれていない要素が絡んでいると考えています。

私は、遺伝子の名前を伝えることをゴールにしたくないと考えています。大切なのは、その変化がお子さんとご家族の毎日にとって何を意味するのか、次に何を見ておけばよいのかを、一緒に整理していくことです。一語で断定せず、分かっていることと分からないことの境目を正直にお示しすることが、遺伝を専門とする医師の役割だと考えています。

ご家族にとって、再発率という数字は次の一歩を考えるための大切な材料です。ただし数字だけが独り歩きすると、かえって不安を大きくすることもあります。約2%なのか約25%なのか、その違いがどこから来るのかを理解したうえで受け取ることが、落ち着いた選択につながります。遺伝を専門とする医師との対話を通じて、ご家族なりの納得のいく道を見つけていただければと思います。

10. よくある誤解

先天性横隔膜ヘルニアの「遺伝」については、正確とは言えない受け止め方が広まっていることがあります。ここでは、ご家族が迷いやすい4つの誤解を取り上げ、いま分かっていることに沿って整理します。

誤解①「CDHは遺伝する病気だから、次の子も必ずなる」

多くのCDHは、ご両親から受け継いだ変化ではなく、受精のときに新しく生じた新生突然変異によって起こります。ほかに異常のない単独型なら、次のお子さんでの再発率は約2%程度と低く見積もられています[2]。「CDH=必ず遺伝する」という図式は、そのままでは当てはまりません。

誤解②「原因遺伝子が見つからなければ、検査した意味がない」

単独型では約98%、複合型でも約43%で、検査を尽くしても遺伝的原因が特定できないと報告されています[5]。けれど「原因不明」は「検査の失敗」ではありません。原因が見つからないこと自体が、多くの場合「再発率は高くない」という手がかりにつながります。

誤解③「遺伝が原因なら、もう打つ手がない」

遺伝的な背景を知ることは、あきらめではなく先回りです。原因が分かれば、合併しやすい心臓やほかの臓器の異常を早めに確認でき、出生後の集中管理や次の妊娠への備えにつながります。CDHの見通しを最終的に左右するのは、肺低形成と肺高血圧の管理です。

誤解④「母体血のNIPTで、赤ちゃんのCDHの遺伝子まで分かる」

NIPTは主に染色体の数の変化を調べるスクリーニングで、単一遺伝子の変化や微細な欠失は対象外です。CDHの原因遺伝子や小さな染色体の欠失を確定的に調べるには、絨毛検査や羊水検査で胎児の細胞を採取し、CMAやWESにかける必要があります。

📌 このページを読んだあなたへ

お腹の赤ちゃんにCDHが指摘された方へ。まず「単独型か複合型か」を確認し、染色体マイクロアレイ(CMA)全エクソーム解析(WES)という検査の順番を知っておくと、結果を落ち着いて受け止めやすくなります。

すでにCDHのお子さんがいて、次の妊娠を考えている方へ。再発率は原因のタイプによって約2%から約25%まで大きく変わります。遺伝カウンセリングで、ご家族に合った再発率を見積もることができます。

検査で原因が分からず不安な方へ。「原因不明」は失敗ではありません。GATA4などの中核となる遺伝子や、染色体の変化については、本文の該当セクションもあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)は遺伝する病気ですか?

多くのCDHは、ご両親から受け継いだのではなく、受精のときに新しく生じた変化(新生突然変異)によって起こります。ほかに異常のない単独型では、次のお子さんでの再発率は約2%程度と低く見積もられています。一方で、家族内で複数の方に見られる家族性のケースや、常染色体潜性の症候群として現れるケースもあり、その場合は遺伝形式に応じた再発率になります。だからこそ、単独型か症候群型かを見極めることが出発点になります。

Q2. CDHの原因となる代表的な遺伝子は何ですか?

GATA4・ZFPM2・NR2F2・GATA6が中核とされています。これらは横隔膜の土台となる胸膜腹膜ヒダ(PPF)の形成を指揮する転写因子で、互いに結びついてひとつのチームのように働きます。ただし、ひとつの遺伝子だけでCDH全体の1〜2%を超えて説明できるものはなく、多くの遺伝子が少しずつ関わるのがこの病気の特徴です。

Q3. 「単独型」と「複合型」で、原因の見つかりやすさは違いますか?

大きく違います。ほかの臓器の異常を伴う複合型では、遺伝子検査で原因が見つかる割合が高く、フィラデルフィア小児病院の研究では複合型の約57%で診断がつきました。一方、CDHだけがある単独型では約2%にとどまりました。複合型で原因が見つかれば、心臓など他の臓器の注意点も同じ原因から説明でき、先回りした管理につながります。

Q4. CDHではどんな遺伝子検査を受けるのですか?

まず染色体マイクロアレイ(CMA)で、染色体の欠失・重複といったコピー数の変化を全体から見渡します。8p23.1や15q26の欠失、各種トリソミーはこの段階で捉えられます。CMAで説明がつかない場合は、全エクソーム解析(WES)に進み、GATA4やNR2F2といった単一遺伝子の変化を探します。「量」の変化を先に確認し、それでも分からなければ「1文字」の変化を探す、という順番です。

Q5. 検査をしても原因が分からないことはありますか?

あります。むしろ単独型では、現在の技術を尽くしても約98%で原因が特定できないと報告されています。ただし「原因不明」は「検査の失敗」ではありません。今の技術で捉えきれていないだけで、多くの場合は再発率も高くないと考えられます。原因が見つからなかったこと自体が、ご家族にとって一つの情報になります。

Q6. 次の妊娠での再発率はどのくらいですか?

CDHのタイプによって大きく変わります。ほかに異常のない孤発の単独型では、次のお子さんでの再発率は約2%程度と低く見積もられています。一方、Fryns症候群のような常染色体潜性の症候群で、ご両親がともに保因者である場合は、1回の妊娠あたり約25%になります。正確な再発率を知るには、単独型か症候群型かの見極めと、遺伝カウンセリングでの評価が欠かせません。

Q7. 生まれる前にCDHの遺伝的な原因を調べられますか?NIPTで分かりますか?

出生前でも、絨毛検査や羊水検査で胎児由来の細胞を採取し、CMAやWESにかけることで調べられます。ただし、母体血だけで調べるNIPTは主に染色体の数の変化を対象としたスクリーニングであり、単一遺伝子の変化や微細な染色体の欠失は対象外です。確定的な情報を得るには、胎児の細胞を直接調べる検査が必要になります。

Q8. 8p23.1欠失やトリソミーとCDHはどう関係していますか?

8p23.1という染色体領域の欠失は、CDHと関連する代表的な染色体異常です。この領域にはGATA4など横隔膜の形成に関わる遺伝子が含まれています。また、18トリソミー(エドワーズ症候群)をはじめ、21トリソミー・13トリソミーなどの染色体の数の変化でもCDHが見られることがあります。これらは染色体マイクロアレイ(CMA)で捉えられるため、検査の最初の段階で確認します。

🏥 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の遺伝子診断・遺伝カウンセリングのご相談

先天性横隔膜ヘルニアの遺伝的原因の検索や、
次の妊娠に向けた再発率の評価・遺伝カウンセリングは、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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