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エドワーズ症候群(18トリソミー)とは|症状・生命予後・最新の治療方針を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

18トリソミー(エドワーズ症候群)は、18番染色体が1本多い3本になることで起こる染色体の変化です。かつては「生命維持に不適合」とまで言われてきましたが、近年は積極的な新生児医療や心臓手術によって1年以上生きるお子さんが着実に増え、2025年には米国小児科学会(AAP)が「診断名だけを理由に治療を控えることに倫理的な正当化はない」とする画期的な指針を公表しました。この記事では、原因となる染色体の仕組みから、からだの特徴、世界で大きく変わりつつある生命予後、そして出生前診断や遺伝カウンセリングまで、遺伝専門医の視点でわかりやすく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 染色体疾患・出生前診断・小児医療倫理
遺伝専門医監修

Q. 18トリソミー(エドワーズ症候群)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 18番染色体が3本になることで、心臓・消化管・腎臓など多くの臓器に生まれつきの変化が起こる染色体疾患です。ダウン症候群に次いで2番目に多い常染色体トリソミーで、出生児のおよそ6,000〜8,000人に1人にみられます。生命予後は依然として厳しいものの、積極的な治療を行う施設では1年生存率が50〜60%台にまで改善した報告もあり、提供される医療の内容によって経過は大きく変わります。

  • 原因 → 多くは卵子・精子ができる過程での「染色体不分離」。親の育て方や妊娠中の行動とは無関係
  • 3つの型 → 完全型(約94%)・モザイク型(5%未満)・部分型(2〜10%)で経過が異なる
  • 合併症 → 約90%に先天性心疾患。消化管・腎臓・神経系の合併症が生命予後を左右
  • 予後の変化 → 日本・韓国での積極的治療で生存退院率が大きく改善。国・地域差が大きい
  • 意思決定 → 2025年AAP指針が「致死的」表現を退け、家族との共同意思決定を標準化

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1. 18トリソミー(エドワーズ症候群)とは

わたしたちのからだの細胞には、通常46本(23組)の染色体があります。染色体は遺伝情報(DNA)が折りたたまれた構造で、そのうち18番染色体が本来2本であるべきところ3本になっている状態が18トリソミーです。1960年に英国の医師ジョン・エドワーズらが初めて報告したことから「エドワーズ症候群」とも呼ばれます[1]。ダウン症候群(21トリソミー)に次いで2番目に多い常染色体トリソミー症候群です[1]

💡 用語解説:トリソミーとは

「トリソミー(trisomy)」とは、ある番号の染色体が2本ではなく3本になっている状態を指します。「トリ(tri)」は「3」を意味します。代表的なものに21トリソミー(ダウン症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)、そして18トリソミー(エドワーズ症候群)があります。染色体が1本増えるだけで、その上に乗っている多数の遺伝子の量的バランスが崩れ、全身のさまざまな臓器の形成や発達に影響が及びます。

18トリソミーの出生時の頻度は、およそ6,000〜8,000人に1人と報告されています[1]。ただしこれは「生まれてきた赤ちゃん」における頻度で、実際に受精の段階で18トリソミーとなる頻度はもっと高く、妊娠中の自然流産や死産が多いため、全体としての発生頻度は2,500〜2,600人に1人程度と推定されています[1]。また女児にやや多く(男女比はおよそ2対3)、胎児期の流産は男児に多い一方、生まれた後の生存率は女児のほうが高い傾向が知られています[2]。18トリソミーの頻度は母体年齢の上昇とともに高くなりますが、これは後で述べる「染色体不分離」という現象の起こりやすさと関係しています[1]

大切なのは、18トリソミーが親の行動や妊娠中の過ごし方によって生じるものではないという点です。多くは偶発的な染色体の分配ミスによって起こり、誰にでも起こりうる現象です。診断を告げられたご家族が「自分のせいではないか」と自責の念にとらわれることは少なくありませんが、医学的にはその責めを負う必要はありません。18トリソミーの原因や検査方法については、「原因は母親?染色体不分離のメカニズム」で詳しく解説しています。

2. 3つの型と原因:完全型・モザイク型・部分型

18トリソミーは、染色体がどのように3本になっているかによって、大きく完全型・モザイク型・部分型の3つに分けられます。この分類は、その後の経過や重症度の多様性を理解するうえでとても重要です。それぞれ発生の仕組みが異なり、遺伝カウンセリングで扱う「次のお子さんへの再発リスク」も変わってきます。

💡 用語解説:染色体不分離(せんしょくたいふぶんり)

卵子や精子がつくられるときには「減数分裂」という特別な細胞分裂が起こり、染色体が半分ずつに分けられます。このとき、本来は1本ずつ分かれるべき18番染色体のペアがうまく分離せず、片方の細胞に2本とも入ってしまうことがあります。これが「染色体不分離(nondisjunction)」です。その卵子や精子が受精すると、赤ちゃんの細胞は18番染色体を3本持つことになります。18トリソミーでは、この不分離が主に母親側の卵子形成の過程で起こることが多いとされています[3]

完全型(全体の約94〜95%)

最も多いのが完全型で、全身のすべての細胞に18番染色体が3本ある状態です[1]。これは卵子や精子ができる過程での染色体不分離によって生じます。18トリソミーの染色体不分離には特徴があり、多くのトリソミーが減数第一分裂での誤りに由来するのに対し、18トリソミーでは母親側の減数第二分裂での誤りが比較的多いという、他のトリソミーとは異なる生物学的特徴が知られています[3]。母親の葉酸代謝に関わる酵素(MTHFR)の遺伝的な個人差との関連も議論されていますが、不分離が起こる正確な分子レベルの仕組みは、現時点では明確に解明されていません。

モザイク型(全体の5%未満)

モザイク型は、18トリソミーの細胞と、正常な染色体を持つ細胞が同じ体内に混在している状態です[1]。これは受精した後の細胞分裂の初期段階で偶発的に生じるため、親から遺伝したものではありません。臨床的な現れ方は非常に幅広く、重い症状を示す場合から、ほぼ正常に近い発達をたどる場合まで、トリソミー細胞がどの組織にどれくらいの割合で存在するかによって大きく異なります。ただし、血液や皮膚の細胞で調べたトリソミー細胞の割合と、実際の症状の重さが必ずしも一致しないことも報告されており、経過の予測を難しくしています。

部分型(全体の約2〜10%)

部分型は、18番染色体の長い腕(長腕=18q)の一部だけが3本分になっている状態で、多くは親が持つ「均衡型転座」に由来します[1]。この型では、症状の重さが「どの領域がどれだけ重複しているか」によって決まります。特に18q12.1から18q21.2の領域の重複が、重い認知・発達の障害と深く関わると考えられています[4]。一方、18番染色体の短い腕(短腕=18p)の重複だけでは、エドワーズ症候群の主要な特徴はあまり出ないことがわかっています[4]。18番染色体の構造的な異常全般については、18番染色体異常の完全ガイドもあわせてご覧ください。

💡 用語解説:均衡型転座(きんこうがたてんざ)と再発リスク

「転座」とは、染色体の一部がちぎれて別の染色体にくっつく現象です。このとき遺伝子の総量に過不足がなければ「均衡型転座」といい、本人には症状が出ないことがほとんどです。しかし、その方が子どもを持つとき、染色体の受け渡しのバランスが崩れて部分型のトリソミーが生じることがあります。親が均衡型転座を持っている場合、次の妊娠での18トリソミーの再発率が高まることがあるため、家系の染色体分析と遺伝カウンセリングが特に重要になります。

再発リスクは型によって大きく異なります。完全型やモザイク型は偶発的に生じるため次の妊娠での再発率は一般に低いとされますが、部分型で親が均衡型転座の保因者である場合は再発率が高くなることがあります。ご家族が今後の妊娠を考えるうえで、遺伝カウンセリングで正確なリスク評価を受けることが役立ちます。

18トリソミーの3つの型(発生割合の目安)

完全型 約94〜95%

全細胞に3本。減数分裂での不分離が主因。母体年齢とともに増加。

モザイク型 5%未満

正常細胞と混在。受精後の分裂の偶発的な誤り。症状は極めて多様。

部分型 約2〜10%

18qの一部が重複。均衡型転座に由来し、遺伝することがある。

3. からだの特徴と多臓器の合併症

18トリソミーは、100種類を超える身体的な特徴が報告されていますが、そのうち1つだけで診断が確定するような特徴はありません[4]。複数の特徴の組み合わせと、染色体検査による確認によって診断されます。ここでは、胎児期から出生後にかけてみられる代表的な特徴と、生命予後を左右する主要な合併症を整理します。

胎児期・外見の特徴

胎児期には、重度の子宮内発育不全(IUGR)による低出生体重、羊水過多、単一臍帯動脈、脳の脈絡叢嚢胞、そして特徴的な手の握り方などが、超音波検査でのスクリーニングの手がかりになります[4]。出生後は、小さめの頭(小頭症)、前後に長い頭の形、突出した後頭部、小さめのあご(小顎症)などの顔つきの特徴がみられます。また、人差し指が中指に、小指が薬指に重なるように固く握りしめた手(overlapping fingers)や、かかとが突出して足の裏が丸みを帯びる「揺り椅子状の足底(rocker-bottom feet)」が高い頻度で認められます[1]。これらは出生前のエコー検査でも見つかることがあり、詳しくはエコーでわかる16の特徴で解説しています。

生命予後を左右する主要な合併症

18トリソミーの経過を決める最大の要因は、心臓をはじめとする臓器の合併症です。とりわけ先天性心疾患は約90%のお子さんに認められ、心室中隔欠損(VSD)や動脈管開存(PDA)、心房中隔欠損(ASD)などが高頻度にみられます。消化器では、食道閉鎖症や臍帯ヘルニア、肛門閉鎖症などが哺乳や呼吸を難しくします。腎臓では馬蹄腎や水腎症などの奇形が多くみられ、神経系では著しい精神運動発達の遅れが必発で、新生児期の筋肉の緊張の低下から、成長に伴う緊張の亢進へと移行し、てんかん発作や無呼吸、嚥下障害を伴うことが多くあります。

❤️ 心血管系

  • 約90%に先天性心疾患
  • 心室中隔欠損(VSD)
  • 動脈管開存(PDA)・心房中隔欠損
  • 複雑心奇形を伴うことも

🍽️ 消化器系

  • 食道閉鎖症(誤嚥の原因に)
  • 臍帯ヘルニア
  • 肛門閉鎖症
  • 重度の胃食道逆流症

🫘 泌尿生殖器系

  • 馬蹄腎・水腎症
  • 多発性嚢胞腎
  • 停留精巣(男児)
  • 子宮の形態異常(女児)

🧠 神経系

  • 著しい発達の遅れ(必発)
  • 筋緊張の低下から亢進へ移行
  • てんかん発作
  • 中枢性・閉塞性の無呼吸

これらの合併症は個人差が大きく、すべてのお子さんに同じように現れるわけではありません。合併症の種類と重さの組み合わせが、その後の経過を大きく左右します。

4. 生命予後の変化:世界で大きく異なる経過

18トリソミーは、歴史的に「生命維持に不適合」と位置づけられ、予後は極めて不良と考えられてきました。従来の非積極的なケア(緩和ケア中心の管理)を前提とした集団ベースの統計では、多くが生後早期に亡くなり、1年生存率は5〜10%程度と報告されてきました[5]。生後早期の死亡の主な原因は、重い心疾患に伴う心不全、無呼吸、慢性呼吸不全、誤嚥や感染症などです。

しかし1990年代後半から2000年代にかけて、特に日本や韓国をはじめとする国々で、治療方針が「非介入・緩和中心」から「積極的介入」へとシフトしたことで、生存率は大きく変化しました。以下では、代表的なコホート研究の結果を紹介します。

日本:積極的治療で生存退院率が大幅改善

兵庫県立こども病院が2008年〜2017年に行ったコホート研究では、生後7日以内に入院した18トリソミー児56名を、前期(2008〜2012年)と後期(2013〜2017年)に分けて比較しました[6]。積極的な外科的介入と集中治療が普及した結果、1年生存率は後期群で59.3%にまで上昇し、生きて自宅に退院できる割合(生存退院率)も大きく改善したことが報告されています[6][7]。長野県立こども病院の1994〜2003年のデータでも1年生存率は約25%と、非積極的管理の集団ベース統計を上回っており、施設の治療方針が生存に大きく影響することを示しています[7]

韓国:全国データが示す心疾患の影響

大韓民国の国民健康保険サービス(NHIS)の全国規模データ(2008年〜2017年、193名)では、18トリソミー児全体の1年生存率は63.2%に達しました[8]。特に注目すべきは心疾患の有無による差で、先天性心疾患を伴わない児の初回入院生存率は94.1%だったのに対し、心疾患を伴う児は58.3%でした[8]。さらに、心疾患を合併していても、外科手術やカテーテル治療などの介入を受けた群は、受けなかった群より生存期間が有意に延長していました[8]

医療資源による世界的な格差

これらの積極的管理の成果とは対照的に、待機的管理(分娩監視を行わず、出生後は緩和ケアのみ)を選ぶ地域では、経過は依然として極めて厳しいものです。南アフリカの公立病院での16年間の経験(Stewart 2022)では、出生前に18トリソミーと診断され妊娠を継続した女性たちのうち、生産に至ったのは約33%にとどまり、生まれた児のうち24時間を超えて生存したのはごく一部で、1年以上生存した児はいませんでした[9]。この研究は、非積極的な分娩管理と緩和ケアを前提とした地域では、高所得国とは大きく異なる経過をたどることを示しており、その地域の医療の「積極性」というシステム側の要因が、生存に強く影響することを浮き彫りにしています[9]。18トリソミーの寿命と長期生存例については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。

国・地域と治療方針による1年生存率の違い

※対象・時期・定義が異なるため単純比較はできません(傾向の把握用)

日本・兵庫県立こども病院(後期・積極的介入)約59%
韓国・全国NHIS(能動的治療・適応手術)約63%
カナダ・オンタリオ州(集団ベース)約13%
南アフリカ(待機的・緩和のみ)0%

カナダのオンタリオ州の集団ベース研究では18トリソミー生産児の1年生存率は12.6%、10年生存率は9.8%でしたが、手術を受けた児に限ると術後1年生存率は68.6%に達しました[10]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「同じ病名」でも経過が違う理由】

「18トリソミーの1年生存率は◯%」という数字を目にすると、それがわが子の運命を決める確定した数値のように感じてしまうかもしれません。けれども、ここまでご覧いただいたように、その数字は国や施設、そして選ばれる医療の内容によって大きく変わります。同じ病名でも、経過は決して一様ではないのです。

大切なのは、統計の数字に飲み込まれるのではなく、お子さん一人ひとりの合併症の状況を丁寧に評価し、ご家族の価値観とともに「このお子さんにとって何が最善か」を考えていくことだと、臨床遺伝に携わる者として感じています。数字は出発点であって、結論ではありません。

5. 先天性心疾患への手術という選択

18トリソミー児の生命予後を最も左右するのが心臓の合併症であり、これに対する外科的治療は、臨床現場で最も議論が続いてきた領域です。かつては、心臓手術は医療資源の不適切な配分であり、お子さんに不必要な苦痛を強いるだけだとして、多くの施設で行われませんでした。しかし近年、小児心臓外科の技術の進歩と術後管理の標準化により、心臓手術が生存率だけでなく、在宅移行の可能性をも高めることが示されつつあります。

手術群と保存的治療群の比較

日本の小児循環器・心臓血管外科の共同研究(34例)では、心臓手術を受けた群の1年生存率は25%、2年生存率は22%であったのに対し、保存的治療のみの群は1年生存率9%、2年生存率9%でした[11]。ただし、生きて自宅に帰る割合(生存退院率)では両群に統計的な差は認められず、手術が必ずしも速やかな在宅移行を保証するわけではないことも示されました[11]。トルコの単一施設研究(18例)でも、手術群の生存期間中央値が150日だったのに対し内科治療群は8日と、手術群で生存期間が有意に延長していました[12]

💡 用語解説:姑息術(こそくじゅつ)と根治術(こんちじゅつ)

姑息術」とは、病気を根本から治すのではなく、症状や状態を一時的に和らげ、次の治療につなげるための手術です。18トリソミーでは、心臓へ流れ込む血流を制限する「肺動脈絞扼術(PAB)」などが行われます。一方「根治術」は、心室中隔欠損を閉じるなど、心臓の構造そのものを修復する手術です。18トリソミー児は進行性の肺の血管障害(肺高血圧)を来しやすいため、血流制御だけでは不十分で、根治術が長期予後の改善につながる可能性が指摘されています。

韓国の医療機関の報告では、体外循環を用いた完全修復(根治術)を受けた患者の多くが生存退院したのに対し、姑息術のみで管理された患者では生存退院がより困難だったことが示されています。日本の施設からも、姑息術に続いて段階的に根治術を完成させる方針で、比較的良好な長期成績が報告されています[13]。一方で、開心術は体外循環による侵襲が大きく、術後の感染症や心不全のリスクを伴います。これらのお子さんは食道閉鎖症などの心臓以外の手術も並行して受けることが多く、身体への累積的な負担は極めて高いことにも注意が必要です。

重症度によって手術の効果は異なる

イタリア・ローマのバンビーノ・ジェズ小児病院のレトロスペクティブ研究(2018年〜2023年)は、示唆に富む知見を示しました。単純な心室中隔欠損などの比較的軽症な心奇形を伴う群では、心臓手術が保存的治療と比べて生存確率を有意に向上させた一方、大血管転位や複雑な房室中隔欠損などの重症心奇形を伴う群では、姑息術・根治術のいずれも生存確率の有意な向上には寄与しなかったのです[14]。同研究では、人工呼吸器や酸素、経管栄養などの医療デバイスへの依存度が低いお子さんほど生存率が高いことも示されました[14]

これらの知見は、すべての18トリソミー児に一律に心臓手術を勧める、あるいは一律に否定するのではなく、個々の心奇形の解剖学的な特徴や全身の状態を総合的に評価する「個別的なアプローチ」の必要性を示しています。心臓の合併症を出生前に把握するための検査については、胎児エコーの特徴もご参照ください。

6. AAP2025年臨床報告書がもたらした転換

18トリソミー児の医療をめぐる最も大きな変化は、客観的なデータに基づいた倫理指針の再構築と、家族を主体とした共同意思決定(Shared Decision-Making)の標準化です。2025年8月、米国小児科学会(AAP)は、バイオエシックス委員会などの共同執筆による臨床報告書「13トリソミー・18トリソミーの乳幼児のケアに関する指針」を『Pediatrics』誌に発表しました[15]。この報告書は、従来の「致死的」「治療無益」とする見方を退け、現代の小児医療倫理における重要な原則を示しています。

💡 用語解説:共同意思決定(Shared Decision-Making)

医療者が一方的に治療方針を決めるのでも、ご家族に判断を丸投げするのでもなく、医学的な根拠と、ご家族の価値観や希望を突き合わせながら、一緒に方針を決めていくプロセスです。18トリソミーのように、選択肢に幅があり、正解が一つではない状況では、この共同意思決定の考え方が特に重要になります。AAP2025年報告書は、このプロセスを標準的なケアとして位置づけました。

報告書が示した原則のうち、特に画期的なのは次の点です。第一に、「致死的(lethal)」「生命維持に不適合」という表現の否定です。1年以上、なかには10年以上生存するお子さんが存在する以上、これらの表現は医学的に不正確であるとされました[16]。AAPの関連情報によれば、提供されるケアや合併症の状況によって、生産児のおよそ5〜40%が1か月を超えて生存し、5〜15%が1年を超えて生存すると報告されています[16]

第二に、診断名だけを理由とした一律の差別的治療の禁止です。報告書は「これらの遺伝的診断のみに基づいて、原則的に治療を差別することに倫理的な正当化はない」と明言しています[15]。18トリソミーという診断名だけを理由に治療を自動的に拒否したり、逆に過剰な治療を強制したりするのではなく、他の複雑な疾患を持つお子さんと同様に、最善の医学的根拠と個々の病態に基づいて公平なケアが提供されるべきだ、という考え方です[15]

こうした転換の背景には、「予後不良を理由に初期治療を行わないことが、その後の死亡という結果を自ら招き、そのデータが治療を控える正当化に使われる」という循環(自己充足的予言)への反省があります。適切な呼吸管理や心臓手術などの介入が、生存の可能性そのものを構造的に変え得ることを認識する必要がある、というのが現代の考え方です。もちろん、あらゆる積極的介入が常に正しいわけではなく、心奇形やデバイス依存度、感染症リスクなどを冷静に評価し、「負担と恩恵のバランス」を見極めることが求められます。

7. 長期生存者の医療課題と成人期

積極的な医療介入の普及に伴い、1年を超えて生存する「長期生存者」の割合が増えており、それに伴って小児期から成人期にかけて現れる特有の合併症や医療課題が明らかになりつつあります。成人期に達することは依然として極めて稀ですが、20代半ばに達した症例が文献で報告されています。

たとえば、出生前に完全型18トリソミーと確定診断され26歳に達した女性の症例では、手術を行わなかった小さな心室中隔欠損を持ちながら、経年的に進行した重度の脊柱変形による慢性的な呼吸不全と、繰り返す誤嚥性肺炎を抱えつつ、家族の手厚い介護のもとで安定した状態を維持していたことが報告されています[17]。この症例は、長期生存における家族の介護力と、酸素療法などの非侵襲的な呼吸サポートの有用性を示しています[17]

💡 用語解説:一般的な小児疾患も「標準治療」を

長期生存する18トリソミー児も、川崎病など一般的な小児期の急性疾患にかかることがあります。こうした場合に、18トリソミーという診断を理由に標準的な積極治療を差し控えるのではなく、ガイドラインに沿った通常の治療を行うことが、お子さんの生命予後と生活の質を守るうえで重要だと考えられています。診断名ではなく、目の前の病状に応じたケアを、という考え方はここでも共通しています。

薬剤の慎重な使用と腫瘍スクリーニング

長期生存者のケアでは、いくつか注意すべき点があります。18トリソミー児は生まれつき胃腸の運動障害や便秘を来しやすいため、抗コリン作用を持つ薬剤(一部の精神科薬など)の処方には特に慎重さが求められます。ある29歳男性の完全型18トリソミー症例では、処方薬の抗コリン作用により重篤な腸閉塞を発症したことが報告されており、定期的な腹部や排便の状況の観察が欠かせないことが示されています。

また、18トリソミー児はウィルムス腫瘍(腎臓の腫瘍)や肝芽腫(肝臓の腫瘍)への感受性が高いことが知られています。北米のガイドラインでは、これらの悪性腫瘍を早期に発見するため、腹部超音波検査を3か月ごとに定期的に行い、肝芽腫についてはあわせて血液のAFP測定を行うことが推奨されています[18]。ウィルムス腫瘍は年長児、特に女児で報告例が多いため、腎臓の超音波検査は数年間にわたって継続することが勧められています[18][19]。このほか、多くの症例で難聴を合併するため定期的な聴力検査を、進行性の脊柱側弯症に対しては整形外科的なフォローを、睡眠時の無呼吸に対しては睡眠検査を、といった包括的な健康管理が推奨されます。

8. 出生前診断と検査:分けて理解する

18トリソミーの多くは、妊娠中の出生前スクリーニング(母体年齢・母体血清マーカー・超音波所見)によって疑われ、確定診断に進みます[4]。ここで大切なのは、「スクリーニング検査」と「確定検査」は目的が異なるという点です。両者を混同しないことが、正しい理解の第一歩になります。

💡 用語解説:スクリーニングと確定診断の違い

スクリーニング検査は、「その可能性が高いか低いか」を調べる検査です。NIPT(新型出生前診断)やコンバインド検査がこれにあたり、陽性でも確定ではありません。一方確定検査は、実際に胎児(胎盤)由来の細胞の染色体を調べて診断を確定させるもので、羊水検査・絨毛検査がこれにあたります。NIPTが陽性であっても、最終的な診断には確定検査が必要になります。

🤰 スクリーニング検査

非侵襲的な検査:母体の血液を用いるNIPTや、超音波と血清マーカーを組み合わせたコンバインド検査

妊婦さんとおなかの赤ちゃんへの負担が少ない一方、結果は「可能性」を示すもので確定ではありません。

👶 確定検査

侵襲的な検査:羊水検査・絨毛検査による染色体分析

胎児(胎盤)由来の細胞を採取して染色体を直接調べ、診断を確定します。わずかながら流産のリスクを伴います。

NIPTは妊娠早期から高い精度で18トリソミーを検出できる検査ですが、あくまでスクリーニングであり、陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確定診断が選択肢となります。確定診断の時期や流れについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

遺伝カウンセリングの役割

18トリソミーが疑われた、あるいは確定した場合、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングが欠かせません。特に部分型で親が均衡型転座の保因者である場合には、家系の染色体分析を通じて、次の妊娠での再発リスクを正確に評価することが重要になります。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が、検査前後の情報提供と意思決定の支援を担っています。遺伝カウンセリングでは、遺伝形式と再発リスク、検査の選択肢、そして何よりご家族の価値観を尊重した意思決定の支援が中心的なテーマとなります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「知ること」は選択肢を狭めるためではない】

出生前に18トリソミーの可能性を知ることを、「その先の選択を迫られること」と重ねて、ためらう方は少なくありません。けれど、正確な情報を知ることは、選択肢を狭めるためではなく、ご家族が納得のいく形で心の準備を整え、必要な医療につながるための入り口でもあります。

妊娠を継続するにせよ、そうでないにせよ、どの道を選ぶかはご家族お一人おひとりの価値観に委ねられています。わたしたち遺伝専門医の役割は、特定の結論へ誘導することではなく、正確な情報とともにその歩みに伴走することだと考えています。

9. よくある誤解

誤解①「必ず1歳まで生きられない」

従来の集団統計では1年生存率5〜10%とされてきましたが、積極的治療を行う施設では50〜60%台の1年生存率も報告されています。提供される医療の内容によって経過は大きく変わり、「必ず」という言葉は当てはまりません。

誤解②「母親のせいで起こる」

18トリソミーの多くは偶発的な染色体不分離によって生じ、親の行動や妊娠中の過ごし方とは関係ありません。母体年齢との関連はありますが、それは誰にでも起こりうる自然な現象で、ご家族が責めを負う必要はありません。

誤解③「診断名だけで治療を決めてよい」

2025年のAAP指針は、診断名だけを理由に治療を一律に控えることに倫理的な正当化はないと明言しています。個々の合併症の状況とご家族の価値観に基づいて、公平に判断されるべきという考え方が標準になりつつあります。

誤解④「NIPTが陽性なら確定した」

NIPTはスクリーニング検査であり、陽性でも診断が確定したわけではありません。最終的な診断には羊水検査・絨毛検査による確定診断が必要です。結果の解釈は遺伝専門医とともに慎重に進めることが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 18トリソミーとエドワーズ症候群は同じ病気ですか?

はい、同じものを指します。18番染色体が3本になる状態を医学的に「18トリソミー」と呼び、1960年にこの症候群を初めて報告したジョン・エドワーズ医師にちなんで「エドワーズ症候群」とも呼ばれます。どちらの呼び方も広く使われています。

Q2. 18トリソミーの寿命はどのくらいですか?

従来の集団統計では1年生存率は5〜10%程度とされてきました。しかし近年、日本や韓国など積極的な治療を行う施設では1年生存率が50〜60%台に達する報告もあり、なかには成人期に達する例も報告されています。予後は合併症の内容と、提供される医療によって大きく異なります。詳しくは寿命と長期生存例の記事をご覧ください。

Q3. 次の子どもにも同じことが起こりますか?

型によって異なります。完全型やモザイク型は偶発的に生じるため、次の妊娠での再発率は一般に低いとされます。一方、部分型で親が均衡型転座の保因者である場合は、再発率が高くなることがあります。ご家族の染色体を調べる分析と遺伝カウンセリングによって、より正確なリスク評価を受けることができます。

Q4. 心臓の手術は受けたほうがよいのですか?

一律の答えはありません。研究では、比較的軽症な心奇形を伴う場合には手術が生存率を向上させる一方、重症の複雑心奇形では手術の効果が限られることも示されています。心奇形の解剖学的な特徴や全身の状態を総合的に評価し、ご家族の価値観とともに個別に判断されるべき、というのが現在の考え方です。

Q5. 出生前に18トリソミーを調べることはできますか?

はい。母体の血液を用いるNIPTや、超音波と血清マーカーを組み合わせたコンバインド検査などのスクリーニングで可能性を調べることができます。陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確定診断が選択肢となります。検査の選択については遺伝専門医にご相談ください。

Q6. モザイク型だと症状は軽いのですか?

一概にそうとは言えません。モザイク型は、トリソミー細胞がどの組織にどれくらいの割合で存在するかによって、重い症状から比較的軽い場合まで非常に幅広い経過をたどります。血液や皮膚で調べたトリソミー細胞の割合と、実際の症状の重さが必ずしも一致しないことも報告されており、経過の予測は難しいのが実情です。

Q7. 13トリソミーやダウン症候群とはどう違うのですか?

いずれも「トリソミー」(染色体が1本多い状態)ですが、増える染色体の番号が異なります。ダウン症候群は21番、パトウ症候群は13番、エドワーズ症候群は18番の染色体が3本になっています。症状の種類や重さ、生命予後もそれぞれ異なります。18トリソミーはダウン症候群に次いで2番目に多い常染色体トリソミーです。

Q8. 長期生存する場合、どんな健康管理が必要ですか?

腎臓や肝臓の腫瘍への感受性が高いため、腹部超音波検査による定期的な腫瘍スクリーニングが推奨されます。また難聴に対する聴力検査、進行性の脊柱側弯症への整形外科的フォロー、睡眠時無呼吸への対応など、包括的な健康管理が必要です。あわせて、胃腸の運動障害を来しやすいため、一部の薬剤の使用には慎重さが求められます。

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参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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