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NIPT陰性でもダウン症?偽陰性の5つの原因と確率、専門医が徹底解説【2025年最新情報・論文ベース】

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

この記事のポイント
  • NIPT偽陰性の定義と、なぜ起こり得るのかを解説
  • NIPT偽陰性の主な5つの生物学的メカニズムを詳説
  • ダウン症におけるNIPT偽陰性の具体的な確率を紹介
  • NIPTの結果をどのように理解し、その後の妊娠管理に活かすか
  • NIPTに関するよくある質問と「残余リスク」の理解

はじめに:NIPT陰性の結果、それでも残る不安

「NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)で陰性だったから、ダウン症の可能性はもうない」——そう安心していたのに、インターネットで「NIPT 陰性 ダウン症」といった検索結果を見て不安になったり、実際に陽性のお子さんを授かったという話を聞いたりして、心配が再燃する妊婦さんは少なくありません。

NIPTは非常に精度の高いスクリーニング検査ですが、残念ながら100%ではありません。ごく稀に、「偽陰性(ぎいんせい)」といって、検査では「陰性(異常なし)」と判定されたにもかかわらず、実際には赤ちゃんがダウン症候群(21トリソミー)などの染色体異数性を持っているケースが存在します。

この記事では、NIPTが陰性だったにもかかわらずダウン症候群のお子さんが生まれる「偽陰性」について、その主な原因、起こりうる確率、そして私たちがどのように向き合っていくべきかについて、最新の医学論文や専門機関の見解に基づいて詳しく解説します。正しい知識を持つことで、不必要な不安を軽減し、適切な判断を下すための一助となれば幸いです。

NIPT偽陰性とは?なぜ起こるの?

NIPTは、お母さんの血液中に含まれるごくわずかな胎児由来のDNA(cfDNA)を分析することで、胎児の染色体異数性(ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーなど)のリスクを調べる検査です。従来の母体血清マーカー検査と比較して感度・特異度ともに非常に高く、ダウン症候群に対する検出率は99%以上と報告されています。

しかし、NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、「確定診断検査」ではありません。スクリーニング検査である以上、結果が100%正確であるとは限らず、実際には陽性であるにもかかわらず陰性と判定される「偽陰性」や、その逆の「偽陽性」が起こり得ます。

偽陰性とは

偽陰性とは、実際には赤ちゃんがダウン症候群であるにもかかわらず、NIPTの結果が「陰性(低リスク)」と判定されることを指します。NIPTの陰性的中率(NPV:陰性と判定された場合に本当に陰性である確率)は非常に高く、多くの状況で99.9%を超えるとされています。これは、「陰性」という結果が極めて高い確率で正しいことを意味しますが、それでもごくわずかながら偽陰性の可能性は残ります。

NIPT偽陰性の主な5つの原因(生物学的メカニズム)

NIPTでダウン症候群の偽陰性が起こる主な生物学的メカニズムは複雑ですが、主に以下の5つが考えられています。

1. 胎盤モザイク現象(Placental Mosaicism)

NIPTで分析される胎児由来のDNAは、実は胎児そのものではなく、主に胎盤の細胞(細胞栄養膜細胞)に由来しています。胎盤と胎児の遺伝情報は通常は一致しますが、稀に異なる場合があります。これが「胎盤モザイク現象」です。

CPM
限局性胎盤モザイク(Confined Placental Mosaicism: CPM)

胎児はダウン症候群(21トリソミー)であるにもかかわらず、NIPTで分析される胎盤の細胞栄養膜層が大部分または完全に正常な染色体構成である場合、NIPTの結果は偽陰性となることがあります。これは、胎盤が胎児の異数性を「隠して」しまう状態と言えます。

TFM
真の胎児モザイク(True Fetal Mosaicism)

胎児自身がダウン症候群のモザイク(一部の細胞のみがトリソミー)である場合、胎盤から母体血中に放出されるcfDNAが主に正常な細胞株を反映していると、偽陰性になる可能性があります。

ある研究では、高リスク群において、この現象により18トリソミーまたは21トリソミーがNIPT検体426件に1件の割合で見逃される可能性があると推定されています。

2. 低胎児分画(Low Fetal Fraction: FF)

胎児分画(FF)とは、お母さんの血液中に含まれる全cfDNAのうち、胎盤由来のcfDNAが占める割合のことです。NIPTの精度を保つためには、このFFが一定量以上(通常2~4%超、検査法により異なる)必要です。

FFに影響を与える要因 説明
母体の体重(BMI) 体重が重い(BMIが高い)とFFが低くなる傾向
妊娠週数 妊娠初期(特に10週未満)ではFFが低いことがある
胎盤の状態 胎盤の異常やサイズなどがFFに影響することがある
特定の胎児異数性 13トリソミー、18トリソミー、三倍体などが低FFと関連することがある

FFが低いと、ダウン症候群の胎児が持つ余分な21番染色体のシグナルが、お母さん由来の圧倒的に多いDNAに埋もれてしまい、検出が困難になります。これにより、偽陰性や「判定不能」という結果が生じることがあります。ある報告では、NIPT偽陰性の最大50%が低FFに起因するとも示唆されています。

3. 21q同腕染色体(Isochromosome 21q)

21q同腕染色体(i(21q))は、21番染色体の長腕(q腕)が2本結合した特殊な構造異常で、ダウン症候群を引き起こします。このi(21q)は、NIPT偽陰性のダウン症候群症例において、通常のダウン症候群(遊離型21トリソミー)よりも著しく高い頻度で見つかることが報告されています。

重要な統計

ある研究では、NIPT偽陰性のダウン症候群29例中8例(28%)が21q;21q再編成と関連しており、これはダウン症候群の生児における2%と比較して14倍も高い割合です。この原因として、i(21q)が受精卵の分裂初期(接合後)に形成されることで胎盤モザイクが生じ、cfDNAの供給源である細胞栄養膜が胎児と比較してトリソミー細胞の割合が低くなる(あるいは正常である)可能性が指摘されています。

4. バニシングツイン(Vanishing Twin)

バニシングツインとは、当初は双胎妊娠であったものが、妊娠初期に一方の胎児が発育を停止し、吸収されてしまう現象です。もし、消失した側の胎児が正常な染色体構成で、生存している側の胎児がダウン症候群であった場合、消失した正常な胎児由来のcfDNAが母体血中に残存し、ダウン症候群のシグナルを薄めてしまうことで、理論的には偽陰性となる可能性が考えられます。ただし、これは比較的稀なケースとされています。

5. 検査技術的な限界やその他の要因

NIPTは非常に高度な技術ですが、検体処理、シークエンシング、データ解析の過程でごく稀に技術的なエラーが発生し、偽陰性に繋がる可能性も完全には否定できません。また、原因が特定できない偽陰性例も報告されています。

NIPT偽陰性の確率:どのくらい起こり得るのか?

NIPTのダウン症候群に対する検出率は99%以上と非常に高いですが、偽陰性率はゼロではありません。複数の研究や報告がありますが、ダウン症候群におけるNIPTの偽陰性率は、一般的に0.02%~1.4%程度とされています。

具体的な研究データ

  • 5施設研究:確定診断されたダウン症候群646例中9例(1.4%)の偽陰性
  • 統計データ:偽陰性率は0.02%~0.26%の範囲
  • 低リスク群:1万分の1未満(0.01%未満)

実際の意味

例えば、偽陰性率を0.1%と仮定すると、NIPT陰性1000件のうち1件は偽陰性である計算になります。この確率は非常に低いものですが、NIPTを受ける全ての方がこの「残余リスク」について理解しておくことが重要です。

NIPT偽陰性だった場合の臨床的対応と心構え

NIPTの結果が陰性であっても、偽陰性の可能性を完全に否定することはできません。そのため、以下の点が重要になります。

1. 超音波検査(エコー検査)の重要性

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総合的な判断

NIPTの結果は、他の臨床情報、特に超音波検査の所見と合わせて総合的に判断されるべきです

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継続的な観察

NIPTで低リスクと判定された後でも、妊娠中期(20週頃)の超音波検査でダウン症候群を示唆するような所見が見つかることがあります

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早期発見の重要性

実際に、NIPT偽陰性例の多くは、その後の超音波検査での異常所見がきっかけで診断に至っています

コラム:なぜ健診のエコーでダウン症が「告知されない(見落とされる)」のか?

インターネット上の体験談などで「毎回の妊婦健診のエコー(超音波検査)では『順調ですね』と言われていたのに、生まれてみたらダウン症候群だった」という事例を目にし、「もしかして医師はエコーで異常に気づいているのに、あえて告知してくれないのでは?」と不安になる妊婦さんは少なくありません。

結論から申し上げますと、医師が意図的に隠しているわけではありません。最大の理由は「一般的な妊婦健診で行われるエコー検査の限界」にあります。

通常のエコー検査は、主に赤ちゃんの「大きさ(発育)」や「羊水量」、そして「明らかな形態的異常」を確認するためのものです。しかし、ダウン症候群(21トリソミー)のお子さんのすべてに、お腹の中にいる段階で心疾患などのわかりやすい形態異常が現れるわけではありません。特徴的なサイン(NTと呼ばれる首の後ろのむくみなど)が全く見られないケースも多々あります。

「染色体の異常」は、白黒のエコー画像(形態の確認)だけでは確実に見抜くことはできないのが現実です。だからこそ、エコー検査だけに頼るのではなく、お母さんの血液から赤ちゃんのDNAそのものを調べる高精度なNIPTを組み合わせることが、見落としの不安をなくし、より確実な安心を得るために非常に重要なのです。

2. 確定診断の必要性

NIPTはスクリーニング検査であり、診断を確定するものではありません。NIPTの結果が陰性であっても、超音波検査で何らかの異常が疑われたり、その他の臨床的な懸念がある場合には、羊水検査や絨毛検査といった侵襲的な確定診断検査を検討することが推奨されます。

3. 専門家によるカウンセリング

NIPTを受ける前と後には、医師や遺伝カウンセラーによる十分なカウンセリングを受けることが不可欠です。カウンセリングでは、NIPTがスクリーニング検査であること、偽陽性・偽陰性の可能性があること、そして「陰性」という結果が出てもダウン症候群である可能性が完全にゼロになるわけではない「残余リスク」が存在することを明確に説明してもらう必要があります。

4. 「残余リスク」の正しい理解

残余リスクとは

NIPTで「陰性(低リスク)」という結果は、ダウン症候群である可能性が「大幅に減少する」ことを意味しますが、「完全にない」ことを保証するものではありません。この「残余リスク」の概念を正しく理解し、過度な安心や油断をせず、その後の妊婦健診をきちんと受けることが大切です。

よくあるご質問(FAQ)

Q1: NIPTで陰性だったら、ダウン症の可能性はもう心配しなくて良いですか?

NIPTで陰性(低リスク)と判定された場合、赤ちゃんがダウン症候群である可能性は非常に低くなります(陰性的中率は99.9%以上)。しかし、100%ではありません。ごく稀に偽陰性の可能性があるため、「残余リスク」としてわずかな可能性は残ります。その後の妊婦健診や超音波検査もきちんと受けることが大切です。

Q2: NIPT偽陰性の原因で最も多いものは何ですか?

NIPT偽陰性の原因は一つではありませんが、主な生物学的要因として「胎盤モザイク現象」と「低胎児分画(FF)」が挙げられます。また、特殊な染色体構造である「21q同腕染色体」も偽陰性の重要な原因として報告されています。ある報告では、低FFが偽陰性の最大50%、胎盤モザイク現象が不正確な結果の約20%に関与するとされています。

Q3: NIPTの結果が陰性でしたが、その後の超音波検査でダウン症候群の疑いを指摘されました。どうすれば良いですか?

NIPTの結果が陰性であっても、超音波検査で何らかの懸念事項が指摘された場合は、その所見を重視し、医師とよく相談の上、羊水検査などの確定診断検査を受けることを検討するのが一般的です。NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、超音波検査で具体的な形態異常などが認められた場合は、より詳細な評価が必要です。

Q4: NIPTの偽陰性を避けるために、妊婦側でできることはありますか?

偽陰性の多くは、胎盤モザイクや低胎児分画といった生物学的な要因、あるいは特殊な染色体構造に起因するため、妊婦さん自身が直接的に偽陰性を避けるためにできることは限られています。しかし、以下の点は重要です:

  • 適切な時期に検査を受ける(一般的に妊娠10週以降が推奨)
  • 信頼できる医療機関で検査を受ける
  • 検査前後のカウンセリングをしっかり受ける
  • NIPTの結果だけでなく、超音波検査など他の所見も重視する

Q5: NIPT(新型出生前診断)は妊娠何週からいつまで受けられますか?

NIPTは通常、妊娠10週0日から受けることができます。「いつまで」という明確な法的な期限はありませんが、万が一陽性だった場合の羊水検査(確定診断)の時期などを考慮し、妊娠15〜16週頃までに受検される方が一般的です。なお、ミネルバクリニックでは妊娠期間中であれば週数の上限なく検査をお受けいただけます。

Q6: NIPTでは具体的に何がわかるのでしょうか?

NIPTでは、お腹の赤ちゃんの染色体の異常がわかります。基本検査では、ダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーのリスクを調べます。さらに当院が提供する第3世代NIPTでは、全染色体の異常や微小欠失、特定の遺伝子疾患など、より幅広い項目を調べることが可能です。本記事で解説した偽陰性のリスクも踏まえ、「どこまで調べたいか」を専門医とのカウンセリングでしっかり話し合うことが大切です。

まとめ:NIPTを正しく理解し、賢明な選択を

NIPTは、ダウン症候群などの染色体異数性に対する非常に優れたスクリーニング検査ですが、万能ではありません。「陰性」という結果は大きな安心材料となりますが、ごく稀に偽陰性が起こり得ることを理解しておく必要があります。

重要なのは、NIPTの結果を過信せず、その後の妊婦健診や超音波検査もきちんと受け、何か気になる点があれば速やかに医師に相談することです。そして、検査前後のカウンセリングを通じて、NIPTの特性、限界、そして「残余リスク」について十分に理解し、納得した上で検査を受けることが、後悔のない選択に繋がります。

この記事が、NIPTと偽陰性に関する正しい知識を得て、皆様が安心して妊娠期間を過ごすための一助となれば幸いです。不安なことや疑問点があれば、遠慮なくかかりつけの産婦人科医や遺伝カウンセリングの専門家にご相談ください。

NIPTと遺伝カウンセリングのご相談はミネルバクリニックへ

ミネルバクリニックでは、NIPT(新型出生前診断)を専門に提供しています。検査前後の遺伝カウンセリングでは、検査の内容や意味、結果の解釈について詳しくご説明します。不安やご質問があれば、専門医にご相談ください。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。診断や治療については、必ず医師にご相談ください。

プロフィール

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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