この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

ご家族に肺線維症(間質性肺炎)の方が2人以上いる、まだ若いのに肺が硬くなっていると言われた――そんな方のための遺伝子検査です。肺線維症の多くは遺伝によるものではありませんが、家族の中で続けて起こる場合の一部には、染色体の端(テロメア)を保つ遺伝子の変化が見つかります。このページの検査では、その代表であるTERT・TERCの2つの遺伝子を調べます。あなたの1回の検査結果は、ご両親・きょうだい・お子さんが「自分はどうなのか」を知る手がかりにもなります。何がわかり、わかったあとに何ができるのかを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この遺伝子検査で何がわかりますか?
肺線維症・間質性肺炎が遺伝によるものかを確かめる手がかりとして、テロメアを保つ酵素(テロメラーゼ)の遺伝子TERTとTERCの2つに、病気の原因となる変化があるかを調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
ご家族に肺線維症の方が複数いる方、若くして肺線維症と言われた方、肺の病気に加えて血液(骨髄)や肝臓の病気もある方、ご家族でTERT・TERCの変化がわかっている方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。血液のほか、唾液や頬の内側の粘膜でも調べられ、オンライン診療にも対応しています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、肺移植の前の準備や、骨髄・肝臓の見張り、ご家族の検査を考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 肺線維症・間質性肺炎は遺伝する?テロメア関連肺線維症とは
肺線維症(間質性肺炎)の多くは、遺伝によるものではありません。ただ、ご家族の中で続けて起こる場合の一部では、テロメアを保つ遺伝子(TERT・TERCなど)の変化が原因になっていることがわかっています。こうした遺伝子の変化による肺線維症を、テロメア関連肺線維症と呼びます。
肺線維症の原因には、喫煙、仕事などで吸い込む粉じん、膠原病、薬、放射線など、さまざまなものがあります。原因がはっきりしないものは特発性間質性肺炎と呼ばれ、日本では指定難病85に指定されています。その病気の解説で、難病情報センターは、似た病態の病気で家族内の発症が知られていること、家族内の発症が明らかな場合は「家族性肺線維症」として区別することを説明しています(2026年10月時点で確認)。
家族性肺線維症とは:血縁者に2人以上
このページでは、ご家族(血縁者)の中に、肺線維症・間質性肺炎の方が2人以上いる場合を「家族性肺線維症」と呼びます。米国の家族性肺線維症の登録研究で、73家系の発端者を調べたところ、6人(8%)にTERTまたはTERC(研究ではhTR)の変化が見つかりました[1]。この研究では、症状のない家族のうち、同じ変化をもつ方もテロメアが短くなっていました[1]。
言いかえると、家族性肺線維症でも、TERT・TERCの変化が見つかるのは一部の家系です。見つからない家系には、ほかの遺伝子の変化や、まだわかっていない原因があると考えられます(第4章・第8章)。欧州呼吸器学会の専門家委員会は2023年に家族性肺線維症についての声明を出し、どの患者さんに遺伝子検査と遺伝カウンセリングを勧めるか、ご家族のうち誰が検査の対象になるか、ご家族にどのような見張りが必要かを検討しています[7]。
肺線維症と間質性肺炎の違い
間質性肺炎は、肺の中の空気の袋(肺胞)の壁やそのまわり(間質)に炎症や傷が起こる病気の総称です。肺線維症は、その結果として肺が硬く縮んでいく(線維化する)状態をさします。いちばん多いタイプの特発性肺線維症(IPF)は、特発性間質性肺炎に含まれます(難病情報センター、2026年10月時点)。
テロメアの遺伝子の変化をもつ方の肺の病気は、特発性肺線維症だけとは限りません。米国でTERT・TERC・RTEL1・PARNのいずれかの変化をもつ肺線維症の115人を調べた研究では、特発性肺線維症と診断されたのは46%で、ほかは分類できない肺線維症(20%)、慢性過敏性肺炎(12%)などさまざまでした。家系の80%では、同じ家族の中でも診断名がそろっていませんでした[3]。ご家族の病名が違っていても、遺伝の手がかりがないとは言えないということです。
2. テロメアとは?染色体の端を守るキャップと肺の病気
テロメアは、染色体の両端にある「キャップ(ふた)」のような部分で、遺伝情報の本体を守っています。細胞が分裂するたびに少しずつ短くなり、短くなりすぎた細胞は分裂できなくなります。テロメアを伸ばして長さを保つのが、テロメラーゼ(テロメアーゼとも書かれます)という酵素です。
🧬 図:テロメアとテロメラーゼのしくみ
染色体の端の
テロメア遺伝情報を守るキャップ
▶
細胞分裂のたびに
少し短くなる
▶
テロメラーゼが
伸ばして保つTERT(酵素)+TERC(RNAの鋳型)
TERT・TERCに
変化がある
▶
テロメアが
短くなりやすい
▶
肺・骨髄・肝臓などの
細胞が入れ替われない肺では線維化につながる
※図は文献[1][2][5]の内容をもとに当院で作成。
テロメアの長さは、年齢とともに短くなります。TERTの変化をもつ21家系・134人を調べた研究でも、テロメアは年齢とともに短くなっていました[2]。「テロメアと寿命」の話題はよく取り上げられますが、このページで扱うのは、生まれつきの遺伝子の変化でテロメアが保てなくなる病気のほうです。テロメアそのもののしくみは、テロメアとは(用語解説)で詳しく説明しています。
テロメラーゼ(TERT・TERC)が働かないと、なぜ肺が硬くなるのか
テロメラーゼは、酵素の本体をつくるTERT遺伝子と、テロメアを伸ばすときの鋳型となるRNAをつくるTERC遺伝子が組み合わさって働きます。どちらかに変化があると、テロメアが短くなりやすくなります[1]。
肺の空気の袋(肺胞)の表面の細胞は、傷ついたときに入れ替わって修復されます。テロメアが短すぎると、この入れ替わりがうまくいかず、傷のあとが線維として残り、肺が硬くなっていくと考えられています。研究者たちは、TERTの変化による肺線維症を、先天性角化不全症・骨髄不全・肝臓の病気と並ぶ「テロメアの病気(telomeropathy)」のひとつとしてとらえています[2]。
世代を重ねるほど早く始まることがある(表現促進)
テロメアの遺伝子の変化がある家系では、世代を重ねるにつれてテロメアがさらに短くなっていくことが報告されています[2]。常染色体顕性の先天性角化不全症の家系では、世代を重ねるほど症状が早く・重く出る「表現促進現象」が報告されており、TERTの片方の働きが足りないことがその一因と示されています[4]。
また、同じ研究では、TERTの変化を受け継がなかったご家族でも、テロメアが一般の人より短めでした[2]。親の世代で短くなったテロメアが、遺伝子の変化とは別に受け継がれる可能性を示すものです。「親は高齢になってから発症したから、子どもも同じくらいだろう」とは言い切れないのは、こうした理由からです。
3. 肺だけではない:骨髄・肝臓・白髪・皮膚や爪のサイン
テロメアの遺伝子の変化は、肺だけでなく、細胞がさかんに入れ替わる骨髄(血液をつくる場所)や肝臓、皮膚・爪・髪にも影響することがあります。そのため、肺の病気に加えて、次のようなサインがご本人やご家族にあるときは、テロメアの病気を考える手がかりになります。
🔍 テロメアの病気で見られることがあるサイン
※文献[2][3][5]による。どのサインが出るか・出ないかは、人によって大きく違います。
子どものころから爪・皮膚・口の変化や骨髄不全が目立つ典型的な形は、先天性角化不全症と呼ばれます。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、先天性角化不全症と関連するテロメアの病気では、肺線維症ははじめに見つかるサインのこともあれば、時間がたってから出てくることもあり、顕性遺伝の形でより多く報告されています[5]。小児慢性特定疾病情報センターの解説も、先天性角化異常症の不完全な形のひとつとして家族性肺線維症を挙げています(2026年10月時点で確認)。
前の章の115人の研究では、TERCの変化をもつ方はPARNの変化をもつ方より若くして肺の病気と診断され(平均51歳と64歳)、血液の病気の合併も多いという結果でした[3]。骨髄の病気が中心のときは、遺伝性骨髄不全症候群の解説もあわせてご覧ください。
4. この遺伝子検査はどんな人が受けるとよいか
ご家族に肺線維症の方が複数いる方、若くして肺線維症と言われた方、肺の病気に骨髄や肝臓の病気が重なる方が、まず考えたい検査です。遺伝子検査で原因がわかれば、その結果を手がかりに、必要な検査や治療の準備を主治医と検討できます。ただし、全員に原因が見つかるわけではありません(第8章)。
この検査を受けるとよい場面
- ●ご家族(血縁者)に、肺線維症・間質性肺炎の方が2人以上いる
- ●比較的若くして、肺線維症・間質性肺炎と診断された
- ●肺の病気に加えて、血球の減少・骨髄の病気・肝臓の病気、若いうちからの白髪や爪の変形などがある(ご家族にある場合も含む)
- ●肺移植を考える段階で、原因を確かめておきたい
- ●ご家族でTERTかTERCの変化が見つかっていて、ご自身が受け継いでいるかを知りたい
症状・検査の結果から、どのパネルを選ぶか
TERT・TERCの2つに絞って調べたいときは、このページの検査です。一方で、テロメアの遺伝子はTERT・TERCのほかにもRTEL1やPARNなどがあり、肺線維症の原因はテロメアの遺伝子だけではありません。当院には、より多くの遺伝子をまとめて調べるパネル検査もあります。同じ遺伝子パネル検査の料金(税込330,000円)で受けられますので、遺伝カウンセリングでご希望をお聞きして選びます。
🔍 症状・検査の結果から、どのパネルを選ぶか
※遺伝子の数は、2026年10月20日時点の各検査ページの記載による。どの検査が合うかは、ご本人とご家族の症状・診断名によって変わります。
受けなくてよい場合・別の検査が向く場合
喫煙・粉じん・膠原病・薬など、はっきりした原因で肺線維症になったと考えられ、ご家族にも肺の病気や骨髄・肝臓の病気がない場合は、遺伝子検査を急ぐ理由は少なくなります。反対に、ご家族の病名がばらばらでも、肺線維症の方が複数いるなら、遺伝の可能性を考える意味があります(第1章)。また、この検査はTERTとTERCしか調べないため、ご家族の原因がまだわかっていないときは、上の表のより広いパネルのほうが向いていることがあります。
5. 調べる2つの遺伝子(TERT・TERC)と、わかる病気
この検査では、テロメラーゼをつくるTERTとTERCの2つの遺伝子を調べます。どちらも、変化が1つあるだけで病気の原因になりうる「常染色体顕性(優性)遺伝」の形をとります。
🧬 調べる遺伝子と、関係する病気・遺伝のしかた
※病名と遺伝のしかたはOMIMの遺伝子と病気の対応表による(2026年10月確認)。皮膚悪性黒色腫9型は、主に遺伝子の調節領域(プロモーター)の変化と結びつけられており、この検査では調節領域を調べないため、参考として載せています。
常染色体顕性(優性)遺伝では、2本で1対の遺伝子のうち片方に変化があれば病気の原因になりえます。TERTの変化をもつ方の肺線維症は、40歳未満では見られず、60歳以上の男性ではおよそ60%に見られたという報告があり[2]、変化をもっていても、いつ・どの程度症状が出るかは人によって違います。
▶ TERT・TERCの働きをもう少し詳しく(専門的な補足)
TERT(Telomerase Reverse Transcriptase)は、テロメラーゼの中で、RNAを鋳型にしてテロメアの配列(DNA)をつくる「逆転写酵素」の部分をつくる遺伝子です。TERC(Telomerase RNA Component、hTRとも呼ばれます)は、そのときの鋳型となるRNAそのものをつくる遺伝子で、タンパク質にはなりません。2つがそろってはじめてテロメラーゼとして働くため、どちらの変化でもテロメアが短くなりやすくなります[1]。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、TERTとTERCの遺伝子の中の小さな変化(1文字の置きかわり・小さな抜けや入りこみ)と、遺伝子のまとまった抜け(欠失)・重なり(重複)です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●調べていない遺伝子:RTEL1・PARN・DKC1などのテロメアの遺伝子や、肺サーファクタントの遺伝子は、この検査に入っていません(第4章の表)。
- ●調節領域:遺伝子のはたらきを調節する部分(プロモーター)や、遺伝子の中の深い部分の変化はほとんど調べられません。TERCの調節領域の変化も、見つからないことがあります。
- ●小さな欠失・重複:欠失・重複は、遺伝子まるごと(頬の粘膜・血液)や、2つ以上続くエクソン(血液のみ)の範囲で見つけられます。エクソン1つ分の欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは見つけられません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●モザイク・構造の変化:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)や、染色体の組みかえ(転座・逆位)は、この検査の対象ではありません。がんの組織の検査にも使えません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。ご希望により、VUSを報告から除く設定もできます(無料)。
- ●陰性でも否定はできません:家族性肺線維症でも、TERT・TERCの変化が見つかるのは一部の家系です[1]。変化が見つからなくても、遺伝の可能性がなくなるわけではありません。
調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、二次的所見の開示方針をご覧ください。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
TERTかTERCに病気の原因となる変化(病的変異)が見つかったら、病名がはっきりするだけでなく、ご本人の治療の準備、ご家族の検査、これからの妊娠の計画まで、具体的に考えられるようになります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、この先ずっと使える情報になります。
ご本人(症状がある方):肺線維症になったら気をつけること
治療は、呼吸器内科などの専門の医療機関で受けていただきます(当院は治療を行っていません)。そのうえで、テロメアの遺伝子の変化がわかっていると、次のような準備ができます。
- ●たばこを避ける:TERTの変化をもつ家系の研究では、喫煙が肺線維症の発症と結びついていました[2]。難病情報センターも、家族に患者さんがいる場合は、喫煙などの危険因子をできる限り避けることを勧めています(2026年10月時点で確認)。
- ●肺移植の前に、骨髄・腎臓などを確かめる:テロメラーゼの遺伝子の変化をもつ8人の肺移植の報告では、88%が血小板の輸血を必要とし、全員で免疫を抑える薬の調整が必要になり、50%が腎臓の障害で透析を受けていました。これらの合併症は、この少人数の報告で高い頻度で認められました[6]。移植を考えるときは、遺伝子の結果を移植施設に伝え、前もって準備しておくことが大切だと考えます。
- ●骨髄・肝臓も見張る:先天性角化不全症と関連するテロメアの病気では、血液検査(血球の数)や肝機能検査を年1回行い、呼吸機能検査も年1回行うことなどが勧められています[5]。どの検査をどのくらいの間隔で受けるかは、主治医とご相談ください。
症状のないご本人・ご家族:「自分もなるかもしれない」という不安を抱える方へ
親やきょうだいが肺線維症になった方の中には、少し息切れがするだけで「始まったのでは」と不安になりながら暮らしている方もいます。ご家族の原因となる変化がわかっていれば、ご自身がそれを受け継いでいるかどうかを調べられます。
受け継いでいないとわかった場合、その変化による肺線維症について、ご家族と同じ確率を心配する必要はなくなります。ただし、肺線維症にはほかの原因もあるため、肺の病気にならないと言えるわけではありません。受け継いでいるとわかった場合も、同じ変化をもつ方がみな発症するわけではなく(浸透率が100%ではない)、たばこを避ける、呼吸機能や血液を定期的に確かめるなど、早めに備えることができます[2][5]。
英国でハンチントン病の発症前の検査を受けた人の理由として最も多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[8]。病気は違いますが、先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まいなど、これからの人生を計画したいと考える方もいます。一方で、知らないでいることを選ぶこともできます。当院は、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行い、結果のあとも相談を続けていただけます。
お子さんへの確率と、子どもを持つときの選択肢
TERT・TERCの変化は常染色体顕性(優性)遺伝なので、変化をもつ親から、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。世代を重ねるとテロメアがさらに短くなる家系があるため(第2章)、「自分が軽いから子どもも軽い」とは言えません[2][4]。
また、TERTには、両親から1つずつ変化を受け継いだときに起こる、潜性(劣性)の型の先天性角化不全症(4型)も知られています(OMIM)。TERTに変化がある方が子どもを持つことを考えるときは、パートナーの検査も選択肢になります。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)には、TERTが含まれています。
ご家族で原因となる変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんが同じ変化をもつかを調べることもできます[5]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。大人になってから発症することが多い病気の出生前診断をどう考えるかは、ご家族ごとに違います。妊娠を考えている段階から、出生前診断ができるかも含めて羊水検査・絨毛検査についてご相談ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。もちろん、特別な検査をせずに妊娠・出産を選ぶことも、同じように尊重される選択です。
ご家族の検査:同じ変化をピンポイントで調べる
ご本人に原因となる変化が見つかると、ご両親・きょうだい・お子さん・いとこなどのご家族は、その変化があるかどうかを調べられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のもとで、遺伝カウンセリングで知ることの意味をよく考えてから行います。
当院でのその後
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明し、ご本人・ご家族それぞれに次に何ができるかを一緒に考えます。呼吸器内科・血液内科などの主治医にお伝えする内容についてもご相談いただけます。
8. 陰性・VUSだったとき
TERT・TERCに変化が見つからなかった場合も、遺伝の可能性がなくなるわけではありません。テロメアのほかの遺伝子(RTEL1・PARNなど)や、テロメア以外の遺伝子が原因のこともあります[3]。ご家族に肺線維症の方が複数いるときは、先天性角化不全症の遺伝子検査や肺疾患の遺伝子パネル検査で、より広く調べることを考えます。
VUSが見つかった場合は、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
原因のはっきりしない間質性肺炎(特発性肺線維症を含む特発性間質性肺炎)は、指定難病85に指定されています。難病情報センターは、患者数を人口10万人あたり100人程度と推計しています(2026年10月時点で確認)。また、小児慢性特定疾病の対象疾病「先天性角化異常症」の解説では、家族性肺線維症が不完全な形のひとつとして挙げられています。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。肺線維症の方すべてが対象になるわけではないため、詳しくは難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液や頬の内側の粘膜でも調べられるので、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けてから検体を送っていただく形でも受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医・オンライン可
▶
検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体を採るキットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採らないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【家族の病名がばらばらでも、つながっていることがある】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
テロメアの遺伝子の変化による肺の病気は、同じ家族の中でも、ある人は特発性肺線維症、ある人は過敏性肺炎、ある人は血液の病気、というように、別々の病名で診断されていることがあります。ばらばらに見える病気が、ひとつの遺伝子の変化でつながっていることがあるのです。見た目の病名だけで「うちは遺伝ではない」と決めてしまわないでほしいと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。肺移植の準備、ご家族の検査、結婚や妊娠の計画――知ったうえで選べることはたくさんあります。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 肺線維症(間質性肺炎)は遺伝しますか?
肺線維症の多くは遺伝によるものではありません。ただ、ご家族の中で続けて起こる場合の一部では、テロメアを保つTERTやTERCなどの遺伝子の変化が原因になっています。米国の家族性肺線維症の研究では、73家系の発端者のうち8%にTERTまたはTERCの変化が見つかりました。
Q2. 親が肺線維症です。子どもに遺伝する確率は?
親御さんの肺線維症がTERTやTERCの変化によるものなら、常染色体顕性(優性)遺伝なので、お子さん1人ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎます。ただし、変化を受け継いでも、発症するかどうか・いつ発症するかは人によって違います。親御さんの肺線維症が遺伝によるものかどうかは、遺伝子検査で確かめてはじめてわかります。
Q3. 症状のない家族も検査を受けられますか?
受けられます。ご家族で原因となる変化がわかっていれば、その変化があるかどうかを調べられます。症状のない方の検査は、遺伝カウンセリングで知ることの意味をよく考えてから、ご本人の同意のもとで行います。知らないでいることを選ぶこともできます。
Q4. 肺線維症は治りますか?
硬くなった肺を元に戻すことは難しく、治療は進み方をゆるやかにすることや症状をやわらげることが中心です。重い場合は肺移植が検討されます。テロメアの遺伝子の変化をもつ方の肺線維症は、病名が違っても進行しやすいことが報告されています。治療は呼吸器内科などの専門の医療機関でご相談ください。
Q5. 遺伝性の肺線維症で気をつけることは?
たばこを避けることが大切です。TERTの変化をもつ家系の研究で、喫煙が肺線維症の発症と結びついていました。また、肺移植を考えるときは、テロメアの遺伝子の変化をもつ方で血液や腎臓の合併症が多かったという報告があるため、遺伝子の結果を移植施設に伝えて準備することが大切です。骨髄や肝臓の検査も主治医と相談して受けてください。
Q6. 「テロメア検査」(テロメアの長さを測る検査)とは違いますか?
違います。この検査は、テロメアを保つTERTとTERCの遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを調べる遺伝子検査です。テロメアの長さそのものを測る検査とは別のもので、テロメアの長さを測る検査はこのページでご案内している検査には含まれていません。
Q7. 結果が陰性なら遺伝の心配はありませんか?
陰性でも、遺伝の可能性がなくなるわけではありません。テロメアのほかの遺伝子(RTEL1・PARNなど)や、テロメア以外の遺伝子が原因のこともあります。ご家族に肺線維症の方が複数いるときは、より多くの遺伝子を調べるパネル検査を考えます。
Q8. 結婚や妊娠を考えるときに、何ができますか?
ご自身が変化をもっているかを知っておくと、お子さんへの確率(2分の1)をふまえて計画できます。TERTの変化がある場合は、パートナーの保因者検査も選択肢になります。妊娠したときは、絨毛検査・羊水検査による出生前診断を当院でご相談いただけます。どの選択をされても、その選択を尊重します。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。テロメア関連肺線維症の原因がわかれば、肺移植の準備や骨髄・肝臓の見張りだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Armanios MY, Chen JJ, Cogan JD, et al. Telomerase mutations in families with idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2007;356(13):1317-1326. [DOI: 10.1056/NEJMoa066157](PMID: 17392301)
- [2] Diaz de Leon A, Cronkhite JT, et al. Telomere lengths, pulmonary fibrosis and telomerase (TERT) mutations. PLoS One. 2010;5(5):e10680. [DOI: 10.1371/journal.pone.0010680](PMID: 20502709)
- [3] Newton CA, et al. Telomere-related lung fibrosis is diagnostically heterogeneous but uniformly progressive. Eur Respir J. 2016;48(6):1710-1720. [DOI: 10.1183/13993003.00308-2016]
- [4] Armanios M, Chen J, Chang YP, et al. Haploinsufficiency of telomerase reverse transcriptase leads to anticipation in autosomal dominant dyskeratosis congenita. Proc Natl Acad Sci U S A. 2005;102(44):15960-15964. [DOI: 10.1073/pnas.0508124102](PMID: 16247010)
- [5] Savage SA, Niewisch MR. Dyskeratosis Congenita and Related Telomere Biology Disorders. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2009 (Updated 2023 Jan 19). [NCBI Bookshelf NBK22301]
- [6] Silhan LL, Shah PD, Chambers DC, et al. Lung transplantation in telomerase mutation carriers with pulmonary fibrosis. Eur Respir J. 2014;44(1):178-187. [DOI: 10.1183/09031936.00060014](PMID: 24833766)
- [7] Borie R, Kannengiesser C, Antoniou K, et al. European Respiratory Society statement on familial pulmonary fibrosis. Eur Respir J. 2023;61(3):2201383. [DOI: 10.1183/13993003.01383-2022](PMID: 36549714)
- [8] Baig SS, Strong M, et al. 22 Years of predictive testing for Huntington’s disease: the experience of the UK Huntington’s Prediction Consortium. Eur J Hum Genet. 2016;24(10):1396-1402. [DOI: 10.1038/ejhg.2016.36]
関連記事