この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

肺サーファクタントは、肺の内側をおおって呼吸を楽にし、肺胞(空気の入る小さな袋)がしぼまないように支えている物質です。このはたらきが生まれつき弱い病気を「肺サーファクタント機能不全症」といい、正期産で生まれた赤ちゃんの重い呼吸障害や、子どもから大人まで続く間質性肺疾患の原因になります。原因となる遺伝子の変化がわかると、診断や今後の見通しを考える手がかりとなり、次のお子さんで同じことが起こる可能性と、次の妊娠での備え方を具体的に検討できるようになります。このページでは、肺サーファクタントのはたらきと、原因となる遺伝子と、関連する肺の病気の遺伝子、あわせて5つをまとめて調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
肺サーファクタント機能不全症の原因遺伝子(ABCA3・SFTPB・SFTPC・NKX2-1)と、肺胞毛細血管異形成の原因遺伝子(FOXF1)の5つの遺伝子を一度に調べ、新生児の重い呼吸障害や間質性肺疾患の原因が遺伝子の変化かどうかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
正期産なのに説明のつかない重い呼吸障害が続いた赤ちゃん、原因のわからない間質性肺疾患のあるお子さんや大人の方、肺の病気に甲状腺機能低下症や筋緊張の低下・不随意運動を伴う方、ご家族に同じ病気の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は330,000円(税込)で、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、ご家族の検査や、次の妊娠での出生前診断(羊水検査・絨毛検査を院内で)まで計画できます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 肺サーファクタントとは:肺胞がしぼまないように支える物質
肺サーファクタントは、肺の内側をおおって呼吸を楽にしている、リン脂質(脂質の一種)とタンパク質の混ざった物質です。足りないと、肺胞がしぼみやすくなり、うまく呼吸ができなくなります。米国国立医学図書館の遺伝性疾患の解説でも、このように説明されています(2017年7月更新の情報を2026年10月に確認)。
「サーファクタント」は、日本語では界面活性物質といい、液体の表面にはたらく力(表面張力)を下げる物質の総称です(サーファクタント(界面活性物質))。肺サーファクタントは、肺の中で同じようなはたらきをしています。新生児の病気の解説で「肺表面活性物質」と書かれていることもありますが、同じものを指しています。
どこで作られるか:II型肺胞上皮細胞とラメラ小体
肺サーファクタントは、肺の奥にあるII型肺胞上皮細胞という細胞で作られ、細胞の中のラメラ小体(層板小体)という小さな袋にたくわえられます。2004年の研究では、このページで調べるABCA3遺伝子から作られるタンパク質がII型肺胞上皮細胞に現れ、ラメラ小体にあることが示されました[2]。肺サーファクタントは、肺がきちんとふくらんで働くために欠かせないものとされています[2]。
足りないとどうなるか:早く生まれた赤ちゃんの呼吸窮迫症候群
早く生まれた赤ちゃんの呼吸窮迫症候群(RDS)は、肺が未熟で、肺サーファクタントが足りないために起こります[9]。欧州の新生児の専門家による2022年版のガイドラインでは、生まれた直後からの呼吸の補助や早めのサーファクタント投与などが、肺を守る管理として挙げられています[9]。つまり、早産による呼吸窮迫症候群の多くは「まだ作る準備ができていない」ことが原因です。
遺伝子の変化で「作れない・うまく働かない」場合との違い
これに対して、肺サーファクタントを作る・はたらかせるための遺伝子に生まれつき変化がある場合は、正期産(予定日の近く)で生まれた赤ちゃんでも重い呼吸障害が起こります。サーファクタントプロテインB(SP-B)の遺伝子の変化を報告した1994年の研究では、対象は肺胞蛋白症を伴う呼吸不全で亡くなった正期産の新生児でした[3]。ABCA3の変化を両方の遺伝子にもつ40人を調べた研究でも、37人が正期産の新生児呼吸窮迫症候群として発症していました[5]。
この研究では、補充のためのサーファクタント、ステロイド、ヒドロキシクロロキン、肺の洗浄などで、効いたように見えた例もありましたが、その多くは一時的でした[5]。「正期産なのに、治療をしても呼吸の状態がよくならない」ときは、肺サーファクタントに関わる遺伝子の変化を考える手がかりになります。
💡 用語解説:正期産と早産
出産予定日の近くの、赤ちゃんの体の準備がととのった時期に生まれることを正期産、それより早く生まれることを早産といいます。早産の赤ちゃんは肺が未熟なため、サーファクタントが足りないことがよくあります。正期産の赤ちゃんで同じような重い呼吸障害が続く場合は、別の原因を考えます。
2. 肺サーファクタント機能不全症と関連する病気:5つの遺伝子
肺サーファクタント機能不全症は、肺サーファクタントの産生・機能に関わる遺伝子の変化で起こる、まれな肺の病気の総称です。2019年の総説では、症状は新生児期に急速に命に関わる重い型から、大人になってからの肺線維症まで重なり合いながら幅広く、遺伝のしかた・経過・見通しは原因の遺伝子や変化の種類によって違うとされています。治療の選択肢は限られており、末期の肺線維症では肺移植が選択肢になること、臨床で使える遺伝子検査で診断できることも述べられています[1]。
日本では、先天性肺胞蛋白症(遺伝子の異常が原因の間質性肺疾患を含む)という名前で扱われることもあります。このページの検査では、肺サーファクタント機能不全症の原因として知られるABCA3・SFTPB・SFTPC・NKX2-1の4つに、病態は異なるものの新生児期に重い呼吸障害を起こす肺胞毛細血管異形成(ACD/MPV)の原因遺伝子FOXF1を加えた、5つの遺伝子をまとめて調べます。
新生児期から重い呼吸障害が出る:SFTPB・ABCA3
SFTPB遺伝子は、サーファクタントプロテインB(SP-B)を作る遺伝子です。1993年の報告では、SP-Bが欠けた先天性肺胞蛋白症の赤ちゃんは、それまで報告された例では最大限の治療を受けても全員が1歳までに亡くなっていたとされています[10]。米国国立医学図書館の解説では、SP-B欠損症は世界で新生児約100万人に1人と推定されています。
ABCA3遺伝子は、II型肺胞上皮細胞のラメラ小体の膜にあり、肺サーファクタントを作って整えるために欠かせないタンパク質の遺伝子です[5]。重い新生児のサーファクタント欠乏症の赤ちゃん21人を調べた2004年の研究では、16人(76%)にABCA3の変化が見つかり、この遺伝子の変化が新生児の致死的なサーファクタント欠乏症を起こすことが示されました[2]。
ABCA3の変化を両方の遺伝子にもつ40人をまとめた研究では、経過は大きく2つに分かれていました。生後早くに亡くなる型と、子ども・思春期・大人まで生きる型です。ABCA3の働きが完全に失われると予想される変化を2つもつ赤ちゃんは、全員が生まれてすぐに発症し、生後数週間のうちに亡くなっていました。それ以外の組み合わせでは症状と経過に幅があり、全体での5年をこえる生存は20%未満でした[5]。
乳児期から大人まで続く間質性肺疾患:SFTPC・ABCA3
SFTPC遺伝子は、サーファクタントプロテインC(SP-C)を作る遺伝子です。2001年に、家族で起こる間質性肺疾患の原因としてSFTPCの変化が報告されました[4]。肺サーファクタントに関わる遺伝子の病気は、大人になってからの肺線維症として見つかることもあります[1]。
米国胸部学会(ATS)の2013年のガイドラインでは、せき・速い呼吸などの症状、呼吸の診察所見、低酸素、胸部X線やCTでの広がった異常の4つのうち3つがそろう乳児を「小児間質性肺疾患(chILD)症候群」としてとらえ、専門的な評価を勧めています(よくある原因を除いたうえで)[8]。
肺・甲状腺・脳に症状が出る:NKX2-1(脳・肺・甲状腺症候群)
NKX2-1遺伝子は、肺・甲状腺・脳の発生にかかわる転写因子(ほかの遺伝子のはたらきを調節するタンパク質)の遺伝子です。変化があると、肺の病気・甲状腺機能低下症・不随意運動(舞踏運動)などの神経の症状が組み合わさって出ることがあり、「脳・肺・甲状腺症候群」と呼ばれます。
2009年の研究で、自験例と過去の報告あわせて46人を検討したところ、脳・肺・甲状腺の3つがそろっていたのは50%、脳と甲状腺は30%、良性遺伝性舞踏病(不随意運動だけ)は13%でした。肺の病気は54%にみられ、そのうち76%が新生児の呼吸窮迫症候群、24%がくり返す肺の感染症でした。経過を追うと、20%が重い慢性の間質性肺疾患になり、16%が亡くなっていました[6]。
肺の血管の発生の異常:FOXF1(肺胞毛細血管異形成)
FOXF1遺伝子の変化や、この遺伝子を含む染色体の小さな欠失は、肺静脈の位置異常を伴う肺胞毛細血管異形成(ACD/MPV)の原因になります。ACD/MPVは新生児期に命に関わる、まれな肺の発生の病気で、ほかの臓器の形の異常を伴うことが多いとされています。FOXF1の小さな変化は腸回転異常と、FOXF1を含む欠失は左心低形成症候群や消化管の閉鎖と関連していました。また、FOXF1の外側(上流)にある小さな欠失でもACD/MPVが起こりうることが示されています[7]。
3. 遺伝のしかた:遺伝子によって、ご家族への影響が違う
ABCA3とSFTPBは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親とも保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。SFTPCとNKX2-1は常染色体顕性(優性)遺伝で、親が同じ変化をもつとき、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます。どの遺伝子が原因かで、ご家族にとっての意味が大きく変わります。
🧬 遺伝子ごとの遺伝のしかた
※SFTPCの遺伝のしかたは米国国立医学図書館の解説による。
常染色体潜性(劣性)遺伝:SFTPB・ABCA3
常染色体潜性(劣性)遺伝では、対になった2本の遺伝子の両方に変化があると発症します。両方に同じ変化があることをホモ接合、別々の変化があることを複合ヘテロ接合といいます。片方だけに変化をもつ人は保因者で、ふつうは症状がありません。
SFTPBの変化を報告した1994年の研究では、病気の伝わり方が常染色体潜性遺伝と合っていました[3]。ABCA3では、近親婚の家族で同じ変化をホモ接合でもつきょうだいが見つかっています[2]。一方、ABCA3の40人の研究では、多くのご両親は近親婚ではなく、それぞれ片方の変化をもつ保因者でした[5]。つまり、血のつながりのないご夫婦でも、2人とも同じ遺伝子の保因者であれば起こりうる病気です。
常染色体顕性(優性)遺伝:SFTPC・NKX2-1
常染色体顕性(優性)遺伝では、2本のうち1本に変化があると発症しうるため、親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。NKX2-1では、遺伝子の変化のほか、この遺伝子を含む14番染色体の欠失も原因になります[6]。遺伝子が1本分しか働かないために起こる、ハプロ不全と呼ばれるしくみが考えられています。
⚠️ 「自分が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
NKX2-1の病気では、3つの症状がそろう人は半数で、不随意運動だけの人もいました[6]。このように、同じ遺伝子の病気でも症状の出方には大きな幅があります(表現型の多様性)。親御さんの症状が軽かったり、気づいていなかったりしても、同じ変化を受け継いだお子さんが同じ程度とは限りません。ご家族のどなたかで原因がわかったときは、症状の有無だけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
家族歴がない場合:新しく起きた変化とモザイク
顕性遺伝の病気では、ご両親に同じ変化がなく、お子さんで新しく起きた変化(新生突然変異(de novo))のこともあります。このとき、親御さんの卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)にだけ変化がある「性腺モザイク」の可能性は否定できません。
性腺モザイクの場合、変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化をもちます。ただ、生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは人によって違い、実際の診療ではわかりません。血液で調べたモザイクの割合も、生殖細胞の割合の目安にはなりません。そのため、次のお子さんへの確率は「最大で2分の1」と考えます。「新しく起きた変化だから、次は大丈夫」と小さく見積もらないことが大切です。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
正期産なのに説明のつかない重い呼吸障害が続いた赤ちゃん、原因のわからない間質性肺疾患のあるお子さんや大人の方、肺の病気に甲状腺や神経の症状を伴う方、ご家族に同じ病気の方がいる方に向く検査です。米国胸部学会の2013年のガイドラインは、次のような場面で遺伝子検査を勧めています[8]。
- ●重い、または急に進む新生児の肺の病気や、家族歴がある場合:SFTPB・SFTPC・ABCA3の検査(強い推奨)
- ●先天性甲状腺機能低下症と筋緊張の低下を伴う新生児:NKX2-1の変化・欠失の検査(強い推奨)
- ●重い肺高血圧を伴う新生児:FOXF1の欠失・変化の検査(弱い推奨)
- ●新生児期を過ぎた乳児で、最初の検査で診断がつかない場合:SFTPCとABCA3の検査(強い推奨)
同じガイドラインは、遺伝子検査を早めに行う理由として「結果が治療の選び方に影響しうるため」と述べ、遺伝子検査によって肺生検をしなくて済んだ患者さんもいるとしています。ただし、重い状態で急いで診断が必要なときは、結果を待たずに肺生検が必要になる場合もあるとしています[8]。
赤ちゃんが重い呼吸障害で生まれ、原因を知りたいご両親
この病気の多くは、ご本人ではなくご両親が検査を考えるきっかけになります。原因がわかると、病名・見通し・合併症への備えが決まり、使える医療費の制度(第8章)もわかります。さらに、次のお子さんで同じことが起こる確率と、次の妊娠でどう備えられるかを具体的に考えられるようになります。お子さんで新しく起きた変化なら、ご両親のせいではないことがはっきりします。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
原因のわからない間質性肺疾患のあるお子さん・大人の方
子どもの間質性肺疾患や、ご家族に同じ病気の方がいる間質性肺炎・肺線維症では、SFTPCやABCA3の変化が見つかることがあります[1][5]。病名がつくと、受けるべき検査、気をつけたいこと、使える制度が決まり、次の一手を選びやすくなります。
ご家族に同じ病気の方がいて、妊娠を考えている方
ご家族の原因がわかっていれば、ご自身が同じ変化をもっているか、保因者かを確かめられます。妊娠の前に知っておけば、出生前診断まで計画できます。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で受けられます(2025年6月から産婦人科を併設)。
この検査より別の検査が向いている場合
肺サーファクタント機能不全症が疑われる場合、この5遺伝子パネルは検討できる検査の一つです。ただし、症状によっては次の検査のほうが向いています。比べる相手は検査の種類です。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・画像・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングでご相談ください。
5. 調べる遺伝子と、それぞれの遺伝子でわかる病気
この検査では、ABCA3・FOXF1・NKX2-1・SFTPB・SFTPCの5つの遺伝子をまとめて調べます。1つずつ順番に調べると、そのたびに時間と費用がかかります。5つをまとめて調べることで、原因の遺伝子を一度に確かめられます。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、5つの遺伝子の中の小さな変化(1文字の変化や、小さな挿入・欠失)と、遺伝子全体や連続した複数のエクソンにわたる大きな欠失・重複です。次世代シークエンサーで、遺伝子のタンパク質を作る部分(コード領域)と、その境目(スプライス部位)を読みます。調べる範囲の99%以上を、同じ場所を20回以上読む精度で読み取ります。
見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。読み取りの質が十分でない部分は、サンガー法という別の読み方で補います。一方、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●欠失・重複の見つけやすさ:遺伝子1つ全体の欠失・重複は血液と頬の粘膜の検体で、2つ以上続くエクソンの欠失・重複は血液の検体でわかります。エクソン1つだけの欠失・重複は、ふだんは見つけられません(コピー数の変化(CNV))。
- ●見つけられない変化:染色体の転座や逆位、くり返し配列が伸びる変化、遺伝子の働きを調節する領域の多く、エクソンから20塩基以上離れたイントロンの奥の変化は対象外です。
- ●FOXF1の外側の欠失:ACD/MPVは、FOXF1の上流(遺伝子の外側)だけの欠失でも起こりうるとされています[7]。こうした変化は、この検査の範囲外になる可能性があります。
- ●調べていない遺伝子:サーファクタントプロテインAの遺伝子や、肺胞蛋白症に関わるCSF2RA・CSF2RBなどは対象外です[1][8]。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態を見つけることを目的とした検査ではありません。腫瘍の組織での検査も対象外です。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうかまだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で見つけられない変化や、ほかの遺伝子が原因の可能性は残ります。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。
陽性だったとき:診断がつき、次の一手が決まる
原因の遺伝子がわかると、病名がはっきりし、見通しを考えやすくなります。ABCA3では、どの組み合わせの変化かによって経過が大きく違うことが報告されています[5]。治療の選択肢は限られていますが、末期の肺線維症では肺移植が選択肢になるとされています[1]。NKX2-1の変化が見つかった場合は、肺だけでなく甲状腺の働きや神経の症状にも目を向けることになります[6]。指定難病・小児慢性特定疾病などの制度を使うときも、原因が確定していることが手がかりになります(第8章)。
ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき
あなたの1回の検査結果が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。ご家族の中で原因がわかっていると、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるか、保因者かを確かめられます。顕性遺伝のSFTPCやNKX2-1では、症状の軽いご家族が同じ変化をもっていることがあります。潜性遺伝のABCA3やSFTPBでは、きょうだいが将来結婚や妊娠を考えるとき、保因者かどうかを知る手がかりになります。
陰性だったとき
5つの遺伝子に原因が見つからなくても、肺サーファクタント機能不全症を完全に否定することはできません(第6章)。症状・画像・肺の機能の検査とあわせて判断し、必要に応じて全エクソーム検査や染色体の検査など、次の検査を考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査や出生前診断に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、二次的所見の開示方針をご覧ください。
次の妊娠を考えている方:保因者検査と出生前診断
ABCA3やSFTPBのような潜性遺伝の病気で、ご両親とも保因者とわかっている場合は、次の妊娠で赤ちゃんを調べる出生前診断を計画できます。原因がわかっていないと、出生前に何を調べればよいかの的が決められません。お子さんの原因を先に確かめておくことが、出生前診断を計画する出発点になります。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。当院は着床前検査(PGT)・体外受精は行っていません。
まだお子さんがいない方で、ご家族にこの病気の方がいる場合は、拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子、さらに女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子)も選択肢です。女性版787遺伝子の一覧にはABCA3が含まれています。SFTPBは787遺伝子の一覧には含まれていません。そのほかの版の対象は、それぞれの遺伝子一覧でご確認ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子、単独では受けられません)もあります。
出生前の赤ちゃんの遺伝子を広く調べる出生前全エクソーム検査にも対応しています。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
小児慢性特定疾病では、慢性呼吸器疾患の「先天性肺胞蛋白症(遺伝子異常が原因の間質性肺疾患を含む。)」として、SP-B欠損症、SP-C異常症、ABCA3異常症、NKX2.1遺伝子の異常、FOXF1遺伝子の異常によるACD/MPVなどが原因に挙げられています(小児慢性特定疾病情報センターの疾患概要で2026年10月に確認)。
指定難病では、229番「肺胞蛋白症(自己免疫性又は先天性)」に先天性の肺胞蛋白症が含まれます。難病情報センターのページ(2024年10月更新)では、先天性・遺伝性の肺胞蛋白症について「一部に遺伝するものもあります」と説明されていますが、対象となる遺伝子の名前は書かれていません(2026年10月に確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は330,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取お支払い後にキット送付
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体を採るキットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、ご自身で先に検体を採らないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【原因がわからないままでは、次の計画は立てられない】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
肺サーファクタント機能不全症は、生まれてすぐに重い呼吸障害が出ることもあれば、大人になってから肺線維症として見つかることもある病気です。潜性遺伝の型では、ご両親はふつう症状のない保因者です。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。そのうえで、原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性と、次の妊娠での備え方を具体的に考えられるようになる、と考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで次の妊娠を考えたい方には、出生前診断まで続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 肺サーファクタントとは何ですか?
肺の内側をおおい、呼吸を楽にしている物質です。リン脂質という脂質とタンパク質が混ざってできていて、肺の奥にあるII型肺胞上皮細胞でつくられ、ラメラ小体という袋にたくわえられます。足りないと、肺胞(空気の入る小さな袋)がしぼみやすくなります。
Q2. 肺サーファクタントがないとどうなりますか?
肺胞がしぼみやすくなり、うまく呼吸ができなくなります。早く生まれた赤ちゃんでは、肺が未熟でサーファクタントが足りないために呼吸窮迫症候群が起こります。一方、サーファクタントをつくる・はたらかせる遺伝子に生まれつき変化があると、正期産で生まれた赤ちゃんでも重い呼吸障害が起こったり、成長してから間質性肺疾患が起こったりします。
Q3. 早産の赤ちゃんの呼吸窮迫症候群とは、どう違いますか?
早産による呼吸窮迫症候群は、肺の未熟さとサーファクタント不足で起こり、早めのサーファクタント投与が管理の柱のひとつです。遺伝子の変化による肺サーファクタント機能不全症は、正期産の赤ちゃんでも起こり、治療の効果が一時的なことが多いのが違いです。正期産なのに説明のつかない重い呼吸障害が続くときは、遺伝子検査を考えます。
Q4. 家族も検査を受けたほうがよいですか?
原因の遺伝子と遺伝のしかたで変わります。ABCA3やSFTPBのような常染色体潜性(劣性)遺伝なら、ご両親は保因者であることが多く、次のお子さんの計画やきょうだいの将来に関わります。SFTPCやNKX2-1のような常染色体顕性(優性)遺伝なら、症状の軽いご家族が同じ変化をもっていることがあります。ご家族の検査を考えるときは、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q5. 次の子どもで同じ病気が起こる確率はどれくらいですか?
常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親とも保因者の場合は、お子さん1人ごとに4分の1です。常染色体顕性(優性)遺伝で親が同じ変化をもつ場合は、お子さん1人ごとに2分の1です。お子さんだけに新しく起きた変化でも、親の卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある可能性(性腺モザイク)は否定できないため、確率は「最大で2分の1」と考えます。
Q6. 検査で異常が見つからなければ、この病気ではないのですか?
そうとは言い切れません。この検査は5つの遺伝子を調べるもので、ほかの遺伝子が原因の場合や、遺伝子の外側の欠失など、この検査では見つけにくい変化もあります。結果は症状や画像検査とあわせて判断し、必要なら全エクソーム検査など次の検査を考えます。
Q7. 保険は使えますか?
このページの検査は自費診療で、検査費用は330,000円(税込)です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
Q8. 大人になってからの間質性肺炎でも受けられますか?
受けられます。肺サーファクタントに関わる遺伝子の変化は、新生児期の重い呼吸障害から、大人になってからの肺線維症まで幅広い症状を起こすことが報告されています。ご家族にも間質性肺炎の方がいる場合などは、遺伝カウンセリングでご相談ください。
🧬 一度の検査で、ご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。肺サーファクタント機能不全症の原因がわかれば、お子さんの見通しや備えだけでなく、ご家族の検査や、次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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