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新社会人になり、人間関係へ悩み始めた方は、アスペルガー症候群の可能性があります。実際、何が原因で辛い思いをしているか1人で悩んでいる人もいるでしょう。
そこで今回は、大人のアスペルガーの特徴や症状、即できるチェックリストについてお伝えします。
「自分がアスペルガーでは?」と疑っている方は、本記事を参考に一度病院の受診も検討しましょう。
【診断テスト】アスペルガー症候群の簡易チェックリスト
「自分がアスペルガーか気になるけど病院に行くのはハードルが高い」とお考えの方は、チェックリストで確認してみることをおすすめします。
14つの質問に答えるだけなので1分程度でできます。今後、アスペルガー症候群の可能性も考えて病院を受診するきっかけにもなりますので、ぜひご活用ください。
アスペルガー症候群とは?ASDとの違いについても解説
この章では、アスペルガー症候群の基礎知識について解説します。
「アスペルガー症候群ではないか」と疑っている方は、あなたの状況と照らし合わせながら読んでみてください。
アスペルガー症候群とは?ASDとの違いは?
アスペルガー症候群とは、ASD(Autism Spectrum Disorder (Disability)の略)に含まれる生まれつきの発達障害の一つのことです。2013年にアメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-5で、以下の3つの障害を統合してASD(自閉スペクトラム症)と呼ぶようになりました。
- ・アスペルガー症候群
- ・自閉症
- ・広汎性発達障害
アスペルガー症候群の特徴は、以下の通りです。
- ・相手の気持ちをイメージできない
- ・特定のことに強いこだわりがある
- ・周囲の刺激に敏感
ただし、全てのアスペルガー症候群の方にこれらの特徴があるわけではありません。人によっては、無症状や軽度な方もいるのです。
幼少〜学童期では、個性やキャラクターで成立していることがあります。一方で社会では協調性を求められるため、対人コミュニケーションで苦労するアスペルガー症候群は悪目立ちする可能性があります。
では、次にアスペルガー症候群の原因や発症頻度について見ていきましょう。
※参考資料
公益社団法人 日本精神神経学会(JSPN)/ICD—11 における神経発達症群の診断についてP216
プライマリケア/発達障害
アスペルガー症候群の原因
アスペルガー症候群が発症する明らかな原因は分かりません。
近年の研究によると、生まれる前に脳機能の成長が偏ることで発症すると考えられています。つまり、育児や生活環境、愛情不足と発症の因果関係はありません。
先天性の脳機能障害であるため、「自分の育ち方が悪かったのでは?」「生活環境が悪いから?」など、自分や家族を責めないようにしましょう。
アスペルガー症候群の発生頻度
厚生労働省によるとアスペルガー症候群(を含むASD)は、100人に1人の割合で発症すると言われています。発生頻度は、男性の方が女性に比べて約4倍も高い傾向にあります。
知的障害を伴わないケースだと症状の程度にもよるが、アスペルガー症候群だと気づかず社会生活を送っていることも少なくありません。そのため、実際の発生頻度はもう少し高いと予測されます。
また、日常・社会生活に支障がでてはじめて気が付くというケースがほとんどであり、発見が遅れ、発症から随分経過してから受診に至ることもあります。
※参考資料:厚生労働省 e-ヘルスネット/ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について
アスペルガー症候群の併存性
アスペルガー症候群をはじめとするASDの多くは、様々な障害を合併(併存性)することが多いです。
厚生労働省によると、ASDの「約70%」以上の人が1つの精神疾患を、「40%」以上の人が2つ以上の精神疾患を併存していると考えられています。
具体的な併存症は、以下の通り
- ・知的能力障害(知的障害)
- ・ADHD(注意欠如・多動症
- ・発達性協調運動症(DCD)
- ・不安症
- ・抑うつ障害
- ・学習障害(限局性学習症、LD)
- ・睡眠障害
- ・てんかん
- ・便秘
中には「てんかん」を併存している重度なアスペルガー症候群もあり、専門的な治療が必要になることもあります。その場合はMRIや脳波検査を行い、適切な治療を勧められるでしょう。
※参考資料:厚生労働省e-ヘルスネット/ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について
アスペルガー症候群の特徴と具体的な悩みごと
この章ではアスペルガー症候群についてもう少し踏み込みんで、アスペルガー症候群の特徴や具体的な悩みごとについて解説します。
これらが分かればご自身の症状と比較したり、具体的な対策を考えたりできます。
では、アスペルガー症候群の特徴と具体的な悩みごとについて見ていきましょう。
アスペルガー症候群の特徴
アスペルガー症候群の特徴は、以下の3つに分類できます。
- ・対人コミュニケーション障害
- ・特定の物事への強いこだわり
- ・想像力の欠落
言葉や文章だけだと理解がしづらく、相手の気持ちをイメージするのが苦手です。そのため一方的な会話をしたり、相手が不快に感じることを悪気なく言ったりすることも少なくありません。
仕事では抽象的な指示が理解できず、誰にも相談できないため1人で悩みます。先のことをイメージした行動ができないため、イレギュラーな展開にパニックや思考停止になることもあるでしょう。
また、特定の物事に強いこだわりがあることから、仕事でもマニュアルより自己流を優先して、周りから呆れられることもあります。
アスペルガー症候群の具体的な悩みごと
アスペルガー症候群の具体的な悩みごとは、以下の通りです。
- ・抽象的な指示が理解できない
- ・急なスケジュール変更でパニックになる
- ・コミュニケーションや人間関係が上手くいかない
- ・外的な刺激が気になり仕事が手につかない
- ・「話が長い」「説明くさい」と言われて傷つく
- ・上司に怒られる理由が分からない
- ・悪気はないが周りを怒らせてしまう
無意識の行動が相手を不快にさせたり、距離を広げたりします。そしてその理由をイメージできないアスペルガー症候群の方は、1人悩み苦しむことになります。
また、症状が悪化すると「うつ傾向」になり、徐々に会社に行きづらくなります。最悪の場合、仕事自体に強迫観念を持つこともあるため、「憂うつ」「いつもよりも声に張りがない」など自覚症状があれば、心療内科を受診しましょう。
アスペルガー症候群の診断
アスペルガー症候群の確定診断は、精神科もしくは心療内科のある病院やクリニックで行われます。
診断基準には、以下の2つが用いられます。
- ・世界保健機構の「ICD-10」
- ・アメリカ精神医学会の「DSM-5」
近年は「DSM-5」が用いられています。そしてこれらの診断基準に加えて、以下の検査が行われます。
- ・問診
- ・スクリーニング検査
- ・MRI・脳波検査(必要時)
問診では、日常・社会生活を送る上での具体的な困りごとや課題について明らかにします。「どのような場面で、どのような問題が生じているか」からアスペルガー症候群の症状が影響しているかを確認します。
また「てんかん」などの併存症を確認するためMRI・脳波検査が行われる場合もあります。
身体的な病気とは違って評価が難しいため、診断する医師の経験や知識に左右されることを知っておきましょう。少しでも的確な診断をしてもらえるためにも、問診でありのままを伝えるようにしましょう。
アスペルガー症候群の3つの治療
アスペルガー症候群の治療には、以下の3つがあります。
- 治療①:環境調整
- 治療②:カウンセリング
- 治療③:薬物療法
環境調整など日々の生活で取り組める治療もあるため、参考にしていただけると嬉しいです。
では、それぞれの治療について見ていきましょう。
治療①:環境調整
アスペルガー症候群の症状は、環境因子にも大きく左右されます。
そのため日常・社会生活での環境を見直し、あなたが過ごしやすいと思える環境に改善していくことも治療の一環になります。
環境調整を行う時のポイントは「あなたが何をストレスに感じているか」を明らかにすることです。原因がわかれば具体的な対策を立てることができます。
例えば、いつも怒ってくる上司がストレスになっているとします。上司の言い分が「指示が伝わらず同じミスを繰り返すから」だとすると、原因はコミュニケーションエラーであることが分かります。
そこで以下の対策が考えられるでしょう。
- ・抽象的な指示は理解できるまで確認する
- ・直接話すと萎縮するため、メールやチャットを活用する
- ・対人コミュニケーションの少ない部署へ異動希望を出す
アスペルガー症候群について十分に理解していない会社もあるため、「〇〇の理由で〜を希望します」と改善したい理由を添えて伝えるようにしましょう。
また、産業医に相談することで環境調整のヒントが見つかることもあります。必要に応じて各種機関との連携もしてもらえるため、心強い味方になってもらえるでしょう。
治療②:カウンセリング
気持ちの整理や今後の方向性についてしっかり考えたい方には、カウンセリングがおすすめです。
カウンセリングとはあなたの考えや気持ちを聞いてもらい、第三者から改善するためのアドバイスをもらえる心理療法の一つです。代表的なものとして「認知行動療法」があります。行動に伴う不安やストレスを知り、物事へ前向きに取り組めるトレーニングのことです。
例えば、以下のシチュエーションで認知行動療法が効果的です。
定時まで残り30分です。しかし、明日までに作成しなければいけない資料があと5枚あります。
「まだ5枚も作らなければいけない……終わりっこないよ」
「残り5枚で終わりか!絶対に30分で終わらせるぞ!」
同じ資料作りでも後半の考え方の方が気持ちよく作業ができます。また、仕事への集中力も高まるでしょう。
物事の捉え方を変えられるトレーニングこそ、認知行動療法なのです。
治療③:薬物療法
大前提として、アスペルガー症候群は完治しません。しかし、二次的な障害に対しては、症状をコントロールすることはできます。
例えば、会社の人間関係や仕事が上手くいかず、うつ病や適応障害、睡眠障害などを併発することも少なくありません。これらの症状に対しては、抗うつ剤や睡眠導入剤などで症状を和らげ、コントロールします。
ただし、薬物療法は日常生活に支障が出ている時だけ適用となります。そのため症状が弱く、生活を送る上で本人が苦痛やストレスを感じていないなら、様子観察となるでしょう。
1人で悩んでも解決しない|アスペルガー症候群に関する6つの相談先
自分がアスペルガー症候群だと分かっても、非常にデリケートな内容だけに誰にも相談できずに1人で悩んでいる方もいるのではないでしょうか?
そこで大人のアスペルガー症候群の方が相談できる6つの施設について紹介します。
- 相談先①:病院・クリニック
- 相談先②:発達障害者支援センター
- 相談先③:障害者就業・生活支援センター
- 相談先④:ハローワーク
- 相談先⑤:地域若者サポートステーション
- 相談先⑥:就労移行支援事業所
あなたの状況や目的に応じて相談先を選べるようになりましょう。
相談先①:病院・クリニック
アスペルガー症候群を疑って最初に考える相談先は、病院やクリニックではないでしょうか?
どんなにアスペルガー症候群を疑っても確定診断は医療機関以外に出せません。そのため、医療機関を受診することが障害と向き合う第一歩になります。
医療機関に相談するメリットは、以下の通りです。
- ・確定診断をしてもらえる
- ・アスペルガー症候群以外の障害も精査できる
- ・医師や看護師などの専門家にアドバイスをしてもらえる
- ・必要に応じて各種機関と連携してもらえる
- ・自分に最適な治療を始められる
- ・障害の程度を経過で追える
- ・各種手帳・サービスを無償で受けられる
これらのメリットがあるにも関わらず、一つとしてデメリットがありません。
「もし自分がアスペルガーだったら、どうしよう…」と不安になり、医療機関の受診を先延ばしにしているなら、すぐに相談しましょう。ご自身に障害があるのを受け入れるには覚悟が必要です。しかし、障害と向き合わない限り改善することはありません。
相談先②:発達障害者支援センター
社会生活で何かしらの支障が出ている方は、発達障害者支援センターへ相談すると良いでしょう。
発達障害者支援センターの実施主体は都道府県や政令指定都市であり、発達障害者に対して総合的な支援を目的に設置された専門機関のことです。周辺地域の保健、医療、福祉、教育、労働機関と協力しながら、本人やその家族が安心できるネットワークを作ります。
そして、発達障害者支援センターに相談するメリットは、以下の通りです。
- ・アスペルガー症候群に関する情報収集ができる
- ・日々抱える悩みや困りごとについて専門家に相談できる
- ・相談内容に応じて地域の専門機関と連携をとってもらえる
- ・各県最低1箇所は窓口がある
発達障害者支援センターに相談するなら、お住まいの市区町村(社会福祉法人・特定非営利活動法人等)に問い合わせるか、国立障害者リハビリテーションセンターのサイトから相談施設を探す方法があります。
※参考資料:国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター/発達障害者支援センター・一覧
相談先③:障害者就業・生活支援センター
医療機関でアスペルガー症候群の確定診断を受けたなら、障害者就業・生活支援センターで就労に関する相談ができます。
障害者就業・生活支援センターは国や県が実施主体となり、障害者の就業・生活面の相談・支援を目的として設置された機関のことです。
具体的なサービスは、以下の通りです。
- ・診療に関する相談支援
- ・障害特性を踏まえた雇用管理に関する助言
- ・日常生活・地域生活に関する助言
- ・関係機関との連絡調整
また連携機関については、厚生労働省の以下の図解でご確認ください。
(厚生労働省/障害者就業・生活支援センターについてより画像引用)
仕事や日常生活で抱える悩みや困りごとに関するアドバイスをもらいながら、各種機関と連携しながら安心して生活ができるようにサポートしてもらえます。
※参考資料:厚生労働省/障害者就業・生活支援センターについて
相談先④:ハローワーク
厚生労働省が実施主体のハローワークを活用することで、就労や仕事に定着するための支援を受けられます。
▶︎発達障害者に対するハローワークの支援の図解は、以下をご覧ください。
(厚生労働省/就労支援に向けたハローワークを中心とした「チーム支援」より画像引用)
ハローワーク職員(主査)と福祉施設職員、その他の就労支援者がチーム隣、発達障害者の就労をサポートしてくれます。また、就労して終わりではなく「継続できること」「職業生活が安定すること」ができるように長期的な支援をしてもらえます。
具体的な支援内容は、以下の通りです。
- ・個別性に合わせた就労支援計画の作成
- ・障害者を対象とした求人の紹介
- ・就労・生活面での支援
- ・職業継続(定着)支援
また、面接で自己アピールが上手くできない方向けに、就労支援機関の担当者が同行することも可能です。新たに仕事を始めたり、転職を検討したりしているなら、お近くのハローワークに相談してみましょう。
※参考資料
厚生労働省/発達障害者の就労支援
厚生労働省/就労支援に向けたハローワークを中心とした「チーム支援」
相談先⑤:地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーション(サポステ)とは、仕事に悩みを抱えている15歳から49歳までの方を対象とした就労支援を行う機関のことです。厚生労働省が実施主体であり、委託された民間団体が運営をしています。
具体的な対象者について厚生労働省は以下のように述べています。
「働きたいけど、どうしたらよいのかわからない・・・」、「働きたいけど、自信が持てず一歩を踏み出せない・・・」、「働きたいけど、コミュニケーションが苦手で・・・不安」、「働きたいけど、人間関係のつまずきで退職後、ブランクが長くなってしまった・・・」など、働くことに悩みを抱えている15歳~49歳までの方の就労を支援しています。
面接で利用者の個別性を分析や各種支援(コミュニケーション講座や職業体験など)など実践的な就労支援を受けられます。また、ビジネスマナーや就労セミナーなど現場スキルを学ぶ支援もあります。
地域の公的な支援機関や民間団体とのネットワークもあるため、総合的な就労支援が行えるのも地域若者サポートステーションの強みです。
※引用資料:厚生労働省/地域若者サポートステーション
相談先⑥:就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、障害者総合支援法に基づいた福祉サービスの一つです。障害者の方の就労までの準備や訓練、実際の仕事を通じて知識やスキルを高める支援を受けられます。
支援形態は、以下の3種類です。
- ・就労移行支援
- ・就労継続支援
- ・就労定着支援
そして、就労継続支援は以下の2つに分けられます。
- ・就労継続支援A型:雇用契約を結んで利用する
- ・就労継続支援B型:雇用契約を結ばないで利用する
就労に必要な知識やスキルを高め、就職後も職場環境に慣れつつ、継続して働けるような支援を受けられます。
また、雇用契約を結んでいる就労支援A型であれば最低賃金が保証されているため、ある程度の給料を得ることもできます。厚生労働省の2018年度の調査によると、就労支援A型は「月額79,625円」、就労支援A型は「月額15,776円」であることが分かります。
※参考資料
厚生労働省/就労支援について
厚生労働省/障害者の就労支援対策の状況
アスペルガー症候群の特性を活かせる仕事
アスペルガー症候群の方が仕事を続けるために大切なのは、「自分の特性を理解する」「特性に合った職種・職場を選ぶ」ことです。
アスペルガー症候群の方の特性を活かせる具体的な仕事は、以下の通りです。
- ・WEBデザイナー・ライター
- ・イラストレーター、アニメーター
- ・エンジニア
- ・オペレーター
- ・専門店の販売員
- ・経理や財務法務などの情報管理
- ・運送・配送業
興味・関心を持ったことを追求できるなら、専門性の高いエンジニア(プログラマーなど)や専門店の販売員がおすすめです。また、人と関わるのが苦手なら、リモートワークが中心のIT系や運送・配送業など1人で完結できる仕事でも良いでしょう。
このようにあなた自身の特性を知り、どんな仕事に向いているかを分析することが重要です。できないことに注目するのではなく、できることを活かせる仕事を探しましょう。
まとめ: 「アスペルガーかな?」と思ったら病院を受診しましょう!
以上、アスペルガー症候群に関する基礎知識を解説しました。
「自分がアスペルガー症候群では?」と疑っている方は、どうでしたか?
アスペルガー症候群をはじめとする発達障害は、治療により完治することはありません。つまり、症状をコントロールしながら一生付き合っていかなければいけないということです。
一方で、ご自身の特徴を理解して正しく対処できれば、社会生活を送るのに支障はありません。そのためにも、まずは病院へ相談できれば良いですね。
また、1人で悩んでいても解決は難しいので、ご自身の状況や目的に合わせてこの記事で紹介した相談先に行ってみましょう。
この記事が少しでもあなたの不安を解消できれば幸いです。