InstagramInstagram

大人のアスペルガー症候群の特徴とは?男性に見られやすいサイン・女性との違い・チェックリスト(AQ)と相談先を臨床遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

大人のアスペルガー症候群の特徴は、「人とのやりとりやコミュニケーションの独特さ」と「強いこだわり・決まったやり方・感覚の偏り」の2つにまとめられます。アスペルガー症候群という名前は、いまの診断基準では自閉スペクトラム症(ASD)にまとめられています。男性は女性の約3倍多く診断され、男性ではこだわりや繰り返しの行動が目立ちやすい一方、女性は気づかれにくいことがわかっています。ネットのチェックリストやAQ(自閉症スペクトラム指数)は目安で、診断ではありません。この記事では、大人の男性に見られやすい特徴、女性との違い、AQの読み方、診断を受ける場所と相談先、そして「自分がそうかもしれない。子どもに遺伝するのか」という心配までを、臨床遺伝専門医の立場から整理します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧩 Q. 大人のアスペルガー症候群(男性)の特徴は?

「会話や人間関係のすれ違い」と「こだわり・決まったやり方・感覚の偏り」の2つが中心です。男性ではこだわりや繰り返しの行動が目立ちやすいと報告されています。

🧩 Q. アスペルガー症候群は男性に多いのですか?

男性に多く、男女比は約3対1とするメタ解析があります。ただし女性は診断を受けにくい傾向があり、実際の差はこれより小さい可能性があります。

🧩 Q. チェックリスト(AQ)で診断できますか?

できません。AQは専門的な評価を受けるかどうかの目安です。診断は精神科・心療内科・発達障害の専門外来の医師が行います。

🧩 Q. 子どもに遺伝しますか?

自閉スペクトラム症には遺伝の要因が大きく関わりますが、親が自閉スペクトラム症なら子どもも必ずそうなる、というものではありません。心配な方は遺伝カウンセリングで家族の状況を整理できます。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🧩 大人のアスペルガー・ASD・男性・AQ
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤いまの呼び方 → アスペルガー症候群は、DSM-5・ICD-11で自閉スペクトラム症(ASD)にまとめられた
  • ➤大人の特徴 → 対人関係・コミュニケーションの特徴と、こだわり・感覚の特徴の2つ
  • ➤男性と女性 → 男女比は約3対1。男性はこだわりが目立ちやすく、女性は見逃されやすい
  • ➤チェックリスト → AQは目安。診断は精神科などの医師、相談は発達障害者支援センター
  • ➤子どもへの遺伝 → 遺伝の要因は大きいが「必ず遺伝する」ではない。遺伝カウンセリングで整理できる

1. 大人のアスペルガー症候群とは?いまの診断名は自閉スペクトラム症(ASD)

アスペルガー症候群は、知的な遅れや言葉の遅れが目立たない自閉症のタイプを指してきた名前で、いまの診断基準では自閉スペクトラム症(ASD)という1つの診断にまとめられています。「スペクトラム」は「連続体」という意味で、特性の強さや現れ方が人によって大きく違い、はっきりした境目がないことを表しています。

DSM-5とICD-11で「自閉スペクトラム症」にまとめられた

米国精神医学会の診断基準DSM-5(2013年)では、それまで自閉性障害・アスペルガー障害などに分かれていた広汎性発達障害が、自閉スペクトラム症という1つの診断名に統合されました。世界保健機関(WHO)のICD-11もこの流れを引き継ぎ、ICD-10の小児自閉症・アスペルガー症候群・非定型自閉症などを自閉スペクトラム症(6A02)にまとめています。ICD-11の自閉スペクトラム症は、DSM-5の自閉スペクトラム症とおおむね同じ内容です[1]。

そのため、いま医療機関で診断を受けると、診断書には「アスペルガー症候群」ではなく「自閉スペクトラム症」と書かれるのが一般的です。ただ、日常の会話や検索では「アスペルガー」という言葉がいまも広く使われています。この記事では、以前アスペルガー症候群と呼ばれていた状態を、現在の自閉スペクトラム症の枠組みで説明します。

大人にもどのくらいいる?成人でも約1%

自閉スペクトラム症は子どもだけのものではなく、大人にも子どもと同じくらいの割合でいます。英国の一般家庭の成人を対象にした調査では、成人の自閉スペクトラム症の有病率は1,000人あたり9.8人(約1%)と推計され、年齢による差はなく、男性に多いことが示されました。この調査では、地域で暮らす自閉スペクトラム症の成人の多くが、それまで診断を受けていなかったことも報告されています[2]。

「大人になってから急にアスペルガーになる」わけではありません。生まれつきの特性が、学生時代は目立たなかったり、周りに合わせてやり過ごせていたりして、就職・昇進・結婚など、求められることが変わった時期に困りごととして表に出てくることがあります。大人になってから初めて診断を受ける人がいるのは、このためです。

2. 大人のアスペルガー症候群の特徴|2つの領域で考える

大人のアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の特徴は、「対人関係・コミュニケーション」と「こだわり・決まった行動・感覚」の2つの領域に分けると理解しやすくなります。診断基準もこの2つの領域で組み立てられています[1]。どちらも「性格が悪い」「わがまま」ということではなく、情報の受け取り方や処理のしかたの違いとして考えるのが今の理解です。

対人関係・コミュニケーションの特徴

言葉そのものは流ちょうでも、相手の表情や声の調子、その場の雰囲気から「言外の意味」を読み取ることが苦手なことがあります。たとえば「できれば今日中に」と言われて「できなければ明日でよい」と受け取る、冗談や皮肉を言葉どおりに受け取る、といったすれ違いです。自分の関心のある話を長く続けてしまい、相手が退屈していることに気づきにくい、という形で現れることもあります。

話し方そのものに特徴が出る人もいます。丁寧すぎる言い回し、抑揚の少ない話し方、説明が細かく長くなる、といった点です。会話の具体例は、大人ASD・アスペルガーの独特な話し方で詳しく紹介しています。

こだわり・決まった行動・感覚の特徴

もう1つの領域は、興味の範囲が狭く深いこと、決まった手順や習慣を変えにくいこと、そして音・光・におい・肌ざわりなどの感覚が敏感(または鈍感)なことです。急な予定変更に強いストレスを感じる、仕事の手順を自分のやり方で固めてしまう、オフィスの雑音や蛍光灯の光で集中できない、といった困りごとにつながります。

一方で、関心のある分野への集中力や知識の深さ、ルールや正確さを大切にする姿勢は、仕事の強みにもなります。同じ特性が、環境によって困りごとにも強みにもなる、という見方が大切です。

🧩 大人のアスペルガー症候群(ASD)の2つの領域と、職場・家庭での現れ方の例

領域 特性の例 職場で起こりやすいこと 家庭・人間関係で起こりやすいこと
対人関係・コミュニケーション 言外の意味や表情を読み取りにくい/一方的に話しやすい あいまいな指示の意図がわからない/雑談や会議での発言のタイミングがつかめない 相手の気持ちに気づかず「冷たい」と受け取られる/言葉どおりに受け取ってすれ違う
こだわり・決まった行動 手順や習慣を変えにくい/興味の範囲が狭く深い 急な予定変更で混乱する/自分の手順を優先してしまう 休日の過ごし方や家事の手順を変えられない/趣味に時間を使いすぎる
感覚 音・光・におい・肌ざわりに敏感、または鈍感 雑音の多いオフィスで集中できない/疲れやすい 人混みや外食が苦手/特定の服や食べ物しか受け付けない

※あくまで例で、当てはまるかどうか、強さや組み合わせは人によって大きく違います。当てはまる項目があっても、それだけで自閉スペクトラム症とは言えません。

3. 男性に見られやすい特徴と、女性との違い

自閉スペクトラム症は男性に多く、男性では「こだわり・繰り返しの行動」が目立ちやすいと報告されています。一方で、女性は特性があっても診断を受けにくい傾向があります。「男性特有のアスペルガー」という別の病気があるわけではなく、同じ特性の現れ方や気づかれ方に、男女で違いがあるということです。

男女比は「約3対1」|よく言われる4対1より小さい

自閉スペクトラム症の男女比は「4対1」と言われることが多いのですが、54の研究をまとめたメタ解析では、質の高い研究に限ると男女比は3.32、一般集団を調べた研究では3.25で、著者らは「本当の男女比は4対1ではなく、3対1に近い」と結論づけています。すでに診断を受けた人だけを数えた研究では4.56と高く出ており、診断基準を満たす女の子が、臨床的な診断を受けにくい「診断の性別による偏り」があると指摘されています[3]。

男性は「こだわり・繰り返しの行動」が目立ちやすい

自閉スペクトラム症の中核的な特性について男女差を調べたメタ解析では、6歳以降の男の子は、女の子より繰り返しの行動や型にはまった行動が多く見られました。一方、対人関係とコミュニケーションの領域では、男女に差はありませんでした。著者らは、自閉スペクトラム症がもともと男性の現れ方をもとに定義されてきたため、女性が見逃されている可能性にも触れています[4]。

大人の男性にあてはめると、趣味や関心ごとへの強い没頭、仕事の手順や生活のリズムへのこだわり、収集やルールへのこだわりなどが、周りから「アスペルガーっぽい」と気づかれるきっかけになりやすい、ということです。反対に、人づきあいの苦手さは男女どちらにもありますが、女性は周囲に合わせて振る舞うことで目立ちにくくなることがあります。

大人の男性で起こりやすい困りごと

特性そのものより、社会で求められる役割とのずれが困りごとになります。大人の男性の場合、職場での報告・連絡・相談、部下や同僚への気配り、家庭での家事や育児の分担、夫婦間の気持ちのやりとりなど、「言われなくても察する」ことが期待される場面でつまずきやすくなります。本人は一生懸命やっているのに、周りから「気が利かない」「話を聞いていない」と受け取られ、自信をなくしたり、疲れ切ってしまったりすることがあります。

大人のアスペルガー症候群の「あるある」|日常で起こりやすいこと

大人のアスペルガー症候群の「あるある」は、ほとんどが第2章の2つの領域(対人関係・コミュニケーション/こだわり・感覚)のどちらかから説明できます。当事者や周りの人がよく挙げる場面を、どちらの領域の特性から起こりやすいかとあわせて整理します。

📝 大人のアスペルガー症候群(ASD)の「あるある」と、関わる特性

よくある場面 関わる特性 工夫の例
「適当にやっておいて」と言われると、何をどこまでやればよいかわからない 言外の意味を読み取りにくい 期限・量・完成の形を具体的に確かめる
冗談や皮肉を本気に受け取ってしまう 言葉を字義どおりに受け取りやすい わからないときは「本気ですか?」と確かめてよいと決めておく
雑談に入るタイミングがつかめない/「話が長い」と言われる 会話のやりとりの調整が苦手 用件を先に言う、話す時間の目安を決める
悪気はないのに「失礼」「冷たい」と言われる 相手の表情や気持ちに気づきにくい 気になったら、その場で相手に意図を聞いてもらう
急な予定変更でどっと疲れる/いつもの道・店・メニューを変えたくない 決まった手順や習慣へのこだわり 変更は早めに、文字で知らせてもらう
好きな分野の話を始めると止まらない 興味の範囲が狭く深い 相手の反応を見るタイミングを決めておく
電話より、メールやチャットのほうが楽 耳からの情報をその場で処理する負担 大事な連絡は文字で残す
雑音・蛍光灯の光・服のタグが気になって集中できない 感覚の敏感さ 耳栓・席の位置・服の素材を選ぶ

※あくまで例です。いくつ当てはまるかでアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)かどうかは決まりません。

なお、「顔つきでわかる」という話がネットで見られますが、顔の特徴だけで自閉スペクトラム症かどうかは判断できません。研究の現状は自閉症(ASD)は顔つきでわかる?でまとめています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「男性に多い」を、どう受け止めるか】

男女比の数字を見ると、「男性の病気」のように感じるかもしれません。けれども、診断を受けた人の数には、気づかれやすさの違いが入り込んでいます。男性の数字が大きいのは、特性の現れ方が今の診断の物差しにのりやすい、という面もあると考えています。

大切なのは、男性か女性かよりも、その人が今どんな場面で困っているかです。特性を「欠点」と決めつけず、困りごとが起こる条件を具体的にすることが、対策を考える出発点になると考えています。

4. アスペルガー症候群のチェックリスト(AQ)でわかること・わからないこと

大人のアスペルガー症候群のチェックリストとしてよく使われるのが、AQ(自閉症スペクトラム指数:Autism-Spectrum Quotient)です。AQは「専門的な評価を受けるきっかけ」をつかむための目安で、点数だけで診断はできません。

AQ(50問)とは|点数の意味

AQは、英国ケンブリッジ大学のバロン=コーエンらが2001年に発表した、知的な遅れのない成人向けの自己記入式の質問紙です。50の質問からなり、点数は0〜50点の範囲になります。最初の研究では、アスペルガー症候群・高機能自閉症の成人の80%が32点以上だったのに対し、対照群で32点以上だったのは2%でした。対照群では男性の点数が女性よりわずかに高く、アスペルガー症候群・高機能自閉症の群では男女の点数に差はありませんでした[5]。

日本語版AQの研究では、アスペルガー症候群・高機能自閉症の成人57人の平均点は37.9点で、88%が33点を超えたのに対し、一般成人と大学生の対照群で33点を超えたのは3%でした[6]。

この数字は、言いかえると「自閉スペクトラム症の人でも、およそ1〜2割はこの点数に届かない」「自閉スペクトラム症でない人でも、数%はこの点数を超える」ということです。点数が高くても、不安やうつ、疲れ、その時の気分で答えが変わることもあります。

AQ-10(10問)は「詳しい評価を受けるか」の目安

英国国立医療技術評価機構(NICE)の成人の自閉スペクトラム症の診療ガイドラインは、中等度以上の知的障害のない成人で自閉スペクトラム症が疑われるときに、10問の短縮版AQ-10を使うことを考えるとしています。AQ-10で6点以上の場合、または医師の臨床的な判断で疑われる場合には、包括的な評価(専門的な診断のための評価)を行うよう勧めています[7]。つまりAQ-10は、診断を決めるものではなく、「次の段階の評価に進むかどうか」を決めるためのふるい分けです。

⚠️ チェックリストを使うときの注意

ネット上の「アスペルガー診断テスト」や「チェックリスト」は、どれも診断ではありません。点数が高くても自閉スペクトラム症とは限らず、低くても否定はできません。結果は、受診するときに「自分がどんな場面で困っているか」を伝える材料の1つとして使ってください。

5. 大人のアスペルガー症候群の診断はどこで受ける?相談先

大人のアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の診断は、精神科・心療内科、または発達障害を専門に診る外来の医師が行います。受診先に迷うときは、各都道府県・指定都市の発達障害者支援センターに相談できます。

診断を受ける場所と、診断で行われること

大人の発達障害を診る医療機関は限られているため、受診の前に「大人の発達障害の診断をしているか」を確かめておくと安心です。診断では、いま困っていることを詳しく聞くだけでなく、子どもの頃の様子(生育歴)も確かめます。自閉スペクトラム症は生まれつきの特性なので、幼いころから特性があったかどうかが大切な手がかりになるからです。母子健康手帳や通知表、子どもの頃を知る家族の話が役に立つことがあります。AQなどの質問紙や心理検査も、医師の判断の材料として使われます。

あわせて、うつ病や不安症、ADHD(注意欠如・多動症)など、似た困りごとを起こす状態や一緒に起こりやすい状態がないかも確かめます。ADHDと自閉症の違いはADHDと自閉症の違いで説明しています。

発達障害者支援センターに相談する

発達障害者支援センターは各都道府県・指定都市に設置されていて、発達障害のある人とその家族などに、相談支援・発達支援・就労支援・情報提供などを行っています[8]。地域の医療機関や就労支援の窓口の情報も持っているので、「どこで診断を受ければよいかわからない」「仕事のことを相談したい」というときの最初の窓口になります。お住まいの地域のセンターは、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターや、国の発達障害ナビポータルから探せます[8]。

📍 大人のアスペルガー症候群(ASD)かもと思ったときの相談先

相談先 できること こんなときに
精神科・心療内科・発達障害の専門外来 診断、うつや不安など一緒に起こる不調の治療 診断を受けたい/気分の落ち込みや不眠が続いている
発達障害者支援センター 相談支援・発達支援・就労支援・情報提供 どこに相談すればよいかわからない/生活や仕事の困りごとを相談したい
遺伝カウンセリング(臨床遺伝専門医) 家族の状況を整理し、遺伝の可能性や受けられる検査を説明する 自分や家族の特性が、子どもに遺伝するか心配

※当院(ミネルバクリニック)は、自閉スペクトラム症の診断・療育・治療は行っていません。遺伝に関するご相談では、遺伝カウンセリングと遺伝子検査・NIPT・保因者検査をご案内しています。

6. 一緒に起こりやすい心の不調と、治療・支援の考え方

大人の自閉スペクトラム症では、うつ病や不安症などの心の不調が一緒に起こりやすく、こちらは治療の対象になります。一方、自閉スペクトラム症の特性そのものを薬で治すことは勧められていません。

うつ病・不安症が起こりやすい

自閉スペクトラム症の成人を対象にした35研究のメタ解析では、不安症は現在の有病率が27%・生涯の有病率が42%、うつ病は現在23%・生涯37%と推計されました[9]。子どもから大人までを含めた96研究のメタ解析では、ADHDが28%、不安症が20%、睡眠・覚醒障害が13%、うつ病が11%と推計されています[10]。どちらの研究も、医療機関で集めた集団では数字が高く出やすく、研究ごとのばらつきが大きいことに注意が必要です。

職場や家庭でのすれ違いが続くと、気分の落ち込み、眠れない、朝起きられない、会社に行けないといった状態になることがあります。こうした不調は、自閉スペクトラム症かどうかにかかわらず、早めに精神科・心療内科で相談してください。

特性そのものを治す薬はない|環境の調整と、一緒に起こる不調の治療

NICEのガイドラインは、成人の自閉スペクトラム症の中核的な特性に対して、抗てんかん薬や抗精神病薬を使わないこと、抗うつ薬を日常的に使わないことを勧めています[7]。薬が使われるのは、うつ病や不安症、睡眠の問題など、一緒に起こっている状態に対してです。

特性との付き合い方の中心になるのは、困りごとが起こる条件を具体的にし、環境を合わせていくことです。指示を口頭だけでなく文字でもらう、予定の変更は早めに知らせてもらう、雑音の少ない席にする、といった工夫です。職場では産業医や上司と相談し、必要に応じて発達障害者支援センターなどの就労支援も利用できます。特性に合った仕事の考え方は自閉スペクトラム症(ASD)の人に向く仕事でまとめています。

7. アスペルガー症候群は遺伝する?「自分がそうかも。子どもが心配」な方へ

自閉スペクトラム症には遺伝の要因が大きく関わりますが、親が自閉スペクトラム症だからといって、子どもも必ずそうなるわけではありません。大人になって「自分はアスペルガーかもしれない」と気づいた方が、結婚や子どもを考える時期に、遺伝を心配されるのは自然なことです。

遺伝率「約80%」は、子どもに遺伝する確率ではない

5か国・約200万人のデータを使った研究では、自閉スペクトラム症の遺伝率は約80%(中央値80.8%)と推計され、母親側の妊娠中の要因(母体効果)の寄与はごくわずかでした[11]。ただし、遺伝率は「集団の中で、自閉スペクトラム症になる・ならないの違いのうち、遺伝の違いで説明できる割合」を表す数字で、「親から子どもに遺伝する確率が80%」という意味ではありません。

自閉スペクトラム症の多くは、1つの遺伝子だけで決まるのではなく、多くの遺伝子のわずかな違いが積み重なって起こると考えられています。一部には、1つの遺伝子の変化や、染色体の一部の欠失・重複が原因として見つかる人もいます。きょうだいや親子での再発の確率など、数字を使った詳しい説明は自閉症・アスペルガーは親から遺伝する?確率・原因・検査にまとめています。父親側の要因については父親から子へ:自閉症の遺伝的リスクで扱っています。

遺伝の心配を整理する方法|遺伝カウンセリングと検査

遺伝の心配は、ネットの数字だけでは答えが出にくいものです。家族の中にほかに自閉スペクトラム症や知的障害、てんかんのある人がいるか、すでに遺伝子や染色体の検査を受けた人がいるかによって、考え方が変わるからです。遺伝カウンセリングでは、家系図をもとに家族の状況を整理し、遺伝の可能性と、受けられる検査があるかどうかを説明します。

当院(東京・北青山のミネルバクリニック)では、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングと、自閉症の遺伝子検査・発達障害の遺伝子検査を行っています。どの検査が合うかは、家族の状況によって変わります。当院の遺伝子検査・NIPT・遺伝カウンセリングは自費診療です。

妊娠を考えている方、妊娠中の方には、もう1つの選択肢があります。一部の自閉症・発達障害の原因は、当院のNIPTで生まれる前に調べられます。たとえば22q11.2欠失症候群は、スタンダードを含む全プランで調べられます。ただし、NIPTで自閉スペクトラム症そのものを診断することはできず、陰性でも自閉症・発達障害の心配がなくなるわけではありません。陽性の場合は、確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめる必要があり、当院では院内で受けられます。NIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。プランと検査の範囲は東京のNIPT(新型出生前診断)のページに、自閉症とNIPTの関係は一部の自閉症・発達障害の原因はNIPTでわかるにまとめています。

\ 子どもへの遺伝が気になる方は、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングへ /

📅遺伝カウンセリングを予約する

遺伝カウンセリングとは | 自閉症は遺伝する?

\ 妊娠中・妊娠を考えている方へ /

🧬東京のNIPTプランを見る

自閉症とNIPTの関係

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「遺伝させない方法」ではなく、「知ったうえで選ぶ」】

自閉スペクトラム症の遺伝を「させない」方法はありません。多くは多くの遺伝子と環境が関わって起こり、親の努力や生活で決まるものではないからです。

そのうえで、家族の中に原因のわかっている遺伝子や染色体の変化がある場合には、検査という選択肢が生まれます。臨床遺伝専門医としては、不安を数字で大きくも小さくもせず、その家族に当てはまる情報だけを渡すことが大切だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 大人のアスペルガー症候群(男性)の特徴は?

「会話や人間関係のすれ違い」と「こだわり・決まったやり方・感覚の偏り」の2つが中心です。男性では、6歳以降に繰り返しの行動や型にはまった行動が女性より多く見られるという報告があり、趣味や手順への強いこだわりが気づかれるきっかけになりやすいと考えられます。

Q2. 大人のアスペルガー症候群の「あるある」には、どんなものがありますか?

「適当にやっておいて」と言われると何をどこまでやればよいかわからない、冗談を本気に受け取る、急な予定変更でどっと疲れる、好きな話を始めると止まらない、電話よりメールやチャットのほうが楽、雑音や光が気になって集中できない、などがよく挙げられます。いくつ当てはまるかで診断が決まるわけではありません。

Q3. アスペルガー症候群は男性に多いですか?

男性に多く、男女比は約3対1とするメタ解析があります。すでに診断を受けた人だけを数えると4対1を超えますが、診断基準を満たす女性が診断を受けにくいことが一因とされています。

Q4. アスペルガー症候群と自閉スペクトラム症(ASD)は違うものですか?

以前アスペルガー症候群と呼ばれていた状態は、いまの診断基準では自閉スペクトラム症(ASD)に含まれます。DSM-5とICD-11で診断の枠組みが統合されましたが、ASD全体と旧アスペルガー症候群が同じ範囲を指すわけではありません。

Q5. チェックリスト(AQ)で何点以上だとアスペルガーですか?

AQの点数だけでアスペルガー症候群かどうかは決まりません。最初の研究では、アスペルガー症候群・高機能自閉症の成人の80%が32点以上、対照群は2%でした。日本語版では33点を超えたのが当事者の88%、対照群の3%です。AQは専門的な評価を受けるかどうかの目安として使います。

Q6. 大人のアスペルガー症候群はどこで診断を受けられますか?

精神科・心療内科、または大人の発達障害を診る専門外来で診断を受けます。受診先に迷うときは、各都道府県・指定都市の発達障害者支援センターに相談できます。

Q7. アスペルガー症候群は治りますか?薬はありますか?

自閉スペクトラム症の特性そのものを治す薬はなく、英国のNICEガイドラインも中核的な特性に対して抗精神病薬などを使わないよう勧めています。うつ病や不安症、睡眠の問題など一緒に起こる不調は治療の対象になり、困りごとが起こる環境を調整することが支援の中心です。

Q8. アスペルガー症候群は子どもに遺伝しますか?

遺伝の要因は大きく、遺伝率は約80%と推計されていますが、これは子どもに遺伝する確率ではありません。親が自閉スペクトラム症でも、子どもが必ずそうなるわけではありません。家族の状況によって考え方が変わるので、心配な方は遺伝カウンセリングで整理できます。

Q9. ミネルバクリニックでアスペルガー症候群の診断や治療は受けられますか?

当院は自閉スペクトラム症の診断・療育・治療は行っていません。遺伝に関するご相談では、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングと、遺伝子検査・NIPT・保因者検査をご案内しています。診断や治療は精神科・心療内科・発達障害の専門外来にご相談ください。

まとめ

大人のアスペルガー症候群は、いまの診断基準では自閉スペクトラム症(ASD)にまとめられています[1]。特徴は「対人関係・コミュニケーション」と「こだわり・決まった行動・感覚」の2つの領域で、成人でも約1%にみられます[2]。男女比は約3対1で、男性ではこだわりや繰り返しの行動が目立ちやすく、女性は診断を受けにくい傾向があります[3][4]。

AQなどのチェックリストは、専門的な評価を受けるかどうかの目安で、診断ではありません[5][7]。診断は精神科・心療内科・発達障害の専門外来で、受診先に迷うときは発達障害者支援センターに相談できます[8]。うつや不安などの不調は早めに相談してください。子どもへの遺伝が心配な方は、遺伝カウンセリングで家族の状況を整理できます。

🧬 子どもへの遺伝が心配な方へ

当院(ミネルバクリニック)は、自閉スペクトラム症の診断・療育・治療は行っていません。診断や治療は、精神科・心療内科・発達障害の専門外来でご相談ください。
当院では、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、ご家族の状況に応じて自閉症・発達障害の遺伝子検査やNIPTについてご説明します。検査を受けるかどうかまだ決めていない方は、先に自閉症の遺伝と確率や遺伝カウンセリングとはをご覧ください。

参考文献

  • [1] 森野百合子, 海老島健. ICD-11における神経発達症群の診断について―ICD-10との相違点から考える―. 精神神経学雑誌. 2021;123(4):214-220. [日本精神神経学会]
  • [2] Brugha TS, McManus S, Bankart J, et al. Epidemiology of autism spectrum disorders in adults in the community in England. Arch Gen Psychiatry. 2011;68(5):459-466. [DOI]
  • [3] Loomes R, Hull L, Mandy WPL. What is the male-to-female ratio in autism spectrum disorder? A systematic review and meta-analysis. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2017;56(6):466-474. [DOI]
  • [4] van Wijngaarden-Cremers PJM, van Eeten E, Groen WB, et al. Gender and age differences in the core triad of impairments in autism spectrum disorders: a systematic review and meta-analysis. J Autism Dev Disord. 2014;44(3):627-635. [DOI]
  • [5] Baron-Cohen S, Wheelwright S, Skinner R, Martin J, Clubley E. The autism-spectrum quotient (AQ): evidence from Asperger syndrome/high-functioning autism, males and females, scientists and mathematicians. J Autism Dev Disord. 2001;31(1):5-17. [PubMed 11439754]
  • [6] 若林明雄, 東條吉邦, Baron-Cohen S, Wheelwright S. 自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版の標準化―高機能臨床群と健常成人による検討―. 心理学研究. 2004;75(1):78-84. [DOI]
  • [7] National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management. Clinical guideline CG142 (2012, updated 2021). [NCBI Bookshelf]
  • [8] 厚生労働省. 発達障害者支援施策の概要/発達障害者支援施策. [厚生労働省・概要] [厚生労働省・支援施策]
  • [9] Hollocks MJ, Lerh JW, Magiati I, Meiser-Stedman R, Brugha TS. Anxiety and depression in adults with autism spectrum disorder: a systematic review and meta-analysis. Psychol Med. 2019;49(4):559-572. [DOI]
  • [10] Lai MC, Kassee C, Besney R, et al. Prevalence of co-occurring mental health diagnoses in the autism population: a systematic review and meta-analysis. Lancet Psychiatry. 2019;6(10):819-829. [PubMed 31447415]
  • [11] Bai D, Yip BHK, Windham GC, et al. Association of genetic and environmental factors with autism in a 5-country cohort. JAMA Psychiatry. 2019;76(10):1035-1043. [DOI]

関連記事

プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続け、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、検査結果の数値そのものだけでなく、「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、日本人として異文化の中で生活した経験があります。価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。この経験は現在の診療においても、「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、36週6日で一人を死産した経験があります。その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、家族の未来に関わる重要な意思決定です。年齢や統計だけで判断するのではなく、医学的根拠と心理的支援の両面から、ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

関連記事