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ブライダルチェック遺伝子検査で予防のおすすめ|初めてのお子さんが重い遺伝病で1歳未満で死亡

Aさんは50代の女性です。
ある日、動けなくなり、救急搬送されてきました。
首都圏随一の大都市ですが、どこも受け入れ先がなく、救急車を呼んでから搬送されるのに3時間以上かかったそうです。(長期入院になりそうな人をとりたくない急性期病院が多いためです。Aさんは普段かかっている病院がないがんのターミナルと疑われたため、余計そうなりました。)

当時のわたしは、腫瘍内科医として勤務していました。
Aさんは、両方の眼球や結膜に腫瘍がありました。乳房にもしこりがあり、全身の骨にも多発転移がありました。

ところが、Aさんは一度たりとも乳がんという診断を受けていなかったのです。
聞けば、乳房にしこりを感じたのは7年前の事だったそうです。
どうして病院に行かなかったのか?と尋ねた私に向かって、Aさんはこういいました。

「子どもをなくしてから生きる希望を見いだせなかった」

Aさんは20代前半で結婚し、すぐにお子さんに恵まれ、出産しました。ところが、Aさんのお子さんはうまく痰が出せないとか、哺乳がうまくいかないという問題を抱えていました。
そして、ほどなく、赤ちゃんは「メロシン欠損型筋ジストロフィー」と診断がつきました。
現在では遺伝子の研究が進んだため、この疾患はラミニンα2鎖をコードするLAMA2遺伝子の病的変異が父母それぞれから合わさって起こる、常染色体劣性遺伝性疾患だと判っています。そうと判明したのが1990年代半ばですので、Aさんが出産したころにはそうと判った直後くらいです。。
遺伝子疾患なのだ、ということがAさんご夫妻に衝撃を与えました。

自分たちのせいで息子が病に苦しんでいる。。。

LAMA2遺伝子の病的変異の保因者(キャリア)の率は、大体500人に1人未満なので、メロシン欠損型筋ジストロフィーのお子さんが産まれる確率は、(1/500)2×(1/4)となり、100万人に1人未満と言うことになります。
遺伝子変異の種類により、重症度は変わってくるのですが、完全欠損型では非常に重くなります。Aさんのお子さんはおそらく完全欠損型だったのでしょう。1歳を待たずになくなってしまったそうです。

Aさんが出産した当時は、小児用の人工呼吸器も普及しておらず。Aさんはお子さんのためにB病院の近くに転居しました。通院しやすくなるためです。
B病院は小児科が有名で、特に難病のお子さんたちが多く通っています。そういうところで同じ病気の患者家族同士仲良くなり、支えあったりしていました。AさんにもCさんご一家というお友達ができ、励ましあって過ごしていたそうです。
しかし、お子さんにより疾患の重症度は微妙に違います。Aさんのお子さんは特に重く、呼吸が難しく、痰もうまく出せないため、しょっちゅう肺炎を繰り返して入院していました。そして、肺炎を繰り返すうちに、1歳前に息を引き取ってしまったのです。

それからのAさんは、「あんな身体に産んでしまった」ことで、赤ちゃんに申しわけないと思い、本当にひっそりと暮らしました。
時折、Cさんご夫婦と語らうのが唯一のAさんの世間でした。
この辛さを誰もわかるはずがない。Aさんにとって、Cさんは唯一、同じ思いをした同志でした。

Aさんは自分を責め続けて生きてきたんです。ずっとずっと。

あまりの疼痛で動けなくなり、救急車で運ばれてわたしの患者になったとき。がん薬物療法専門医臨床遺伝専門医のわたしに、Aさんは言いました。
「メロシン欠損型筋ジストロフィー。どういう病気か先生なら知ってるでしょ?わたしはずっと自分を責めて生きてきました。やっと罰を受けることができたんです。後悔はありません。」

わたしは驚きました。そして、Aさんにとって、お子さんがなくなってからの旦那様とはいったいどういう存在だったのだろうと思ってしまいました。
Aさんの旦那様とも話をしたのですが、仕事が忙しくて、Aさんの悲しみに寄り添えず、結果として今日と言う日を迎えてしまったので、家内の思う通りにしてあげてほしい、というお話でした。

そうなんですよ。。。次々といろんながんを発症して7歳でお子さんをなくしたかたがわたしの友人にいますが。やはり奥様がうつ状態となってしまい。でも、夫のほうは仕事をしてお給料をもらわないと生きていけないので、そういう時期の奥様とがつっと向き合えるかと言うとそうでもないのですよね。。グリーフケアが日本ではほとんどなされていないので。
そもそも、夫のほうもお子さんをなくした深い悲しみのなかにあるのは一緒なのに、さらに重いうつ状態に入り込んでしまった妻を夫一人で同できるのでしょうか?

ほどなくして、彼女は、「死ぬまでの間、眠らせてほしい」と言いました。夫もそれを希望しました。そして、Cさんご夫婦も来て、そうしてあげてほしい、とわたしに懇願しました。

意識レベルを落とさなくても痛みを取ることは可能です。なのにどうしてですか?
わたしは全員にそう聞きました。

Aさんは、人生の締めくくりとして、なにも考えず、ただただ穏やかに黄泉の世界に旅たちたいのだ、と言いました。

わたしは、つい、言ってしまいました。
あなたにとって旦那様は何なのですか?お子さんをなくしてから20年以上、同じお子さんをなくして辛い思いをして、さらにずっとそうやって苦しんできたあなたを支え続けてくれたんですよね?お願いだから死ぬ前に一度でもいいから、ちゃんと旦那さんを見てあげてもらえませんか?余計なことを言っているのは百も承知です。

だけど。今、振り返ってみたら私にもわかります。あれはただの余計なおせっかいだったんです。
向き合おうにもAさんにはもう、夫が見えなかったんです。視力もないし。あと、多発脳転移のため、正常な思考が出来ていたのかも疑問でした。

大体、ずっと20年以上、メロシン欠損をお子さんに受け継いだことで自分を責め続けて生きてきた人の最後を私に出会ったことでちょっとでも幸せにしたいなんて、わたしは神になろうとするくらい思いあがっていたのかなと反省しました。

がん専門医としては敗北です。だって、意識レベルを「痛みもとれて家族との会話もできる」ように調整するのががん専門医の腕の見せ所なので。最後まで人間らしくコミュニケーションもとり、言いたいことをその時々で伝えて逝く、そんなターミナルをわたしは演出してきました。

でも。今回は違います。Aさんは逝く前に意識レベルを完全に落としてほしい、ただひたすら何も考えることもないよう眠りたい、そう言っています。
わたしは、それを受け入れることにしました。

麻酔科標榜医も持っているので、実は眠らせるのは大変得意です。

薬の準備をして。
Aさんに、「最後に旦那さんに伝えたいことはないですか」と言いました。
ありません、Aさんはそう言いました。
先生の顔、最初ここに来た時はうっすら見えてたけど、今はもう見えないんです。優しそうできれいなお顔ですよね。最後に先生にあえてよかった。ありがとう、先生。わたしを眠らせてください。

そして、わたしは薬の注入をはじめ。Aさんは眠りにつきました。

1週間後、Aさんは眠ったまま旅だっていきました。

Aさんがなくなったころは、メロシン欠損型筋ジストロフィーの病的変異を持っているかどうかを事前に調べる術はありませんでした。
でも。あれから10年以上がたち、今ではそういう病的遺伝子を持っているかどうかを事前に検査して、知ることができるようになりました。
天国のAさんは、こんな時代が来たことをどう思っているのかな?

そしてわたしは今、Aさんや、その他のたくさんの遺伝子疾患の難病のお子さんを持つ親御さんたちと出会い、保因者検査に力を入れています。

防げる不幸を防ぎたい。わたしには何一つ救えなかったAさんを思い出し。一生を贖罪のために生き、がんに罹患したことをやっと罰を受けることができた、と喜んで放置するなんて人生を、もう誰にも送ってもらいたくない。真剣にそう願っています。

重い遺伝病のお子さんがうまれるのを予防する方法

アメリカでは現在、お子さんを作る前に保因者検査をして、病気のお子さんが産まれる可能性がないのかを見ることが一般的になっています。保因者とは病的遺伝子を持っているが一生涯発症しない人を言います。

米国ではすでに保因者頻度が200人に1人以上の113遺伝子を含む保因者スクリーニング検査を妊娠前にすることが推奨されています。

関連記事:キャリア(保因者)スクリーニング検査|米国人類遺伝学会の推奨内容

お子さんが先天異常をもって生まれる確率は3%。実に30人に1人と多いものです。遺伝子の異常による疾患はその2割を占める多いものです。今では遺伝子検査でその可能性を事前に知ることができます。「転ばぬ先の遺伝子検査」として是非ご検討ください。

日本では、遺伝にまつわる話を避ける人が多く、また、こうした検査を受けると破談になったらどうしようとか怖くなるお気持ちもあると思いますが、重い遺伝病のお子さんが産まれてから自分たちが保因していたことを知るよりは、はじめから知り、避ける方法があれば避けるほうが現実的で解決的ではないでしょうか?

その解決を導くための検査が保因者スクリーニング検査なのです。保因者スクリーニング検査で当該カップルがある疾患の病的遺伝子を持っていて、1/4の確率でお子さんが病気になると判った場合には、体外受精をして着床前診断をすることにより疾患のないお子さんを持つことができる時代になっています。

少子化の時代。少ないお子さんを健康に産むためにも、保因者スクリーニング遺伝子検査がおすすめです。

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ミネルバクリニックでは、以下のブライダルチェック遺伝子検査を提供しています。ミネルバクリニックでは臨床遺伝専門医が常駐しており、お二人の未来の幸せなライフスタイルの実現をサポート致します。また、この検査はオンライン診療でも可能ですので、全国どこからでもミネルバクリニックにお越しにならずに完結致します。ブライダルチェック遺伝子検査は結婚後でも妊娠後でも大丈夫です。お子さんをもとうとする前に、一生に一度しか受ける必要がない検査ですので、是非ご検討下さい。

遺伝子検査でブライダルチェックのすすめ|避けられる不幸を避ける
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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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