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自閉症(自閉症スペクトラム)に治療法がない理由|原因や特徴を現役医師が解説

育児書などで「発達の目安」を目にしたり、同じ年齢のほかの子と比べたりして、わが子の発達に心配や不安を感じたことがあるという保護者の方は少なくありません。また、大人でも職場や社会生活で困難を抱えて過ごしている方もいます。

その中でどなたかは「もしかしたら自閉症やASDかもしれない」と悩みを抱えて過ごしているかもしれません。今回の記事では自閉症(自閉症スペクトラム)の特徴や治療法、対処法について詳しく解説をします。

自閉症(自閉症スペクトラム)の特徴

自閉症(自閉症スペクトラム)は対人関係が苦手、強いこだわりを持つといといった特徴がある発達障害です。早ければ1歳半くらいでその可能性が指摘されます。特性が少しでもあることによって生活に支障をきたす場合や、福祉的・医療的サポートが必要な状態まで幅広く含まれています。

また子どものときには自閉症(自閉症スペクトラム)だと診断されておらず、大人になってから判明したケースも珍しくありません。ここではどういった特徴があるのかをご紹介します。

自閉症(自閉症スペクトラム)が疑われる子どもの主な特徴

自閉症(自閉症スペクトラム)が疑われるお子さまの顔つきは他の子どもと違いはありません。「賢そうな顔をしている」といわれた子どもでも自閉症スペクトラムだったこともあります。行動には以下のような特徴が見られますのでご確認ください。

  • ・視線が合わないか、合っても共感的でない
  • ・表情が乏しい、または不自然
  • ・名前を呼んでも振り向かない
  • ・人見知りしない、親の後追いをしない
  • ・ひとりごとが多い、人の言ったことをオウム返しする
  • ・親が「見てごらん」と指さしてもなかなかそちらを見ない
  • ・抱っこや触られるのを嫌がる
  • ・一人遊びが多い、ごっこ遊びを好まない
  • ・食べ物の好き嫌いが強い
  • ・欲しいものを「あれとって」と言葉や身振りで伝えずに、親の手をつかんで連れて行って示す

こうした症状が出てくるお子さまは自閉症(自閉症スペクトラム)の疑いがあります。ただし、自己判断せずに医師の診断を受けてください。

自閉症(自閉症スペクトラム)が疑われる大人の主な特徴

大人になってからの自閉症(自閉症スペクトラム)の疑いがある方の行動は主に「社会的コミュニケーションおよび対人交流の困難」と「こだわりの問題」の二つです。その二つから現われる特徴が以下になります。

  • ・他人と目を合わせることが苦手
  • ・相手や状況に自分の行動をあわせることが苦手
  • ・皮肉やたとえ話を理解できず、文字通り受け取る
  • ・難しい言葉や表現を好んで使う
  • ・言葉の裏の意味や抽象的な言葉の意味を理解するのが苦手
  • ・小さな変化に苦痛を感じる
  • ・柔軟な考え方をすることが苦手
  • ・決まった順序や道順にこだわる
  • ・食べ物にこだわる

もしこれらの特徴が出ているならば、メンタルクリニックや精神科、心療内科の医師に相談したみるのもいいかもしれません。他には発達障害者支援センターなどの公的な支援機関に相談して医療機関を紹介してもらうのも方法の一つです。

自閉症(自閉症スペクトラム)の原因

ヒトのDNA構造を3Dレンダリング

以前は生まれつきの異常というよりはご両親の育て方や脳機能障害という説が出ていました。しかし現在では9割が遺伝子によるものだと判明しており、遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合うことで発症すると言われていま。ただし、どの組み合わせによって発症するかはまだ解明されていません。

遺伝子が原因だと親から子へ遺伝するのでは?という不安に駆られるかもしれません。しかしながら、自閉症の兄弟姉妹の発病率は僅か2%です。そのため遺伝による発症は低いと考えられています。

自閉症(自閉症スペクトラム)の治療

自閉症(自閉症スペクトラム)を治療することはできません。理由は原因で述べたように遺伝子による先天性の障がいだからです。主な治療は一人ひとりに合わせた対症療法を選択する形です。種類は主に以下の方法に分けられます。

  • ・行動療法とコミュニケーション療法
  • ・教育療法
  • ・家族療法
  • ・薬物を使った方法
  • ・その他の治療法

上記の5つがどういった治療をしているのかを詳しくご紹介します。

行動療法とコミュニケーション療法

子どもの生活に関わりがある社会的、言語的、行動的困難の範囲にまで広げたプログラムを用意しています。一部のプログラムは、問題行動を減らし、新しいスキルを教えることに焦点を当てているものもあるほど。その他のプログラムは、一般社会で行動する方法や他の人とコミュニケーションを取るやり方を子どもたちに教えています。そしてプログラムの一つである応用行動分析(ABA)は、問題行動を望ましい行動に変えていきます。そのためには「状況」と「結果」を変えればよいとされており、望ましい行動が現れるたびに報酬を与えます。これを「強化」といい、与えられる報酬は「褒める」ことです。反対に望ましくない行動が現れたときには「無視」します。こうして望ましい行動をしていくためにいくつかの段階に分けていき、行動を分析しつつ遊びながらプログラムを消化していきます。

応用行動分析(ABA)は、大人の自閉症(ASD)にも使われており、幅広い年代の精神的な疾患にも対応しているプログラムです。

教育療法

就学前の子どもにはことば、コミュニケーション、読み書き、算数、行動のコントロール、社会的スキル、生活スキル、自己認識など発達のサポートをするプログラムがあります。全体の様子を観察し、必要な認知検査を通して幅広く評価するところからスタートです。

子どもの特徴と状態を把握した上で親御さんと相談をし、社会的スキル、コミュニケーション、行動を改善するためのさまざまな活動を開始します。

家族療法

ご両親や他の家族は自閉症(自閉症スペクトラム)の理解を深める勉強や子どもとの遊び方や関わり方を学ぶ必要があります。それは子どもが無事に日常生活を送るためには欠かせません。学んだ後は子どもと多くのコミュニケーションを取りながら、問題行動を管理して過ごすことになります。親御さんを対象にしたサポートとして、子どもの保護者を対象に、レクチャーやロールプレイ、ホームワークなどを通じて、子どもとのより良い関わり方や日常の困りごとへの対応方法を学ぶペアレント・トレーニングや親子遊びや教材などを一緒に行う親子通園、保護者同士が集まり、お互いの体験を語り合ったり、相談し合ったりピアサポートなどがあるので相談してみてください。

薬物を使った方法

自閉症やASDを治したり、症状を緩和したりする薬物はありません。ただし、睡眠障害、不注意、多動性、衝動性、自傷行為、興奮、攻撃性や二次的な問題として精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)や問題行動(暴言・暴力、自傷行為など)のコントロールに薬が使用されます。例えば、注意欠陥・多動性障害(ADHD)がある子どもには特定の薬が処方されたり、不安には抗うつ薬が処方されたりすることがあります。また重度の行動問題には抗精神病薬が使われることもあるため薬物の使用がないわけではありません。お子さんが服用している薬やサプリメントの中には相互作用で危険な副作用を引き起こすものがあるため主治医に必ず飲ませている薬を伝えてください。

その他の治療法

子どもによっては、コミュニケーション能力を向上させる言語療法、日常生活動作を教える作業療法、運動とバランスを改善する理学療法が有益な場合があります。小児精神科医や心理学者などが子どもを観察し、問題行動に対処する方法を親御さんに提案をしていきます。

自閉症(自閉症スペクトラム)の対処法

眼鏡をかけた子どもに話しかける心理療法士

自閉スペクトラム症の人たちは、特性を周囲に理解してもらいにくく、いじめ被害に遭う、一生懸命努力しても失敗を繰り返す、などのストレスがつのりやすい傾向にあります。そのため身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)、精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)、不登校やひきこもり、暴言・暴力、自傷行為などの「二次的な問題(二次障害)」を引き起こしやすいやすい環境です。

そうなる前に家族や周囲が自閉症スペクトラムの特性を正しく理解をした上で「生きづらさ」を軽減させて二次的な問題を最小限にとどめるのが対応の基本となります。

自閉スペクトラム症の子どもは、自分の得意なこと(できること)と苦手なこと(できないこと)がはっきりしています。そのため苦手なことに対しては無理をさせず、本人が「できない」と伝えられるようにします。そして成功体験を積み重ねていくことで自信と自己肯定感を育んでいきましょう。

自閉症(自閉症スペクトラム)の子どもは臨機応変に対応したり、空気を読んだりすることは苦手です。しかし一方では具体的に示されて納得できたルールや決まりごとはしっかりと守ります。だからこそ家庭や学校生活での決まりごとを一定のルールとして教えておきましょう。

大人の場合、コミュニケーションや人間関係が苦手で、それが生活や仕事に影響することも珍しくありません。コミュニケーションや人間関係は一人ひとり違ってくるため診療やカウンセリングで詳しい状況を伝えます。その上で状況に合わせた環境調整、自分の人間関係やコミュニケーションについての考え方や行動のくせを整える認知行動療法を行います。同時にロールプレイングも実施し、望ましいふるまいを学ぶトレーニングをすることで行動改善を促していきます。

また、大人の自閉症(自閉症スペクトラム)のもう一つの特徴である「こだわり」への対処法は、特性が困りごとと繋がっているなら、環境を調整したり、認知行動療法などで考え方や行動のくせを見直し、うまくいく方法を練習します。もし強い不安やパニックが起きるなら医師に申し出てください。

自閉症(自閉症スペクトラム)の診断方法

医師から説明を受ける男性患者

自閉スペクトラム障害の診断には幼少期からその特徴が存在していることが必須です。診断される時期が遅れることはあっても大人になってから発症することはありません。

もし大人になってから自閉症(自閉症スペクトラム)だと疑いを持った場合は、心療内科や精神科で受診するところから始めてみましょう。自閉症スペクトラム障害は、アメリカ精神医学会の“精神障害の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)”に掲載された診断基準に基づいて診断されます。

また、近年では遺伝子が原因であると判明していることから遺伝子検査を受けている増えてきています。自閉症(自閉症スペクトラム)の遺伝子検査については下記のページに詳細を記載していますのでご確認ください。

もし自分(子ども)が自閉症(自閉症スペクトラム)と診断されたら

学校のカウンセラーとのセラピー、学び、楽しみながら共に過ごす幸せな自閉症の少年

子どもが自閉症と診断されたら子どもの状態や特性に合わせた療育(治療教育)を受けます。本人の力を引き出してできることを少しずつ増やし、生活上の困難を減らす助けになるので受けてください。

療育は地域の療育センターなどの公的な施設のほか、病院やクリニックなどに併設された施設、民間の施設でも行っています。受け入れ対象の子どもはそれぞれ違うので事前に確認をしてから申し込みをしましょう。児童福祉法に基づく「児童発達支援センター」、「児童発達支援事業所」、「放課後等デイサービス事業所」では「通所受給者証(受給者証)」が必要です。もし気になっている施設があれば連絡をして見学をするのがいいでしょう。

大人の自閉症の場合、現在の環境によって大きく異なります。普段の生活に支障がなければ特に他の人と変わらずにすごすことができます。しかし自閉症の特性が周りに理解されず、抑うつなどの二次障害を併発していることもよくあります。そうしたケースであれば、行政による支援窓口に問い合わせするのがいいでしょう。「自分は発達障害なのかも?」と思ったら、まずは無料で利用できる発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター、相談支援事業所などに相談してみてください。

自閉症の場合、「療育手帳」と「精神障害者保健福祉手帳」が取得できる可能性があります。基本的に、知的障害がある場合には「療育手帳」、知的障害を伴わない発達障害の場合は「精神障害者保健福祉手帳」の申請対象です。もし手帳が取得できたら以下のような支援が受けられます。

  • ・税金の優遇措置
  • ・公共料金・電話料金の割引
  • ・公共交通機関・公共施設・映画館などの無料化または割引
  • ・生活保護の障害者加算

まとめ

世界自閉症啓発デー、パズルとメンタルヘルスケアのコンセプト、または自閉症の子どもの手で心の上にジグソーのパターンを持つ介護者

自閉症(自閉症スペクトラム)の子どもや大人には支援が必要です。特性を十分理解して、得意なことを伸ばし、苦手なことを補うことで生活上の支障は少なくなります。ただし、完全にゼロになるわけではないので常に注意するようにしましょう。

自閉症スペクトラムの人が暮らしていくためには主治医や支援者との長期的な見通しを立てる必要があります。少しでも自分自身が暮らしやすい環境にいることで生活上の支障を減らすためです。それにはまず自分自身の状況を知ることが大切になってきます。もしご自分やお子さんが自閉症の特徴に当てはまるのがいくつかあれば検査を受けるのをおすすめします。特に遺伝子検査は原因の9割であると判明しているので受けてみてください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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