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自閉症または自閉スペクトラム(ASD)とは、“自閉性障害”、“アスペルガー障害”などを含む脳の発達障害の一種です。対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴を持ち、近年では1歳半の乳幼児健診で可能性を指摘されることがあります。
「コミュニケーションがうまく取れない」といった行動異常の特性があり、場合によっては生活に支障をきたすことも珍しくありません。お子さんが自閉症スペクトラム(ASD)を発症していたら社会的な支援を受けるケースも数多くあります。この記事では自閉症(自閉スペクトラム)(ASD)が起きる原因を中心に対処法があるのかも含めて詳しく紹介しています。
自閉症スペクトラム(ASD)の原因
自閉症スペクトラム(ASD)の原因は、自閉症の原因は母親の接し方にあると言われていましたが、現在はそういった考えは否定されています。研究が進んで、原因は遺伝子によるものだとわかってきており、遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合うことで発症すると言われています。ただし、どの組み合わせで起きるのかはわかっていません。
また、突然変異を起こして自閉症遺伝子が発現することはありません。単一の遺伝子によって病気を引き起こす変異(病的変異)はいくつかあります。しかし、今のところ自閉症遺伝子という存在は確認されていません。
2021年4月に九州大学と金沢大学の共同研究チームが、自閉症の原因タンパク質であるCHD8が、
小脳の発生と運動機能に重要な役割を果たすことを研究成果として発表しました。CHD8は複数のASD患者で再発性の変異が確認されているたんぱく質です。発表の中では、CHD8変異による障害が、自閉症患者の協調運動障害(手と足、目と手など別々に動く機能をまとめてひとつにして動かす運動)の原因になっている可能性があるとしています。遺伝子研究は進化をしており、遺伝子検査をするときも情報を交換しながら進めているのです。
遺伝子が9割
近年自閉症スペクトラムの原因は、遺伝子が約9割ではないかと言われています。それは1,000以上の遺伝子の変化が自閉症スペクトラム(ASD)と関連していることが報告されており、リスクに影響を与えると考えられています。ただし、その遺伝子変異(元の状態と変わってしまうこと)を持つすべての人が発症するわけではありません。
遺伝子変異のほとんどは、わずかな影響しかないと言われており、親の年齢、出生時の合併症、その他同定(科学全般の用語で、ある対象についてそれが「何であるか」を突き止める行為)されていない環境的要因と複雑に組み合わされることで発症頻度が高くなります。
自閉症の遺伝子は親から子どもに遺伝する
自閉症(自閉スペクトラム症)は、遺伝子が主な原因とわかってきています。そのため双生児研究や家族間での一致率に関する研究が活発に行われており、遺伝子が近いと一致率が高くなると言われています。ただし医学的な根拠はまだ判明しておりません。
現在も研究は続いており、自閉症は単一の遺伝子が原因で起こる「メンデル型遺伝疾患」と呼ばれるタイプではなく、複数の遺伝子の変化が影響して起こる「多因子遺伝疾患」だと推測されています。
またこれまでの研究によって父親の年齢が高いと自閉症(自閉スペクトラム症)を発症するリスクが上昇すると示されました。2012年には3つの論文で、自閉症に関与する新規変異が多数明らかにされ、そのような新規変異は母親起源よりも父親起源である可能性が4倍高いと発表されています。ただ、遺伝する確率はわかっていません。
兄弟姉妹には遺伝をするのか
自閉症の兄弟姉妹の発病率は僅か2%です。そのため遺伝による発症の可能性は低いと考えられています。ただし、自閉症スペクトラム(ASD)を発症していない方だと0.1%になるため比較すると高いといえます。
また双子で一人が自閉症だった場合、もう一人が自閉症になる確率は二卵性双生児だと数%に過ぎません。しかし、一卵性双生児だと40~90%にまで上昇します。この事実からわかる結論は同じ両親から生まれる子どもであっても全員自閉症になるわけではないということです。
自閉症(自閉スペクトラム症)が判明するのはいつ頃か
自閉症(自閉スペクトラム症)の兆候が出てくるのは2~3歳が多いと言われています。この時期に対人関係・コミュニケーション、興味について特徴的な行動が現われます。
対人関係・コミュニケーションの特徴は以下の通りです。
- ・人見知りが激しい
- ・ごっこ遊びなど想像上の遊びを他者とおこなうことができない
- ・視線を合わせることや身振りでコミュニケーションすることが難しい
続いて興味についての特徴は以下の通りです。
- ・おもちゃを一列に並べたりものを繰り返し同じ動作をして遊ぶ
- ・小さな変化に対する苦痛がある
- ・感覚刺激に対する過敏さや鈍感さがある
他にもさまざまな特徴はがあります。もし気になる行動をしていたら医師に相談をしましょう。
何科で診察を受けたらいいのか
もしお子さんが自閉症(自閉スペクトラム症)かもしれないと思って病院に行こうとしても何科に行けばいいのか判断が付かないといったお悩みがあります。お子さんの年齢や症状にもよりますけど、基本的には小児科や児童精神科、小児神経科へ行くのがいいでしょう。また、地域によっては療育センター、発達障害者支援センターでも相談を受け付けています。
医療機関によっては発達障害の専門外来を設けているところもあります。ただし、予約が殺到して診察が受けられるのが数ヶ月先というケースも珍しくありません。まずはかかりつけ医に相談をし、症状や年齢によって大学病院や総合病院に紹介状を書いてもらうのがいいかもしれません。
大人の場合
もし成人して自閉スペクトラム症を疑っている場合はまず精神科・心療内科などの診療科へ相談するのがいいでしょう。近年は大人のADHD専門外来もあるのでそちらで診察を受けるのも方法の一つです。
診察を受けるかどうかを決めるのは個人の判断になりますけど、もし以下の症状が多く当てはまるのならば自閉スペクトラム症やADHDの疑いが強いかもしれません。
- ・物音に敏感
- ・数字や時刻表などに意味なく惹かれる
- ・集中すると他のことが目に入らない
- ・スケジュール通りに動くのが苦手
- ・衝動買いをしてしまう
- ・臨機応変な対応が苦手
- ・物事を最後までやり遂げられないことが多い
- ・作業を順序立てて考えられない
- ・長時間座っているのが難しい、体を動かしてしまう
- ・不注意が多い
- ・同じ間違いを繰り返し、指摘されることが多い
- ・人と関わることが苦手
- ・考えたことをすぐに口に出してしまう
- ・「おしゃべりが多い」と言われる
- ・丁寧に話していても他人から注意される
- ・他人の考えていること想像できない、同調できないことが多い
- ・約束や用事を忘れやすく、「物忘れが激しい」と注意される
- ・子供の頃から人とのトラブルが多い
遺伝子検査とは
もし診察を受けた場合、自閉スペクトラム症を判定するための検査が存在していません。そのためアメリカ精神医学会が定期的に発刊している「精神疾患の診断と統計マニュアル」(DSM-5)を使用します。ただし、特異的な検査や心理検査はないとはっきり明記されています。
そこで他にも検査を受けるケースが出てきます。その一つが遺伝子検査です。原因の9割が遺伝子だとわかっているので取り扱っている病院もあります。30-40%の原因を特定することが可能です。
詳しい検査内容については下記ページをご覧ください。
治療法は
現在のところ根源的な治療はありません。子どもの場合は療育が中心となってきます。地域の発達障害相談センターなどで療育のプログラムを組んでいく方法です。民間のクリニックでは投薬だけの治療ではなく、普段の食生活の改善などをして、体内にある神経細胞(ニューロン,neuron)に特異的に作用する毒性物質によるダメージの回復や水銀や鉛など有害なミネラル(主に重金属)を解毒する栄養療法という治療を行っているところもあります。
また、現在遺伝子治療の研究が進んでいますけど、様々な困難があり、移植した細胞の癌化などの副作用もあるため、現在までのところ必ずしも十分な治療効果をあげるには至っていません。特に自閉症のように、多数の遺伝子が関与していると考えられる場合、その遺伝子の操作には大きな困難が伴うと想定されます。
まとめ
繰り返しになりますが自閉症(自閉スペクトラム症)は胎児期からの脳機能の発達異常が原因であると考えられています。現在判明していることは54人に1人が自閉症スペクトラム(ASD)を持った子どもが生まれていること、原因の9割が遺伝子によるものの二点です。原因遺伝子や発症メカニズムについては解明が進んでおらず、まだまだ研究を続けていかないといけない状況です。
ミネルバクリニックでは、自閉症と診断された方の遺伝子検査を進めています。検査によって、考えられる自閉症の原因や、将来起こりうる病状を把握することが可能です。自閉症に関連する遺伝子変異の中には、その他の重篤な疾患リスクに関わるものがあります。それらを把握することで、健康診断やスクリーニング検査で発病を予防し、備えることができます。 詳しくは以下をご覧下さい。