不妊治療を進めるうえで、人工授精や体外受精という言葉をよく耳にするのではないでしょうか?しかし、違いがあまりわからない方も少なくありません。人工授精と体外受精は方法、適応となる症状や実施スケジュールなどが異なります。今回は人工授精と体外受精の違いを知りたい方、妊娠する確率はどちらが高いのか知りたい方に向けて、それぞれの基礎知識から費用まで解説します。
人工授精と体外受精の違い
不妊治療には、大きく分けて一般不妊治療と高度生殖医療(ART)があります。一般不妊治療はタイミング法や排卵誘発法、人工授精などで、高度生殖医療は体外受精や顕微授精などです。
人工授精 | 体外受精 | |
---|---|---|
受精する方法 | 子宮や腹腔内に精子を注入する | 卵子を体外に取り出して受精を行い培養した受精卵を子宮内に戻す |
適応対象 | ・性交障害 ・射精障害 ・機能性不妊 ・精子ー頸管粘液性不適合 |
・卵管障害 ・卵巣機能低下 ・男性因子 ・原因不明不妊 ・免疫性不妊症 |
スケジュール | 【自然周期】 ・月経周期10~12日目(排卵2~3日前):超音波検査 ・月経周期12~14日目(人工授精当日):精子を子宮内に注入 ・人工授精2週間後:妊娠判定 【排卵誘発法】 ・月経周期5~14日目:薬剤を使用 ・月経周期10~12日目:超音波検査 ・月経周期12~13日目:LHサージを誘起 ・人工授精当日:精子を子宮内に注入 ・人工授精2週間後:妊娠判定 |
・生理開始3~10日目:排卵誘発 ・生理開始9~13日目:LHサージを誘発 ・生理開始11~14日目:採卵 ・採卵日当日:受精 ・採卵1~6日後:培養 ・採卵2~5日後:胚移植 ・採卵2週間後:妊娠判定 |
副作用・リスク | ・卵巣過剰刺激症候群(OHSS) ・出血 ・感染 ・多胎妊娠 |
・卵巣過剰刺激症候群(OHSS) ・出血 ・感染 ・臓器損傷 ・麻酔による副作用 ・多胎妊娠 ・子宮外妊娠 |
妊娠する確率 | 約5~10% | 約20~30% |
費用 | 1周期あたり約3万円 (一部自治体で助成金制度あり) |
1周期あたり約50万円 (助成金制度あり) |
人工授精と体外受精には受精の方法をはじめ、妊娠する確率や費用などさまざまな違いがあります。不妊の原因にもよりますが不妊治療は人工授精などの一般不妊治療から開始し、それでも妊娠に至らない場合に体外受精へのステップアップが一般的です。
ここからは、人工授精と体外受精の基礎知識や適応対象、スケジュールなどについて詳しく説明します。
人工授精とは
人工授精とは、子宮の入り口から専用のカテーテルを挿入し、採取した精子を子宮内に直接注入する方法です。AIH(Artificial Insemination by Husband) と呼ばれることもあり、通常タイミング法の次のステップとして行われます。人工授精には、配偶者間人工授精(AIH)と非配偶者間人工授精(AID )があります。
人工授精は精子を注入する場所によって、下記のように種類が異なります。
【人工授精の種類】
- 子宮腔内人工授精(IUI):子宮腔内に注入
- 子宮頸管内人工授精(ICI):子宮頸管に注入
- 卵管内人工授精(FSP):卵管内に注入
- 腹腔内人工授精(DIPI):腟の方から腹腔内(ダグラス窩)に注入
現在の主流は子宮腔内人工授精(IUI)です。子宮腔内人工授精は、1回の治療で出産できる確率を示す生産率が子宮頸管内人工授精(ICI)より2倍高いとの報告もあります。精子を注入する場所が、受精が行われる卵管膨大部に近いほど妊娠率が高くなるといえる でしょう。
人工授精は、性交障害や射精障害、機能性不妊、精子ー頸管粘液性不適合 などに適した方法です。
人工授精のスケジュール
人工授精には、自然周期での実施と排卵誘発法を併せるケースがあります。各スケジュールを見ていきましょう。
【自然周期で実施する場合】
□ 月経周期10~12日目(排卵2~3日前)
超音波検査にて子宮内膜の厚さや卵胞の発育程度を確認し、排卵日を予測します。
□ 月経周期12~14日目(人工授精当日)
当日に準備した精液を調整し、子宮内に注入します。人工授精後、排卵と黄体機能を確認し、黄体機能が低下している場合は黄体ホルモンを内服または注射します。
□ 人工授精2週間後
2週間生理がこない場合、妊娠の判定を行います。
【排卵誘発法を行った場合】
□ 月経周期5~14日目
内服薬や注射によって卵巣を刺激します。
□ 月経周期10~12日目
超音波検査にて子宮内膜の厚さや卵胞の発育程度を確認し、排卵日を予測します。
□ 月経周期12~13日目
注射もしくは点鼻薬を用いてLHサージ(黄体形成ホルモンの急速な分泌)を誘起すると、約36時間後に排卵します。
□ 人工授精当日(注射もしくは点鼻薬使用後約36時間)
当日に準備した精液を調整し、子宮内に注入します。人工授精後、排卵と黄体機能を確認し、黄体機能が低下している場合は黄体ホルモンを内服または注射します。
□ 人工授精2週間後
2週間生理がこない場合、妊娠の判定を行います。
人工授精の副作用・リスク
人工授精には、下記のような副作用・リスクがあります。
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
- カテーテル挿入による出血
- 子宮や卵管・腹腔内への感染
- 多胎妊娠
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは、卵巣が排卵誘発剤で過剰に刺激されることで腫大し、場合によっては腹水や胸水が貯留する疾患です。おもに腹痛や腹部膨満感、嘔気や嘔吐などの症状が現れます。また、人工授精で挿入したカテーテルにより性器出血を起こす場合がありますが、ほとんどはごく少量です。
まれに、子宮や卵管、腹腔内感染が認められる場合もあります。予防として、人工授精後に抗菌薬を服用するのが一般的です。
なお、卵巣刺激を行う排卵誘発法の場合、多胎妊娠の可能性があります。内服薬による多胎妊娠の可能性は低いとされていますが、注射の場合は可能性が約5倍になるといわれています。
人工授精の妊娠率は5~10% で高くはない
人工授精を1周期行った妊娠率は約5~10%で、決して高い数値とはいえません。4周期以上行った場合の累積妊娠率も40歳未満で約20%、40歳以上で約15~20%であり、不妊治療を行っている方の約80%が人工授精で妊娠に至っていない結果が出ています。
また、妊娠が確認された方のうち88%が4周期以内であることから、人工授精の実施は4~6回を目安に次のステップに移行する例が多いようです。
人工授精にかかる費用
人工授精は、保険適用外であるため全額自己負担です。厚生労働省の調査によると、人工授精1周期あたりの平均費用は約3万円と報告されています。また人工授精における手技の平均費用は約1万8,000円、検査や投薬の平均費用は約1万2,000円でした。ただし、医療機関によって、費用に大きな差があることもわかっています。
体外受精とは
体外受精とは、体内で受精が困難な女性の卵子を体外に取り出して精子と培養液の中で受精させ、培養した受精卵を子宮内に戻す方法です。正式には、体外受精ー胚移植(IVF-ET) といいます。
医療機関によって違いはありますが、例えば10個の卵子を用いた場合、受精するのは平均して7~8個です。受精が確認された受精卵は、培養液の中で細胞分裂を繰り返します。その中から順調に発育した良好な胚を選択し、腟から子宮内に戻します。子宮内に戻す胚が良好であるほど、妊娠率が高くなることがポイントです。
体外受精は精子の数が少なかったり、運動性が低かったりなどの男性因子がある場合、女性に卵管狭窄や卵管閉塞がある場合などに適しています。また、精子に対する抗体が陽性である免疫性不妊症や原因不明不妊症の場合にも適応される方法です。
体外受精のスケジュール
体外受精のスケジュールは下記のとおりです。
1. 排卵誘発
生理開始3~10日目に排卵誘発剤を使用して、卵巣を刺激します。
2. LHサージ誘起
生理開始9~13日目に注射もしくは点鼻薬でLHサージを誘起します。
3. 採卵
生理開始11~14日目に無麻酔もしくは静脈麻酔下で卵巣に採卵針を刺し、卵胞液ごと卵子を吸引します。
4. 受精
採卵日当日に精液を採取し、受精させます。受精方法は下記の4つです。
・ コンベンショナルIVF:自然受精
・ レスキューICSI:コンベンショナルIVFで数時間自然受精していない卵子のみを顕微授精する
・ 顕微授精(ICSI):受精障害が予測される場合や精子所見不良の場合に実施
・ スプリットICSI:採卵した卵子をコンベンショナルIVFとICSIに分けて受精する
受精方法は卵子と精子の所見により、医師と患者の話し合いのうえで決定します。
5. 培養
受精が確認されたら、培養液内で受精卵を培養します。
6. 胚移植
良好な胚を子宮内に戻します。
7. 妊娠判定
採卵から2週間後、血中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の値によって判定します。
体外受精の副作用・リスク
体外受精には、下記のような副作用・リスクがあります。
- ・ 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
- ・ 膣壁または卵巣からの出血
- ・ 腸管や血管、膀胱などの臓器損傷、麻酔による副作用
- ・ 子宮や卵管・腹腔内への感染
- ・ 多胎妊娠
- ・ 子宮外妊娠
多数の卵子を採取するために排卵誘発を行うことで、卵巣過剰刺激症候群を起こす可能性があります。卵巣過剰刺激症候群とは、卵巣が排卵誘発剤で過剰に刺激されて腫大し、場合によっては腹水や胸水が貯留する疾患です。おもに腹痛や腹部膨満感、嘔気や嘔吐などの症状が現れます。
また、胚移植後から妊娠判定までの間、膣壁または卵巣から出血したり、採卵の際の採卵針によって腸管や血管、膀胱などの臓器を損傷したりする可能性もあります。まれに採卵の際に行う静脈麻酔によって、アレルギー反応などの副作用が起こることにも注意が必要です。
体外受精も人工授精と同様、排卵誘発を行うため多胎妊娠のリスクがあります。加えて、胚移植を行うことにより子宮外妊娠の可能性もありますが確率は低いとされています。
体外受精の妊娠率は20~30%
体外受精の妊娠率は約20~30%です。35歳で25%となり、以降は確率が低下していきます。
確率は排卵後すぐに移植を行う新鮮胚移植と、一度受精卵を凍結し翌周期以降に移植を行う凍結融解胚移植によっても異なります。一般的に妊娠率が高い傾向にあるのは凍結融解胚移植です。日本産婦人科学会のデータによると、2018年の新鮮胚移植の妊娠率は21.1%、凍結融解胚移植の妊娠率は34.7%とされています。
体外受精の妊娠率は人工授精の妊娠率と比較すると高いといえますが、凍結融解胚移植でも70%近くの方が妊娠に至っていないのが現状です。
体外受精にかかる費用
体外受精は人工授精と同様、保険適用外であるため全額自己負担です。厚生労働省の調査によると、体外受精1周期あたりの平均費用は約50万円でした。
最も多い費用帯は40万~50万円でしたが、医療機関によって大きな差があります。多くの医療機関では検査や治療法により費用を定めており、通院の度に実施した治療内容分が請求されています。
人工授精と体外受精は違う!症状に合わせて選択しよう
人工授精は精子を子宮内に注入し受精させますが、体外受精は卵子を体外に出し、培養液内で精子と受精させて受精卵を子宮内に戻します。受精方法の他に、対象となる不妊症状や実施スケジュール、費用にも大きな違いがあります。まずは、両者の違いを正確に把握し、どちらの方法が合っているのか判断することが大切です。家族やパートナー間で判断に悩む場合は、主治医や生殖医療専門医に相談しましょう。
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